ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
井の頭心は自分に自信がない。それもあって引っ込み思案でもある。だが、それはそれとして『自分が女子である』という自覚は持っている。
早い話、出かける時にはオシャレの一つもしたくなるのだ。
まあ、クラス環境もあって五月以降は難しかったのだが、先日の誕生会で状況は一変した。
クラスリーダーとして起った平田と、『元クラスメイト』である清隆の合同主催による誕生会。それというのも、クラス内に誕生日の近い生徒が固まったことに起因する。
8/21が誕生日の王美雨、8/24が誕生日の井の頭心、そして8/25が誕生日の天野亜真里。亜真里は葵伊織と共に夏休みに入ってからやってきた転入生でもあり、それもあって誕生会は歓迎会の側面も持つことになった。
まあ、だからこそ主催者に清隆も加わったのだろうと、心は勝手に思っている。同じクラスだった時には一切気付かなかったが、清隆は結構な実力者だったらしく、今では生徒会役員の一員だ。そして生徒会役員ともなれば、転入生という存在に気を配ってもおかしくはない。
或いは、同じく一年の生徒会役員でもある櫛田桔梗の意向があった可能性も否めない。ハッキリ言って、彼女の心配りは『異常』の域にあると心は思っている。それによって助けられているのも事実だが、そう思ってしまうものは仕方がない。
ともかく、それぞれの立ち位置やら関係性やらを考慮した上で、清隆に白羽の矢が立った可能性は否めない。在籍期間は短くとも、『元クラスメイト』という事実と肩書は否定できない。
特に、クラスリーダーである平田の方針は、基本的に『みんな仲良く』だ。清隆と佐倉愛里を誘う条件としては十分だろう。
それも相俟って、清隆が『生徒会代表』として歓迎会を主催した可能性は否定できない。
そして、『歓迎会』という側面を持ったが故に、担任である茶柱佐枝も参加した。以前の態度からすれば信じられないほどの変化だが、どうも無人島試験中に何かがあったようで、試験中のある日を境に生徒への対応が柔らかくなった。
結果、大人としての矜持か、或いは教師としての矜持か、歓迎会の費用は彼女が持ってくれたらしい。言い分としては、あくまでも『歓迎会への参加』である。『誕生会への参加』とするには都合が悪いことを会の最中に言っていた。
公平性の観点から、全員へ誕生日プレゼントを用意する覚悟か、逆に用意しない覚悟が必要になるそうだ。心としては『そこまで気にしなくとも……』と思うのだが、そこに一定の理があることも否定しきれずにいる。
早い話、会場の手配やら何やらは平田が行い、費用は清隆と佐枝による折半である。清隆と佐枝的には、それが誕生日プレゼントなのだろう。あんな大々的なパーティーは心としても本当に久しぶりだったので、感謝の念しかない。
そして、パーティーが終わって寮の自室に帰ったら、程なくして愛里から段ボール箱が送られてきた次第である。中には衣類と、それを彩るアクセサリが一式。添えられていたメッセージカードによると、『誕生日プレゼント』とのことであった。
互いの関係性自体が薄く、友達すらこの学校に入るまで出来たことがないため、誘われたはいいものの何を贈るべきか本当に悩んだこと。その上で、自分に自信を持てるのはファッションしかあり得ず、モールのファッションモデルで得た報酬が増えて段々と置き場に困ってきていること。その中から似合いそうな物を送ったこと。そんな経緯だから元手は無いに等しいこと。見ようによっては『ごみ処理』や『中古品の押し付け』と受け取られかねないし、気に入らないかもしれないが、ファッションはファッション。使ってくれると嬉しい。……推奨する組み合わせを含め、愛里の想いと事実が隠すことなく綴られていた。
複雑な感情に駆られなかったと言えば嘘になるが、それらをひっくるめた上で心が一番強く抱いたのは
送られてきた中には旬の物もあれば、刺繍がアクセントを利かせている物もあり、裁縫や編み物を趣味としている心としては大いに参考と勉強になった。
ファッション誌を立ち読んだりもしているが、昨今は立ち読みを拒否している店や本も多い。ポイントがないから買えもしない。
そんな中で、紹介されている衣服の実物が手元にあるというのは、これ以上ないほどに大きい。
心がこの学校にやって来たのは、『趣味で食べていけるようになりたい』と考えたからだ。明確なプランなんかはなく、漠然と考えただけではあったが、その思いが背中を押したのも事実である。
次から次へと押し寄せる事実に気落ちしていたのは否めないが、思いが無くなったわけではない。愛里からのプレゼントは、心に初心を思い出させるカンフル剤となった。
そして、短いながらもこの学校での生活は、心に勇気を出させるには十分でもあった。
なので、心は携帯端末を手に連絡を取ったのだ。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「おはよう、井の頭さん」
待ち合わせ場所である寮のロビーには、既に相手がやって来ていた。佐倉愛里である。せっかく頂いたプレゼント。喜んで使っている部分を見せたいと思ったのだ。
それだけではなく、ファッションに対して相談したい気持ちもあった。
夢を実現化させるには、明確な目的意識があった方がいいのも事実である。漠然とした思いのまま、趣味をただ『趣味』にしているだけでは効果は薄い。
その点において、ファッションを着こなす側である愛里の意見を聞いてみたいと思ったのだ。何故なら、心はファッションを作る側である。今現在は何の変哲もないただの一学生に過ぎないが、将来的にはそうなることを希望している。
これまではただの趣味であり、言ってはなんだが『自己満足』の域を出なかった。だが、仕事とするからには『自身の譲れない部分』をシッカリと把握し、その上で『客のニーズに応える』必要を求められる。……この学校に通うことでそういうことに思い至れるようになったのは、心にとって間違いなく収穫ではあるだろう。
まあ、そんなわけで心は愛里に連絡を取り誘ったのである。
そして、愛里はその誘いを了承した。――わけであるが……。
「あ、うん。おはよう、佐倉さん。……それであの、この人数は一体?」
今日の愛里は見事なまでに着飾っている。同じクラスだった際の地味な雰囲気など微塵もない。
その姿は確かに『グラビアアイドルの雫』その人であり、『ストーカーされるのも仕方がない』と、そう思わせるだけの雰囲気を纏っていた。
心自身、普段の愛里で想像していただけに、そのギャップにやられてしまった。同性ながら見惚れてしまった。そう断言できる。
しかしながら、見惚れてばかりもいられない。待ち合わせ場所であるロビーには、他にもたくさんの人がいたからだ。――いやまあ、寮のロビーであるからして、自分たち以外の人がいてもおかしくはないのであるが、
「え~と、端的に言えばブッキング」
苦笑しながら愛里が語ったところによると、美雨と亜真里も心と同じような用件で愛里に連絡を取ってきたらしい。
それに関しては心も納得できる。
美雨と亜真里も合同誕生会の相手だったのだ。である以上、二人に対しても愛里が衣類一式をプレゼントした可能性は高い。
そうであるならば、二人が自分と同じくお披露目を考えても不思議はない。
ただ心と違ったのは、二人は会の主催者である平田と清隆にもお礼をしようと考えていたこと。
それも分からないではない。心自身、そういう気持ちはある。しかし、クラスの中では比較的会話をする美雨と平田であっても、心は未だに緊張を隠せない。それを踏まえると、異性で早々に他クラスに移っていた清隆にお礼するのは至難の業だ。
そのため、同性で自分の目的にも適う愛里を手始めに、平田、清隆と続くことを考えていた。――具体的な内容はサッパリだったけど……。
「普通に納得して了承したまでは良かったんだけどね。ほら、私って人付き合いそのものに慣れてないじゃない? 上手い段取りなんか立てられるわけもなくて、二人の目的に適う部分もあるから早々に洋介くんにヘルプを求めたの」
心は頷いた。
そこに平田がやってきて言葉を続けた。
「愛里さんに助けを求められた時には驚いたけど、理由を聞けば納得してね。及ばずながら、段取り部分から手伝うことにしたんだ。
王さんと天野さんの目的もあるから、清隆くんを誘うのは確定。……で、日付の問題もあるし、もうこうなったら一度に済ませた方が愛里さんも楽なのは間違いないから、井の頭さんの参加も確定。
誘ってきた三人に応える形で愛里さんも当日は着飾るって言うから、護衛役としてもう少し男手もあった方がいい。ただ、誰でも彼でもってわけにはいかない」
「あぁ……」
再び心は頷いた。敷地内で『ストーカー犯罪』が起こり、その事実が周知されたことは記憶に根強く残っている。被害者は周知されなかったが、モールに飾られているポスターを目にすれば、愛里と結び付けることは非常に容易い。
普段の地味な装いであれば、知らぬ者が愛里と結び付けることは難しい。だが、ひとたび着飾れば、大多数が『愛里』=『雫』と認識するのは間違いないだろう。
そう考えれば、平田が男手を増やそうと考えるのも理解はできる。少なくとも、平田と清隆が誘われた目的を鑑みれば、二人が積極的に『護衛』として振る舞うのもそれはそれで問題があるのだ。かといって、ただでさえ男女比のバランスが悪いのだから、戦えるからといって女子を増やしても、また別種の問題を招く可能性がある。
「そんなわけで、参加する女性陣の顔触れを考慮した上で、護衛役を兼ねて男子を増やす必要に迫られてね。
まず、天野さんの関係から葵くんは確定。ただ、これでも男女比は3:4だ。本音を言えばもう一人男手が欲しい。
それで誰か心当たりがいないか確認したところ、挙がった名前が星之宮クラスの時任克己くんだった。彼は清隆くんや愛里さんと同じグループを構成しているらしくて、愛里さんとしても気楽らしい」
「まあ、最近の綾小路は別行動を取ることが多いんだけどな。……どうも、時任克己だ。話題に挙がったみたいなんで口を挿ませてもらった。
そんなわけで俺も誘われたんだが、生憎とその時点で俺には用事が入ってたんだよな。だから最初は断ろうとも思ったんだが、俺の約束相手にも都合が良いと考え直したんだ」
「その約束相手――坂上クラスの伊吹澪よ。正直、場違い感は自覚してるけど、そこに関しては諦めてちょうだい。私は諦めたわ。
ま、これで武の心得はあるからね。私のことは護衛とでも思ってちょうだい」
平田が説明しているところに、更に別の男女が口を挿んできた。時任克己と伊吹澪だ。
「まあ、こんなわけでね。結局、男女のバランスは変わらなかったから、もう一人男子を探す必要を迫られたんだ」
「で! 白羽の矢が立ったのが俺ってわけよ! おはよう、井の頭ちゃん! 今日はよろしく!」
そして、最後の一人である池寛治が元気に声をかけてきた。
「お、おはよう……」
デリカシーの無さが玉に瑕ではあるが、その分だけ池の人柄はよく知っている。護衛として役に立つかは不明だが、気楽なのは間違いない。――ただ、その押しの強さは心的に勘弁願いたい。
結果的に、女性陣の参加者は愛里、心、美雨、亜真里、澪の五人。男性陣の参加者は平田、清隆、伊織、克己、池の五人。見事に5:5となったわけだ。
まあ、それならそれで事前に連絡を頂きたかったのが心の本音ではあったが、人数の増加自体は普通に予測の付くことではある。プレゼントをもらった美雨と亜真里が自分と同じことを考えてもおかしくはないのだから。
実際にそうなったわけだし、その点で言えば心の『想像不足』の一言に尽きるだろう。そこを突かれると何も言えない。少なくとも、この学校の生徒に求められるのは、そういう部分まで予想しておくことなのだから。
「しっかし、女性陣は華やかだねえ~! ――つーか、俺って雰囲気的に浮いてね……? 恰好もしょべえし、周りはイケメンばっかだし……」
浮かれ気分満開だった池だが、場の面子を見比べて肩を落としていた。
「そんな落ち込むこと? いや、恰好がしょぼいのは否定しないけど、Dクラスの財政状況を鑑みれば仕方のないとこはあるでしょ。んで、イケメンってんなら、アンタも顔立ちはイケメンな方だと思うけど?」
そんな池に対し、澪が呆れ気味に声をかけた。人付き合いは苦手な澪だが、池は見るからに
「え!? マジで!? 伊吹ちゃんから見て俺ってイケメン!?」
ガバリと顔を上げた池が、手を握らんばかりの距離へと一足飛びに近付いた。
「ッ……!? この!」
それに対し、澪は防衛本能が働いた。思わず迎撃行動を取ってしまう。
「おっと!」
しかし、池はそれを軽やかに回避。
「あっぶねえ危ねえ……。そう言えば、武の心得があるって言ってたっけ……」
安全圏に移動したところで冷や汗を流しながら呟いた。
「躱された……? あの状況で……?」
一方、澪も澪で迎撃を躱されたことに驚愕せずにはいられない。
澪の知る池寛治という男子は、『Dクラスのお荷物』、『三バカ――いや、今はもう二バカか……』と評判だ。
しかし、蓋を開けてみればどうだろうか。ただの
「『不良品の集まり』……ね。なるほど、長所も短所に隠されてるってわけだ……」
今の事実を以て、澪はそのように結論付けた。少なくとも、見かけや評判だけで油断していると足を掬われかねない。それを知れただけでも、巻き込まれた甲斐はあった。
澪は獰猛な笑みを浮かべて、池のことを見やるのだった。
人にもよるでしょうが、何か物を頂いたら、それを使ってる部分を見せることで、くれた相手を安心させようとすると思います。
その観点で見ると、心、美雨、亜真里は共通して当て嵌まりそうだな……と。
当初は心と愛里だけの展開で考えてたんですけど、上記の点や、夏休みの残り日数、ストーカーの一件を考慮すると、没にせざるを得ませんでした。
そんなわけでなし崩しに人数が増えていき、そこに互いの人間関係やらを考慮した結果、この組み合わせとなりました。
澪はアレです。断水の一件を契機に克己と裕也間の橋渡しを押し付けられることになり、その最中に巻き込まれた形です。
普通に『澪を介して互いの番号とアドレスを教えたらそれで済む話だろ!』的なツッコミがあるのは否定しませんし、事実、描写してない部分で澪も同様のツッコミを入れました。
ただまあ、双方に相応のしがらみがあるのも事実ですので、理屈じゃないんですよね。いや理屈ではあるんですけど、『面倒な理屈』が関わってきた感じです。
池って三バカの中では普通にイケメンな顔立ちだと思います。
ただ、『自己肯定感』が低い。自己肯定感が低いから自分に自信がなく、だから簡単に他人へ嫉妬する。
原作に比べると、本作の池は前向きになって日々の努力を欠かしてもいませんが、こういう部分はそう簡単には変わりません。
他人から肯定されることで、自己肯定感を高めていくより他にありませんから。
とまあ、ここまで補足を入れておいて何ですが、あくまで今話と次話は心+αに対するフォロー回です。
いや、原作で設定が明らかになるにつれ、『この組み合わせもありじゃね?』と思ったものですから……。
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