間違えずに、失う者たち   作:助兵衛

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第26話 掟破りな最強チーム

 上位へ行くには、“強い騎手”が必要だ。

 

 そして今の緑谷出久は、間違いなくその候補だった。

 

「えっと……」

 

 出久は周囲を見る。

 

 麗日、飯田、瀬呂、切島、峰田。そこには、他クラスの生徒達まで混じっていた。

 

 誰と組むべきか。自分が騎手になるのか、それとも騎馬に入るのか。防御を固めるべきか、攻撃に振るべきか。

 

(僕のポイントは四位、百九十五点。狙うべきは轟君の一千万……いや、全員が轟君を狙うなら、逆に周辺の混乱を利用して——)

 

 思考が走る。

 

 その時だった。

 

「緑谷」

 

 静かな声と共に、人垣が僅かに割れた。

 

「……轟君?」

 

 轟焦凍が、まっすぐこちらへ歩いてきていた。その瞬間、周囲の空気が変わる。

 

 一位通過者。一千万ポイント保持者。全員から狙われる立場の男。

 

 その轟が、自分から出久へ近付いている。

 

「俺と組まないか」

 

「……え?」

 

 出久だけでなく、周囲の生徒達も固まった。

 

「は!?」

 

 爆豪が露骨に顔を歪める。

 

「テメェ、何考えてやがる半分野郎」

 

 ざわざわと声が広がっていく。

 

「一位と四位が組むのか?」

 

「上位同士で?」

 

「いや普通、ポイント持ちは分散するだろ」

 

「狙われるリスク上がらね?」

 

 当然だった。騎馬戦は、チームの持ち点を合算する。上位同士が組めばポイントは高くなるが、同時に周囲から狙われる危険も跳ね上がる。

 

 特に轟は一千万ポイント持ち。そこへ四位の出久まで加われば、完全に全員の標的になる。

 

「轟君……」

 

 出久は戸惑いながら尋ねた。

 

「どうして僕に?」

 

 轟は少しだけ考えるように沈黙し、それから淡々と言った。

 

「お前が一番、攻めに向いてると思った」

 

「……」

 

「俺は広範囲制圧が出来る。だが、細かい奪取や接近戦はお前の方が上だ」

 

 周囲がまたざわつく。

 

 轟は続けた。

 

「それに、お前は俺を本気で取りに来る目をしてた」

 

 出久の胸が、微かに跳ねる。

 

 地雷原で追いすがった時の感覚。それを、轟は見ていたのだ。

 

「だから、敵に回すより組んだ方がいい」

 

 合理的な判断。だが、それだけではないようにも聞こえた。

 

「待て待て」

 

 上鳴が困惑したように手を上げる。

 

「でもさ、騎手って鉢巻取る役だろ? 轟が騎手の方が強くね?」

 

「違う」

 

 轟は即答し、周囲をさらに驚かせる言葉を続けた。

 

「俺が騎馬に入る」

 

「……は?」

 

 爆豪が低く呟き、出久も目を見開く。

 

「えっ、轟君が……?」

 

「ああ。俺の個性は、手が塞がっていても関係ない」

 

 その言葉に、周囲が一瞬静まり返った。

 

 氷と炎。轟の個性は、身体の左右から発動する。確かに、騎馬として他人を支えていても、足元や周囲へ氷を展開できる。手で鉢巻を取る必要もない。

 

「俺が騎馬で周囲を制圧する」

 

 轟の視線が、出久へ向く。

 

「お前が騎手で、相手の鉢巻を取れ」

 

「……!」

 

「俺達で一位を取る」

 

 その言葉に、周囲が完全にざわめいた。

 

 一位と四位。高ポイント同士。しかも一千万ポイント保持者が、騎手ではなく騎馬に回る。常識外れだが、理には適っていた。

 

 出久は轟の顔を見る。無表情だが、その目は本気だった。

 

「でも……」

 

 出久は、思わず口を開く。

 

「雄英体育祭は、全国のプロヒーローが見るアピールの場だよ。当然、一番目立つのは騎手だ。鉢巻を取るのも、カメラに抜かれるのも、評価されやすいのも、多分そっちだ」

 

 轟は黙って聞いている。

 

「一位通過の轟君が騎馬になるなんて、そんなの……あまりに常識外れだ」

 

 周囲の何人かが頷いた。

 

 それは正論だった。体育祭は勝つだけの場ではない。プロに見られる場であり、名前を売る場であり、将来の指名へ繋げる場でもある。

 

 その意味で、一千万ポイントを持つ轟焦凍が自ら騎手を譲るなど、普通ならあり得ない。

 

 だが、轟は短く答えた。

 

「そんなの分かってる」

 

「……!」

 

「理由は、さっき説明した通りだ。俺は制圧に回る。お前は奪取に回る。その方が勝てる」

 

「でも——」

 

「まだ理由が欲しいなら」

 

 そこで、轟の表情が少しだけ変わった。ほんの僅かに、口元がにっと上がる。

 

「お前と俺が組んだら、どんな事になるのか気になった」

 

「……え?」

 

「楽しそうだと思わないか」

 

 出久は言葉を失った。

 

 轟焦凍が、勝算でもなく、評価でもなく、合理性だけでもなく、“楽しそう”と言った。その事実に、周囲も一瞬固まる。

 

 轟は気にせず、ただ出久を見ていた。

 

「どうする」

 

 短い問い。

 

 出久の胸が、強く鳴る。

 

 自分を騎手に据える。一千万ポイントを預ける。そして、一位を狙う。

 

 常識外れ。危険。標的になる。

 

 それでも、確かに楽しそうだった。

 

「……うん」

 

 出久は、ゆっくり頷いた。

 

「やろう、轟君」

 

 轟の目が、僅かに細まる。

 

「決まりだな」

 

 その瞬間だった。さっきまで出久へ群がっていた生徒達が、すっと一斉に距離を取った。

 

「……あ」

 

 出久が間の抜けた声を漏らす。

 

 理由は、考えるまでもない。

 

 一位、轟焦凍。一千万ポイント保持者。その轟と、四位通過の緑谷出久が組む。

 

 つまりこのチームは、騎馬戦開始と同時に“全校共通の最優先目標”になる。

 

「いや無理無理無理!!」

 

「絶対集中砲火食らうだろ!」

 

「狙われ率エグすぎる!!」

 

「悪い!! 流石に話変わってくるわ!」

 

 蜘蛛の子を散らすみたいに、人が離れていく。数秒前まで「緑谷組もう!」「前衛欲しい!」と迫っていた面々が、今は露骨に目を逸らしていた。

 

「おい待てテメェら!!」

 

 上鳴がツッコミみたいに叫ぶ。

 

「さっきまでの勢いどこ行った!?」

 

「いやだって!!」

 

「轟込みは話変わるって!!」

 

 瀬呂が半笑いで後退る。

 

「俺、あのチームの真正面立ちたくねぇもん」

 

「それ以前に全方向から狙われるやろ……」

 

 麗日まで苦笑していた。

 

 一方、爆豪は鼻で笑った。

 

「ハッ。勝手にラスボス化してやがる」

 

「うるせぇぞ」

 

 轟が淡々と返す。

 

「事実だろ半分野郎」

 

 だが、爆豪の目にも僅かな苛立ちがあった。轟と出久。その組み合わせが、単純に厄介だと理解している顔だった。

 

「……っ」

 

 出久は周囲を見回す。

 

 誰も来ない。むしろ、避けている。轟は平然としているが、出久の方は急に焦り始めていた。

 

 騎馬戦は四人一組。つまり、あと二人必要だ。だがこのままだと、本当に誰も来ない。

 

「えっと、ど、どうしよう……」

 

 出久の声が小さくなる。

 

 制限時間は、既にどんどん減っていた。

 

 巨大モニターには、残り時間が表示されている。

 

 13:42

 

 13:41

 

 周囲では、次々とチームが完成していく。

 

「常闇、お前そっち支えてくれ!」

 

「発目さん! サポートお願い!」

 

「夜嵐くんこっちです!!」

 

 焦りが強くなる。

 

 轟は強い。むしろ強すぎる。だから誰も近寄れない。

 

(このままじゃ二人だけで——)

 

「緑谷君」

 

「……え?」

 

 声を掛けられて振り向くと、そこには麗日が立っていた。少しだけ困ったみたいに笑いながら、出久を見ている。

 

「まだ四人集まってないよね?」

 

 出久が一瞬固まる。

 

「麗日さん!」

 

 麗日は、少し照れ臭そうに頬を掻いた。

 

「その……私、入ってもいいかな?」

 

「……え?」

 

 出久がぽかんと固まる。

 

 麗日は、へへっと笑った。

 

「やっぱどうせなら、仲良い人と組みたいし!」

 

 その言葉は、あまりにも自然で、あまりにも真っ直ぐだった。だからこそ、出久の脳が一瞬完全に止まる。

 

「……な」

 

「?」

 

「な、な、ななな……!」

 

 顔が一気に熱くなる。耳まで真っ赤だった。

 

「え!? あ、いや、えぇっ!? ぼ、僕と!? いやその、仲良いっていうか、た、確かに仲悪くはないっていうかでもそんな風に改めて言われると」

 

「長い長い長い!!」

 

 麗日が慌ててツッコむ。

 

 一方、轟は真顔だった。

 

「緑谷、息継ぎしろ」

 

「はっ、はい!!」

 

 反射的に返事してしまう。

 

 麗日は、ちょっと笑いながら続けた。

 

「だってさ、今の轟君と緑谷君のチーム、絶対みんな怖がって入ってこんやろ?」

 

「うっ」

 

 図星だった。

 

「それに、私の無重力なら機動力も上げられると思うんよ」

 

 そう言って、麗日は自分の指先を軽く見せる。

 

 確かに、騎馬戦において麗日の個性は強い。重量操作、加速補助、緊急回避。使い方次第で、チームの動きは一気に変わる。

 

 出久の目が、少しずつ真面目な色へ戻っていく。

 

「……確かに」

 

 轟も頷いた。

 

「悪くない」

 

「でしょ?」

 

 麗日が笑う。その空気に、少しだけ張り詰めていた緊張が和らいだ。

 

 だが、問題はまだ残っている。

 

「あと一人……」

 

 出久が呟く。

 

 四人一組。現在の構成は、騎手が出久。騎馬が轟と麗日。残り一人。

 

 しかし、依然として周囲の生徒達は距離を取ったままだった。

 

「いやぁ……」

 

「流石にあそこ入る勇気ねぇ」

 

「狙われ方が洒落にならん」

 

 時間だけが減っていく。

 

 巨大モニターには、残り時間が無情に刻まれていた。

 

 05:12

 

 05:11

 

「やばい……!」

 

 出久の額へ汗が浮く。

 

 このままでは、チーム不成立すらあり得る。

 

「誰か……!」

 

 視線を巡らせる。だが、目が合った生徒達はさっと逸らした。

 

 その時だった。

 

「なら!」

 

 元気の良い声が響き、人混みをかき分けるように小柄な少女が飛び込んできた。

 

 ゴーグル、サポートアイテムだらけの装備、工具箱みたいなリュック。

 

「私を入れてくださいな!!」

 

「……え?」

 

 出久が目を瞬かせる。

 

 少女は、にかっと笑った。

 

「サポート科一年、発目明です!!」

 

 周囲がざわつく。

 

「サポート科!?」

 

「なんであそこ行くんだ!?」

 

 だが、発目は全く気にしていなかった。むしろ目を輝かせながら、出久達を見ている。

 

「だって超目立つじゃないですか!!」

 

 ビシッと、出久と轟を指差す。

 

「一位と四位の合同チーム!! しかも全校から狙われる!! つまり!!」

 

 ぐいっと顔を寄せる。

 

「私のベイビー達を全国へ宣伝する最高の舞台です!!」

 

「ベイビー?」

 

「サポートアイテムの事です!」

 

 発目が胸を張る。その勢いに、出久が少し押される。

 

「え、えっと……」

 

「安心してくださいな!! 機動補助も防御補助も色々あります!! むしろこの状況、私のベイビー試験運用に最適なんですよねぇ!!」

 

 完全に技術者の目だった。

 

 轟は、静かに発目を見る。

 

「……使えるのか?」

 

「もちろんです!!」

 

 発目が即答する。

 

「むしろ暴れれば暴れるほど面白いデータ取れます!!」

 

「なるほど」

 

 轟が普通に納得した。

 

「納得するんだ……」

 

 麗日が小声で呟く。

 

 一方、出久は少しだけ安心したように息を吐いた。

 

 四人。揃った。

 

 しかも、かなり滅茶苦茶なメンバーが。

 

 轟焦凍、麗日お茶子、発目明、そして緑谷出久。

 

 火力、機動補助、サポートアイテム、奪取役。噛み合えば強い。だが狙われ方も、間違いなく最悪だった。

 

『はいそこまでェェェ!!』

 

 プレゼント・マイクの声が、競技場全体へ響き渡った。

 

 巨大モニターの数字が、ゼロを示す。

 

 00:00

 

『十五分終了!! チーム編成タイム終了だァ!!』

 

 ブザーが鳴り、フィールド上に散っていた生徒達が、それぞれの騎馬へと集まり始める。

 

 四人一組。腕を組み、支え合い、騎手を乗せる。その姿が、競技場全体にずらりと並んでいく。

 

『それでは各チームの騎手へ、持ち点分の鉢巻を配布するぜ!!』

 

 審判役の教師達が、各騎手へ鉢巻を渡していく。順位に応じたポイント、四人分。チームごとに合算された数字が、巨大モニターへ次々と表示される。

 

 通常なら数百点。高くても数千点。

 

 だが、今回の注目はそこではなかった。

 

『そして注目はやはりこのチーム!!』

 

 プレゼント・マイクの声が、露骨に高くなる。巨大モニターが切り替わり、出久達のチームが映し出された。

 

『一位通過の轟焦凍!! 一千万ポイント!!』

 

 轟は、無表情のまま騎馬の左前に入る。

 

『四位通過の緑谷出久!! 百九十五ポイント!!』

 

 出久が、騎手として中央へ立つ。

 

『さらに麗日お茶子、発目明を加えたこのチーム!!』

 

 画面上の数字が跳ね上がる。

 

 10,000,000。

 

 そこへ出久の百九十五点、麗日と発目の持ち点が加わる。ほとんど誤差のような加算だが、それでも表示はさらに増えた。

 

『ダントツ一位ィィィ!! 完全に狩られる側だァァァ!!』

 

 競技場がどよめいた。

 

 視線、視線、視線。フィールド上のほぼ全ての生徒が、出久達を見ている。

 

 欲望、警戒、敵意、打算。一千万ポイントという数字が、それらを一斉に引き寄せていた。

 

「……うわぁ」

 

 麗日が、出久を支える位置に入りながら小さく呟く。

 

「思ったより見られてる……」

 

「当然です!! 目立ってます!! 最高です!!」

 

 発目は、むしろ嬉しそうだった。

 

「こっちは命懸けなんだけど……」

 

 麗日が引き攣った笑みを浮かべる。

 

 出久は鉢巻を受け取った。

 

 重さはない。ただの布だ。だが、そこに刻まれた数字は異様な重みを持っていた。

 

 一千万。

 

 轟が預けた点。自分達が標的である証。

 

 出久はそれを額へ巻いた。指先が、少し震えている。

 

 轟が横から短く言った。

 

「緊張してるのか」

 

「……してる」

 

「そうか」

 

 轟は前を見た。

 

「俺も少ししてる」

 

「え?」

 

「だけど、このメンバーなら問題ない」

 

 その声は淡々としていたが、ほんの僅かに熱があった。

 

 出久は、思わず小さく笑いそうになる。

 

 だが、すぐに表情を引き締めた。

 

『各チーム、位置につけェ!!』

 

 フィールド全体が動く。

 

 出久は、麗日と発目、轟に支えられながら騎馬の上へ乗った。視点が上がり、周囲がよく見える。

 

 爆豪のチーム、夜嵐のチーム、飯田のチーム、塩崎のチーム。全員が、こちらを見ていた。

 

 特に爆豪は、完全に獲物を狙う目だった。

 

「デクゥ……」

 

 遠くからでも分かる。殺気、苛立ち、競争心。その全部が、こちらへ向いている。

 

 出久は息を吸った。

 

 作戦は単純ではない。逃げるだけでは勝てない。守るだけでも勝てない。この点を維持しながら、必要なら奪う。

 

 轟の制圧、麗日の無重力、発目のサポートアイテム、そして自分の奪取能力。全てを噛み合わせる必要がある。

 

『それではァ!!』

 

 プレゼント・マイクが叫ぶ。

 

 巨大モニターに、再び数字が映る。

 

 3

 

 競技場全体が静まり返る。

 

 2

 

 全員の重心が沈む。

 

 1

 

 出久は前を見た。

 

 視線が集中している。全員が、自分達を狙っている。

 

 だが不思議と、逃げたいとは思わなかった。むしろ胸の奥で、熱が広がっていた。

 

『STARTォォォォォッ!!!』

 

 開始の合図と同時に、フィールド全体が出久達へ向かって動いた。

 

「来た……!」

 

 麗日が息を呑む。

 

 前、右、左、斜め後ろ。ほぼ全ての騎馬が、一斉にこちらへ向かってくる。

 

 当然だった。一千万ポイント。それを奪えば、勝ち残りはほぼ確定する。ならば、最初に狙うべき相手は一つしかない。

 

『やはりィィィ!! 全員が一千万ポイントへ殺到だァ!!』

 

 プレゼント・マイクの実況が響く。

 

『まさに餌!! まさに獲物!! 逃げ切れるか緑谷チームゥゥゥ!!』

 

「餌って言うな!」

 

 麗日が叫ぶ。

 

 だが、抗議している暇はない。

 

 その中で、最初に飛び出した騎馬があった。

 

 爆豪勝己。

 

 騎手は爆豪。騎馬は切島、瀬呂、芦戸。

 

 機動力と耐久力を両立した、完全な突撃編成だった。

 

「殺す!!!」

 

「殺さねーって!」

 

 切島が真正面で踏ん張り、瀬呂が横からテープを構え、芦戸が足元へ酸を薄く広げる。

 

 瞬間、騎馬全体が滑るように加速した。

 

「うわ速っ!?」

 

 麗日が目を見開く。

 

 芦戸の酸で摩擦を減らし、瀬呂のテープで姿勢制御、切島の硬化で衝撃を受ける。そして、その上には爆豪がいる。

 

「デクゥ!!」

 

 爆豪が吠える。掌に爆発が灯った。

 

「テメェもだ半分野郎ォ!!」

 

 視線は、出久だけではなかった。轟にも向いている。いや、怒りの半分は轟へ向いていた。

 

 上位同士で組む。一位が騎馬になる。

 

 そんなセオリー破りの誘いを、真っ先に出久へ持ちかけた男。それが、爆豪には気に食わなかった。

 

「俺の前で勝手に面白ぇことしてんじゃねぇ!!」

 

「それは理不尽だろ」

 

 轟が淡々と返す。

 

「うるせぇ!!」

 

 爆豪が爆破で身を乗り出し、距離が一気に詰まる。

 

「来る!」

 

 出久が叫ぶ。

 

 同時に、轟の足元から氷が走った。地面を這う氷が、爆豪チームの進路を塞ぐ。

 

 だが、爆豪は止まらない。

 

「切島ァ!!」

 

「任せろ!!」

 

 切島が前へ出る。硬化した身体で、氷壁へ真正面から突っ込んだ。

 

 氷が砕ける。

 

 その隙間から、瀬呂のテープが伸びた。

 

「取った!」

 

 狙いは出久の鉢巻。だが、その直前に麗日が叫んだ。

 

「無重力!」

 

 麗日が騎馬全体の重量を軽くし、発目の装備が唸りを上げる。

 

「ベイビー一号、姿勢補助開始です!!」

 

 背部の小型スラスターが噴射し、出久達の騎馬がぐんと横へ滑った。瀬呂のテープが空を切る。

 

「ちっ!」

 

 爆豪が舌打ちする。

 

 だが、止まらない。掌の爆破で、さらに追撃姿勢へ入る。

 

 速い。荒い。だが、噛み合っている。

 

 出久は騎手の位置から爆豪を見据えた。

 

 爆豪は笑っていなかった。怒っていた。本気で。出久にも、轟にも、この状況にも。

 

「その鉢巻」

 

 爆豪が低く言う。

 

「俺が最初に奪る」

 

 その瞬間、背後からも別の騎馬が迫ってきた。

 

「デク君、後ろ!」

 

 麗日が叫ぶ。

 

 全方向。本当に、全方向から来ている。

 

 出久は歯を食い縛った。

 

(始まったばかりでこれか……!)

 

 轟が短く言う。

 

「緑谷」

 

「うん」

 

「予定通り、まずは包囲を抜ける」

 

「分かった」

 

 出久は鉢巻を押さえながら身を低くした。

 

 爆豪チームが前方。後方から別チーム。左右からも数組。

 

 完全に囲まれる、その寸前だった。

 

「麗日さん、無重力を!」

 

「了解!」

 

「発目さん、推進補助!」

 

「待ってましたァ!!」

 

 轟の氷が地面へ走る。麗日が重さを消す。発目のサポートアイテムが噴射する。

 

 次の瞬間、出久達の騎馬は、包囲の隙間へ弾丸みたいに滑り込んだ。

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