──雄英体育祭当日。
空は、快晴だった。
青く。
高く。
雲一つない。
まるで、日本中がこの日を待っていたみたいな空だった。
「すっげぇ……」
雄英高校巨大競技場前。
切島が、思わず声を漏らす。
目の前に広がっているのは、もはや“学校施設”ではなかった。
巨大。
圧倒的なスケール。
楕円状の超大型スタジアム。
外壁へ埋め込まれた巨大モニター。
観客導線。
警備ゲート。
報道陣用エリア。
その全てが、プロスポーツの国際大会レベルで整備されている。
まるで国際陸上競技場だった。
いや。
ヒーロー社会においては、それ以上の価値を持つ舞台かもしれない。
なにせ。
ここには毎年、全国中継が入る。
そして。
未来のヒーロー候補生達を、プロヒーロー達が直接見定めに来る。
ヒーロー科生徒にとっては、実質的な公開オーディションだった。
「人、多すぎだろ……」
上鳴が、引き気味に呟く。
競技場周辺だけで、既に異様な熱気だった。
観客列。
報道ヘリ。
企業スポンサーの巨大広告。
テレビ局スタッフ。
そして。
一般警備員に混ざるように、各所へ立つ“ヒーロー”達。
「おい、あれ……」
瀬呂が、入口ゲート方向を指差す。
そこには。
サイドキックを数人引き連れたプロヒーローが立っていた。
別方向では、機械化スーツを装備したヒーローが巡回している。
更に上空。
飛行系個性を持つヒーローらしき影が、警戒飛行を行っていた。
「警備、エグ……」
芦戸が目を丸くする。
「USJの件があったからだろうな」
常闇が低く言う。
「雄英側も、相当警戒している」
実際。
スタジアム周辺の空気は、どこか張り詰めていた。
華やかさの裏側に、鋭い緊張感がある。
USJ襲撃事件。
その衝撃は、まだ社会全体へ色濃く残っていた。
だからこそ。
この体育祭には、“象徴”としての意味もある。
雄英は健在だと。
ヒーロー社会は揺らがないと。
世間へ示すための祭典。
「……」
出久は、競技場を見上げたまま動かなかった。
巨大モニター。
歓声。
人波。
テレビカメラ。
憧れていた。
ずっと。
子供の頃から。
テレビ越しに見ていた舞台。
雄英体育祭。
ヒーロー達が未来を見つける場所。
ヒーローの卵達が、全国へ名を刻む場所。
「おいおい! ぼさっとしてっと置いてかれんぞ!」
切島の声で、出久ははっと我に返った。
「……っ、あ」
気付けば、他の生徒達は既にスタジアム入口へ向かっている。
巨大ゲートの向こう。
スタッフ達が慌ただしく走り回り、拡声器の声が飛び交っていた。
『ヒーロー科一年生は至急選手控室へ移動してください!』
『開会式開始五分前です!』
「やっべ!」
上鳴が慌てて駆け出す。
「急げ急げ!」
1−Aの生徒達も、一斉にスタジアム内部へ流れ込んでいく。
内部通路は、まるで大型競技施設そのものだった。
広い。
白い壁。
天井照明。
無数の案内表示。
そこを、大勢の生徒達とスタッフが慌ただしく行き交っている。
「うわぁ……」
麗日が、きょろきょろと辺りを見回す。
「ほんまにプロスポーツ会場みたいや……」
「というか、下手なプロリーグより金掛かってそうだな」
瀬呂が苦笑する。
更衣室前へ到着すると、各クラスごとに案内が分かれていた。
『ヒーロー科1−A』
表示を確認しながら、中へ入る。
ロッカー。
ベンチ。
モニター。
既に数人が着替え始めていた。
「おーし!」
切島が制服を脱ぎ捨てながら叫ぶ。
「気合い入ってきたぁ!!」
「朝からうるせぇな」
爆豪が吐き捨てる。
だが。
その目も、完全に獲物を狙う目だった。
「……」
出久も、静かに制服へ手を掛ける。
体育祭専用の雄英ジャージ。
白と青を基調にしたシンプルな体育服。
ヒーロースーツではない。
だが。
それでも、この服には特別な意味があった。
テレビで何度も見た。
歴代ヒーロー達が、この舞台で着ていた服。
「……」
袖を通す。
胸が、少しだけ高鳴った。
その瞬間だけは。
AFOも。
黒い衝動も。
全部、遠くへ追いやれた気がした。
『ヒーロー科一年、入場準備を開始してください!』
館内放送が響く。
「行くぞ」
轟が、静かに立ち上がる。
1−A全員が、更衣室を後にした。
そして。
巨大な入場ゲートを抜けた瞬間。
ドォォォォォッッッ!!!
凄まじい歓声が、全身を叩いた。
「っ……!」
出久の目が見開かれる。
広い。
圧倒的に。
巨大競技場の中央。
トラック。
フィールド。
観客席を埋め尽くす人、人、人。
数万人規模の歓声が、地鳴りみたいに響いていた。
『さぁ今年も集まりました!!』
『未来のヒーロー達!!』
実況マイクが響き渡る。
巨大モニターへ、各学科の生徒達が映し出されていく。
ヒーロー科。
普通科。
サポート科。
経営科。
その中でも。
やはり注目を集めているのはヒーロー科だった。
「うおぉ……」
峰田が、完全に呑まれていた。
「これ全国中継されてんだよな……!?」
「当然ですわ」
八百万が、小さく息を吐く。
既に一年全クラスが整列していた。
1−A。
1−B。
普通科。
全員が、巨大スタジアム中央へ並ぶ。
その熱気の中。
MCヒーロー、プレゼント・マイクのテンションだけが異様だった。
『それではァ!! まずは選手宣誓!!』
歓声。
ライト。
カメラ。
『担当するのはァ!!』
巨大モニターへ、一人の名前が表示される。
『ヒーロー科1−A!! 一般入試実技トップ!! 爆豪勝己ィィィ!!』
ドッ、と歓声が上がる。
一方で。
「うわ」
瀬呂が、嫌そうな顔をした。
耳郎も顔を引き攣らせる。
そして。
爆豪が、ずかずかと前へ出た。
堂々。
いや。
喧嘩を売るみたいな足取りだった。
壇上中央。
マイク前へ立つ。
数万人の観客。
全国中継。
プロヒーロー達。
その全てを前にしても、爆豪は一切怯まなかった。
むしろ。
不敵に笑う。
「宣誓」
マイク越しの声が、競技場全体へ響く。
「俺が」
一拍。
そして。
「一位になる」
沈黙。
一瞬。
会場全体が止まった。
次の瞬間。
『ブゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!』
凄まじい大ブーイングが競技場を揺らした。
爆豪は全く気にしなかった。
むしろ。
ニヤァ、と笑みを深める。
「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」
更にブーイングが増した。
その光景を見ながら。
「……自分を追い込んでるんだ、かっちゃんらしいな」
出久は、ほんの少しだけ笑ってしまった。
変わってない。
かっちゃんは。
どれだけ大舞台でも。
どれだけ注目されても。
絶対に、自分を曲げない。
その背中を見つめながら。
出久の胸の奥で。
静かに、熱が灯り始めていた。
観客席では、まだブーイングと歓声が入り混じっていた。
だが。
その熱気すら、体育祭の一部だった。
巨大モニターへ、“第一種目”の文字が映し出される。
途端。
スタジアム全体の空気が変わった。
『さぁ!!』
プレゼント・マイクの声が、再び響き渡る。
『それじゃあ早速行こうじゃねぇか!!』
ドンッ!!
フィールド中央へ、大型スクリーンがせり上がる。
『予選を兼ねた第一種目!!』
観客席が沸き立つ。
『障害物競走ォォォォッ!!!』
ドォォォォッ!!!!
歓声。
爆音。
同時に。
ゴゴゴゴゴ、と。
スタジアムの一角が、重々しい音を立てて開き始めた。
「……!」
出久の目が見開かれる。
競技場外周部。
巨大ゲートが左右へ展開し、その向こうに長大なコースが姿を現した。
コンクリート。
鉄骨。
人工地形。
起伏。
崖。
複数のエリアが、スタジアム外周をぐるりと囲むように伸びている。
『舞台はスタジアム外周特設コース!!』
『ただ走るだけじゃ面白くねぇ!! ヒーロー候補生なら、どんな障害もブチ抜いて進めェ!!』
「うおぉ……」
切島が、目を輝かせる。
「めちゃくちゃ楽しそうじゃねぇか!!」
「楽しそうで済むかこれ……?」
尾白が引き気味に言う。
既にスタート地点へ、一年全員が集められていた。
狭い。
異様に。
百数十人近い生徒が、巨大ゲート前へ密集している。
押し合い。
熱気。
緊張。
スタートラインの先にある通路は、逆に細かった。
つまり。
最初の突破だけで、大混雑になる。
「うわ……絶対詰まる」
麗日が顔を引き攣らせる。
「前行ける気せぇへん……」
「フン」
轟は、無表情のまま前方を見る。
爆豪は既に殺気立っていた。
「邪魔すんなよモブ共」
掌から、バチバチと火花が散る。
一方。
「……」
出久は、人の流れを観察していた。
前列。
後列。
身体能力型。
広範囲型。
突撃型。
そして。
(出口が狭い……)
脳内で、即座にシミュレーションが始まる。
この人数。
この密度。
この通路幅。
スタート直後、確実に団子状態になる。
転倒。
押し潰し。
進路妨害。
そこで止まれば、一気に置いていかれる。
(なら——)
その瞬間。
『OKAAAY!! それじゃあ行くぜェ!?』
プレゼント・マイクが、勢いよく腕を振り上げた。
『カウントダウン!!』
巨大モニターへ数字が映る。
『3!!』
ざわっ、と空気が揺れる。
『2!!』
皆、一斉に前傾姿勢を取る。
筋肉が緊張する。
視線が鋭くなる。
『1!!』
出久の鼓動が、大きく跳ねた。
『STARTォォォォォッ!!!』
ドォォォォンッ!!
号砲。
同時に。
「うぉぉぉぉっ!!!」
「どけぇぇ!!」
「前!! 前行け!!」
一斉に、人波が爆発した。
狭い出口へ、全員が殺到する。
肩がぶつかる。
押し合う。
悲鳴。
怒号。
転倒。
開始数秒で、スタート地点は地獄みたいな混雑になっていた。
「っ!?」
出久も、人波に押される。
呼吸が詰まる。
視界が埋まる。
だが。
(この時点から、もう始まってる……!)
出久の目が、鋭く細まった。
その直後。
ドンッ!!
最前列で、爆発音が響いた。
「邪魔だァ!!」
爆豪が、掌の爆破で身体を浮かせるように前へ飛ぶ。
人の頭上すれすれを抜け、狭い出口へ強引に突っ込んでいった。
「ぐわっ!?」
「ちょ、危なっ!」
だが、止まらない。
むしろ。
その爆風で生まれた僅かな隙間へ、ヒーロー科の生徒達が次々と滑り込む。
「悪いな!」
切島が身体を硬化させ、押し合いの中を強引に抜ける。
瀬呂はテープを天井側へ貼り付け、身体を振り子のように前へ飛ばした。
飯田も、まだ本調子ではない脚を庇いながらも、低い姿勢で人波の隙間を縫っていく。
「くっ……!」
普通科の生徒達が押し戻される中、ヒーロー科の面々だけが一歩早い。
個性の使い方。
身体の捌き方。
混乱の中での判断。
その差が、わずか数秒で表れ始めていた。
「……!」
出久も動く。
肩を入れる。
足を滑らせる。
押される力に逆らわず、逆に利用する。
人波の流れ。
体重の傾き。
倒れかけた生徒の腕。
全てを視界の端で捉えながら、無理やり身体をねじ込んだ。
「す、すみません!」
「うわっ!?」
誰かの脇を抜ける。
転倒しそうな生徒の肩を押し返し、その反動で自分の身体を前へ押し出す。
出口。
あと数歩。
そこで、前方の生徒が詰まる。
「っ……!」
出久の足元で、骨が僅かに軋んだ。
外へは出さない。
派手には見せない。
だが、内部で筋骨を弾く。
瞬間的な推進。
ドンッ!!
出久の身体が、隙間を突き破るように前へ飛び出した。
「——っ!」
視界が開ける。
スタートゲートを抜けた。
熱気と圧迫から解放され、冷たい外周コースの風が頬を叩く。
『おおっとォ!? 早速抜けてきたのはやはりヒーロー科!!』
実況の声が響く。
『爆豪! 轟! 飯田! 夜嵐! そしてA組の緑谷も続くゥ!!』
前方。
爆豪が爆風を噴かしながら飛ぶ。
その少し横で、轟が無駄のない走りで進んでいる。
1−Bの面々も、次々と出口を突破していた。
そして。
「……来た」
出久の視界に、最初の障害が飛び込んでくる。
コース開始から、まだ数メートル。
そこに、巨大な影が並んでいた。
仮想ヴィラン。
雄英入試で使われた戦闘訓練用ロボ。
一点。
二点。
三点。
大小様々なロボットが、道を塞ぐように配置されている。
金属の脚部が地面を踏み鳴らし、センサーアイが赤く光った。
『第一障害はァ!?』
プレゼント・マイクが叫ぶ。
『おなじみ入試用仮想ヴィラン軍団だァ!!』
観客席が沸く。
だが、出久の視線はその奥へ向いていた。
さらに先。
小型ロボの群れの奥。
壁のように並ぶ、数体の巨大ロボ。
0点ヴィラン。
入試で受験者達を絶望させた、あの巨体。
それが何体も並び、コースを塞いでいた。
「……っ」
出久の喉が鳴る。
巨大。
圧迫感。
入試の日の記憶が、一瞬だけ蘇る。
だが。
今は違う。
あの日の自分とは、違う。
「上等だァ!!」
前方で爆豪が吠えた。
爆破音。
轟の足元からは、白い霜が走り始める。
夜嵐イナサは、凄まじい風を纏って笑っていた。
第一障害。
仮想ヴィラン群。
その壁へ向けて、先頭集団が一斉に突っ込んでいった。
次の瞬間。
ゴォォォォッ!!
轟の足元から、凄まじい勢いで氷結が広がった。
「凍れ」
低い声。
コース全域へ、白い氷が一気に走る。
仮想ヴィラン群の脚部。
地面。
障害物。
まとめて凍り付き、金属音を響かせながら動きを止めた。
『おおっとォ!? 推薦入試組トップの一角!! 轟焦凍!! 開幕から超広範囲制圧ゥ!!』
観客席がどよめく。
だが。
それだけでは終わらない。
「うおおおおおっっ!!」
轟の横。
夜嵐イナサが、両腕を大きく振り上げた。
瞬間。
ドガァァァァッ!!
暴風。
空気そのものが爆発したみたいな衝撃が、コースを薙ぎ払う。
巨大な風塊が仮想ヴィラン群へ直撃し、数トン級のロボ達をまとめて吹き飛ばした。
金属が宙を舞う。
横転。
激突。
そのまま。
奥に並んでいた0点ヴィラン級巨大ロボの身体すら、大きく体勢を崩した。
「うおっ……!?」
「マジかよ!?」
後続集団から悲鳴が上がる。
風圧だけで身体が持っていかれそうになる。
『推薦入試組!! 轟と夜嵐!! 完全に別格だァ!!』
実況が絶叫する。
実際。
レベルが違った。
広範囲。
高火力。
しかも制御精度まで高い。
まるで災害そのものだった。
轟は凍らせたロボ群の上を最短距離で走り抜ける。
夜嵐は風で身体を浮かせ、そのまま先頭を滑空した。
一気に先行。
その背中を。
「待てやァ!!」
爆豪が追う。
ババババッ!!
連続爆破。
爆風推進で空中へ跳ね上がる。
地上は既に大渋滞だった。
なら。
上を行く。
「邪魔だァ!!」
空中で爆破。
吹き飛ぶ小型ロボ。
その隙間を、爆豪が弾丸みたいに突き抜けていく。
「おっしゃあ!!」
瀬呂も動いた。
テープを巨大ロボへ射出。
そのままターザンみたいに身体を振り、空中ルートへ移行する。
尾白も、瓦礫を蹴って連続跳躍。
長い尾を支点に、機敏に障害物を飛び越えていった。
上。
横。
隙間。
各々が、自分の“最適解”で突破を始めていた。
「……!」
出久も走る。
視界の端で、迫る小型ロボ。
振り返らない。
見もしない。
ただ。
走りながら、肘を軽く振る。
ドゴッ!!
鈍い音。
背後でロボの頭部が砕け飛んだ。
『おっと!? 緑谷も止まらない!!』
実況が反応する。
出久の視線は、既に前しか見ていなかった。
(止まるな)
脚。
重心。
呼吸。
視線誘導。
全部が噛み合う。
0点ヴィラン。
巨大ロボ達が、壁みたいに並んでいる。
だが。
(完全封鎖じゃない)
関節。
脚部の隙間。
機体間距離。
僅かな空間。
ある。
通れる。
瞬時に脳内でルートが組み上がった。
左脚の内側。
二歩。
瓦礫。
跳躍。
右機体の死角。
「っ!」
出久が加速する。
迫る巨大ロボの足。
振り下ろされる鉄塊。
その寸前。
地面を滑るように身体を倒し、脚部の間をすり抜けた。
ギギギギッ!!
巨大ロボが旋回する。
センサーが出久を捉える。
だが遅い。
出久は、既に次の機体の陰へ潜り込んでいた。
走る。
抜ける。
跳ぶ。
その動きは、まるで巨大生物の群れを縫って進む小動物みたいだった。
「……!」
視界の先。
轟。
夜嵐。
爆豪。
先頭集団。
出久は、0点ヴィラン群の隙間を駆け抜けながら、その背中を追った。
先頭は夜嵐と轟。
そのすぐ後ろに爆豪。
少し遅れて、出久と瀬呂、尾白が続く。
第一障害を抜けた瞬間。
視界が、さらに開けた。
「……は?」
思わず、誰かが声を漏らす。
次に現れたのは、谷だった。
深い。
明らかに校内施設の一部とは思えない、巨大な人工渓谷。
左右の崖は高く、その間には、柱のように切り立った岩が幾つも並んでいる。
そして。
その岩柱同士を繋ぐように、ロープが張られていた。
「どうやって作ったんだこれ……」
瀬呂が、呆れたように呟く。
『第二障害!!』
プレゼント・マイクの声が、頭上から響く。
『落ちたら当然アウトだぜ!! 岩柱ロープ渡りィィィ!!』
「楽しそうっスねぇぇぇ!!」
先頭の夜嵐が叫ぶ。
そのまま風を纏い、ロープなどほとんど使わず岩柱間を飛ぶ。
轟は氷の足場を瞬間的に作りながら、最短距離で渡っていく。
「チッ、派手に飛びやがって!」
爆豪は爆破で空中姿勢を制御しながら、岩柱を蹴って先を急ぐ。
出久も、止まらなかった。
ロープへ飛び移る。
揺れる。
足場は不安定。
下を見れば、深い谷底。
だが。
(揺れの周期。次の岩柱までの距離。踏み込み角度——)
分析する。
走る。
ロープの揺れに逆らわず、むしろ利用する。
身体を沈め、反動で跳ぶ。
「っ!」
岩柱へ着地。
そのまま次のロープへ。
背後では、何人かが悲鳴を上げていた。
だが、先頭集団は崩れない。
ヒーロー科上位陣は、地形そのものを攻略しながら進んでいく。
やがて。
最後の岩柱を越えた先。
コースは、開けた平地へ続いていた。
そして。
そこに、異様な静けさがあった。
「……」
出久は、足を止めかける。
広い。
平坦。
障害物らしいものは見えない。
だが。
嫌な予感がした。
『さぁさぁさぁ!! いよいよ最終障害だァ!!』
プレゼント・マイクの声が、妙に楽しそうに響く。
『見た目はただの平地!! だが油断すんなよ!?』
巨大モニターに、地面の断面図が映し出される。
そこに大量の丸い印。
『地雷原だァァァァ!!』
観客席が沸いた。
『安心しろ威力はねぇ!! 安全第一の雄英仕様!!』
一拍。
『ただし音と衝撃は失禁クラスだァァァ!!』
「言い方!!」
後方から上鳴の叫びが聞こえた。
だが、笑っている余裕はない。
出久は、地面を睨む。
先頭では、轟と夜嵐、爆豪が既に地雷原へ差し掛かっていた。
土の色。
僅かな盛り上がり。
不自然な窪み。
見える。
見分けられる。
だが。
(全部避けてたら遅い)
出久の呼吸が、深くなる。
最終障害。
ここで順位が決まる。
先頭との距離は、まだある。
だが。
追いつけない距離ではない。
出久は、前を見た。
轟。
夜嵐。
爆豪。
そして、そのさらに先にあるゴール。
「……よし」
小さく呟き、出久は地雷原へ一歩踏み込んだ。