始まりは5歳の頃だ
俺はあの時、自分にどんな個性が宿るのか、どんな力が手に入るのか、どんなヒーローになれるのか。
そんなことばかり考えていた。
俺はある日、目からレーザーが出た。それは俺の母親の個性だった。母さんはうずくまっていた。だから俺は”それ”を返してあげた。
「お母さま。落ち着いて聞いてください。あなたの息子さんの個性は、人から個性を奪い、与える能力です。」
「イヤ、イヤよ!うちの息子が、世紀の大犯罪者と同じだなんて!」
「母さん。同じじゃないだろう。世界は、俺たちの子供だろう。」
俺は悲しかった。母さんが泣いていて、父さんが困っていたから。
「母さん?泣かないで…」
「触らないで!」
母さんの瞳が、さっきまで俺が使っていた光と同じ色に揺れていた。
「お前!自分の子供になんてもの向けるんだ!」
「母さん…何で…」
「お母さま!落ち着いてください!君は向こうで遊んでなさい。誰か!早く来てくれ!」
なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだ。
幼いころに父さんと看護師に連れられながら思ったことは、それだけだった。
俺も今年で16歳。とうとうこの日が来た。
「今日が、雄英高校の試験日だね。」
「あぁ、まぁ俺なら余裕でしょ。」
「無茶だけは、するんじゃないよ。」
「分かってるよ。父さんは心配性なんだから。」
「ちょっと待ちなさい。約束、覚えてるかい。」
「今日は良いだろ?」
「約束、だよ。」
俺はあの日から父さんとずっと約束していた。俺がこの力と共に生きるにあたって、最優先事項となる約束だ。
「他人には個性は使わない。でも、どうやって実技乗り越えろって言うんだよ。」
「お前なら出来るさ。俺の個性があるんだろ?」
「父さんのだけで受かれって?無茶言うよ。」
「気を付けて…行ってらっしゃい。」
「うん、行ってきます。」
~試験前日~
「個性を使う。」
「本当にいいの?」
「親父さんと、約束してるんだろう?」
「でもヒナちゃん。松さん。受かるには親父の個性しかない。親父の個性だけで実技試験はあまりに無謀すぎる。だから頼む。あんたらの個性、一日貸してくれ!」
「でも…世界君は、どうしてそこまでして、雄英に受かりたいの?」
「そりゃあ、国内有数の進学校で、就職先も安定してるし…」
「それだけじゃない。でしょ?」
「…今使っただろ。」
「ふん。世界君にだけだもん。」
「正直に、話してみんさい。」
「はぁ~、そうだよ、俺はヒーローになりたい。母さんに「お前は間違ってなかった」って言わせてやりたい。」
「そう、だよね。」
「あぁ、だから俺は絶対にこの試験に合格しないといけない。だから、力を貸してくれ!」
「まあ~、良いよ。」
「本当か!」
「君の頼み…だからだよ?」
「子供が頭下げとんのに、頷かん大人がおるかいな。」
「ありがとう!松さん!」
「聞いてないし…」
これで、ある程度個性は手に入った。
後は、
受験者から個性を借りる。
そう、借りるだけだ。そう言い聞かせないと、俺はもう一歩も前に進めそうになかった。大丈夫、試験が終わったら、きちんと個性は返すし、必要なら、父さんと一緒に謝りに行けばいい。
父さんは悲しむだろうけど、仕方がない。やるしかないんだ。
俺の前から母さんが消えたあの日から。
このためだけに生きてきた。
母さんにもう一度会いたい。触れたい。笑いあいたい。
…そして、褒められたい。
俺は考えた。考えて、考えて、やっと気付いた。
母さんは、TVの中のヒーローを見る時だけ、笑顔になっていた。
なら、俺がヒーローになればいい。
そうすればきっと、もう一度、俺を見てくれる。
俺は絶対に自分の運命から逃げたりしない。
俺は、俺の夢を諦めない。
絶対に世界最強のヒーローになってやる。
――次回、試験編