ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
カフェを後にした一行は、程なくして一人の女子と遭遇した。いや、果たしてそれを『遭遇』と呼んでいいものか。少なくとも、一行の方が件の女子を目指していたのは間違いないのだから、行き当たるのが道理である。
「よお、お嬢さん。そんなに怒り散らしてどうしたよ? コレでも生徒会なもんでな。目に付いちまった以上は放っておけないんだよ。2-Aの南雲雅だ」
件の女子に南雲が話しかけた。……まあ、つまりはそういうことだ。カフェを出た瞬間、一行は一角でざわめきが起きているのを目撃したのである。何だ何だと野次馬心で近付いてみれば、そこにいたのが件の女子。直接的な被害や危害を齎しているわけではないが、モールという場所で怒気を露わにしている女子を目にすれば、生徒会役員である南雲としては放置するわけにもいかなかったのである。
「生徒会……。ああ、いや、すみません。ちょっと裏切られた気分になっちゃったもんで……。いえ、私の先入観もあったんですけど……」
件の女子は、伏し目がちにボソボソと答えた。
その言葉で、南雲となずなは大体の事情を察した。
「あ~、君、もしかしなくても一年生だろ。んで、五階でやってる占いをやってもらいに来た」
「ッ……!? 何で!?」
南雲の断定にも等しい言葉に、女子は驚愕を露わにする。
「ネタ晴らしすると、君らが『バカンス』に出向いている間、既に先達が通った道なんだわ。情報通や事情通なんかは細かい条件なんかもサッサと手に入れてたけど、全員が全員そういうわけでもないからな。部分的な情報だけを仕入れてやってきた結果、ガックリと肩を落とす奴も少なくはなかったんだよ」
肩をすくめて南雲は答えた。
それは余りに端的な理屈だった。
「そっか。占いは『夏休みの間』やってるって話だった。そりゃあ先輩に『同じ穴の狢』がいてもおかしくはないか……」
「ま、そういうこった。気持ちは分からんでもないが、こういう場所であんまり怒気を露わにすんのは程々にな。場合によっちゃあペナルティが科されることになる。そっちも嫌だろ?」
女生徒は納得したように頷き、それを以て彼女が落ち着いたと見た南雲が締めに入った。
「あ、はい。えっと、私、一年の伊吹澪です。お手を煩わせて申し訳ありませんでした」
ペコリと、女子――伊吹澪は丁寧な仕草で頭を下げた。
「な~に、これも生徒会としてのお仕事だよ。あんま気にするな。一応訊いとくけど、人や物に当たり散らしてはないよな?」
「あ、はい。それは大丈夫です」
「なら、もう行っていいさ。そりゃまあ、世の中にはペア限定の占いもあるだろうが、普通は一対一を想像するだろうしな。『先走り』と言っちまえばそれまでだけど、『想像』と『現実』の落差で怒る奴や落ち込む奴も珍しくはないからな」
「じゃあ、失礼します」
最後にもう一度頭を下げて澪は足を踏み出し――
「あ、ちょっと待った!」
直後に南雲に止められた。
「……何か?」
「君、占い目当てで来たんだよな?」
「そうですけど」
「ちょっと一緒に来てくれるか? モールに来てる占い師じゃないが、もしかしたら占ってもらえるかもしれんぞ。腕の方は、俺からは何とも言えないがな」
それは南雲なりの善意と言えば善意で、同時に克己に対する興味が齎した行動でもあった。
「……分かりました」
澪の方も、その言葉に興味を引かれたのだろう。頷きで南雲に返すのだった。
「……と言うわけでだ、時任。この子のことを占ってやってはくれないか?」
元より、然程距離を取っていたわけではない。再合流は実に容易く行われた。その上での、開口一番の南雲のセリフがそれであった。
「……いや。なにが『と言うわけで』なんですか? 先輩」
自然、克己が返したのは呆れの眼差しだった。
「いいじゃねえか。リハビリと思って気軽にやっちまえよ」
「はぁ……」
それに屈することなく、南雲は気楽に宣う。……少なくとも、克己からはそう見えた。
溜息を吐く克己だが、南雲の言葉に一理あるのは認めていた。『家』を鑑みれば、自身が望む対象だけを相手取れるわけがない。それは紛うことなき事実である。
「そっちはどうなんだ? 元々はここでやってる人たちに占ってもらいに来たんだろ? その相手が俺に代わって不満はないのか?」
南雲を動かせないと判断した克己は、早々に矛先を澪に向け直した。
「その質問に答える前に、アンタのことを聞かせてもらっていい? その質問に答えるには、私、アンタのことを知らなすぎるもの」
「……道理だな。取り敢えず、立ち話もなんだ。どっか適当な場所に座るとしよう」
圧倒的な道理で返された克己は、場所を移すことを提案するのだった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
モールともなれば、休憩スペースはそこら中にある。何なら、飲食店だってそう見做すことは出来るだろう。
そんなわけで、一行はフードコートの一角を陣取っていた。
「改めて名乗ろうか。星之宮クラスの時任克己だ」
「坂上クラスの伊吹澪。……うちのクラスにも時任裕也ってのがいるけど、関係あったりする?」
「親戚だよ。うちの家系は、代々『予知能力者』やら『予測演算能力者』やらが生まれやすくてな。そういったのを生業にしている。全員ってわけじゃないけどな。
そんな中、俺は『時任の神子』――『生まれつき予知能力を備えた者』として生まれ、アイツは持たずに生まれた。
一般的な知名度がどうあれ、歴史のある家ってのは往々にして面倒なものだ。幼い頃はともかく、今ではめっきりと疎遠だな。言っても、縁自体が切れたわけではないが……」
「しがらみってやつね」
克己の言葉に、澪は軽い様子で頷いた。
「まあな」
その態度が、克己にとっては心地よかった。互いによく知りもしない相手同士。それで深く同情でもされようものなら、逆にやりにくい。
「俺の『予知』は主に苦難や災難を告げるが、絶対を保証するものではない。やり方次第で回避することは十分に可能だ。――逆に言うと、何の手立ても打たなければ、高確率で災難に見舞われる」
「へえ、断言するんだ?」
「するさ。俺の『予知』は理屈じゃないんだよ。分かりやすく言えば『神からの託宣』だ。俺はそれを代弁しているに過ぎない。『神子』と称されるのも、生まれつき神とのチャンネルが開いているからこそだ。
まあ、こっちに解釈を求められる場合があるから、解釈違いが発生することもなくはないが……」
「そういうのって、珍しくないのかしら……?」
オカルト前提の克己の言葉に、しかし澪は小首を傾げて呟いた。
「ああ、そう言えば龍園翔と同じクラスだったか。であるならばその疑問も当然だが、普通に珍しいさ。
俺はアイツをよく知っているわけじゃないが、それでもハッキリ『異常』だと断言できる。そこら辺にぽこじゃかといるものじゃないし、いていい存在でもない。
しかし、世の中ってのはこれでバランスが取れているものでな。『類は友を呼ぶ』と言うだろう? 本人の意思とは無関係な部分で、集束するものなんだよ。
結果、局所的には珍しくもなくなる。――お前、伊吹澪という名前だったな? 俺から言わせれば、お前だって大差ないよ」
「ちょっと、それってどういうことよ?」
克己の言葉に、当然ながら澪は怪訝な眼差しを向けた。
「『伊吹』と聞いて人々が真っ先に思い浮かべるのは、
この内、お山の伊吹山は栃木のものと、滋賀・岐阜の県境にあるものの二種類あるわけだが、重要なのは後者だな。県境に存在する方の伊吹山は古くから『霊峰』とされ、『神が住まう場所』として『山岳信仰』の対象でもあった。
そして『澪』という名前。澪は『水脈』や『水路』、『航路』といった意味を持つ。
この二つを繋げれば、霊峰と人の世を結ぶ『仲介者』や『案内人』といった意味合いを持つようになる」
「ただの偶然じゃない?」
当然ながら、澪は小首を傾げた。
「その可能性は高いだろうな。名付けた方だって、そこまで意図しているかは怪しいものだ。――しかし、『偶然』が効果を発揮する場合があるのも事実だ。
そうだな。『言霊』というのを聞いたことは?」
「そりゃあ、聞いたことはあるけど……。龍園の奴も言ってたし……。たしか、『言葉に宿る不思議な力を指し、発した言葉が現実に影響を与える概念』とか何とか……」
「その解釈で間違ってはいない。そして言霊的に考えれば、お前の名前は俺が言ったような意味合いを持つことになる。お前自身やその親の意思とは関係なくな。
また、確か龍園の側近には石崎大地という名前の奴もいたな。『石』と『大地』は言葉通りとして、『崎』には『陸地が海や湖に突き出た所』、『山の端が平野に突き出た所』という意味がある。
分かるか? 『龍の園――すなわち「人ならざる存在が住まう場所」から飛翔した存在』、『人ならざる存在が住まう場所と人の世を結ぶ存在』、お前たちのクラスにはその二つが揃っているばかりか、近くで纏まっているんだよ。
お前、龍園、石崎の三人が一緒のクラスになったのも、リーダーとして起った龍園がお前たち二人を側近に取り立てたのも、それぞれの名が言霊として力を発揮した結果――言い換えれば『運命』と捉えることも出来るわけだ」
伊吹澪という名前は、『予知能力者』たる克己と面識を持つには十分過ぎる名前でもあった。
そもそも、澪と同じクラスには克己の血族である裕也もいるのだ。その点だけでも、克己と澪が顔を会わせる条件としては十分である。
要は『遅いか早いか』の違いだけで、克己と澪はそのうち面識を持っていた可能性が高い。タイミング自体は『偶然』でも、事象自体は『必然』だ。
こんな内容、初対面に近い相手に告げるには重すぎる。――正確には、『始まり』をどこに求めるかで
「うわぁ……」
克己の告げる解釈に、澪は見るからに表情を顰めた。
あくまでも『偶然』の一言で片付けることは出来る。出来るが、そうするには一定の筋が通っているのも事実だった。
特に、石崎の龍園に対する懐き具合が、そう簡単な否定を許さなくさせている。
また、龍園の態度も克己の解釈を後押しする一助となっていた。金田にアルベルト、志保といった他の側近と比べると、自分と石崎に対しては龍園の態度も若干甘いような気がする。……所詮は『気がする』程度ではあるのだが、澪がそう感じているのは間違いのない事実だった。
「ま、『言霊』的に考えると、お前には『船長』や『艦長』、『航海士』の適性があるかもしれんな。一応、気に留めておいてもいいんじゃないか?」
ゲンナリとしている澪に対し、克己は気楽な様子で言い放った。『空母の伊吹』の方に重きを置くと、そういう解釈も成り立つ。
「はいはい、そーですか」
軽く相槌を打った澪だったが、その一方で更に表情をゲンナリとさせていた。
だって、空母ともなれば武装を備えていて然りだ。
それに対して自分はどうか? ガッツリと格闘技を学んでいる。
その事実もまた妙な整合性を見せており、尚更に気を沈める要因となったのだ。
「ゴメン。ちょっと休憩ってかリラックスさせて。このまま話を続けてもらうには気分が重い」
「構わんよ。何か飲み物でも買ってくるか……。何がいい?」
「え? いや、自分で行くからいいよ」
「気にするな。どうあれ、俺の言葉がお前をそこまで追い詰めたことに間違いはないからな。その詫び代わりとでも思っておけ」
そもそも、澪の名前に対する『言霊』的解釈や龍園周りの妙な符号なんかは、ハッキリ言って本題から遠く離れている。必ずしも必要なことではなく、脱線に次ぐ脱線と言ってもいい。
そうと分かっていてそちらに流れたのは、少しでも自分の『予知』を信じてもらおうと思ったが故か。……克己にその自覚はなかったが、後から考えればそういう風にも受け取れる。
「なにそれ? まあ、そういうことならありがたく奢られとく。季節の限定ドリンクでお願い」
「承った」
答え、克己はドリンクショップに向かった。主に果実水を取り扱っている店だ。
限定ドリンクは何種類かあったが、無難に桃とスイカをチョイス。量はLサイズ。多いに越したことはないし、帰りの道中に飲んでもいい。
「待たせたな。桃とスイカ、どちらがいい?」
「いや、そっちが先に選んでよ。奢られといて流石にそれは気が咎める」
「その気持ちは分からんでもないが、世には『レディファースト』という言葉もあるからな。諦めて先に選んでくれると嬉しい」
「……んじゃ、桃で。ありがと」
「どういたしまして」
どちらともなくストローに口を付け、中身を嚥下する。
「ふぅ……。いくらか気分も持ち直したわ」
「そいつは良かった」
その言葉に偽りはないようで、澪の表情は幾分か晴れやかになっていた。
「なんか不思議。私って話すのが苦手な筈なのに、アンタ相手だとそうでもない」
「話すのが苦手、とは思えんがな。普通に会話が成立しているだろう?」
「いや、だからアンタが例外なんだって。私の言葉って
「まあ、それはな」
「基本、誰が相手でもこんな感じになっちゃうのよ。おかげで、大抵は空気が悪くなっちゃう」
「大抵、だろ? 中には気にせず会話できる相手がいるということだ」
「そりゃまあ、龍園とか石崎とかはね。でもまあ、それって向こうが無礼だからなのも大きいし」
適度にストローでドリンクを啜りながら、会話が繰り広げられる。
「……なるほど。お前の場合、深く考え過ぎている結果、言葉が刺々しくなっている可能性があるな。
緊張感から、『相手にどう思われるんだろう?』、『失礼になってないかな?』、『良い人だといいな』……などといったことを思うのは仕方のないことだ。接触回数が少ない相手に対してほど、それは顕著になるだろう。そして、根が礼儀正しい人物ほど、そういう傾向が強くなる。
やや消極的な様子ではあったが、お前は南雲先輩とは普通に会話が出来ていたし、お辞儀も丁寧なものだった。これは相手が『先輩』で『生徒会副会長』という下地があったからだ。……そうだな。お前、直接の面識はなくとも、南雲先輩についてある程度の情報は持ち合わせてたんじゃないか?」
「そりゃあね。アレほどの有名人だもん。黙ってたってある程度の情報は入るわよ。最初の情報が『停学処分』だったからどれほどのものかと思ったけど、実際は大したもんだったわ」
克己の問いに、澪は躊躇うことなく答えた。
「それだ。……お前の中で、南雲先輩は『礼を尽くす相手』という認識があったんだ。だから、お前はその認識に基づいて行動するだけでよかったし、その分だけ余計なことを考える必要もなかった」
「言われてみれば……」
「早い話、普段のお前は『空回っている』ということだろう。『無礼には無礼で』、そういうスタンスで対応している龍園や石崎、俺に対しては会話が続くのもその証明だ。その分だけ、お前は気楽に対応できている証だ。
世の中、『見せかけの丁寧さ』を優先する奴は多いが、そんな奴ばかりでもない。そも、側だけ取り繕ったところで、そんなのは『慇懃無礼』だろう。
それよりは、たとえ表面上は粗暴でも内面の真摯さに重きを置く奴だって多い。だから、俺とお前は会話が続いている。
端的に言えば、お前はもう少し気楽に接することを心掛けるべきだな。それで離れていく奴は、元より縁がなかっただけの話だ」
克己はそう結論付けて言葉を閉じた。
「気楽に……ね。『言うは易く行うは難し』って言葉、知ってる?」
「知っているとも。俺の『予知』はまさしくそれだよ」
「あ~、予知ね、予知。そう言えば、元々は占ってもらうかどうかって話だった……」
「忘れてたのか?」
「あんな濃い話題を出されたら仕方ないでしょうが」
「違いない。……取り敢えずは、俺に対する試金石代わりに一つだけ教えとこうか。
具体的な規模と期間は不明だが、夏休み中に『断水』が起こる。『水を備えておくが吉』だ。
これに関しては、お前と遭遇する直前に南雲先輩にも伝えていた。先輩がお前を俺の前に連れてきたのは、それもあってのことだろう」
「あ~、そういうこと。取り敢えず了解。ついでに連絡先を交換しときましょ。それが当たったなら、次からはアンタに占ってもらうことにする」
「構わんよ」
こうして、克己は澪と連絡先を交換した。
「ああ、それと裕也の奴にも断水の件を伝えておいてもらってもいいか?」
「は? 自分で伝えれば?」
「言ったろう? 現状、俺とアイツは疎遠なんだよ。互いの連絡先すら知らん。――そして知るための機会を、俺は一度手放してしまった」
つくづく、船での行動には後悔が募る。あの時の行動を否定はしないが、『もう少しやりようがあったのではないか?』と思わざるを得ない。
向こうだって、克己のルーチンから、連絡先を知らない克己を探り当てたのだから。
「まあ、分かった。ったく、その顔を見てそれでも断るようなら、私が冷血女みたいじゃない……」
顔を顰めつつも、澪は克己の頼みを引き受けた。
「ありがとう。疎遠ではあるが、言った通り親戚だからな。トラブルが起こる可能性が高いのに、放置するのも気が引ける」
「ただし! 伝えるには伝えるけど、向こうがどう受け取るかまでは責任を持たないからね!?」
恥ずかしいのだろう。克己の言葉に、澪は指を突き付けて宣うのだった。
澪との遭遇編です。
原作での清隆の役割が南雲や克己にチェンジしました。
澪と石崎に対する『言霊的解釈』は無理繰りな面もありますが、そういう解釈が出来るのも事実です。
そして、そういう風に考えることで、龍園との出会いや関係にロマンが生まれると思います。
そのロマンに立ち入ることになってしまったのが克己なわけですが、裕也との関係を踏まえると、『予知能力』関係なく原作でも面識を持つ可能性は十分にあるんですよね。
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