続きました。
オチを忘れていたので追加しました5/2/19:40
ティーパーティーはトリニティ総合学園の生徒会的立ち位置にあるが故に、校内の問題解決に当たらなければならない。
生徒個人の抱える悩み、派閥間争いの調和、治安の徹底などなど、挙げればキリがない。
「...暑いな今日は」
手のひらを団扇代わりにし、憎らしく頭上の太陽を睨むサンクトゥス派閥代表、現トリニティホストの百合園セイア。
本日の作業内容は、学園のプール掃除。
秋から春にかけて放置され、汚れまみれとなったプールをティーパーティー代表総出で綺麗にしようという試みだ。
「セイア様、こちらを」
「日傘かい?気が利くね、ありがとう」
「ビニール傘です」
「相変わらず舐め腐っているね」
「ハッハッハ、失礼しました」
「冗談を挟まないと生きていけないのかキミは」
「どうして代表である我々が...」
淡々とツッコミを入れるセイアの隣には、体育座りで不機嫌、不服そうなナギサがいる。
「ミカが言い出したことだろう。この気温だし、涼みながらやれば一石二鳥と」
「憂鬱です...水着は校内にあるものでどうにかなりましたが、肝心の日焼け止めを今日に限って切らしてしまうとは...誤算です」
紫外線から逃げるナギサとセイア、はしゃぎながらプール内の汚れを撃滅せんとデッキブラシを振り回しているミカの三人は、トリニティ指定のスク水に身を包んでいる。
スグルは執事服のまま。まだ初夏に入って間もないとはいえ、見ているだけでこちらの汗が滲んでくるくらいには暑苦しい格好だ。
「お嬢様、そう仰ると思いましてこちらを準備させていただきました」
彼の手に握られているのは、液体の入った小瓶。
「日焼け止め...用意が良いですね千羽さん!」
「軽いマッサージがてら塗りましょう」
「お願いします」
たっぷりとナギサの柔肌に液体をかけ、凝りを解しながら露出部に塗っていく。
ゴリッ、バキッ
「...なんだか鳴っちゃいけない音まで聞こえるのだが」
「執務続きで身体が凝り固まっています。この際ですので入念にやっていきましょう」
「ふぁい...」
「リンパ、リンパですからね〜」
ヌルッ♡ヌチュッ♡
「やめなさい(スンッ」
「事実ですのに」
「今の一言と音で悪寒がはしりました。あとは自分でやります」
まったくもう、と頬を膨らませながらネトネトの液体を顔や腕、肩、足へ塗り広げていくナギサ。
その様子をいつも以上ににこやかに見つめるスグルを、セイアは不気味だと感じた。
「お〜い三人とも〜!休んでばっかいないで手伝ってよ〜!」
手と翼をパタパタさせて主張するミカ。
暑さを億劫に感じてプールに降り立つのを拒否しているのが二人いたせいか、進み具合は四分の一ほど。
寧ろ一人でそこまで進めたのかと、三人は感心した。
「ミカさん、暑いのによくそんなに動けますね」
「ナギちゃんとセイアちゃんが動かなすぎなんだよぉ。お婆ちゃんじゃないんだから」
「おば...」
「ミカ様、狐は暑さに弱いものです」
「スグル?」
「そしてこちらを。部屋のクーラーをガンガンに効かせて顔パックしたままベッドに寝そべるお嬢様です」
「千羽さん?」
事実に基づいた理由と証拠写真を提示したところ、傍にいた当事者二人にズボンの裾を引っ張られるスグル。
「暑さに弱いのは否定しないが、その毒吐きは見過ごせないね」
「私、最近難聴でして。更に言えばセイア様の声が限定的に聞こえないのでございます」
「言うじゃないか」
「千羽さん、その写真はいつ?」
「昨晩でございます。掃除中部屋の前を通りかかったのでついでに」
「ついでに撮らないでください」
「もー!話してないで手伝ってよぉ!」
「では、私が参戦するとしましょう」
袖を掴む手を優雅に振り払い、スグルは我こそはとミカの前に躍り出た。
「おぉ、セバスやる気だね」
「こう見えて私、執事ですので」
「ガワだけ見れば完璧なのですけどね...って、千羽さんなんですかそれは」
「...?高圧洗浄機ですが」
「何馬鹿なことを、みたいな顔で言わないでください...ああもう業者さんが着てそうな作業服まで持ってこなくていいですから」
「最近ショートで流れてきた、通路の汚れをこちらの機材で洗い落とす爽快動画が私の中で話題に」
「本格的だね」
「おお...あとで使い方教えて!私もやるっ!」
「承知しました。因みに桐藤家マネーです」
「帰ったら千羽家マネーから差し引いておきます」
その後はスグル、テンション上げ上げのミカ、興味津々のセイア、仲間外れは寂しいナギサの順番で高圧洗浄機を使い、プールサイド全体が晴れ渡る青空のように綺麗になった。
「終わった〜!地面あったかくて気持ち良い〜!便利だねぇそれ⭐︎」
「気に入っていただけたようで何よりです。飲み物を買ってきますので、皆さんのご希望を」
「爽健◯茶!」
「私もミカと同じでいいよ」
「では、紅茶を」
「爽◯美茶2本とポカリですね」
「私の時だけ難聴になるのやめてもらっていいですか?」
先ほどはセイア限定で聞こえづらくなると言っていたのが、早々に矛盾している。
「お嬢様はミカ様とセイア様以上に汗をかいておいでですので、ポカリの方がよろしいかと。不摂生が顕著に出ましたね」
「一言余計です」
「いいや?ナギちゃん、これはセバスからナギちゃんへの釘刺しだよ。もっと外出て汗かいて、身体動かさないと!」
「早朝ウォーキングを取り入れれば、少しは変わるんじゃないかな。きっとスグルが付き合ってくれるよ」
「ええ、お供しますよ」
「...まぁ、生活改善は今後必要になるでしょうし」
「聞きましたかお二人とも。引きこもりだったお嬢様の記念すべき門出です。是非祝福の拍手を...おめでとうございます」
「おめでとうナギちゃん!」
「おめでとう、ナギサ」
「おめでとさん!」
「引きこもりではないです。そして千羽さん、無理してエヴァの最終回を再現しなくていいですから」
とっとと飲み物を買ってきてください。
シッシと手で払い、対してスグルはかしこまりましたとお辞儀をしてからプールサイドを去った。
「で!?ナギちゃん最近、セバスとどうなの!?」
当事者がいなくなったところで、いきなりミカがぶっ込んだ。
「どう、とは?」
「そんな勿体ぶらなくてもいいじゃん!ね、セイアちゃん?」
うむ、と同調するセイア。
どこからともなく出てきた彼女の肩に座るシマエナガ四羽もそうだそうだと言っている。
「正直に言えば、私も二人の関係については気になっていたところだ。ちょうど彼も不在、この際とことん吐くことをお勧めするよ、ナギサ」
「セイアさんまで...面白い話なんて何もありませんよ。第一、桐藤家と千羽家間での恋愛は御法度ですので」
遠い昔、当時の桐藤当主が飢えに苦しんでいた一人の人間を助け、名前を与え、側に支えることを良しとした歴史がある。
それが桐藤と千羽の関係の始まりで、以降千羽の子供は桐藤の子供に支え、絶対服従というのが取り決めとなった。
「ふっふっふ、甘いよナギちゃん。ルールはね、破るためにあるんだよ」
さすが、遠くない未来でルールを破る女の考えは違う。
「ミカの考えは極端ではあるが、凝り固まった仕来りにメスを入れるのは今後必要になってくるさ。尤も、それにはキミがスグルをどう思っているかが鍵になってくるだろうが」
「実際、ナギちゃんってセバスのこと好きなんでしょ?」
「どうなんだい、ナギサ」
ズズイッと二人に両脇から顔を覗き込まれ、逃げ場の無いフィリウス代表。
一考、沈黙ののち、視線や圧力に耐えきれずに告白した。
「...はい。正直に言えば彼のことは、好意的に思っています」
「わー!やっぱり、やっぱり!」
キャーキャーと黄色い歓声を上げてはしゃぐミカとは正反対に、セイアは冷静に頷いて話を促す。
「具体的にどういった部分に惚れた、とかはあるかい?」
側から見れば四六時中夫婦漫才を繰り広げているナギサとスグル。
後者は面白がっているが、前者は心労に応えるほどてんてこ舞いな様子がしょっちゅうであり、普段の二人を見ていれば仲が良さそうに見えるとはいえ、恋愛感情が存在するとは到底思えなかった。
そんな、デリケートな部分にまでメスを入れてくる少年のどこを好いたのか、セイアは問うた。
「強いていえば...」
「言えば?」
「顔ですね」
「「顔」」
「はい。顔です」
「最低じゃんね」
「せめて一目惚れと言おうか」
千羽スグルは、美男子である。
ナギサと共にトリニティ生徒が多くいる廊下などを歩けば甲高い歓声が上がるほどには、容姿が整っている。
「逆に聞きますけど、顔以外に彼の良いところってありますか?」
「あるよ!?それナギちゃんがいっつも距離が近いから気づいてないだけだからね!?」
モテ要素の塊じゃん!
スグルから受けた奉仕について語るミカ。ティータイムの用意から始まり、淑女に対する礼儀作法や気の遣い方、高身長、高い知能。時々口調を崩すのも、これだけの長所を上げれば程よいアクセントに変わる。
「執事として当たり前のことでは?」
「セバスほど周りに気を配ってる執事もいないと思うけど」
「ナギサが激務続きで倒れていないのだって、彼が常に体調を崩さないよう栄養やスケジュールを管理してくれているお陰だ。その辺、もう少し感謝しても良いのではないかい?」
「ですから、それも含めて仕事だと...」
「なら、こういう考えはどうだろうか」
余る袖をヒラヒラさせる癖───スク水着用なのでただ腕を左右に動かしてるだけ───を発揮しながら、セイアは語る。
「スグルがナギサに行ってきた今までの戯れ全てが、彼からの好意の裏返し...という説」
「あー、好きな子にちょっかい出したくなる的な感じ?」
「小学生ではあるまいし、ありえません」
「これでも人を見る目はあってね、スグルはキミに悪感情は抱いていない。寧ろ、好意を全面に出していると言えよう」
「二人って付き合い長いもんね」
「まぁ...そうですね」
ナギサとスグルは主従関係であると同時に、幼馴染でもある。
物心ついて直ぐの頃、両家のしきたりにより二人は出会い、以降スグルはナギサを立てる影として、その身を捧げ続けている。
「その間に恋愛感情が生まれていても不思議では無い。第一、キミがそうだろう」
「おお、いつも難しいことしか言わないセイアちゃんの言葉が、今日はわかりやすい!」
「あとでロールケーキでも借りようかな」
「それ絶対私の口に突っ込むやつだよね!?」
「兎も角、決して一方通行ということでもないのさ。その後はナギサ自身が決めるといい。このままの関係を維持するも良し。歴史を取っ払って交際するも良し。どちらにせよ、私はキミを応援しているよ」
「わ、私も私も!親友には幸せになって欲しいし、何より二人はお似合いだし!」
勝手に応援されてしまった。
セイアの仮説通りならば、晴れて二人は結ばれるだろう。
だが、ナギサはそうなった未来を、恋仲となった自分たちの姿を想像できずにいる。
散々日常的におちょくられているのも理由の一つだが、ミカが言うお似合いという表現もコンビ芸人に向けるのと同義なものだと思うし、それ依然に彼が交際を承諾する構図が思い浮かばないのだ。
「お二人の気持ちは有り難いですが、やはり今後のことは分かりかねます。ですので、下手なアクションは起こさず、ゆっくりと様子を見て...」
「皆様、お待たせしました」
音や気配もなくスッと、三人の飲み物を持ったスグルがナギサの長くなりそうな言い訳を遮って現れた。
「す、スグルさ...!?」
「クーラーボックスに氷を入れるのに時間を要しました───皆様の楽し気な話し声が遠くからでも聞こえていましたので、是非とも混ぜてもらおうかと」
「せ、セバス聞いてたの!?」
プールから自販機まではそれなりに距離がある。余程の地獄耳か、単にミカとナギサの声が大きかったのか。
「内容までは...しかし、盛り上がっていましたので私もその輪に加わりたく存じます。昨今は女性間に入る男を処断する風習があるらしいのですが、構いませんか?」
「その風習については知らないが、キミがいるのはいつものことだろう。今更何も思わないさ」
「ありがたき幸せ。この喜びを表現するべく、セイア様のお連れに餌を与えるとします。そーれチタタプ〜」
「縁起でもない名前をこの子達につけないでくれ」
「チタタプって言いながら叩けばいいらしいです」
「叩かないよ」
「それで、何を話されていたのですか?」
冗談はさておき、セバス、気になります。
当の本人について語っていた恋バナをしていたとは言えず、一体どんな言い訳をしようか思考を加速させた時、動いたのはミカだった。
「す、滑らない話!最近見たバラエティでそういう話題出してたから、私たちもやってみようって!」
「ほほう」
(いいですよ、ミカさん)
(いいぞ、ミカ)
声は上擦っていたが、急拵えの進路変更にしては合格点だろう。
「せ、セバスも何かないかな?執事なんだし、私たちを笑わせるくらい面白い話してよ〜⭐︎」
さすがに無茶振りだったかな?とチラリと三人はスグルの顔色を伺うが、疑るような素振りは見られず、真剣に話題について考えているようだった。
一瞬の間、それも数秒だったが、それだけを要して整いましたと合掌。
「では、滑らない話を一つ」
「いよっ、待ってました!」
「ノリがいいね」
「かくれんぼという遊戯があります」
「うんうんっ」
「それで隠れた側を放置して帰宅すると、監禁罪にあたるらしいです」
「期待値を余裕で越えないでください」
「へぇ...」
「ほう...」
「二人も感嘆の声をもらなさいでください」
「私、雑学を嗜んでおりまして。皆様を楽しませる話をいくつかストックしているのでございます」
「確かに初耳ではありましたけども」
そんなところまで気を回さなくてはいけないとは、執事という仕事も楽ではないらしい。
何年も共に生活をし、働く姿を見ているので分かっていることではあるが。
「うーん...ねえねえ、かくれんぼってなんだか懐かしくない?」
「まさかこの歳にもなってかくれんぼをしたい、というわけじゃあるまいね」
「さっすがセイアちゃん!普段は一言二言少なくても察しが良いだけはあるね⭐︎」
「スグル、ロールケーキを」
「こちらに」
「す、ストップストーップ!?綺麗なワインドアップから投球モーションに入らないでセイアちゃん!そしてなんでクーラーボックスの中にロールケーキあるの!?」
「お嬢様が食されるかと思い、調達してまいりました」
「私そんな空腹に見えてましたか?」
「...で、ミカはかくれんぼがしたいわけだ」
食べ物で遊ぶのは流石に、と自重したのか掲げていたロールケーキを下ろし、スグルに切り分けをお願いしながらセイアはミカへ話を振った。
「そうそう!童心に帰る、的な?久しぶりにやったらきっと楽しいよ!」
「ミカさん、仮にもパテルの代表なのですからもう少し落ち着きを...」
「仮にもっていうか代表なのは事実なんですけど!?」
「まぁ、いいんじゃないかい?次の予定まで少し時間がある。普段仕事に勤しんでいる私たちがハメを外しても、バチは当たらないさ」
意外にも、セイアはミカの提案に乗り気だった。
「セイアさんまで...」
「お二方、それはいけません」
しかし、そこで遊戯に待ったをかけたのはまさかのスグル。紙皿にそれぞれのロールケーキを乗せて配りながら、ミカとセイアの間に割って入った。
「千羽さん...」
悪ノリやお巫山戯で構成された人格の持ち主である彼が二人を止めるだなんて、とナギサは半ば感心。
「お嬢様のケツがデカ過ぎて、隠れる際にハンデとなりフェアではなくなってしまいます」
「千羽さん」
その感心は秒で砕け散った。
「なるほど...幼少の頃にやった遊戯だ。体の成長分を加味して隠れる場所を探さなくてはならないのは、盲点だったね」
「もうロッカーの中に入ろうとしたらギリギリかも」
「今の話から真面目に作戦を立てないでください」
「ですが、実はお嬢様はハンデを持ってしてもかくれんぼがお上手なのです」
ミカから、セイアちゃんって小学生の頃から成長してるの?と純粋な疑問をぶつけられて遂にロールケーキをぶち込んだセイアのやりとりと同時、スグルのここだけ話が始まる。
「そうなのかい?」
「もぐ?(そうなの?)」
「ええ。あれは私がお嬢様と初めて出会ったこ」
「わ、わあああ!!わああああああ!!!」
突如として、スグルの声を遮るかのような奇声を発するナギサ。
「お嬢様、突然のビーバーの雄叫び、大変お上手でございます」
「別にモノマネのために叫んだわけではありませんっ!」
「そうですね。私としたことが、あれはマーモットでございました」
「どちらでもいいですよ...その話をするのは禁じます、主人としての命令です!」
「承りました」
「えー!?なになに気になるじゃん!話してよセバス〜!」
「と、ミカ様は申しておりますが」
「絶対に駄目です!」
「私も気になるな」
「セイア様も申しております」
「だから絶対に駄目です!主人である私の命令を無視すると!?」
「ということですので、ミカ様、セイア様。どうかここは手をお引きください」
「む〜っ、気になるなぁ」
「無理強いは良くないか、流石に」
「うちのお嬢様が申し訳ありません」
「なんで私に非があることになってるんですか」
まったくもう、とブーたれる成長期のお嬢様を慰めるべく、ティーカップと魔法瓶を取り出し、紅茶を注ぐ。
「お嬢様、こちらご機嫌取りの一杯でございます」
「普通直球で言いませんよソレ...いただきますけども」
この男には毎日振り回されるし、てんてこ舞いで疲労も重なる。
だが、それらを払拭するほどに彼が淹れる紅茶は美味しい。
こうして簡単に丸め込まれる自分自身にナギサは腹を立てつつ、間違いない味に舌鼓を打って、何度目かわからない許しを下すのだった。
「チョロ〜い」
「チョロいね」
ニヤニヤしながら見つめるミカとセイアの二人には、地面スレスレのアンダースロー投球によるロールケーキがぶち込まれた。
翌日
「スグルッッッッ!!!!出てきなさい!!!!!」
サンオイルでまっ茶色に日焼けしたナギサが、巨大ロールケーキを振り回して校内を暴れ回っていたという。
続かないです(2度目