重い駆動音と共に、試験会場へ続く巨大ゲートが開いていく。
外から吹き込んできた風が、受験生たちの制服を揺らした。
その先に広がっていたのは、巨大な仮想市街地だった。
高層ビル群。
信号機。
道路。
立体交差。
崩れた瓦礫まで精巧に再現された、まるで本物の都市。
そして——静かだ。
異様なほどに。
人の気配はなく、代わりに遠くから機械音だけが響いている。
受験生たちは、ゲート前で一斉に身構えていた。
緊張。
興奮。
焦燥。
それらが混ざり合い、空気そのものを熱くしている。
出久もまた、列の中で拳を握っていた。
心臓が速い。
プレゼント・マイクの声が、スピーカー越しに響く。
『いいか受験生諸君!! ヒーローってのはァ!!』
一拍。
『スタートの瞬間から先手必勝だァ!!』
次の瞬間。
『——始めェッッ!!』
爆発した。
受験生たちが、一斉に駆け出す。
地面を蹴る音。
叫び声。
個性発動の閃光。
風圧が吹き荒れる。
「うおおおおっ!!」
誰かが跳躍した。
別の誰かが炎を噴き上げる。
巨大化する者。
高速で走り出す者。
武器を生成する者。
皆、我先にと仮想街へ散らばっていく。
すでに遠方では爆発音が響いていた。
ロボットが破壊される金属音。
瓦礫が崩れる音。
歓声。
実技試験は、もう始まっている。
「……っ!」
出久も地面を蹴った。
走る。
周囲の受験生たちに遅れないように。
ビル街へ飛び込む。
風が頬を叩く。
頭の中では、これまで叩き込んできたヒーロー分析が高速で回転していた。
ロボの行動パターン。
市街地戦。
索敵。
効率的な移動。
点数を稼ぐなら、まず敵を見つけなければならない。
「どこだ……!」
交差点を曲がる。
遠くで爆発。
別方向から衝撃音。
もう戦闘は始まっている。
焦りが胸を焼く。
他の受験生たちは、もうロボを倒しているのかもしれない。
出遅れれば、その分だけ不利になる。
「落ち着け……!」
自分へ言い聞かせるように呟く。
呼吸を整える。
視線を動かす。
ビルの陰。
路地裏。
高架下。
ロボはどこだ。
その時。
遠方で、警告音のような電子音が鳴った。
出久の目が、そちらを向く。
ガシャン、と。
重い金属音が路地の奥から響いた。
「……っ!」
出久の身体が強張る。
次の瞬間、建物の陰から“それ”が姿を現した。
一点ロボ。
雄英入試用の、最も基本的な仮想敵。
サイズは人間より一回り大きい程度。
丸みを帯びた機体。
量産型らしい単純なシルエット。
一番弱い敵だ。
そのはずだった。
だが。
「……ぁ」
出久の喉が、引き攣った。
ロボは、ゆっくりとこちらを向く。
ギギギ、と駆動音。
頭部センサーが赤く発光する。
機械の視線。
それが、自分を捉えた。
同時に、ロボの腕部が変形する。
無骨な金属音を立てながら展開されたのは、鈍く光る大型の打撃武器だった。
人を殴り潰すためだけに作られたような形状。
訓練用。
仮想敵。
安全設計。
そんな知識が、一瞬で吹き飛ぶ。
怖い。
目の前のそれは、明確に“敵”だった。
無機質で。
容赦がなく。
躊躇なくこちらへ向かってくる。
センサーが点滅する。
ターゲット認識音。
ギュイン、とモーターが唸った。
「っ……!」
出久は思わず一歩後退る。
靴裏がアスファルトを擦った。
頭では分かっている。
一点ロボ。
最弱。
ここで倒せなければ話にならない。
周囲では、今も受験生たちがロボを破壊している。
爆発音が響くたび、自分だけ取り残されていく気がした。
なのに。
身体が、動かない。
ロボが一歩踏み出す。
重い足音。
金属が擦れる音。
それだけで、心臓が跳ねる。
「動け……!」
喉の奥で、掠れた声が漏れる。
だが、膝は震えたままだった。
ロボがさらに距離を詰める。
赤いセンサーが、瞬き一つせず出久を見据えている。
武器が持ち上がる。
振り下ろされれば終わりだ、と本能が叫んでいた。
なのに。
身体は硬直したまま動かない。
怖い。
怖い怖い怖い。
無個性だった頃の記憶が、脳裏を埋め尽くす。
爆轟に怒鳴られた記憶。
ヴィラン事件の映像。
瓦礫。
血。
泣き叫ぶ人々。
自分は、いつだって見ているだけだった。
助けられる側だった。
だから。
目の前の“仮想敵”を前にした瞬間、身体が理解してしまった。
自分は助ける側の人間ではない、と。
その時だった。
『君は、ヒーローになれる』
声。
不意に、脳の奥で響く。
低く。
穏やかで。
優しい声。
出久の瞳が揺れた。
「……っ」
AFO。
地下施設の白い部屋。
生命維持装置。
焼け爛れた肉体。
あの男の声が、記憶ではなく“現在”として耳元へ蘇る。
ロボが迫る。
だが。
その恐怖を、別の恐怖が塗り潰していく。
生命維持装置の駆動音。
黒い穴。
あの底知れない存在感。
目の前のロボよりも遥かに恐ろしい“本物のヴィラン”を、出久は知ってしまっていた。
『緑谷出久君』
優しく諭すような声。
『君には、僕のお気に入りの個性を貸してあげよう』
瞬間。
出久の右手に、熱が走った。
骨が軋む。
皮膚の下で形が組み変わる。
掌の中央が裂け、そこから白い骨が滑り出す。
鋭利な槍状の骨。
滑らかな乳白色の表面には、金属じみた硬質な光沢があった。
個性——“槍骨”。
初めて発現した時のような混乱は、もうない。
数か月。
地下施設で繰り返された訓練。
骨生成速度。
硬度調整。
射出角度。
貫通力。
AFOと志賀の監督下で、出久はこの異形の個性を徹底的に叩き込まれていた。
何度も血を流した。
何度も骨を折った。
それでも。
今、掌から伸びる骨槍は、ほとんど反射のように形成されている。
ロボが武器を振り上げる。
赤いセンサーが点滅した。
警告音。
モーター駆動音。
だが。
出久は、もう後退らなかった。
『恐怖を制御したまえ、緑谷出久君。なにせ時間がないからね、手荒に教育していく』
脳裏に響く、AFOの声。
『君が恐怖を感じる度、君に罰を与える』
『君が目標を達成出来ない度に、君に罰を与える』
『さあ、制御したまえ。恐怖を、個性を……』
出久の呼吸が、静かに整う。
怖い。
それは変わらない。
目の前の仮想敵は、依然として恐ろしい。
だが。
地下施設で見てきたもの。
生命維持装置の中の男。
人間を改造する実験設備。
個性を奪い、与える“黒い穴”。
それらに比べれば、このロボはまだ理解可能な存在だった。
出久の瞳が、ロボの挙動を捉える。
右肩駆動部。
重心移動。
武器の振り上げ角。
脳内で、分析が高速回転する。
「——遅い!」
地面を蹴った。
ロボの打撃が振り下ろされる。
轟音。
アスファルトが砕け、破片が舞う。
だが、その瞬間にはもう、出久は横へ回り込んでいた。
視界の端で、ロボのセンサーがこちらを追従する。
追いつけていない。
機械的な動作。
単純な索敵。
読める。
出久は走りながら右手を突き出した。
「——槍骨ッ!」
骨槍が、一気に伸長する。
空気を裂く白い閃き。
ズドンッ!!
骨槍がロボの胸部装甲を正面から貫いた。
金属が裂ける。
火花。
内部機構の破断音。
センサーが激しく点滅する。
出久はそのまま踏み込み、さらに力を込めた。
「ぁあああッ!!」
骨槍が深く食い込む。
内部ユニットを貫通。
次の瞬間。
ガシャァンッ!!
一点ロボが大きな金属音を響かせ、地面へ崩れ落ちた。
沈黙。
白煙。
火花を散らしながら、ロボの赤いセンサーが消灯する。
出久は、荒い呼吸のまま立ち尽くした。
「……倒、した」
自分の声が、少し震えている。
だが。
身体は動いていた。
戦えた。
遠くで、爆発音が響く。
我に返ったように、出久は顔を上げた。
試験は、まだ終わっていない。
「……っ!」
骨槍を引き抜く。
砕けたロボの残骸が、重い音を立てて崩れ落ちた。
掌から伸びる白い骨は、まだ維持されている。
出久は呼吸を整えた。
怖い。
だが。
今の自分には、戦う手段がある。
それだけで、世界の見え方が変わっていた。
地面を蹴る。
再び、市街地を駆け出した。
交差点を抜ける。
視線を巡らせる。
ロボの配置。
音源。
受験生たちの戦闘位置。
脳内で情報が整理されていく。
「二点ロボなら、あっち……!」
高架下。
機械音。
出久は迷わず進路を変えた。
次の瞬間。
物陰から二点ロボが飛び出してくる。
大型。
一点ロボより厚い装甲。
腕部には回転式の打撃機構。
だが。
もう、立ち止まらない。
ロボが振り向くより先に、出久は踏み込んでいた。
「槍骨!」
掌から伸びた白い槍が、一直線に突き出される。
ガギィンッ!!
装甲表面で火花が散る。
硬い。
一点ロボより明らかに防御が厚い。
だが。
出久の頭の中では、既に分析が終わっていた。
「関節部——!」
横へ回り込む。
ロボの追従は遅い。
脚部駆動軸。
そこへ、骨槍を突き込む。
破断音。
バランスを崩したロボへ、更に追撃。
頭部センサーを貫通。
爆発。
二点ロボが倒れる。
「次……!」
止まらない。
出久は更なるポイントを求め、仮想市街を走り続けた。
遠方では他の受験生たちも戦っている。
炎。
爆発。
衝撃波。
皆、自分の個性を振るい、点数を稼いでいる。
その中へ、出久も混ざっていた。
骨槍を振るうたび、ロボが砕ける。
三点ロボ。
二体同時。
出久はビル壁面を蹴って立体的に移動し、死角から骨槍を突き立てた。
火花。
金属破断。
悲鳴のような警告音。
倒れる。
また次。
気づけば、恐怖より先に身体が動いていた。
止まれば——追いつかれる。
自分より強い受験生たちに。
期待に。
恐怖に。
出久は歯を食いしばり、さらに加速した。
その時だった。
——ゴゴゴゴゴゴ、と。
地鳴りのような音が響いた。
「……え?」
出久が顔を上げる。
遠方。
ビル群の向こう。
巨大な影が、ゆっくりと姿を現していた。
高い。
あまりにも。
周囲の建物と比較しても異様な巨体。
受験用ロボなど比較にならない。
圧倒的な質量。
そして。
ズガァンッ!!
巨大な腕が、ビル外壁へ叩き込まれた。
コンクリートが爆散する。
窓ガラスが砕け散り、瓦礫が雨のように降り注ぐ。
受験生たちの悲鳴が響いた。
「なっ……!?」
出久の目が見開かれる。
巨大ロボ。
0点ロボ。
プレゼント・マイクが説明していた、“逃走用ギミック”。
倒しても得点にならない災害級障害物。
そのはずだった。
だが。
目の前のそれは、そんな軽い説明で済む存在ではない。
ビルを破壊しながら進む巨大な鉄塊。
振動。
崩落。
轟音。
まるで怪獣だった。
0点ロボの赤いセンサーが、ゆっくりと市街地を見渡す。
その巨体が一歩踏み出すたび、地面が揺れた。
ズシン、と。
再び地面が揺れる。
0点ロボの巨体が、ゆっくりと前進していた。
ビルの側面へ肩がぶつかる。
コンクリートが砕け、鉄骨が悲鳴を上げる。
轟音。
粉塵。
崩落。
その光景を見た瞬間、出久の背筋を冷たいものが走った。
「……あんなの、無理だ!」
思わず声が漏れる。
倒せる相手ではない。
いや、倒す必要もない。
プレゼント・マイクは言っていた。
0点ロボは“逃げろ”という意味の障害物だと。
なら、やるべき事は決まっている。
無視だ。
他のロボを探す。
まだ時間は残っている。
今なら、もっとポイントを稼げる。
出久は視線を切り、地面を蹴ろうとした。
その時。
「——ぁ……!」
微かに。
悲鳴のような声が聞こえた。
出久の足が止まる。
反射的に振り返る。
崩壊したビル群の方向。
土煙の向こう。
視界の端。
瓦礫の隙間で、誰かが倒れていた。
「……え」
出久の瞳が見開かれる。
少女だった。
茶色の髪。
丸い顔立ち。
必死に瓦礫を押し退けようとしている。
だが。
動けていない。
崩れたコンクリートが、脚を挟んでいる。
そして。
「あ……」
出久は、その顔に見覚えがあった。
試験会場。
席を教えてくれた少女。
“大丈夫? ”と、自分を気遣ってくれた少女。
麗らかな笑顔の——
「……あの子」
少女もまた、迫り来る0点ロボへ気付いたらしい。
顔が青ざめている。
必死に足を引き抜こうとしているが、瓦礫は動かない。
0点ロボは、真っ直ぐこちらへ進んでいた。
進行ルート上。
このままでは。
出久の喉が、ひゅ、と鳴る。
巨大な足。
崩落。
瓦礫。
あの質量。
踏み潰されれば、人間など跡形も残らない。
「っ……!」
周囲の受験生たちは、既に逃げ始めていた。
当然だ。
0点ロボに意味はない。
近付く理由もない。
危険を冒してまで助ける必要もない。
——ない、はずだった。
なのに。
出久の身体は、迷わなかった。
「——っ!!」
地面を蹴る。
爆発的な加速。
アスファルトを砕く勢いで、出久は0点ロボへ向かって駆け出した。
風が耳元で唸る。
背後では、他の受験生たちの叫び声が聞こえた。
「お、おい!?」
「そっちに行ってはならない! おい!」
だが、止まれない。
視界の先。
瓦礫に脚を挟まれた少女。
0点ロボの巨大な影。
振り下ろされようとしている鉄の足。
間に合わなければ、死ぬ。
その考えだけが、脳内を埋め尽くしていた。
ズシンッ!!
0点ロボが一歩踏み出す。
衝撃で道路が波打つ。
瓦礫が跳ね上がる。
少女が小さく悲鳴を上げた。
「ぁ……!」
出久はさらに加速する。
肺が焼ける。
脚が軋む。
だが、止まらない。
頭の中では、既に計算が始まっていた。
距離。
落下速度。
質量。
通常出力の“槍骨”では止めきれない。
貫通力が足りない。
硬度も、サイズも。
なら。
「——制限、なし! 100%中の、100%!」
右掌が、灼けるように熱を持つ。
次の瞬間。
バギバギバギッ!! と。
凄まじい音を立てて、骨が増殖を始めた。
「っ、ぁああああッ!!」
激痛。
掌が裂ける。
腕の内部で骨格が軋み、無理やり押し広げられていく。
だが。
止めない。
AFOとの訓練。
志賀の実験。
限界出力時の反動。
全部、知っている。
だからこそ。
出久は歯を食いしばったまま、強引に個性を引き上げた。
「——槍骨!!」
ドォンッ!!
白い骨が爆発的に噴き出す。
一本ではない。
何重にも重なり合い、捻じれ、圧縮されながら巨大化していく。
巨大な骨槍。
ビルの柱にも匹敵する質量。
乳白色の槍が、轟音と共に空へ伸び上がった。
周囲の受験生たちが目を見開く。
「な……!?」
「で、デカすぎる……!」
0点ロボの巨大な足が、少女へ振り下ろされる。
その瞬間。
出久は、両手で骨槍を押し上げた。
「止まれぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
激突。
轟音。
空気が爆ぜた。
0点ロボの足と、巨大骨槍が真正面から衝突する。
アスファルトが陥没。
衝撃波で周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。
ギギギギギギギッ!!
金属が悲鳴を上げる。
0点ロボの巨体が、一瞬だけ止まった。
少女の瞳が、目の前で大きく見開かれる。
出久の両脚が地面へ沈み込む。
重い。
圧倒的な質量。
全身の骨が軋む。
腕が裂けそうだった。
だが。
それでも。
槍は、折れない。
出久は血走った目で0点ロボを睨み上げた。
「……下がって!!」
喉が裂けるほどの声だった。
少女は、はっと我に返ったように身体を震わせる。
だが、脚はまだ瓦礫に挟まれたままだ。
0点ロボの足が、骨槍を押し潰そうと軋みを上げる。
ギギギギギ——ッ!!
巨大骨槍の表面へ亀裂が走った。
「っ……ぁぁ……!」
出久の膝が沈む。
靴底がアスファルトを削る。
限界だった。
質量差が違いすぎる。
いくら“槍骨”を最大出力で展開しても、真正面から押し返し続けられる相手ではない。
全身が悲鳴を上げていた。
腕の骨が軋む。
筋肉が裂ける。
視界の端が赤く滲む。
だが。
それでも。
少女の顔が見えた。
恐怖に震えながら、それでも必死に動こうとしている。
試験会場で、自分を気遣ってくれた顔。
“大丈夫? ”と声をかけてくれた時の、あの柔らかな笑顔。
それが。
脳裏に、焼き付いて離れなかった。
「……っ、ぅ」
出久の呼吸が乱れる。
その瞬間。
脳裏に、別の姿が浮かぶ。
筋骨隆々の背中。
誰よりも大きく。
誰よりも力強く。
どんな絶望の前でも、笑って立ち向かう男。
オールマイト。
幼い頃から、何度も何度も見上げてきた存在。
助けを求める声へ、迷わず飛び込んでいくヒーロー。
「ぁ……ああああ……ッ!!」
出久の瞳に、熱が宿る。
掌から、更に骨が軋み出す。
巨大骨槍が、唸るように膨張した。
0点ロボの足が、一瞬だけ押し返される。
出久は、歯を食いしばった。
血が滲む。
視界が揺れる。
それでも。
叫ぶ。
憧れ続けた、あの男のように。
幼い頃、テレビ越しに何度も聞いた声が、自然と喉から飛び出した。
「SMAAAAAAAASH!!!」
瞬間。
巨大骨槍が、爆発的に伸長した。
ドガァァァァァァンッ!!!!
白い奔流。
骨の槍が、0点ロボの脚部を真正面から貫通する。
装甲が砕ける。
内部フレームが千切れる。
火花と破片が、豪雨のように周囲へ降り注いだ。
さらに。
止まらない。
巨大骨槍はそのまま0点ロボの胴体を突き破り、内部機構を粉砕しながら背面へ突き抜ける。
赤いセンサーが激しく点滅した。
警告音。
エラー音。
破断。
爆発。
0点ロボの巨体が、大きく傾く。
受験生たちが息を呑んだ。
「う、そ……」
「倒した……?」
巨体が、ゆっくりと崩れていく。
ビルほどもある鉄塊が、断末魔のような駆動音を響かせながら。
そして。
ズゴォォォォォンッ!!!!
0点ロボが、完全に地面へ崩れ落ちた。
衝撃。
土煙。
吹き荒れる爆風。
周囲の窓ガラスが一斉に砕け散る。
巨大な残骸が、仮想市街地へ横たわった。
沈黙。
誰も、動かなかった。
その中で。
出久だけが、荒い呼吸を繰り返していた。
骨槍は砕け散り、右腕からは血が流れている。
全身が痛い。
立っているのも辛い。
だが。
少女は、生きていた。
瓦礫の向こうで、呆然とこちらを見ている。
「……よ、かった」
出久の口から、かすれた声が漏れる。
その瞬間。
『——試験終了ォォォォォッ!!!』
プレゼント・マイクの声が、市街地全域へ響き渡った。
『受験生諸君!! そこでストーップ!! 実技試験は終了だァ!!』
サイレンが鳴る。
遠方で、試験終了を示すランプが点灯していく。
崩壊した市街地。
倒れた0点ロボ。
そして、その中心で立ち尽くす緑谷出久へ、無数の視線が集まっていた。