ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第109話:親切も時には迷惑となる。

「ああ、会長。一体何だったんですか、あの雄叫び? ――と、訊いてはみたものの大体の想像は付くんですが……」

 

 突如として、シャワーやトイレが併設された部屋から野太い雄叫びが聞こえてきたのは記憶に新しい。

 だがまあ、プールという環境を鑑みれば大体の想像は付く。男子の声なら『女子の水着姿に興奮』、女子の声なら『男子の水着姿に興奮』。絶対ではないが、これが大凡のパターンだ。

 そんなこともあって、取り敢えずは誰が相手でも一定の成果を見込めるだろう生徒会長の学が様子を見に行ったのだ。一年や二年の場合、学年を盾に取られて上手く捌けない恐れがあるのも一因だ。

 

「ああ、今日は複合パターンだったな」

 

 プールサイドに戻ってきた途端、副会長である南雲雅から投げられた問いに、学は視線を向けて端的に答えを返した。

 

「ああ……」

 

 その答えに、南雲も納得した様子で頷いた。

 必ずしも、男子は男子同士、女子は女子同士でやってくるわけではない。男女混合だって普通に起こり得る。である以上、更衣室で一時的に別れても、着替え終えたら再度合流するのは普通のことだ。それを目撃して、『自分は同性同士なのに』と嫉妬するのも珍しいことではなかった。

 

「しかし、こっちまで聞こえるほど嫉妬に狂うのも珍しいっすね。曲がりなりにもうちの学校の生徒なんですから、割と自制心は利かせるものなんですけど……」

 

 だがその一方で、だからこそ南雲は首を傾げた。

 人間として嫉妬を覚えるのは不思議なことではない。自分に実力のない者は尚更に顕著だろう。

 しかし、言っては何だが、この学校の生徒は大半がポイントに支配されている。自発的にポイントを得るような実力のない生徒ほど、普段は『模範生』であることを心掛ける。せめてマイナスを食らわないようにすることしか、彼ら彼女らには出来ることがないからだ。

 その前提で考えると、如何に嫉妬を覚えたとしても自制を利かせるのが普通なのだ。暴走するにしても、こんな誰の眼に入るか分からない場所で暴走することはない。退学せずに生き残っている以上、その程度の分別は身に着けている。

 

「言ったろう? 複合パターンだったと」

 

 首を傾げる南雲に答えた学は、けれどそれ以上の言葉を続けない。

 その対応から、南雲は疑問をそのままに入口へと視線を向けた。端的に言えば、学が『答える必要を認めていない』ということであり、裏を返せば『見れば分かる』ということになるからだ。

 南雲が視線を向ける先、入り口からは徐々に生徒たちが姿を現す。学と時間差があったのは、シャワーや準備運動などに時間を取られていたからだろう。

 そして、南雲の眼は知人を捉えた。時任克己。先日にモールで出会い、南雲に断水のことを教えてくれた後輩男子だ。

 それだけでなく、克己の周りには四人もの女子がいた。方向性の違いはあれ、誰も彼もが一級どころ。うちの一人はグラビアアイドルの雫――佐倉愛里である。

 

「なるほど」

 

 確かに、見れば分かった。普通に考えて、グラビアアイドルを侍らせているだけでも羨ましいのに、他に三人も一流どころを侍らせているのを目にすれば、そりゃあ場所を問わずに暴走する男子が現れても不思議はない。

 

「よお、克己! お前も来たんだな。相変わらずイイ御身分じゃねえか」

 

 片手を挙げて気安く声をかけた南雲は、ウリウリと片肘を押し付けた。一種のパフォーマンスである。目撃者に対し、『この男子は南雲雅が目を掛けている』と暗に伝えているのだ。

 克己の言う通り、確かに断水が起こったのだ。その事実がある以上、個人としても生徒会役員としても放っておけるわけがない。 

 

「いや、だから……。いいや、訂正するのも面倒臭い。綾小路はどこにいます?」

「ここだ」

 

 溜息を吐き、訂正するのを諦めて、克己は南雲に問いかけた。

 その直後、克己の背後から探し人本人による応えがあった。

 

「うおっ!?」

「清隆くうううぅぅん!」

 

 克己が驚くのと、有栖が清隆にダイブするのは同時だった。

 

「はぁ……」

 

 有栖の行動は清隆にとって想定内だったのだろう。溜息を吐きつつもガッシリとキャッチした。そのまま、清隆は慣れた様子で抱きかかえる。

 

「じゃあ、確かに坂柳は渡したぞ」

「別に頼んではいないんだが……」

「確かに頼まれてはいないが、お前のハーレムメンバーなのは事実だろうが。シッカリと面倒を見ろ」

「そう言われたら否定はできないが……」

 

 清隆に有栖を押し付けた克己は、改めてプール内を見やった。

 前情報通り、授業用のプールよりも広い。レジャー施設ばりに『流れるプール』とか『ウォータースライダー』なんかもあるようだ。

 それだけではなく、所狭しと出店が並んでいる。ホットドッグ、焼きそば、焼きイカ、お好み焼き、カレーライスにラーメン、夏の定番かき氷もある。

 

「ここって本当に一部活用の施設か……?」

 

 その様相に、克己は呆れとも感嘆とも付かない言葉を洩らした。

 

「間違いなく、水泳部が使う施設ではあるな。そのためだけに用意されたかは不明だが……」

 

 克己の自問に答えたのは南雲だった。肩をすくめている辺り、彼も同じ疑問を持っているのだろう。

 

「ま、取り敢えずはついてこい。席に案内するからよ。……三人でいいのか?

 必要以上の混乱を起こされるとこっちとしても困るんでな。自由席ではなく、前以てこっちで案内してるのさ」

 

 克己、ユキ、愛里を見ながら南雲が説明する。『席がなくて食事にありつけません!』なんて事態を防ぐためなのが透けて見える。

 確認してきたのは、有栖と真澄を含めるべきか判断に悩んだからか。

 

「あ、俺も一緒にお願いします!」

 

 横から池が割り込んできた。

 

「……おい」

「なんだよ~。いいだろ~。一人で食ったって虚しいんだよ~。俺だって女子と一緒に飯を食いたいんだよ~」

 

 克己がジト目を向けると、池は克己に縋りついて嘆き始めた。全く以て鬱陶しい。

 

「はぁ……。とのことだが、二人は構わないか?」

「同席するだけならな」

「私も……」

 

 克己がユキと愛里に確認を取ると、二人は頷いた。まあ飲食店でも、必要以上に混雑した場合は見知らぬ誰かと相席になることも無くはない。

 

「あ、私と真澄さんも一緒でお願いします。清隆くんと一緒の席を確保できない以上はそれが安牌です」

 

 清隆におぶさったまま、有栖がそんなことを宣う。

 

「そうなんですか?」

「まあな。生徒会役員は運営側だから、一般生徒とは別にスペースを確保してある。……んじゃ、合計で六人? それとも、待ち合わせとかしてたりするのか?」

 

 おそらく、南雲は澪のことでも想像しているのだろう。出会ったときのことを鑑みれば無理もない。

 

「そうですね。少なくともあと二人。伊吹と、アイツと同じクラスに所属している俺の親戚が」

「オーケー。取り敢えず、十人以上の大席を用意してやるよ。それなら、綾小路や俺がそっちにお邪魔することも可能だしな。――まあ、場合によっては相席を願うこともあるが、その点は了承してくれ」

 

 用意されたテーブルは手軽に持ち運びができるタイプであり、スタッフに陳情すれば他のテーブルとくっ付けることも可能らしい。

 泳いでる最中に知り合いとバッタリ会って食事を御一緒に、なんてことは珍しくもないためだとか。

 だが、毎度毎度それをされるとスタッフの方も面倒だ。そのため、予め人数以上の席を宛がうこともスタッフには許可されているとのこと。もっとも、誰も彼もに許可されるわけではないため、結局ここでも物を言うのは『人脈』という実力だ。

 南雲による先導の下、一行は大席に案内された。

 

「んじゃ、これがお前たちの席札な。こっちはテーブル用。こっちは利用者用。利用者用の方は、誰か一人が首から下げておいてくれ。それが証明となるから、出来る限り紛失しないようにな」

 

 南雲はウエストポーチから席札を取り出して説明した。そのまま、首掛けストラップが付いた方を一行に渡し、もう一方をテーブルの上に用意されたスタンドに差し込む。

 

「じゃあ、こちらは私が預かっておきましょうか。どの道、私は泳げませんし」

 

 言って、渡された席札を有栖が首に掛けた。

 

「あとは、ちょいと写真を撮るから、各自席に着いてくれ。席札は纏めてな」

 

 言われるがまま一行が着席すると、これまたポーチから取り出したタブレットで南雲が写真を撮った。

 

「少人数での効率的な運営を行うため、俺たちも相応に工夫してるんだよ。

 例えばこの席札だが、スタッフごとに持っている番号は固定している。んで、大席に関しても案内できるのは会長か副会長だけだ。

 これで何か問題が起こった場合、その責任は席に案内したスタッフに降りかかる。そうすることで、自分が持ってる番号の席に関しては、否応なく注意を払うことになるって寸法だな。

 同時、一通りの説明をして写真をパシャリとやっておけば、案内された方も逃げられねえし、万が一の予防策にもなる。タチが悪いのになると、無理矢理に席札を交換する可能性もあり得るからな」

 

 説明を受けた一行は、その全員が頷いた。問題点がないではないが、理には適っている。

 タチが悪いのになると、敢えて問題行動を起こしてスタッフの顔を潰す行為に出る輩がいないとは限らない。何せ『スタッフの責任になる』と明言されているのだ。裏を返せば、スタッフのPPやCPにダメージが及ぶ可能性も否定はできない。である以上、自爆戦法に出る生徒がいないとも限らない。

 しかし、それは同時に、『顔を潰されたスタッフ』の恨みを買うことにも繋がる。

 また、基本的にプールに来て泳がない生徒はいない筈だ。有栖みたいなのが例外である。である以上、どれだけ気を付けたって席札が流される可能性は否めない。

 それを拾って届け出る生徒もいるだろうが、中には自分たちの席札とする生徒が出てくる可能性もある筈だ。

 いずれにせよ、こうして写真に撮ることで悪事を働く生徒にも少なくないリスクを負わせていることになる。

 

「ま、言ってもこれ、全部桔梗の提案なんだけどな! お前たちが今着けてるバンドも含めてよ。

 おかげで俺たち生徒会役員も出ずっぱりになっちまったけど、それがなかったらもっと混雑してたんじゃねえかな?」

 

 ハッハッハッ……と南雲は気楽に笑っているが、聞かされた方は困りものだ。

 

「そもそも、当初は29~31の三日間だけの開催予定だったし、一日当たりの人数制限もなかった。

 分かるか? 俺と会長が揃って『問題ない』と通した案件に対し、アイツは真っ向から噛みついて、理路整然と()を指摘して、挙句の果てには覆したんだよ。んなこと出来る一年がどんだけいるかって話だ。

 学力とか身体能力とか、そういう分かりやすい部分に関しちゃあ、まだアズや綾小路の方が上だろうさ。――けどな? こと『人間』って生き物の把握に掛けちゃあ、桔梗の上に出る奴はいねえ。俺や会長だって及ばねえだろう。

 時に理屈で、時に感情を刺激して、そうして他人を操ることなら俺や会長だってできるさ。やろうと思えば、学年規模で動かすことだって出来るだろう。そこに関しては否定する気もねえ。――だがその一方で、それにはどうしたって限度があるのさ。『己の立ち位置』、『己の目線』、そうしたものに縛られる。零れ落ちる存在が現れる。

 しかし桔梗の場合、その範囲が広いのさ。アイツは『他者からの称賛』を得ることを第一にしている。それは不自由なようでいて、その実は凄く自由なのさ。何せ、『称賛の価値』を決めるのはアイツ自身だからだ。

 だから、必要とあれば高みから下りることすら厭わねえ。俺たちの目線からは零れ落ちたような生徒にだって、アイツは目を向ける。手を差し伸べる。価値を見出す。

 そうして目を向けられ、手を引っ張られ、価値を見出された奴の中から、アイツを支える奴が現れる。誰でも彼でもってわけじゃねえが、アズがその一人なのは間違いねえ。

 結果、アズに支えられたことによって、桔梗は落ち着きを取り戻し、身の丈を超えた重みに潰されることなく中学時代を乗り越えた。

 そんな過去があるから、今の桔梗は()()

 

 空席に腰掛け、一行を見やり、南雲は言った。そこには、桔梗に対する確かな敬意が含まれていた。

 

「しかしな? 桔梗が自分自身で言ってたんが、どうにもアイツは視野狭窄に陥りやすいらしい。そして、実際にその兆候は既に表れている。

 高きから低きまで目が届こうと、自分のことは、自分の近くは見えにくいのが道理だ。

 桔梗が強いのは、アズに支えられているからこそだ。それは桔梗自身が認識しているし、アズの方も同様だ。――だが、あの二人には致命的なまでに『認識のすれ違い』がある。

 俺はアズとよく遊ぶようになったからこそ分かる。……分かった。

 アズは、桔梗が思っているほどには強くない。確かに能力は高いさ。――しかし、それだけだ。心の方は、()()()()

 それでも、今までは齟齬が少なかった。何故かと言えば、桔梗の方も心が弱かったからだ。悪く言えば『相互依存』の関係にあったんだ。

 しかし、何が起こったのか、桔梗がそこから抜け出してしまった。結果、互いの関係が崩れつつあり、桔梗はそのことに気付いていない。アズは気付いているようだが、桔梗に告げる様子はない。

 これはお前たちの先輩としての、そしてアイツ等と同じ『生徒会メンバー』としての忠告だ。先日の『予知』の礼とでも思ってくれ」

 

 言うだけ言って、南雲は颯爽とその場を後にした。

 アズや桔梗と違うクラスである池、有栖、真澄の三人はともかく、同じクラスである克己、ユキ、愛里の間には重苦しい雰囲気が漂う。

 

(((いや、厚意はありがたいんですけど、そんなことを『陰キャ』に言われても困るんですが!?)))

 

 三人の心情は、見事なまでに一致していたのだった。




スパロボ主人公にはお決まりのシチュです。

アズは原作からしてメンタルが弱いです。定まれば強いんですけどね。
一方の桔梗は打たれ弱いけど復活も早い『メンタルお化け』です。
正直、噛み合い続けている状況がおかしいんですよね。

まあ、『武装追加』イベントだったり、『後継機乗り換え』イベント的なものの前振りと思っていただければ……。

本作の桔梗は南雲が言った感じです。
一般的な『社会的評価』を基準にしつつも、『最終的な評価は私が決める』スタイル。
社会が『価値無し』と断じても、私が『価値あり』と認めれば価値がある。
掲げるのは『誰にだって価値がある』という理念。
それを通すためにある種の傲慢さを振りかざす一方で、そのための努力を欠かさない勤勉さを併せ持ちます
結果、ゆっくりとでも『信用』と『信頼』の双方でガッチリとキャッチしていき、最終的には非常に強固に結ばれた実力者集団が形成されます。
まあ、あくまでも『理屈の上では』です。

本作における桔梗のそのスタイルって『アズありき』なんですよね。
過去、アズが桔梗の『弱さ』を認識し、その上で『強い』と認めてくれたから、桔梗は救われたわけです。ストレスに潰されずに済んだわけです。
なので予告すると、逆説で今度は桔梗がアズを救う番です。それにより、アズも本当の意味で立ち直るわけですね。
舞台は無論のこと体育祭です。未だ脳内にしか展開されてないのが実情ですけどね。

また、これにより克己たち『陰キャ勢』も本格的にクラスに向き合わざるを得なくなります。

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