荒い呼吸が、少しずつ落ち着いていく。
USJ崩落エリア。
瓦礫の陰。
緑谷出久は、震える手で雄英のヒーロースーツを引き寄せた。
見慣れた緑色。
傷だらけで、水も泥も付いている。
だが。
さっきまで纏っていた黒い装甲より、ずっと軽く見えた。
「……っ」
出久は、ゆっくり袖を通す。
腕。
脚。
首元。
一つずつ。
まるで、自分がまだ“緑谷出久”である事を確認するみたいに。
最後にグローブを嵌めた瞬間。
ほんの少しだけ、呼吸がしやすくなった気がした。
だが。
胸の奥に沈んだ黒い感情は、消えていない。
(……戻らないと)
梅雨。
峰田。
二人を置いてきた。
AFOは「危害は加えない」と言っていた。
だが、信用出来る訳がない。
戦闘音は、さっきより遠ざかっていた。
時折響く爆音。
崩れる音。
だが。
先程までの絶望的な混乱とは、何か空気が違う。
オールマイトが来た。
その事実だけで、場全体の流れが変わっているのが分かった。
「……」
出久は、足音を抑えながら道を進む。
怖かった。
もし。
二人がいなかったら。
もし。
泥だけが残っていたら。
もし。
自分が戻った時には、全部手遅れだったら。
そんな想像ばかりが浮かぶ。
そして。
曲がり角を一つ抜けた瞬間。
「……!」
出久の身体が、止まった。
壁際。
そこに。
蛙吹梅雨と、峰田実がいた。
「……あ」
二人とも、変わらない体勢のまま倒れている。
梅雨は壁へ凭れ掛かるように。
峰田は、その隣へ崩れるように。
ぴくりとも動かない。
一瞬。
出久の心臓が止まりかける。
「蛙吹さん!!」
慌てて駆け寄る。
膝をつき、梅雨の肩へ触れる。
温かい。
呼吸もある。
「……っ」
次に、峰田を見る。
「峰田君……!」
こちらも、生きている。
気絶したままだが、胸は上下していた。
その瞬間。
出久の全身から、一気に力が抜けた。
「……よかった……」
掠れた声だった。
本当に。
心の底から。
安堵していた。
もし二人に何かあったら。
自分は、もう戻れなかった気がした。
「……ごめん」
ぽつり、と。
出久が呟く。
二人は答えない。
眠ったまま。
それが逆に、胸へ刺さった。
出久は、ゆっくり立ち上がる。
そして。
梅雨を背負った。
「っ……」
軽い。
だが、その軽さが怖かった。
続けて、峰田の腕を肩へ回す。
「よ、っと……」
二人分の重みが、身体へ掛かる。
疲労した身体には重い。
だが。
不思議と、さっきまでみたいな苦しさはなかった。
出久は、ゆっくり前を見る。
USJ入口広場。
戦いの中心。
そこへ向かえば、先生達もいるはずだ。
「……帰ろう」
小さく呟く。
誰に向けた言葉か、自分でも分からなかった。
そして。
緑谷出久は、気絶したクラスメイト二人を背負いながら、ゆっくりと入口広場へ向かって歩き始めた。
広場に近付くに、空気が震える。
重低音。
衝撃。
コンクリートの軋む音。
まるで巨大な爆弾でも炸裂しているみたいだった。
「っ……」
出久は、二人を背負ったまま歯を食い縛る。
足が重い。
全身が痛い。
それでも止まれなかった。
入口広場へ近付くほど、空気が変わっていく。
風圧。
粉塵。
そして。
圧倒的な“力”の気配。
その時だった。
ドゴォォォォンッ!!!!
凄まじい轟音が、USJ全体を揺らした。
「っ!?」
出久が反射的に身を低くする。
次の瞬間。
広場側の壁を突き破り、巨大な人影が吹き飛んできた。
コンクリート片が散る。
瓦礫が跳ねる。
その巨体は地面を何度もバウンドしながら滑り、ようやく停止した。
「が……ぁ……」
あの大男だった。
生徒達をまとめて吹き飛ばした怪物。
筋肉の塊みたいな異形。
その巨体が、今は地面へめり込みながら痙攣している。
「……!」
出久の目が見開かれる。
そして。
土煙の向こうから、一つの影が歩いてきた。
重い足音。
一歩。
また一歩。
それだけで空気が震える。
「……オール、マイト」
掠れた声が漏れる。
平和の象徴。
No.1ヒーロー。
だが。
いつもの姿とは、どこか違っていた。
笑っていない。
あの豪快な笑顔が、ない。
ネクタイはちぎれ飛び、スーツも各所が破れている。
腕には擦過傷。
頬にも血が滲んでいた。
呼吸も。
「はぁ……っ」
荒い。
ほんの僅かだが。
確かに乱れている。
既に激しい戦闘を繰り広げた後なのだと、一目で分かった。
それでも。
立っているだけで、場を支配していた。
オールマイトは、ゆっくり大男を見下ろす。
その視線に、普段の陽気さはない。
怒っていた。
静かに。
底の方で。
煮え立つみたいに。
「……やはり鈍ったな」
低い声。
「全盛期なら2,30発も打てば十分だったが、1,000発近くも打ってしまったよ! げほっ」
それだけで、周囲のヴィラン達が息を呑むのが分かった。
広場の各所には、倒れたヴィラン達が転がっている。
捕縛布に絡め取られた者。
瓦礫へ埋まり気絶している者。
13号のブラックホールで装備を失い、戦意を喪失している者。
広場の至る所に、ヴィラン達が転がっていた。
オールマイトは、ゆっくり周囲を見渡す。
鋭い視線。
その圧だけで、まだ立っていた数人のヴィランが思わず後退った。
「来るなら来たまえ!」
ドンッ、と。
オールマイトが一歩踏み出す。
その瞬間、空気が震えた。
ヴィラン達の顔が引き攣る。
だが。
次の瞬間。
オールマイトは、ふっと周囲を見回し。
「……とはいえ」
少しだけ肩を竦めた。
「ほとんど相澤君と13号君によって制圧済みかな」
「……っ」
離れた位置で膝をついていた相澤が、片目だけでオールマイトを見る。
全身血塗れ。
捕縛布も裂けている。
それでも、まだ倒れていない。
13号も、生徒達を庇うように立っていた。
スーツは損傷し、呼吸も荒い。
だが、こちらも戦意は失っていなかった。
その姿を見て。
出久の胸が、ぎゅっと締め付けられる。
皆、ボロボロだった。
それでも。
まだ立っている。
ヒーローとして。
その時だった。
「……げほっ」
不意に。
オールマイトの身体が、大きく揺れた。
「!」
出久の目が見開かれる。
次の瞬間。
ボタリ、と。
赤い血が、地面へ落ちた。
「オールマイト!?」
13号が声を上げる。
オールマイトは、口元を押さえたまま数歩よろめいた。
呼吸が乱れる。
肩が、大きく上下していた。
「……っ、はぁ……」
苦しそうだった。
普段の彼からは、想像も出来ないほど。
出久の背筋へ、冷たいものが走る。
(まさか……)
消耗。
いや。
それだけではない。
どこか、無理やり立っているみたいだった。
まるで。
限界を超えた状態で、無理矢理“オールマイト”を維持しているような。
「……問題ない」
オールマイトは、口元の血を乱暴に拭った。
その動作一つで、場の空気が張り詰める。
「生徒達の前だからね」
掠れた呼吸の合間。
それでも、彼は笑おうとした。
「教師が弱った顔を見せる訳には——」
その時だった。
ぬるり、と。
倒れ伏した大男の周囲。
地面の影が、黒く滲んだ。
「……!」
出久の五感強化が、即座に警鐘を鳴らす。
黒い泥。
見覚えがあった。
いや。
忘れられる訳がない。
「っ——!」
出久の喉が、無意識に強張る。
一方で。
相澤の片目が、鋭く細められた。
「……乗り込んできたのと同じ、転移系の個性か」
黒い泥は、じわじわと大男の身体を包み始める。
巨体。
筋肉。
その全てが、底なし沼みたいな闇へ沈み込んでいく。
「お、おい!?」
離れていたチンピラヴィランの一人が、慌てて叫んだ。
「待て!! 俺達も連れてけ!!」
別のヴィランも、半狂乱で走り出す。
「ふざけんな! 置いてく気かよ!!」
次々と泥へ飛び付こうとする。
だが。
泥は、男以外を受け入れなかった。
触れた瞬間、弾かれる。
「ぐあっ!?」
ヴィランの一人が、地面へ転がった。
「な、なんでだよ!!」
「俺ら仲間だろ!?」
「おい!! 待て!!」
悲鳴みたいな叫びが飛び交う。
だが。
泥は、何も答えない。
ただ静かに。
淡々と。
大男だけを飲み込んでいく。
「……」
オールマイトが、険しい目でそれを見据える。
踏み込もうとした。
だが。
「っ……!」
ぐらり、と。
再び身体が揺れた。
ほんの一瞬。
その遅れだけで十分だった。
ズブリ、と。
巨大な身体が、完全に泥へ沈み込む。
そして。
次の瞬間。
黒い泥そのものが、音もなく消えた。
「……っ」
静寂。
そこには、もう何もない。
ついさっきまで存在していたはずの怪物が、忽然と消えていた。
場が、静まり返った。
残されたヴィラン達は、完全に戦意を失っていた。
「う、嘘だろ……」
「置いてかれた……?」
「俺達、捨て駒かよ……」
誰かが逃げようとした。
だが。
「そこまでだ!」
入口側から、鋭い声が響く。
複数の足音。
次の瞬間、USJ入口広場へ雄英の教師達が雪崩れ込んできた。
プレゼント・マイク。
セメントス。
エクトプラズム。
他にも複数のプロヒーロー達。
飯田が呼んだ救援だった。
「生徒の保護を優先! 動ける者はヴィランを拘束しろ!」
教師達の動きは早かった。
戦意を失ったヴィラン達は、もはや抵抗らしい抵抗も出来なかった。
セメントスが床と壁を変形させ、逃走経路を塞ぐ。
エクトプラズムの分身が散り、倒れたヴィラン達を次々と拘束していく。
プレゼント・マイクの声が、広場全体へ響いた。
「動くなよ!! 次に動いた奴は鼓膜ごと持ってくぜ!!」
その一喝で、残っていたチンピラ達は完全に固まった。
事件は、終わった。
少なくとも、表面上は。
「生徒確認!」
「救護班を呼べ!」
「相澤先生を先に!」
「13号先生もだ!」
広場は一気に騒がしくなる。
出久は、梅雨と峰田を背負ったまま、入口近くで立ち尽くしていた。
「緑谷!」
誰かの声。
切島だった。
「お前、無事だったのか!?」
「あ……う、うん」
出久は、うまく返事が出来なかった。
切島の視線が、背中の梅雨と峰田へ向く。
「二人とも怪我してんのか!?」
「気絶してるだけ、だと思う。でも蛙吹さんは頭を……」
「救護班! こっちも頼む!!」
すぐに教師が駆け寄ってくる。
梅雨と峰田が担架へ移される。
出久の背中から二人分の重みが消えた瞬間、足元が急に頼りなくなった。
「……っ」
膝が震える。
だが、倒れる訳にはいかなかった。
倒れたら、何かが全部漏れてしまいそうだった。
やがて、被害状況が少しずつ整理されていく。
A組の生徒達は、擦過傷や打撲、軽い裂傷を負った者が多かった。
だが、飯田を除けば命に関わる重傷者はいない。
水難ゾーンの梅雨は頭部打撲と出血。
峰田は個性の過剰使用による出血と消耗。
それでも、処置が早ければ後遺症は残らないだろうと救護担当は言った。
問題は、飯田だった。
救護班が担架を運び込んだ時、彼の姿を見たA組の空気が凍った。
顔は腫れ、口元に血が滲み、胴や腕には打撲痕が広がっている。
「飯田君……!?」
麗日が息を呑む。
「誰にやられたんだ……?」
上鳴の声が震えた。
飯田は意識を失っていた。
だが、担架に乗せられてもなお、その手は何かを掴もうとするみたいに僅かに動いていた。
出久は、何も言えなかった。
喉が塞がる。
視界が揺れる。
自分がやった。
その事実だけが、胸の奥で冷たく沈んでいる。
一方、教師側の被害も大きかった。
相澤は数か所の骨折。
眼球と視神経への負担も大きく、目には軽い後遺症が残る可能性があるという。
13号は全身の打撲と裂傷。
スーツ越しでも衝撃を殺し切れず、しばらく入院生活を余儀なくされるらしい。
それでも二人は、生徒を守り切った。
誰一人、死なせなかった。
「……」
出久は、救護班に運ばれていく相澤と13号を見つめる。
その背中が。
痛いほど眩しかった。
オールマイトは、少し離れた場所に立っていた。
もう笑ってはいない。
血を拭った口元を固く結び、消えた大男のいた場所をじっと見ている。
そこにはもう、黒い泥の痕跡すら残っていなかった。
USJ襲撃事件。
雄英高校を狙った大規模ヴィラン襲撃。
それは、教師達とオールマイトの介入によって収束した。
だが。
出久だけは知っていた。
これは終わりではない。
AFOは、大男を回収した。
自分は飯田を殴った。
そして、黒いスーツは泥の向こうへ消えた。
何も終わっていない。
ただ、隠されたのだ。
自分の罪ごと。
──
USJ襲撃事件から、数日後。
生徒達は一時的に自宅待機となり、負傷者の多くは提携病院へ搬送されていた。
出久は、静かな病院の廊下を歩く。
手には、コンビニ袋。
スポーツドリンク。
ゼリー飲料。
個包装のお菓子。
何を持っていけば正解なのか分からず、結局無難な物ばかりになった。
「……」
足取りが重い。
理由は、自分でも分かっていた。
峰田に会うのも。
飯田に会うのも。
怖かった。
特に、飯田。
自分が殴った相手。
黒い装甲越しとはいえ、あの時の感触はまだ腕に残っている。
(気付かれてる訳……ない)
そう自分へ言い聞かせる。
槍骨は使っていない。
声も出していない。
正体が露見する要素はない。
なのに。
飯田の真っ直ぐな目を思い出す度、胃の奥が重くなった。
「……失礼します」
静かに病室の扉を開ける。
「あ」
最初に反応したのは、峰田だった。
ベッドの上で上半身を起こし、頭へ包帯を巻いている。
「緑谷ぁ!」
思ったより元気な声だった。
「お見舞い来てくれたのか!?」
「う、うん」
出久がぎこちなく笑う。
そして。
もう一つのベッドへ視線を向けた瞬間。
「緑谷君」
飯田天哉が、姿勢を正した。
右腕へ固定具。
額にも包帯。
脚部にも治療痕が見える。
USJの時より明らかに消耗していた。
それでも。
背筋は真っ直ぐだった。
「身体は大丈夫なのかね!?」
「え、あ……僕はその、大丈夫」
「そうか!」
飯田が強く頷く。
「なら良かった! 君もかなり無理をしていたようだったからな!」
「……っ」
出久の喉が、僅かに詰まる。
飯田は知らない。
自分を止めていた黒いヴィランが、目の前にいる事を。
「しかし!」
飯田が、悔しそうに拳を握った。
「情けない話だ……! 俺は結局、助けを呼びに行く途中でヴィランに妨害されてしまった」
「ヴィラン……」
出久は、必死に平静を装う。
「ああ」
飯田が頷く。
「USJ外部へ出ようとした瞬間、待ち伏せされていたのだ!」
出久の背中へ、嫌な汗が流れる。
「妙なヴィランだった……」
飯田が眉を寄せる。
「無骨な装甲を纏い、顔を完全に隠していたが……背格好から俺たちと同年代かもしれない」
「へ、へぇ……」
「動きも異様だった。速度を読むのが異常に上手く、こちらの動線へ正確に入り込んできた」
やめてくれ。
出久は心の中で、そう叫びそうになる。
「しかも、身体強化系の個性を持っていたらしい」
飯田が続ける。
「骨格か筋肉を圧縮するような……奇妙な加速だった」
「……」
出久は、視線を逸らしそうになるのを堪える。
「……っ」
耐えられなかった。
このままここにいたら。
何かが顔に出る気がした。
出久は、慌てるように立ち上がる。
「あ、あの!」
「ん?」
「お、お土産ここ置いとくね!」
コンビニ袋を棚へ置く。
手が少し震えていた。
「この後、その……蛙吹さんの所にもお見舞い行かなきゃだから……!」
「ああ、蛙吹君か!」
飯田が納得したように頷く。
「彼女も頭部を負傷していたからな。安心させてあげてくれ」
「よろしくなー!」
峰田が手を振る。
「う、うん」
出久はぎこちなく笑った。
「じゃ、じゃあまた」
逃げるみたいに病室を出る。
扉が閉まった瞬間。
「……はぁっ」
肺の奥に溜まっていた空気が、一気に漏れた。
苦しい。
胸が重い。
飯田は、自分を疑っていない。
峰田も、感謝してくれている。
それが逆に、息が詰まるほど苦しかった。
「……」
俯きながら廊下を歩く。
その時だった。
少し離れた個室病棟側。
カチャ、と扉が開く音がした。
出久が反射的に顔を上げる。
個室から、一人の男が出てきていた。
雄英の制服。
背の高い男子生徒。
「それじゃあオールマイト、また」
男は、軽く片手を上げながら病室へ言う。
そして、そのまま静かに扉を閉じた。
「——」
出久の足が、止まる。
今。
確かに。
“オールマイト”と聞こえた。
「……え?」
思わず、声が漏れた。
オールマイト。
今、確かにそう言った。
出久の視線が、閉じられた個室の扉へ吸い寄せられる。
(オールマイトが……入院?)
胸がざわついた。
USJで見た、血を吐く姿。
荒い呼吸。
無理やり立っているみたいだった背中。
あれが脳裏へ蘇る。
「……」
気付けば、出久はそちらへ歩き出していた。
一歩。
また一歩。
静かな病院の廊下に、靴音だけが響く。
すると。
個室前にいた男子生徒が、ようやく出久へ気付いた。
「ん?」
視線が合う。
次の瞬間。
「……あっ」
男の顔色が変わった。
「き、君……今の聞いたかい!?」
「え?」
「いや違っ、違うんだ!!」
突然、凄い勢いで弁解が始まる。
男は慌てたように両手を振った。
「オール、ドント、マインド! 全部ドンマイだよねって言いたかったんだよね!」
長身。
金髪。
日に焼けた肌。
そして、やたら表情が豊かだった。
出久は思わず目を瞬かせる。
「えっと……」
出久が困惑していると。
男は、はっとしたように姿勢を正す。
「ごめんごめん。取り乱した! とにかく君の勘違いさ!」
こほん、と咳払い。
そして、今度は少し落ち着いた顔で笑った。
「ところで君は雄英の一年生、だよね?」
「あ、はい」
「そっかそっか!」
男が、ぱっと明るく笑う。
「じゃあ俺、先輩だ!」
親指で自分を指す。
「雄英ヒーロー科三年、通形ミリオ!」
まるで太陽みたいな笑顔だった。
「よろしくね、後輩くん!」
出久は、一瞬言葉を失う。
三年。
つまり。
雄英のトップ学年。
オールマイトの個室へ普通に出入りしている辺り、恐らく学内でも相当有名な人物なのだろう。
「あ……み、緑谷出久です」
「緑谷くん!」
ミリオが、気さくに頷く。
「いやぁ、君達大変だったね! USJの件、俺達の学年でもめちゃくちゃ話題になってるよ」
「……」
出久の肩が、僅かに強張る。
だが、ミリオはそこへ気付いた様子もなく。
「でも皆無事で良かった!」
真っ直ぐそう言った。
その笑顔が、少しだけオールマイトに似て見えて。
出久の胸が、妙にざわついた。