トリコの世界をダイスで生き抜く   作:からさ

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第4話 毒を旨味に変えるもの

毒香は、声の主を見た。

 

薄暗い処理場の奥。毒気と香辛料の煙が混ざる中に、傷だらけの大男が立っている。片腕のような腕。扉を壊せそうな腕。毒獣の首元の鎖を掴み、床へ叩きつけても顔色一つ変えない腕。

 

記憶よりも老いている。記憶よりも傷が増えている。

 

だが、同じだった。

 

肉の匂い。火の匂い。古い旅の匂い。そして、腹が減る匂い。

 

毒香は保存カプセルを抱えたまま、息を吐いた。毒気が喉を焼く。声が擦れる。言葉にならないかもしれない。けれど、今言うべき言葉は長くない。

 

名前。

 

番号ではなく、名前。

 

あの日、この男に聞かれた名前。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

 

出目:1

結果:声の主に「毒香」と名乗る*1

 

「……毒香」

 

声は小さかった。けれど、処理場の中で確かに響いた。

 

大男の目が細くなる。

 

「毒香?」

 

毒香は頷いた。

 

「V-79」

 

その番号を口にした瞬間、処理場の空気が少し変わった。

 

大男は黙った。毒獣の鎖を握る手に、わずかに力が入る。床に押さえつけられていた毒獣が低く唸ったが、動けない。

 

「生きてたのか」

 

大男が言った。

 

その言葉には驚きがあった。だが、それ以上に、どこか呆れたような響きがあった。

 

「しぶといな」

 

毒香は答えようとした。だが、喉が焼けている。毒気を吸いすぎた。三呼吸はしていない。けれど、すでに処理場の空気は毒香の身体には濃すぎる。

 

膝が揺れる。保存カプセルを抱える腕に力が入らない。

 

大男はそれを見て、舌打ちした。

 

「喋るな。倒れるぞ」

 

「……肉」

 

「は?」

 

「前の、肉」

 

毒香はかすれた声で言った。

 

「何の肉」

 

大男は一瞬だけ黙った。

 

そして、低く笑った。

 

「今聞くことか?」

 

同じ言葉だった。

 

あの日、干し肉を口に押し込まれた時と同じ返し。

 

毒香は、少しだけ目を細めた。

 

やはり、この男だ。

 

「おい!」

 

外から包丁の男の声が飛ぶ。

 

「そいつ、侵入者だぞ!」

 

大男は振り返らない。

 

「見りゃ分かる」

 

「なら捕まえ――」

 

「黙れ」

 

一言で、外の声が止まった。

 

大男は毒香へ目を戻す。

 

「毒香。まだ走れるか」

 

毒香は足首の鎖を見た。歪んではいるが、まだ絡んでいる。毒気を吸っている。保存カプセルは戻ったが、肉片は失った。外には食運の怪物がいる。

 

走れるか。

 

正直に言えば、怪しい。だが、毒香は頷いた。

 

大男は鼻で笑う。

 

「嘘が下手だな」

 

毒香は黙った。

 

「まあいい。なら、食え」

 

大男は懐から何かを取り出した。

 

干し肉だった。

 

以前のものとは違う。少し色が濃い。香辛料も強い。だが、匂いは近い。肉、煙、毒、解毒成分、そしてあの温かい苦み。

 

毒香の腹が鳴った。

 

こんな状況で。毒獣の隣で。敵の声が外から聞こえる中で。喉が焼け、足に鎖が絡み、処理場の毒気で倒れそうな状態で。

 

腹が鳴った。

 

大男は笑った。

 

「いい反応だ」

 

毒香は干し肉を見る。食べたい。だが、今食べれば、何かが動く気がした。

 

身体の奥で眠っているもの。

 

グルメ細胞。

 

発現値3の、ほとんど眠ったままの細胞。あの日も、この肉でほんの少しだけ寝返りを打った。

 

今度はどうなるか分からない。

 

【再会イベント】

≪System≫

毒香は声の主に名乗りました。

 

結果:

声の主は、過去に毒香を救った美食屋本人である可能性が極めて高いです。

 

判明情報:

声の主は毒香を「V-79」として認識しました。

毒香が生きていたことに驚いています。

毒香の嘘や無理を見抜いています。

声の主は再び、毒香に干し肉を差し出しました。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

 

出目:4

結果:毒獣について尋ねる*2

 

毒香は干し肉を見た。

 

食べたい。

 

喉が焼けている。足首には鎖。処理場の空気は毒で濁り、身体は限界に近い。差し出された干し肉は、たぶん解毒にもなる。今すぐ噛めば、少しは楽になるかもしれない。

 

けれど、毒香の目は別のものを見ていた。

 

床に押さえつけられた毒獣。

 

三本爪。黒く焼けた毛並み。毒で荒れた呼吸。飢えと苦痛が混ざった黄色い目。あの獣は、保存カプセルの匂いに反応した。危険肉に反応した。救命美食屋の香辛料に反応した。

 

ただの獣ではない。ただの食材でもない。

 

「……あれ」

 

毒香はかすれた声で言った。

 

美食屋が眉を上げる。

 

「食う前に聞くことか」

 

「うん」

 

「変わってねえな」

 

「何」

 

「見りゃ分かるだろ。毒持ちの獣だ」

 

「違う」

 

毒香は首を横に振った。喉が痛む。声を出すたび、焼けた内側が擦れる。それでも聞く。

 

「あれ、何を食べた」

 

美食屋の目が、少しだけ細くなった。毒獣が低く唸る。美食屋は片腕だけで鎖を押さえたまま、その首を床に固定している。力が異常だ。毒香が少しでも触れれば倒れるような毒気の中で、平然と立っている。

 

「そこを嗅ぎ分けたのか」

 

毒香は頷いた。

 

「肉の匂いがする。市場の肉。香辛料。死肉。毒。吐いた匂い」

 

「正解だ」

 

美食屋は短く言った。

 

「こいつらは、危険肉を餌にされてる。毒抜きが甘い肉、死肉、香辛料で誤魔化した肉。人に売れない分を、ここで毒獣に食わせてる」

 

「なんで」

 

「毒を濃くするためだ」

 

処理場の奥で、香辛料の匂いが揺れた。

 

「毒持ちの獣は、毒を食えば毒が変わる。上手く育てりゃ、肉に特殊な旨味が出る。牙、胆、肝、血、毒袋。全部売れる」

 

毒香は毒獣を見る。獣の腹は痩せていた。餌を与えられているはずなのに、満たされていない。毒ばかりが荒れ、肉は弱っている。食材として育てられているのではない。壊されている。

 

「失敗してる」

 

「そうだ。食わせ方が悪い。毒の扱いも悪い。香辛料は誤魔化しに使うもんじゃねえ。毒を旨味にするには、順番がある。量がある。火がある。休ませる時間がある」

 

美食屋の声は低い。怒っているのか、呆れているのか、毒香には分からない。

 

「ここの連中は、俺が置いていった香辛料を真似て、肉を売ることしか考えてねえ。だから獣も肉も壊れる」

 

毒獣がまた唸った。

 

毒香は、あの日の研究員たちを思い出した。毒を危険として隔離し、数字として記録し、失敗と成功に分ける白い部屋。

 

ここは違う。白くはない。

 

だが、やっていることは少し似ている。

 

食材を見ていない。毒を見ていない。味を見ていない。

 

「食材に失礼」

 

毒香が呟く。

 

美食屋は少しだけ笑った。

 

「言うようになったな」

 

「前から」

 

「そうか?」

 

「たぶん」

 

「嘘が下手だ」

 

毒香は黙った。

 

【情報取得】

≪System≫

毒獣について尋ねました。

 

判明情報:

処理場の毒獣は、危険肉や死肉を餌として与えられています。

毒抜き不完全な肉や香辛料で誤魔化した肉を食べさせることで、毒獣の毒を濃くしようとしていました。

毒を濃くした毒獣からは、肉、牙、胆、肝、血、毒袋などを商品として取る予定だったようです。

しかし処理が雑なため、毒獣は異常化し、肉も毒も壊れかけています。

 

救命美食屋の見解:

香辛料は毒を誤魔化すためではなく、毒を旨味に変えるために使うもの。

正しい順番、量、火入れ、休ませる時間が必要。

処理場の連中はそれを理解していない。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

 

出目:2

結果:足首の鎖を外してもらう*3

 

毒香は、差し出された干し肉ではなく、自分の足首を見た。

 

鎖が絡んでいる。毒気で表面は黒ずみ、先ほどの失敗で歪んではいるが、まだ外れていない。走るにも、逃げるにも、立つにも邪魔だ。

 

干し肉を食べれば楽になるかもしれない。だが、足が動かなければ、また捕まる。

 

「先に」

 

毒香はかすれた声で言った。

 

美食屋が眉を上げる。

 

「肉より先か」

 

毒香は頷く。

 

「鎖」

 

「お前、優先順位おかしくねえか?」

 

「足がいる」

 

「飯もいる」

 

「後で食べる」

 

「その後が来る状態に見えねえんだがな」

 

美食屋はそう言いながらも、干し肉を一度引っ込めた。毒獣の首元の鎖を片腕で押さえたまま、もう片方の手を毒香の足首へ伸ばす。

 

包丁の男が外から叫ぶ。

 

「おい! そいつを逃がす気か!」

 

美食屋は振り返らない。

 

「先にこの獣をどうにかしろ。お前らの餌やりが下手なせいで暴れてんだ」

 

「ふざけるな!」

 

「ふざけてんのはお前らの仕込みだ。毒を濃くすりゃ美味くなると思ってる馬鹿どもが」

 

美食屋は毒香の足首の鎖を掴んだ。毒香が外そうとして失敗した鎖。毒気で脆くなってはいるが、まだ芯は残っている。毒香の力では切れなかった。技術を使っても無理だった。

 

美食屋はそれを、指で確かめるように一度撫でた。

 

「ここか」

 

毒香は頷いた。

 

「黒いところ」

 

「見る目はある」

 

「鼻」

 

「同じだ」

 

美食屋の指に力が入る。

 

鎖が軋んだ。金属が悲鳴を上げる。毒気で脆くなった部分が歪み、潰れ、最後に乾いた音を立てて割れた。

 

毒香は目を瞬かせる。あれだけ苦労して外せなかった鎖が、美食屋の手の中であっさり壊れた。

 

「軽いな」

 

美食屋は言った。第1話の毒獣を叩き伏せた時と同じような声だった。

 

毒香の足首から鎖が落ちる。まだ痕は残っている。痛みもある。だが、足は動く。

 

動ける。

 

それだけで、状況は大きく変わった。

 

美食屋は干し肉をもう一度差し出した。

 

「次は食え」

 

「でも」

 

「でもじゃねえ。鎖は外した。次は飯だ」

 

毒香は干し肉を見る。香りが強い。処理場の毒気の中でも、はっきり分かる。肉、煙、香辛料、毒を丸める温かい苦み。

 

身体が欲しがっている。

 

喉が痛い。胸が重い。足首が疼く。保存カプセルは戻ったが、毒気を吸ったままでは長く動けない。

 

今度こそ、食べるしかない。

 

【状態更新】

≪System≫

救命美食屋に足首の鎖を外してもらいました。

 

結果:

足首の拘束が解除されました。

 

状態変化:

毒香:足首の鎖解除

毒香:軽度毒気吸引継続

毒香:保存カプセル回収済み

毒香:行動自由度が回復

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

 

出目:5

結果:毒獣をどうするのか聞く*4

 

毒香は、また干し肉を食べなかった。

 

美食屋の眉間に皺が寄る。

 

「お前な」

 

「聞く」

 

「食ってから聞け」

 

「先に」

 

「倒れるぞ」

 

「たぶん、まだ」

 

「その“たぶん”を信用できる状態じゃねえだろ」

 

毒香は答えず、床に押さえつけられている毒獣を見た。毒獣はまだ生きている。鎖に繋がれ、美食屋に押さえ込まれ、毒気を吐きながら、それでも黄色い目で保存カプセルと香辛料を追っている。腹は痩せ、毛並みは焼け、毒は荒れている。

 

食材。猛獣。商品。失敗品。

 

いろいろな呼び方ができる。だが、毒香にはそれ以前に、壊れかけた味の匂いがした。

 

「これ、どうするの」

 

毒香が聞いた。

 

美食屋は一瞬だけ黙った。

 

処理場の外から、包丁の男の声が飛ぶ。

 

「決まってるだろ! 押さえたら毒袋を取る! そいつ一匹で何百万になると思って――」

 

男の言葉は途中で止まった。

 

美食屋が振り返ったからだ。ただ、それだけだった。

 

だが、男は口を閉じた。

 

美食屋は毒獣の頭を押さえたまま、低く言った。

 

「こいつはもう売り物にはならねえ」

 

毒香は毒獣を見る。

 

「食べられない?」

 

「食える部分はある。だが、このまま捌けば毒が暴れる。肉は苦いだけ、血は腐る、毒袋は割れる。食材としては死にかけだ」

 

「助ける?」

 

「助けたいのか?」

 

毒香は少し黙った。助けたい、という言葉はよく分からない。子供が腹を空かせていれば干し肉を渡す。食材が無駄にされていれば嫌な匂いがする。毒がただの毒として捨てられるのは、もったいないと思う。

 

この毒獣は、食べられるために捕まったのかもしれない。なら、食べること自体は悪ではない。

 

だが、今のこれは違う。

 

毒を濃くするために壊され、危険肉を食わされ、香辛料で誤魔化され、苦しんでいる。

 

それは、美味そうではなかった。

 

「このままだと、不味い」

 

毒香は言った。

 

美食屋は少しだけ目を見開いた。それから、短く笑った。

 

「いい答えだ」

 

「助けるとは言ってない」

 

「分かってる。食材として見て、その結論なら十分だ」

 

美食屋は毒獣の首元の鎖を強く引いた。毒獣が苦しげに唸る。だが、少しだけ呼吸が整う。

 

「まず毒を落ち着かせる。荒れた毒を外へ逃がして、腹の中の腐った餌を吐かせる。そこから休ませる。水を飲ませる。火を入れるのはその後だ」

 

「食べるの?」

 

「最終的にはな。こいつが食材なら、食われるところまで行って初めて終わる」

 

毒香は頷いた。

 

「でも、今じゃない」

 

「そうだ。今食えば、こいつも食う側も死ぬ」

 

「じゃあ、今は?」

 

「処理をやり直す」

 

美食屋は床に散らばった香辛料を顎で示した。

 

「ただし、材料が足りねえ。あの馬鹿どもが俺の置いてった香辛料を使い潰した。残ってる分だけじゃ、こいつを落ち着かせるには少し足りない」

 

毒香は保存カプセルを見た。中には未登録香辛料の枝がある。第1話で、命懸けで持ち帰ったものだ。使えるかどうかは分からない。毒性も、味も、処理法も不明。

 

だが、匂いは合う。

 

毒獣の荒れた毒。救命美食屋の香辛料。そして保存カプセルの中の未登録香辛料。全部が、どこかで繋がっている。

 

毒香の胃が鳴った。

 

美食屋が呆れた顔をする。

 

「この状況で腹鳴らすな」

 

「美味そうだから」

 

「だから先に食えって言ってんだろ」

 

美食屋は干し肉を毒香の口元へ押しつける。

 

今度は、もう逃げられなかった。

 

【情報取得】

≪System≫

毒獣をどうするのか尋ねました。

 

判明情報:

毒獣は、現状では商品にも食材にもできないほど毒が荒れています。

このまま捌けば、肉は苦く、血は腐り、毒袋も危険な状態です。

救命美食屋は毒獣をすぐに殺すのではなく、毒を落ち着かせ、処理をやり直すつもりです。

 

救命美食屋の方針:

荒れた毒を外へ逃がす。

腹の中の腐った餌を吐かせる。

休ませる。

水を飲ませる。

火を入れるのはその後。

最終的には、食材として正しく食べる。

 

【判定】

≪System≫

救命美食屋の干し肉を食べ、毒気に耐えます。

 

難度:35

判定項目:耐久

基礎値:12

補正:救命美食屋の干し肉+30

補正:毒気吸引−10

補正:救われた味の記憶+10

補正:グルメ細胞の微反応+5

最終値:47

 

判定方式:

1D47を振り、出目が難度35以上なら成功。

難度の2倍、70以上なら大成功。

難度の5分の1、7以下なら大失敗。

 

出目:47

結果:成功

 

毒香は干し肉を噛んだ。

 

硬い。塩辛い。苦い。そして、温かい。

 

噛んだ瞬間、舌が痺れる。だが、不快ではない。処理場の毒気で焼けた喉に、肉の油が落ちる。煙の香りが広がる。香辛料が毒を丸める。喉の奥で暴れていた毒気が、強引に形を変えられていく。

 

毒香は飲み込んだ。

 

胸が熱い。

 

痛みではない。いや、痛みではある。だが、ただの痛みではない。毒気で焼かれた内側に、別の熱が流れ込む。死に近い熱ではなく、生きるための熱だ。

 

身体の奥で、何かが動いた。

 

一度目は、第1話のあの日だった。毒性植物園で倒れかけ、命を救われた時。あの干し肉を飲み込んだ瞬間、眠ったままの何かがほんの少しだけ寝返りを打った。

 

今度は違う。

 

寝返りではない。

 

薄く目を開けた。

 

毒香は息を吸った。

 

処理場の毒気が肺に入る。苦しい。だが、倒れない。

 

喉は焼けている。胸も重い。毒が消えたわけではない。けれど、身体が毒を敵としてだけではなく、味として処理しようとしている。

 

毒香の腹が鳴った。

 

美食屋がにやりと笑う。

 

「効いたな」

 

毒香は答えない。答えようとしたが、代わりに咳が出た。黒い毒気が少し混じった息が吐き出される。床に落ちた吐息が、薄く煙を上げた。

 

食運の怪物が外から叫ぶ。

 

「毒香!? 大丈夫!?」

 

毒香は少しだけ顔を上げた。

 

「たぶん」

 

「たぶんじゃなくて!」

 

美食屋が笑う。

 

「大丈夫だ。今ので死に損なった」

 

「死に損なったって言い方やめて!」

 

外からそんな声が返ってくる。

 

毒香は保存カプセルを抱え直した。手の震えが少しだけ止まっている。足も動く。鎖もない。まだ万全ではないが、もう倒れるだけではない。

 

そして、毒香の中で、別の感覚が残っていた。

 

毒気の匂いが、少し変わっている。さっきまではただ濃く、苦しく、焼けるだけだった。今は違う。荒れた毒の中に、肉の焦げ、腐った餌、香辛料の残り、毒獣の血、処理場の湿気、その層が少しだけ分かる。

 

感覚が鋭くなったのではない。

 

毒を受け取る側が変わった。

 

ほんの少し。本当に、ほんの少しだけ。

 

だが、毒香のグルメ細胞が反応した。

 

【成功効果】

≪System≫

救命美食屋の干し肉による耐久判定に成功しました。

 

結果:

毒香は処理場の毒気に耐えました。

毒気吸引による悪化を一時的に抑えました。

行動不能を回避しました。

 

追加効果:

グルメ細胞が微反応しました。

毒香の身体が、毒気を単なる毒ではなく「味」として処理し始めています。

 

状態更新:

毒香:軽度毒気吸引継続

毒香:行動可能

毒香:保存カプセル回収済み

毒香:足首の鎖解除済み

毒香:グルメ細胞微反応

 

一時補正:

毒・香辛料・危険肉に関する感覚判定+5

毒気環境での行動判定ペナルティを−10から−5へ軽減

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

 

出目:2

結果:食運の怪物を中に呼ぶ*5

 

毒香は、外を見た。

 

壁の裂け目の向こうに、食運の怪物がいる。こちらを覗き込みたいのに、毒気と男たちと壁の破片に阻まれて、踏み込めずにいる。

 

毒香は保存カプセルを抱え直した。喉はまだ焼けている。だが、干し肉のおかげで声は少し戻った。

 

「来て」

 

外の気配が止まる。

 

「えっ、私?」

 

「うん」

 

「中、毒すごいよね?」

 

「すごい」

 

「毒獣もいるよね?」

 

「いる」

 

「怖い人もいるよね?」

 

毒香は美食屋を見た。

 

美食屋は毒獣の鎖を押さえたまま、片眉を上げる。

 

「怖い人?」

 

「たぶん」

 

「おい」

 

毒香は外へ視線を戻した。

 

「でも、必要」

 

食運の怪物は少し黙った。普段なら、何か軽口が返ってくるところだった。だが今回は、彼女も分かっているのだろう。処理場の中には、毒香が探していた味がある。壊れかけた毒獣がいる。危険肉の流通の中心がある。そして、毒香を救った美食屋本人らしき男がいる。

 

ここで外に残るだけでは、たぶん足りない。

 

「分かった」

 

食運の怪物は言った。

 

「行く」

 

「息、止めて」

 

「どれくらい?」

 

「三呼吸で倒れる」

 

「説明が怖い!」

 

美食屋が口を挟む。

 

「布で口を覆え。床の黒い煙を吸うな。壁際は通るな。獣と目を合わせるな」

 

「注文が多い!」

 

「死にたくなきゃ守れ」

 

「はい!」

 

返事だけはよかった。

 

食運の怪物は服の袖で口元を覆い、壁の裂け目の前に立つ。毒香より小柄なぶん、通るだけなら難しくない。問題は足場だ。床には毒気が溜まり、香辛料が散り、壁の破片が転がっている。

 

普通なら滑る。普通なら咳き込む。普通なら、毒獣の目を見て足が止まる。

 

だが、彼女は食運の怪物だ。

 

毒香はそれを知っている。腹立たしいほどに。

 

食運の怪物は一歩踏み込んだ。

 

ちょうどその瞬間、処理場の中で風が動いた。割れた壁から外気が入り、床を這っていた毒気がわずかに薄まる。彼女の足元に転がっていた壁板は、踏まれる直前に毒獣の尻尾が弾いて脇へずれた。

 

偶然。

 

また偶然。

 

それでも、毒香はもう驚かなかった。

 

「こっち」

 

毒香が手を伸ばす。

 

食運の怪物は、その手を取って処理場の中へ入った。

 

中に入った瞬間、彼女の目が処理場を見回す。吊るされた肉、散らばった香辛料、床の血、押さえつけられた毒獣、そして傷だらけの美食屋。

 

「うわ」

 

一言目はそれだった。

 

「すごく……食欲なくなる場所」

 

「分かる」

 

毒香は頷いた。

 

美食屋が二人を見る。

 

「そいつが例の食運か」

 

毒香は少しだけ驚いた。

 

「分かるの?」

 

「こいつが入った瞬間、毒気の流れが変わった。そんな奴はそういない」

 

食運の怪物が目を丸くする。

 

「私、そんなに変ですか?」

 

「変だな」

 

「初対面で断言された」

 

「褒めてる」

 

「褒めてます?」

 

毒香は短く言った。

 

「たぶん」

 

「毒香のたぶんは信用できないんだよなぁ」

 

そのやり取りの間にも、毒獣は低く唸っている。美食屋の腕に押さえられてはいるが、完全には鎮まっていない。

 

美食屋は床に散った香辛料と、毒香の保存カプセルを交互に見た。

 

「ちょうどいい。食運がいるなら、足りない材料を引けるかもしれねえ」

 

「引く?」

 

食運の怪物が首を傾げる。

 

「この獣を落ち着かせるには、香辛料が少し足りねえ。倉庫の連中が使い潰したせいでな。だが、この辺りには似た匂いの材料があるはずだ」

 

毒香は保存カプセルを開きかける。

 

「これ?」

 

中には、第一話で採取した未登録香辛料の枝が入っている。

 

美食屋の目が鋭くなった。

 

「……お前、それまだ持ってたのか」

 

「うん」

 

「あの時の毒木か」

 

毒香は頷いた。

 

美食屋は一瞬だけ呆れたように笑った。

 

「本当にしぶといな」

 

【合流】

≪System≫

食運の怪物が処理場内部に入りました。

 

結果:

食運の怪物が合流しました。

 

追加情報:

救命美食屋は食運の怪物の異常性を察知しました。

毒獣を落ち着かせるには香辛料、またはそれに近い材料が不足しています。

毒香の保存カプセル内には、第一話で採取した未登録香辛料の枝があります。

 

【判定】

≪System≫

食運の怪物が、処理場内から必要な材料を見つけます。

 

難度:50

判定項目:食運

基礎値:95

補正:食運の怪物+20

補正:処理場内に香辛料が散乱している+10

補正:毒気環境−10

補正:救命美食屋の指示+10

補正:毒香の未登録香辛料の枝+10

最終値:135

 

判定方式:

1D135を振り、出目が難度50以上なら成功。

難度の2倍、100以上なら大成功。

難度の5分の1、10以下なら大失敗。

 

出目:24

結果:失敗

 

食運の怪物は、床に散った香辛料を見下ろした。

 

赤茶色の繊維。黒い種。乾いた木の皮。砕けた実。毒気を吸って湿った粉。どれも似た匂いをしている。だが、毒香には分かる。似ているだけで、同じではない。

 

救命美食屋の香辛料は、毒を丸める。

 

処理場に散っている香辛料の多くは、毒を隠す。

 

似ているようで、まったく違う。

 

「えっと、これとか?」

 

食運の怪物が、一つの小袋を拾った。

 

美食屋の顔が変わった。

 

「触るな!」

 

声が飛ぶ。

 

食運の怪物は反射的に手を離した。小袋が床へ落ちる。袋の口が開き、中から濃い紫色の粉がこぼれた。

 

その瞬間、毒獣が大きく痙攣した。

 

鎖が鳴る。床板が軋む。毒気が一気に濃くなる。

 

毒香の喉が詰まった。干し肉の効果で倒れはしない。だが、鼻の奥に嫌な刺激が走る。これは毒を丸める匂いではない。

 

毒を煽る匂いだ。

 

「何これ」

 

食運の怪物が青ざめる。

 

美食屋は毒獣の首を押さえ直しながら、低く吐き捨てた。

 

「毒煽りだ」

 

「毒あおり?」

 

「毒持ちの獣に食わせて、毒袋を無理やり膨らませる混ぜ物だ。肉は死ぬ。血も荒れる。だが、毒だけは増える」

 

毒香は紫の粉を見る。

 

匂いが悪い。

 

毒を美味しくするための香辛料ではない。毒を毒のまま膨らませ、食材の他の部分を殺すための粉だ。

 

「これを食わせてた?」

 

毒香が聞く。

 

美食屋は頷いた。

 

「だからこいつは壊れかけてる」

 

毒獣の黄色い目が揺れている。怒りではない。苦痛だ。身体の中で毒が膨らみ、肉を焼き、血を濁らせている。

 

食運の怪物は、落とした小袋から距離を取った。

 

「ごめん。必要なやつじゃなかった」

 

「違う」

 

毒香は首を横に振った。

 

「必要ではない。でも、見つけた」

 

美食屋が毒香を見る。

 

「そうだな。こいつを使ってるなら、処理のやり直しは急ぐ必要がある。放っておけば毒袋が破れる」

 

「破れたら?」

 

「ここにいる全員、毒で寝る。弱い奴はそのまま死ぬ」

 

食運の怪物が顔を引きつらせる。

 

「それ、かなりまずいのでは?」

 

「かなりじゃねえ。最悪だ」

 

【失敗効果】

≪System≫

食運の怪物は必要な材料を見つけられませんでした。

 

代替発見:

処理場で使われていた危険な混ぜ物「毒煽り」を発見しました。

 

毒煽り:

毒持ちの獣に食わせることで、毒袋を無理やり膨らませる混ぜ物。

肉、血、内臓を荒らす。

毒だけを増やすため、食材としての質を大きく損なう。

過剰に使うと毒袋が破裂する危険があります。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

 

出目:1

結果:未登録香辛料の枝を使えるか試す*6

 

毒香は保存カプセルを開いた。中には、細い枝が入っている。赤黒い葉。細い棘。冬の夜のように冷たい香り。第1話で、毒性植物園から命懸けで持ち帰った未登録香辛料の枝だ。

 

小型毒獣に襲われた。毒を受けた。救命美食屋に助けられた。あの時、捨てろと言われても捨てなかったもの。

 

ずっと持っていたもの。

 

それを、毒香は美食屋に見せた。

 

「これ」

 

美食屋の目が細くなる。

 

「……本当にまだ持ってたのか」

 

「うん」

 

「食ってねえだろうな」

 

「まだ」

 

「まだって言うな」

 

食運の怪物が覗き込む。

 

「それ、何?」

 

「未登録香辛料」

 

「危ない?」

 

「たぶん」

 

「毒香のたぶん、だいたい危ないよね」

 

美食屋は枝を受け取らず、まず匂いだけを嗅いだ。傷だらけの顔に、わずかな驚きが浮かぶ。

 

「冷える毒だな」

 

「冷える?」

 

「毒煽りとは逆だ。あれは毒袋を膨らませる。こいつは毒の熱を落とす。だが、そのまま入れたら肉が死ぬ」

 

毒香は頷く。なんとなく分かる。匂いが冷たい。毒を消すのではない。毒の温度を下げる。荒れた毒には効くかもしれない。だが、下げすぎれば旨味も香りも死ぬ。

 

「使える?」

 

「使い方次第だ」

 

美食屋は毒獣を見る。毒獣はまだ荒い息を吐いている。毒袋が膨らみ、喉の奥で毒気が煮えている。放っておけば破裂する。毒煽りを使われたせいで、毒が熱を持ちすぎている。

 

未登録香辛料の枝は、その熱を落とせるかもしれない。だが、量を間違えれば終わる。

 

毒が冷えすぎれば、毒獣の内側で固まる。血も肉も止まる。食材としても、生き物としても駄目になる。

 

「お前が嗅げ」

 

美食屋が言った。

 

毒香は美食屋を見る。

 

「私?」

 

「お前が持ってきた枝だ。お前の鼻が一番知ってる」

 

「知識ない」

 

「知識はいらねえ。今は鼻だ」

 

毒香は未登録香辛料の枝を持ち、毒獣へ近づいた。

 

食運の怪物が息を呑む。

 

「近づいて大丈夫なの?」

 

「大丈夫じゃない」

 

「じゃあなんで行くの!?」

 

「匂いを見る」

 

毒香は毒獣の前にしゃがんだ。美食屋が鎖を押さえている。毒獣の黄色い目が、毒香を見た。牙の隙間から黒い毒気が漏れる。

 

怖い。そう思うより先に、美味そうだと思った。

 

荒れた毒。壊れた肉。腐った餌。紫の毒煽り。救命美食屋の香辛料。未登録香辛料の冷たい毒。

 

それらが、毒香の鼻の中で重なる。

 

必要なのは、毒を消すことではない。毒を眠らせることでもない。熱くなりすぎた毒を、食材として扱える温度まで落とすこと。

 

「葉じゃない」

 

毒香は呟いた。

 

「枝?」

 

食運の怪物が聞く。

 

毒香は首を振る。

 

「棘」

 

美食屋が目を細める。

 

「棘か」

 

「葉は冷えすぎる。枝は遅い。棘だけ、少し」

 

「量は」

 

毒香は毒獣の喉元を見る。毒袋の膨らみ。呼吸の熱。肉の焦げる匂い。紫の毒煽りの残り。

 

「三本」

 

「多いか?」

 

「二本だと足りない。四本だと死ぬ」

 

食運の怪物が小さく震える。

 

「怖い判断してる……」

 

美食屋は笑わなかった。真剣な顔で、毒香の手元を見る。

 

「なら、三本だ」

 

【判定】

≪System≫

未登録香辛料の枝から、毒獣に使える部位と量を見極めます。

 

難度:55

判定項目:感覚

基礎値:88

補正:未登録香辛料を長く所持していた+10

補正:毒・香辛料・危険肉への一時補正+5

補正:救命美食屋の助言+10

補正:毒獣の毒が荒れている−10

補正:知識不足−5

最終値:98

 

判定方式:

1D98を振り、出目が難度55以上なら成功。

難度の2倍、110以上なら大成功。

難度の5分の1、11以下なら大失敗。

 

出目:98

結果:成功

 

毒香は、未登録香辛料の枝を見つめた。

 

葉ではない。枝でもない。棘。それも、根元に近い古い棘ではなく、先端付近のまだ色が浅い棘だ。

 

毒香は保存カプセルから枝を取り出し、指先で棘をなぞった。冷たい。肌に触れただけで、指先の熱が少し奪われる。毒だ。だが、殺すための毒ではない。熱を奪い、荒れた毒の沸騰を抑える毒。

 

毒獣の中で暴れている毒は、熱を持ちすぎている。毒煽りで膨らまされ、危険肉で濁り、腐った餌で肉を焼いている。そこへ葉を入れれば冷えすぎる。枝では遅すぎる。実は強すぎる。

 

棘だけ。

 

それも三本。

 

毒香の鼻が、そう言っている。

 

「三本」

 

毒香は繰り返した。

 

「先端の棘。葉は駄目。枝も駄目。実はもっと駄目」

 

美食屋は黙って聞いている。

 

「砕かない。刺す。毒袋の近くじゃなくて、喉の下。呼吸に乗せる。飲ませるんじゃなくて、吸わせる」

 

「理由は」

 

「飲ませたら腹が冷える。腹が冷えたら餌が固まる。毒が詰まる。たぶん死ぬ」

 

「じゃあ吸わせる理由は」

 

「毒気に混ぜる。熱だけ落とす。毒は残す」

 

美食屋の口元が、わずかに上がった。

 

「合格だ」

 

毒香は瞬きをした。

 

「合ってる?」

 

「少なくとも、俺が考えてた手順とほぼ同じだ。違うのは量だな」

 

「違う?」

 

「俺なら二本にする」

 

毒香は首を横に振った。

 

「二本だと足りない」

 

「四本だと?」

 

「死ぬ」

 

「三本なら?」

 

「不味くならない」

 

その答えに、美食屋は今度こそ笑った。

 

「いい答えだ」

 

毒香は枝から、先端付近の棘を三本だけ折った。指先が痺れる。冷たい毒が皮膚に染みる。だが、干し肉を食べた後の身体は、さっきより少しだけ毒を受け止められる。

 

美食屋は毒獣の頭を押さえ直した。

 

「やるぞ。そこの食運」

 

「私ですか!?」

 

食運の怪物が背筋を伸ばす。

 

「獣が暴れたら、そっちの板を蹴れ。倒れたら風が通る」

 

「えっ、どの板?」

 

「踏めば分かる」

 

「説明が雑!」

 

「食運なんだろ」

 

「便利道具みたいに言わないでください!」

 

それでも彼女は動いた。床に散らばった板の前に立つ。どれが正解なのか分かっている顔ではない。だが、たぶん踏めば正解になるのだろう。

 

毒香は毒獣へ近づく。

 

黄色い目がこちらを見る。怒り。飢え。苦痛。食欲。毒。全部が混ざっている。

 

怖い。美味そう。かわいそう。不味そう。

 

感情と感覚が、ぐちゃぐちゃに混ざる。

 

だが、今見るべきは一つだ。

 

呼吸。

 

毒獣が息を吐く。黒い毒気が床を這う。

 

吸う直前。

 

そこだ。

 

「今」

 

毒香は棘を三本、毒獣の喉下の毛に差し込んだ。深くはない。肉まで刺さない。皮膚の上、毒気が通る場所に、棘を置くように刺す。

 

毒獣が吠えた。

 

美食屋が鎖を引く。

 

「板!」

 

食運の怪物が叫びながら足元の板を蹴った。

 

板が倒れる。壁の裂け目から入った風が、処理場の床を低く流れた。毒気が舞い上がらず、毒獣の喉元だけを撫でる。

 

棘の冷たい毒が、その呼吸に混ざる。

 

黒い毒気の色が、少しだけ薄くなった。紫の熱が引く。毒袋の膨らみが、ほんのわずかに落ち着く。毒獣の目の焦点が、少し戻った。

 

一瞬だけ。

 

本当に一瞬だけだが、黄色い目が毒香を見た。

 

餌を見る目ではなかった。敵を見る目でもなかった。何かを確かめるような目だった。

 

毒香は小さく息を吐いた。

 

「不味くない」

 

「そこかよ」

 

美食屋が呆れたように言った。

 

だが、その声には少しだけ笑いが混じっていた。

 

【成功効果】

≪System≫

未登録香辛料の使用部位と量の見極めに成功しました。

 

結果:

未登録香辛料の枝から、毒獣に使用可能な部位を特定しました。

 

使用部位:

先端付近の若い棘

 

使用量:

三本

 

使用方法:

飲ませるのではなく、喉下に浅く刺し、毒気の呼吸に冷たい毒を混ぜる。

 

効果:

毒煽りによって熱を持ちすぎた毒を冷却。

毒袋の破裂リスクを一時的に低下。

毒獣の意識がわずかに戻る。

毒獣の肉と毒を完全に殺さず、食材としての可能性を残す。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

 

出目:4

結果:処理場の敵をどうするのか聞く*7

 

毒獣の呼吸が、少しだけ落ち着いた。

 

まだ危険だ。床を這う毒気は濃く、黄色い目には荒れた光が残っている。だが、先ほどまでのように毒袋が破れそうな気配は薄れている。

 

毒香は、未登録香辛料の枝を保存カプセルに戻した。棘は三本減った。けれど、毒獣は死ななかった。毒も死ななかった。肉も、まだ完全には壊れていない。

 

それなら、使った価値はある。

 

外から、男たちの声がした。

 

「おい! 何をしてる!」

 

「その獣は商品だぞ!」

 

「勝手に触るな!」

 

毒香は壁の裂け目の方を見る。

 

処理場の敵。危険肉を流し、毒煽りを使い、毒獣を壊していた連中。外には少なくとも二人。市場側には帳面の男もいる。倉庫にも人がいた。放っておけば、また同じことをするかもしれない。

 

毒香は美食屋を見る。

 

「外のやつら」

 

美食屋は毒獣の鎖を押さえたまま、片眉を上げた。

 

「気になるか」

 

「どうするの」

 

「お前はどうしたい」

 

毒香は少し黙った。

 

どうしたい。

 

その問いは難しい。

 

怒っているかと聞かれれば、たぶん違う。正義感で動いているわけでもない。悪人を裁きたいわけでもない。

 

ただ、嫌な匂いがする。

 

毒を誤魔化す匂い。食材を壊す匂い。食べる者を騙す匂い。

 

それは嫌だ。

 

「止める」

 

毒香は言った。

 

「殺すか?」

 

食運の怪物が息を呑む。

 

毒香は首を横に振った。

 

「殺したら、情報が消える」

 

美食屋が少し笑った。

 

「理由がそれか」

 

「帳面。流通。市場の倉庫。北の狩場。まだある」

 

「そうだな」

 

「だから、喋らせる」

 

「できるのか?」

 

毒香は黙った。できるとは言えない。交渉は得意ではない。脅しも得意ではない。毒香が得意なのは、匂いを嗅ぐことと、逃げることと、毒食材に近づいてしまうことくらいだ。

 

美食屋はそれを見て、鼻で笑った。

 

「まあ、喋らせるのは俺がやる。お前は倒れないようにしてろ」

 

「倒れない」

 

「嘘が下手だ」

 

外の男たちが、痺れを切らして壁の裂け目に近づいてくる。包丁の男と、顔に布を巻いた男。どちらも焦っている。毒獣が鎮まったことに気づいているのか、気づいていないのか、視線は散らばった香辛料と毒獣の毒袋へ向いていた。

 

商品。

 

まだそう見ている。

 

美食屋の目が冷えた。

 

「外に出るぞ」

 

「毒獣は?」

 

「今なら少し保つ。お前の棘が効いてる」

 

毒香は頷いた。

 

美食屋は毒獣の鎖を壁の鉄柱へ巻き直し、片手で締め上げた。毒獣が低く唸るが、暴れはしない。少なくとも今は。

 

そして、美食屋は壁の裂け目へ向かった。

 

包丁の男が叫ぶ。

 

「おい、てめえ! その獣に何をした!」

 

美食屋は答えない。代わりに、壁の裂け目から外へ出る。

 

次の瞬間、包丁の男の身体が宙に浮いた。

 

殴ったのではない。掴んで、持ち上げただけだ。首元を片手で掴まれた男が、足をばたつかせる。

 

「商品だと言ったな」

 

美食屋の声は低い。

 

「なら、食材の扱い方くらい知ってるんだろうな」

 

「ぐ、離せ……!」

 

「毒煽りを使ったのは誰だ」

 

男の顔色が変わる。

 

毒香は外へ出た。食運の怪物が隣に寄ってくる。外の空気はまだましだった。毒気は漏れているが、処理場の中よりは薄い。

 

顔に布を巻いた男が後ずさる。

 

「俺じゃない! 混ぜ物は上から来たんだ!」

 

「上?」

 

毒香が聞く。

 

男は毒香を見る。先ほどまで取るに足らない侵入者だと思っていた目が、今は少し違っている。美食屋と話し、毒獣を鎮め、未登録香辛料を使った相手。ただの侵入者ではないと、ようやく理解したらしい。

 

「市場の連中だ! 帳面の男が持ってくる! 俺たちは食わせろって言われただけだ!」

 

「帳面の男の名前」

 

毒香が言う。

 

男は口を閉じた。

 

美食屋が、包丁の男を少しだけ持ち上げる。

 

「名前」

 

顔に布を巻いた男が震えた。

 

「ロッジだ! 帳面持ちのロッジ! 市場の裏肉をまとめてる!」

 

毒香はその名前を覚えた。

 

ロッジ。

 

帳面の男。

 

危険肉の流通、毒煽り、北の狩場、処理場。少なくとも、その一部に関わっている。

 

「他は」

 

美食屋が聞く。

 

「知らない! 本当に知らない! 俺たちはここで餌をやって、毒袋を取れって言われただけだ!」

 

「嘘」

 

毒香が言った。

 

顔に布を巻いた男の肩が跳ねる。

 

「匂いが違う」

 

「な、何が」

 

「市場の倉庫と同じ匂いがする。何度も行ってる」

 

男は黙った。

 

美食屋が笑う。

 

「便利な鼻だな」

 

「うん」

 

「褒めてねえ」

 

「たぶん褒めてる」

 

食運の怪物が小さく言った。

 

緊張感のない声だったが、そのおかげで毒香の呼吸は少しだけ楽になった。

 

【情報取得】

≪System≫

処理場の敵への対応方針を確認しました。

 

方針:

殺さずに情報を吐かせる。

 

判明情報:

帳面の男の名前は「ロッジ」。

ロッジは市場の裏肉をまとめている人物。

毒煽りはロッジ側から処理場へ持ち込まれています。

処理場の男たちは、毒獣に毒煽りを混ぜた危険肉や死肉を食わせ、毒袋を取る役割を担っていました。

顔に布を巻いた男は市場の隠し燻製倉庫にも何度か出入りしています。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

 

出目:3

結果:毒煽りの入手元を聞く*8

 

毒香は、床にこぼれた紫色の粉を見た。

 

毒煽り。

 

毒持ちの獣に食わせ、毒袋を無理やり膨らませる混ぜ物。肉を殺し、血を荒らし、内臓を壊し、それでも毒だけは増やすもの。

 

危険肉よりも、隠し倉庫よりも、ロッジよりも、今はそれが気になった。

 

毒香は顔に布を巻いた男を見る。

 

「これ、どこから」

 

男は目を泳がせた。

 

「知らない」

 

「嘘」

 

毒香は即答した。

 

男の肩が跳ねる。

 

毒香には、男の言葉の正しさは分からない。だが、匂いは分かる。恐怖で汗が変わる匂い。隠そうとした時に呼吸が浅くなる匂い。毒煽りの袋に触れた手の匂い。

 

この男は、毒煽りの袋を運んだことがある。少なくとも、一度は。

 

美食屋が横から低く言う。

 

「次に嘘をついたら、その粉を舌に乗せるぞ」

 

男の顔色が白くなった。

 

「や、やめろ! あれは食うもんじゃない!」

 

「獣には食わせたんだろ」

 

「俺が決めたんじゃない!」

 

「なら、決めた奴を言え」

 

男は黙った。

 

包丁の男が地面に膝をついたまま、歯を食いしばっている。顔に布を巻いた男は、何度も視線を外へ向ける。逃げ道を探しているのではない。誰かに聞かれるのを恐れているような動きだった。

 

毒香は鼻を鳴らした。

 

外の森。荷車の裏道。市場の隠し燻製倉庫。それとは別の匂いが、男の服に薄く残っている。

 

薬品。乾いた鉱石。古い革袋。そして、薬草ではない苦い粉。

 

「市場じゃない」

 

毒香が言った。

 

男が固まる。

 

「狩場でもない。倉庫でもない。薬の匂い」

 

美食屋が目を細める。

 

「薬屋か」

 

男は観念したように息を吐いた。

 

「……南の薬問屋だ」

 

食運の怪物が首を傾げる。

 

「薬問屋?」

 

「表向きはな。薬草、解毒剤、防腐粉、猛獣除け。そういうのを扱ってる店だ。市場の外れにある」

 

毒香は聞いていた。南の薬問屋。市場の外れ。薬草と解毒剤と防腐粉。その中に、毒煽りが紛れている。

 

「店の名前」

 

毒香が聞く。

 

男はしばらく口を閉じた。

 

美食屋が紫の粉を指先で少しだけすくう。

 

男が慌てて叫んだ。

 

「グラッジ薬材庫! グラッジだ!」

 

「ロッジとは別?」

 

食運の怪物が聞く。

 

「別だ! ロッジは肉を流す。グラッジは混ぜ物を流す。俺たちは受け取って食わせるだけだ!」

 

「グラッジ」

 

毒香はその名を繰り返した。

 

ロッジ。グラッジ。似ている。偶然か、関係者かは分からない。だが、肉と薬が分かれているなら、流通は思ったより広い。

 

危険肉を流す者。毒煽りを流す者。毒獣を壊して商品にする者。そして、それを香辛料で誤魔化す者。

 

美食屋は低く舌打ちした。

 

「薬屋まで噛んでるなら、こりゃ面倒だな」

 

「潰す?」

 

毒香が聞く。

 

「順番がある。まずはこの獣だ。次に証拠。そんでロッジとグラッジを辿る」

 

「名前、似てる」

 

「兄弟か、偽名か、ただの悪趣味か。どれでも面倒だ」

 

【情報取得】

≪System≫

毒煽りの入手元を聞き出しました。

 

判明情報:

毒煽りは、市場外れの薬問屋「グラッジ薬材庫」から流れています。

ロッジは危険肉の流通担当。

グラッジは毒煽りなどの混ぜ物を流している可能性があります。

処理場の男たちは、ロッジ側から肉を受け取り、グラッジ由来の毒煽りを混ぜて毒獣に食わせていました。

 

新規人物/勢力:

ロッジ:

市場の裏肉をまとめる帳面の男。

 

グラッジ:

市場外れの薬問屋。

毒煽りの流通元。

薬草、解毒剤、防腐粉、猛獣除けを表向きに扱っている。

 

【行動選択】

≪System≫

次の行動を決定します。

 

出目:1

結果:毒獣の処理を優先する*9

 

毒香は、毒煽りの粉から視線を外した。

 

証拠は欲しい。グラッジ薬材庫の場所も知りたい。ロッジとの関係も聞くべきだ。帳簿や記録も、どこかに残っているかもしれない。

 

だが、今はそれより先に、処理しなければならないものがある。

 

毒獣だ。

 

未登録香辛料の棘で、毒袋の破裂は一時的に抑えた。だが、それは本当に一時的なものに過ぎない。熱が引いただけで、毒はまだ荒れている。腹の中には腐った餌と毒煽りが残っている。呼吸は浅く、肉はまだ壊れかけている。

 

このまま放置すれば、また暴れる。最悪、毒袋が破れる。

 

毒香は美食屋を見る。

 

「先に、あれ」

 

美食屋は頷いた。

 

「分かってる。情報は後だ。こいつが破裂したら、帳簿も薬屋もまとめて毒の煙だ」

 

食運の怪物が顔を引きつらせる。

 

「さらっと怖いこと言いますね」

 

「怖い場所にいるんだから当然だ」

 

「正論が痛い」

 

美食屋は毒獣の鎖を引き、首の角度を変えた。毒獣が低く唸る。黄色い目はまだ揺れているが、先ほどよりは焦点が合っている。

 

毒香は鼻で状態を追う。

 

喉元の冷えは効いている。未登録香辛料の棘三本が、毒気に混ざって熱を落としている。だが、腹の奥はまだ濁っている。危険肉。腐敗。毒煽り。香辛料の誤魔化し。全部が胃の中で固まり、毒獣の体内を焼いている。

 

「吐かせる」

 

毒香が言った。

 

「正解だ」

 

美食屋が短く返す。

 

「どうやって?」

 

「喉は冷やした。次は腹を動かす。毒を外に逃がすには、吐かせるのが早い」

 

食運の怪物が一歩下がる。

 

「それ、すごく見たくないやつでは?」

 

「見るな。臭いぞ」

 

「臭いで済むんですか?」

 

「済まねえな」

 

毒香は保存カプセルを開き、未登録香辛料の枝をもう一度見る。棘は三本使った。残りはある。だが、同じ使い方をすれば冷えすぎる。次は別の部位が必要だ。

 

葉は強すぎる。枝は遅い。実は危険。

 

なら、使うのは樹皮に近い薄い外皮。

 

毒香は枝の表面を爪で軽く削った。ほんの少しだけ、赤黒い皮が剥がれる。匂いは棘より弱い。冷えはあるが、直接毒を止めるのではなく、胃の中で固まった濁りを緩める匂いだ。

 

「皮を少し」

 

「量は」

 

美食屋が聞く。

 

毒香は毒獣の腹を見る。呼吸。毒袋の膨らみ。胃の奥の腐敗臭。毒煽りの紫。

 

「爪半分」

 

「少ないな」

 

「多いと腹が止まる」

 

「なら、それでいく」

 

美食屋は毒獣の口をこじ開ける。毒香なら近づくだけで噛まれる位置だ。だが、美食屋は平然としている。毒獣が牙を剥いても、その顎を片手で押さえ込む。

 

毒香は削った外皮を渡した。

 

美食屋はそれを、干し肉の欠片に包む。

 

「そのまま入れないの?」

 

毒香が聞く。

 

「この状態で冷たい毒だけ入れたら拒む。肉に包んで、食い物として通す」

 

「なるほど」

 

「覚えとけ」

 

食運の怪物が横から覗き込む。

 

「私、何すればいいですか?」

 

「お前は、あっちの水桶を持ってこい」

 

美食屋が言った。

 

「水桶?」

 

「吐かせた後に口を洗う。中身を見るな。転ぶな。こぼすな」

 

「最後が一番難しい気がします!」

 

「食運で何とかしろ」

 

「やっぱり便利道具扱いされてる!」

 

そう言いながらも、食運の怪物は水桶へ向かった。途中に破片が散っている。毒気も薄く漂っている。だが、彼女が歩くと、不思議と足場が開く。倒れかけていた木箱がちょうど壁に引っかかり、毒気が風に流れ、水桶の取っ手だけが掴みやすい角度を向いた。

 

美食屋はそれを横目で見て、少しだけ笑った。

 

「本当に便利だな」

 

「聞こえてますよ!」

 

毒香は毒獣を見る。

 

処理が始まる。

 

美食屋が主導する。毒香は匂いを見て量とタイミングを判断する。食運の怪物は、場の流れをなぜか良い方へ曲げる。

 

それでも危険は大きい。

 

毒獣の毒は荒れている。毒煽りはまだ残っている。吐かせ方を誤れば、毒気が一気に噴き出す。処理場の男たちも、完全に無力化されたわけではない。

 

だが、やるしかない。

 

この毒獣を食材として壊さずに済ませるには、今しかない。

 

【判定】

≪System≫

毒獣の荒れた毒を落ち着かせ、体内の危険肉と毒煽りを吐かせる処理を行います。

 

難度:65

判定項目:感覚

基礎値:88

補正:毒・香辛料・危険肉への一時補正+5

補正:未登録香辛料の棘処理成功+15

補正:救命美食屋が主処理を担当+20

補正:食運の怪物が環境補助+15

補正:毒獣の状態が悪い−20

補正:毒気環境−5

最終値:118

 

判定方式:

1D118を振り、出目が難度65以上なら成功。

難度の2倍、130以上なら大成功。

難度の5分の1、13以下なら大失敗。

 

出目:92

結果:成功

 

美食屋が、干し肉に包んだ未登録香辛料の外皮を毒獣の口へ押し込んだ。

 

毒獣は噛もうとする。牙が閉じる。だが、美食屋の腕は動かない。顎を押さえ、喉の角度を変え、飲み込ませるのではなく、口の奥で香りだけを通す。

 

「飲ませるな」

 

毒香が言った。

 

「分かってる」

 

美食屋は短く返す。

 

毒獣の鼻から、黒い毒気が漏れた。先ほどより濃い。未登録香辛料の外皮が、腹の奥の濁りを動かしている。毒獣の胃に残った危険肉、腐った餌、毒煽り。それらが、ゆっくりと浮いてくる。

 

食運の怪物が水桶を抱えて立っていた。

 

「こ、これ、どこに置けばいいですか?」

 

「右だ」

 

美食屋が言う。

 

「右って、私から見て?」

 

「獣から見てだ」

 

「分かりにくい!」

 

「そこ」

 

毒香が指差した。

 

食運の怪物は水桶を置く。足元の板がぎしりと鳴る。普通ならそこで桶が傾くところだった。だが、倒れた木片がちょうど支えになり、水桶は安定した。

 

また偶然。だが、今はありがたい。

 

毒獣の腹が鳴った。

 

鳴った、というより、捻れた。内側で何かが動き、喉元までせり上がってくる。毒香は鼻を押さえなかった。押さえれば匂いが分からなくなる。

 

腐敗。毒煽り。危険肉。香辛料の誤魔化し。そして、まだ死んでいない肉の匂い。

 

「来る」

 

毒香が言った。

 

「下がれ」

 

美食屋の声と同時に、毒獣が吐いた。

 

黒と紫が混ざった液体が床へ落ちる。肉片。骨片。香辛料の塊。紫の粉。未消化の死肉。それらが、処理場の床に広がった瞬間、煙を上げる。

 

食運の怪物が顔を背ける。

 

「うっ、これは無理……!」

 

「見るな」

 

毒香は言った。

 

「毒香は見てるじゃん!」

 

「見ないと分からない」

 

「強い……」

 

強くはない。

 

気持ち悪いとは思っている。喉も痛い。鼻の奥も焼ける。だが、それ以上に分かることがあった。

 

吐き出されたものの中に、処理場の危険肉と同じ匂いがある。市場の隠し燻製倉庫の煙もある。毒煽りもある。つまり、流通と処理は完全に繋がっている。

 

そして、吐き出した後の毒獣の匂いが、少し変わった。

 

濁りが抜けた。

 

まだ毒は荒れている。肉も傷んでいる。だが、先ほどまでの腐った熱は薄くなっている。

 

「水」

 

毒香が言った。

 

食運の怪物が桶を押す。美食屋が毒獣の口元へ水を運ぶ。毒獣は最初、噛みつこうとした。だが、水の匂いを嗅ぐと、低く唸りながら舌を伸ばした。

 

飲む。

 

ゆっくりと。

 

毒気が少しだけ落ちる。処理場の空気が、わずかに軽くなった。

 

美食屋は毒獣の首から手を離さないまま、毒香を見た。

 

「よく見た」

 

毒香は頷いた。

 

「まだ不味い」

 

「だろうな」

 

「でも、死んではない」

 

「そうだ。ここからだ」

 

美食屋は毒獣の喉下に刺した棘を見る。三本の棘は、黒ずんでいた。毒の熱を吸ったのだろう。役目は終わりかけている。

 

「棘は後で抜く。今抜くとまた熱が戻る」

 

毒香は頷く。

 

「休ませる?」

 

「ああ。水を飲ませて、毒を落ち着かせて、半日休ませる。肉に火を入れるのは、その後だ」

 

食運の怪物が恐る恐る尋ねる。

 

「つまり、助かったんですか?」

 

美食屋は毒獣を見る。

 

「助かったとは言わねえ」

 

毒香も毒獣を見る。

 

黄色い目はまだ荒れている。だが、先ほどより焦点が戻っている。餌を求めるだけの目ではない。敵を噛むだけの目でもない。

 

「食材として、まだ間に合う」

 

美食屋は言った。

 

毒香は、その言い方を嫌だとは思わなかった。

 

【成功効果】

≪System≫

毒獣の処理に成功しました。

 

結果:

毒獣の体内に残っていた危険肉、腐った餌、毒煽りを吐かせることに成功しました。

毒袋の即時破裂リスクは大きく低下しました。

毒獣は暴走状態から一時鎮静状態へ移行しました。

 

状態更新:

毒獣:一時鎮静

毒獣:毒袋破裂リスク低下

毒獣:体内の毒煽りを一部排出

毒獣:食材としての可能性が残る

毒香:処理補助成功

食運の怪物:水桶補助成功

救命美食屋:主処理成功

 

入手情報:

毒獣に食わせられていた危険肉は、市場の隠し燻製倉庫のものと一致します。

毒獣の体内から毒煽りが確認されました。

処理場、隠し燻製倉庫、ロッジ、グラッジ薬材庫の繋がりがより強まりました。

 

残課題:

毒獣は完全回復していません。

半日以上の休息と追加処理が必要です。

処理場の敵、ロッジ、グラッジ薬材庫への対応が残っています。

証拠の確保も未完了です。

 

第5話へ続く。

*1

1:声の主に「毒香」と名乗る

2:保存カプセルを見せて事情を説明する

3:香辛料について尋ねる

4:毒獣について尋ねる

5:まず外の食運の怪物を呼ぶ

6:毒気に耐えきれず倒れる

*2

1:干し肉を食べる

2:先に足首の鎖を外してほしいと頼む

3:食運の怪物を中に呼ぶ

4:毒獣について尋ねる

5:香辛料について尋ねる

6:干し肉を保存カプセルに入れる

*3

1:干し肉を食べる

2:足首の鎖を外してもらう

3:食運の怪物を中に呼ぶ

4:香辛料について尋ねる

5:処理場の連中をどうするのか聞く

6:毒気に耐えきれず倒れる

*4

1:今度こそ干し肉を食べる

2:食運の怪物を中に呼ぶ

3:香辛料について尋ねる

4:処理場の連中をどうするのか聞く

5:毒獣をどうするのか聞く

6:保存カプセルを開けて香辛料を採取する

*5

1:未登録香辛料の枝を使えるか美食屋に見せる

2:食運の怪物を中に呼ぶ

3:毒獣の処理を手伝う

4:処理場の連中を追い払う

5:香辛料の保管袋を調べる

6:いったん外へ出て体勢を立て直す

*6

1:未登録香辛料の枝を使えるか試す

2:毒煽りを保存カプセルに回収する

3:敵に毒煽りを止めさせる

4:毒獣の毒を外へ逃がす手伝いをする

5:香辛料の保管袋を改めて調べる

6:食運の怪物にもう一度材料探しをさせる

*7

1:毒獣の処理を手伝う

2:美食屋に未登録香辛料の正体を聞く

3:食運の怪物と一度外へ出る

4:処理場の敵をどうするのか聞く

5:毒獣の肉が食べられるか聞く

6:グルメ細胞の反応について聞く

*8

1:ロッジの居場所を聞き出す

2:隠し燻製倉庫との連絡方法を聞く

3:毒煽りの入手元を聞く

4:毒獣の処理を優先する

5:処理場の証拠を保存カプセルに採取する

6:食運の怪物にロッジの行き先を直感で選ばせる

*9

1:毒獣の処理を優先する

2:毒煽りを証拠として慎重に採取する

3:グラッジ薬材庫の場所を詳しく聞く

4:ロッジとグラッジの関係を聞く

5:処理場に残る帳簿や記録を探す

6:食運の怪物に次に追うべき相手を直感で選ばせる





【今回の主な出来事】

・毒香が「毒香」「V-79」と名乗る
・救命美食屋との再会がほぼ確定
・毒獣が危険肉や死肉を食わされていたことが判明
・毒香の足首の鎖が解除される
・干し肉を食べ、毒気に耐える
・毒香のグルメ細胞が微反応
・食運の怪物が処理場内部に合流
・毒煽りを発見
・未登録香辛料の棘三本で毒獣の毒を冷却
・毒獣の体内から危険肉と毒煽りを吐かせることに成功
・毒獣が一時鎮静

【現在の毒香】

軽度毒気吸引中。
行動可能。
保存カプセル回収済み。
足首の鎖解除済み。
グルメ細胞が微反応。
毒・香辛料・危険肉への感覚判定に一時補正あり。

【所持品】

保存カプセル
未登録香辛料の枝
※先端付近の若い棘を三本消費

【判明した敵・勢力】

ロッジ:
市場の裏肉をまとめる帳面の男。

グラッジ薬材庫:
市場外れの薬問屋。
毒煽りの流通元。

処理場の男たち:
危険肉と毒煽りを毒獣に食わせ、毒袋や肉を商品化しようとしていた。

【毒煽り】

毒持ちの獣に食わせることで、毒袋を無理やり膨らませる混ぜ物。
肉、血、内臓を荒らし、毒だけを増やす。
過剰に使うと毒袋が破裂する危険がある。

【毒獣の現在】

一時鎮静。
毒袋破裂リスク低下。
体内の毒煽りを一部排出。
食材としての可能性は残ったが、完全回復には半日以上の休息と追加処理が必要。
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