ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第10話

 放課後。

 アズたちお昼休みを一緒に過ごしたメンバーは、揃って第一体育館へと向かっていた。その都合上、一人だけクラスの異なる綾小路も一緒だったが、特段にして違和感はない。

 そもそもにして同じ学校の生徒だ。クラスが違えど第三者がそれに気付くことはないし、気付いたところで気に留めなければそれだけのこと。

 綾小路の無機質・無個性振りもそれに拍車をかけていた。まあ綾小路の場合、見方を変えればその無機質・無個性振りこそが個性と言えるのかもしれないが、パッと見では周囲に埋没してしまうのは否めない。それが違和感のなさを助長している面があるのは事実だろう。

 

「綾小路は、何か部活に入る気はあるのか?」

「……いや。興味がないと言えば嘘になるが、現時点だと三年間も続けられそうな熱意もないな。説明会で気を惹かれるような部活でもあれば、話はまた別だろうが……」

 

 道中、神崎が綾小路へと質問する。

 綾小路は、僅かに考えて顔を横に振った。その理由は至極尤もだ。

 

「そうか、俺もだ」

 

 だから、神崎も笑って同意した。

 

「私もー。でも、大概そんなものだよね?」

「そうですね。関わり初めは興味本位でも、それで三年間続けられないわけでもないと思います。その後も、となれば話は別でしょうけど、元より時間制限付きならば()()()()()()()は存外多いと思います。

 まあ、柴田くんみたいに熱意の強い人もいるでしょうけど……」

 

 麻子が同意しつつ周りに訊けば、千尋が自論を述べつつ同意した。その一方で、柴田を見やって苦笑する。

 このメンバーの中で、殊更強く部活への入部を決めているのは柴田だけだった。自己紹介の時からサッカー部志望を公言して憚らない辺り、それだけサッカーに対する熱意が強いことを窺わせる。

 

「まあ、その気持ちも分かんなくはないけどさ。楽しいぜ、サッカー。神崎も綾小路も、特に希望する部活がないんだったら、体験入部だけでもしてみないか? 

 そりゃあ、確かに勝利も重要だとは思うし、そもそも重要視できないんだったらここまで続けてもないわけだけど、それを至上主義にするのは個人的に違うとも思ってるんだよな。そうするんであれば、実際に入学できたかどうかはともかくとして、もっとサッカーの名門に進んでたし。

 俺的には、やっぱ『楽しさ』を伴ってナンボだと思うわけよ。そしてそちらを重視するんであれば、ダチがいた方が俺的には楽しいしさ。だからどうだ?」

 

 柴田は目を輝かせて神崎と綾小路を誘う。

 

「その気持ちとお誘いは嬉しく思うが、それでも実際を想像するとな……」

 

 神崎は苦笑しつつ、婉曲的に断る。

 

「ああ。本当に遊び感覚だけでやれていたら確かに楽しいんだろうが、現実的にそれは不可能だろう。実際に入部してしまえば、どうしたって()()()()()には従わざるを得ない部分がある筈だ。まあ、この学校が実力を評価する以上、実力さえあれば逆らえもするんだろうが、初心者にそれを求めるのは酷というものだ」

 

 同じく、綾小路も断りの言葉を返す。

 

「やっぱダメか~」

 

 柴田は残念そうに顔を歪める。だが、断られる覚悟はしていたのだろう。その()()は低い。

 

「女子サッカー部ってあるんですかね?」

 

 ポツリ。

 アズが呟いた。

 

「う~ん、どうだろ? 中学の時はあったけど……」

「そんなに詳しいわけじゃないけど、高校だと確かにあんまり聞かないかな……?」

 

 桔梗と帆波が首を傾げる。

 

「バレー、陸上、テニスなんかはよく聞く方だと思うけど、趣味的な志向が強いか、大会への意欲が強いかとかもあるだろうしね……」

 

 女子バスケ、女子サッカーが存在するのは確かだが、ニュースなんかで目にする機会が少ないこともあって、どうしても『男性のスポーツ』という印象が強いのは否めない。

 そして、この学校にそれらの部活があったとして、趣味的な面が強ければポイントを出してまで助っ人を雇おうとはしないだろう。

 

「まあ、女子サッカー部があるにしろないにしろ、私でよければ柴田くんの練習相手くらいは務めますよ。もっとも、流石に中学時の体育での経験くらいしかないので、どこまでお役に立てるかは分かりませんけど」

「いや、お前、それでそんな強気な態度なのかよ……。ある意味で尊敬するわ……。まあ、その時は頼む」

 

 柴田は呆れつつも、軽く笑って頷いた。

 話しながら足を進めていれば第一体育館に着いた。既に結構な人数が揃っている。アズたちも適当な場所に陣取った。

 

「パンフレットを見る限りだと、どの部活も高いレベルにあるみたいだね」

「みたいだね。全国クラスの部活や選手も多いらしいし」

「だが、その割に分野的な名門校や強豪校には一歩及んでいないようだ。果たして、これをどう捉えるべきか……」

 

 桔梗たちはパンフレットを覗き込みながら考え込む。

 アズは素知らぬ顔だ。そういった部分に対する興味は薄い。ある種の傲慢さの表れでもあるが、それが出来るだけの能力はあると自負している。それに、決して無視しているわけでも考えていないわけでもない。自分なりの意見は考えてあるし、訊かれれば答えるのも吝かではないのだ。

 

「趣味的な側面が強いと捉えることも出来るけど、それでこうもポンポンと全国クラスの部活や選手が目白押しなのは、それはそれで違和感があるよね?」

「大会での成績は目指しているし、実際に人材的な意味で層は厚いけど、特記戦力には恵まれていない。……有力なのはこんなところかな?」

「かもしれんな。例えばスポーツでの有力選手の大半は、その多くがそれだけそのスポーツに努力と熱意と時間を捧げてきたからだろう。だがそれは、その分だけ勉強を疎かにしていることでもあり、必然的に学力に難のある生徒も多い筈だ。

 もちろん、文武両道が出来ている生徒もいるだろうが、その多くは一点特化型の生徒に及ばないだろうことも事実だ。断言は出来んがな」

「高校になったからには退学も視野に入れないといけないし、何よりもこの学校の特性上、自宅で親の世話になることも出来ないし、ポイントを始め自分で管理する部分が増える。……そりゃあ、よほど要領がいいか能力が高くない限り、これまでのようには注ぎ込めないよね」

「……凄いな。たったこれだけの情報で、お前たちはそこまで考えるのか……」

 

 神崎たちが活発に意見を交わす様を目撃した綾小路が、感嘆の言葉を紡ぐ。

 

「感心してもらえるのはありがたいが、普段はそこまでではないよ。――だが、昨日、危機感を刺激されたばかりなんだ。それで楽観的に済ませるのは流石にな」

「昼の時に言っていた、『来月以降も十万ポイントが支給されるとは限らない』というアレか……」

「だけではないが、それがメインにあることは確かだな」

 

 そう。どれだけ環境が良くとも、この学校では自分で管理する側面が格段に増えるのだ。そういった生活に慣れているのならまだしも、大半の生徒は違うだろう。お小遣いでやりくりするのに比べると、お金を使える範囲が格段に増えるのは事実だ。だがそれは、普段の食事なんかも込みでのお金だ。趣味嗜好だけに使えるわけではない。

 それに気付かず、十万という大金に浮かれて初月にドーンと使い込み、翌月になり支給額が十万でないことに初めて気付いた場合はどうなるか? 当然、後悔や憤懣が溢れるだろう。

 それと同時、生活スタイルが強制的に一転することになる。お昼はまだいい。学食には無料の山菜定食があるのだから。しかし、朝と夜は? その時間に学食は開いていない。無料のお菓子で食いつなぐ、同じく無料の水とお茶で持ち堪える、無料の食材を買って自炊する等々、選択肢がないわけではないが、少ない選択肢が更に狭められることになる。

 そしてそのいずれを選んだとしても、何らかの問題が出てくる。特に運動部であればエネルギーの問題もあるだろう。やりたいことだけをやれるわけではないのだ。

 詳しい可能性は想像できずとも十万という大金に危惧を抱けたなら、普段から節約を心掛けるなど、それを踏まえた上での行動を取ることも出来るだろう。だが、危惧以上の甘美さに流されてしまったらそこまでだ。

 ポイントで買えないモノはないということは、無料品という一部の例外を除き、何を買うにもポイントが必要ということだ。そして基本的な入手口が毎月の支給ポイントしかない以上、すき好んで譲渡する者もいない。

 

「結論としては、手元に余裕があるうちの、選択肢が多いうちの行動が明暗を分けることになる。現実的な危機感と共にそれを認識してしまえば、普段の行動も少しは注意深くなるさ」

「言われただけだとどうにもピンとこない部分があるのは確かだが、逆に言えば、そっちはそれだけの根拠となり得る情報を掴んでいるんだな?」

「端的に言えばそうなる。山菜定食もその一つだ。一つ一つでは根拠として小さくとも、それが重なれば話は別だ」

 

 神崎の言葉を誰も遮らない。遮る理由がないからだ。1-Bにおいては、最優先が自クラスであることに違いはないが、可能な限り他クラスにも手を差し伸べると決めたばかりなのだ。

 ならば、クラスが違えど友人に話さない理由などない。現時点においては推測でしかないのだから尚更だ。

 神崎の言を信じるかどうかは、あくまでも受け手である綾小路が決めることだ。――あとは聞き耳を立てている一部生徒か。

 

「時間になりましたので、只今より部活動説明会を開催いたします」

 

 そうこうしている内に開始時間を迎えたようで、開催を告げるアナウンスが流れた。

 それを受け、アズたちは壇上へと意識を向けるのであった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 入学してから早くも一週間が経過した。

 それだけ経てば個々人でそれなりの付き合いは生まれるし、それが協調性の高い1-Bであるなら尚のこと。

 

「おはよ、アズ! 見たよ~。またアズのことが話題になってた!」

 

 登校したアズに対し、クラスの女子が声をかけてきた。

 

「おはようございます。それに関しては『はあ、そうですか……』としか返せませんが……。私自身は特段興味もないので」

「キャー! クール~ッ!」

 

 挨拶を返したアズは、呆れ混じりに自論を返す。すると、それがツボに刺さったのか、女子は余計に盛り上がる。

 何のことかと言えば話は簡単だ。部活動説明会が開催されてからというもの、アズは日毎に異なる部活を訪れては体験入部を申し込んでいるのだ。

 仮入部と違い、体験入部のメインはあくまでも接待。間口を広げることを目的にしている。なので入部書類を提出する必要はないし、日替わりで訪れる部活を変えたところで理論上の問題はない。

 問題があるとすれば、アズが叩き出している実績の方にある。

 確かに体験入部は接待がメインだが、部員の全てがそれを認めているわけではない。理屈では必要性を認めているとしても、感情で認めているかはまた別だ。

 そんな中、接待であるのをいいことに調子に乗っている体験部員(お客さん)がいたとしたら、部員(店側)としてはどう思うだろうか? お灸を据えてやろうと思う筈だ。少なくとも、感情的な面で体験入部を認めていない部員ほど、そのように思う可能性は高いだろう。むしろ、元から屈折した見方をしているから、屈折した受け取り方しかできないのだ。

 結果、部内の空気も何のその。感情的になった生徒は有言実行しようとする。接待ではない、より難度を上げた内容にお客さんを誘うのだ。

 たとえ接待とはいえ、目を瞠る結果を出しているからこその流れでもある。部長や顧問は口では窘めつつも、本気では注意しない。窘めている本人が、本心ではどうなるか興味があるからだ。

 そこでお客さん――アズはこう返すわけだ。

 

「その提案に乗ってもいいですけど、私に何かメリットはありますか?」

 

 アズとしては、あくまでも興味本位。だからこその体験入部だ。その範疇を超える内容を促されるのであれば、対価を求めるのは理に適っている。

 こうなると、部員の返答はもはや決まっている。

 

「提案に乗ってくれたらポイントをあげるよ。クリアできたらもっとあげる。……どう?」

 

 当然アズは了承を返し、その時点で額はともかく確定でポイントが入る。

 クリアできたかどうかは内容次第であり、確かにクリアできなかった内容もあるが、その大半はクリアしてみせたのだ。

 そして、日が変われば姿を現さず、かと思えば別の部活に姿を見せている。

 僅か数日ではあるが、こんなことを繰り返していて話題にならないわけがないのだ。しかも、姿を見せる部活が実に乱雑だ。運動部と文化部を厭わないのである。

 それもあり、学校のネット掲示板やSNS、口コミによって、日毎にアズの情報が更新・拡散されているのが現状であった。

 その一方で、結果的にではあるがアズの懐も温まっている。少なくとも、一般的な学生バイトよりは稼げている自信があった。

 

「ホント、このちみっこい身体のどこにそんなパワーがあるんだかな? 実に不思議だよな?」

 

 言いながら、柴田がアズの頭にポンポンと手を乗せる。一歩間違えばセクハラだが、柴田の場合、言動にそのようなそぶりが全くないのだ。アズを異性とは認識していても、性興味の対象外であることがあからさまなのである。

 だからこそ、柴田にとってはあくまでも友人に対する行いでしかなく、アズが見ても第三者が見ても、そのことが明らかなのだ。

 そのため、アズもセクハラだと柴田を責めることはない。

 だが、それはそれ。論点を変えれば、アズだって柴田を責める。

 

「ちみっこ言わないでください。あと、頭をポンポンしないでください。喧嘩売ってるんですか? 買いますよ?」

 

 柴田の手を打ち払ったアズは、ジト目を向けて冷たく言った。曲がりなりにもクラスメイトであり友人だから、この程度で済ませているのだ。

 

「今のは柴田が悪いな。柴田、これ以上アズが怒らないうちに謝っておけ。

 友人に対する振る舞いとしてはおかしなものではないが、それでもアズは異性だ。そして異性であるからには、男子とは感性が違う。男子ならば許せることでも女子ならば許せないことは普通にあるし、その逆も然りだろう?」 

 

 苦笑を浮かべつつ、神崎が柴田を窘めた。

 何だかんだ、神崎は男子の仲裁役というか、クラスの先導役というか、苦労人ポジションが板につきつつある。そこに、アズは自分の兄――エッジを幻視した。

 無論、エッジと神崎では性格から何から違う。それは間違いない。

 だが、必要とあれば他人のための苦労を厭わない部分は共通しており、そこがふとした瞬間に重なるのだ。

 

「あ~、それもそっか。悪かったなアズ」

「ま、悪気がないのは分かってますから許しますけど、いつまでもそれは通じませんから気を付けてくださいね? いや、ホントに」

「あ゛~、ちょっと自信ないかも……」

 

 柴田が謝り、アズが許しつつも一言加えれば、柴田はガックリと項垂れるのだった。




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