「ーーそう、大人は結婚するものですわ!」
……街中に響く幼い声。何事かと思い見張りを中断した俺は物見台から下を覗き込む。そこには花騎士の一人であるハナモモが居た。隣に居るのはハナモモの憧れの人、モモだ。
話を聞く限りモモに大人の恋とは? と聞かれて悩んだ末に出した答えがそれだったのだろう。ハナモモらしい答えにおじさん思わずにっこり。
「そうよ、大人の恋愛の終着点は結婚よ! 私も他の子達も少なからず団長さまと結婚する事を夢見てると思うわぁ」
モモはハナモモの答えが予想外だったのか一瞬だけ驚きの表情を浮かべていたが……すぐに表情を整え、笑顔で言い返した。流石……大人の一人。というか……何故態々物見台の下で会話を続けるんだ。そういう会話は花騎士団本部でしてくれないだろうか……見張りに支障が出かねない。
「うー……団長さまは人気者ですけれど、ねえさまには……いいえ! 皆さまにも負けられませんわ!」
負けん気が強い……という事もなく頬を膨らますのは花騎士といえどまだ子供だなとほっこりする。……それと分かっていた事だが花騎士団長はやっぱりモテるのか、羨ましい。モテたい訳じゃないが、一回でいいから花騎士と警羅をしてみたいな。
「ふふふ。じゃあハナモモ……結婚ってどういうものか知ってる?」
「えっ? ……そ、それは恋人同士が永遠の愛を誓い合う儀式ですわ!」
言い淀みながらも答えるハナモモ。確かに結婚とは婚を結ぶというし……間違ってはいなーーって何故此方を見る? 目が合ってしまったじゃないか。
「でも結婚すると恋人は夫婦になるのですよね? 恋人と夫婦の誓い……そもそもどうして誓い合う必要があるんですの? ずっとずっと仲良しなら恋人のままでもよろしいのではないですか? そこに愛があれば永遠に結ばれますわよね?」
「……何故それを俺に聞くんだ?」
「……何故でしょう?」
態々ステッキに乗って俺の近くまで飛んできたハナモモがそんな事を聞くが……どう答えろと? もしかして俺が結婚してるとか思ってるんだろうか? 馬鹿言え、此方は花騎士団長みたいな栄誉ある役職に就けなかった一般兵士だぞ。万が一花騎士不在の時に害虫に襲撃された際の……所謂捨て駒に家庭を持つ事が許されるとでも? 持ったら持ったで先に逝くだろうし、それなら独り身でいいさ。
「……ハナモモ、悪いが俺に聞かれても分からん。こういうのは団長とかベロニカさん……後、デンドロビウム師匠とか……タエさん辺りに聞いてみるべきだ。良き相談相手になってくれるだろう」
感情のままに俺はモテないぞこの女郎と言い出しかねないので気づかれないようにそっと深呼吸。そして当たり障りのない言葉を返す。タエさんなら見た目より経験豊富だと思うからきっとハナモモの求めてる答えを持ってる筈。
「そうですわね。けれど考えても考えても分からないので……あたしと結婚、してみませんか?」
……何だって? 結婚? 俺とハナモモが? いやいや……年の差を考えようか。いい年したおじさんと姪っ子みたいな感じだぞ?
「どう、でしょう?」
あー……これ、もしかして『はい』を選択しないと進まない展開? 花騎士団長……貴方も大変ですね。羨ましいと思ってすまなかった……
ーー祝福の鐘が鳴る~。
「……えっと、結婚したのなら呼び方を変えないといけませんわね……」
「兵士Aでいいだろ。それかおじさん……いや、この際だ、黒木……何でもない」
一般兵士にだって名前はある。あるが明かされないのが一般兵士と書いてモブと読む者の宿命。ちなみに場所は物見台のままで結婚式を挙げていないし団長から花騎士に贈るという指輪も贈っていない。違うのはお互いに座っている事だろうか。それなのにハナモモは結婚した気でいる……これは新たな遊びだろうか。
「それだと意味ないですの……」
「はぁ……真護だ。とはいってもすぐに忘れるだろうがな」
「真護、さま……」
「…………おぅ」
何だ今の……何時もの格好をしてるハナモモが一瞬、ブーケを持って純白のドレスを着てる姿に見えたぞ……まさかウエディングドレス!?
「……何故でしょう、団長さまと言った時と真護さまと言った時……何だか違う気がしますわ……」
「そりゃ違うだろ。団長と一般兵士だぞ。前者は尊敬、後者は……親しみ?」
俺から見ても団長は憧れだしな……花騎士を指揮する事が多いからか知らない人が多いが……実は戦える。とは言え……それは此処の団長だけかもしれないが……
「いいえ、違いますわ……確かに団長さまの事は尊敬していますし、好いていますの……ただ、真護さま……と言うと……胸の辺りが温かくなりますの」
「そうなのか。まあ……こうやって気軽に話せるし……安心感から来るものかもな」
胸が温かくなる、というのは和む時とかホンワカする……という時に使う表現だし……俺もタエさんに労われると胸が温かくなるし……
「……確かに真護さまと居ると安心しますわね……でも、それだけでなくーー」
幼いながらも自分の感情を理解しつつあるのかハナモモは俺の手に自分の手を重ねてきた。
ーー害虫出現を確認! 花騎士は至急本部に帰還せよ! 繰り返す、花騎士は至急本部にーー
「………………真護さま、行って参りますの」
「お、おう……俺が言う事じゃないかもしれないが気を付けて……な?」
何処と無く漂っていた甘い雰囲気は空気を読まない花騎士召集放送によりぶち壊された。ゆらりと立ち上がり、俯いたままステッキに腰掛けるハナモモは……何か怖い。それでも何か言わないと、と思い……言葉に出す。ハナモモは頷くとステッキから魔法の光を放出させて飛び去った。
「さて……万が一に備えて俺も気を張るとするか」
立て掛けていた槍を掴み、臨戦体勢をとる。来るべき門番としての責務を全うする……日がいつかは来るのかもな。
ーーよくも真護さまとの甘い一時を邪魔してくれましたの! 天ちゅーですわ!
……此処からでも見えるエネルギー状の大樹はハナモモだな……声まで聞こえてきそうだ。いや、聞こえてる? 距離はかなりあるのに?
…………疲れか、これもまた愛の力ってやつか? あー……だとしたら身を固める覚悟を決めるべきかもな。
真護:ホシノみたいにおじさんと内心ではいうが口に出してもこんなおっさん、と言うが……言うほどおっさんでもない。
ハナモモ:作者の嫁、と言いつつ愛人。真の嫁は別にいるが、本作では嫁とする。魔法と書いて物理で潰す子……いや一応あれは魔法か。
モモ:さすがお姉さま。ハナモモが意識してるのを察して真護へけしかけた。
タエさん:原作では花騎士のシロタエギクだが本作では料亭の女将をしている。料亭をしつつパンを焼くのが趣味で仮に結婚した場合はパンケーキ好きにされる(原作ボイス)。ハナモモが告白してなかった世界線では真護の妻になる。ちなみに花騎士ではないのでシロタエギクではなく別の名前があり、タエと言うそのまんま。
師匠:作者的には強い拳のデンドロビウム師匠。開幕全体攻撃確定(真・破砕拳)で害虫は死ぬ。生き残れても再行動するから二発目発動で実質死ぬ。強すぎるよ師匠……本作では真護の師匠ポジで衛兵。原作同様に結婚したら旦那様と盛大にのろける。ちなみに花騎士ではないのでデンドロビウムという名前ではなくカ○ン。