ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第114話:パンドラの箱。

「あら、貴方たちも来ていたのね?」

 

 克己たちの座るテーブルに、新たに五人の生徒が案内されてきた。うちの一人が、克己たちを見るなり声を出した。

 

「堀北ちゃんに、幸村に、健に外村に森ちゃん……? これまた妙な組み合わせだな……」

 

 声を出したのは堀北鈴音。連れ立っているのは幸村輝彦、須藤健、外村秀雄に森寧々と、全員が茶柱クラスの生徒だった。

 この人数だからこそ、同じ一年同士、かつ池という共通点もあることから克己たちのテーブルに案内されてきたのだろう。

 

「ンだよ。寛治も来てたのか。だったら誘えばいいじゃねーか」

 

 池の姿を確認した須藤が鼻を鳴らした。

 

「いやいやいや! 俺はここに遊びに来てるの! お前を誘ったら遊びを通り越して訓練になっちまうじゃねーか!」

 

 そんな須藤のセリフに、池は慌てた様子で反論する。

 

「そんなことは……あるかもしれねえな」

 

 否定しようとして出来なかったのだろう。須藤は渋々といった様子で認めた。

 

「僕と森は堀北に肉体改造をお願いしていてな。時期的に見て、二学期は体育祭があってもおかしくはない。それへの対処でもある。期間的な問題もあって、正直どこまで効果が出るかは分からないが、せめて個人種目で最下位を取ることだけは避けたいのが本音だ」

「俺と外村は定期的に堀北に勉強を教えてもらってんだよ。ンで、幸村たちとブッキングしちまった感じだ」

「私としては、()()()()()()()()()()じゃなく、()()()()()()()来てるようにしか思えないのだけどね……」

 

 幸村と須藤が説明すると、鈴音は須藤と外村にジト目を向けながらそう言った。呆れの溜息を隠そうともしていない。

 

「堀北殿に迷惑を掛けているのは重々承知でござるが、健全男子たる者、『女子の手料理』には抗えない魅力を感じて止まないのでござる。ぶっちゃけ、そのくらいのご褒美でもないと、苦手な勉強に取り組む気概が湧かないのでござるよ」

 

 対し、外村は悪びれもせずにそう言った。

 

「まあ、いいのだけどね。その程度で勉強に向き合ってもらえるのなら、クラスの足を引っ張らなくなるのなら、代価としては安いものよ」

「そんな折に、プール開放の情報をキャッチしてね。話題に出したら、諸々を兼ねて足を運ぶことになったわけ。

 てかさ! この面子、私以外の誰一人としてプール開きの情報をキャッチしてなかったのよ! 信じられなくない!?」

 

 寧々が同意を求めるかのように池へと詰め寄った。

 

「いや~、でも仕方ねえと思うよ。前提として、うちのクラスは金が無いからな。必然、行動範囲と行動機会は限られる。大半の生徒は自室に閉じ籠ってんじゃねえかな。

 その上で、健はバスケバカだから、バスケ部の先輩から情報を仕入れない限り、知りようがないだろ。

 外村は、部屋に閉じ籠ってアニメ鑑賞とか、積み本の消化とか、そうでなきゃ図書館でのラノベ読書くらいしか選択肢がねえと思うし……。

 交流関係に関しては、幸村も堀北ちゃんも高が知れてる筈だから、やっぱり得る機会がない。――いやまあ、堀北ちゃんの場合、お兄さんや綾小路から連絡が回っててもおかしくはねえと思うけどさ」

 

 池の見解は至極妥当なものだった。結局のところ、物を言うのはお金である。お金がないのなら選択肢自体が限られる。

 逆転の機会を求めてアンテナを伸ばすのも一つの手なら、精神安寧のためにアンテナを閉じるのも一つの手だろう。どちらが正しいというものでもない。

 少なくとも、余計な情報が入ってこなければ、それによって振り回されることもないし、一喜一憂することもないのだから。常にそれなら問題あるだろうが、夏休み期間中だけなら一考の余地ありだろう。

 まあ、自発的に情報を得ようとしなくとも、情報の方からやってくる場合があるのも否定はできない。

 特に鈴音の場合、兄は生徒会長で、自身は生徒会役員である清隆のハーレムに属している。これで情報が回ってこないのもおかしいと言えた。確かに、内容次第では回ってくる筈もないが、プール開きについてであれば秘匿する必要などない。

 

「仕方ないじゃない。確かに二人から連絡は来てたけど、二人ともスタッフとして詰めなきゃならないから、私がプールに行ったところで時間なんか取れる筈がないもの。

 なら行く意味なんかないし、その時点で記憶から抹消したわよ」

 

 今度は鈴音が悪びれもせずにそう言った。

 

「これだもん……」

 

 寧々は処置なしとばかりに肩をすくめる。気持ちは分からないではない。

 

「でも、こうして一緒に来てんだから、やっぱ堀北ちゃんは以前よりも性格が丸くなってるよ」

「それはそうだけどね。私としては、もっとこう、外にアンテナ伸ばしてほしいと思うわけよ。クラスを率いる立場にある人が『情報弱者』ってヤバくない?」

 

 寧々の危惧も尤もと言えた。

 こんな大々的なイベントだ。上手く使えばクラス内の交友関係を縮める役に立つのは否めない。現状、クラスリーダーの補佐役に就いている鈴音は、そういう部分まで気を回して然るべきとも言える。

 

「ま、追々でいいと思うぜ。そういうのって、一朝一夕に求めるものでもねえだろ。今でも、そういう部分なら平田や松下ちゃんが機能するしな」

 

 そして、その二人が揃って何の提案もクラスに挙げていない以上、必要以上に気にする必要はないだろう。

 

「結局、無料でプールを利用出来たって、ポイントがなきゃあ飯だって食えねえんだからさ。俺は連日ここに来てるけど、先輩たちが屋台で提供してる格安メニューも満足に買えないのって惨めなもんだぜ」

 

 池の場合、その人脈があるから、他クラスの生徒――フォルテ、美紀、清隆――からポイントを恵んでもらんだりも少なくはない。だからどうにかなっている部分もある。――しかし、それを他のクラスメイトにも求めるのは酷だろう。

 

「そう言われたら否定はできないけどさ」

 

 現在、クラス内で行われていたポイントの貸し借りは、平田たちが間に立つことで清算が済んでいる。だから、必ずしも手持ちがゼロという生徒は少ないだろう。

 しかし、その清算自体はバカンスからの帰還直後に行われ、既に二週間近くが経っている。

 そこに『長い間禁欲生活を強いられていた』という事実と『夏休み』という現状が合体すれば、そうして得たポイントを既に使い切ってしまった生徒がいてもおかしくはないだろう。

 何せ、来月になれば特別試験で得たポイントが支給されるのは確定しているのだから、尚更我慢が利かなくなっても不思議はない。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 池が新たにやってきた自クラスの生徒と話し込んでいる間、微妙な雰囲気を醸し出しているのは克己と裕也の親戚同士だった。

 軽い挨拶を交わした後は、ひたすらに沈黙を保っている。

 

「いや、アンタらさ。会社の上司や親の命令でお見合いやってるわけじゃないんだから、もっと話しなさいよ。

『よお』、『先日は助かった』、『ああ』で終わらせられちゃあ、この場を用意するために奔走させられた私がバカみたいじゃないの」

 

 そんな二人に対し呆れた眼差しを向け、その一方で不満の表情を浮かべながらツッコミを入れたのは澪だ。

 

「ああ、悪い。頭では分かってるんだけどな」

「いざ言葉にしようとすると、どうしても詰まっちまうんだよ」

 

 澪に対しては言葉を返す二人だが、やはりお互いの間での会話はない。

 

「あ~、もういい。お前ら、取り敢えず一緒に泳いでこい。言葉じゃなく、行動で会話してこい。正味な話、同じ場所で沈黙保たれるとこっちの方が我慢できん」

 

 シッ! シッ! と、まるで虫や犬でも追い払うかのようにユキが手を振る。

 

「行くか」

「ああ」

 

 その言い分を否定できなかったのだろう。克己と裕也は連れ立ってプールへと向かった。

 その様子を見るに、互いでの会話が苦手なだけで、一緒に行動するのは問題ないように見えた。

 

「難儀なもんだ。これだから、余計な人間関係ってのは苦手なんだよな……」

 

 二人が去っていくのを見送ったユキは、疲れたように溜息を吐いた。

 

「あら? でも、克己くんを『陰キャの集い』とやらに誘ったのは姫野さんなのでしょう?」

「ああ。だからこうして最低限には面倒見てるんだよ。アイツを受け入れてなきゃ、私だってさっきみたいな真似はしないさ」

「……ふむ。改めて考えてみると、姫野さんの好む人間関係はとても不思議ですね」

「不思議? 何が?」

 

 有栖の指摘に、ユキは不思議そうに小首を傾げた。

 

「気付いていてその態度なのか、或いは本当に気付いていないのかは分かりませんが、傾向があるんですよ。まあ、私が知る姫野さんの交友関係は限られてますので、あくまでもそれに当て嵌めればになりますけどね」

「ふ~ん。興味深いな、聞かせてくれよ」

「まずは清隆くんですね。彼に対しては言うまでもありません。

 彼は育った環境の問題もあって、他者に対する興味関心は高い一方で、『個』に対する興味関心は希薄です。

 それも一部の尽力によりどうにかこうにかマシになってきてはいるようですが、長年をかけて培われた価値観が一朝一夕でどうにかなる筈もありません。今の彼は、『一般人』になるべく必死でもがいている最中です」

 

 ユキの質問に対し、有栖はまず清隆について言及した。

 

「次に佐倉さん。彼女は清隆くんとは別ベクトルですね。友達や彼氏という『個』への興味関心は高いですが、それ以外への興味関心は希薄です。

 そもそもにして、彼女の行動は一々飛躍し過ぎなんですよ。友達がほしい。→分かります。このままじゃいけない。→分かります。自分が変わらないといけない。→分かります。グラビアアイドルになりました。→分かりません。

 いや、普通に考えて、そこはクラスメイトにアタックするべきでしょう? 友達がほしいなら尚更です。なのに彼女はそれをしなかった。その選択肢を選ばなかった。

 それは何故か? 簡単です。その時点で、佐倉さんはクラスメイトに見切りを付けていたからですよ。『自分の友達に相応しい存在はいない』……とね。

 或いは、一人ずつぶつかっていけば友達になってくれる人もいたかもしれません。ですが、その選択肢を取らなかった時点で、彼女が『労力と釣り合わない』と判断した証左に他なりません。

 だから、彼女は『自身の変化』に重きを置いた選択肢を取った。『学校とは別の環境』に友達を求めた。……そう考えれば辻褄は合います。

 実際、雫のファンに対しては『ファン』という認識です。敢えてそこから『友達』を探そうともしていません。中には、そうなってくれる人がいるかもしれないのにね」

 

 次には愛里に対し。

 

「そして克己くん。彼もまた、基本的には他人と一線を引いています。必要以上に踏み込むことを好まず、踏み込まれることを好みません。

 その家職故でしょうか。明確に他者を区分けしようとしているフシがあります。『身内』、『依頼人』、『その他』という感じですね」

 

 克己へと続き。

 

「最後に、私も数に入れさせてもらいましょうか。清隆くんのおかげで多少はマシになりましたが、それでも根本的に他人を『駒』と定義していることは変わりません。――ただ、真澄さんのことはシッカリと『友人』だと思ってますし、清隆くんは『愛する人』です」

 

 自分を加えた。

 

「分かりますか? 貴方が積極的に交友関係を維持している相手は、自覚の有無はともかく、誰も彼もが『自分の中で他者を明確に区分けしている』人物に限られるんですよ。

 では、どうして貴方はそんな相手とばかり一緒にいるのか? ――私なりの見解があるのですが、聞きたいですか?」

 

 フフフ……と、人を食ったような笑みを浮かべながら、有栖はユキへと問いかけた。

 

「ああ、聞かせてくれ。ここまで来たら『毒を食らわば皿まで』だ」

 

 それに対し、ユキは悩むことなく言葉を返した。

 

「では、お答えしましょう。

 姫野さん。貴方はきっと、『自分に価値がない』と思っているのですよ。それも、相当に根強くね。

 だけど、心のどこかではそれを否定したがっている。だから付き合う相手を厳選している。そうして選んだ相手の『特別』に納まることで、先の評価を覆そうとしているのです」

 

 有栖にそう言われた瞬間だった。

 ユキの脳内に、一瞬だけ妙な光景が浮かんだ。それは全体が真っ白な部屋。子供もいれば大人もいる。だが、その誰も彼もが無機質な目を浮かべている。

 しかし、その『無機質さ』にも違いがあった。大人の方は、まるでモルモットを見るかのような眼差しであり、子供の方は、自我の希薄さを想起させた。

 僅かに一瞬だけ浮かんだ光景にユキは思わず考え込み――次の瞬間には必死に否定した。

 こんな光景を私は知らない。こんな光景を知る筈がない。知っていていい筈がない。

 だけど。

 ああ、だけど。

 どうして、子供のうちの一人にどうしようもないほどの既視感を覚えてしまうのだろうか?

 どうして、綾小路清隆を連想してしまうのだろうか?

 どうして、人付き合いが苦手な自分は、綾小路清隆を無理なく受け入れてしまったのだろうか?

 どうして、綾小路清隆が語った過去の断片を、自分は普通に受け止めてしまったのだろうか?

 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?

 無数にも思える自問がユキを襲い、その度にユキは『整合性のある答え』を導き出してしまう。

 

「あ、ああ、あああ、あああああああああああああああああ……っ!?」

 

 それは、姫野ユキという()()に過負荷をかけるには十分過ぎた。

 ユキは両手で頭を押さえて絶叫し、そのままバタリとテーブルに倒れ込んだ。

 

「ちょっと、姫野さん!? 姫野さん!?」

 

 有栖は驚愕の表情を浮かべながらも、その明晰な頭脳を以てユキの状態を観察する。

 姫野ユキは気絶していた。

 気絶で済んでいる、と言うべきなのだろうか。

 本人の希望もあったとはいえ、自身の言葉が目の前で見知った相手を気絶に追い込んだ事実に、有栖は安堵しながらも衝撃を受けていた。

 程なくして救急車が呼ばれ、ユキは病院へ緊急搬送されるのだった。




本作のユキは、当初から『魔の四期生』の脱落者という想定であり、断片的な知識からユキ=雪と設定していました。
これは、ユキと雪の妹と思われる桜子に『ダウナー』、『律義な一面がある』、『学校からの評価に目立つ部分はない』という共通点があり、その上で『ユキの評価は桜子の評価を全体的に一回りから二回り大きくした感じ』というのが大きいです。
また、原作でユキが清隆に対して遠慮のない態度を取っているのも、ユキ=雪説を推し進めた一因です。
白石飛鳥=雪説があるのは知っていますが、だからこそ意表を突く感じで面白いかなと思った次第です。
というか、一、二年生のガイドブックには白石飛鳥の名前が坂柳クラスの生徒リストに欠片も載ってないんですよね。
そういう意味では、飛鳥って本当に『ぽっと出』のキャラだと思わざるを得ないです。

二年生編のガイドブックによると、

学力:B-(63)、社会貢献性:C+(58)、機転思考力:C+(58)、身体能力:C(51)、総合力:C+(57)なのがユキ。
学力:C-(44)、社会貢献性:D+(40)、機転思考力:D+(38)、身体能力:D+(40)、総合力:C-(41)なのが桜子です。

現在のユキの人格は、『清隆との再会後、ショックの余りに精神崩壊し、それでも雪の中に残った諸々を掻き集めて後天的に作られた人格』という想定であり、今回、有栖から直接的に『姫野ユキという人物について』を指摘されたことで外装が剥がれた感じです。
これは清隆が同じクラスだったり、清隆が断片的にとはいえ『ホワイトルーム』のことをクラスメイトの前で公に口にしていたことも大きいです。
話の中で描写した通り、否定しようにも自分の中で『整合性が取れてしまった』からですね。

あと、医療機関のベッドのお世話になるキャラが出てくるのは『スパロボのお約束』でもありますからね。
今回はそちらの意味でもユキに白羽の矢が立ちました。
これにて夏休み編は終了です。

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