ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
南雲の言葉を聞いた星之宮クラスの三名が真っ先に抱いた感想は『ヤベえ!』だった。
克己たち三人は決して南雲の能力の高さを正確に知っているわけではないが、それでも洩れ出る噂で何となくの想像は付く。
そして、アズのクラスメイトだけあって、アズの能力の高さはよく知っている。たとえ断片的なものであろうと、十分な能力の高さをアズは披露しているのだから。
話を聞く限り、そんなアズが南雲の遊びに付き合うようになって、漸く南雲のフラストレーションは緩和されたらしい。
その事実だけで、南雲の能力がアズと負けず劣らずなのは容易に想像がつく。早々『遊び相手』=『好敵手』が見付かる筈もない。仮に見付かったところで、遊んでくれる保証はない。
と言うより、南雲がこの学校で見付けた『遊び相手』足り得る存在――堀北学と鬼龍院楓花は、そのどちらもが南雲と遊んでくれなかった。……以前、本人がそう言っていたのを三人は思い出していた。その事実があるから、余計にアズと遊びたがっていたことを。
そして、報酬ありきではあるが、アズは度々南雲と遊んでいるらしい。
である以上、南雲にハーレムを勧めようものなら、アズがターゲットにされるのは想定されて然るべきだったのだ。直接的に勧めたのは有栖だが、ユキもユキで促しかねない言葉を放っている。
話の流れではあるし、アズ本人は理解を示してくれるかもしれない。『仕方ないね』で済ませてくれるかもしれない。
しかし、桔梗がそれで済ませてくれる保証はない。アレで桔梗はアズ
桔梗は『人間の動かし方』というものを実によく分かっている。『理屈』と『感情』を上手く織り交ぜるその御業は、桔梗ならではと言えるだろう。
曰く、『中学時は努力で学校一の人気者になった』とのことだが、日々の手腕を目にしていれば、決して過大評価と言えるものではない。
そんな桔梗だが、中学時は『人気者』になるのを優先した結果、自分の限界を見誤り暴走する寸前だったと言う。そして、そんな桔梗を止めたのがアズとのこと。そんな過去と事実があるだけに、尚更桔梗がアズに向ける想いは強い。
今現在は過去を教訓に
人間、自分の大切なモノに危害を加えられた際、必ずしも理性が働くとは限らないのだ。
自然、克己、愛里、ユキの三人はアイコンタクトを交わした。迫りくる危険を分かっていて、何の対処もしないほど人という生き物は愚かではないのだ。
「話を聞けっての。雅、このバカ!」
しかして、三人が行動に移すよりも前になずなが行動に移った。思いっ切り南雲を引っ張ったのである。
「うおっ!? ……危ねえじゃねえか」
「アンタが人の話を聞かないからでしょうが。何だって私がハーレムを許容する前提になってんのよ」
頬杖を突き、ジト目を向けながらなずなは言う。
言われてみればその通りである。なまじ身近なところにハーレムを形成している清隆がいるからこそ普通に受け止めてしまったが、現在の日本社会においてハーレムは一般的ではない。本来なら、普通に受け入れる方がおかしいのだ。
「仮に私がハーレムを許容するにしても、その相手は楓花ちゃんを推すっての」
「いや、そりゃ無理じゃね?」
「無理でも何でも、私にはそれ以外の選択肢はないってば。それとも何? アズちゃんが卒業するまでの一年間、アンタはフラストレーションを我慢してられるの?」
「ぐぬっ! それは……」
なずなの提案に真顔で返す南雲だったが、続く言葉を聞けば顔を歪めるより他になかった。
これまでの暴走を『幼少期からのフラストレーションが積み重なった故』と見ることは出来るが、その一方で、『一旦フラストレーションが緩和されたからこそ、以前より我慢弱くなっている』可能性も否めないのだ。
事実そうなっているのだとすれば、自分たちが卒業後、アズが卒業するまでの一年と経たずに再度暴走する可能性は決して否定できない。
南雲がなずなのことをどれだけ想っていようと、なずなは南雲の『遊び相手』足り得ず、なずなだけでは南雲のフラストレーションを抑えきれないのが
そういう部分から考えた場合、なずなが南雲のハーレムメンバーに求める条件は自ずと絞られてくる。『自分が付き合っていて苦ではない』、『南雲の「遊び相手」が務まる』、この二点は譲れない。
なずな自身はアズと直接的な面識はない故に、前者については判断が付かない。しかしながら自分たちの卒業後を考えた場合、後者の点が引っ掛かるのは間違いなかった。今とは違い、自分たちが卒業してしまえば、学校の校則と拘束が『遊び』を阻害するのは確実だ。
である以上、余計な壁がない相手に目を向けるのは当然であり、同学年には鬼龍院楓花というお誂え向きの人物がいる。なずなが楓花を推すのは無理もなかった。
南雲にしても、十何年と生きてきて初めて巡り合えたに等しい『遊び相手』足り得る存在が堀北学と鬼龍院楓花だったのだ。
その事実がある以上、卒業後を踏まえた場合、ハーレム云々はさて置き、適度に遊べる位置関係を築いておくに越したことがないのも事実だった。
しかし、これまで袖にされ続けた経験が、どうしても二の足を踏ませる。
「オーケー、分かった。この件については、後日改めて話し合おう」
結局、南雲は両手を挙げて結論を先延ばしにした。『惚れた弱み』か、或いはフラストレーションが緩和されているからこそか、どうにも南雲はなずなに強く出られないようである。
「で、お前らが同じ道場の仲間ってのは分かったが、今日は買い出しか何かか? の割には、人数比が疑問だが……」
話題を逸らすためだろう。南雲は克己たちを見回して言った。
「仰る通り、今日は買い出しですね。もっとも、既に用件は済ませてしまいましたが……。
人数比に関しては、私たちの道場、マイナー流派のために門下生自体が少ないんですよ」
首を傾げる南雲に対し、有栖は肩をすくめて答えた。
「あ~、『謳い文句に偽りなし』って言うか、街中の施設も結構充実してるよね。うちの学校の部活に競技がないからって、街中の道場に通ってるって子も何人か知ってるよ。――反面、フォローが利きすぎて、門下生の増えない道場もあるらしいけど……」
「うちの道場はまさしく後者のパターンですね。そもそもが一般的な『スポーツ武道』ではありませんので。『神祇無窮流』というのですが、流派の技は須らく『気の併用』を前提にしているため、その実態はかなりオカルト寄りです。
ただ、前提となる『気の修養と操作』が精神鍛錬として人気らしく、全国的に見れば結構な門下生がいるそうです。理屈・理論の方に重きを置いた兄弟流派である『不易久遠流』との人材交流やコンバートもかなり活発に行われているとのことで、敷地内に門を構えているのはその事実が大きいみたいですね」
早い話、『神祇無窮流』は敷地内でこそ閑古鳥が鳴いているが、敷地外に出ればそうでもないのである。
有栖の説明に、南雲もなずなも否定するでもなく頷いて見せた。
有栖の『先天性心疾患』は有名である。二、三年生にも最低限の情報は共有されており、万一の際にはフォローをするように学校側から指示が出ている。
「なるほどな。現代医学で回復が見込めないからオカルトに活路を見出したってところか?」
「何て言うか、フィクションの
「まあ、そんなところです」
そんな感想にも、有栖は軽く同意する。そういう面があるのは否定できなかった。
「経緯を鑑みれば、護身術を学ぼうとするのはおかしなことでもないしな……」
「再発を防ごうと思えば、『マイナー流派』を選択するのも道理と言えば道理だよね……」
こちらは、愛里を見やりながらのセリフだ。
流派の本質がどうあれ、武術・武道を教えているからには最低限の
そして、型を学ぶだけでも、そこらの素人相手ならば十分に効果は目込めるだろう。
どうやら、克己、ユキ、真澄に関しては、『それぞれの付き合い』と解釈したようである。かつて起こった『ストーカー騒動』が、いい具合に勘違いを引き起こしていた。
実際には克己の入門にユキと愛里が付き合った形だが、愛里が護身術を学ぼうと考えたこと自体は事実であるし、あながち間違った推測ではない。
「で、門下生連れだって何を買いに来たの? 既に買ったって割に荷物はそれほどでもないから、たぶん配送を頼んだんだとは思うけど……」
流石はAクラスということか。注意を払っている。
「水です」
誤魔化す理由もないので、有栖は素直に答えた。
「水?」
「って、普通に飲料水か?」
「はい。一人当たり、箱で三つ~四つは買いましたね」
「そんなに!? 何だってまた!? もしかして、皆して『水道水なんて飲んでられねーんだよ、ペッ!』ってタイプなの!?」
困惑を隠せない南雲となずなだったが、買い込んだ量を告げれば、なずなは殊更に驚いていた。まあ、無理もない。
「きっかけとしては占いです」
「占い?」
「ここの五階に来てるってやつか?」
「はい。もっとも、そこで占ってもらったわけではありませんが。
元々は、道場で佐倉さんが話題に出したんですよ」
南雲となずなは頷いた。おかしなことではない。変化の少ない敷地内だ。知れば話題に取り上げもするだろう。事実、そこらで話題になっている。
「まあ、『二人一組』という条件を教えた瞬間、佐倉さんは興味を失ったみたいでしたが……」
「まあねえ~。いや、向こうにすれば仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれないけど、『二人一組』だなんて、こっちにしてみれば『融通が利いていない』と思っちゃうよねえ~。どう考えても色恋メインだし。
まあ、だから私も二の足踏んでたんだけどね。そりゃあ、私だって雅のことは嫌いじゃないけど、あくまでも『フレンド』なのよ。まかり間違っても『ハニー』じゃないわけ。
これでコイツ、顔と能力は良いからね~。嫌ってる奴もそこそこ多いけど、好いてる奴もそこそこ多いわけよ。
そんな状況下で、私とコイツで件の占い師のところに行ってみなさいな。周りがどう思うかなんて分かりきってるわよ。
コイツは能力が高いからどうとでも対処できるんでしょうけど、私の方はそうじゃないわけよ。で、方向性が異なるだけで、嫉妬が怖いのは男も女も変わらないからね~。敢えて『藪をつついて蛇を出す』必要はないでしょ」
有栖の言葉になずなは同意を示した。
ついで、件の占い関連について補足を入れる。
どうやら、占いを拒んでいたのはなずなのようだった。理由を聞けば納得である。
「けどまあ、占いとなれば『天中殺』が絡むのは妥当と言えば妥当でしょうね」
南雲が肩を落としているが、そこには深く突っ込まず、克己がなずなのセリフに相槌を打った。
「なあ、『天中殺』って何だ?」
「簡単に言えば、『自分の悪い時期が見える』って占いだ。だがまあ、占いなんてそんなもんだろう。メインにするか、添え物にするかの違いだ」
袖口を引っ張りながらユキが訊いてきたので、克己はざっくばらんに答えた。身も蓋もないが、間違ってもいない。
「話を戻しまして。こちらの時任くん、御実家がそちら方面を生業にしていらっしゃるようで、彼自身も『そこそこの心得』があるとのことでして……。
まあ、幼少期に善意から忠告した結果、何やかんやと排斥されてトラウマを負ったらしく、好んでは使いたがらないようですが……」
「つまりアレか? そいつの占いは『当たる』ってことか?」
神妙な表情で南雲が問いかけた。
「逃れる術はありますよ。容易か至難かは人それぞれですけどね。ただ、何の手立ても打たなければ高確率で当たります」
「見えるのは『天中殺』で、オマケに幼少期だろう? 快い結果になるとは思えねえな。
例えば、『旅行に行ったら不幸が起きる。旅行には行かない方がいい』と善意の忠告をしたとして、相手がどこまで真摯に受け止めるかって話だ。告げられた当人が信じたとしても、その親が信じなきゃ旅行は決行される。結果、件の奴らには不幸が起こる。
途端、『福の神』は『疫病神』に、『幸福を告げる託宣』は『呪いの言葉』に早変わりってわけだ」
「仰る通りで。当時は『死神』だの何だのと散々罵倒されましたよ」
軽く言う克己だが、その際に負った『心の傷』が如何ほどのものかは想像もつかない。
「そんな経緯で『心の傷』を負った時任くんですが、彼自身、『いつまでも目を背けていたくはない』とのことでして……。
結果的に、言ってみれば私たちに共通する『天中殺』を占ってもらったわけです」
「その結果、『揃ってモールにやってきた』って解釈でいい?」
「ええ、その解釈で構いません」
「で、結果は?」
「『水を備えるが吉』と出ました。俺とコイツ等が揃いも揃って、場所は異なれ『水入りのボトルを前に悩まし気な表情を浮かべている』、『蛇口を捻っても水が出てこない』などといった光景が脳内に叩き込まれたわけです。詳しい期間と規模は不明ですが、夏休み中に断水が起きるのはほぼ確定ですね」
肩をすくめて克己は言う。信じるも信じないも聞いた本人に任せる。
「で、お前たちは揃って水を買いにきたってことか?」
「そういうことです」
「貴重な情報ありがとうよ。礼代わりに、ここのお前たちの会計は俺が持ってやる」
「おや? よろしいので?」
「構わんさ。最初から信じないでトラブルに見舞われるよりは、信じた結果として馬鹿を見た方が何倍もマシだからな。もちろん、信じた結果救われた方がよっぽどいいのも事実だ」
こちらもまた肩をすくめて南雲が言った。
「ま、水って他の飲料水に比べて安いからね。複数を箱買いしたところで然程の出費でもないよ。
あ、ついでだから連絡先を交換してもらっていい? これで当たったら、占ってもらいたくなるかもしれないからさ」
「構いませんが、過度な期待を寄せられるのは勘弁願いますよ?」
克己は克己で予防線を張りつつ、一行は南雲となずなの両名と連絡先を交換するのだった。
克己、ユキ、愛里にとって、桔梗は『付き合いやすいし基本的には優しいけど、怒らせるとヤベえ』相手です。
そんな桔梗の『目に見えた地雷』がアズです。少なくとも、三人はそう解釈しています。
『朱に交われば赤くなる』というか、本作には『ハーレム肯定派』というか『ハーレムに理解を示す』連中が多いですけど、あくまでも『他人事だから』、そういう対応の人もいるわけで、『当事者になるのは勘弁』って人もいるでしょう。
南雲となずなでそこら辺の対比を表してみました。
根拠と信憑性は薄かろうと、そこで頭から切り捨てることはせず、『備える』という行動に移せるからこそ、南雲もなずなもAクラス足り得ています。
その上で、カフェの支払いを持つことで情報料もシッカリと払っています。
こういうことをスムーズに熟せるからこそ、南雲は『人気』と『実力』の両立を果たしている面があります。
なずなはなずなで、さりげなく、それでいて自然に『連絡先の交換』を求めることで『次』に繋げようとしています。
彼女もAクラスに相応しい実力者ではあるのです。
感想・評価お願いします。