ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
第115話:体育祭発表!
九月を迎え二学期が始まった。
生徒の大半は夏休みの終わりを嘆いているわけだが、星之宮クラスはそれとはまた別の理由で暗澹とした空気の中にあった。
クラスメイトである姫野ユキが入院しているからだ。
夏休み終了を迎える最終四日間、学校は普段水泳部だけに使わせているプールを一般生徒に開放した。
姫野ユキは、30日、佐倉愛里や時任克己といった友人たちと共に来訪。普通にプールで遊び、先輩が提供する屋台の食事を食べ、同じく一緒に訪れていた坂柳有栖と世間話に興じている最中のことであった。
ユキは突如として頭を押さえながら絶叫。そのまま気絶した。救急車が呼ばれて病院に緊急搬送され入院となったわけだが、今以て目を覚まさないらしい。
状況からして、有栖の言葉が事態を起こした可能性は否定できない。然るに、教師や生徒会が、有栖を含め同席していた者たちにも話を聞いた。
結論は、『坂柳有栖は確かに厳しいことを言っていたが、一般的に見て、気絶を齎すような内容ではない』というものだった。
とはいえ、この状況でそっくりそのまま信じられるわけがないのも道理。それは学校側も理解しているようで、クラスメイトを始め、ある程度以上ユキと関係のある希望者には聴取した内容を確認する権利が与えられた。
そして実際に確認した結果、
分かりやすい『気持ちのやり場』がないことが、星之宮クラスの空気を重くしていた。雰囲気を暗くしていた。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
昼休みを終えた五、六時間目の授業は、例外的にホームルームになっている。
担任である星之宮知恵は、懸命に空気に抗いながら口を開いた。
「はい! 今日から改めて授業が始まったわけだけど、二学期は九月から十月初頭までの一ヶ月間、時間割が変更になるよ! これは、体育祭に向けて体育の授業が増えるためだね!
これから期間中に使う新しい時間割と体育祭の関連資料を配るから、前から後ろに回していってね!」
知恵の気遣いに応えるためだろう。クラスの一部からは悲鳴と歓声が上がった。
歓声を上げたのは、柴田など運動の得意な生徒。悲鳴を上げたのは、千尋や浜口などの運動が苦手な生徒だ。
「体育祭の詳細については学校のホームページでも公開されているから、必要があったら参照してね!」
「先生、早速端末でホームページを確認してもいいですか?」
「う~ん、いいよ。ただし、ホームページ以外は開かないようにね! 関係ないページを開いているようなら、容赦なくペナルティを与えるからね! フリじゃないよ!」
知恵の言葉に生徒の一部から端末の利用願いが出され、知恵は笑顔でそれを許可。
生徒たちは、或いは時間割を、或いは紙資料を、或いは端末でホームページを確認し始める。
「やっぱこの学校でも体育祭はチーム対抗なんだね……」
ポツリと呟いたアズの感想は、教室内が静まり返っているからだろう、思いの外強く響いた。
「はい! 今アズちゃんが言ったように、今回の体育祭は全学年を二つの組に分けて勝負する方式を採用しています! 紅組対白組! 全っ然珍しくないね! せめてもう少し色を捻れば面白みもあるのにさ!」
アズに続くように、知恵の口から余りにもぶっちゃけた感想が飛んだ。確かに、歌合戦然り、色を紅と白に分けるのは珍しくない。
「いやあ、でも変に捻られて混乱するよりはよっぽどいいっすよ! ドドメチーム! とか言われたら、盛り上がるもんも盛り上がらなくなるっすからね!」
「封神演義かよ!」
知恵の言葉に柴田が返せば、一部からツッコミの声が上がったが、首を傾げている面々も少なくはなかった。
それも無理はない。柴田が言っているのは原典ではなくコミック版であり、それとて一同の年齢を鑑みれば一昔前の作品なのだ。むしろ、知らない方が普通とすら言っていい。柴田を始めとする一部生徒が言及していることからして全く知る機会がないわけではないだろうが、作品を知っても手を伸ばすかは人ぞれぞれだろう。
「ごっふ……! 先生、今の皆のやり取りで地味にダメージを受けちゃったよ……。ジェネレーションギャップって残酷だね……。そっか……。皆くらいの年齢だと、フジリュー版『封神演義』は知らない子の方が多いんだね……。
フ、フフ……。どれだけ人気作で名作でも、御長寿作品でなければ、こうして人の記憶からは失われていくんだね……」
そして、地味に知恵はダメージを受けていた。教壇に俯き呟くその声音は、実に切実な響きを孕んでいる。
教師としてはまだ若い方の知恵だが、それでも高校生だったのは11年前だ。知恵なりに生徒に溶け込むように頑張っているつもりだが、現在一年生である受け持ち生徒たちとギャップが生まれるのは仕方のない部分があった。
「いや、落ち込むよりも先に説明を続けてくださいよ。時間は有限なんですから」
「櫛田さんが冷たい……」
ヨヨヨ……と泣き真似をする辺り、これで知恵には結構な余裕があるようだった。
「いいもん、いいもん。ジェネレーションギャップで傷付くのなんて慣れっこだもん!
はい。そんなわけで私たちAクラスはDクラス共々紅組への配属になります。当然、BクラスとCクラスは白組です。
競技は全員参加種目と推薦参加種目に分かれてるよ。種目に関しては各々資料を確認してもらうとして、それぞれの種目は順位に応じて得点が振り分けられるからね。
まず全員参加種目。これは個人戦と団体戦に分かれるわけだけど、個人戦は一位が15点、二位が12点、三位が10点、四位が8点、五位以下は1点ずつ下がってくよ。団体戦は、勝利した組に500点だね。
次に推薦参加種目。こっちは一位が50点、二位が30点、三位が15点、四位が10点、五位以下は2点ずつ下がっていくよ。――ただし、最終競技である『三学年合同1200メートルリレー』だけは得点が三倍になるから注意してね。
今回の体育祭は、この得点を如何にして稼ぐかが重要だよ」
地味に自虐を行いつつ、知恵は体育祭について説明していく。
「紅と白、負けた方の組は全学年が等しく-100CPされるからね。
ただし、今回の体育祭は『チーム戦』の要素もあるけど、『クラス闘争』の要素もキチンとあります! 各学年、総合得点で一位を取ったクラスは+50CP、二位のクラスはCP変動なし、三位のクラスは-50CP、四位のクラスは-100CPとなってるよ!
早い話、『チーム協力』と『クラス闘争』の駆け引きが重要だよ!」
「負けた組はCPがマイナスされる一方で、勝った組はCPがプラスされるわけではないのか……。CPが欲しければ、学年別の総合得点で一位を目指すしかない……と。
これはたぶん、体育も学生にとっては『当然』の授業だからだろうな。『運動会』に『体育祭』と名前は変わるが、学校生活では付き物のイベントだ。『当然のことで頑張っても、過剰に評価する必要はない』。言ってしまえばそういうことだろう。普段の生活態度と同じだ」
知恵の言葉に続くように、神崎が意見を述べた。
「その内実は、『普段、体育の授業で学んだ成果を発表する機会』でしかないってことだね。ポジションとしては定期テストと一緒。ただ、直接的な足切り要素がないだけ、定期テストに比べればまだマシなんじゃないかな?」
「いえ、そうとも言い切れませんよ。個人競技で上位を取った生徒は、『ポイントをもらう』か『筆記試験の点数をもらう』かの選択制です。そして最下位の生徒は基本的にはPPのマイナスですが、不足分に満たない場合は『筆記試験での点数がマイナスされる』とあります。
そして、全学年を通しての最優秀生徒と各学年の最優秀生徒に報酬が与えられる一方で、『学年内での下位十名にペナルティを科す』とあります。ペナルティの詳細は担任に確認とのことですが、これが筆記試験の点数に絡んでくる可能性は否定できません」
神崎に続く形で帆波が意見を言えば、浜口が異を唱えた。
「え、本当!? うわ、そこまで確認してなかった……」
帆波は焦ったように資料をめくる。周囲から該当のページ数が飛ぶ。
「本当だ……」
そして、該当の箇所を確認してうなだれた。
「はい! 浜口くんの予想通りです! 一年生に科せられるペナルティは、『次回筆記試験におけるテストの減点』となります! 総合成績下位十名の生徒は、その順位の如何を問わず、共通して10点の減点を受けるから注意してね!」
知恵によるペナルティ内容の発表に、クラス内から悲鳴が上がった。
誰もが誰も、運動が得意なわけではない。だからといって勉強が得意なわけでもない。それを思えば、悲鳴が上がるのは無理からぬことだろう。
「……ふむ。皆さん、この体育祭、すみませんが僕は個人得点を捨てます。全員参加の個人競技では敢えて最下位を取り続けます」
そんな中、同じく浜口が冷静に宣言した。
「クラスのことを鑑みれば、確かにそれが最善かもしれないな……」
「お、おい。どういうことだよ、神崎?」
浜口の言いたいことを理解した神崎が納得すれば、理解できていない柴田が質問をした。
「いいか? 今回の試験で重要なのは、『優先順位の策定』と『そのための取捨選択』だ。
当然ながら、クラスの中には『運動の得意な生徒』、『運動の不得意な生徒』がいるわけだが、それも更に細分化される。大雑把には『運動も勉強も得意な生徒』、『運動は得意だが勉強は不得手な生徒』、『運動は不得意だが勉強は得意な生徒』、『運動も勉強も不得意な生徒』だ。……ここまではいいか?」
「ああ。その中で言えば、俺は『運動は得意だが勉強は不得意な生徒』になるな」
「そして、僕は『運動は不得意だが勉強は得意な生徒』になります。流石にアズさんや清隆くんほどの高得点を取る自信はありませんが、それでもテストで10点の減点を食らっても赤点を回避できる自信はあります」
「……そっか! 体育祭だけじゃなく筆記試験にまで目を向けて考えれば、一番ヤバいのは『運動も勉強も不得意な生徒』がペナルティを食らうことなのね!」
浜口と神崎の言いたいことを理解したのだろう。麻子がポンと手を打って発言した。
「そういうことです。今回の体育祭、チーム対抗で負け、学年の総合得点でも最下位になれば、それだけで-200CPです。流石にそれは防がなければなりません。そうなると、負担をかけることになりますが、運動の得意な生徒にとにかく頑張ってもらうしかありません。
かといって、僕みたいな運動が不得意な生徒が付け焼刃で頑張ったところで大した得点が取れるとは思いません。ならば、最初から体育祭で得点を取るのは捨てて、筆記試験での退学者が出ないように努める方がいいと判断した次第です」
ここまで言えば、言いたいことを理解した生徒も増えたのだろう。随所で頷いている姿が見受けられる。
全員参加の個人競技は殊の外多い。だからこそ、どれだけ運動能力が低くとも、頑張れば最下位以外を取れる可能性は否定できない。そんな生徒と、敢えて最下位を取り続けた生徒を比べた場合、どちらがペナルティを受けることになりやすいかは自明の理だ。
しかし、浜口の言葉はそこで終わりではなかった。
「付け加えると、時間割の問題もあります。今回、体育祭のために特殊な時間割が組まれているわけですが、そのために通常の授業が犠牲になっているのは否めません。となると、普通に考えて、体育祭終了後にはその揺り戻しが来ると考えるべきです。
つまり、体育の授業が減って、その分を他の授業に宛がうわけですね。或いは、以前の時間割に戻しつつ、一授業時間で教える範囲を大幅に増やすかですね。……少なくとも、そのどちらかになる可能性は大きいでしょう。
訊きますが、勉強が不得意な生徒がそんな特殊な時間割に堪えた上で筆記試験にまともに立ち向かえると思いますか?」
浜口は、体育祭に向けて組まれることになった『特殊な時間割』についても言及したのである。
そして、言われてみればそれは道理であった。基本、授業というのは計画に沿って教え、範囲を進めていく。それに基づくのなら、体育祭のために犠牲になった分がどこかで補填されるのは当然である。
「うえっ!? そうなったら俺は自信ねえや……。普段は体育の授業が気晴らしになってるようなもんなんだぜ」
真っ先に弱音を零したのは柴田だった。まあ、『運動が得意で勉強が不得手な生徒』は柴田と似たり寄ったりだろう。
「どっちも不得手な私にとっては、そうなっても大差ないかな……」
「あ、私も」
そう言ったのは、愛里と千尋だ。共に学力は平均程度、運動は不得手な女子である。比較的『勉強が得意』というだけで、結局は『どちらも苦手』という事実に変わりはないので、実のところ多少授業のバランスが崩れたところで大差はなかった。
逆に言えば、『普段通りの実力を発揮するのに不都合はない』ということになる。しかしだからこそ、そこから10点も減点されようものなら退学の可能性も否めない。クラスのことを鑑みれば、そうなる可能性は可能な限り減らすのが正しい選択肢だ。
「まあ、ペナルティを食らうのは、『クラス内の下位十名』ではなく『学年内の下位十名』ですからね。その点では救いがあります。一人は既に確定していますから尚更です」
「有栖だな?」
「はい。坂柳さんは、その先天性心疾患故に無人島試験も欠席を余儀なくされました。なんか、試験以降で『杖を使わずに歩いていた』という噂もありますが、それが事実だとして体育祭でも通じるとは思えません。杖を使わずに歩けるようになっただけで、体育祭で上位に入られたら堪ったものじゃありませんよ」
清隆の確認に、浜口は同意しつつもぼやいた。
「あの、たぶん私もペナルティを食らうことになるかと……」
挙手をしながらそう言ったのは美紀だった。
「あ~、美紀ちゃんはね……。うん……」
知恵は苦い顔で頷いた。
同じクラスで数ヶ月を過ごしたこともあり、比較的美紀に気付きやすくなっている。
逆に言えば、それでも『比較的』なのだ。縁遠い他の生徒や教師が気付くかと言えば、正直に言って首を傾げざるを得ない。
体育祭の得点は、あくまでも順位によって付けられる。そして順位を決めるのは審判役の人物だ。おそらくは教師だろうが、その人物が美紀に気付かなければ、たとえ美紀が一位でクリアしたところで一位の得点を得られることはない。
「毎回カメラ測定をすれば話は別だとは思うけど、種目数から分かるようにかなり詰め詰めなんだよね。そんな中で、毎回そんなことをする余裕があるかどうか……」
付け加えると、カメラ測定をしたところで容易く確認できる保証はない。何せ、筋金入りに影が薄い人間というのは自動ドアのセンサーも認識しないのだから。ちなみに美紀もその口だ。
フォルテとの付き合いもあり、改善されて尚そのレベルなのが恐ろしい。普段は敢えてフォルテが気配を出すことで、それに連鎖する形で美紀も気付いてもらえているのが本当のところだ。
普段は相応の存在感を出しつつ要所で気配を消すのがフォルテなら、美紀は四六時中気配を消しているタイプである。無論、美紀本人が望んでのことではない。幸か不幸か、本人も無自覚なまま歪な形でN.I.N.J.A細胞に覚醒したが故だ。天然自然のN.I.N.J.Aが美紀だった。
そんな理由もあり、美紀の影薄は自他共に認めるところだ。素で気付ける人物の方が少ない。
「私の方からも学校に報告は上げておくから……」
どこまで効果があるかは怪しいのを承知の上で、そう言うのが精一杯の知恵だった。
チームの組み分けについて書いてたら、不意にドドメチームが頭に浮かびました。
『よう実』は2015年刊行開始。
フジリュー版『封神演義』は1996-2000年までの連載です。家庭によっては家にコミックがあるかもしれません。
今回は浜口くんに頑張ってもらいました。星之宮クラスの軍師役です。
原作読んでて疑問に思ったのが、体育祭に向けて体育の授業が増えるのは良いんですが、体育祭が終わった後はどうなるのかが不明瞭なことですね。
五巻にはそれらしい描写がなく、六巻では生徒会の交代が行われた後は中間テストの結果発表まで飛んでいます。
以上のことから独自解釈を入れるしかないんですが、普通に考えて浜口くんが言ったような展開だと思うんですよね。
体育の授業を増やしたということはそれ以外の授業が減らされたということですから、その分の揺り戻しがあって然りです。
体育祭の個人成績最下位十名は、その順位に関係なく一律で-10点のペナルティを食らいます。
しかも、個人競技で最下位だった生徒は、所持PP次第ではそこから更にマイナスされます。最悪、個人競技数の分が丸々減ります。
その上で、コマ数的にか密度的にかはともかく、座学の授業が増えるわけですから、それに耐えられない生徒が現れると思うんです。
そう考えた場合、体育祭だけに全力投球すると、揺り戻しに耐えきれず中間テストで脱落する生徒も普通にいると思うんです。
浜口くんの提案はそれ故のものですね。
本作の星之宮クラスの生徒は誰もがPPに余裕がありますので、たとえ個人競技で最下位になってもテストの点数が減らされることはありません。
つまり、減らされるのは最大でも10点であり、だからこそ可能な提案でもあります。
そもそも、報酬とペナルティで『次の筆記試験』に言及されているわけですから、それを踏まえた選択をするべきだと思います。
個人成績最下位十名は、有栖と美紀は確定だと思います。
有栖はそもそも身体条件で競技に参加できませんし、美紀は競技にこそ参加できますが、ゴールしても気付いてもらえるか怪しいところがありますし。
その筈なんですが、ちょっと怪しいところもあります。
原作だと、美紀はそのくらい影が薄くておかしくはない筈なんですが、その一方で普通に他校の生徒に絡まれたり、藍にまとわりつかれるようになったりしてるんですよね。
影の薄さはどこにいった? と、こうなります。
藍に関しては、『普通に気付ける実力がある』で説明が付くんですが、他校の生徒にまでそれは通じないでしょう。
そんな人材を有栖が重宝するとは思えませんし、実績を築けるとも思えません。
ともあれ、残りの八枠に『学力に自信はあるけど運動に自信がない生徒が滑り込むことで、退学者が出る可能性を減らそう』というわけです。
体育祭編を書いてて思うのは、クラス、組の使い分けが面倒なことですね。キチンと描写しないと、教室を指しているのかチームを指しているのか分からなくなります。
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