ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「マジか……」
茶柱クラスの生徒である三宅明人は冷や汗を流していた。
やや
実際、今日も今日とて暑い日差しの中を学校へ赴いて、自身の所属する弓道部の練習に汗を流してきた。本人曰く、『弓道はテレビで見たことがキッカケで暇潰しがてら始めた』とのことだが、その腕前も一定の実力は有しており、中学時代には県大会に出場したこともある。
もっとも、中学時代の三宅は今とは異なり『不良』と評するに十分な人物だった。基本的に自分から仕掛けることこそなかったものの、絡まれると暴力で対抗することも珍しくはなかった。喧嘩騒ぎで補導されたこともある。
つまり、落ち着いた性格自体は元来のものだが、喧嘩を卒業するきっかけとなったのが『弓道』なのだ。きっかけがどうあれ、弓道という『打ち込めるモノ』を見付けることが出来たから、三宅は卒業することが出来たのだ。
そして、それで県大会に出場できるほどの実力に至ったのだから、素養や才能、適正といったものを備えているのは間違いなかった。
本人もそのことは自任しており、だからこそ余計に部活に傾倒している向きがある。
「マジか……」
捻っても水の出てこない蛇口を前に、三宅はもう一度呟いた。
部活で汗を流し、流した汗を学校のシャワーで洗い流し、再び暑い日差しの下を通って寮まで帰り、疲労から一眠り。目を覚まし、顔を洗おうとしたらコレである。状況も何も分かったものではない。
「そうだ! メール!」
困惑に包まれる中、それでも三宅はメールの存在を思い出した。コレが何らかのトラブルによるものであれば、学校側から通達が来ていてもおかしくはない。
「六時時点で学校からメールが届いてるな……。寮の問題じゃなく、大元である水道局でのトラブルなのか……」
通達内容を見ながら感想を零していく。
「あった! 『寮の食堂で水の配給を実施する』……コレだ!」
目当ての記載を見付けた三宅は思わず喝采を上げ――直後に気落ちした。
現在時刻に気付いてしまったからである。既に21時を回っている。連絡が来てから既に三時間が経過しているのだ。
前以て分かっていたならばともかく、突然のトラブルだ。それでも対応に移ってくれた学校は大したものだが、放出できる量に限度があるのは否めない。事実、一人当たりの配給量にも上限が設定されている。
水を必要とするのは一年生だけではない。二年生や三年生、教員や各種施設の従業員――各寮に住まう全員が必要とするのだ。当然ながら、その分だけ一寮当たりの配分は少なくなるだろう。
事情と経過時間を鑑みれば、既に配給は終わっている可能性が高い。
「まあ、行くだけ行ってみるか……」
水が残っている可能性は低いことを承知で、それでも一縷の望みをかけて食堂へと向かう。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「やっぱダメだったか……」
食堂のドアは既に施錠されており、そこには『水の配給は終了しました』の文字。
一抹の救いがあるとすれば、トラブルの原因が『経年劣化による部品の摩耗』と分かっていることだが、だからこそ復旧の目途が立つまで時間が掛かるのも事実である。『原因不明』よりは余程マシだが、直接的な救いにはならない。
グウウウゥゥ……。
「不味いな。腹も減ってきた……」
茶柱クラスの生徒である三宅は、当然ながらポイントに余裕がない。外食や弁当なんかは贅沢に他ならず、節約を鑑みれば自炊か食堂で提供される賄い品しか選択肢はない。
しかし、見ての通りに食堂は既に閉まっている。自炊するにも、水がなければそれも儘ならない。まさしく『無い無い尽くし』の状況だった。
誰かに頼ろうにも、先述の通り三宅は交流関係が非常に薄い。連絡先を交換している相手がいないわけではないが、幸村や波瑠加など、三宅同様に一匹狼気質の強い生徒ばかりだ。どこまで頼れるか分かったものではない。
唯一の例外は『クラスリーダー』として起った平田だが、その人気ぶりから、逆の意味でどこまで頼れるか分からなかった。基本、人気者というのは真っ先に頼られる存在だからである。
悪い予想ばかりが浮かぶが、訊いてみなければ確かなことも分からない。頭を横に振って嫌な予感を追い出した三宅は、取り敢えずは安牌である平田へと連絡を取ることにした。少なくとも、情報の更新は叶うだろう。
『はい、平田です』
「平田か? 三宅だ。今日も部活の練習に赴いたあと、その疲れからさっきまで寝ていてな。断水に気が付いたのも今しがたなんだ」
三宅は、取り敢えず自分の事情を伝えることにした。
『もしかしなくても、水がないのかな?』
「そういうことだ。分けてもらうことは出来るか?」
『……ゴメンね。分けてあげたいのは山々だけど、僕の方も余裕がないんだ。特に今日は同じような頼みが引っ切り無しでね……』
「……だよな」
平田の返答は芳しいものではなかったが、十分に理解を示せるものではあった。もっとも、理屈と感情は別である。表情が歪んでしまうのは止められない。
『ああでも、可能性の提示なら出来るよ。三宅くんは長谷部さんと連絡先を交換してたよね? なら、長谷部さんに訊いてみるといいかもしれない』
「確かに考えてはいたが、理由があるのか?」
『何でも、生徒会役員は昨日の時点で断水の可能性を知っていたみたいでね』
「そうなのか!?」
『うん。清隆くんがそう言っていたよ。まあ、根拠は『占い』という何とも信憑性に欠けるものだったみたいだけどね。
ただ、如何に根拠と信憑性が薄かろうと、いざ実現した際のことを考えれば、頭から切り捨てるのも難があった。そんなわけで、生徒会の予算で水を買い込む一方、役員各自でも念のために水を買っておいたみたい。実際、今日食堂で配られたのも、そうして生徒会が確保した水らしいよ。
で、清隆くんは自分の分のみならず、僕やハーレムメンバーの分も買い込んだみたいなんだ。突然清隆くんから箱で水が届いたから、僕も驚いたよ』
「そうなのか……」
答える三宅の声は渋い。別に三宅は清隆を嫌悪しているわけではないが、こうして『元クラスメイト』との
(そして何よりも綾小路は――っと、いけない、いけない。今はそれを考えるべきじゃない)
ともすれば湧き上がる
「まあ、分かった。情報ありがとう。取り敢えず、長谷部に訊いてみる」
『あんまり力になれなくてゴメンね』
「いや、十分に助かったよ。……それじゃあ」
平田との通話を切った三宅は、今度は助言通りに波瑠加へと電話を掛けた。
『は~い、長谷部です。どしたの、みやっち?』
電話越しに聞こえる波瑠加の声に我知らず安堵感を覚えながら、三宅は事情を説明した。波瑠加の声を聞くだけで、クサクサとした気分が落ち着いてくる。
『あ、水。うん、い~よ。キヨポンから送られてきたし、私ってばそもそもの交流関係が少ないから普通に余裕ある。
てか、今の今まで寝過ごしてたんなら、みやっちってご飯もまだなんじゃない?』
「まあ、そうだな」
『なら、私が作りに行ったげるよ。……あ、水は重いから取りに来てね』
「そのくらいならお安い御用だし助かるが……いいのか?」
『うん? いいって何が? ……あ。もしかしてキヨポンのハーレムとかそういうの?』
「まあ、そうだな」
内容に対して余りにも気安い波瑠加の態度に、三宅は首を傾げざるを得なかった。
『い~の、い~の! キヨポンにしてみればさ、これも
「勝負?」
『そう! 『自分が狙った相手を堕とせるか』って勝負。その裏で、同じ女を狙って自分に対抗する相手が現れることを期待しているみたい。
そんなわけで、頑張れみやっち! 相手は強大だよぉ~』
揶揄い混じりに波瑠加は告げるが、その言葉の意味を悟り、三宅は息を呑んだ。
「お前、気付いて……」
『そりゃあね。普段の人付き合いとかはどうあれ、私だって一人の女の子なわけだし……。最初は
「そう、か……」
三宅はそう答えるより他になかった。
『で、私自身はみやっちのことが嫌いじゃないし、かといってキヨポンのことも嫌いじゃない。そんなんでハーレムに加わるってのも不誠実かと思って、みやっちのことは伏せて実際にキヨポンに訊いてみたわけよ。――まあ、ハーレム自体が不誠実って言えば不誠実なんだろうけどね。
その際のキヨポンの返答がさっきの言葉だったわけ。キヨポンは
自分の想いが叶わなくても、それはそれで
そんなわけで、私は自分に似合わないことを承知で
「そう、か……」
叩き込まれた情報の奔流に、三宅は理解が追いつかず、そう呟くのが精々だった。
しかしながら、時間の経過と共に徐々に理解が追いつくのは道理だ。
「まあ、分かった。そういうことなら、俺もこれからは本気でお前を堕としにいく」
『およ? 電話越しだけど、みやっちってば雰囲気変わった?』
「茶化すなよ。……正直言えばさ、俺は自分に自信がなかったんだ。卑下していたと言ってもいい。これで中学時代は喧嘩に明け暮れていた不良だったわけだしな。
この学校に入って、お前を一目見た時から惹かれていることを自覚した。けど、そんな過去なもんだから、俺が必要以上にお前に近付くのは、お前を汚すことになると思ったんだ。
その一方でお前を諦めきれないのも事実で、だから、自分で自分を認められるだけの功績を挙げようと思った。その時こそ、堂々とお前にアプローチをかけようと……。それで部活に精を出していた部分もある。
だけど、そうこうしている内に綾小路がお前をハーレムに誘ったって聞いて、お前と綾小路が同じテントで寝たって聞いて、それでもう、心はグッチャグチャになっていたよ。
ここ最近は、部活への傾倒も
『え~と、もしかしなくても、私って今大々的に告白されてる?』
電話越しの、波瑠加のすっとぼけたような反応も心地がいい。
確かにショックは受けた。だけど、今の三宅の心情は思いの外に晴れやかだった。
「だから茶化すなって。――男が一世一代の告白をしてるんだからよ」
『あ~、やっぱり告白なんだ……』
「ああ、告白だ。顔を見ながらでないのは許せ。それは本番までお預けだ。
今の俺は、俺自身がお前に釣り合うとも、綾小路に敵うとも思っちゃいない。だけど、それを言い訳にして想いを伝えないのは止めた。何せ、それで思いっ切り後悔したばかりだからな。
そんなところに、
俺は射手だ。これ以降は、本気でお前のハートを射止めに行く」
電話越しに、三宅は
『うわ~、うわ~! 何かこう、自分で自分の顔が赤くなってるのが分かる気分! 電話越しでも分かるほどにみやっちの言葉って
電話の向こう、波瑠加がテンパっているのが伝わってきた。
「なるほど。そいつは貴重な情報だ。今の俺は資本力では綾小路に負けているかもしれないが、想いの強さでは負けていないってことだからな!」
『そうなっちゃう!? そうなっちゃうのか! ……え、私、今何を言っているの!? もう自分で自分が分からないんだけど……!』
「可愛いってことだよ。んじゃ、今からお前の部屋に行くから。手料理、期待してるぜ?」
『うわ!? そうだった! 私からそう提案したんだった! ……え? マジで!? 私、この状態でみやっちの部屋に行って、みやっちに手料理御馳走すんの!?』
端末を耳に当てたまま、三宅は波瑠加の部屋へと足を向ける。
電話は切らない。切れば愉しみが減る。これほどまでに波瑠加が混乱したのは、三宅の知る限り初めてだ。
どうにも、波瑠加は
それは見事に功を奏したわけだが、その一方で功を奏し過ぎてしまったのだ。
(さて……。学校、部活、想い人……。ここからは、俺も本気で立ち向かわないとな)
人知れず、新たに茶柱クラスから一人の射手が立ち上がった瞬間だった。
突発的な断水ですから、こんな目に遭った生徒もいるよな~……と。
そんなわけで三宅のピックアップ回です。個人的に弓を使うキャラって好きなんですよね。
原作で描写されている設定を組み合わせて、『弓道を始めたことで喧嘩を卒業した』ことにしました。
また、『中学時、県大会に出場したことがある』らしいので、それだけのポテンシャルがあるのは間違いありません。
まあ、部員数が少なければ実力問わず選出される可能性はあるでしょうが……。
本作ではそんな感じに過去の流れを確定化させたことで、或いは原作以上に弓への適性と才能を持つことになったかもしれません。
まあ、作風上仕方のない部分もあります。取り柄のない生徒はそれだけ退学の可能性が高まりますし、実力者キャラに対処できなくなりますので。
また、本作の三宅は波瑠加に対して一目惚れしたことにしました。
今話で描写したような心境から、『付かず離れず』な位置をキープしていたところ、無人島での一件が発生。
それを機に、波瑠加に向ける視線も無自覚に強くなり、それもあって波瑠加に想いを気付かれることになりました。
結果、波瑠加も波瑠加で、清隆と三宅の間で乙女心を揺らすことになりました。
それを知った三宅も、自分に言い訳を付けるのは止めて、本格的にアタックすることを決意しました。
清隆としては、波瑠加を堕とせても堕とせなくても構いません。堕とせた方がいいのは間違いありませんが、堕とせなかった場合の経験も重視しています。
何せ、清隆が求めているのは『自身の敗北』ですから。色恋だってそこは変わりません。
三宅が立ち上がったことを知れば、清隆はこの上なく歓迎するでしょう。
とまあ、ベタと言えばベタですが、まあ学園ものですから。こういう展開にもチャレンジしてみました。
本作ではハーレムを『一つの解』として定義していますが、それを『絶対』とはしていません。
そのため、これから先は『揺れ動く恋愛関係と友情関係』も描けていけたらと思います。余り自信はありませんが……。
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