上位へ行くには、“強い騎手”が必要。
そして。
今の緑谷出久は。
間違いなく、その候補だった。
「えっと……」
出久は、周囲を見る。
麗日。
飯田。
瀬呂。
切島。
峰田。
他クラスの生徒達まで混じっている。
誰と組むべきか。
自分が騎手になるのか、騎馬に入るのか。
防御を固めるべきか。
攻撃に振るべきか。
(僕のポイントは四位、195点。狙うべきは轟君の一千万……いや、全員が轟君を狙うなら、逆に周辺の混乱を利用して——)
思考が走る。
その時だった。
「緑谷」
静かな声。
人垣が、僅かに割れた。
「……轟君?」
轟焦凍が、まっすぐこちらへ歩いてきていた。
その瞬間。
周囲の空気が変わる。
一位通過者。
一千万ポイント保持者。
全員から狙われる立場の男。
その轟が、自分から出久へ近付いている。
「俺と組まないか」
「……え?」
出久だけでなく、周囲の生徒達も固まった。
「は!?」
爆豪が、露骨に顔を歪める。
「テメェ、何考えてやがる半分野郎」
ざわざわと声が広がる。
「一位と四位が組むのか?」
「上位同士で?」
「いや普通、ポイント持ちは分散するだろ」
「狙われるリスク上がらね?」
当然だった。
騎馬戦は、チームの持ち点を合算する。
上位同士が組めば、ポイントは高くなる。
だが同時に、周囲から狙われる危険も跳ね上がる。
特に轟は一千万ポイント持ち。
そこへ四位の出久まで加われば、完全に全員の標的になる。
「轟君……」
出久は戸惑いながら尋ねる。
「どうして僕に?」
轟は、少しだけ考えるように沈黙した。
それから、淡々と言った。
「お前が一番、攻めに向いてると思った」
「……」
「俺は広範囲制圧が出来る。だが、細かい奪取や接近戦はお前の方が上だ」
周囲がまたざわつく。
轟は続ける。
「それに」
一拍。
「お前は、俺を本気で取りに来る目をしてた」
出久の胸が、微かに跳ねる。
地雷原。
追いすがった時の感覚。
あれを、轟は見ていた。
「だから、敵に回すより組んだ方がいい」
合理的な判断。
だが。
それだけではないようにも聞こえた。
「待て待て」
上鳴が、困惑したように手を上げる。
「でもさ、騎手って鉢巻取る役だろ? 轟が騎手の方が強くね?」
「違う」
轟は即答した。
そして。
周囲をさらに驚かせる言葉を続けた。
「俺が騎馬に入る」
「……は?」
爆豪が低く呟く。
出久も目を見開いた。
「えっ、轟君が……?」
「ああ」
轟は、迷いなく頷く。
「俺の個性は、手が塞がっていても関係ない」
その言葉に、周囲が一瞬静まり返る。
氷。
炎。
轟の個性は、身体の左右から発動する。
確かに、騎馬として他人を支えていても、足元や周囲へ氷を展開出来る。
手で鉢巻を取る必要もない。
「俺が騎馬で周囲を制圧する」
轟の視線が、出久へ向く。
「お前が騎手で、相手の鉢巻を取れ」
「……!」
「俺達で一位を取る」
その言葉に。
周囲が、完全にざわめいた。
一位と四位。
高ポイント同士。
しかも。
一千万ポイント保持者が、騎手ではなく騎馬に回る。
常識外れ。
だが。
理には適っていた。
出久は、轟の顔を見る。
無表情。
だが、その目は本気だった。
「でも……」
出久は、思わず口を開く。
「雄英体育祭は、全国のプロヒーローが見るアピールの場だよ」
轟は黙って聞いている。
「当然、一番目立つのは騎手だ。鉢巻を取るのも、カメラに抜かれるのも、評価されやすいのも、多分そっちだ」
「……」
「一位通過の轟君が騎馬になるなんて、そんなの……あまりに常識外れだ」
周囲の何人かが頷いた。
それは正論だった。
体育祭は、勝つだけの場ではない。
プロに見られる場。
名前を売る場。
将来の指名へ繋げる場。
その意味で、一千万ポイントを持つ轟焦凍が自ら騎手を譲るなど、普通ならあり得ない。
だが。
轟は、短く答えた。
「そんなの分かってる」
「……!」
「理由は、さっき説明した通りだ」
淡々とした声。
「俺は制圧に回る。お前は奪取に回る。その方が勝てる」
「でも——」
「まだ理由が欲しいなら」
そこで、轟の表情が少しだけ変わった。
ほんの僅か。
口元が、にっと上がる。
「お前と俺が組んだら、どんな事になるのか気になった」
「……え?」
「楽しそうだと思わないか」
出久は、言葉を失った。
轟焦凍が。
勝算でもなく。
評価でもなく。
合理性だけでもなく。
“楽しそう”と言った。
その事実に、周囲も一瞬固まる。
轟は気にしない。
ただ、出久を見ていた。
「どうする」
短い問い。
出久の胸が、強く鳴る。
自分を騎手に据える。
一千万ポイントを預ける。
そして、一位を狙う。
常識外れ。
危険。
標的になる。
それでも。
確かに。
楽しそうだった。
「……うん」
出久は、ゆっくり頷いた。
「やろう、轟君」
轟の目が、僅かに細まる。
「決まりだな」
その瞬間だった。
さっきまで出久へ群がっていた生徒達が。
すっ、と。
一斉に距離を取った。
「……あ」
出久が間の抜けた声を漏らす。
理由は、考えるまでもない。
一位。
轟焦凍。
一千万ポイント保持者。
その轟と。
四位通過の緑谷出久が組む。
つまり。
このチームは。
騎馬戦開始と同時に、“全校共通の最優先目標”になる。
「いや無理無理無理!!」
「絶対集中砲火食らうだろ!」
「狙われ率エグすぎる!!」
「悪い!! 流石に話変わってくるわ!」
蜘蛛の子を散らすみたいに、人が離れていく。
数秒前まで。
「緑谷組もう!!」
「前衛欲しい!!」
と迫っていた面々が、今は露骨に目を逸らしていた。
「おい待てテメェら!!」
上鳴がツッコミみたいに叫ぶ。
「さっきまでの勢いどこ行った!?」
「いやだって!!」
「轟込みは話変わるって!!」
瀬呂が半笑いで後退る。
「俺、あのチームの真正面立ちたくねぇもん」
「それ以前に全方向から狙われるやろ……」
麗日まで苦笑していた。
一方。
爆豪は。
「ハッ」
鼻で笑った。
「勝手にラスボス化してやがる」
「うるせぇぞ」
轟が淡々と返す。
「事実だろ半分野郎」
だが。
爆豪の目にも、僅かな苛立ちがあった。
轟と出久。
その組み合わせが、単純に厄介だと理解している顔だった。
「……っ」
出久は周囲を見回す。
誰も来ない。
むしろ、避けている。
轟は平然としているが、出久の方は急に焦り始めていた。
(やばい)
騎馬戦は四人一組。
つまり。
あと二人必要だ。
だが。
このままだと。
本当に誰も来ない。
「えっと、ど、どうしよう……」
出久の声が小さくなる。
制限時間は、既にどんどん減っていた。
巨大モニター。
13:42
13:41
周囲では、次々とチームが完成していく。
「常闇、お前そっち支えてくれ!」
「発目さん! サポートお願い!」
「夜嵐くんこっちです!!」
焦りが強くなる。
轟は強い。
むしろ強すぎる。
だから誰も近寄れない。
(このままじゃ二人だけで——)
「緑谷君」
「……え?」
声を掛けられる。
振り向く。
そこには、麗日が立っていた。
少しだけ困ったみたいに笑いながら。
「まだ四人集まってないよね?」
出久が、一瞬固まる。
「麗日さん!」
麗日が、少し照れ臭そうに頬を掻く。
「その……私、入ってもいいかな?」
「……え?」
出久が、ぽかんと固まる。
麗日は、へへっと笑った。
「やっぱどうせなら、仲良い人と組みたいし!」
その言葉。
あまりにも自然で。
あまりにも真っ直ぐで。
だからこそ。
出久の脳が、一瞬完全に止まった。
「……な」
「?」
「な、な、ななな……!」
顔が、一気に熱くなる。
耳まで真っ赤だった。
「え!? あ、いや、えぇっ!? ぼ、僕と!? いやその、仲良いっていうか、た、確かに仲悪くはないっていうかでもそんな風に改めて言われると」
「長い長い長い!!」
麗日が慌ててツッコむ。
一方。
轟は真顔だった。
「緑谷、息継ぎしろ」
「はっ、はい!!」
反射的に返事してしまう。
麗日は、ちょっと笑いながら続けた。
「だってさ、今の轟君と緑谷君のチーム、絶対みんな怖がって入ってこんやろ?」
「うっ」
図星だった。
「それに、私の無重力なら機動力も上げられると思うんよ」
そう言って、自分の指先を軽く見せる。
確かに。
騎馬戦において、麗日の個性は強い。
重量操作。
加速補助。
緊急回避。
使い方次第で、一気に動きが変わる。
出久の目が、少しずつ真面目な色へ戻る。
「……確かに」
轟も頷いた。
「悪くない」
「でしょ?」
麗日が笑う。
その空気に、少しだけ張り詰めていた緊張が和らいだ。
だが。
問題はまだ残っている。
「あと一人……」
出久が呟く。
四人一組。
現在。
騎手:出久
騎馬:轟、麗日
残り一人。
だが。
依然として周囲の生徒達は距離を取ったままだった。
「いやぁ……」
「流石にあそこ入る勇気ねぇ」
「狙われ方が洒落にならん」
時間だけが減っていく。
巨大モニター。
05:12
05:11
「やばい……!」
出久の額へ汗が浮く。
このままでは、チーム不成立すらあり得る。
「誰か……!」
視線を巡らせる。
だが。
目が合った生徒達は、さっと逸らした。
その時だった。
「なら!」
元気の良い声が響く。
人混みをかき分けるように、小柄な少女が飛び込んできた。
ゴーグル。
サポートアイテムだらけの装備。
工具箱みたいなリュック。
「私を入れてくださいな!!」
「……え?」
出久が目を瞬かせる。
少女は、にかっと笑った。
「サポート科一年、発目明です!!」
周囲がざわつく。
「サポート科!?」
「なんであそこ行くんだ!?」
だが。
発目は全く気にしていなかった。
むしろ。
目を輝かせながら、出久達を見ていた。
「だって超目立つじゃないですか!!」
ビシッ、と出久と轟を指差す。
「一位と四位の合同チーム!! しかも全校から狙われる!! つまり!!」
ぐいっ、と顔を寄せる。
「私のベイビー達を全国へ宣伝する最高の舞台です!!」
「ベイビー?」
「サポートアイテムの事です!」
発目が胸を張る。
その勢いに、出久が少し押される。
「え、えっと……」
「安心してくださいな!! 機動補助も防御補助も色々あります!! むしろこの状況、私のベイビー試験運用に最適なんですよねぇ!!」
完全に目が技術者の目だった。
だが。
轟は、静かに発目を見る。
「……使えるのか?」
「もちろんです!!」
発目が即答する。
「むしろ暴れれば暴れるほど面白いデータ取れます!!」
「なるほど」
轟が普通に納得した。
「納得するんだ……」
麗日が小声で呟く。
一方。
出久は、少しだけ安心したように息を吐いた。
四人。
揃った。
しかも。
かなり滅茶苦茶なメンバーが。
轟焦凍。
麗日お茶子。
発目明。
そして、緑谷出久。
火力。
機動補助。
サポートアイテム。
奪取役。
噛み合えば強い。
だが。
狙われ方も、間違いなく最悪だった。
『はいそこまでェェェ!!』
プレゼント・マイクの声が、競技場全体へ響き渡った。
巨大モニターの数字が、ゼロを示す。
00:00
『十五分終了!! チーム編成タイム終了だァ!!』
ブザーが鳴る。
フィールド上に散っていた生徒達が、それぞれの騎馬へと集まり始めた。
四人一組。
腕を組み、支え合い、騎手を乗せる。
その姿が、競技場全体にずらりと並んでいく。
『それでは各チームの騎手へ、持ち点分の鉢巻を配布するぜ!!』
審判役の教師達が、各騎手へ鉢巻を渡していく。
順位に応じたポイント。
四人分。
チームごとに合算された数字が、巨大モニターへ次々と表示される。
通常なら、数百点。
高くても数千点。
だが。
『そして注目はやはりこのチーム!!』
プレゼント・マイクの声が、露骨に高くなる。
巨大モニターが切り替わる。
映し出されたのは、出久達のチームだった。
『一位通過の轟焦凍!! 一千万ポイント!!』
轟は、無表情のまま騎馬の左前に入る。
『四位通過の緑谷出久!! 百九十五ポイント!!』
出久が、騎手として中央へ立つ。
『さらに麗日お茶子、発目明を加えたこのチーム!!』
画面上の数字が、跳ね上がる。
10,000,000。
そこへ、出久の百九十五点、麗日と発目の持ち点が加わる。
ほとんど誤差のような加算。
だが、それでも表示はさらに増えた。
『ダントツ一位ィィィ!! 完全に狩られる側だァァァ!!』
競技場がどよめいた。
視線。
視線。
視線。
フィールド上のほぼ全ての生徒が、出久達を見ている。
欲望。
警戒。
敵意。
打算。
一千万ポイントという数字が、それらを一斉に引き寄せていた。
「……うわぁ」
麗日が、出久を支える位置に入りながら小さく呟く。
「思ったより見られてる……」
「当然です!! 目立ってます!! 最高です!!」
発目はむしろ嬉しそうだった。
「こっちは命懸けなんだけど……」
麗日が引き攣った笑みを浮かべる。
出久は、鉢巻を受け取った。
重さはない。
ただの布。
だが。
そこに刻まれた数字は、異様な重みを持っていた。
一千万。
轟が預けた点。
自分達の標的としての証。
「……」
出久は、それを額へ巻く。
指先が少し震えた。
轟が、横から短く言う。
「緊張してるのか」
「……してる」
「そうか」
轟は前を見た。
「俺も少ししてる」
「え?」
「だけど、このメンバーなら問題ない」
その声は淡々としていたが、ほんの僅かに熱があった。
出久は、思わず小さく笑いそうになる。
だが。
すぐに表情を引き締めた。
『各チーム、位置につけェ!!』
フィールド全体が動く。
出久は、麗日と発目、轟に支えられながら騎馬の上へ乗った。
視点が上がる。
周囲がよく見える。
爆豪のチーム。
夜嵐のチーム。
飯田のチーム。
塩崎のチーム。
全員が、こちらを見ていた。
特に爆豪は。
完全に獲物を狙う目だった。
「デクゥ……」
遠くからでも分かる。
殺気。
苛立ち。
競争心。
その全部が、こちらへ向いている。
出久は、息を吸う。
作戦は、単純ではない。
逃げるだけでは勝てない。
守るだけでも勝てない。
この点を維持しながら、必要なら奪う。
轟の制圧。
麗日の無重力。
発目のサポートアイテム。
そして、自分の奪取能力。
全てを噛み合わせる必要がある。
『それではァ!!』
プレゼント・マイクが叫ぶ。
巨大モニターに、再び数字が映る。
3
競技場全体が静まり返る。
2
全員の重心が沈む。
1
出久は、前を見た。
視線が集中している。
全員が、自分達を狙っている。
だが。
不思議と、逃げたいとは思わなかった。
むしろ。
胸の奥で、熱が広がっていた。
『STARTォォォォォッ!!!』
開始の合図と同時に。
フィールド全体が、出久達へ向かって動いた。
「来た……!」
麗日が息を呑む。
前。
右。
左。
斜め後ろ。
ほぼ全ての騎馬が、一斉にこちらへ向かってくる。
当然だった。
一千万ポイント。
それを奪えば、勝ち残りはほぼ確定する。
ならば、最初に狙うべき相手は一つしかない。
『やはりィィィ!! 全員が一千万ポイントへ殺到だァ!!』
プレゼント・マイクの実況が響く。
『まさに餌!! まさに獲物!! 逃げ切れるか緑谷チームゥゥゥ!!』
「餌って言うな!」
麗日が叫ぶ。
だが、抗議している暇はない。
その中で。
最初に飛び出した騎馬があった。
爆豪勝己。
騎手。
騎馬は、切島、瀬呂、芦戸。
機動力と耐久力を両立した、完全な突撃編成だった。
「殺す!!!」
「殺さねーって!」
切島が真正面で踏ん張る。
瀬呂が横からテープを構え、芦戸が足元へ酸を薄く広げる。
瞬間。
騎馬全体が滑るように加速した。
「うわ速っ!?」
麗日が目を見開く。
芦戸の酸で摩擦を減らし、瀬呂のテープで姿勢制御、切島の硬化で衝撃を受ける。
そして上には。
爆豪。
「デクゥ!!」
爆豪が吠える。
掌に爆発が灯る。
「テメェもだ半分野郎ォ!!」
視線は、出久だけではなかった。
轟にも向いている。
いや。
怒りの半分は轟へ向いていた。
上位同士で組む。
一位が騎馬になる。
そんなセオリー破りの誘いを、真っ先に出久へ持ちかけた男。
それが、爆豪には気に食わなかった。
「俺の前で勝手に面白ぇことしてんじゃねぇ!!」
「それは理不尽だろ」
轟が淡々と返す。
「うるせぇ!!」
爆豪が爆破で身を乗り出す。
距離が、一気に詰まる。
「来る!」
出久が叫ぶ。
同時に、轟の足元から氷が走った。
ザザザザッ!!
地面を這う氷が、爆豪チームの進路を塞ぐ。
だが。
「切島ァ!!」
「任せろ!!」
切島が前へ出る。
硬化した身体で、氷壁へ真正面から突っ込んだ。
バギィッ!!
氷が砕ける。
その隙間から、瀬呂のテープが伸びる。
「取った!」
狙いは出久の鉢巻。
だが。
「無重力!」
麗日が、騎馬全体の重量を軽くする。
発目の装備が唸りを上げた。
「ベイビー一号、姿勢補助開始です!!」
背部の小型スラスターが噴射する。
ぐん、と。
出久達の騎馬が、横へ滑った。
瀬呂のテープが空を切る。
「ちっ!」
爆豪が舌打ちする。
だが、止まらない。
掌の爆破で、さらに追撃姿勢へ入る。
速い。
荒い。
だが、噛み合っている。
出久は、騎手の位置から爆豪を見据えた。
爆豪は、笑っていなかった。
怒っていた。
本気で。
出久にも。
轟にも。
この状況にも。
「その鉢巻」
爆豪が低く言う。
「俺が最初に奪る」
その瞬間。
背後からも、別の騎馬が迫ってきた。
「デク君、後ろ!」
麗日が叫ぶ。
全方向。
本当に、全方向から来ている。
出久は、歯を食い縛った。
(始まったばかりでこれか……!)
轟が短く言う。
「緑谷」
「うん」
「予定通り、まずは包囲を抜ける」
「分かった」
出久は、鉢巻を押さえながら身を低くした。
爆豪チームが前方。
後方から別チーム。
左右からも数組。
完全に囲まれる、その寸前。
出久が叫んだ。
「麗日さん、無重力を!」
「了解!」
「発目さん、推進補助!」
「待ってましたァ!!」
轟の氷が、地面へ走る。
麗日が重さを消す。
発目のサポートアイテムが噴射する。
次の瞬間。
出久達の騎馬は、包囲の隙間へ弾丸みたいに滑り込んだ。