病院で診察を受けた後、三人はベストジーニストの事務所へ戻っていた。
爆豪は応接用のソファに腰掛け、両掌へ冷却材を当てた上から包帯を巻いている。
診断は軽度の熱傷と個性の過剰使用による炎症、それに背中と腰の軽い打撲で、しばらく個性の使用を控えれば大きな問題はないというものだった。
その向かいではホークスがソファへ浅く腰掛け、少し離れた場所にベストジーニストが立っている。
「で」
沈黙を破ったのはホークスだった。
「結局、あのチャイムが二回鳴ったのは、爆豪くんの仕込みだったわけだ」
包帯の端を押さえていた爆豪が顔を上げる。
「……ウス」
「一応、最初から聞かせてもらっていい?」
「何をっスか」
「全部ですよ。今日試験やるってどこで気付いたのかも、あのチャイムも」
爆豪は包帯を留め終えると、少しだけ座り直した。
「……仮免の話決まってから、自治体のサイト毎日見てたんスよ」
「自治体の?」
「ヒーローが街でデカく動くなら、訓練でも申請いるって教わったんで」
ホークスがベストジーニストへ視線を向ける。
「そこまで教えたんですか」
「ヒーロー関連法案に関する資料は一通り渡している。読んで使ったのは爆豪だ」
「なるほど。それで今日何かあるって読んだわけか」
そこまでは理解したようだったが、ホークスはすぐに別の疑問へ移った。
「でも、そこからどうやったらチャイムを五分早く鳴らす話になるんです?」
爆豪が答えるより先に、ベストジーニストが応接机の脇へ手を伸ばした。
そこには透明なファイルへまとめられた書類が置かれている。
「見た方が早い」
差し出されたファイルを、ホークスは怪訝そうに受け取った。
「何です、これ」
「今回の試験に際して提出した申請書類だ」
最初の一枚には自治体名と公印、申請者としてベストジーニスト事務所の名称が記され、その下に試験日時と設備点検に関する項目が並んでいた。
読み進めていたホークスの目が、一箇所で止まる。
「……防災行政無線、試験放送?」
実施時刻は十六時五十五分。
使用音源には通常十七時に流される夕方のチャイムと同一のものが指定され、備考欄には十七時の通常放送には変更を加えず、事前の設備点検として一度だけ同じ音源を使用することが明記されていた。
「本当に正式申請してたんだ……」
「当然だ」
「いや、そこを疑ってたわけじゃないんですけど」
ベストジーニストは次の書類を示した。
「続きがある」
二枚目は自治体管理設備の一時使用に関する申請書だった。
「……広場時計?」
市街地の広場に設置された公共時計について、点検時間中のみ表示時刻を数分進める許可が下りている。
「これ、俺が途中で見てたら」
「実際より早い時刻を認識していた可能性はある」
ホークスが思わず書類を見直す横で、爆豪は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「結局見なかったけどな」
「いや、普通そこまでやると思わないでしょう」
「テメェを捕まえる試験だろ。使えるもんは使う」
ホークスは何とも言えない顔のまま、さらにページをめくった。
そこから先には商業施設の館内時計や公共施設の時刻表示、広場のデジタル案内板、一部店舗への協力依頼などがまとめられていた。
いずれも試験時間中に限って表示を数分進め、業務や利用者への影響が出ない施設だけが参加するという条件が付され、必要に応じて点検中であることを明示するよう定められている。
一つ一つに担当部署の確認印まで押されていた。
さらに後ろには協力店舗と公共施設の一覧があり、その一部には、時刻を尋ねられた場合は施設内表示に従って答えるという協力内容まで記録されている。
そこまで読んだところで、ホークスは一度ファイルを机へ置いた。
「ちょっと待ってください」
「どうした」
「これ、チャイムだけじゃないじゃないですか。街の時計まで触って、市民にも協力頼んでる」
「全て法的に問題のない範囲で正式に申請し、受理されたものだ」
ホークスは改めて書類へ目を落とした。
どれもその場の思いつきで頼んだ形跡はなく、対象設備、実施時刻、責任者、緊急時の中止条件、住民への影響まで細かく記載されている。
その申請者欄のほとんどには、ベストジーニスト事務所の名があった。
「……これ、全部ジーニストさんが出したことになってますね」
「形式上はな」
ベストジーニストが爆豪を見る。
「内容を考えたのは爆豪だ。未成年であり、ヒーロー資格も持たない彼個人では受理されにくいものが多かったので、事務所責任者である私が申請者になった」
当の爆豪は包帯の巻かれた両手を膝に置き、少し居心地悪そうに顔を逸らしていた。
「……まあ、ほとんど空振りに終わったし、賭けな部分も多かったけどな」
「賭け?」
「テ何見るかも、どこ通るかも、試験内容も分かってなかったんだ。全部刺さるわけねえだろ……じゃないすか」
「それはまあ、そうですけど」
ホークスはそう答えながら次のページへ進み、そこでまた手を止めた。
今度の書類には、市内防犯設備の限定閲覧申請とある。
「……監視カメラまで」
利用目的は特別訓練中の対象探索及び安全確認。
閲覧可能な区域と時間、担当者は限定され、映像の保存や目的外利用は禁止されている。
自治体だけでなく、関係部署の承認印まで揃っていた。
「これも通ってるんです?」
「ああ。指定区域内かつ試験時間中に限るという条件付きだがな」
「何に使うつもりだったんです?」
爆豪が面倒そうに答えた。
「試験で『何か探せ』とか言われた時用っスね」
「何か?」
「人でも物でも。場所分かんねえもん探せって言われたら、街中走り回るよりカメラ見た方が早えじゃないスか」
ホークスの表情が変わった。
「……試験内容、そこまで広く想定してたの?」
「分かんなかったからな。テメェ捕まえろって内容だと思って準備してたわけじゃねんで」
ファイルにはまだ続きがあった。
公共施設の利用許可、市内地図と監視上の死角、立入可能区域と禁止区域の区分、交通規制が必要になった場合の連絡先、緊急時の避難経路。
公園や地下道、商業施設、広場など、それぞれの場所で何ができて何ができないのかまで整理されている。
申請不可、安全上の理由で不許可、個人情報保護上認められず、準備期間不足で実施できないといった却下案についても、理由と代替策が残されていた。
ホークスはページを追うにつれて口数を減らした。
「……これ、仮免の勉強しながらやったんですか?」
「仕事もしてたぞ」
ベストジーニストが補足する。
ホークスがゆっくり爆豪を見る。
「いつ寝てたの?」
「寝てるわ」
「いや、これ見る限り怪しいんだけど」
爆豪が露骨に顔をしかめる。
ベストジーニストは机に広がった資料を見下ろした。
「試験内容を知らされていない以上、爆豪は特定の課題へ対策することができなかった。だからこそ、何を要求されても最低限対応できるよう準備を広げた。追跡なら街路と交通、探索なら監視設備、時間制限なら時計や放送、救助なら医療機関と避難経路、個性の使用が必要になった場合に備えて合法的に使える区域も確認している」
「だって実際ほとんど使ってねえだろ。カメラも見てねえし、広場の時計も市民の協力も空振り。最後に引っ掛かったのチャイムだけじゃねえか」
「結果論だ。準備とは、必要になった時に使える状態へしておくことに意味がある」
爆豪はそれ以上反論しなかった。
今日実際に役立った策は一部に過ぎないが、何が課されるか分からない状況で可能性を広く想定したからこそ、最後に一つがホークスの判断を狂わせた。
ホークスはしばらく机上の書類を眺めた後、最後の一枚をファイルへ戻した。
自分が事前に想定していた爆豪勝己と、そこから読み取れる人物像にはかなりの隔たりがある。
爆豪はそんなホークスの様子を横目で見てから、包帯の巻かれた右手を上げた。
「……で」
「ん?」
「これで問題ないっスよね。公安イインチョー」
自由に動かせない指の代わりに手首から先を軽く上下させ、何かを寄越せと催促する。
ホークスはそこで意図を理解したように手を打った。
「ああ、それね」
「テメェ……!」
「冗談冗談。もちろん合格さ」
あまりにもあっさり言われ、爆豪の表情が僅かに止まった。
「試験条件は達成してる。十七時になる前に俺の判断を誤らせて接近させ、実際に接触まで成立してる。戦闘能力も十分だし、反省点はあっても法令を守って行動できることは確認できた。筆記相当の知識についても、事前の結果と今日の準備を見れば問題ないでしょう」
「……ウス」
短い返事とともに、張っていた肩から僅かに力が抜けた。
「ただし」
ホークスが続けると、爆豪は露骨に嫌そうな顔をする。
「まだあんのかよ」
「むしろここからが面倒ですよ。この前ジーニストさんが言ってたように、今回の試験そのものがかなり無理を通してる。通常日程でも一般の受験会場でもなく、公安側の特例で受験資格と審査手続きを組んでますから」
「そこについては事前に確認した通りだ」
ベストジーニストも口を挟んだ。
「合格基準を下げることは認めていないが、手続きそのものは通常と異なる」
「そういうことです。だから合格したからって、明日から普通に仮免許証を持って補習組と同じ扱いになるわけじゃない」
「……なんでだよ」
「任務の特性上、堂々と渡せないから」
爆豪の目つきが鋭くなった。
「君がこれから候補に入る任務では、『UAを辞め、資格も持たず、ヒーロー社会から外れかけている爆豪勝己』って経歴そのものに価値がある。そこで突然、公的な仮免許証を持って表のヒーロー活動を始めたら、その経歴が崩れるでしょう」
「じゃあ、取ったのに使えねえってことか」
「そういう意味じゃないです。資格自体は有効。ただし当面は公安側で情報を制限します。必要な任務や訓練では資格保持者として扱えるし、警察や関係機関から正式な照会があれば認定も確認できる。その一方で、一般向けには持っていることを積極的に出さない」
「……めんどくせえ」
「でしょう?」
「テメェがややこしくしてんだろうが」
「まあ、それはそう」
あっさり認めるホークスへ舌打ちし、爆豪はベストジーニストの方を見た。
「爆豪。不満は理解するが、これは最初に私が条件として提示した内容にも関わる。潜入任務へ参加するのであれば、資格を得ることと、その資格をどう扱うかは別問題だ」
「……分かってるっス」
「ならばいい」
ベストジーニストがそう締めると、応接室に短い沈黙が落ちた。
机の上には先ほどまで使っていた書類が広がったままで、爆豪は包帯の巻かれた両手を膝に置き、ホークスも資料へ何となく目を落としていた。
「さて、じゃあ本題だね」
ホークスがふと首を傾けた。
何かに耳を澄ませるように顔を僅かに横へ向けるが、少なくとも爆豪には何も聞こえない。
「何だよ」
「いや」
ホークスは一度だけ目を細めると、何事もなかったように姿勢を戻した。
「爆豪くん」
「あァ?」
「異能解放軍って知ってるかな?」
突然出てきた名前に、爆豪は眉を寄せた。
「……異能解放軍?」
「うん」
記憶を辿るように少し考え、答える。
「現代史の範囲なら知ってるっス。異能がまだ今ほど管理されてなかった頃に、個人が自由に異能使えるようにしろって活動してた連中だろ。あと最近、本が再販だか再編だかされて売れてるってくらいなら」
「そこまで知ってるんだ」
「ニュースで見た程度っスよ。昔の思想家の本が今になってまた売れてるとか何とか」
「学校で習う異能解放軍は、デストロを中心に国家による異能規制へ反発し、最終的には警察やヒーロー側との衝突を経て壊滅した昔の組織です。だから普通は、今さら気にする名前じゃない」
ホークスはそこで少し間を置いた。
「でも、異能解放軍は今も存在しています」
「……は?」
爆豪の眉が動く。
「リ・デストロっていう新たな指導者を据えて、地下組織として活動を続けてる。思想も組織の系譜も、昔の異能解放軍を引き継いでいます」
爆豪はすぐには返事をしなかった。
教科書の中では、超常黎明期の混乱の中で台頭し、現在の制度が成立していく過程で壊滅した過去の存在として扱われていた。
それが今も名前と思想を継いで残っていると言われても、すぐには実感が湧かない。
「……マジで言ってんのか」
「マジです。しかも、公安の推定では規模も小さくない。超常黎明期の異能解放軍にも匹敵します」
「AFOといい……」
爆豪は今度こそ露骨に顔をしかめた。
「そんなデカい組織が、今までバレずに?」
「公安はかなり前から存在を掴んでるし、資金や関連団体も追ってます。ただ、表向きは企業や市民団体、思想団体に分散して、社会の中に溶け込む形で活動してるから、一つの組織として見えにくい」
爆豪はベストジーニストを見る。
「……知ってたんスか」
「ああ。ホークスから事前に共有されている」
「俺だけ知らなかったってことかよ」
「君は今日まで正式な候補者ですらなかった。必要のない機密を事前に渡す理由はない」
「……それは分かってるっスけど」
納得はしても、気分が良いわけではないらしい。
「異能解放軍が厄介なのは、昔の思想を叫んでるだけの集団じゃないってことです。長い時間をかけて社会に根を張って、普通の企業や地域組織、一般市民の中に人員を抱えてる」
ホークスはそこで爆豪を真っ直ぐ見た。
「君には、異能解放軍の方へ潜入してもらいます」
「……敵連合は?」
「最近、敵連合と接触したことも確認されてる。そこで君の経歴が活きてくるんですよ。雄英に入って、その後自分から辞めた。公には仮免も持っていないし、それでも戦闘力は高い。向こうから見れば、ヒーロー社会から外れた元エリート高校生っていう、分かりやすいブランドになる」
「……ブランドって言い方ムカつくな」
「でも使えるでしょう?」
爆豪は眉間に皺を寄せた。
「じゃあ、敵連合に潜入させてくれるんじゃないんスか」
「いやいや」
「何だよ」
「緑谷出久と君、幼馴染でしょ」
「……だから?」
「だからですよ。敵連合へ直接入れるには関係が近すぎる。向こうからすれば利用材料にもなるけど、同時に警戒する理由にもなる」
ホークスはそこで軽く手を振った。
「それに、敵連合にはもう別の人間が潜入してます。そっちはそっちで動いてるから大丈夫」
爆豪は少し考え込み、包帯の巻かれた手を膝の上で動かした。
「……でも、俺とデクが会っちゃまずいなら、敵連合と接触してる解放軍にスパイってのも厳しくないっスか。向こうと繋がってんなら、いつか俺のことも敵連合まで話が通るだろ」
ホークスはその懸念を聞いても困った様子は見せなかった。
「そこまで心配する必要はないっすよ。君に接触してもらうのは、中枢っちゃあ中枢なんだけど、敵連合にはまだまだ届かないところだから」
そう言いながら、足元の鞄から別のファイルを取り出し、机の上を滑らせるように爆豪の前へ置いた。
「まずはここからです」
表紙に記された企業名を見て、爆豪は眉を寄せた。
「……デトネラット?」
「知ってる?」
「知ってるも何も、普通に有名だろ」
デトネラット社は、個性に対応した衣服や家庭用安全設備、身体的特徴を補助する日用品などを幅広く扱う大手ライフサポート企業だった。
爆豪自身も当然知っており、テレビCMや街中の広告でその名を見ない日はない。
ホークスは爆豪が開いたファイルを指先で軽く叩いた。
「君には、ここへ潜入してもらいます」
「デトネラットに? 中卒が相手されねえんじゃねえスか」
「就活しろって言うんじゃないよ。最近、ヴィラン相手にサポートアイテムを流してる疑いがあるんですよ」
「サポートアイテム?」
「名目上はね。実際には、兵器と呼んだ方が近いものも混じってる」
爆豪の目つきが鋭くなった。
ファイルには通常の商品資料とは別に、公安が整理した製品写真と流通記録が収められている。
高出力の個性補助装置や特殊環境用の装備として申請された製品の中には、一般消費者向けとは言い難い出力を持つものがあり、その一部については正規の販売経路を外れてヴィラン側へ渡った形跡まで確認されていた。
「個性の補助用品ってことにしとけば、多少ヤバいもんでも通せるってことか」
「そこまで単純じゃないですけど、抜け道として利用されてる可能性はあります。問題は会社ぐるみなのか、一部の人間による横流しなのか、それとも解放軍の活動として意図的に流しているのかが、まだ分かってないことです」
「で、それを俺が調べる……」
「そういうこと」
爆豪は返事をせず、資料をめくった。
製造番号と出荷記録を照合した一覧には、関連会社を経由した後に行方の追えなくなった製品、紛失処理された在庫、正規の販売履歴には存在しない装備などがまとめられていた。
一件ずつなら事務上のミスや社員個人の不正で説明できるが、それが複数の部署や関連企業を跨いで発生している以上、組織的な流通を疑う根拠にはなる。
「……なるほどな」
爆豪は資料から目を上げた。
「これなら、すぐデクに繋がるような任務じゃねえってのは分かったっス」
「でしょ? 最初に調べてもらうのはデトネラット内部です。敵連合へ近づくのは、その先の話になります」
ホークスはそう言ってから、資料の中ほどに挟まれていた関係図を開いた。
「ただ、この任務が敵連合と無関係なわけじゃありません。解放軍と敵連合の接触が確認されている以上、人間なり物資なり情報なり、何かしらの流れは存在しているはずです」
「デトネラットから辿って、それを見つけるってことか」
「最終的にはね。まず違法な装備流通の証拠を固めて、そこから解放軍の人員や資金、連絡経路を洗う。組織全体を一斉に検挙できるところまで持っていければ、その過程で敵連合との接点も押さえられる可能性が高い」
爆豪は関係図を睨んだ。
自分が望んでいたのは緑谷のいる敵連合へ直接入り込むことだったが、実際に提示された任務は、大企業の内部から異能解放軍へ繋がる経路を探り、その先で敵連合との接点を掴むというものになる。
「……遠回りじゃねえか」
「かなりね」
ホークスはあっさり認めた。
「テメェ、俺がデク止めてえって知ってんだろ」
「知ってますよ。だからこそ、焦って一番近い場所へ入れるつもりはありません」
爆豪が言い返す前に、ホークスは続けた。
「敵連合にはもう別の潜入要員がいる。緑谷君との関係まで考えれば、君までそこへ入れるメリットよりリスクの方が大きい。だったら公安がまだ十分な情報を取れていない解放軍側を埋めてもらった方がいい」
「……チッ」
「遠回りですけど、我慢してくださいね」
「ガキ扱いすんな」
「してないって」
爆豪は不機嫌そうに舌打ちし、改めてファイルへ目を落とした。
社会的信用の高い大企業であり、取引先には自治体や一般企業だけでなくヒーロー事務所まで含まれている。
表向きにはどこを見ても、ごく普通のライフサポート企業だ。
「……こんなとこが解放軍と繋がってんのかよ」
「だから今まで表に出なかったんですよ」
ホークスが答える。
爆豪がさらにページをめくると、企業の沿革や主要事業、関連会社、研究開発部門、全国の営業拠点など、一般向けの会社案内と変わらない情報が続いていた。
「ヒーローとも仕事してんじゃねえか」
「してますよ。普通の企業として見れば、何もおかしくない会社ですから」
異能解放軍という名前から爆豪が想像していたのは、社会の外側で活動する過激派だった。
しかし実際には、誰もが知る企業の看板を掲げ、一般社会と取引し、その裏側で人員や資金、装備を動かしている可能性がある。
ホークスは関係図の中にあるデトネラットの項目を指した。
「君が最初に入るのは、この表側です。いきなり解放軍の会合へ出てもらうわけじゃないし、敵連合と接触させるつもりもない。まずデトネラットの人間へ近づいて、違法流通の実態を探ってもらいます」
「どうやって入んだよ」
「そこはこれから詰めます。ただ、向こうから見た君の経歴は使いやすい。雄英を辞め、公には資格も持っていない。それでも実力はある。異能を自由に使う権利を掲げる連中からすれば、興味を持つ理由にはなるでしょう」
「またそれか」
「使えるものは使う。今日、君自身がやったことでしょう?」
そう返され、爆豪は一瞬黙った。
やがてファイルを閉じず、そのまま手元へ引き寄せる。
「……デトネラット、か」
緑谷へ辿り着くには遠い。
それでも敵連合へ続く道である以上、爆豪に断る理由はなかった。