数日後。
雄英高校校内。
A組の生徒達は、校舎脇へ停車している大型バスへ次々と乗り込んでいた。
「おおー、なんか遠足みたい!」
芦戸が楽しそうに声を上げる。
「いや訓練だろ」
瀬呂が苦笑しながらツッコんだ。
だが、浮ついた空気があるのは事実だった。
いつもの座学ではない。
しかも今回は、ヒーロー活動において極めて重要とされる“救助訓練”。
戦闘訓練とはまた違う実践授業に、皆少なからず高揚している。
「救助活動かぁ……」
切島が腕を組む。
「オレ、正直そっちはまだ全然イメージ湧かねぇんだよな」
「分かる!」
上鳴も頷いた。
「ヴィラン倒すのは分かりやすいけど、救助って実際どうやるんだろ。人工呼吸とか、心臓部マッサージ?」
「ヒーローの本分は、むしろそっちだろうが」
後方座席から爆豪が吐き捨てる。
相変わらず不機嫌そうではあるが、以前ほど剥き出しの刺々しさはなかった。
少なくとも、教室で怒鳴り散らす回数は少し減っている。
「とはいえ、爆豪君の個性って救助難しくない?」
麗日が首を傾げる。
「爆発で瓦礫吹き飛ばしたら危なくない?」
「あァ?」
爆豪の眉が吊り上がる。
「んなモン調整次第だろ」
「おお……」
妙に真っ当な返答だった。
その時。
「静かにしたまえ諸君!」
飯田が、びしっと腕を振る。
既に委員長として完全に板についていた。
「車内で騒ぎ過ぎれば他の生徒や運転へ支障を来す!」
「うお! 確かにな委員長、悪かった!」
上鳴が勢いよく返事をする。
先日の騒動以来、A組の中で飯田への信頼感はかなり強くなっている。
出久は、そんなやり取りを前方席からぼんやり見ていた。
「……」
窓の外を景色が流れていく。
胸の奥に残る重苦しさは、まだ消えていなかった。
あの日以降出久には、AFOから新たな連絡は来ていない。
「デク君?」
「ひゃっ!?」
突然声を掛けられ、出久の肩が跳ねる。
隣席の麗日が、きょとんとしていた。
「だ、大丈夫? 最近ぼーっとしてる事多いよ?」
「え、いや、そんな……!」
出久は慌てて首を振る。
「ちょっと寝不足で!」
「ちゃんと寝ないと駄目だよー?」
麗日が心配そうに笑った。
その笑顔が、少し痛い。
出久は曖昧に笑い返しながら、視線を逸らす。
その時。
「皆さん、今日はよろしくお願いします」
穏やかな声が、車内へ響いた。
前方。
教師席近くに立っていた人物へ、生徒達の視線が集まる。
宇宙服を模したスーツ。
どこかゆるい雰囲気の漂うシルエット。
雄英高校教師。
災害救助訓練担当、スペースヒーロー13号。
「今日は、災害・事故・水難・火災など、様々な環境下を想定した救助訓練を行います」
柔らかい声だった。
だが、その内容は真剣そのものだ。
「ヒーローというと、ヴィランとの戦闘へ目が向きがちです」
一拍。
「ですが、爆豪君の言う通り本来ヒーローとは、“人を救ける”職業です」
車内が静まる。
誰もふざけない。
13号の声には、不思議と人を真面目にさせる力があった。
「事故現場では、一瞬の判断ミスで要救助者を傷付ける事もあります。個性は便利な力ですが、使い方を誤れば容易に人を殺してしまう」
その言葉に。
出久の肩が、ぴくりと揺れた。
「だからこそ今日は、“個性を安全に使う”という事を学んでもらいます」
13号はそう言って、小さく笑った。
「皆さんの将来に、とても重要な授業ですよ」
バスの前方。
相澤は相変わらず気怠げに座席へ深く腰掛けていた。
寝不足そうな顔。
半分閉じた目。
だが。
「浮かれて怪我すんなよ」
ぼそり、と。
低い声で言う。
「救助訓練は、戦闘訓練より死人が出やすい」
一瞬で空気が引き締まった。
それは脅しではない。
プロヒーローとしての実感を伴った言葉だった。
窓の外。
巨大なドーム状施設が、ゆっくりと見えてくる。
「おお……!」
誰かが、思わず声を漏らした。
巨大施設。
人工災害演習場。
嘘の災害や事故ルーム、通称──『USJ』
巨大ドーム──USJを前に、バスの中がどよめく。
「でっか……!」
「テーマパークじゃんこれ!」
「いやもう完全に施設規模がおかしいだろ……」
窓へ張り付くようにして、生徒達が外を見ていた。
その光景を見ながら、出久はふとポケットからスマホを取り出した。
何となく。
本当に、何となくだった。
画面を開く。
ニュースアプリ。
トップ記事。
『オールマイト、本日朝だけでヴィラン事件三件を解決!』
『通勤途中の銀行強盗を五分で制圧!』
『高速道路事故現場へ急行、二次被害を未然に防ぐ!』
『倒壊ビル現場で逃げ遅れた児童を救出!』
「……」
出久の指が、止まる。
記事一覧が、ほとんど全部オールマイトだった。
写真の中。
平和の象徴は、いつも通り笑っている。
瓦礫を支え。
逃げ遅れた人を抱え。
泣いている子供へ笑いかけ。
その全部が、“当たり前”みたいに報じられていた。
「相変わらず凄いよなぁ……」
隣から、切島が感心したように声を漏らす。
どうやら同じニュースを見ていたらしい。
「朝から何件解決してんだよって感じだぜ」
「ほんまに休んでるんかな……」
麗日も少し心配そうに呟いた。
その時。
前方座席から、相澤が気怠げに口を開く。
「本来なら今日、オールマイトさんが授業に参加する予定だったんだがな」
生徒達の視線が集まる。
「だがまあ……最後の事件の後処理が長引いてる」
一拍。
「事情聴取やら現場検証やらで、まだ戻れないらしい。俺で我慢しとけ」
「えぇー!?」
上鳴が露骨に残念そうな声を上げた。
「マジかよ! オールマイトの救助訓練ちょっと見たかったのに!」
「確かに気になるな!」
切島も頷く。
「絶対すげぇぞ!」
一方。
出久は、スマホ画面を見つめたまま固まっていた。
オールマイト。
今日も朝から、人を助け続けている。
誰かを救っている。
それが当然みたいに。
「……」
胸の奥が、少しだけ重くなる。
自分は。
そのオールマイトが教師として立つ雄英へ、AFOの命令で干渉した。
セキュリティを乱し。
パニックを引き起こし。
今もなお、AFOは何かを企んでいる。
その一方で。
オールマイトは、何も知らないまま人を助け続けている。
「……っ」
無意識に、スマホを握る手へ力が入った。
その時だった。
バスが、ゆっくり停止する。
「着いたぞ」
相澤の声。
生徒達が一斉に立ち上がる。
「うおおおっ!」
「すげぇ!!」
「早く降りようぜ!」
自動ドアが開き、A組の生徒達は次々とUSJ内部へ足を踏み入れた。
「うわぁぁぁっ!!」
麗日が、思わず歓声を上げる。
ドーム内部は、外から見た以上に広大だった。
巨大な人工湖。
崩壊した都市を再現した瓦礫地帯。
燃え盛るビル火災区域。
土砂崩れ地帯。
暴風エリア。
事故現場を模した高速道路。
あらゆる災害環境が、一つの施設内へ詰め込まれている。
「すっげぇ……」
切島が目を輝かせる。
「マジで本物みてぇだ!」
「金掛かってそう……」
瀬呂が周囲を見回しながら呟いた。
上鳴などは完全にテンションが上がっていた。
「やっべぇ! あの沈没ゾーン見ろって!」
「まるでテーマパーク感覚ね」
蛙吹が淡々とツッコむ。
一方。
「……」
出久もまた、胸の高鳴りを抑え切れずにいた。
ヒーロー育成の最高峰。
その実践設備。
救助訓練専用施設。
ヒーローオタクとして、興奮しない訳がない。
(凄い……)
視線が、自然と施設全体を追う。
災害状況に応じた地形。
避難経路。
恐らく内部には監視カメラや安全装置も大量に配置されている。
13号の言っていた、“個性を安全に使う訓練”。
そのために、ここまでの設備を用意しているのだ。
だが。
「……」
ふと。
出久の視線が、クラスの端へ向く。
青山優雅。
彼は、他の生徒達みたいにはしゃいでいなかった。
むしろ。
どこか落ち着かない様子で、施設全体を見回している。
そして。
一瞬だけ、出久と目が合った。
「……っ」
青山はすぐに視線を逸らした。
その表情は、酷く複雑だった。
不安。
焦燥。
そして。
期待が外れ始めた人間の顔。
「……」
出久の背筋へ、冷たいものが走る。
AFOからの指示。
『A組が孤立するタイミングを教えなさい』
青山は。
この授業の事を伝えたのだ。
間違いなく。
だからこそ、AFO側は動くつもりだった。
恐らく。
当初の青山の考えでは。
オールマイトが居る。
だから、多少何かが起きても、最終的にはオールマイトが全部片付ける。
AFOの部下が現れても。
平和の象徴が撃退する。
そこからAFO逮捕へ繋がる可能性だってある。
──そんな希望へ、縋っていた。
だが。
「……」
今日。
オールマイトは居ない。
後処理で遅れている。
その事実が、青山を不安にさせているのだ。
(まさか……)
出久の喉が、小さく鳴る。
胸の奥で、嫌な予感だけが膨らんでいく。
「緑谷」
「ひゃっ!?」
突然声を掛けられ、出久が飛び上がった。
振り向く。
相澤だった。
寝不足そうな目で、じっと出久を見ている。
「……顔色悪いぞ」
「え、あ……」
出久は慌てて取り繕う。
「だ、大丈夫です!」
だが、相澤は半眼のまま小さく息を吐いた。
「オールマイトさんが居なくて残念なのは分かるがな」
「……え?」
出久の肩が、ぴくりと揺れる。
完全に勘違いされていた。
だが。
今は、その勘違いがありがたかった。
相澤は視線をUSJ中央へ向けたまま続ける。
「安心しろ」
一拍。
「あの人ほど義理堅い人間はいない」
気怠げな口調。
だが、その声には妙な信頼感があった。
「遅れたとしても、絶対顔は出す」
「……」
出久は、一瞬言葉を失う。
オールマイトを知る教師の声だった。
信頼している人間の声。
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥で、ほんの少しだけ希望が灯る。
もし。
本当に何か起きても。
オールマイトが来てくれるなら。
「……はい」
出久は、小さく頷いた。
だが。
その直後だった。
──その直後だった。
「……?」
ふわり、と。
空気の質が変わった。
USJ内部を満たしていた清潔な冷房の匂いへ、何か別の臭気が混ざる。
湿った。
腐った。
まるで、長年掃除されていない下水道を無理やり開けたみたいな。
「うっ……」
麗日が顔をしかめる。
「な、何この匂い……」
切島も眉を顰めた。
「ドブ臭っ……!」
出久の個性『五感強化』が、嫌な警鐘を鳴らす。
鼻腔へ張り付く異臭。
空気の揺らぎ。
そして。
空間そのものが、不自然に歪み始めていた。
「っ……!」
反射的に、出久が鼻と口を覆う。
次の瞬間。
ボコリ、と。
空間の中から、泥のような黒い物質が溢れ出した。
「……え?」
誰かが、呆然と呟く。
黒泥は床へ滴り落ちる事なく、宙で渦を巻いている。
次々と、幾つも幾つも。
泥の塊が出現していく。
その中から。
ぬっ、と。
人影が現れた。
「……ッ」
出久の瞳が、見開かれる。
一人ではない。
二人でも。
十人でも足りない。
武器を持った男。
全身へ刺青を刻んだ女。
異形の個性を持つ者。
顔を隠した者。
殺気を隠そうともしない連中が、黒い泥の中から次々と姿を現していく。
「ヴィラン……!?」
上鳴の声が裏返る。
ざわり、と。
A組全体へ緊張が走った。
数。
圧倒的に多い。
数十人。
いや、もっといる。
しかも。
ただのチンピラではない。
漂っている空気が違う。
暴力に慣れている。
人を傷付ける事へ、躊躇がない目だった。
そんな者らが、A組を包囲するように突然出現した。
「13号! 生徒らを!」
相澤だった。
先程までの気怠げな雰囲気は、完全に消えている。
半眼だった目が、鋭く細められていた。
「ヴィランだ!」
その一言で。
空気が凍る。
相澤は、一瞬で状況を理解していた。
警戒。
人数。
転移系個性。
そして、狙い。
ここは雄英。
偶然ヴィランが入り込める場所じゃない。
つまり。
明確な意思を持った襲撃。
「はい!」
13号が即座に動く。
同時に。
「A組、固まれ!!」
相澤の怒声が、USJ全体へ響いた。
「勝手に動くな!! 単独行動するな!!」
生徒達が、はっと我に返る。
その瞬間だった。
「うおおおっ!!」
一人のヴィランが、雄叫びを上げながら突っ込んできた。
金属パイプを振り上げている。
速い。
だが。
相澤は、一歩も動かなかった。
「邪魔だ」
次の瞬間。
バシィッ!!
乾いた音。
相澤の蹴りが、ヴィランの顔面へめり込んでいた。
「がっ……!?」
ヴィランの身体が横回転しながら吹き飛ぶ。
そのまま数メートル先の地面へ叩きつけられ、動かなくなった。
「……」
A組の生徒達が、息を呑む。
速い。
迷いがない。
教師ではない。
完全に、プロヒーローの動きだった。
相澤は、倒れたヴィランを一瞥すらせず、静かに捕縛布を解き放つ。
「……相手してやるよ、ヴィラン共」
黒い捕縛布が、蛇みたいに空中を走った。
次の瞬間。
バシィッ!!
「ぎっ!?」
一人のヴィランの首へ巻き付き、そのまま勢いよく地面へ叩き伏せる。
さらに。
相澤の身体が、低く滑るように前へ出た。
無駄がない。
拳。
蹴り。
肘打ち。
視界へ入ったヴィランを、一人ずつ確実に沈めていく。
「がっ!?」
「ぐぇっ!」
「な、何だこいつ……!」
ヴィラン達が次々と吹き飛ばされる。
しかも。
途中から、何人かの個性発動が明らかに不発していた。
「火が出ねぇ!?」
「腕が変化しない!?」
相澤の赤く染まった目。
抹消。
視線を合わせた相手の個性を封じる、対個性戦闘に特化した能力。
そこへ。
「ブラックホール」
13号の穏やかな声が響く。
その手袋の先端から放たれた重力じみた吸引が、突っ込んできた瓦礫や武器を一瞬で飲み込んだ。
鉄パイプ。
ナイフ。
飛来物。
全部が、音もなく消滅する。
「ひっ……」
生徒の誰かが息を呑む。
13号もまた、現役プロヒーロー。
しかも、災害救助だけではない。
個性の危険性だけで言えば、下手な戦闘系ヒーロー以上だった。
相澤はヴィランを殴り飛ばしながら、ちらりと背後へ視線を向ける。
「落ち着け」
低い声。
だが、妙に安心感があった。
「数は多いが、こいつらは所詮有象無象だ」
ドゴッ!!
飛び掛かってきたヴィランを、片手でいなして壁へ叩き込む。
「よく雄英に乗り込もうなんて思ったもんだな」
挑発みたいに吐き捨てながらも、その口調には余裕があった。
実際。
相澤と13号がいる限り、簡単に崩されるとは思えない。
プロ。
それも、雄英教師を務めるトップクラスのヒーロー達だ。
「……」
出久は、思わず息を吐いた。
大丈夫だ。
そう思えた。
オールマイトがいなくても。
相澤先生がいる。
13号もいる。
A組だって、皆強い。
なら。
まだ──。
その瞬間だった。
ボゴリ、と。
出久のすぐ背後で、今までより遥かに大きな音が響いた。
「……え?」
空気が、重くなる。
周囲の温度が、一瞬で下がったみたいだった。
出久が、ゆっくり振り向く。
そこには。
他の泥塊とは比較にならないほど巨大な“黒”があった。
まるで小型の建物みたいなサイズ。
空間そのものを押し広げるように、黒泥が脈打っている。
「なん、だ……?」
切島の声が掠れる。
そして。
ズルリ、と。
その泥の中から、巨大な腕が現れた。
筋肉。
異常なほど膨れ上がった筋繊維。
皮膚の色は浅黒く、まるで岩石みたいに硬質だった。
さらに。
ぬう、と。
全身が姿を現す。
「……ッ」
出久の五感強化が、絶叫じみた警告を鳴らした。
危険。
今までのヴィラン達とは、まるで格が違う。
見上げるほどの巨体。
筋骨隆々の肉体。
そして。
顎部と背中から突き出た、岩石じみた刺々しい突起。
人間なのに。
どこか生物兵器みたいだった。
その怪物が。
泥の中から、ゆっくりと身を起こす。
ゴギ、と。
首が鳴った。
赤黒い目が、ぎょろりと動く。
その瞬間。
USJ全体の空気が、一変した。
「……っ」
相澤の目が、細まる。
今までの連中とは違う。
見ただけで分かる。
あれは、“戦力”だ。
単なる数合わせのヴィランではない。
明確に、何かを壊すためだけに作られた怪物。
巨体の男は、ゆっくりと周囲を見回していた。
知性を感じない。
だが。
だからこそ不気味だった。
まるで命令だけを待つ兵器みたいに、その赤黒い目がぎょろりと動いている。
「……13号」
相澤が低く呼ぶ。
「生徒を下げろ。アレは別格だ」
「はい!」
13号も即座に動こうとする。
だが、その前に。
巨体の男が、一歩踏み出した。
ズン、と。
それだけで床が揺れた。
「あ、れ……こいつ」
切島が顔を青くして数歩後退る。
ただ立っているだけなのに、存在感そのものが重い。
その時だった。
シュルルルッ!!
相澤の捕縛布が、一気に伸びた。
狙いは、巨体の首。
同時に。
相澤の髪が、ふわりと逆立つ。
赤く染まった目。
個性『抹消』。
視界へ捉えた相手の個性を封じる、対個性戦闘最強クラスの能力。
「止まれ」
低い声。
捕縛布が、巨体の男へ巻き付く。
ガシィッ!!
確かに、捕らえた。
相澤の目も、確かに男を見据えている。
抹消は発動した。
なのに。
「……?」
相澤の眉が、僅かに動く。
違和感。
手応えが、ない。
まるで。
最初から個性なんて使っていないみたいな。
次の瞬間。
ゴッ──!!
「ッ!?」
巨体の男の腕が、振るわれた。
ただ、それだけ。
技術も何もない。
単純な拳。
だが。
その速度は、異常だった。
「相澤先生!!」
出久の叫び。
直後。
ドガァァァァッ!!
轟音。
巨腕が、相澤の身体を真正面から捉えていた。
「がっ……!」
相澤の身体が、砲弾みたいに吹き飛ぶ。
床を跳ね。
壁へ激突し。
コンクリートへ蜘蛛の巣状の亀裂が走った。
「な……」
上鳴の顔が青ざめる。
今の一撃。
見覚えがあった。
圧倒的な暴力。
単純な力だけで全てをねじ伏せる破壊。
まるで。
「オールマイト……みてぇな……」
爆豪が、掠れた声を漏らす。
その時。
ゴギゴギゴギッ、と。
嫌な音が響いた。
巨体の男の筋肉が、更に膨れ上がっていく。
肩。
腕。
背中。
全身が異様な勢いで肥大化し始めた。
「う、うそだろ……」
瀬呂が後退る。
さっきですら巨大だった。
なのに。
さらに大きくなっている。
筋肉が膨張し、岩みたいな外殻が軋みを上げる。
そして。
男が、ゆっくり拳を地面へ叩きつけた。
──ドゴォンッ!!!!
「!!?」
USJ全体が揺れた。
地面が、爆ぜる。
床が捲れ上がり、巨大な亀裂が走った。
まるで爆弾でも炸裂したみたいに、コンクリート片が吹き飛ぶ。
「きゃああっ!!」
「うわぁっ!?」
衝撃波。
暴風。
砕けた地面ごと、生徒達の身体が宙へ投げ出された。
出久の視界が、一瞬で天地逆転する。
「っ……!」
咄嗟に腕で顔を庇う。
だが、衝撃が凄まじい。
身体が浮く。
吹き飛ぶ。
隣では、麗日が悲鳴を上げていた。
遠くでは、上鳴と瀬呂が瓦礫ごと転がっていく。
飯田が誰かを庇おうと手を伸ばし。
爆豪が爆破で姿勢制御しようとしているのが見えた。
だが。
間に合わない。
轟音と破壊の中。
A組は、文字通り方々へ吹き散らされていった。