ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「え~、今日は先日の一件に関しての報告があります。監視カメラの件です」
朝のホームルーム。教卓の前に立った星之宮先生は、表情を歪めながら口を開いた。
それだけで、トイレに仕掛けられていた物のことであるのは想像がつく。
「結論から言うと、撤去は叶いませんでした。理事長に報告と確認をしたところ、より『上』――日本政府からの指示でもあるそうなんです」
撤去を期待した生徒たち――特に女子――は、期待とは真逆の結果に困惑する。
「大人になるということは、清濁を併せ呑むということでもある。時にはやりたくないこともやらねばならないし、言いたくないことを言わねばならない。子供であれば感情のままに拒否しても許されるが、社会人ともなればそうもいかない。
そして『人の上に立つ』とは、それがより顕著に表れることであり、当校の生徒は『本人がその覚悟を持っており、学校側がその資質を認めればこそ』入学が認められている。少なくとも、その前提の上で登校が運営されているのは事実。
無論、時には断固として拒否することも必要だし、求められる。だがそれは、相応の実力を持っていることが絶対条件。そして現在の諸君にはそれだけの実力がないのもまた然り。強者の世界では弱者の戯言など聞く価値もない。
その一方で、諸君が巧妙に隠された監視カメラを発見したのは事実であり、その実力は認めるところである。団結力も、また。
然るに、それを評価して次回のポイント支給時にポイントを追加配布する。同時に、これは諸君が覚えたであろう不快感への代価でもある。
それでもなお認められず、騒ぎ立てるというのであれば、それはそれで結構。そのような者は日本政府の求めるところではなく、必然として当校にも必要がない。ただ退学してもらうだけだ。
諸君には登校の生徒に相応しい、『実力者』としての振る舞いを希望するものである」
無表情に、星之宮先生は淡々と語る。
「これが理事長からの返答でした。元から定型文が用意されていた辺り、正確には日本政府からの返答なんでしょうが……」
教卓に両手をついた星之宮先生は、俯き加減に告げる。
「マジかよ……」
「だが、分からなくはない。『トイレに監視カメラが仕掛けられていた』。確かにこの事実は不快でしかないが、隠されていることもあり易々と気付けないのも事実。そして気付かないなら、そんなものは無いも同然だ。俺たちが持つ不快感は、気付いたが故のものでもある。
考えてみてくれ。世の中に俺たちが気付いていない、知らされていないことはどれだけあると思う? そして、それ故に平和に過ごせている可能性は?
まして、カメラの角度的に、あくまでも
その一方で、俺たちが今まで学んできた常識・モラル・マナーを対象に考えると、生理的嫌悪感を覚えるのも無理はない。向こうもそれを認知しているから、敢えて公表していないのだろう。
そして、こうして気付いた生徒にも、
多くの生徒が呆気にとられる中、それでも神崎は学校側――日本政府を擁護した。大手企業の代表子息という立場であるが故に、
「そう言われると……」
帆波はその意見に否定できなかった。
実際、入学前の時点でこの学校について分かっていることなど、ほんの一部でしかなかった。壮大な売り文句を心のどこかで怪しいとは思いつつ、惹かれ、その上で入学を決心したのは紛うことなく自分の意思である。
だが実際に入学してみれば、知らされていないことは多かった。いや、正確には今以て知らされていない。その多くは、あくまでも推測したものに過ぎない。しかし推測が正しければ、その多くは
それをどう思うかは人それぞれだろうが、確かに学校は、政府は、設立目的として『将来の日本を背負って立つ若者世代を育成すること』を公言しているのだ。
その前提に立てば、どれだけ厳しい環境だろうと生徒に不満を言う権限はないのである。想像以上に厳しかったというのであれば、それは想像力が足りなかっただけの話でしかない。感情面ではともかく、理屈の上ではそれが通じる土壌が形成されてしまっているのが事実だ。
盗撮と騒ぎ立てたところで、『トイレの盗撮』と聞いて大多数が想像するような
トイレに監視カメラを仕掛けていることを公言すれば多くの者が不快感を得るのは間違いなく、だからこそ巧妙に隠してあり、その上で気付いた者には代価と褒賞と口止めを兼ねてポイントを配布すると言っている。
一方で、これ以上ごねれば退学とも。
そうと知って、尚もごねる必要があるのだろうか? 確かに不快ではある。だがそれは、退学と――将来と引き換えにするほどの価値があるのだろうか? 決して許容できないものなのだろうか?
結果として、1-Bの生徒は全員が折れた。本心がどうあれ、退学を前に屈せざるを得なかった。面従腹背を選択した。
「ゴメンね。個人的には思うところがあるけど、私も生活かかってるし、教師だし、所属組織の意向に従わざるを得ない部分があるの。
許してくれとは言わないし、許してほしいとも思わないし、許さなくてもいい。――ただ、個人ではどうしようもない『現実』があることだけは認めてほしい」
俯き加減で星之宮先生は呟いた。
「取り敢えず、ホームルームはここまでです。皆さんには、これで持ち崩さず、適応してくれることを期待します」
朝のホームルームが終了し、星之宮先生は教室を去っていった。
後に残ったのは、苦い空気だけだった。
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ショックが大きかったが故か不調な生徒が続出した一時限目だったが、それでもどうにか乗り越えた。二時限目からはいくらかマシになり、三時限目には真面目に授業を受けることが可能になっていた。
これもクラスの協調性の高さ故だろう。個人的な不快があってもそれはそれ。周りに――より正確に言うと『ルール』に合わせることが出来る生徒が1-Bには揃っている。
そしてこの場合の『ルール』とは、学校の定めたルールであり、自分たちで定めたルールだ。
それに則るならば、個人の失態が文字通りにクラスの足を引っ張ることになる――可能性が高いのだ。
そうと知っていてメンタルコントロールが出来ない生徒たちではない。協調性が高いというのは、身も蓋もない言い方をすれば『外面を取り繕うのが上手い』ということでもあるのだから。
落ち込んでいたとしても周りには覚らせないことを心掛ける生徒が多く、周りも周りで気付いても敢えて指摘しない
そんな生徒が揃っていることもあり、1-Bの生徒は表向きいつも通りの様子で廊下を移動していた。四時限目は屋内プールで水泳の授業があるからだ。
「水着……。まあ、いいか。基本的に全員がスク水だし……」
ファッションセンスと各々のスタイルが一目瞭然となるのが水着だ。
自身のスタイルにコンプレックスを持つが故に出来れば見学に回りたいアズだったが、そんな理由で見学など出来るわけがない。やれないことはないだろうが、間違いなく評価は下がるだろう。それでクラスの足を引っ張るのも気が引ける。そのため、水着が指定であることを言い訳にして、アズは自分を慰めていた。
実際、泳ぐの自体は嫌いじゃないのだ。単にスタイルを比べられるのが嫌なだけである。比較対象が同年代の相手であれば尚更に。
(クッ……! まさか桔梗より年下に思われるなんて……!)
日本に来て初めての水泳は、桔梗ら同期生のグループに誘われたのがきっかけだった。礼儀もあれば興味もあって参加したアズだったが、その際に周りからは同期生よりも年下に思われたのである。
(何が『親戚のお兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に来たのかい?』……よ! 私は同い年だっての!)
アズは楽しくも不快な過去を思い出した。イライラが募り、思わず顔を横に振る。
「お、おお……!? どうした?」
「何か怒っているようだが?」
その際に髪が当たってしまったらしい。アズ自身も意図せぬツインテールによる攻撃を食らった柴田と神崎が、不思議そうにアズへと問いかける。
「大方、思い出し笑いならぬ思い出し怒りでもしてるんでしょ」
理由を察した桔梗が横から口を挿む。
「思い出し――」
「――怒り?」
「そ。その子が日本に来て初めて泳いだのって、中学の三年時、私を始めとした同期生のグループに誘われたときなのよ。で、プールに向かったわけだけど、公共の施設でしょ? 一緒に行った面々はともかく、周りにいた第三者からは揃いも揃って年下扱いをされちゃったのよ」
首を傾げる神崎と柴田へ、桔梗が事情を説明する。
「……ああ」
「……なるほどな」
事情を聞いた二人はアズの方を見やり、次いで桔梗を見やり、再度アズに視線を戻し、優しい眼差しで納得したように頷いた。
「……なんかムカつく」
理解を得られたのは嬉しいが、それはそれとして怒りを禁じ得ないアズだった。
そんな一幕がありつつ、更衣室前に着いたので男子とは一時解散。
室内に入るやサッと視線を回し、隅っこの方に行ってひっそりと着替える。堂々と着替えてなどいられない。桔梗に帆波、フォルテを始め、クラスにはスタイルの良い女子が多過ぎるのだ。アレらといっしょに着替えていては、ダメージを受けるのはこちらである。
幸いにして、桔梗も帆波も外面がいい。自然か演技かの違いはあれ、揃って人気者だ。必然として周囲には人が集まり、向こうもアズばかりを気にしてはいられない。
フォルテも同様。流石に二人ほどじゃないが、気さくな態度で男女問わず人気を博している。
チラリと見やって、上手く距離を取れたことに安堵の息を吐く。
『ふぅ……』
そして、それが重なった。
横を見れば、そこには同じくクラスメイトの姫野ユキがいた。どうやら、人気者を気にかける余り気配に気付かなかったようだ。まあ、アズとて人間なのだからそんなこともある。
「……おっす」
「……うん」
思わず互いに顔を見合わせて、やがてそれだけを言ってモソモソと着替え始めた。
「てっきり、セインクラウスはあっち側だと思ってたが?」
「仲がいいのは否定しないけどね。それとこれとは話が別。桔梗も帆波もフォルテも、揃いも揃ってあのスタイルの良さ……! 一体何なの……!? 本当に同い年……!?」
質問されたので、アズは素直に答えた。仲がいいからと言って、決して不満を持たないわけではないのだ。紛うことなき嫉妬が吐き出される。
「ふ~ん。そうやって言えるんだ」
「姫野だって、前に言ってたじゃん」
感心したように呟くユキに対し、アズは会議室でのことを指摘する。
「アレは……どうかしてたんだよ。本来の私は、自分から積極的に意見や主張をするタイプじゃないんだ。むしろ、自分の考えを曲げてでも、周囲の空気を壊さないよう他人の意見に合わせるタイプだよ」
「分かるけど、それってストレス溜まらない?」
「すっごく溜まる」
アズの質問に、ユキは間髪入れずに答えた。
「でも仕方ないじゃん? 出る杭は打たれる。いくら正しいと思っても、周囲の空気を無視して自分の色を出し過ぎると、結局は排斥されて居場所を失うんだよ。……今朝、それを再確認したばっかじゃん?」
「ま、そうだけどね。――でも、自分の色を出せる相手は見付けといた方がいいよ? でないと、排斥されることはなくても潰れることになる」
「それも御尤も。でも、だからってそうすんなりと見付けられるものでもないのが現実だからね。――ああ、そっか……。なら、アンタがその相手になってよ。不思議だけど、思えばアンタには既にこうして素を見せてるんだし、これから別の相手を探すのも面倒だ」
「私? 別にいいけど……。でも、じゃあ、これからは友人ってことで、私のことは名前で呼んで。私も名前で呼ぶから」
「ま、仕方ないか……。よろしく、アズ」
「うん。よろしく、ユキ」
着替え終えたのは、二人揃って同タイミングだった。
二人揃ってプールに向かうと、既に多くの男子がいた。当然の如く男子の方が着替えるのは早かったらしい。
それを横目に適当な場所に陣取る。
「よっす! これまた珍しい組み合わせだなぁ~」
「アズと姫野か。髪型もあるのだろうが、そうしているとまるで姉妹だな」
わざわざ近付いて話しかけてきたのは、柴田と神崎だった。この二人に関しては、もはやニコイチな感がある。
「勘弁してくれよ。髪型が同じだけで姉妹扱いされたんじゃ堪ったもんじゃない」
神崎の言葉に対し、ユキは実に嫌そうな表情で答えた。
「そうか、それはすまなかったな。だが、お前たちがお似合いだというのは素直な感想だ。そこに関しては受け取ってくれると嬉しい」
「ったく……。神崎ってタラシかよ? 平気でそんなことを宣うもんだからタチが悪い。演技で言ってるんならまだしも、素で言ってるようだから尚更タチが悪い」
「心外ではあるが、その評価についてはありがたく受け取っておくとしよう。俺を
「メンタル鬼強かよ……」
神崎とユキの間で、コミカルなやり取りが交わされていた。
そうこうしている内に担当の教師がやってきた。集合がかかる。
「見学者は一人もなしか、珍しいな……」
生徒を見渡して教師がポツリと呟いた。
「そこまで珍しいものですか?」
「まあ、入学初めのこの時期は特に顕著だな。――ほう? なるほど、アズ・セインクラウスはこのクラスだったか。どいつだ?」
手にしたボードを眺めながら教師が発言した。おそらくはクラス名簿でも挟まれているのだろう。
「私ですけど」
アズは挙手をして応える。
「お前がそうか。お前のことは教師の間でも話題になっている。部活動荒らしをしているようだが、水泳部に顔を出す気はあるか?」
「つもりではあります」
「そうか。俺は水泳部の顧問も務めているからな。楽しみにしておく」
部活荒らしを咎めることもなく、教師はそれで済ませた。
「準備体操をしたあと、各自には軽く流してもらう。その後は競争だ。優秀なタイムを出した生徒には、最低でも三千ポイントをプレゼントしよう。無論、タイム次第ではもっとくれてやっても構わん」
教師のその言葉に、自信のある生徒は歓声を上げた。
「ただし、不出来なタイムだった場合には放課後に補習を受けさせるから覚悟しろよ。補習が嫌なら、精々頑張ることだ」
だが直後のこの言葉で、自信のない生徒は悲鳴を上げた。
「質問ですが、予めタイムに関して宣告はしないのですか?」
「いい質問だな。結論から言うと、しない。事前に宣告してしまえば、それに胡坐をかく生徒がいるかもしれんのでな。
実力を隠すことを悪いとは言わない。『能ある鷹は爪を隠す』とも言うしな。
だが、この学校ではそれをしたところで得などない。少なくとも、学校側から評価を得られることなどない。それは肝に銘じておけ」
忠告とも取れる言葉を受け、生徒たちは準備体操を始めた。
その後は五十メートルほど流して泳ぐよう、指示が下った。泳げない生徒は底に足を着けてもよしとのこと。該当生徒は安堵する一方で落ち込んでいた。半ば補習が確定しているからだろう。
そして流しが終わり競争が行われ、互いにとっては当然の、大半にとっては意表を突く、アズとフォルテによるデッドヒートが繰り広げられた。
「なんと……!?」
見守っていた教師も驚いている。
それは、両名の叩き出したタイムもそうだが、入学早々から名前を売っているアズではなく、無名のフォルテが勝利したのも一因だろう。
「負けた……」
「ま、N.I.N.J.Aとしては、そう簡単には運動で負けてられないよね……!」
悔し気にアズが呟く一方で、フォルテは余裕の表情だ。
常日頃からN.I.N.J.Aを自称して止まないフォルテの、その身体能力の高さがクラスで明らかになった瞬間だった。
スパロボから登場させているアズとフォルテですが、本作では総合的には『アズの方が優秀』と位置付けしています。
両者が登場する作品は、同じスパロボでもアズは『30』、フォルテは『Y』と異なっているため単純比較は出来ないのですが、フォルテの方が未熟さを強調している場面や設定が多く見受けられるのが一因です。
あと、固有スキルやらエースボーナスやらでの強化具合と、男主人公との差もあります。
アズの場合、男主人公のエッジと能力値的な差はありません。違いは精々、主人公にしたかどうかで固有スキルが強化されるかどうかだけです。
最初は『???』と表記され、その際は『気力140以上で発動し、全ての能力値が+5、拠ダメージ1.1倍』となってます。
主人公時にはイベントで技能が強化されて『ギフト』名義となり、『気力151以上で最大効果となり、全能力+10、与ダメ1.15倍となる』と変更されます。
エースボーナスが『気力130以上で与ダメ1.1倍、移動力+1』です。
戦闘に直接関係しない部分だと、『16歳で、A機関の被験体の一人で、認識番号1054、コード:AZ』という設定もあります。
エッジは『21歳で、A機関の被験体の一人で、認識番号1542、コード:EDGE』ですね。
原作では、A期間で行われていたのは『機動兵器のパイロットとしての訓練』と位置付けられていますが、本作では『よう実』に合わせてその部分を変えています。コード:AZの設定を拡大解釈した結果でもあります。
身も蓋もなく言ってしまえば、『ホワイトルームみたいな施設が他にあってもいいだろう』ということですね。
一方のフォルテは、明確に男主人公のクロスより能力値が劣っています。
初期保有の固有スキル:N.I.N.J.Aは、『気力150以上で最大効果となり、全ての能力値が+10、与ダメ1.2倍』という効果です。
エースボーナスでN.I.N.J.Aマスターに強化され、こちらは『気力150以上で最大効果となり、全ての能力値が+15、与ダメが1.3倍、移動力+2』というものです。
ただ、こちらは30組と違い、サブ主人公時でもキチンとN.I.N.J.Aマスターに強化されます。まあ、片やイベントによる強化、片やエースボーナスによる強化なので、強化されない方がおかしいとも言えますが……。
また、N.I.N.J.Aの設定自体が、『日本古来の忍者を源流とする特殊戦闘員』となっています。
N.I.N.J.Aの属する組織である特戦隠密は、『諜報や破壊活動、要人の警護に従事している』という設定もあることから、本作では戦闘能力の方に重きを置いています。
以上を鑑みた結果、本作では総合能力ではアズに劣れど、身体能力や戦闘能力に関してはフォルテの方が優秀で、爆発力もまた同様としています。