エドラズワースの探求師 ~かくしてロリ勇者率いる貧弱パーティは、秘宝を求め進軍を開始した~   作:霞弥佳

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夢見る桟橋のヘルガ

 ヘルガが用意していたという隠し部屋(セーフルーム)は、確かに四番目の袋小路の壁の向こう側に広がっていた。魔術的な隠形による偽装が施されていたそこは、確かに地下深く広がる大迷宮とは思えないほどに開放的な場所だった。

 

 近代的(モダン)で壮麗な、ガラス張りの温室めいた空間である。農作物の栽培のみならず、憩いの場としての昨日を兼ね備えた、さいきん流行りの植物園を思わせる施設のようだった。

 

 クリスタル張りの立体的な天井部から採光され、内部は驚くほどに暖かな光で満ちている。これが太陽の光であるはずはないのだが、息の詰まりそうな暗がりを松明一本で行軍していた先ほどまでに比べれば、よほど気分は晴れやかだった。

 

「やあ、出戻りくん。意外とお早いとんぼ返りだったな」

 

「なんにせよ帰ってきてくれて助かるよ、貧乏の道連れは多いほうがいい」

 

 そんなズケズケとした物言いで、勝手知ったる顔見知りの探求師たちがワイナを迎えた。今回の彼らは、この植物園へとつながる通路を塞ぐ人為的な壁を魔力で具現化、キャンプの安全を維持するための支援要員なのだとヘルガは言った。

 

 背の高い木々から垂れる枝葉の歓待を受けながら、ワイナたちはヘルガと梟熊の後に続いた。

 

 気温はあたたかく、湿度もかなり高い。豊かな土や草木の香りにまじって、ほのかな甘みを含んだ果実のにおいを感じた。名前こそわからないものの、見慣れない南国の木々も、あたりに生えているようだった。

 

「ワイナ」

 

「なんだ。おとなしくしてろ」

 

「これ、これ、なんでしょう。すごくいいにおいがしましたもので」

 

 ケープの端っこをひっぱってきたペシェが、いつの間にか手にしていたものを突き出した。弓なりに反った果実である。鮮やかな黄色の表皮に、ほくろのような褐色の斑点が見受けられる。

 

「バナナだな。高級品だ。どこにあった?」

 

「さっきの通りに生ってました」

 

 一般的に、探求師はよほどの確度の前情報がない限り、迷宮で採取した物を口にしたりはしない。ましてここまでバナナ然とした果物を、ワイナは見たことがない。不注意を諫めようにも、しかしペシェの持ったひと房は、すでに半分以上が平らげられた後だった。

 

「食べちゃったか」

 

「ええ。すごくおいしいです。小生、こんなにも甘いもの、初めて口にいたしました」

 

「……そうか。おいしいか」

 

 過ぎたことは仕方がない。謎のバナナの毒性の有無よりも、これがヘルガたちが持ち込んだ糧食のひとつでないことを祈りながら、ワイナはペシェに先を促した。

 

 多種多様の草木が繁茂する植床を囲うように、タイル敷きの通路がゆるやかなカーブを描いていた。建造物にしろ植物にしろ、もちろん人の手など加わっておらず、秩序だった植栽が見受けられるわけではないものの、一見して見苦しさは感じられなかった。

 

 そうして緑のトンネルを抜けると、さらに濃厚な深緑が広がるフロアへと行きついた。木の葉の香り、林立する背の高い木々。小規模な森を思わせる一帯である。ドーム状の天井はひときわ高く、あおあおと育った樹上の枝葉に覆われていた。

 

 光源は依然としてわからないながら、快晴の月夜を感じさせる程度には明るい。足元にはやわらかな芝生が広がっており、そこここに色とりどりの花々が鮮やかな彩りをのぞかせている。かすかにせせらぎの音が聞こえ、周辺には小川が流れているらしい。

 

 いよいよもって、できすぎたくらい朗らかな林道の風景である。

 

 芝生の奥は小高い丘のようになっていて、そのなだらかな頂のあたり、樹々の合間を縫って複数のテントが設置されていた。

 

 ヘルガの先導のもとにテントへと向かうと、焚火の周辺で待機していた顔見知りの青年が、ワイナに向かって親しげに口を利いた。切れ長の三白眼をぎょろりと輝かせる面長の男、治癒術師(ヒーラー)のガーデルマンである。ヘルガ率いる弱小組合の中で、ワイナともっとも付き合いの長い人物だった。

 

「おや。おかえり、ワイナ。これでお嬢さんのご機嫌取りをしなくて済みますね」

 

「好きで戻ってきたわけじゃない。彼女のお守りは本意じゃない」

 

「なぜ貴方達は、あたくしを前にそんな口を利けますの。クビにしますわよ」

 

「おお、言論の自由さえも認められない。ワイナ、早いとこお嬢さん専門のサンドバッグに戻ってください。そうすりゃ僕らも健康的に仕事ができるってもんです」

 

「余計な事言ってないで、進捗を報告なさいな」

 

 ウッス、と気怠く返事をして、ガーデルマンは傍らに置いてあった巻物(スクロール)を足元に広げた。先ほどミハイが手にしていたのと同じ、送還陣(ベイルアウト)を格納した布である。円陣と聖句がぼんやりと明るい緑色の燐光を放っており、正しく術が稼働していることが、素人目にみてもはっきりとうかがい知れた。

 

「すでに経路自体は七割がた開通しています。あとは地上側のアプローチ次第ですね。並みの術師なら二時間あれば出口の陣は形成できるでしょうが、そこはあちらの親切心によるでしょうね。どのみち、出先の僕にできることはほとんどないです、今は向こうの対応を待つしかありませんよ」

 

「……とのことですわ。信用してもらえて?」

 

 こちらの疑念はある程度見透かされていたのか、ワイナは内心ひやりとした。

 

「ああ。問題ない。ベルペラも、なにか気になるところはないか」

 

「そこの治癒術師(ヒーラー)の腕に疑問はないよ。間違いなく陣は正常に動いてる。今は、糞みたいな暴利でカネふんだくられることのほうが腹立たしいんだけど」

 

「文句があるなら、ここに置き去りにして差し上げても構わなくてよ?」

 

「ふん……聖剣獣(アレ)がいなけりゃ、ぜひともそうさせてもらいたいもんだけど」

 

「それとも、この場でほかの仕事を請け負って返済されます?」

 

「シゴトだあ?」

 

 そう言ってヘルガは、テントの裏手に位置する丘の麓側を顎で指し示した。

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