間違えずに、失う者たち   作:助兵衛

24 / 25
第24話 激闘!体育祭

 ──雄英体育祭当日。

 

 空は、快晴だった。

 

 青く。

 

 高く。

 

 雲一つない。

 

 まるで、日本中がこの日を待っていたみたいな空だった。

 

「すっげぇ……」

 

 雄英高校巨大競技場前。

 

 切島が、思わず声を漏らす。

 

 目の前に広がっているのは、もはや“学校施設”ではなかった。

 

 巨大。

 

 圧倒的なスケール。

 

 楕円状の超大型スタジアム。

 

 外壁へ埋め込まれた巨大モニター。

 

 観客導線。

 

 警備ゲート。

 

 報道陣用エリア。

 

 その全てが、プロスポーツの国際大会レベルで整備されている。

 

 まるで国際陸上競技場だった。

 

 いや。

 

 ヒーロー社会においては、それ以上の価値を持つ舞台かもしれない。

 

 なにせ。

 

 ここには毎年、全国中継が入る。

 

 そして。

 

 未来のヒーロー候補生達を、プロヒーロー達が直接見定めに来る。

 

 ヒーロー科生徒にとっては、実質的な公開オーディションだった。

 

「人、多すぎだろ……」

 

 上鳴が、引き気味に呟く。

 

 競技場周辺だけで、既に異様な熱気だった。

 

 観客列。

 

 報道ヘリ。

 

 企業スポンサーの巨大広告。

 

 テレビ局スタッフ。

 

 そして。

 

 一般警備員に混ざるように、各所へ立つ“ヒーロー”達。

 

「おい、あれ……」

 

 瀬呂が、入口ゲート方向を指差す。

 

 そこには。

 

 サイドキックを数人引き連れたプロヒーローが立っていた。

 

 別方向では、機械化スーツを装備したヒーローが巡回している。

 

 更に上空。

 

 飛行系個性を持つヒーローらしき影が、警戒飛行を行っていた。

 

「警備、エグ……」

 

 芦戸が目を丸くする。

 

「USJの件があったからだろうな」

 

 常闇が低く言う。

 

「雄英側も、相当警戒している」

 

 実際。

 

 スタジアム周辺の空気は、どこか張り詰めていた。

 

 華やかさの裏側に、鋭い緊張感がある。

 

 USJ襲撃事件。

 

 その衝撃は、まだ社会全体へ色濃く残っていた。

 

 だからこそ。

 

 この体育祭には、“象徴”としての意味もある。

 

 雄英は健在だと。

 

 ヒーロー社会は揺らがないと。

 

 世間へ示すための祭典。

 

「……」

 

 出久は、競技場を見上げたまま動かなかった。

 

 巨大モニター。

 

 歓声。

 

 人波。

 

 テレビカメラ。

 

 憧れていた。

 

 ずっと。

 

 子供の頃から。

 

 テレビ越しに見ていた舞台。

 

 雄英体育祭。

 

 ヒーロー達が未来を見つける場所。

 

 ヒーローの卵達が、全国へ名を刻む場所。

 

「おいおい! ぼさっとしてっと置いてかれんぞ!」

 

 切島の声で、出久ははっと我に返った。

 

「……っ、あ」

 

 気付けば、他の生徒達は既にスタジアム入口へ向かっている。

 

 巨大ゲートの向こう。

 

 スタッフ達が慌ただしく走り回り、拡声器の声が飛び交っていた。

 

『ヒーロー科一年生は至急選手控室へ移動してください!』

 

『開会式開始五分前です!』

 

「やっべ!」

 

 上鳴が慌てて駆け出す。

 

「急げ急げ!」

 

 1−Aの生徒達も、一斉にスタジアム内部へ流れ込んでいく。

 

 内部通路は、まるで大型競技施設そのものだった。

 

 広い。

 

 白い壁。

 

 天井照明。

 

 無数の案内表示。

 

 そこを、大勢の生徒達とスタッフが慌ただしく行き交っている。

 

「うわぁ……」

 

 麗日が、きょろきょろと辺りを見回す。

 

「ほんまにプロスポーツ会場みたいや……」

 

「というか、下手なプロリーグより金掛かってそうだな」

 

 瀬呂が苦笑する。

 

 更衣室前へ到着すると、各クラスごとに案内が分かれていた。

 

『ヒーロー科1−A』

 

 表示を確認しながら、中へ入る。

 

 ロッカー。

 

 ベンチ。

 

 モニター。

 

 既に数人が着替え始めていた。

 

「おーし!」

 

 切島が制服を脱ぎ捨てながら叫ぶ。

 

「気合い入ってきたぁ!!」

 

「朝からうるせぇな」

 

 爆豪が吐き捨てる。

 

 だが。

 

 その目も、完全に獲物を狙う目だった。

 

「……」

 

 出久も、静かに制服へ手を掛ける。

 

 体育祭専用の雄英ジャージ。

 

 白と青を基調にしたシンプルな体育服。

 

 ヒーロースーツではない。

 

 だが。

 

 それでも、この服には特別な意味があった。

 

 テレビで何度も見た。

 

 歴代ヒーロー達が、この舞台で着ていた服。

 

「……」

 

 袖を通す。

 

 胸が、少しだけ高鳴った。

 

 その瞬間だけは。

 

 AFOも。

 

 黒い衝動も。

 

 全部、遠くへ追いやれた気がした。

 

『ヒーロー科一年、入場準備を開始してください!』

 

 館内放送が響く。

 

「行くぞ」

 

 轟が、静かに立ち上がる。

 

 1−A全員が、更衣室を後にした。

 

 そして。

 

 巨大な入場ゲートを抜けた瞬間。

 

 ドォォォォォッッッ!!! 

 

 凄まじい歓声が、全身を叩いた。

 

「っ……!」

 

 出久の目が見開かれる。

 

 広い。

 

 圧倒的に。

 

 巨大競技場の中央。

 

 トラック。

 

 フィールド。

 

 観客席を埋め尽くす人、人、人。

 

 数万人規模の歓声が、地鳴りみたいに響いていた。

 

『さぁ今年も集まりました!!』

 

『未来のヒーロー達!!』

 

 実況マイクが響き渡る。

 

 巨大モニターへ、各学科の生徒達が映し出されていく。

 

 ヒーロー科。

 

 普通科。

 

 サポート科。

 

 経営科。

 

 その中でも。

 

 やはり注目を集めているのはヒーロー科だった。

 

「うおぉ……」

 

 峰田が、完全に呑まれていた。

 

「これ全国中継されてんだよな……!?」

 

「当然ですわ」

 

 八百万が、小さく息を吐く。

 

 既に一年全クラスが整列していた。

 

 1−A。

 

 1−B。

 

 普通科。

 

 全員が、巨大スタジアム中央へ並ぶ。

 

 その熱気の中。

 

 MCヒーロー、プレゼント・マイクのテンションだけが異様だった。

 

『それではァ!! まずは選手宣誓!!』

 

 歓声。

 

 ライト。

 

 カメラ。

 

『担当するのはァ!!』

 

 巨大モニターへ、一人の名前が表示される。

 

『ヒーロー科1−A!! 一般入試実技トップ!! 爆豪勝己ィィィ!!』

 

 ドッ、と歓声が上がる。

 

 一方で。

 

「うわ」

 

 瀬呂が、嫌そうな顔をした。

 

 耳郎も顔を引き攣らせる。

 

 そして。

 

 爆豪が、ずかずかと前へ出た。

 

 堂々。

 

 いや。

 

 喧嘩を売るみたいな足取りだった。

 

 壇上中央。

 

 マイク前へ立つ。

 

 数万人の観客。

 

 全国中継。

 

 プロヒーロー達。

 

 その全てを前にしても、爆豪は一切怯まなかった。

 

 むしろ。

 

 不敵に笑う。

 

「宣誓」

 

 マイク越しの声が、競技場全体へ響く。

 

「俺が」

 

 一拍。

 

 そして。

 

「一位になる」

 

 沈黙。

 

 一瞬。

 

 会場全体が止まった。

 

 次の瞬間。

 

『ブゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!』

 

 凄まじい大ブーイングが競技場を揺らした。

 

 爆豪は全く気にしなかった。

 

 むしろ。

 

 ニヤァ、と笑みを深める。

 

「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」

 

 更にブーイングが増した。

 

 その光景を見ながら。

 

「……自分を追い込んでるんだ、かっちゃんらしいな」

 

 出久は、ほんの少しだけ笑ってしまった。

 

 変わってない。

 

 かっちゃんは。

 

 どれだけ大舞台でも。

 

 どれだけ注目されても。

 

 絶対に、自分を曲げない。

 

 その背中を見つめながら。

 

 出久の胸の奥で。

 

 静かに、熱が灯り始めていた。

 

 観客席では、まだブーイングと歓声が入り混じっていた。

 

 だが。

 

 その熱気すら、体育祭の一部だった。

 

 巨大モニターへ、“第一種目”の文字が映し出される。

 

 途端。

 

 スタジアム全体の空気が変わった。

 

『さぁ!!』

 

 プレゼント・マイクの声が、再び響き渡る。

 

『それじゃあ早速行こうじゃねぇか!!』

 

 ドンッ!! 

 

 フィールド中央へ、大型スクリーンがせり上がる。

 

『予選を兼ねた第一種目!!』

 

 観客席が沸き立つ。

 

『障害物競走ォォォォッ!!!』

 

 ドォォォォッ!!!! 

 

 歓声。

 

 爆音。

 

 同時に。

 

 ゴゴゴゴゴ、と。

 

 スタジアムの一角が、重々しい音を立てて開き始めた。

 

「……!」

 

 出久の目が見開かれる。

 

 競技場外周部。

 

 巨大ゲートが左右へ展開し、その向こうに長大なコースが姿を現した。

 

 コンクリート。

 

 鉄骨。

 

 人工地形。

 

 起伏。

 

 崖。

 

 複数のエリアが、スタジアム外周をぐるりと囲むように伸びている。

 

『舞台はスタジアム外周特設コース!!』

 

『ただ走るだけじゃ面白くねぇ!! ヒーロー候補生なら、どんな障害もブチ抜いて進めェ!!』

 

「うおぉ……」

 

 切島が、目を輝かせる。

 

「めちゃくちゃ楽しそうじゃねぇか!!」

 

「楽しそうで済むかこれ……?」

 

 尾白が引き気味に言う。

 

 既にスタート地点へ、一年全員が集められていた。

 

 狭い。

 

 異様に。

 

 百数十人近い生徒が、巨大ゲート前へ密集している。

 

 押し合い。

 

 熱気。

 

 緊張。

 

 スタートラインの先にある通路は、逆に細かった。

 

 つまり。

 

 最初の突破だけで、大混雑になる。

 

「うわ……絶対詰まる」

 

 麗日が顔を引き攣らせる。

 

「前行ける気せぇへん……」

 

「フン」

 

 轟は、無表情のまま前方を見る。

 

 爆豪は既に殺気立っていた。

 

「邪魔すんなよモブ共」

 

 掌から、バチバチと火花が散る。

 

 一方。

 

「……」

 

 出久は、人の流れを観察していた。

 

 前列。

 

 後列。

 

 身体能力型。

 

 広範囲型。

 

 突撃型。

 

 そして。

 

(出口が狭い……)

 

 脳内で、即座にシミュレーションが始まる。

 

 この人数。

 

 この密度。

 

 この通路幅。

 

 スタート直後、確実に団子状態になる。

 

 転倒。

 

 押し潰し。

 

 進路妨害。

 

 そこで止まれば、一気に置いていかれる。

 

(なら——)

 

 その瞬間。

 

『OKAAAY!! それじゃあ行くぜェ!?』

 

 プレゼント・マイクが、勢いよく腕を振り上げた。

 

『カウントダウン!!』

 

 巨大モニターへ数字が映る。

 

『3!!』

 

 ざわっ、と空気が揺れる。

 

『2!!』

 

 皆、一斉に前傾姿勢を取る。

 

 筋肉が緊張する。

 

 視線が鋭くなる。

 

『1!!』

 

 出久の鼓動が、大きく跳ねた。

 

『STARTォォォォォッ!!!』

 

 ドォォォォンッ!! 

 

 号砲。

 

 同時に。

 

「うぉぉぉぉっ!!!」

 

「どけぇぇ!!」

 

「前!! 前行け!!」

 

 一斉に、人波が爆発した。

 

 狭い出口へ、全員が殺到する。

 

 肩がぶつかる。

 

 押し合う。

 

 悲鳴。

 

 怒号。

 

 転倒。

 

 開始数秒で、スタート地点は地獄みたいな混雑になっていた。

 

「っ!?」

 

 出久も、人波に押される。

 

 呼吸が詰まる。

 

 視界が埋まる。

 

 だが。

 

(この時点から、もう始まってる……!)

 

 出久の目が、鋭く細まった。

 

 その直後。

 

 ドンッ!! 

 

 最前列で、爆発音が響いた。

 

「邪魔だァ!!」

 

 爆豪が、掌の爆破で身体を浮かせるように前へ飛ぶ。

 

 人の頭上すれすれを抜け、狭い出口へ強引に突っ込んでいった。

 

「ぐわっ!?」

「ちょ、危なっ!」

 

 だが、止まらない。

 

 むしろ。

 

 その爆風で生まれた僅かな隙間へ、ヒーロー科の生徒達が次々と滑り込む。

 

「悪いな!」

 

 切島が身体を硬化させ、押し合いの中を強引に抜ける。

 

 瀬呂はテープを天井側へ貼り付け、身体を振り子のように前へ飛ばした。

 

 飯田も、まだ本調子ではない脚を庇いながらも、低い姿勢で人波の隙間を縫っていく。

 

「くっ……!」

 

 普通科の生徒達が押し戻される中、ヒーロー科の面々だけが一歩早い。

 

 個性の使い方。

 

 身体の捌き方。

 

 混乱の中での判断。

 

 その差が、わずか数秒で表れ始めていた。

 

「……!」

 

 出久も動く。

 

 肩を入れる。

 

 足を滑らせる。

 

 押される力に逆らわず、逆に利用する。

 

 人波の流れ。

 

 体重の傾き。

 

 倒れかけた生徒の腕。

 

 全てを視界の端で捉えながら、無理やり身体をねじ込んだ。

 

「す、すみません!」

 

「うわっ!?」

 

 誰かの脇を抜ける。

 

 転倒しそうな生徒の肩を押し返し、その反動で自分の身体を前へ押し出す。

 

 出口。

 

 あと数歩。

 

 そこで、前方の生徒が詰まる。

 

「っ……!」

 

 出久の足元で、骨が僅かに軋んだ。

 

 外へは出さない。

 

 派手には見せない。

 

 だが、内部で筋骨を弾く。

 

 瞬間的な推進。

 

 ドンッ!! 

 

 出久の身体が、隙間を突き破るように前へ飛び出した。

 

「——っ!」

 

 視界が開ける。

 

 スタートゲートを抜けた。

 

 熱気と圧迫から解放され、冷たい外周コースの風が頬を叩く。

 

『おおっとォ!? 早速抜けてきたのはやはりヒーロー科!!』

 

 実況の声が響く。

 

『爆豪! 轟! 飯田! 夜嵐! そしてA組の緑谷も続くゥ!!』

 

 前方。

 

 爆豪が爆風を噴かしながら飛ぶ。

 

 その少し横で、轟が無駄のない走りで進んでいる。

 

 1−Bの面々も、次々と出口を突破していた。

 

 そして。

 

「……来た」

 

 出久の視界に、最初の障害が飛び込んでくる。

 

 コース開始から、まだ数メートル。

 

 そこに、巨大な影が並んでいた。

 

 仮想ヴィラン。

 

 雄英入試で使われた戦闘訓練用ロボ。

 

 一点。

 

 二点。

 

 三点。

 

 大小様々なロボットが、道を塞ぐように配置されている。

 

 金属の脚部が地面を踏み鳴らし、センサーアイが赤く光った。

 

『第一障害はァ!?』

 

 プレゼント・マイクが叫ぶ。

 

『おなじみ入試用仮想ヴィラン軍団だァ!!』

 

 観客席が沸く。

 

 だが、出久の視線はその奥へ向いていた。

 

 さらに先。

 

 小型ロボの群れの奥。

 

 壁のように並ぶ、数体の巨大ロボ。

 

 0点ヴィラン。

 

 入試で受験者達を絶望させた、あの巨体。

 

 それが何体も並び、コースを塞いでいた。

 

「……っ」

 

 出久の喉が鳴る。

 

 巨大。

 

 圧迫感。

 

 入試の日の記憶が、一瞬だけ蘇る。

 

 だが。

 

 今は違う。

 

 あの日の自分とは、違う。

 

「上等だァ!!」

 

 前方で爆豪が吠えた。

 

 爆破音。

 

 轟の足元からは、白い霜が走り始める。

 

 夜嵐イナサは、凄まじい風を纏って笑っていた。

 

 第一障害。

 

 仮想ヴィラン群。

 

 その壁へ向けて、先頭集団が一斉に突っ込んでいった。

 

 次の瞬間。

 

 ゴォォォォッ!! 

 

 轟の足元から、凄まじい勢いで氷結が広がった。

 

「凍れ」

 

 低い声。

 

 コース全域へ、白い氷が一気に走る。

 

 仮想ヴィラン群の脚部。

 

 地面。

 

 障害物。

 

 まとめて凍り付き、金属音を響かせながら動きを止めた。

 

『おおっとォ!? 推薦入試組トップの一角!! 轟焦凍!! 開幕から超広範囲制圧ゥ!!』

 

 観客席がどよめく。

 

 だが。

 

 それだけでは終わらない。

 

「うおおおおおっっ!!」

 

 轟の横。

 

 夜嵐イナサが、両腕を大きく振り上げた。

 

 瞬間。

 

 ドガァァァァッ!! 

 

 暴風。

 

 空気そのものが爆発したみたいな衝撃が、コースを薙ぎ払う。

 

 巨大な風塊が仮想ヴィラン群へ直撃し、数トン級のロボ達をまとめて吹き飛ばした。

 

 金属が宙を舞う。

 

 横転。

 

 激突。

 

 そのまま。

 

 奥に並んでいた0点ヴィラン級巨大ロボの身体すら、大きく体勢を崩した。

 

「うおっ……!?」

 

「マジかよ!?」

 

 後続集団から悲鳴が上がる。

 

 風圧だけで身体が持っていかれそうになる。

 

『推薦入試組!! 轟と夜嵐!! 完全に別格だァ!!』

 

 実況が絶叫する。

 

 実際。

 

 レベルが違った。

 

 広範囲。

 

 高火力。

 

 しかも制御精度まで高い。

 

 まるで災害そのものだった。

 

 轟は凍らせたロボ群の上を最短距離で走り抜ける。

 

 夜嵐は風で身体を浮かせ、そのまま先頭を滑空した。

 

 一気に先行。

 

 その背中を。

 

「待てやァ!!」

 

 爆豪が追う。

 

 ババババッ!! 

 

 連続爆破。

 

 爆風推進で空中へ跳ね上がる。

 

 地上は既に大渋滞だった。

 

 なら。

 

 上を行く。

 

「邪魔だァ!!」

 

 空中で爆破。

 

 吹き飛ぶ小型ロボ。

 

 その隙間を、爆豪が弾丸みたいに突き抜けていく。

 

「おっしゃあ!!」

 

 瀬呂も動いた。

 

 テープを巨大ロボへ射出。

 

 そのままターザンみたいに身体を振り、空中ルートへ移行する。

 

 尾白も、瓦礫を蹴って連続跳躍。

 

 長い尾を支点に、機敏に障害物を飛び越えていった。

 

 上。

 

 横。

 

 隙間。

 

 各々が、自分の“最適解”で突破を始めていた。

 

「……!」

 

 出久も走る。

 

 視界の端で、迫る小型ロボ。

 

 振り返らない。

 

 見もしない。

 

 ただ。

 

 走りながら、肘を軽く振る。

 

 ドゴッ!! 

 

 鈍い音。

 

 背後でロボの頭部が砕け飛んだ。

 

『おっと!? 緑谷も止まらない!!』

 

 実況が反応する。

 

 出久の視線は、既に前しか見ていなかった。

 

(止まるな)

 

 脚。

 

 重心。

 

 呼吸。

 

 視線誘導。

 

 全部が噛み合う。

 

 0点ヴィラン。

 

 巨大ロボ達が、壁みたいに並んでいる。

 

 だが。

 

(完全封鎖じゃない)

 

 関節。

 

 脚部の隙間。

 

 機体間距離。

 

 僅かな空間。

 

 ある。

 

 通れる。

 

 瞬時に脳内でルートが組み上がった。

 

 左脚の内側。

 

 二歩。

 

 瓦礫。

 

 跳躍。

 

 右機体の死角。

 

「っ!」

 

 出久が加速する。

 

 迫る巨大ロボの足。

 

 振り下ろされる鉄塊。

 

 その寸前。

 

 地面を滑るように身体を倒し、脚部の間をすり抜けた。

 

 ギギギギッ!! 

 

 巨大ロボが旋回する。

 

 センサーが出久を捉える。

 

 だが遅い。

 

 出久は、既に次の機体の陰へ潜り込んでいた。

 

 走る。

 

 抜ける。

 

 跳ぶ。

 

 その動きは、まるで巨大生物の群れを縫って進む小動物みたいだった。

 

「……!」

 

 視界の先。

 

 轟。

 

 夜嵐。

 

 爆豪。

 

 先頭集団。

 

 出久は、0点ヴィラン群の隙間を駆け抜けながら、その背中を追った。

 

 先頭は夜嵐と轟。

 そのすぐ後ろに爆豪。

 少し遅れて、出久と瀬呂、尾白が続く。

 

 第一障害を抜けた瞬間。

 

 視界が、さらに開けた。

 

「……は?」

 

 思わず、誰かが声を漏らす。

 

 次に現れたのは、谷だった。

 

 深い。

 

 明らかに校内施設の一部とは思えない、巨大な人工渓谷。

 

 左右の崖は高く、その間には、柱のように切り立った岩が幾つも並んでいる。

 

 そして。

 

 その岩柱同士を繋ぐように、ロープが張られていた。

 

「どうやって作ったんだこれ……」

 

 瀬呂が、呆れたように呟く。

 

『第二障害!!』

 

 プレゼント・マイクの声が、頭上から響く。

 

『落ちたら当然アウトだぜ!! 岩柱ロープ渡りィィィ!!』

 

「楽しそうっスねぇぇぇ!!」

 

 先頭の夜嵐が叫ぶ。

 

 そのまま風を纏い、ロープなどほとんど使わず岩柱間を飛ぶ。

 

 轟は氷の足場を瞬間的に作りながら、最短距離で渡っていく。

 

「チッ、派手に飛びやがって!」

 

 爆豪は爆破で空中姿勢を制御しながら、岩柱を蹴って先を急ぐ。

 

 出久も、止まらなかった。

 

 ロープへ飛び移る。

 

 揺れる。

 

 足場は不安定。

 

 下を見れば、深い谷底。

 

 だが。

 

(揺れの周期。次の岩柱までの距離。踏み込み角度——)

 

 分析する。

 

 走る。

 

 ロープの揺れに逆らわず、むしろ利用する。

 

 身体を沈め、反動で跳ぶ。

 

「っ!」

 

 岩柱へ着地。

 

 そのまま次のロープへ。

 

 背後では、何人かが悲鳴を上げていた。

 

 だが、先頭集団は崩れない。

 

 ヒーロー科上位陣は、地形そのものを攻略しながら進んでいく。

 

 やがて。

 

 最後の岩柱を越えた先。

 

 コースは、開けた平地へ続いていた。

 

 そして。

 

 そこに、異様な静けさがあった。

 

「……」

 

 出久は、足を止めかける。

 

 広い。

 

 平坦。

 

 障害物らしいものは見えない。

 

 だが。

 

 嫌な予感がした。

 

『さぁさぁさぁ!! いよいよ最終障害だァ!!』

 

 プレゼント・マイクの声が、妙に楽しそうに響く。

 

『見た目はただの平地!! だが油断すんなよ!?』

 

 巨大モニターに、地面の断面図が映し出される。

 

 そこに大量の丸い印。

 

『地雷原だァァァァ!!』

 

 観客席が沸いた。

 

『安心しろ威力はねぇ!! 安全第一の雄英仕様!!』

 

 一拍。

 

『ただし音と衝撃は失禁クラスだァァァ!!』

 

「言い方!!」

 

 後方から上鳴の叫びが聞こえた。

 

 だが、笑っている余裕はない。

 

 出久は、地面を睨む。

 

 先頭では、轟と夜嵐、爆豪が既に地雷原へ差し掛かっていた。

 

 土の色。

 

 僅かな盛り上がり。

 

 不自然な窪み。

 

 見える。

 

 見分けられる。

 

 だが。

 

(全部避けてたら遅い)

 

 出久の呼吸が、深くなる。

 

 最終障害。

 

 ここで順位が決まる。

 

 先頭との距離は、まだある。

 

 だが。

 

 追いつけない距離ではない。

 

 出久は、前を見た。

 

 轟。

 

 夜嵐。

 

 爆豪。

 

 そして、そのさらに先にあるゴール。

 

「……よし」

 

 小さく呟き、出久は地雷原へ一歩踏み込んだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。