TS転生したら人類の敵だった   作:生しょうゆ

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第28話 再設定、現在地の白

 

 私は物語というものに囚われすぎているのかもしれない。それは整合性であり役割であり、何よりも生活感のなさだった。

 

 物語というものは、作者の意思によって書かれているものだから、普通は書くべきところが決められていて、省かれる部分もまた決められている。たとえば一人のキャラクターの生い立ちとして、両親の名前や祖父母の名前が書かれるとき、それは書くべき理由があって書かれるのだろう。両親や祖父母の存在が現在のキャラクターの心情や意思に関わっていて、寧ろその心情や意思を書こうとするからこそ、必要性の問題として書かなければならなくなってくる。その他の細々とした描写も同じことで、たとえば小学校の時のクラスメイトの名前や、通学路に流れていた小川の名前、近所の人はどのような顔でどういった生活をしていたのか。それらは全て必要になった時に初めて描かれるもので、もし必要がなかったのなら描写する意味はない。たとえ日常の風景としての無意味な情景描写だとしても、その無意味さを示したいからこそ書かれるものであり、物語の中に不要な物は、読者にとって存在しないも同じである。勿論、行間の中には、食事をして睡眠をして排泄をするといった、一般的な読者と同じような生活が示唆されていて、寧ろ、その細部にこそ神が宿るというもので、細かな動作こそキャラクターの人間性を確かにするのだろう。だが、キャラクターを主としたライトノベルにおいては、そういった素朴な生活感は積極的に排されて、キャラクターはあくまでキャラクター的に、いっそ過剰なまでに振る舞うことが多い。それは人間を作中に分かりやすく印象付けるための、ライトノベルでなくとも使われている、物語の方法論の一つでしかないのだろうけれども、キャラクターを重視するライトノベルでは、それが行き過ぎてテンプレと揶揄されることもあり、そして更に分かりやすくキャラクター性を持たせるために、奇妙な語尾なども付けたりする。そうやってキャラクターはどんどん現実の生身の人間を離れていき、読者と同じように生活しているということを感じさせなくなっていく。それが良いという意見もあるだろう。私だってそう思う。生身の人間を見たいのなら現実を見れば良いだけの話で、現実ではあり得ない、突飛なキャラクターを見たいから、ライトノベルやアニメや漫画を好んで読むこともある。たとえ現実で相手をすればドン引きの人間性や口調にしたって、それが物語の中ならば、たまに失敗してヘイトを買うこともあるが、とても魅力的に映ることだってあるだろう。人間的じゃないからこそ面白くて、現実的ではない物語を引っ張る力がある。だが、そこにある勇気と信念こそが、主人公と呼ばれるキャラクターの核であり、そこにある思慕と実直さこそが、ヒロインと呼ばれるキャラクターの核であるのならば、仮に物語が現実の世界となった時、彼ら彼女らは何時如何なる時もそれを発揮出来るのだろうか。

 

 きっとこの疑問こそが私の根本的な所にある。私が在るのはまさしく物語の中でありながら、私は現実感と生活感に溢れていた。私の人生というものは、全く物語的ではない、まさしく行間に挟まれる程度のものだった。勇気と信念だって確かにあり、思慕と実直さだって確かにあったけれど、それは人並みのものであって、たとえば人の生き死にが関わったとき、それらを素直に発揮できるとは思えない。思えなかったし、実際に発揮できなかった。私は確かに家族を愛していたけれど、その生死は驚きもなく受け止められて、私自身の殺人もまた、どこか人ごとのように眺めていた。

 

 そして実際に人ごとなのだと。私は物語の中にいて、私の取った行動は物語的な行動だったのだと分かったとき、私の胸の内に去来したものは何だったのだろう。

 

 その唐突感を、崩壊の呆気なさを、物語的な私の肉体は追い越していくように思われた。朱族という人外の身体は、私の意思とは無関係に、まさしくストーリーラインを進めるように動いて、物語に設定された通りに数多の人間を殺していった。私自身の心は、その肉体と進む物語に追い付けず、自らそうであるように振る舞っていたと思う。世界が物語であるのなら、私自身もまたキャラクター的であって然るべきで、何も感じず痛まないのはそういうキャラクター的なものだから。あの屋上に肉体としての私が死んだ後も、人外らしく振る舞えていたのは、私自身、キャラクター的であろうと努力していたから。これまでを取り戻すように、急いて行間を詰めていって、私の内心というものを記述しないようにした。

 

 そのように、今になって理由づけてみたが、実際はどうなのだろうか?

 

 だって、そうでなければ整合性が取れないだろう。私がこうも私である理由が分からない。存在の意味と存続の意味がないだろう。たとえば家族の死を前にして、ちょっと精神が壊れてしまった可哀想な少女が私というキャラクターならば、同情できないにせよ理解は出来る。或いは、物語的な世界に興奮して、率先してキャラクター的な振る舞いをしようとしているキャラクターが私ならば、醜悪だけれども、やっぱりその存在は理解できる。

 

 だが、それらはどれもこれも私ではない。他人にこうと分かりやすく説明できるような、キャラクター性を私は持っていない。それらはやはり、一つ一つの要素を取り上げただけで、私の一面でしかなくて、私という、キャラクターではない人間は、それら全てを含みながらもそれだけの存在ではなかった。言ってしまえば目的のない、物語に流されるだけの人間で、信念を語るべき状況に、信念を取り出してみようとするけれども、その信念はやはり他人に語れるほどの熱を帯びておらず、場違いにすら感じてしまう。

 

 たとえば、目の前で権能を発動した二人、白楽楽土と椿破綻はどうだろう。

 

第四特権・私は破綻(だいよんとっけん・わたしはわたし)』と『第三特権・彷徨うもの(ギメル・カルタフィルス)』。その効果は肉体強化と偏在だ。ただでさえ強力な破綻ちゃんの身体は、最早、手が付けられなくなって、こうして私は空の上に吹っ飛ばされてしまった。私の権能は戦闘向きではないのだから仕方がないだろう。しかし楽土にしても、その権能は全く戦闘向きではない。精々が瞬間移動で隙を狙う程度であるが、その程度が及ばないほどには破綻ちゃんは完成されてある。

 

 だが、近付いてきた地上に、楽土は尚も足を動かしていた。崩壊した城の残骸の上で、背後を取ろうとして裏拳に吹き飛ばされ、退こうとした先を予測されて薙ぎ払われる。一方的なものだった。敵わないことは明白だった。そして、私が知る彼女のキャラクター性を思えば、とっくに損切りして逃げてもいい場面だろう。

 

「なのに、どうして戦っているのかしら」

 

 物語の中の彼女を思う。ヒロインと同じ特権者と呼ぶには卑劣さもあって、キャラクター的でありながら人間臭い。という設定のキャラクター。その設定をこの場面に適応させるのならば、彼女の行動は不可解だった。そのキャラクターらしくない行動で、整合性がなく、役割に則っていない。そして、これが目に見えた決着だからこそ、それが長々と行われていることが今更ながらに不思議だった。

 

 負けたと書くだけなら簡単だろう。ヴラド・ツェペシュなど、実際に敗北だけが記述されていたのだ。彼が物語において必要とされたのは、敗北と、ヒロインの人間性を形作るもの。そしてリリスとの関係程度で、後に残されたものは殆どない。ましてやどう死んでいったのかなど、作者さえも必要としなかった。破綻ちゃんが強いことを、ただひたすらに強いことを印象付けるためにその死が必要だったのであり、彼自身の物語は少々余分なものだろう。

 

 楽土にしてもそれは同じだろうか。目の前にある、決着の付いた死は無意味なものだろうか。世界の視点である主人公からすれば記述する必要のないもので、回想すらもされない、結果だけが現在に影響するものだとしたら。そうだとしたら、目の前で血反吐を吐きながら戦っている楽土の感情全てが無意味なものだろう。

 

 しかし、そう思ってしまうからこそ、私は物語というものに囚われすぎているのかもしれない。これは現実で、あくまで物語染みていても現実であると、そう思い直してみればどうかしら。

 

 あらゆるものは無意味に生きて無意味に死ぬが、無意味の中に意味を見出すことこそ人間らしい生き方と、桜梅はそう言ったが、その様に生きてみればどうだろう。私の意味。私の存在理由。それは与えられるものではなく、私自身が見つけるものである。脳裏さんの死に血涙を流してみたように、戯れでも何かをすることで、よこみちゃんのような死に方だって出来るかもしれない。

 

 私は死にたいのだろうか? いや、死にたくないとは確かに言える。問題は生き方の方だろう。だから先を探すように私は呟いてみた。

 

「『第六特権・あり得ざる答え(ヴァヴ・レゾンデートル・エクストラ)』」

 

 転がった楽土の身体へ、蹴りを放とうとした破綻ちゃんの足が、不思議なことに見当違いな方向を蹴って、あり得ない話だが、その衝撃で折れてしまった。当然、破綻ちゃんは代わりに腕で仕留めようとするが、その腕も見当違いのところを打って、不思議なことに折れてしまう。

 

 そして墜落した私は、偶然にも破綻ちゃんの頭上に落ちて、その無防備な首筋をすぱんと切った。意識すれば防げただろうが、彼女の意識は偶然にも見当違いの方向に向けられていて、首を切られたまま地面に折れる。

 

 これが私の第六特権だ。因果を固定するのではなく因果を不定にする。たとえあり得ざる答えであろうとも、捏造して表わすことが出来る。発動した後の結果は私自身にも分からないが、能力の性質なのだろうか、よりあり得なさそうな結果になることが多いらしい。

 

「何をするか、お主」

 

 楽土は、その様にして助けられたにも関わらず、実に不満げな顔で私に言った。「儂の命乞いを邪魔しおって」と、奇妙な言い方で、そして実に彼女らしくない言い方で、既に敗北を認めている。

 

「それが不思議だから使ったの。貴方って、そんな人間だったっけ? もっと生き汚くて、さっさと逃げるものかと思ったのだけれど」

「お主ごときに儂を測られて堪るものか! と言いたいところじゃが、まあ、儂らしくないのは確かじゃの」

「ならどうしてかしら」

「知らんわ。ここが好機だと思った。長い命を賭ける場所に相応しいと思った。それじゃろ、きっと」

「まるで他人事のように言う」

「儂のことなど儂が一番知らんし、儂が一番自由に出来ん」

 

 そう言って、楽土は手刀を放ってきた。その手首は、復活した破綻ちゃんの投石に打ち砕かれ、同じように放たれた数多の血の槍もまた、あらぬ方向へと突き刺さる。

 

 そして、私が放った手刀に、楽土は権能を発動しようとしたようだが、それは中途半端な結果に終わってしまって、本体は遠くに離れながらも、数パーセントほどを私の中に吸収された。

 

「偏在とは便利じゃが、確率操作相手ではのう……。あらゆるところにあるということを、儂は確かに強みだと思っておったが、お主の特権からすれば、あらゆるところで攻撃できるという意味でしかない」

「その通り。ぼけーっと空中遊泳できた理由はそれでした。ああ、それで戦うのかしら? どこに逃げても無意味なら、せめて戦って勝機を見出そうと?」

「だから、知らんわ。それよか、ぼーっとしてて良いのか」

「そうそう」

 

 破綻ちゃんは軽く言って必殺の打撃を連打してくる。因果不定、ぶん投げの確率操作からすれば、難なく避けられるかもしれないが、残念ながら今回もぶっ飛ばされて顔面をひしゃげさせられてしまった。「こう来るから第四特権は困る」と顔面を再生させながら瓦礫の中に私は言う。たとえ絶対に避けられない攻撃に、不定な可能性を差し込んだとしても、純粋な肉体強化という権能は、それをある程度埋められるらしい。

 

 これが元の因果固定なら、論理の強弱ではなく、権能同士の出力のぶつけ合いに持ち込んで、避けるという結果を確かなものに出来たかもしれないが、生憎、私の特権は論理的には不安定で、寧ろその不安定さこそが強みであって、避けられるかどうかは私自身も分からない。レンちゃんと白永くんのように、情熱的に、その一撃に賭けるという事が出来ないのだ。常に当たるかどうかも分からない攻撃に、一々命を賭けることなど出来ないだろう。それでも最初は盛り上がるかもしれないが、何度も繰り返す内に陳腐になって、情熱もまた冷めてしまう。

 

「だから、偏在という特権は、防御としては殆ど最強ですわよね。何でも回避できますもの」

「回避できておらんじゃろうが」

「そうだね。それってどうして?」

 

 破綻ちゃんが延暦へ言った。「私にも分からないんだけれど」と首を傾げている。

 

「偏在って能力、どこにでもあってどこにでもいない。そうでしょ? だったら当たるはずがないのに、当たってる。なんで?」

「そりゃ、破綻ちゃんの権能の使い方が上手いからでしょ。概念的な能力同士がぶつかった場合、たとえばそこの白楽楽土と伊藤桜が分かりやすいけれど、どこにでもあるという能力に対し、どんな攻撃でも当たるかもしれない、という能力は、前者に対して論理的に上回っているからこそ当たるものだよ。何より矛盾が生じないしね」

「どこにでもあるという能力を、私の能力は、どこにでもあるかもしれないと肯定した上で当てるからですわね」

「そうそう。だが、破綻ちゃんの権能は単なる肉体強化だ。それだけじゃ、あるかもないかもは論理的に突破できない」

「そう言ってるじゃん」

「せっかち! だけど、破綻ちゃんが今持っているものは、単なる能力じゃなくて、この世界にたった六つだけの特権なんだよ。肉体強化という能力じゃなくて、概念だ。それだけで概念の域に踏み込むことが出来る代物だ。そうなると、概念パンチは偏在という概念回避を突破して当てることが出来るわけだ」

「そうなの?」

「なんで儂に聞く」

 

 楽土は溜息を吐いた。「何だかお主達が相手だと気が削がれるのう」と言って、「じゃが、そう単純なものでもない」とちゃんと答えてくれる。

 

「たとえ権能だろうとも、論理的弱点を突けば、単なる異能だろうとも有効だろう。じゃが、概念には概念なりの能力の出力があって、そこで大抵の能力は、たとえ弱点を突かれていようともごり押しできるのじゃ。しかしそこの娘は、分かってないようじゃから無意識だろうが、攻撃の方は殆ど自分の肉体だけでやって、概念同士のぶつけ合いの方に権能を出力しておる。だから当たるらしい。細かいことは儂にも分からん」

「そうなんだ」

「そうなのじゃ。役に立つじゃろ? 見逃しておくれ」

「だから逃げれば良いじゃない」

「それはそうなのじゃが、のう……」

 

 今度は楽土も首を捻って、私の周囲に血の槍を百ほど出現させた。そんな場所に血の槍があったことにする。偏在の能力を応用した攻撃だが、しかし当たるかどうかに関しては私の能力の範囲内でしかない。

 

 へらへらと笑って当たるかもしれない攻撃をやり過ごすと、今度は破綻ちゃんの概念パンチがやって来た。しかし今回は当たらなかった。破綻ちゃんの腕がへし折れて、首が変な方向にねじ曲がる。「分かりにくい攻防だよね」と首を直しながら破綻ちゃんは言った。

 

「それは多分、貴方のせいだと思うんだけれど。貴方が当たるかどうか分からないから。何だか真剣味が欠けてくるね」

「そうじゃそうじゃ。こうやって駄弁る余裕まで出てくるほどじゃ。なんとかせんかい」

「そんな事言われたって私も困りますわよ。そして、そんな文句は私が一番言いたいですわ」

 

 生き死にを賭けた決戦の、殺し合いの場だというのに、私達はまるで生活の中にあるように熱が失せている。それは戦闘の中で簡単に生死を明らかにすることがない、人外という強者の余裕の表れなのかもしれないが、それにしたって何だか飽きてきた。

 

 ぐだぐだと喋り続けて、能力の解説までしちゃって、当初は珍しくシリアスっぽく始めた三つ巴にしても、すっかり居間の心境だ。瓦礫の上ではなくこたつの中にそれぞれ足を突っ込んでいるようだ。

 

 何かあるのかと期待した楽土の心境は、実にお婆ちゃんらしくボケているし、破綻ちゃんはちょっと質問を多くするようになっただけである。そして延暦はさっきから父親の生暖かい笑みがうざったい。そして何よりも、私自身は何時もと同じように変わりなく、ただふらふらとこの場にいる。

 

 それはキャラクター的な? 私の思う細々とした違和感疑問それら全て、たとえば私が読まれる立場にあるとしたら、単なる行動的な怪物的に分かりやすく思われるかしらん? それは侮辱ではないかなかしらん? かしら? かしらかし、しららららら? 私が貴方の正気を証明するといつ言ったのかしらんしらんしらららんら? しららららかしらふふふ。

 

冗談ですわ誰に向けての?さて

 

 私の頭を覗く読者がいたとしたらの話である。

 

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