ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第105話:森寧々は地頭が良いギャルである。

「正直、参った……」

「いや、突然訪ねてきてんなこと言われても困るんだけど?」

 

 松下千秋は頬を引きつらせつつも、スッパリキッパリと言い切った。

 相手は同じクラスの女子である森寧々だ。

 

「え~。少しぐらい愚痴らせてくれてもいいじゃん!」

「いや、愚痴りたいならそれを止める気はないけど、ならそうと言ってよ……」

 

 千秋は頭を押さえて溜息を吐く。

 

「あ~、それはゴメン。こっちも相応に参っててね……」

 

 今度は寧々が溜息を吐いた。

 千秋と寧々の関係を表す場合、確かに『クラスメイト』はそうだが、それ以外に『ギャル仲間』というものもある。その点においては恵や麻耶も変わらない。仲も普通に良い方だろう。

 しかしながら、こと人間関係において、寧々には千秋らとの決定的な違いがあった。さつきとの仲が決定的に悪いのだ。生理的嫌悪感と言うか、相性が悪いと言うか、とにかく寧々は篠原さつきという人物を受け付けることが出来ないのである。

 そのことは相手のさつきのみならず千秋たちも知っており、然るにグループで行動する際はバッティングしないように一々気を配っている。面倒ではあるが、バッティングした際の方が余計に面倒なので、必要経費として受け入れざるを得ないのが実情だった。

 

「今更言っても仕方ないことは分かってるんだけど、決定的なチャンスを逃したなぁ~って」

 

 その言葉で、寧々が何を言いたいのかを千秋は察した。

 

「清隆くんのこと?」

「うん、そう」

 

 かのゴールデンウィークの勉強会の日。実は寧々も誘われていたのだ。しかしながら、さつきも参加することを告げられた結果、場が荒れるのを危惧して寧々の方から辞退した経緯がある。

 

「東さん、小野寺さん、石倉さん、市橋さん、井の頭さん、園田さん、西村さん、王さん……クラスのほとんどの女子と交流を持ったとは思う。

 そうして実感したことは、彼女たちの誰も、『決して優れた部分を持ってないわけじゃない』ってこと。

 けどね? その一方で、どうしても『特化型』な生徒が多いってことも実感した。

 基本的に教師が放任主義を敷くこの学校では、勉強するにも自習か生徒間での相互協力しかあり得ない。その中で『教師役』足り得る人材は極々限られる」

「ま、単に『学力があればいい』ってわけじゃないからね。それで済む話なら、それこそ鈴音ちゃんや幸村くんは引く手数多だったでしょうよ」

 

 寧々の言葉に、千秋は肩をすくめながら同意した。

 

「生徒目線で見た場合、教師に求められるのは、第一に学力、第二に分からない生徒にトコトンまで付き合うための忍耐力だと思うわけよ。……あ、自身の教え方に固執しない柔軟性もあるか。

 けど教師にしてみれば、授業時間という枠内、学期という期間内に指定範囲内を教え切る必要に迫られるわけだからね。出来ない生徒をおざなりにする必要が求められるのは仕方のない部分もある。

 それが積み重なった結果が、『分からない生徒はトコトンまで分からない』っていう現実。流石に責任の全部を教師に押し付けるつもりはないけど、一面の真実なのは否めない」

「否定はしないよ」

 

 生徒の方にも責任はあるが、『教え導く』のが教師である以上、それを果たせていない時点で教師の方にも責任はある。

 

「ま、だから補習だ何だって無理矢理に勉強させる部分があるわけだしね」

「そして、分からないのに無理矢理勉強させるわけだから、生徒の方にも勉強に対する嫌悪感が湧く……と。悪循環よね」

「確かに」

 

 千秋と寧々は揃って苦笑した。

 

「無理難題は承知だけどさ。最初の一ヶ月は生徒と教師、双方に対する試用期間でもいいと思うわけよ。

 教師に対してはどの生徒が教えやすかったか、生徒に対してはどの教師が分かりやすかったか、アンケートなりでそこら辺を調査するわけね。そして、翌月からアンケート結果に基づいて教師と生徒を振り分ける」

「そりゃあ、実現できたら素晴らしい結果が待ち受けているかもしれないけどね」

 

 所詮は()()()()()だ。夢や理想の類でしかない。

 

「いい加減、本題に入らない?」

「勉強教えて。この夏休み、勉強に費やしているつもりだけど、理解が追いつかない」

 

 顎に人差し指を宛がい、小首を傾げ、笑顔で問いかける千秋に対し、寧々は平身低頭して乞うたのだった。

 

「いいよ。……ま、そんなこったろうとは思ってたしね」

「サンキュー! 持つべき者は友達よね!」

「ったく。調子いいんだから……」

 

 指を鳴らす寧々に、千秋は呆れを隠せない。

 早い話、寧々は千秋と同タイプの人間である。頭の回転は悪くないし、観察力もある。人間関係をシビアに捉えることも出来るが情も持ち合わせている。――だが決定的な違いとして、寧々は千秋ほどに学力も身体能力も高くはなかった。

 

「ついでだから鈴音ちゃんと幸村くんも呼ぼっか。学力はその二人の方が私より優秀だし、最近、幸村くんは鈴音ちゃんに肉体改造をお願いしているみたいだし、森さんも頼んでみれば? 仲介はしてあげるよ?」

「それは嬉しい申し出。いやぁ、堀北さんと幸村くんは声をかけるのも憚られるタイプだったからね~」

 

 千秋の提案に、寧々は笑顔で頷くのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「たしか……森さんだったわよね? 貴方が?」

 

 鈴音が寧々に向ける目は怪訝に満ちている。

 

「ちょっと堀北さん。もし『ギャルは勉強しない』なんて思ってるなら、それは偏見だよ? だったら松下さんはどうなのさ? 彼女だって立派なギャルだよ?」

「む……。それは、そうね。ごめんなさい、謝るわ」

「……あらま。存外素直。改めて思ったけど、堀北さんって入学当初とは変わったよねえ~」

 

 寧々の指摘に、鈴音はおとなしく非を認めて謝罪した。

 それを受け、寧々は口を開けて驚きを露わにした。

 

「そう、なのかもしれないわね。自分では、どこがどう変わったかなんて分かってないんだけど……」

「……それで、どこから教えればいいんだ?」

 

 鈴音が頷く横で、幸村が問いかけた。

 

「それが分かったら苦労はしないって。勉強が分からない生徒はね、()()()()()()()()()()()()()()()()()のに、授業が進むままに中途半端に覚えていくから、余計に分からないんだよ。()()()()()()()()()()()()()()生徒は、勉強が出来る生徒なんだよ」

 

 顔の前で片手を振りながら、寧々は言った。

 小学校は、基本的に担任が全教科を教える。

 中学校は、科目ごとに教える教師が変わる。高校も同様。

 どちらにも一長一短があるのは事実で、余計に『どちらが正しい』とは断言できない状況だ。

 ただ、小学校の場合はそのシステム上、担任教師は『基礎を教えるには十分』という前提条件を満たしていることになる。だからこそ、生徒の側がごく普通の範囲で真面目に授業に臨めば、よほど担任との相性が悪いか、科目に苦手意識でも持っていない限り、特に問題など起こらないだろう。

 故に、大きな問題が起きやすいのは中学時。科目ごとに担当が変わるからこそ()()()()()が起きやすく、教科の得意不得意が起きやすい。『担当教師の教え方』との相性の悪さが、『科目への苦手意識』を生む部分も否定はできないのだ。

 

「フン、生意気な口を利く。――が、道理でもある。そして、そう言えることからして地頭は悪くないようだ」

 

 寧々の言葉を鼻で嗤った幸村は、しかし次の瞬間には勝ち気な笑みを浮かべた。

 

「それはどうも。取り敢えず、中学部分からのおさらいをお願い」

「まあ、いいだろう。取り敢えず、まだ数日は夏休みが残っているからな。その期間を使って徹底的に教え込んでやる」

「お手柔らかにお願いね。本番は高校範囲。中学範囲で必ずしも100点を取れるようにまでなる必要なんてないんだからさ。80~90点くらいを取れるようになれば取り敢えずは十分。……堅物な人って、そこら辺を取り違えがちだからさ」

「む……。忠告として受け取っておこう」

 

 心覚えがあるのだろう。寧々の言葉に、幸村は渋い顔で頷いた。

 そうして、幸村と鈴音を教師役、千秋を仲介役にして、寧々に対する勉強会は行われたのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「驚いたわね……」

「確かに……」

 

 そして数日も経てば、鈴音と幸村は驚愕を露わにしていた。

 確かに、夏休み中ということも相俟って、一日の大半を勉強時間に充てている。その合間合間で肉体改造も施しているが、それを踏まえても寧々の成長ぶりは異常だった。……少なくとも、鈴音も幸村もそう思わざるを得なかった。

 

「へっへ~ん。どんなもんよ! 私、自分で地頭の良さは認めているからね。ひとたび自分なりに理解さえすれば、この程度はチョロいチョロい!」

 

 寧々は鼻高々に嘯くが、鈴音と幸村はそれを否定できずにいた。

 

「私は疲れたよ。……アンタたち、相性が良いのか悪いのか分からないわ」

 

 その横で、千秋は深々と溜息を吐いていた。

 鈴音と幸村は、まず忍耐力に問題があった。いや、決して忍耐力がないわけではない。しかし、『この程度も分からないのか』という考えが、態度に透けて表れるのだ。

 直接的に口にしない分、確かに以前に比べると進歩しているが、コミュニケーションとしては問題ありだ。

 分からないから勉強しているのだ。教わっているのだ。普通に考えて、教える側がそれを卑下するような真似をしてはいけないだろう。

 人間、誰しも最初から分かっているわけではなく、優先順位にだって違いはある。円滑なコミュニケーションや良好な雰囲気というものは、そこに配慮して初めて成り立つのだ。

 その点において、鈴音と幸村は間違いなくコミュニケーション能力が不足していた。あまりにも自分を基準にし過ぎている。入学時に比べると多少はマシになっているが、あくまでもその程度。クラスメイトの大半には受けが悪いだろう。

 幸いにして寧々は自分の学力不足を認めているため、二人の態度に不満を述べることもなかったが、千秋としてはそうもいかない。

 これから本格的にAクラスを目指す上で、学力の高い二人はクラスにとって貴重な教師役だ。そして、茶柱クラスは学力不振の生徒が多い。その点を考慮すると、二人の態度は普通に問題ありである。

 おかげで、千秋は鈴音と幸村に対して何度となく苦言を呈することとなった。

 確かに、出来の悪い人物を切り捨てる必要に迫られる場合もあるだろう。だが現実問題、世の中は出来の悪い人物の方が大半なのだ。『上』に立とうとするならば、他人を使おうとするならば、次代を牽引するつもりならば、ただ切り捨てるだけではなく、使い道を見出す必要にだって迫られる。

 最初から切り捨てることを前提にするスタンスは、言ってしまえば『ただの逃避』だ。楽だからそうしているだけで、結果的には人手不足を招くことになる。

 千秋自身、切り捨てることを否定はしないし、必要とあれば切り捨てる。実際、山内は切り捨てた。

 しかし、それはその必要があったからだ。その必要に迫られたからだ。本当の意味でクラスの浮かれ気分を払拭するためには、人身御供は必要不可欠だったのだ。状況から山内が選ばれたに過ぎない。

 クラスのリーダーは平田で、彼は安易に切り捨てない方針を立てた。そうしないと、いずれは立ち行かなくなることを頭と感覚の両面で分かっているのだ。……平田自身は卑下と後悔をしていたが、そこには確かに、かつて暴力で以て学校を支配した経験が生きているのだろう。

 補佐役たる千秋と鈴音、学力という分かりやすい強みを持つが故にクラス内ランキングの上位にランクインしやすいだろう幸村は、そんな平田の方針を理解して動く必要がある。でないと、『クラスの改革』など『夢のまた夢』である。

 シビアでありながらも、幸村と鈴音ほどには人間関係を切り捨てていない千秋は、だからこそ二人に苦言を呈する羽目になったわけだが、そんな千秋の苦労を余所に、寧々は見る間に二人の教えを吸収していった。

 鈴音と幸村は、共に理論・理屈型の人間だ。生徒のデキの悪さに腹を立てはするが、そこさえ呑み込めば、分かる範囲においてはどこまでも分解して教え込むことが出来る。その点においては清隆と同種と言えるだろう。

 地頭がいい人にはいくつかの特徴がある。

 一つ目は、何か意見や回答を求められても即座に対応できたり、少しの説明で物事を大体理解することができるといった具合に、頭の回転が速く理解力があること。

 二つ目は、相手に合わせて話や対応を変えることができるなど、コミュニケーション能力があること。

 三つ目は、論理思考力や多面的思考力などの思考力があること。

 主要五科目は、問題が存在し、それに対応する解答が存在する。つまり、問題と解答の関係性を本人なりに理解してしまえば、その適用範囲は一気に広がる。それにより、飛躍的な向上さえ可能になる。

 

「勉強教えておいてもらってなんだけど、ぶっちゃけ、堀北さんと幸村くんて地頭が悪いよね」

「うぐ……!」

「ぐはっ……!」

 

 寧々のその言葉に、鈴音と幸村は胸に手を当てて蹲った。二人の人生で、ここまで直接的な指摘は初めてだった。ぼんやりと自覚し始めていただけに、衝撃はより大きい。

 

「第一に、自分の考えに固執しがちだし……。これはまあ、幼少期に家族の口出しが多い人なんかが陥りやすい部分もあるから、必ずしも本人が悪いとは言えないんだけどね。

 第二に、他人とのコミュニケーションが下手な上に、自発的に接する相手も限られているから、異なる考えを生で吸収する余地と機会が少ない。

 二人の場合、これらが悪い意味で悪魔合体しているからタチが悪いよね。

 どうしても主体が()()()()になっちゃうから、積極的に現状ってか周辺環境を変えようとはしないし、変えようとしても自己満足の部分が大きくなる。

 自分の理解できないモノに対する理解力が低いし、そもそもにして理解しようとしない。

 視野が狭いから、自分の尺度だけで物事を判断しがちになる。多方面から物事を見ることをしないから、偏った知識や考え方になることも少なくない」

 

 指折り数えながら、寧々は二人に対する印象を口にしていく。

 その度に、鈴音と幸村は呻き声を上げた。

 

「正直、二人はもっと他人と積極的にコミュニケーションを取った方がいいよ。でないと、せっかく高い能力があるのに、人間としては小さく纏まっちゃうからさ。

 自己弁護ってわけじゃないけど、『ギャル』はバカに出来たもんじゃないんだよ。他者に対する積極性が高いから、それだけ異なる考え方を吸収する余地と機会が大きいし、応じて()()も大きくなりやすい。――まあ、それを自分のものに出来なきゃ、ただの『ダメ人間』になりかねないのも否定はできないけどね」

『……はい。忠告を胸に刻みます』

 

 ことわざに曰く、『良薬は口に苦し』。

 鈴音と幸村は、まさしくそれを味わっている気分だった。




再びの原作モブキャラピックアップ回です。対象は森寧々さん。

彼女もまたモブの宿命として原作での描写が少ない方なんですけど、その中で特に目を付けたのが、『彼女を省いた五人のグループチャット』と『彼女を込みの六人のグループチャット』が存在する点ですね。
特に、そのメンバーの中に桔梗が含まれているのが大きいです。
これって裏を返せば『桔梗が寧々を警戒している』という風にも受け取れますので。警戒するから、省いたり目の敵にしたりするのはおかしくないと思います。

また、『いつも軽井沢とつるんでいる松下、森』という描写から、本作では寧々のギャル化が確定しました。
同時、上の解釈と合わせて、本作では千秋同様に『手を抜いている』設定です。
ただ、元々の実力が千秋ほどには高くないため、手を抜いた結果として普通に茶柱クラスに馴染むレベルになってます。

本作の千秋と寧々は双方共に『手を抜いている』ことを察しており、『互いに様子見』状態なのが暗黙の了解でした。
そんな中で千秋が実力を発揮し始めたわけです。寧々も本格的に危機感を高めて千秋に続こうとしましたが、実力の壁は高く厚く、今回の展開に至った感じです。
まあ、どうしたって独力じゃあ限度がありますので。オマケにクラスメイトがクラスメイトですので、それぞれに頼れる部分も非常に限定的です。

今まで全然本作に登場しなかった理由として、『致命的なまでに篠原さつきと相性が悪い』という理由を設定しました。
まあ、原作の方でも一時的に絶交状態に陥ってましたので、違和感は少ないと思います。

早い話、本作では『話に登場してなかっただけで、裏では千秋たちを始めクラスメイトと交流を持ってました』的立ち位置のキャラです。
また、ゴールデンウィークの際に清隆の勉強会に同行しなかったが故に、『登場機会を逃し続けた』ポジションに追いやられた――本作では『そのように設定された』可哀そうなキャラでもあります。
茶柱クラス補正として上々のポテンシャルを付与されたオールラウンダータイプです。

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