間違えずに、失う者たち   作:助兵衛

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第24話 激闘!体育祭

 ──雄英体育祭当日。

 

 空は快晴だった。

 青く、高く、雲一つない。まるで日本中がこの日を待っていたみたいな空だった。

 

「すっげぇ……」

 

 雄英高校巨大競技場前で、切島が思わず声を漏らす。

 

 目の前に広がっているのは、もはや“学校施設”ではなかった。

 楕円状の超大型スタジアム、外壁へ埋め込まれた巨大モニター、観客導線、警備ゲート、報道陣用エリア。

 その全てが、プロスポーツの国際大会レベルで整備されている。

 

 まるで国際陸上競技場だった。

 いや、ヒーロー社会においては、それ以上の価値を持つ舞台かもしれない。

 

 なにせ、ここには毎年、全国中継が入る。

 そして未来のヒーロー候補生達を、プロヒーロー達が直接見定めに来る。

 ヒーロー科の生徒にとっては、実質的な公開オーディションだった。

 

「人、多すぎだろ……」

 

 上鳴が引き気味に呟く。

 

 競技場周辺だけで、既に異様な熱気だった。

 観客列、報道ヘリ、企業スポンサーの巨大広告、テレビ局スタッフ。

 そして一般警備員に混ざるように、各所へ立つ“ヒーロー”達。

 

「おい、あれ……」

 

 瀬呂が入口ゲート方向を指差す。

 

 そこには、サイドキックを数人引き連れたプロヒーローが立っていた。

 別方向では機械化スーツを装備したヒーローが巡回しており、更に上空では、飛行系個性を持つヒーローらしき影が警戒飛行を行っている。

 

「警備、エグ……」

 

 芦戸が目を丸くする。

 

「USJの件があったからだろうな。雄英側も、相当警戒している」

 

 常闇が低く言う。

 

 実際、スタジアム周辺の空気はどこか張り詰めていた。

 華やかさの裏側に、鋭い緊張感がある。

 USJ襲撃事件の衝撃は、まだ社会全体へ色濃く残っていた。

 

 だからこそ、この体育祭には“象徴”としての意味もある。

 雄英は健在だと、ヒーロー社会は揺らがないと、世間へ示すための祭典でもあった。

 

「……」

 

 出久は、競技場を見上げたまま動かなかった。

 

 巨大モニター、歓声、人波、テレビカメラ。

 憧れていた。ずっと、子供の頃から。

 テレビ越しに見ていた舞台。雄英体育祭。

 ヒーロー達が未来を見つける場所であり、ヒーローの卵達が全国へ名を刻む場所。

 

「おいおい! ぼさっとしてっと置いてかれんぞ!」

 

 切島の声で、出久ははっと我に返った。

 

「……っ、あ」

 

 気付けば、他の生徒達は既にスタジアム入口へ向かっている。

 巨大ゲートの向こうではスタッフ達が慌ただしく走り回り、拡声器の声が飛び交っていた。

 

『ヒーロー科一年生は至急選手控室へ移動してください!』

 

『開会式開始五分前です!』

 

「やっべ!」

 

 上鳴が慌てて駆け出す。

 

「急げ急げ!」

 

 1−Aの生徒達も、一斉にスタジアム内部へ流れ込んでいく。

 

 内部通路はまるで大型競技施設そのものだった。

 広い白壁の通路に天井照明が並び、無数の案内表示の下を、大勢の生徒達とスタッフが慌ただしく行き交っている。

 

「うわぁ……ほんまにプロスポーツ会場みたいや……」

 

 麗日がきょろきょろと辺りを見回す。

 

「というか、下手なプロリーグより金掛かってそうだな」

 

 更衣室前へ到着すると、各クラスごとに案内が分かれていた。

 『ヒーロー科1−A』の表示を確認し、中へ入る。

 

 ロッカー、ベンチ、モニター。既に数人が着替え始めていた。

 

「おーし!」

 

 切島が制服を脱ぎ捨てながら叫ぶ。

 

「気合い入ってきたぁ!!」

 

「朝からうるせぇな」

 

 爆豪が吐き捨てる。

 だが、その目も完全に獲物を狙う目だった。

 

 出久も静かに制服へ手を掛ける。

 

 体育祭専用の雄英ジャージ。

 白と青を基調にしたシンプルな体育服。ヒーロースーツではない。

 それでも、この服には特別な意味があった。

 

 テレビで何度も見た。

 歴代ヒーロー達が、この舞台で着ていた服。

 袖を通すと、胸が少しだけ高鳴った。

 

 その瞬間だけは、AFOも、黒い衝動も、全部遠くへ追いやれた気がした。

 

『ヒーロー科一年、入場準備を開始してください!』

 

 館内放送が響く。

 

「行くぞ」

 

 轟が静かに立ち上がり、1−A全員が更衣室を後にした。

 

 そして巨大な入場ゲートを抜けた瞬間、凄まじい歓声が全身を叩いた。

 

「っ……!」

 

 出久の目が見開かれる。

 

 広い。圧倒的に広い。

 巨大競技場の中央にはトラックとフィールドが広がり、観客席を埋め尽くす人、人、人。

 数万人規模の歓声が、地鳴りみたいに響いていた。

 

『さぁ今年も集まりました!!』

 

『未来のヒーロー達!!』

 

 実況マイクが響き渡る。

 巨大モニターへ、ヒーロー科、普通科、サポート科、経営科の生徒達が次々と映し出されていく。

 その中でも、やはり注目を集めているのはヒーロー科だった。

 

「うおぉ……これ全国中継されてんだよな……!?」

 

 峰田が完全に呑まれている。

 

「当然ですわ」

 

 八百万が小さく息を吐く。

 

 既に一年全クラスが整列していた。

 1−A、1−B、普通科。全員が、巨大スタジアム中央へ並ぶ。

 

 その熱気の中で、MCヒーロー、プレゼント・マイクのテンションだけが異様だった。

 

『それではァ!! まずは選手宣誓!!』

 

 歓声、ライト、カメラ。

 

『担当するのはァ!!』

 

 巨大モニターへ、一人の名前が表示される。

 

『ヒーロー科1−A!! 一般入試実技トップ!! 爆豪勝己ィィィ!!』

 

 ドッ、と歓声が上がる。

 

「うわ」

 

 瀬呂が嫌そうな顔をし、耳郎も顔を引き攣らせた。

 

 そんな反応など一切気にせず、爆豪がずかずかと前へ出る。

 その足取りは堂々としているというより、喧嘩を売りに行くみたいだった。

 

 壇上中央。マイク前へ立つ。

 

 数万人の観客、全国中継、プロヒーロー達。

 その全てを前にしても、爆豪は一切怯まなかった。むしろ不敵に笑う。

 

「宣誓」

 

 マイク越しの声が、競技場全体へ響いた。

 

「俺が」

 

 一拍。

 

「一位になる」

 

 会場全体が、一瞬だけ止まった。

 次の瞬間、凄まじい大ブーイングが競技場を揺らす。

 

 爆豪は全く気にしなかった。むしろ、ニヤァと笑みを深める。

 

「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」

 

 更にブーイングが増した。

 

 その光景を見ながら、出久はほんの少しだけ笑ってしまう。

 

「……自分を追い込んでるんだ。かっちゃんらしいな」

 

 変わっていない。

 かっちゃんは、どれだけ大舞台でも、どれだけ注目されても、絶対に自分を曲げない。

 その背中を見つめながら、出久の胸の奥で静かに熱が灯り始めていた。

 

 観客席では、まだブーイングと歓声が入り混じっている。

 だが、その熱気すら体育祭の一部だった。

 

 巨大モニターへ、“第一種目”の文字が映し出される。

 

 途端、スタジアム全体の空気が変わった。

 

『さぁ!! それじゃあ早速行こうじゃねぇか!!』

 

 プレゼント・マイクの声が、再び響き渡る。

 

 フィールド中央へ、大型スクリーンがせり上がった。

 

『予選を兼ねた第一種目!!』

 

 観客席が沸き立つ。

 

『障害物競走ォォォォッ!!!』

 

 歓声と爆音が響くと同時に、スタジアムの一角が重々しい音を立てて開き始めた。

 

「……!」

 

 出久の目が見開かれる。

 

 競技場外周部。巨大ゲートが左右へ展開し、その向こうに長大なコースが姿を現す。

 

 コンクリート、鉄骨、人工地形、起伏、崖。

 複数のエリアが、スタジアム外周をぐるりと囲むように伸びている。

 

『舞台はスタジアム外周特設コース!!』

 

『ただ走るだけじゃ面白くねぇ!! ヒーロー候補生なら、どんな障害もブチ抜いて進めェ!!』

 

「うおぉ……めちゃくちゃ楽しそうじゃねぇか!!」

 

 切島が目を輝かせる。

 

「楽しそうで済むかこれ……?」

 

 尾白が引き気味に言う。

 

 既にスタート地点へ、一年全員が集められていた。

 百数十人近い生徒が巨大ゲート前へ密集しており、異様なほど狭い。

 しかもスタートラインの先にある通路は、逆に細かった。

 

 つまり、最初の突破だけで大混雑になる。

 

「うわ……絶対詰まる」

 

 麗日が顔を引き攣らせる。

 

「前行ける気せぇへん……」

 

「フン」

 

 轟は無表情のまま前方を見る。

 

 爆豪は既に殺気立っており、掌からバチバチと火花を散らしていた。

 

「邪魔すんなよモブ共」

 

 一方、出久は人の流れを観察していた。

 前列、後列、身体能力型、広範囲型、突撃型。そして、出口の幅。

 

(出口が狭い……)

 

 脳内で、即座にシミュレーションが始まる。

 

 この人数、この密度、この通路幅。

 スタート直後、確実に団子状態になる。転倒、押し潰し、進路妨害。

 そこで止まれば、一気に置いていかれる。

 

(なら——)

 

 その瞬間、プレゼント・マイクが勢いよく腕を振り上げた。

 

『OKAAAY!! それじゃあ行くぜェ!? カウントダウン!!』

 

 巨大モニターへ数字が映る。

 

『3!!』

 

 ざわっ、と空気が揺れる。

 

『2!!』

 

 皆が一斉に前傾姿勢を取る。

 筋肉が緊張し、視線が鋭くなる。

 

『1!!』

 

 出久の鼓動が、大きく跳ねた。

 

『STARTォォォォォッ!!!』

 

 号砲と同時に、人波が爆発した。

 

「うぉぉぉぉっ!!!」

 

「どけぇぇ!!」

 

「前!! 前行け!!」

 

 狭い出口へ全員が殺到する。

 肩がぶつかり、押し合い、悲鳴と怒号が飛ぶ。

 

 開始数秒で、スタート地点は地獄みたいな混雑になっていた。

 

「っ!?」

 

 出久も人波に押される。呼吸が詰まり、視界が埋まる。

 この時点から、もう始まっている。

 

 出久の目が鋭く細まった直後、最前列で爆発音が響いた。

 

「邪魔だァ!!」

 

 爆豪が掌の爆破で身体を浮かせるように前へ飛ぶ。

 人の頭上すれすれを抜け、狭い出口へ強引に突っ込んでいった。

 

「ぐわっ!?」

 

「ちょ、危なっ!」

 

 爆豪は止まらない。

 

 爆風で生まれた僅かな隙間へ、ヒーロー科の生徒達が次々と滑り込んでいく。

 

「悪いな!」

 

 切島が身体を硬化させ、押し合いの中を強引に抜ける。

 瀬呂はテープを天井側へ貼り付け、身体を振り子のように前へ飛ばした。

 飯田も、まだ本調子ではない脚を庇いながら、低い姿勢で人波の隙間を縫っていく。

 

「くっ……!」

 

 普通科の生徒達が押し戻される中、ヒーロー科の面々だけが一歩早い。

 個性の使い方、身体の捌き方、混乱の中での判断。

 その差が、わずか数秒で表れ始めていた。

 

 出久も動く。

 

 肩を入れ、足を滑らせ、押される力に逆らわず、逆に利用する。

 人波の流れ、体重の傾き、倒れかけた生徒の腕。

 その全てを視界の端で捉えながら、無理やり身体をねじ込んだ。

 

「す、すみません!」

 

「うわっ!?」

 

 誰かの脇を抜け、転倒しそうな生徒の肩を押し返し、その反動で自分の身体を前へ押し出す。

 

 出口まで、あと数歩。

 そこで、前方の生徒が詰まった。

 

「っ……!」

 

 出久の足元で、骨が僅かに軋む。

 

 外へは出さない、派手には見せない。

 だが、内部で筋骨を弾く。

 

 瞬間的な推進。

 

 出久の身体が、隙間を突き破るように前へ飛び出した。

 

「——っ!」

 

 視界が開ける。

 

 スタートゲートを抜けた瞬間、熱気と圧迫から解放され、冷たい外周コースの風が頬を叩いた。

 

『おおっとォ!? 早速抜けてきたのはやはりヒーロー科!!』

 

 実況の声が響く。

 

『爆豪! 轟! 飯田! 夜嵐! そしてA組の緑谷も続くゥ!!』

 

 前方では、爆豪が爆風を噴かしながら飛んでいる。

 その少し横で、轟が無駄のない走りで進み、1−Bの面々も次々と出口を突破していた。

 

「……来た」

 

 出久の視界に、最初の障害が飛び込んでくる。

 

 コース開始から、まだ数メートル。そこに巨大な影が並んでいた。

 

 仮想ヴィラン。雄英入試で使われた戦闘訓練用ロボ。

 一点、二点、三点。大小様々なロボットが道を塞ぐように配置され、金属の脚部が地面を踏み鳴らす。センサーアイが赤く光った。

 

『第一障害はァ!?』

 

 プレゼント・マイクが叫ぶ。

 

『おなじみ入試用仮想ヴィラン軍団だァ!!』

 

 観客席が沸く。

 だが、出久の視線はその奥へ向いていた。

 

 小型ロボの群れの更に奥。そこには、数体の巨大ロボが壁のように並んでいる。

 

 0点ヴィラン。

 

 入試で受験者達を絶望させた、あの巨体。

 それが何体も並び、コースを塞いでいた。

 

「……っ」

 

 出久の喉が鳴る。

 

 巨大な圧迫感に、入試の日の記憶が一瞬だけ蘇る。

 だが、今は違う。あの日の自分とは違う。

 

「上等だァ!!」

 

 前方で爆豪が吠えた。

 

 爆破音が響き、轟の足元からは白い霜が走り始める。

 夜嵐イナサは、凄まじい風を纏って笑っていた。

 

 第一障害、仮想ヴィラン群。

 その壁へ向けて、先頭集団が一斉に突っ込んでいく。

 

 次の瞬間、轟の足元から凄まじい勢いで氷結が広がった。

 

「凍れ」

 

 低い声と共に、コース全域へ白い氷が一気に走る。

 仮想ヴィラン群の脚部、地面、障害物。それらをまとめて凍り付かせ、金属音を響かせながら動きを止めた。

 

『おおっとォ!? 推薦入試組トップの一角!! 轟焦凍!! 開幕から超広範囲制圧ゥ!!』

 

 観客席がどよめく。

 

 だが、それだけでは終わらない。

 

「うおおおおおっっ!!」

 

 轟の横で、夜嵐イナサが両腕を大きく振り上げた。

 

 瞬間、暴風がコースを薙ぎ払う。

 空気そのものが爆発したみたいな衝撃が仮想ヴィラン群へ直撃し、数トン級のロボ達をまとめて吹き飛ばした。

 

 金属が宙を舞い、横転し、激突する。

 その衝撃で、奥に並んでいた0点ヴィラン級巨大ロボの身体すら大きく体勢を崩した。

 

「うおっ……!?」

 

「マジかよ!?」

 

 後続集団から悲鳴が上がる。風圧だけで身体が持っていかれそうになるほどだった。

 

『推薦入試組!! 轟と夜嵐!! 完全に別格だァ!!』

 

 実況が絶叫する。

 

 実際、レベルが違った。

 広範囲、高火力、しかも制御精度まで高い。

 

 轟は凍らせたロボ群の上を最短距離で走り抜け、夜嵐は風で身体を浮かせ、そのまま先頭を滑空する。

 

 一気に先行した二人の背中を、爆豪が追った。

 

「待てやァ!!」

 

 連続爆破。爆風推進で空中へ跳ね上がる。

 

 地上は既に大渋滞だった。

 なら、上を行く。

 

「邪魔だァ!!」

 

 空中で爆破し、吹き飛ぶ小型ロボ。

 その隙間を、爆豪が弾丸みたいに突き抜けていく。

 

「おっしゃあ!!」

 

 瀬呂も動いた。テープを巨大ロボへ射出し、そのままターザンみたいに身体を振って空中ルートへ移行する。

 尾白も瓦礫を蹴って連続跳躍し、長い尾を支点にして機敏に障害物を飛び越えていった。

 

 上、横、隙間。各々が、自分の“最適解”で突破を始めていた。

 

 出久も走る。

 視界の端で、小型ロボが迫る。

 振り返らない。見もしない。ただ走りながら、肘を軽く振った。

 

 鈍い音が響き、背後でロボの頭部が砕け飛ぶ。

 

『おっと!? 緑谷も止まらない!!』

 

 実況が反応する。

 

 出久の視線は、既に前しか見ていなかった。

 

(止まるな)

 

 脚、重心、呼吸、視線誘導。その全部が噛み合う。

 

 0点ヴィラン。巨大ロボ達が、壁みたいに並んでいる。

 だが、完全封鎖ではない。

 関節、脚部の隙間、機体間距離。僅かな空間が、確かにある。

 

 通れる。

 

 瞬時に脳内でルートが組み上がった。

 左脚の内側、二歩、瓦礫、跳躍、右機体の死角。

 

「っ!」

 

 出久が加速する。

 

 迫る巨大ロボの足。振り下ろされる鉄塊。

 その寸前で、出久は地面を滑るように身体を倒し、脚部の間をすり抜けた。

 

 巨大ロボが旋回し、センサーが出久を捉える。

 だが遅い。出久は既に次の機体の陰へ潜り込んでいた。

 

 走る。抜ける。跳ぶ。

 その動きは、まるで巨大生物の群れを縫って進む小動物みたいだった。

 

 先頭は夜嵐と轟。そのすぐ後ろに爆豪。少し遅れて、出久と瀬呂、尾白が続く。

 

 第一障害を抜けた瞬間、視界がさらに開けた。

 

「……は?」

 

 思わず、誰かが声を漏らす。

 

 次に現れたのは、谷だった。

 

 深い。明らかに校内施設の一部とは思えない、巨大な人工渓谷。

 左右の崖は高く、その間には柱のように切り立った岩が幾つも並んでいる。

 そして、その岩柱同士を繋ぐようにロープが張られていた。

 

「どうやって作ったんだこれ……」

 

 瀬呂が呆れたように呟く。

 

『第二障害!!』

 

 プレゼント・マイクの声が、頭上から響く。

 

『落ちたら当然アウトだぜ!! 岩柱ロープ渡りィィィ!!』

 

「楽しそうっスねぇぇぇ!!」

 

 先頭の夜嵐が叫び、そのまま風を纏って、ロープなどほとんど使わず岩柱間を飛ぶ。

 轟は氷の足場を瞬間的に作りながら、最短距離で渡っていった。

 

「チッ、派手に飛びやがって!」

 

 爆豪は爆破で空中姿勢を制御しながら、岩柱を蹴って先を急ぐ。

 

 出久も止まらなかった。

 

 ロープへ飛び移る。

 足場は不安定で、下を見れば深い谷底。

 ロープが大きく揺れるが、出久はその揺れを殺さず、利用した。

 

(揺れの周期。次の岩柱までの距離。踏み込み角度——)

 

 分析しながら走る。

 身体を沈め、反動で跳ぶ。

 

「っ!」

 

 岩柱へ着地し、そのまま次のロープへ。

 背後では何人かが悲鳴を上げていたが、先頭集団は崩れない。

 ヒーロー科上位陣は、地形そのものを攻略しながら進んでいく。

 

 やがて最後の岩柱を越えた先で、コースは開けた平地へ続いていた。

 

 そこには、異様な静けさがあった。

 

「……」

 

 出久は足を止めかける。

 

 広く、平坦で、障害物らしいものは見えない。だが、嫌な予感がした。

 

『さぁさぁさぁ!! いよいよ最終障害だァ!!』

 

 プレゼント・マイクの声が、妙に楽しそうに響く。

 

『見た目はただの平地!! だが油断すんなよ!?』

 

 巨大モニターに、地面の断面図が映し出される。

 そこには大量の丸い印があった。

 

『地雷原だァァァァ!!』

 

 観客席が沸く。

 

『安心しろ威力はねぇ!! 安全第一の雄英仕様!!』

 

 一拍置いて、プレゼント・マイクが更に叫んだ。

 

『ただし音と衝撃は失禁クラスだァァァ!!』

 

「言い方!!」

 

 後方から上鳴の叫びが聞こえた。

 だが、笑っている余裕はない。

 

 出久は地面を睨む。

 先頭では、轟と夜嵐、爆豪が既に地雷原へ差し掛かっていた。

 土の色、僅かな盛り上がり、不自然な窪み。見える。見分けられる。

 だが、全部避けていたら遅い。

 

 出久の呼吸が、深くなる。

 最終障害。ここで順位が決まる。先頭との距離はまだあるが、追いつけない距離ではない。

 

 出久は、前を見た。

 轟、夜嵐、爆豪。そして、そのさらに先にあるゴール。

 

「……よし」

 

 小さく呟き、出久は地雷原へ一歩踏み込んだ。

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