ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「断水……ですか?」
南雲主導による『
それはアズ以外も同じようで、誰もが確認洩れかと資料やメールを確認している。
「おう、断水だ。ああ、ちなみに水道局や寮から通達があったわけじゃねえ。あくまでもタレコミだ。
いや、『タレコミ』ってのもおかしい表現だな。元々、向こうにはこっちに伝える気なんかなかったろうからな。偶々俺が声をかけて、そっから世間話に発展して、その場の流れで聞いたに過ぎねえからよ。
まあ、根拠が弱いのは俺も認めるが、いざ実際に起こった際のことを鑑みれば、ある程度着手しておいた方がいいのは間違いないだろ? 何でも夏休み中には起こるみたいだからな」
「いやまあ、言葉を信じるならそれはそうですけど……。実際問題、その情報の根拠と信憑性はどれほどなんです?」
「根拠は占い。――っても、モールに来ている占い師じゃないぜ。より正確には、うちの生徒による『予知』だ」
「占いでも予知でもいいですけど、それはまた眉唾ですね……」
茜が頭を押さえて溜息を吐いた。
「会長、どうしますか?」
その後、弱り切った眼差しを生徒会長である堀北学へと向けた。
「俺としては、占いも予知もバカにするつもりはない。そも、占いを全否定するようであれば、わざわざ敷地の外から招いたりはすまいよ。
しかしながら、だからこそ生徒会として動くには根拠が弱いのも事実だ。……南雲、その断水を予知したのは、招聘した占い師ではないのだろう?」
「ええ、はい。……いやまあ、きっかけの一つになったのは間違いないみたいですけどね。占い師が来てることを知って興味を持って、仲間内で話題に挙げて、そこから占ってもらう条件が『二人一組』であることを知った途端に興味を失くして、それを見兼ねた仲間の一人が予知する流れになったみたいです。
聞いた話、そういうのを生業にしている家系なんだとか……」
学の問いに南雲は答える。とは言っても、所詮は聞きかじりの知識。どこまで正しいかは南雲自身も分からない。
「ほう? もしかしてではあるが、それを予知したのは時任克己くんではないかな?」
そう問いかけたのは天斎小吾郎だった。『森羅』という特務機関に所属する政府筋の人間であり、その業務はオカルト方面に携わっている。現在はその関係で高度育成高等学校に出向中の身であり、主に
一般的に考えれば眉唾な内容ではあるし知名度もないが、書類上では確かに日本政府によって認められた組織である。その前提がある以上、一概に切り捨てられないのが事実だった。
「ご存知なのですか?」
「こちらの界隈では有名だよ。そも、隠そうと思って隠しきれるものではないからね。だからこそ、御国は世間への印象操作を行っているわけだ。たとえ真実であったとしても、そのように認識しなければ真実足り得ないのが世の中というものからね。
陰陽師に妖怪変化。歴史を紐解けば、この国だって決してオカルトと無縁ではない。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』が示すよう、日の出と共に、或いは科学技術の発展と共に解明されたモノも数多いが、その一方で未だに解明されていないモノがあるのは否定できない。
しかしながら、その事実を大々的に公表すれば『君子、危うきに近寄らず』もあったものではない。『藪をつついて蛇を出す』ことが多くなるだろうさ。人の興味というものは、存外バカに出来たものじゃないからね。
それ故の印象操作だ。完全防止には至らなくても、被害や犠牲を減らすための『苦肉の策』だよ。しかしまあ、それが肝試しやらに繋がってしまうのだから難儀なものだ」
学の問いに、小吾郎は肩をすくめて答えた。『あちらを立てればこちらが立たず』。職業人としての哀愁が漂っていた。
「国によってオカルトに対する方針も違いますからね。昔ならいざ知らず、情報化社会となった今現在では、余計にすり合わせに苦労するでしょうね」
「exactly! その最たるものが『ストリートファイター』の存在だね。彼らの一部は、公の場で平然と気功だったり何だりを使う。
現状、もはや隠しきれるものじゃなくなってきているのさ。一般に対しある程度情報をオープンにするのは避けられず、『ではどこまでオープンにするか?』で『上』は紛糾しているよ」
闇雲に広めてしまえば、オカルトによる被害や犠牲は拡大の一途を辿るだろう。
「話を戻そうか。……そもそも、『時任』の系譜は、古に当時の帝から『時を任じられた』ことに端を発する。その事実に誇りを持てばこその家名だし、今以てそれを生業にしているわけだ。そして、『時任の神子』というのは、時任の家系の中で『生まれつき予知能力を備えている者』に与えられる尊称だよ。
一世代に一人と決まっているわけじゃないから、何人も現れる場合もあるが、一人も現れない場合もある。後天的に目覚める場合もある。
その不規則さが、余計に希少性と貴重性を跳ね上げている面があるのは否めず、当代の『時任の神子』が時任克己くんというわけだ。……同じ学年の別クラスに親戚の時任裕也くんも在籍しているが、彼の方は『神子』ではない。
そういった理由から、双方が双方共に『異なる鬱屈』を抱えているらしいね」
「『持つ者』と『持たざる者』……か。分からんではないが……」
学は神妙な表情で頷いた。
彼にしてみれば、自身と鈴音の関係を思い浮かべるには十分だったこともある。学本人の認識はどうあれ、周囲にとっての認識は『持つ者』が学で、『持たざる者』が鈴音だった。それによって兄妹間がゴタゴタしていたのは記憶に新しい。
「更に付け加えると、克己くんは幼少期の出来事が原因で『力』の行使に積極的ではないらしいね。しかし、『力』が失われたわけではない。だからこそ、そんな彼が予知したのであれば信憑性はあると思うよ」
小吾郎の判断にその場の全員が頷いた。
積極的ではない『力』の行使に踏み切っているのだ。その上で『断水』と言い切っているのだから、高確率で断水は起こるのだろう。
「期間や規模についての言及はあったのか?」
「そこら辺は不明とのことでした。あくまでも『複数名』をターゲットにしたこともあり、その複数名に共通した事象が『水に困る光景』――すなわち『断水』ということみたいですね。
クラスの違うメンバーもいれば、予知者である時任との性別も異なります。その上で、個室暮らしですからね。『共通項』はそれだけ限定的で、それ故に確実視されても、それ以外の部分は曖昧になってしまうんでしょう。
例えばの話、寝ている内に断水が終わってしまえば、『いつ終わったか?』を求めるのも難儀になりますしね。
それでも、『夏休み中』ではあるみたいです」
学の確認に南雲が答えた。
多分に南雲による推測が含まれていたが、少なくとも『的を射ている』ようには感じられた。
「夏休み中か……。『上』に報告するにも時間がないな。いや、報告するだけなら可能だが、一般的に見た場合の根拠と信憑性の低さは如何ともしがたい。正規の報告とするには問題点が多いのは否めない。
かと言って、可能性を知って何の報告を上げないのも、それはそれで問題がある……」
学は渋面を浮かべて頭を悩ませた。生徒会独自の行動を取れないわけではないが、許可がなければ多分に限定的なものとなるのも事実だ。そして許可を得るには、上に挙げる報告の根拠と信憑性が弱い。
これが件の外から招集した占い師によるものであれば、一定の根拠とすることも出来るのだが、一生徒がプライベートに行ったものなので根拠とするには薄い。『知る者ぞ知る』は、世間一般的な根拠とするには弱いのである。
ハッキリ言って堂々巡りだった。
「報告の方は俺の方でやっておこう。たとえ内容は同じでも、ルートが違えば信憑性もまた違う。少なくとも、生徒会経由で上げるよりは信憑性も得られるだろう」
「……お願いできますか」
「任せておきたまえ。――ただ、問題があるとすれば時間的余裕のなさだな。今日は8/24の、既に午後も遅い時間だ。ここから報告を上げたとして、果たしてどこまでの行動が取れるか……」
「その懸念は分かりますが、それでも何もしないよりはマシでしょう。こちらでも動ける範囲で動いておきます」
こうして会議は終わり、いつ起こりいつ終わるかも分からない断水対策のために、一同は動き出したのだった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「ホントに起こったし……」
蛇口を捻っても水が出ない。その事実に、アズは思わず呟いていた。
現在時刻は8/26の午後三時を少し回ったところか。この事態に、呆れと感嘆と溜息を隠せない。
程なくして生徒会からの通達が届く。
それによると、一昨日の会議が終わり、小吾郎が報告を上げた直後、理事長経由で水道局には警告が飛んでいたらしい。
それもあって本格的なトラブルと化す前に原因を突き止めることは叶ったが、パーツの経年劣化とあっては交換作業を行うは必須。また、定期的な確認はしているが、一ヶ所で確認された以上は他の箇所を確認する必要性を求められるのも道理である。
そのため、復旧作業には暫くの時間を要し、断水は暫くの間続くらしい。なお、解決までの見通しは現時点で不明。該当箇所のパーツ交換と全体的なチェック作業を並行して行っているが、未だ後者が終わっていないとのこと。
暫くしたら全校生徒に断水が起こっていることを通達するので、その前に各学年の生徒リストと機材を学校まで取りに行かねばならないらしい。
生徒会メンバーで手分けして水を買い込み、各自の分と各寮の分を確保したのは記憶に新しいが、寮の分を生徒に解放するとのこと。
しかし、当然ながら確保した分にも限度があるので、一人当たりに配給上限を設け、配る際にリストとのチェックを行う必要があるそうだ。
まあ、当然と言えば当然である。水は誰にとっても必需品だ。独占など出来るわけがない。
生徒が水をもらう際に学生証の提示は必須で、顔を知っていても学生証を提示されなければ水を配ってはならない。これは各所に点在する施設と同様に、機械でのチェックを行うためだ。早い話、生徒にしてみれば『無料で水を買う』行為に他ならないのである。
「アズ~、学校行こ~」
ガチャリとドアが開き、桔梗の声が聞こえてきた。――と言うより、入ってきた。
まあ、桔梗は部屋の合いカギを持っているのでおかしなことではないし、アズも咎めるつもりはない。そもそも、アズだって桔梗の部屋の合いカギは持っている。
「うん。着替えるからちょっと待ってて」
「手早くね~。私はその間に清隆に連絡とっとくから」
その言葉を背にパパッと着替える。夏休みではあるが、学校に行くたびに制服に着替える必要に迫られるので準備は欠かしていない。もはや手慣れたものだ。
「お待たせ」
「よっし。んじゃ、次はロビーね」
「清隆の部屋じゃないの?」
「ほら、いつぞやに帆波が言ってたでしょ。家を買うとか大きな部屋を買うとか。アレを実行したみたいでね。今は個室にいないみたい」
「あ~」
桔梗の説明にアズは頷く。干支試験の際、確かにそんなことを言っていた。
「私たちも買っちゃう?」
「それもいいかもね」
調べてみないと具体的な値段は分からないが、幸いにしてポイントはあるのだ。折半すれば買えないこともないだろう。
何だったら、他にも誰か誘うのもありかもしれない。フォルテと美紀とか、ユキと愛里とか。人数が増えれば、個人当たりの出費はそれだけ減ることになるのだから。
「待たせた」
暫くするとエレベーターから清隆が降りてきた。
「エレベーターから降りてきたってことは、新しい住処は寮内にあるの?」
「ああ。上層階ほど大きい作りになっているようだ。その分だけ値段も張るが、設備なんかは個室とは比べ物にならないほど充実しているな。高いと感じるか安いと感じるかは人それぞれだろう」
「たとえば?」
「テレビが大画面だったり、カラオケがあったり、風呂が温泉ばりにデカかったり……まあ、色々だ」
簡単な説明をして清隆は歩き出した。それに不満を覚えることもなくアズと桔梗も続く。
暑い日差しの中、えっちらほっちら歩いていくと学校に着いた。風除室には他の生徒会メンバーや教師の姿。
「やっほ~、三人とも。『バカンス』振りかな? 元気にしてる?」
笑みを浮かべて気安く問いかけてきたのは、三人の担任でもある知恵だった。
「来たか。取り敢えず、一学年の担任である私たちも、そちらの寮の学食に待機することになる」
「まあ、事態解決の目途すら付いていませんので、具体的に『いつまで』とは言えませんがね」
真嶋と坂上もそれに続く。
「事前のタレコミがあっただけまだマシだがな……。生徒会も早期に動いていたようだが、情報源は誰だ?」
「うちのクラスの克己みたいですよ」
佐枝の質問にそう前置きした桔梗は、昨日の会議で知ったことを伝える。……個人情報? 時と場合によって、そんなものは蔑ろにされるのが世の常だ。
「龍園と坂柳のみならず、時任もか……。本当に、今期の一年はどうなっているんだ……?」
真嶋が渋い顔をして溜息を吐いた。
「いやまあ、程度や方向性が違うだけで、私とアズも似たようなもんですよ」
「……なに?」
「いや、本当に。私は所謂『遠当て』――分かりやすく言うと『気功波』が放てますし、アズは闘気を介した『金縛り』が出来ますし……」
「ええっ!? それって『波動拳』とか『かめはめ波』的な!?」
「それとはまた若干違いますね。私の場合、蹴りの軌道に乗せて放つタイプなので」
「見たい見たい! 見せてもらえない?」
「見せる分には構いませんけど、見えるかは分かりませんよ。本来、気功ってのは目に見えるもんじゃないんですよ。見えるようになるためには、チャンネルを開いて眼にそういう機能を持たせる必要があります。言ってみれば、『電波の状態のテレビ映像』を見るようなものなんですよ」
「……それって無理じゃない?」
桔梗の言葉に、一転して知恵は態度を落ち着かせた。
「そういう『無理』に等しい行為を前提にしているから、大概は『オカルト』の一言で片付けられているんだと思いますよ。理屈が分かっても、理屈だけじゃどうしようもないんです。基本、それを熟すための適性なり才能なりが必要不可欠なんですよ。
ただまあ、普段は目に見えない風だって、条件次第じゃあ目視も出来ますよね? 台風とか。
言ってしまえば、気功もそれと同じです。より強い力を籠めれば、一般人の眼に見えもします。
ただ、それって力の無駄遣いに他ならないんですよね。いやまあ、慣れるための一助になることは否定しませんし、それによって上限が伸びる可能性も否定はできませんが……」
ハッキリと言って、『意味は無くはないが必要性は薄い行為』に違いなかった。少なくとも、それが桔梗の認識である。
「まあ、それでも見たいって言うんなら、何か的を用意してくれればお見せしますよ。距離があって、それでも変化を迎えたのを目にすれば、結果から受け止めざるを得ないでしょうし……」
「分かった! そのうちに見せてもらうから! きっとだよ! きっとだからね!」
「その辺にしておけ、知恵。いつまでもここで話していたところで始まらん。サッサと移動するぞ」
桔梗に念押しする知恵へと佐枝がツッコミを入れ、一年の担任教師を引き連れた一行は再び一年寮へと戻るのだった。
前書きのミスが何かって言うと『日付』ですね。
伊吹編冒頭で、『今日を含め残すところ7日となった』となっているので、伊吹編は8/25の開始なんですよね。8月は31までなので。
はい、『今日を含め』が頭から抜け落ちてました。
つまり原作だと、8/25の午後、清隆は須藤に占いに誘われることになります。須藤とのやり取りで『夕飯を何にするか考えてた』と返してますので、昼過ぎは確定でしょう。
8/26、モールに行って澪と遭遇。
8/27、澪と一緒に占ってもらったあと、エレベーターパニック。
それ以外の確定情報だと、山内編で『夏休みはあと数日』とセリフがあって、最低でも二日は使ってます。
8/30、寮から学校までの道中にある休憩スペースで恵と待ち合わせ。
8/31、プール。
27にモールから帰った後、断水騒動が起こり、28、29で山内編、30、31がプール編だとすれば、ギリギリ整合性は取れます。無理な面があるのは否めませんが……。
本作は、29を一日一杯使って山内が復活、27、28が山内編、24~26が伊吹編で、やはり伊吹編のエレベーターパニック後に断水騒動の想定で書き始めたわけです。
まあ、山内編は丸々無くなってますが、代替イベントを突っ込んでます。
克己に続く、原作モブキャラのピックアップ――と言うか、『半オリキャラ化』です。
『なんでこのキャラ、この段階になっても退学してないの?』、『何で退学したのがこのキャラじゃなかったの?』という理由付けでもあります。
特に茶柱クラスのモブ生徒は、散見される描写から鑑みると、愛里の代わりに退学候補に挙げられてもおかしくなかった生徒が多過ぎますので。『別に本堂でよかったじゃん!』と、普通に思ってしまいます。
まあ、『モブを退学させたところで話が盛り上がらない』、『清隆への影響が少なく、変化や成長に繋がらない』という面があるのは否定しませんが……。
ただ、それでモニョる部分があるのも事実なので、個人的解釈を行った結果、フォローを入れられる相手にはフォローを入れていくのが本作の方針です。
全部を書き終えたわけではありませんが、そこら辺の兼ね合いもあって日付の修正が難儀です。
なので、このまま突っ走ります。
あとは、今話で描写した『生徒会緊急会議』ですが、根拠が薄かろうと『いざ断水が起こった場合』を考えれば、会議の一つも開くかな……と。
南雲は生徒会副会長ですので、その権限もあるでしょうし……。
『人同士の繋がりが起こした影響』の描写でもあります。
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