間違えずに、失う者たち   作:助兵衛

26 / 27
第26話 掟破りな最強チーム

 上位へ行くには、“強い騎手”が必要。

 

 そして。

 

 今の緑谷出久は。

 

 間違いなく、その候補だった。

 

「えっと……」

 

 出久は、周囲を見る。

 

 麗日。

 

 飯田。

 

 瀬呂。

 

 切島。

 

 峰田。

 

 他クラスの生徒達まで混じっている。

 

 誰と組むべきか。

 

 自分が騎手になるのか、騎馬に入るのか。

 

 防御を固めるべきか。

 

 攻撃に振るべきか。

 

(僕のポイントは四位、195点。狙うべきは轟君の一千万……いや、全員が轟君を狙うなら、逆に周辺の混乱を利用して——)

 

 思考が走る。

 

 その時だった。

 

「緑谷」

 

 静かな声。

 

 人垣が、僅かに割れた。

 

「……轟君?」

 

 轟焦凍が、まっすぐこちらへ歩いてきていた。

 

 その瞬間。

 

 周囲の空気が変わる。

 

 一位通過者。

 

 一千万ポイント保持者。

 

 全員から狙われる立場の男。

 

 その轟が、自分から出久へ近付いている。

 

「俺と組まないか」

 

「……え?」

 

 出久だけでなく、周囲の生徒達も固まった。

 

「は!?」

 

 爆豪が、露骨に顔を歪める。

 

「テメェ、何考えてやがる半分野郎」

 

 ざわざわと声が広がる。

 

「一位と四位が組むのか?」

「上位同士で?」

「いや普通、ポイント持ちは分散するだろ」

「狙われるリスク上がらね?」

 

 当然だった。

 

 騎馬戦は、チームの持ち点を合算する。

 

 上位同士が組めば、ポイントは高くなる。

 

 だが同時に、周囲から狙われる危険も跳ね上がる。

 

 特に轟は一千万ポイント持ち。

 

 そこへ四位の出久まで加われば、完全に全員の標的になる。

 

「轟君……」

 

 出久は戸惑いながら尋ねる。

 

「どうして僕に?」

 

 轟は、少しだけ考えるように沈黙した。

 

 それから、淡々と言った。

 

「お前が一番、攻めに向いてると思った」

 

「……」

 

「俺は広範囲制圧が出来る。だが、細かい奪取や接近戦はお前の方が上だ」

 

 周囲がまたざわつく。

 

 轟は続ける。

 

「それに」

 

 一拍。

 

「お前は、俺を本気で取りに来る目をしてた」

 

 出久の胸が、微かに跳ねる。

 

 地雷原。

 

 追いすがった時の感覚。

 

 あれを、轟は見ていた。

 

「だから、敵に回すより組んだ方がいい」

 

 合理的な判断。

 

 だが。

 

 それだけではないようにも聞こえた。

 

「待て待て」

 

 上鳴が、困惑したように手を上げる。

 

「でもさ、騎手って鉢巻取る役だろ? 轟が騎手の方が強くね?」

 

「違う」

 

 轟は即答した。

 

 そして。

 

 周囲をさらに驚かせる言葉を続けた。

 

「俺が騎馬に入る」

 

「……は?」

 

 爆豪が低く呟く。

 

 出久も目を見開いた。

 

「えっ、轟君が……?」

 

「ああ」

 

 轟は、迷いなく頷く。

 

「俺の個性は、手が塞がっていても関係ない」

 

 その言葉に、周囲が一瞬静まり返る。

 

 氷。

 

 炎。

 

 轟の個性は、身体の左右から発動する。

 

 確かに、騎馬として他人を支えていても、足元や周囲へ氷を展開出来る。

 

 手で鉢巻を取る必要もない。

 

「俺が騎馬で周囲を制圧する」

 

 轟の視線が、出久へ向く。

 

「お前が騎手で、相手の鉢巻を取れ」

 

「……!」

 

「俺達で一位を取る」

 

 その言葉に。

 

 周囲が、完全にざわめいた。

 

 一位と四位。

 

 高ポイント同士。

 

 しかも。

 

 一千万ポイント保持者が、騎手ではなく騎馬に回る。

 

 常識外れ。

 

 だが。

 

 理には適っていた。

 

 出久は、轟の顔を見る。

 

 無表情。

 

 だが、その目は本気だった。

 

「でも……」

 

 出久は、思わず口を開く。

 

「雄英体育祭は、全国のプロヒーローが見るアピールの場だよ」

 

 轟は黙って聞いている。

 

「当然、一番目立つのは騎手だ。鉢巻を取るのも、カメラに抜かれるのも、評価されやすいのも、多分そっちだ」

 

「……」

 

「一位通過の轟君が騎馬になるなんて、そんなの……あまりに常識外れだ」

 

 周囲の何人かが頷いた。

 

 それは正論だった。

 

 体育祭は、勝つだけの場ではない。

 

 プロに見られる場。

 

 名前を売る場。

 

 将来の指名へ繋げる場。

 

 その意味で、一千万ポイントを持つ轟焦凍が自ら騎手を譲るなど、普通ならあり得ない。

 

 だが。

 

 轟は、短く答えた。

 

「そんなの分かってる」

 

「……!」

 

「理由は、さっき説明した通りだ」

 

 淡々とした声。

 

「俺は制圧に回る。お前は奪取に回る。その方が勝てる」

 

「でも——」

 

「まだ理由が欲しいなら」

 

 そこで、轟の表情が少しだけ変わった。

 

 ほんの僅か。

 

 口元が、にっと上がる。

 

「お前と俺が組んだら、どんな事になるのか気になった」

 

「……え?」

 

「楽しそうだと思わないか」

 

 出久は、言葉を失った。

 

 轟焦凍が。

 

 勝算でもなく。

 

 評価でもなく。

 

 合理性だけでもなく。

 

 “楽しそう”と言った。

 

 その事実に、周囲も一瞬固まる。

 

 轟は気にしない。

 

 ただ、出久を見ていた。

 

「どうする」

 

 短い問い。

 

 出久の胸が、強く鳴る。

 

 自分を騎手に据える。

 

 一千万ポイントを預ける。

 

 そして、一位を狙う。

 

 常識外れ。

 

 危険。

 

 標的になる。

 

 それでも。

 

 確かに。

 

 楽しそうだった。

 

「……うん」

 

 出久は、ゆっくり頷いた。

 

「やろう、轟君」

 

 轟の目が、僅かに細まる。

 

「決まりだな」

 

 その瞬間だった。

 

 さっきまで出久へ群がっていた生徒達が。

 

 すっ、と。

 

 一斉に距離を取った。

 

「……あ」

 

 出久が間の抜けた声を漏らす。

 

 理由は、考えるまでもない。

 

 一位。

 

 轟焦凍。

 

 一千万ポイント保持者。

 

 その轟と。

 

 四位通過の緑谷出久が組む。

 

 つまり。

 

 このチームは。

 

 騎馬戦開始と同時に、“全校共通の最優先目標”になる。

 

「いや無理無理無理!!」

「絶対集中砲火食らうだろ!」

「狙われ率エグすぎる!!」

「悪い!! 流石に話変わってくるわ!」

 

 蜘蛛の子を散らすみたいに、人が離れていく。

 

 数秒前まで。

 

「緑谷組もう!!」

「前衛欲しい!!」

 

 と迫っていた面々が、今は露骨に目を逸らしていた。

 

「おい待てテメェら!!」

 

 上鳴がツッコミみたいに叫ぶ。

 

「さっきまでの勢いどこ行った!?」

 

「いやだって!!」

「轟込みは話変わるって!!」

 

 瀬呂が半笑いで後退る。

 

「俺、あのチームの真正面立ちたくねぇもん」

 

「それ以前に全方向から狙われるやろ……」

 

 麗日まで苦笑していた。

 

 一方。

 

 爆豪は。

 

「ハッ」

 

 鼻で笑った。

 

「勝手にラスボス化してやがる」

 

「うるせぇぞ」

 

 轟が淡々と返す。

 

「事実だろ半分野郎」

 

 だが。

 

 爆豪の目にも、僅かな苛立ちがあった。

 

 轟と出久。

 

 その組み合わせが、単純に厄介だと理解している顔だった。

 

「……っ」

 

 出久は周囲を見回す。

 

 誰も来ない。

 

 むしろ、避けている。

 

 轟は平然としているが、出久の方は急に焦り始めていた。

 

(やばい)

 

 騎馬戦は四人一組。

 

 つまり。

 

 あと二人必要だ。

 

 だが。

 

 このままだと。

 

 本当に誰も来ない。

 

「えっと、ど、どうしよう……」

 

 出久の声が小さくなる。

 

 制限時間は、既にどんどん減っていた。

 

 巨大モニター。

 

 13:42

 

 13:41

 

 周囲では、次々とチームが完成していく。

 

「常闇、お前そっち支えてくれ!」

「発目さん! サポートお願い!」

「夜嵐くんこっちです!!」

 

 焦りが強くなる。

 

 轟は強い。

 

 むしろ強すぎる。

 

 だから誰も近寄れない。

 

(このままじゃ二人だけで——)

 

「緑谷君」

 

「……え?」

 

 声を掛けられる。

 

 振り向く。

 

 そこには、麗日が立っていた。

 

 少しだけ困ったみたいに笑いながら。

 

「まだ四人集まってないよね?」

 

 出久が、一瞬固まる。

 

「麗日さん!」

 

 麗日が、少し照れ臭そうに頬を掻く。

 

「その……私、入ってもいいかな?」

 

「……え?」

 

 出久が、ぽかんと固まる。

 

 麗日は、へへっと笑った。

 

「やっぱどうせなら、仲良い人と組みたいし!」

 

 その言葉。

 

 あまりにも自然で。

 

 あまりにも真っ直ぐで。

 

 だからこそ。

 

 出久の脳が、一瞬完全に止まった。

 

「……な」

 

「?」

 

「な、な、ななな……!」

 

 顔が、一気に熱くなる。

 

 耳まで真っ赤だった。

 

「え!? あ、いや、えぇっ!? ぼ、僕と!? いやその、仲良いっていうか、た、確かに仲悪くはないっていうかでもそんな風に改めて言われると」

 

「長い長い長い!!」

 

 麗日が慌ててツッコむ。

 

 一方。

 

 轟は真顔だった。

 

「緑谷、息継ぎしろ」

 

「はっ、はい!!」

 

 反射的に返事してしまう。

 

 麗日は、ちょっと笑いながら続けた。

 

「だってさ、今の轟君と緑谷君のチーム、絶対みんな怖がって入ってこんやろ?」

 

「うっ」

 

 図星だった。

 

「それに、私の無重力なら機動力も上げられると思うんよ」

 

 そう言って、自分の指先を軽く見せる。

 

 確かに。

 

 騎馬戦において、麗日の個性は強い。

 

 重量操作。

 

 加速補助。

 

 緊急回避。

 

 使い方次第で、一気に動きが変わる。

 

 出久の目が、少しずつ真面目な色へ戻る。

 

「……確かに」

 

 轟も頷いた。

 

「悪くない」

 

「でしょ?」

 

 麗日が笑う。

 

 その空気に、少しだけ張り詰めていた緊張が和らいだ。

 

 だが。

 

 問題はまだ残っている。

 

「あと一人……」

 

 出久が呟く。

 

 四人一組。

 

 現在。

 

 騎手:出久

 

 騎馬:轟、麗日

 

 残り一人。

 

 だが。

 

 依然として周囲の生徒達は距離を取ったままだった。

 

「いやぁ……」

「流石にあそこ入る勇気ねぇ」

「狙われ方が洒落にならん」

 

 時間だけが減っていく。

 

 巨大モニター。

 

 05:12

 

 05:11

 

「やばい……!」

 

 出久の額へ汗が浮く。

 

 このままでは、チーム不成立すらあり得る。

 

「誰か……!」

 

 視線を巡らせる。

 

 だが。

 

 目が合った生徒達は、さっと逸らした。

 

 その時だった。

 

「なら!」

 

 元気の良い声が響く。

 

 人混みをかき分けるように、小柄な少女が飛び込んできた。

 

 ゴーグル。

 

 サポートアイテムだらけの装備。

 

 工具箱みたいなリュック。

 

「私を入れてくださいな!!」

 

「……え?」

 

 出久が目を瞬かせる。

 

 少女は、にかっと笑った。

 

「サポート科一年、発目明です!!」

 

 周囲がざわつく。

 

「サポート科!?」

「なんであそこ行くんだ!?」

 

 だが。

 

 発目は全く気にしていなかった。

 

 むしろ。

 

 目を輝かせながら、出久達を見ていた。

 

「だって超目立つじゃないですか!!」

 

 ビシッ、と出久と轟を指差す。

 

「一位と四位の合同チーム!! しかも全校から狙われる!! つまり!!」

 

 ぐいっ、と顔を寄せる。

 

「私のベイビー達を全国へ宣伝する最高の舞台です!!」

 

「ベイビー?」

 

「サポートアイテムの事です!」

 

 発目が胸を張る。

 

 その勢いに、出久が少し押される。

 

「え、えっと……」

 

「安心してくださいな!! 機動補助も防御補助も色々あります!! むしろこの状況、私のベイビー試験運用に最適なんですよねぇ!!」

 

 完全に目が技術者の目だった。

 

 だが。

 

 轟は、静かに発目を見る。

 

「……使えるのか?」

 

「もちろんです!!」

 

 発目が即答する。

 

「むしろ暴れれば暴れるほど面白いデータ取れます!!」

 

「なるほど」

 

 轟が普通に納得した。

 

「納得するんだ……」

 

 麗日が小声で呟く。

 

 一方。

 

 出久は、少しだけ安心したように息を吐いた。

 

 四人。

 

 揃った。

 

 しかも。

 

 かなり滅茶苦茶なメンバーが。

 

 轟焦凍。

 

 麗日お茶子。

 

 発目明。

 

 そして、緑谷出久。

 

 火力。

 

 機動補助。

 

 サポートアイテム。

 

 奪取役。

 

 噛み合えば強い。

 

 だが。

 

 狙われ方も、間違いなく最悪だった。

 

『はいそこまでェェェ!!』

 

 プレゼント・マイクの声が、競技場全体へ響き渡った。

 

 巨大モニターの数字が、ゼロを示す。

 

 00:00

 

『十五分終了!! チーム編成タイム終了だァ!!』

 

 ブザーが鳴る。

 

 フィールド上に散っていた生徒達が、それぞれの騎馬へと集まり始めた。

 

 四人一組。

 

 腕を組み、支え合い、騎手を乗せる。

 

 その姿が、競技場全体にずらりと並んでいく。

 

『それでは各チームの騎手へ、持ち点分の鉢巻を配布するぜ!!』

 

 審判役の教師達が、各騎手へ鉢巻を渡していく。

 

 順位に応じたポイント。

 

 四人分。

 

 チームごとに合算された数字が、巨大モニターへ次々と表示される。

 

 通常なら、数百点。

 

 高くても数千点。

 

 だが。

 

『そして注目はやはりこのチーム!!』

 

 プレゼント・マイクの声が、露骨に高くなる。

 

 巨大モニターが切り替わる。

 

 映し出されたのは、出久達のチームだった。

 

『一位通過の轟焦凍!! 一千万ポイント!!』

 

 轟は、無表情のまま騎馬の左前に入る。

 

『四位通過の緑谷出久!! 百九十五ポイント!!』

 

 出久が、騎手として中央へ立つ。

 

『さらに麗日お茶子、発目明を加えたこのチーム!!』

 

 画面上の数字が、跳ね上がる。

 

 10,000,000。

 

 そこへ、出久の百九十五点、麗日と発目の持ち点が加わる。

 ほとんど誤差のような加算。

 だが、それでも表示はさらに増えた。

 

『ダントツ一位ィィィ!! 完全に狩られる側だァァァ!!』

 

 競技場がどよめいた。

 

 視線。

 

 視線。

 

 視線。

 

 フィールド上のほぼ全ての生徒が、出久達を見ている。

 

 欲望。

 

 警戒。

 

 敵意。

 

 打算。

 

 一千万ポイントという数字が、それらを一斉に引き寄せていた。

 

「……うわぁ」

 

 麗日が、出久を支える位置に入りながら小さく呟く。

 

「思ったより見られてる……」

 

「当然です!! 目立ってます!! 最高です!!」

 

 発目はむしろ嬉しそうだった。

 

「こっちは命懸けなんだけど……」

 

 麗日が引き攣った笑みを浮かべる。

 

 出久は、鉢巻を受け取った。

 

 重さはない。

 

 ただの布。

 

 だが。

 

 そこに刻まれた数字は、異様な重みを持っていた。

 

 一千万。

 

 轟が預けた点。

 

 自分達の標的としての証。

 

「……」

 

 出久は、それを額へ巻く。

 

 指先が少し震えた。

 

 轟が、横から短く言う。

 

「緊張してるのか」

 

「……してる」

 

「そうか」

 

 轟は前を見た。

 

「俺も少ししてる」

 

「え?」

 

「だけど、このメンバーなら問題ない」

 

 その声は淡々としていたが、ほんの僅かに熱があった。

 

 出久は、思わず小さく笑いそうになる。

 

 だが。

 

 すぐに表情を引き締めた。

 

『各チーム、位置につけェ!!』

 

 フィールド全体が動く。

 

 出久は、麗日と発目、轟に支えられながら騎馬の上へ乗った。

 

 視点が上がる。

 

 周囲がよく見える。

 

 爆豪のチーム。

 

 夜嵐のチーム。

 

 飯田のチーム。

 

 塩崎のチーム。

 

 全員が、こちらを見ていた。

 

 特に爆豪は。

 

 完全に獲物を狙う目だった。

 

「デクゥ……」

 

 遠くからでも分かる。

 

 殺気。

 

 苛立ち。

 

 競争心。

 

 その全部が、こちらへ向いている。

 

 出久は、息を吸う。

 

 作戦は、単純ではない。

 

 逃げるだけでは勝てない。

 

 守るだけでも勝てない。

 

 この点を維持しながら、必要なら奪う。

 

 轟の制圧。

 

 麗日の無重力。

 

 発目のサポートアイテム。

 

 そして、自分の奪取能力。

 

 全てを噛み合わせる必要がある。

 

『それではァ!!』

 

 プレゼント・マイクが叫ぶ。

 

 巨大モニターに、再び数字が映る。

 

 3

 

 競技場全体が静まり返る。

 

 2

 

 全員の重心が沈む。

 

 1

 

 出久は、前を見た。

 

 視線が集中している。

 

 全員が、自分達を狙っている。

 

 だが。

 

 不思議と、逃げたいとは思わなかった。

 

 むしろ。

 

 胸の奥で、熱が広がっていた。

 

『STARTォォォォォッ!!!』

 

 開始の合図と同時に。

 

 フィールド全体が、出久達へ向かって動いた。

 

「来た……!」

 

 麗日が息を呑む。

 

 前。

 

 右。

 

 左。

 

 斜め後ろ。

 

 ほぼ全ての騎馬が、一斉にこちらへ向かってくる。

 

 当然だった。

 

 一千万ポイント。

 

 それを奪えば、勝ち残りはほぼ確定する。

 

 ならば、最初に狙うべき相手は一つしかない。

 

『やはりィィィ!! 全員が一千万ポイントへ殺到だァ!!』

 

 プレゼント・マイクの実況が響く。

 

『まさに餌!! まさに獲物!! 逃げ切れるか緑谷チームゥゥゥ!!』

 

「餌って言うな!」

 

 麗日が叫ぶ。

 

 だが、抗議している暇はない。

 

 その中で。

 

 最初に飛び出した騎馬があった。

 

 爆豪勝己。

 

 騎手。

 

 騎馬は、切島、瀬呂、芦戸。

 

 機動力と耐久力を両立した、完全な突撃編成だった。

 

「殺す!!!」

 

「殺さねーって!」

 

 切島が真正面で踏ん張る。

 

 瀬呂が横からテープを構え、芦戸が足元へ酸を薄く広げる。

 

 瞬間。

 

 騎馬全体が滑るように加速した。

 

「うわ速っ!?」

 

 麗日が目を見開く。

 

 芦戸の酸で摩擦を減らし、瀬呂のテープで姿勢制御、切島の硬化で衝撃を受ける。

 

 そして上には。

 

 爆豪。

 

「デクゥ!!」

 

 爆豪が吠える。

 

 掌に爆発が灯る。

 

「テメェもだ半分野郎ォ!!」

 

 視線は、出久だけではなかった。

 

 轟にも向いている。

 

 いや。

 

 怒りの半分は轟へ向いていた。

 

 上位同士で組む。

 

 一位が騎馬になる。

 

 そんなセオリー破りの誘いを、真っ先に出久へ持ちかけた男。

 

 それが、爆豪には気に食わなかった。

 

「俺の前で勝手に面白ぇことしてんじゃねぇ!!」

 

「それは理不尽だろ」

 

 轟が淡々と返す。

 

「うるせぇ!!」

 

 爆豪が爆破で身を乗り出す。

 

 距離が、一気に詰まる。

 

「来る!」

 

 出久が叫ぶ。

 

 同時に、轟の足元から氷が走った。

 

 ザザザザッ!! 

 

 地面を這う氷が、爆豪チームの進路を塞ぐ。

 

 だが。

 

「切島ァ!!」

 

「任せろ!!」

 

 切島が前へ出る。

 

 硬化した身体で、氷壁へ真正面から突っ込んだ。

 

 バギィッ!! 

 

 氷が砕ける。

 

 その隙間から、瀬呂のテープが伸びる。

 

「取った!」

 

 狙いは出久の鉢巻。

 

 だが。

 

「無重力!」

 

 麗日が、騎馬全体の重量を軽くする。

 

 発目の装備が唸りを上げた。

 

「ベイビー一号、姿勢補助開始です!!」

 

 背部の小型スラスターが噴射する。

 

 ぐん、と。

 

 出久達の騎馬が、横へ滑った。

 

 瀬呂のテープが空を切る。

 

「ちっ!」

 

 爆豪が舌打ちする。

 

 だが、止まらない。

 

 掌の爆破で、さらに追撃姿勢へ入る。

 

 速い。

 

 荒い。

 

 だが、噛み合っている。

 

 出久は、騎手の位置から爆豪を見据えた。

 

 爆豪は、笑っていなかった。

 

 怒っていた。

 

 本気で。

 

 出久にも。

 

 轟にも。

 

 この状況にも。

 

「その鉢巻」

 

 爆豪が低く言う。

 

「俺が最初に奪る」

 

 その瞬間。

 

 背後からも、別の騎馬が迫ってきた。

 

「デク君、後ろ!」

 

 麗日が叫ぶ。

 

 全方向。

 

 本当に、全方向から来ている。

 

 出久は、歯を食い縛った。

 

(始まったばかりでこれか……!)

 

 轟が短く言う。

 

「緑谷」

 

「うん」

 

「予定通り、まずは包囲を抜ける」

 

「分かった」

 

 出久は、鉢巻を押さえながら身を低くした。

 

 爆豪チームが前方。

 

 後方から別チーム。

 

 左右からも数組。

 

 完全に囲まれる、その寸前。

 

 出久が叫んだ。

 

「麗日さん、無重力を!」

 

「了解!」

 

「発目さん、推進補助!」

 

「待ってましたァ!!」

 

 轟の氷が、地面へ走る。

 

 麗日が重さを消す。

 

 発目のサポートアイテムが噴射する。

 

 次の瞬間。

 

 出久達の騎馬は、包囲の隙間へ弾丸みたいに滑り込んだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。