間違えずに、失う者たち   作:助兵衛

25 / 25
第25話 障害物競走決着!

 出久は、地雷原へ突っ込んだ。

 

 土の色。

 

 僅かな盛り上がり。

 

 不自然な窪み。

 

 五感強化なら、見分けられる。

 

 だが。

 

(遅い)

 

 一つ一つ見て、避けて、判断していたら、それだけで差が開く。

 

 五感強化は万能に近い。

 

 視覚も、聴覚も、触覚も、嗅覚も、平衡感覚も底上げされる。

 

 だが、逆に言えば。

 

 特定の一芸へ尖った個性ではない。

 

 地雷の位置だけを完璧に探知する力ではない。

 

 なら。

 

(避けない)

 

 出久の足元で、白い骨が軋んだ。

 

 槍骨。

 

 膝下から、鋭い骨杭が伸びる。

 

 外から見れば、脚部を補助するスパイクのように。

 

 だが、その実態は、地面ごと踏み抜くための槍だった。

 

「——行く」

 

 一歩。

 

 ドスッ!! 

 

 骨杭が地面を貫いた。

 

 直後。

 

 バァンッ!! 

 

 爆音。

 

 衝撃。

 

 地雷が起爆する。

 

「っ……!」

 

 足元から突き上げる衝撃に、出久の身体が僅かに揺れた。

 

 だが、止まらない。

 

 二歩目。

 

 ドスッ!! 

 

 バァンッ!! 

 

 三歩目。

 

 ドスッ!! 

 

 バァンッ!! 

 

 出久は、地雷原を真っ直ぐ歩き出した。

 

 いや。

 

 走っていた。

 

 踏み抜く。

 

 爆ぜる。

 

 踏み抜く。

 

 爆ぜる。

 

 地雷を探して避けるのではない。

 

 槍骨で先に貫き、衝撃を覚悟した上で進む。

 

『おおっとォ!?』

 

 プレゼント・マイクの声が跳ね上がる。

 

『緑谷出久!! 避けない!! 避けないぞォ!? 地雷原を正面突破だァァァ!!』

 

 観客席がどよめいた。

 

 土煙。

 

 爆音。

 

 衝撃波。

 

 その中を、出久は真っ直ぐ進む。

 

 表情は動かない。

 

 視線は前だけ。

 

 狙うのは、先頭集団。

 

 轟。

 

 夜嵐。

 

 爆豪。

 

 その背中。

 

「何やってんだあいつ……!」

 

 爆豪が、空中から一瞬だけ振り返る。

 

 その目が、僅かに見開かれた。

 

 出久は止まらない。

 

 爆ぜる地面を踏み締めながら、一直線に迫ってくる。

 

 まるで。

 

 爆発を道標にしているみたいに。

 

(痛い)

 

 衝撃はある。

 

 威力は抑えられていても、足裏から膝、腰へ抜ける振動は馬鹿にならない。

 

 だが。

 

(止まる方が、もっと嫌だ)

 

 また一歩。

 

 ドスッ!! 

 

 バァンッ!! 

 

 土が跳ねる。

 

 観客席の歓声が、爆音に混ざって遠くなる。

 

 出久の呼吸は、妙に静かだった。

 

 恐怖はない。

 

 いや。

 

 ある。

 

 だが、その上から別の感情が塗り潰していた。

 

 勝ちたい。

 

 追いつきたい。

 

 見せたい。

 

 自分もここにいると。

 

「……っ!」

 

 出久は、さらに踏み込む。

 

 両脚の槍骨を、リズムよく地面へ叩き込む。

 

 地雷を起爆させ、骨杭を打ち込む事であらぬ方向に吹き飛ばされる事を防ぐ。

 

 一歩ごとに爆発が起きる。

 

 そのたびに、身体が前へ押し出される。

 

 無茶苦茶だった。

 

 合理的で。

 

 非合理的で。

 

 それでも速い。

 

『こいつは強引だァ!! だが速い!! 緑谷、地雷を踏み抜きながら先頭集団へ迫るゥ!!』

 

 プレゼント・マイクの実況が響く。

 

 その声を背に。

 

 出久は、煙の中から飛び出した。

 

 先頭との距離が、縮まる。

 

 爆豪が舌打ちする。

 

 轟が横目で出久を見る。

 

 夜嵐が、嬉しそうに笑った。

 

「熱いっスねぇぇぇ!!」

 

 夜嵐が、風を纏ったまま叫ぶ。

 

 その直後。

 

 ゴォッ!! 

 

 さらに暴風が膨れ上がった。

 

 身体を押し出す風圧。

 

 夜嵐の速度が、一段跳ね上がる。

 

「負けてられるかァ!!」

 

 爆豪も爆破を連続起動。

 

 ババババッ!! 

 

 空中で細かく爆風を刻み、強引に加速する。

 

 轟も無言だった。

 

 だが。

 

 足元へ氷を走らせる。

 

 滑走。

 

 摩擦を極限まで減らし、一気に速度を乗せる。

 

 三人とも理解した。

 

 後ろから、とんでもない勢いで追ってきている。

 

 緑谷出久。

 

 爆発を踏み抜きながら、真っ直ぐ突っ込んでくる狂った走法。

 

 なら。

 

 振り切るしかない。

 

「……っ!」

 

 出久も歯を食い縛る。

 

 速い。

 

 先頭集団が、さらに加速した。

 

 だが。

 

(まだ行ける……!)

 

 槍骨が伸びる。

 

 ドスッ!! 

 

 バァンッ!! 

 

 爆発。

 

 衝撃。

 

 その反動を利用して、さらに前へ。

 

 土煙を切り裂き、一直線に駆ける。

 

『うおおっとォ!? 先頭集団、ここでさらに加速ゥ!!』

 

 実況が絶叫する。

 

『爆豪! 轟! 夜嵐! そして緑谷!! 四人が完全に抜け出したァ!!』

 

 観客席が揺れる。

 

 巨大モニターへ、先頭集団の映像が映し出される。

 

 爆破。

 

 氷。

 

 暴風。

 

 爆炎混じりの土煙。

 

 その中心を、出久が真正面から突き抜けていた。

 

 だが。

 

(……まずい)

 

 走りながら、出久の目が細まる。

 

 自分の後ろ。

 

 地雷原。

 

 そこには。

 

 爆発で抉れた安全地帯が出来ていた。

 

 槍骨で踏み抜き、先に起爆したルート。

 

 つまり。

 

 後続からすれば。

 

 “既に地雷が無い安全な道”だった。

 

「前通れるぞ!!」

 

「緑谷の後ろだ!!」

 

 後方から叫び声が飛ぶ。

 

 複数の生徒が、出久の通ったルートへ雪崩れ込んできていた。

 

(……っ)

 

 失敗した。

 

 いや。

 

 分かっていた。

 

 この突破法は速い。

 

 だが同時に、後続へ道を作る。

 

 独走向きではない。

 

 その間にも。

 

 先頭三人は加速を続ける。

 

 ゴールまで、あと数十メートル。

 

 観客席の歓声が、爆音みたいに響いていた。

 

『誰が抜けるゥ!?』

 

『トップ争いは四人だァァァ!!』

 

 その瞬間。

 

「——捕まえました」

 

 静かな声が、背後から響いた。

 

「っ!?」

 

 出久の肩へ、何かが絡み付く。

 

 ぞわり、とした感触。

 

 振り向く。

 

 そこには。

 

 緑色の荊。

 

 鋭い棘を持った植物が、蛇みたいに這い上がってきていた。

 

「な……!」

 

 出久の目が見開かれる。

 

 後方。

 

 地雷原を、静かに進む少女がいた。

 

 長い緑髪。

 

 敬虔な修道女みたいな雰囲気。

 

 だが。

 

 その髪は、生き物みたいに無数の荊へ変わっていた。

 

「B組の……!」

 

 B組、塩崎茨。

 個性『つる』

 

 現在五位。

 

 そして。

 

 出久が作った“安全ルート”を利用し、最短距離で追い上げてきた一人だった。

 

「どうか、お止まりください」

 

 塩崎が静かに告げる。

 

 その瞬間。

 

 ギチギチギチッ!! 

 

 荊が、一気に出久の身体へ巻き付いた。

 

 肩。

 

 腕。

 

 胴。

 

 棘が食い込み、動きを封じようと締め上げる。

 

「っ……!!」

 

 出久の身体が、大きく引かれる。

 

 速度が落ちる。

 

 ほんの僅か。

 

 だが。

 

 先頭集団を追うこの状況では、その一瞬が致命的だった。

 

 前方。

 

 轟。

 

 爆豪。

 

 夜嵐。

 

 三人の背中が、遠ざかっていく。

 

(待て)

 

 胸の奥が、ざわつく。

 

 焦燥。

 

 苛立ち。

 

 置いていかれる感覚。

 

 追いつきかけていた。

 

 届きそうだった。

 

 なのに。

 

 なのに。

 

 こんな所で。

 

「迂闊でしたね、さあ四位の座を私に……」

 

 塩崎の声。

 

 静かで。

 

 穏やかで。

 

 まるで諭すみたいな声音だった。

 

 その瞬間。

 

 ぶちり、と。

 

 出久の中で、何かが切れた。

 

「……なんなんだよ」

 

 低い声。

 

 自分でも驚くほど、冷えた声だった。

 

 塩崎の目が、僅かに見開かれる。

 

「え——」

 

 次の瞬間。

 

 ギギギギギッ!! 

 

 出久の腕から、白い骨が突き出した。

 

 槍骨。

 

 鋭く伸びた骨杭が、荊へ食い込む。

 

「っ……!」

 

 塩崎の荊が軋む。

 

 だが、彼女もすぐに締め上げを強めた。

 

 ギチギチギチッ!! 

 

 さらに棘が食い込む。

 

 制服が裂ける。

 

 皮膚へ赤い線が走る。

 

 普通なら。

 

 止まる。

 

 痛みに顔を歪める。

 

 だが。

 

 出久は止まらなかった。

 

 むしろ。

 

 前へ踏み込む。

 

「邪魔を……」

 

 槍骨が、さらに伸びる。

 

 骨が軋む音。

 

 筋肉が引き裂かれる感覚。

 

 それすら無視して。

 

「するなァッ!!」

 

 バギィッ!! 

 

 荊が、無理やり引き裂かれた。

 

 白い骨杭が、絡み付く植物を強引に断ち切る。

 

「っ!?」

 

 塩崎の表情が崩れる。

 

 次の瞬間。

 

 出久が、振り返った。

 

 その目に。

 

 いつもの怯えも、遠慮もなかった。

 

 ただ。

 

 焦燥と苛立ちだけが燃えていた。

 

「——ぁ」

 

 塩崎が息を呑む。

 

 そして。

 

 ドンッ!! 

 

 出久の掌が、塩崎の肩を強く押した。

 

「きゃっ——!?」

 

 塩崎の身体が、大きくバランスを崩す。

 

 後方へよろめく。

 

 荊が散る。

 

 地雷原の土が跳ねる。

 

 観客席が、どよめいた。

 

『お、おっとォ!?』

 

 プレゼント・マイクの声が一瞬詰まる。

 

『緑谷!! 塩崎を振り払ったァ!!』

 

 だが。

 

 出久は聞いていなかった。

 

 いや。

 

 何も入っていなかった。

 

 頭の中には、ただ。

 

 先頭。

 

 ゴール。

 

 追いつく。

 

 それだけしか無い。

 

 再び前を向く。

 

 轟。

 

 爆豪。

 

 夜嵐。

 

 あと少し。

 

 あと数十メートル。

 

「……っ!!」

 

 出久が、再加速する。

 

 槍骨が地面を貫く。

 

 ドスッ!! 

 

 バァンッ!! 

 

 爆発。

 

 衝撃。

 

 土煙。

 

 その中を、出久は獣みたいな勢いで駆け抜けた。

 

 爆炎。

 

 氷。

 

 暴風。

 

 そして、地雷の炸裂音。

 

 雄英巨大競技場全体が、轟音で揺れていた。

 

『ラストスパートォォォ!!』

 

 プレゼント・マイクの絶叫が響く。

 

『先頭は轟!! 夜嵐が並ぶ!! 爆豪も食らいつく!! その後ろを緑谷が追うゥ!!』

 

 観客席が総立ちになっていた。

 

 巨大モニターには、先頭四人の姿だけが映っている。

 

 轟焦凍。

 

 夜嵐イナサ。

 

 爆豪勝己。

 

 緑谷出久。

 

 全員が、一年生とは思えない速度で地雷原を駆け抜けていた。

 

「ぉぉぉおおおおッ!!」

 

 夜嵐が風を爆発させる。

 

 身体が前へ弾かれる。

 

 轟も氷結を滑走路みたいに伸ばし、一気に加速。

 

 爆豪は空中で連続爆破。

 

 爆風を蹴るようにして、強引に二人へ並びかける。

 

 三人とも、もう後ろを見ていなかった。

 

 勝負は、前だけ。

 

 ゴールだけ。

 

「……っ!!」

 

 出久も走る。

 

 槍骨を突き立てる。

 

 ドスッ!! 

 

 バァンッ!! 

 

 爆発。

 

 衝撃。

 

 脚へ鈍痛が走る。

 

 肺が焼ける。

 

 それでも前へ。

 

 だが。

 

(届かない……!)

 

 距離が。

 

 縮まり切らない。

 

 塩崎に止められた、ほんの一瞬。

 

 そのロスが、最後まで響いていた。

 

 轟達との差が、あと少し埋まらない。

 

 ゴールゲートが、目前まで迫る。

 

『さぁ来るぞォォォ!!』

 

 実況が叫ぶ。

 

『第一種目障害物競走!! 一位は誰だァァァ!?』

 

 その瞬間。

 

 轟が、一歩前へ出た。

 

 氷の滑走。

 

 無駄のない加速。

 

 一直線。

 

 そして。

 

 ザァッ!! 

 

 轟焦凍が、最初にゴールラインを駆け抜けた。

 

『一位ィィィィ!! ヒーロー科1−A!! 轟焦凍ォォォォォ!!』

 

 観客席が爆発する。

 

 歓声。

 

 拍手。

 

 どよめき。

 

 だが、終わらない。

 

「まだっスよォォォ!!」

 

 夜嵐が吠える。

 

 暴風を纏ったまま飛び込み——

 

『二位!! ヒーロー科1−B!! 夜嵐イナサァァァ!!』

 

「チッ!!」

 

 爆豪が舌打ちしながら地面を爆破。

 

 そのままゴールへ滑り込む。

 

『三位!! ヒーロー科1−A!! 爆豪勝己ィィィ!!』

 

 そして。

 

「……っ、ぁ……!」

 

 出久も最後の一歩を踏み込んだ。

 

 槍骨が砕ける。

 

 地雷が爆ぜる。

 

 その勢いのまま、ゴールラインを越える。

 

『四位!! ヒーロー科1−A!! 緑谷出久ゥゥゥ!!』

 

 ドォォォォォッ!! 

 

 歓声が響く。

 

 出久は、そのまま数歩よろめいた。

 

 肺が痛い。

 

 脚が痺れる。

 

 全身が熱を持っていた。

 

「はっ……はぁっ……」

 

 呼吸が乱れる。

 

 汗が顎から滴る。

 

 その視線の先。

 

 少し前には。

 

 轟。

 

 夜嵐。

 

 爆豪。

 

 三人の背中があった。

 

(……届かなかった)

 

 胸の奥が、ずしりと重くなる。

 

 あと少しだった。

 

 追いつけると思った。

 

 なのに。

 

 届かなかった。

 

「……チッ」

 

 爆豪が、不機嫌そうに舌打ちする。

 

「二人も前いんじゃねぇよ……」

 

 一位以外、全部不満らしかった。

 

 一方。

 

 夜嵐は、息を切らしながらも満面の笑みだった。

 

「いやぁぁ熱かったっス!!」

 

 その横で。

 

 轟だけは静かだった。

 

 だが。

 

 ちら、と。

 

 轟の視線が、出久を見る。

 

「……」

 

 何も言わない。

 

 だが、その目は。

 

 明確に、緑谷出久を“競争相手”として見ていた。

 

 観客席では、まだ歓声が鳴り止まない。

 

 巨大モニターへ、順位が表示される。

 

 一位 轟焦凍

 二位 夜嵐イナサ

 三位 爆豪勝己

 四位 緑谷出久

 

 その順位表を見上げながら。

 

 出久は、荒い呼吸のまま拳を握り締めた。

 

 悔しかった。

 

『OKAAAY!! 予選突破者、出揃ったァァァ!!』

 

 プレゼント・マイクの絶叫が、競技場全体へ響き渡る。

 

 巨大モニターには、通過者の名前が次々と表示されていた。

 

 歓声。

 

 拍手。

 

 悔しそうに膝をつく者。

 

 安堵して座り込む者。

 

 地雷原の向こうでは、まだ何人かが滑り込みでゴールしている。

 

「はぁっ……はぁ……」

 

 出久は、呼吸を整えながらモニターを見上げた。

 

 四位。

 

 悪くない。

 

 むしろ、十分すぎる順位だ。

 

 だが。

 

 胸の奥には、まだ焦げ付くみたいな悔しさが残っていた。

 

 あと少し届かなかった三人の背中。

 

「……」

 

 無意識に、拳へ力が入る。

 

『さぁて!! ここから人数をさらに絞っていくぜェ!!』

 

 プレゼント・マイクが、テンション高く叫ぶ。

 

『続いての種目はァ!!』

 

 ドンッ!! 

 

 巨大モニターが切り替わる。

 

 そこへ、大きく文字が表示された。

 

『騎馬戦』

 

「騎馬戦……?」

 

 普通科の何人かは、怪訝そうな顔をする。

 

 すると。

 

『説明しよう!!』

 

 プレゼント・マイクが勢いよくモニターを指差した。

 

『ルールはシンプル!! 四人一組で騎馬を組み、相手のポイントを奪い合う!! 個性使用は、悪質な騎馬崩しはNG! その他は騎手が地面に触れなけりゃなにしてもOKだ!』

 

 巨大モニターへ、ルール説明映像が映る。

 

 鉢巻。

 

 ポイント。

 

 制限時間。

 

 そして。

 

『ポイントは、予選順位によって決定!!』

 

 数字が並ぶ。

 

 一位。

 

 二位。

 

 三位。

 

 順位が下がるにつれ、ポイントも減っていく。

 

 だが。

 

 次の瞬間。

 

『そしてェ!!』

 

 ドンッ!! 

 

 画面中央へ、異様にデカい数字が映し出された。

 

 1000万。

 

「……は?」

 

 誰かが間抜けな声を漏らす。

 

『そう!! トップ通過者の持ち点は、なんと一千万ポイントだァァァ!!』

 

 競技場が、一瞬静まり返った。

 

 その直後。

 

 ざわぁっ、と。

 

 会場全体が揺れる。

 

「一千万!?」

 

「桁おかしくね!?」

 

「他と差ありすぎだろ!」

 

 騒然。

 

 当然だった。

 

 二位以下とは、比較にならないポイント差。

 

 つまり。

 

 一位通過者を狙えば、一発逆転が可能。

 

 そして。

 

 その一千万ポイント保持者は——

 

 巨大モニターへ、顔写真付きで映し出される。

 

『現在一千万ポイント保持者!! ヒーロー科1−A!! 轟焦凍!!』

 

 ドォォォォッ!! 

 

 歓声。

 

 同時に。

 

 視線。

 

 殺気。

 

 会場中の生徒達の視線が、一斉に轟へ突き刺さった。

 

「……」

 

 轟は、無表情のままモニターを見上げる。

 

 爆豪が、不機嫌そうに吐き捨てた。

 

「一千万とか、餌ぶら下げてるようなもんだ」

 

 出久も、静かにモニターを見つめる。

 

 騎馬戦。

 

 単純な個人能力だけでは勝てない競技。

 

 連携。

 

 役割。

 

 判断。

 

 そして——チーム。

 

(誰と組む……?)

 

 その瞬間だった。

 

 周囲の空気が、またざわりと動く。

 

 何人もの視線が。

 

 今度は、出久へ向いた。

 

『それじゃあ!!』

 

 プレゼント・マイクが、勢いよく腕を振り上げる。

 

『今からチーム編成と作戦会議に入ってもらう!!』

 

 巨大モニターへ、制限時間が表示された。

 

 15:00

 

『制限時間は十五分!!』

 

「短っ!?」

 

「いきなりかよ!」

 

 会場がざわつく。

 

 だが。

 

 プレゼント・マイクは止まらない。

 

『ヒーローに必要なのは即席チームでの連携力!! 迷ってる暇はねぇぞォ!!』

 

 ニヤリ、と笑う。

 

『それでは——開始ィィィ!!』

 

 ブザー。

 

 同時に。

 

 競技場全体が、一気に崩れた。

 

「緑谷!!」

「爆豪!!」

 

 各所で、生徒達が一斉に動き出す。

 

 情報戦。

 

 勧誘。

 

 駆け引き。

 

 特に。

 

 人気が集中したのは、当然ながら上位陣だった。

 

「夜嵐くんこっちです!」

「爆豪ォ!! 火力役欲しいんだが!!」

 

 あちこちで声が飛ぶ。

 

 だが。

 

 その中でも。

 

「緑谷くん!!」

「緑谷!! うち来い!!」

 

 最も人が殺到したのは、出久だった。

 

「え、あ、え?」

 

 出久が一歩引く。

 

 だが。

 

 もう遅い。

 

 どっと人が押し寄せる。

 

「お前の近接戦闘エグかっただろ!」

「地雷原突破、意味分かんなかったぞ!?」

「USJの時もヴィラン正面から止めてたってマジか!?」

「前衛張れる奴欲しい!!」

 

 特にヒーロー科の反応が凄まじかった。

 

 障害物競走。

 

 そしてUSJ。

 

 そこで出久は、“圧倒的な正面戦闘能力”を見せている。

 

 しかも。

 

 爆豪みたいに扱いづらくない。

 

 少なくとも表面上は。

 

「緑谷、お前いたら前線押し切れるだろ!?」

「機動力もあるし!」

「骨のアレ、防御にも使えるんだろ!?」

 

 一気に囲まれる。

 

「ちょ、ちょっと待っ——」

 

 出久が押される。

 

 すると。

 

「おいテメェら」

 

 低い声。

 

 空気が、一瞬で冷えた。

 

 爆豪だった。

 

「寄ってたかってゴミみてぇに群がってんじゃねぇぞ」

 

 掌から、バチバチと火花が散る。

 

 その瞬間。

 

 爆豪の周囲から、数人がさっと距離を取った。

 

「げ」

「機嫌悪っ……」

 

 だが。

 

 それでも何人かは残る。

 

「ば、爆豪とも組みたいけどさ……!」

「お前火力ヤバいし!」

 

「チッ」

 

 爆豪が舌打ちする。

 

 しかし。

 

 明らかに人数差があった。

 

 爆豪の周囲にも人はいる。

 

 だが。

 

 出久の周囲の方が、多い。

 

 それを見て。

 

 爆豪の額に、青筋が浮いた。

 

「……なんでデクの方に集まってんだよ」

 

 低い。

 

 危険な声だった。

 

 一方。

 

「うわぁ……」

 

 麗日が少し引きながら呟く。

 

「デク君めっちゃ人気やん……」

 

「そりゃそうだろ」

 

 切島が苦笑する。

 

「あの突破見た後だぜ? しかもUSJでも暴れてたし」

 

「正直、前衛としては一番安心感あるかもしれねぇ」

 

 瀬呂まで頷いた。

 

 出久は、完全に困っていた。

 

「え、いや、そんな……」

 

 だが。

 

 周囲の目は本気だった。

 

 この騎馬戦。

 

 上位へ行くには、“強い騎手”が必要。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ボクのヒーローアカデミア(作者:たいん)(原作:僕のヒーローアカデミア)

人助けが好きで、現代日本で救急医をしていたが、逆恨みにより刺されて死んだ男が、なんの因果か『僕のヒーローアカデミア』の麗日お茶子に転生!?▼果たして、その結果が緑谷出久とストーリーにもたらすものとは!?▼触ったモノはなんだって浮かせる無重力ガール!▼ヒーローになることが親孝行!▼触れたものを浮かせて無力化!麗日グラビティヒーロー!▼麗らか笑顔に秘められた決意…


総合評価:454/評価:7.94/連載:10話/更新日時:2026年05月13日(水) 08:20 小説情報

どうやろ真依ちゃんに聞いてみよか(作者:人の心とかない。AIだから)(原作:呪術廻戦)

なぜか割と何でも知っている真依ちゃんの話▼※AI生成が苦手な人はブラウザバックを推奨します。


総合評価:1119/評価:8.14/連載:11話/更新日時:2026年03月21日(土) 13:18 小説情報

善意の剥製(作者:タロットゼロ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

「あの子が持ち上げたのは法律じゃない。鉄の塊だ」▼九歳で奇跡を起こし。▼数カ月後に社会に疑われ。▼十四歳で、彼女は「完璧な淑女」として、かつて自分を捨てた世界を否定し始める。▼【警告】この物語に、救世主(ヒーロー)は現れません


総合評価:1286/評価:7.65/連載:19話/更新日時:2026年05月20日(水) 02:00 小説情報

雷神は最強を指名する(作者:あいあい)(原作:僕のヒーローアカデミア)

鹿紫雲一は、死滅回游の果てで燃え尽きたはずが、個性社会の日本で目を覚ます。この世界では「最強」がランキングと称号で掲げられている。なら、話は早い。最強の場所へ行けば最強がいる。▼そんな感じで始まる鹿紫雲さんカッケェっていう話です。


総合評価:3306/評価:8.2/連載:10話/更新日時:2026年02月24日(火) 21:20 小説情報

星のカービィin呪術廻戦(作者:春風春嵐)(原作:呪術廻戦)

▼無限の力を持つ伝説のヒーローこと、ピンクの悪魔…こと星のカービィ。▼平和な日々を送っていたら、別世界に放り込まれていた!?呪術とか呪霊とかよくわからないけれど、おともだちになれば大丈夫だよね。▼我らが星のカービィが呪術廻戦の世界でてんやわんやする話。▼呪術廻戦再熱して最後まで読んだんですが、結構なにわかなのでどうかご容赦ください。


総合評価:1607/評価:8.88/連載:7話/更新日時:2026年03月29日(日) 01:52 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>