ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
一緒のお出かけとは言っても、参加者の大半はポイントに余裕のない茶柱クラスの生徒だ。そのため、ウィンドウショッピングが主になるのは仕方のない部分があった。
まあ、興味のある分野であれば、見ているだけでも楽しいものである。――興味がない、もしくは低いようならお察しだが。
そして、一行が真っ先にやって来たのは衣類の販売店。
人の文化的な生活に欠かせない三要素である衣食住だが、結局はそのどれもがスパンが違うだけで消耗品だ。摩耗、損耗、老朽化に賞味期限は避けられない。
であればこそ、下着や靴下、型落ちの衣服であれば無料販売を行っている時もあり、基本的にポイントに余裕のないDクラスも偶には顔を出さずにはいられない実情がある。たとえファッションに然程の興味はなくとも最低限には顔を出す必要性があるので、特には反対意見も出なかった。
「あれ? 愛里ちゃんに清隆くん? ……違うクラスの友達かな?」
愛里は言うまでもなく、清隆もモールでのモデルを何度か務めたことがある。それもあり、一部のスタッフは気安く接してくるようにもなっていた。
同時にそれは、スタッフが二人の交友関係をある程度把握することにも繋がっている。
「ええ、はい。……すみません。以前に報酬でもらった物ですけど、誕生日プレゼントにあげちゃいました」
スタッフの言葉に、愛里は手慣れた様子で対応する。雫モードなら容易いことだった。
「あ~、やっぱり! ま、あげた物だからその後はそっちの好きにして構わないのが当然だし、そこに何か言うのはお門違いなのも分かってるから心配しないで。そもそも、元は売り物だから誰が着ていてもおかしくないのが普通なんだしね!」
愛里の言葉に、スタッフも気軽な様子で返す。
「しっかし、アレだね! 今日の連れも素材がいいね!」
「でしょう!」
スタッフが顔触れを見回して親指を立てると、愛里も自信満々に同意した。この学校の審査基準にはビジュアルも含まれているようで、方向性の違いはあれ、基本的には顔立ちの良い生徒が多いのだ。
「何だったら、今日も撮ってく?」
「いいんですか? 先生が同行してませんけど……」
「夏休みだからね! 多少は基準も緩くなってるのよ。――それにほら! 今日はいつもと顔触れがだいぶ違う感じだからね! この機会を逃すのは、こっちとしても勘弁願いたいわけよ!」
おそらく、後者の方が本音だろう。
基本、愛里は交友関係が限られており、それはモデルをしにくるときも同様だ。
しかし、顔触れが変わらないというのは、それはそれでマンネリ感を生み出す。刺激が少なくなってくるのだ。
それでも確かな着こなしを示す辺り実力はあるし、店側としても撮って販売促進用のポスターに加工する旨味はある。ツーショットやグループショットも人気だ。――だが、工夫するにも限度があるのも事実なのだ。
ただでさえ
その状況で売り上げの増大を狙わなければならないのだから、その分だけ『奇を衒った方法』が求められるのは道理。『学生をモデルに起用し、それを店のポスターに活用する』なんてのは、その最たるものだろう。
理屈だけなら珍しくもなんともないが、学校を含め敷地内は全て『実力者の育成』のために用意されたわけであるから、それを機能させるには
しかしながら、一般的な学生にとって、その手のモデルというのは縁遠い。あくまでも『ファッション誌の中の登場人物』なのだ。興味を覚えても、実際にチャレンジしようとはしない人物の方が大半であり、中々『自分もやろう』とはならないのが現実である。
そんな状態でここまで来たものだから、高校に入学したからといって一気に変わるわけもない。――それが前提なのだ。
だがその一方、時として一足飛びに環境へと適応する人物が現れるのも道理である。そして、今年の一年生にはそういう人物がいた。
それが
だから他の生徒にも
店側としても、誰でも彼でも使ってはいられない。実績のある人物を頼りたいのが本当のところだろうから尚更だ。
学校側としても、それで本分である学生を蔑ろにされても困る。そんなわけで、基本的には学力基準を定めている。
そんな風に、それぞれの
佐倉愛里――
次点で、そのシステムを店に提案した桔梗と帆波周りの人物か。
世の中において、『実績』とはそれだけ重要だ。
「ってことみたいだけど、皆もそれでいい?」
流石に一存で決められることではないので、愛里は同行者たちに確認を取る。
個々人によって理由は様々だが、結果は是。全員が写真撮影に臨むことになったのだった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「いやあ、いい経験になったぜ! 正直、ポスターを見る度にちょっと羨ましく思ってたんだよな!」
撮影後、ホクホク顔で言ったのは池だった。
池は茶柱クラスを代表する
そんなだから、今まではモデルを申し込んでも学力審査で弾かれていた。
「うん。ちょっと恥ずかしかったけど、いい経験になった」
それは心も同様だ。心もまた、学力・身体能力共に劣等生である。
だから、今回望外の機会に恵まれたことで、心もまた気分を弾ませていた。
「しかし、葵に天野。お前たちはあの服をどこから取り出したんだ?」
その横で、克己が怪訝そうに伊織と亜真里へ問いかけた。
伊織と亜真里もモデルを務めていたが、その一方で『自前の服』を持ち出して店側に確認を取ったりしていた。
「ああ、これか?」
言うなり、伊織はどこからともなく
広げれば一目で分かるが、そこらの服とは一線を隔す、いわゆる『ファンタジー路線』を全面に押し出したかのような服だった。普通に考えて現代社会とは相容れず、しかしだからこそ
「そう、それだ」
そりゃあ伊織も亜真里も手ぶらではない。自前の鞄くらいは持ち込んでいる。折り畳めば鞄にも入るだろうし、持ち運ぶことも出来るだろう。――しかし、二人が取り出した服は、まるでハンガーに掛けてあるかのように真っ直ぐなのだ。
「ただの
伊織は苦笑しながらそう言って、再び服を何処かへとしまった。
「私も伊織君も、一時期は否応なくこの手の物を普段着にしていましたので。その期間の内容が密だったこともあり、今では一般的な服の方に違和感を覚えるようになってしまったんですよね……」
同じく苦笑しながら亜真里が続けた。
「ああ! だからお店の人に似たような服を扱ってないか尋ねてたわけですね?」
ポンと手を打ち美雨が確認すると、伊織も亜真里も頷きで答えた。
「まあ、生憎と返事は『ノー』だったけどな。現代日本では無理もないが……」
「ただ、本社の方に確認と提案はしてくれるとのことでした。新たな商機に繋がるかもしれないとのことで……」
現代日本において、ファンタジー的な服というのは、基本的にはフィクションの中でしかあり得ない。コスプレ的な意味で作られることはあるかもしれないが、まず以て一般流通はしていないだろう。
そんな状況下、二人の服はファンタジー然としていながら、日本人である両名が着ても何ら違和感のないものだった。現代日本の中では浮く恰好かもしれないが、服自体は高レベルで
「えっと、すみません。あとで私にもお二人の服をよく見せてもらってもいいですか? よければ写真も。
私、裁縫や編み物を趣味にしているんですけど、興味を引かれちゃって。時間はかかると思いますけど、自分でも作ってみようかなって……」
小さく手を挙げながら、おずおずと心が言った。
「それが叶うならこっちとしても嬉しい限りだ。流石に長期間の貸し出しは遠慮願うが、見て触って写真に撮るくらいなら構わないさ」
「ありがとうございます!」
伊織の言葉に、心は笑顔を浮かべて礼を言うのだった。
「だったら、次は服飾の素材店に行こうか。見てたら私も興味出てきたし、着たくなってきちゃった」
現代社会と縁遠いが故の需要ということか。愛里もまた二人のファンタジー服に興味を引かれたようだ。
その提案に否はなく、一行は連れ立って素材店に向かう。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「うわあ! やっぱりいいなぁ~!」
素材店に来た心は、目を光らせて店内のあちこちを回っていた。
一言に『素材』と言っても、大きく『天然繊維』と『化学繊維』に分かれ、その中でも
素材ごとに特徴もあるし、メリットやデメリットもまた然り。だからこそ、それを理解した上での使い分けが大切になってくる。
興味の薄い面々にとってはそうそう素材状態に楽しみを見出すことなど出来そうもないが、心にとっては違うようである。
そしてどんな店であれ、客が『自分だけ』ということなどそうはない。
「……あう!?」
「おっと。……大丈夫か?」
である以上、注意が落ちれば他の客とぶつかっても不思議はなかった。
商品に目を輝かせるが余りに、他の客に気付かずぶつかった心は、よろめいたところをぶつかった相手にフォローされた。
「あ、はい。大丈夫です。不注意でぶつかってしまい、すみません。――ひぅっ!?」
流れのままに謝罪した心は、顔を上げたところで改めて相手の顔を見やり、小さく悲鳴を洩らしてしまった。
それを聞き逃さなかったのだろう。その相手――真嶋クラスの鬼頭隼は僅かに顔を歪めた。
「あう、度々すみません」
「いや、いい。顔に驚かれるのは慣れている。……そう、慣れているんだ」
「でも、慣れていたとしても、傷付かないわけじゃないと思うので。本当にすみません」
心は『米つきバッタ』の如く、何度も頭を下げた。
そんな真似をしていれば目立たないわけもなく、気付いた同行者が一人、また一人と近付いてくる。
「鬼頭くん……? これは一体……?」
真っ先にやってきた平田が首を傾げるのも無理はなかった。
心はペコペコと頭を下げているし、鬼頭は見るからに困った表情をしている。
「平田か。元々は彼女が俺にぶつかってな。それに関しては謝罪してくれたから構わないのだが、頭を上げた際に俺の顔に驚いたようで小さく悲鳴を洩らしてな。ずっとこの調子だ」
鬼頭の説明は端的で分かりやすいものだった。
「そうだったのか……。ほら、井の頭さん。謝罪はその辺でストップしようか。逆に鬼頭くんを困らせてるよ」
平田に言われ、漸く心は理性が戻ってきたらしい。反復動作をストップさせた。ぎこちなく頭を上げ、恐る恐ると鬼頭を見やった。
「もう気にしてはいない。むしろ、『同好の士』を見付けられた方が嬉しいくらいだ。
真嶋クラスの鬼頭隼という。似合わないかもしれないが、俺は将来ファッションデザイナーになりたくてな。その勉強目的で、この店には偶に来るんだ。
平田と一緒ということは茶柱クラスだと思うが、名前を伺っても構わないか?」
顔立ちばかりはどうしようもないものの、それでも精一杯に優しい声音で鬼頭は尋ねた。
「あ、はい。茶柱クラスの井の頭心といいます。
私は裁縫や編み物を趣味にしていて、将来はそれで食べていけるようになれたらいいなって思ってます。
私の方はポイントに余裕がないこともあってこの店に来ること自体が久しぶりで、それもあって余計に浮かれてしまいました」
「彼女は先日誕生日を迎えてね。この服はその際に星之宮クラスの佐倉愛里さんが贈った物なんだよ。
で、今日は実際にそれを着てのお披露目ってわけだね」
心のセリフを聞き、鬼頭が僅かに怪訝な表情を浮かべたのを察したのだろう。すかさずに平田が補足を入れた。
「……なるほどな」
納得したように鬼頭は頷いた。
グラビアアイドルと、将来は手芸方面の職に就きたい者の組み合わせだ。この手の店を訪れても不思議はない。
「こうして出会えたのも何かの縁だ。俺のデザインに意見をもらいたいんだがいいだろうか? 現状ではどうしても独学の面が強いし、実際に裁縫を趣味にする者がどう思うか、意見をもらえたらありがたい」
言って、鬼頭はショルダーバッグから一冊のノートを取り出した。
「えっと、じゃあ、どこまで力になれるか分からないけど……」
実際に目の前にノートを出されてしまったら、心としては断る術などない。最低限の予防線を張り、ノートを受け取った心はその中身に目を通した。
男性服女性服を問わず、鬼頭が考えたであろうデザインが何ページにも亘って載っている。
そのデザインを元に、心は頭の中で実際に縫い合わせていく。
「……書き込んでも?」
「構わない」
先ほどまでとは違い、心は端的に問う。その雰囲気は明らかに違っていた。
それに驚きつつも、鬼頭もまた端的に返す。
心の頭の中ではトライ&エラーが繰り返され、その都度に修正ポイントを書き込んでいく。デザインごとに、幾つも、幾つも。
それは一種異常な光景で、だがそれも、彼女が『茶柱クラスの生徒』ということで、逆に説得力を増す要因となった。
そも、清隆や愛里だって元は茶柱クラスだったのだ。それを思えば、この程度が出来てもおかしくはない。そんな気分にもなってくる。
「……えっと、私からはこんなとこです」
「あ、ああ……。感謝する……」
元の雰囲気に戻った心からノートを返され、呆気に取られながらも鬼頭は礼を言って受け取った。
目を通す。明らかに鬼頭とは異なる文字で注意書きが増えている。それは鬼頭をして納得せざるを得ないもので、見事なまでに唸らされた。
と同時に、独学とはいえ自らの未熟さに鬼頭は内心でダメージを受けた。
「私にも見せてもらっていいですか?」
愛里が手のひらを差し出しながら訊いてくる。
「ああ」
鬼頭はその手にノートを乗せ、それを契機として愛里もまた雰囲気を変えた。
愛里もまたペンを手に書き込みを加えていく。
「はい、どうぞ。私からは無難な意見しか書き込めませんでしたけど……」
そう言って、心ほどの時間もかけず、愛里はノートを返してきた。
見やる。確かに無難ではあるが、鬼頭が見逃していた部分でもあり、これまた唸らされた。
端的に言えば、心は作り手としての意見を、愛里は着る者としての意見を伝えてきたことになる。
だがそれだけでも、鬼頭にとっては大いに助かる意見だった。自分なりに気を付けていたつもりだったが、それだけ不足点があった証明だからだ。
「もしよければだが、これからもお願いできないだろうか?」
「それは、はい。こちらからお願いしたいぐらいです。刺激にもなりますので……」
「私からもお願いがあるんですけど、鬼頭くんのデザインを井の頭さんが実際に作って、その上で私に着せてくれませんか。もちろん、可能な限りの支援はしますので……」
「それが叶うなら、俺としても助かる」
「私もです」
そんなわけで、愛里、心、鬼頭による共通項『ファッション』三銃士の構築です。
本作ではクラスの垣根を超えた『同好の士』を構築したいがために、愛里と心をフォローしている実情もあります。
フォローしやすかったのも大きいですが。何せ原作からして『不良品クラス』の所属ですからね。『長所が見えない・隠れている』のも、十分に『不良品』の条件に当て嵌まるでしょう。
ただまあ、原作描写からして、フォローを入れやすいのは明らかに愛里の方なのは否めません。
結果、心は割を食ってた部分もあります。
原作で衣服が無料販売しているかは分かりませんが、本作ではしていることに設定しました。
本文中でも描写しましたが、結局のところ衣服も消耗品ですので。使い続けていれば穴が開いたりもするでしょう。
原作DクラスのようにCPゼロの例だって無くはないでしょうから、そういった生徒に対する救済策は必要でしょう。
で、本作ではそういう実情があるために、学園の生徒であれば頻度に差があれ必ずモールのポスターを目にします。
それが生徒の購買意欲に火を付け、店側の売り上げ促進に繋がる面があるのは否定できません。
何せ、当のモデルが自分たちからは縁遠いファッションモデルじゃなく、『身近な学園生』ですからね。
『自分にもできるんじゃないか?』と思わせ、実際に行動させる要素にもなります。
こんな感じで、本作では敷地内を『生徒の実力と行動次第で可能性が広がる場所』と定義しています。
表向き専門職の養成所や育成教室なんかは限られています。
だけど、中には当然ながら写真店やサイクルショップなんかも存在しますので、生徒の側から希望すれば、実力次第で弟子入りが可能だったりします。プロの技を実地で学べるわけです。
敷地内の店舗は、希望する生徒に対する『技術の継承』を了承した上で店を構えています。
賛否両論はあるでしょうが、こうでもしないと一部の生徒には本当に救いがなさすぎると思いますので……。
というか、学校の謳い文句的に『原作でもこうであってほしい』という願望の表れです。
感想・評価お願いします。