ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「今回の体育祭についてだけど、まだ重要なことがあるんだ。
君たちには、体育祭当日に行われる競技の全てに対し、誰が何組目に走るのかを話し合ってもらい、それをこの参加表に記入し、締め切りまでに私に提出してもらいます。
提出期間は体育祭の一週間前から前日の午後五時までの間。もしも提出期限を過ぎた場合はランダムで割り振られるし、締め切り時間以降は如何なる理由があっても入れ替えは許可されないからそのつもりで」
知恵は一枚の紙をペラペラと振りながら生徒に向けて発言した。
「質問があります。例えば、全員参加種目は空白のまま、推薦参加種目だけを記入して出した場合はどうなりますか? またその場合、誰が出るかだけを決めて、順番そのものはランダムにしてもらうことは可能でしょうか?」
発言者は、案の定浜口。
「可能だよ。『運を天に任せる』のも一つの勝負だからね」
「そうですか、ありがとうございます。――皆さん、今回の体育祭、僕たちは推薦種目の参加者だけを決め、出走順やらは全てランダムにしませんか?」
知恵に礼を言った浜口は、クラスメイトを振り返って提案した。
「それは……流石にギャンブルが過ぎないか?」
「かもしれませんが、『下手の考え休むに似たり』とも言います。一度考え出したら、どうしたって他クラスを気にしないわけにはいきませんからね。結果、ドツボに嵌まる可能性も否めません。
それよりは、『運を天に任せる』のも一つの手だと思いますよ。僕の提案は小中でのやり方と同じだと思いますし。
皆さんは小中の時、推薦者が何組目に走るかまで決めましたか? 生徒が決めるのは『誰が出るか』までじゃありませんでしたか?」
危惧を洩らす神崎に、浜口は冷静に反論した。
そして、その意見に対し随所から同意が上がる。
「それに、これであれば他クラスへの情報漏洩も最低限で済ませることが出来ます。だって、僕たち自身、知っているのは誰がどの推薦競技に出るかだけで、その人が何組目に出るかなんて分からないんですから。
自然、他のクラスもギャンブルに頼らざるを得なくなります。
むしろ、早期から大々的に周知する方がいいかもしれませんね。闇討ちに対する抑止力にもなりますから。
運動能力の高い生徒が、体育祭までに怪我をしたり当日に体調不良になったとしたら、皆さんはどう思いますか?」
「単純に『不運』の一言で片付けるわけにはいかないだろうな。どうしても、『もしかしたら』、『ひょっとして』……という思考と無縁ではいられない筈だ」
「そりゃまあ、本当に不運の可能性だってあるけどさ。タイミングを考えれば、『他のクラスが勝つために妨害した』って思っちまうのは避けられないと思う。
だってよ、俺だって真っ向勝負で綾小路やアズ、フォルテに勝てるとは思えねえもん。まあ、だからこそ俺の場合は真っ向勝負で打ち勝つことに燃えるわけだが、全員が全員、そういうタイプなわけもねえしな」
浜口の質問に神崎と柴田が答えた。
概ね、神崎と柴田の言う通りだろう。特に、柴田の意見を無視するわけにはいかなかった。クラス内では運動能力の高い彼でさえ『勝てない』と思う相手。自然、他のクラスだってそう判断するだろう。
その上で、推薦競技に関しては個人当たりの参加上限数がない。最悪、全員参加競技と推薦競技の双方で一個人が一位を独占する可能性だってあり得るのだ。そして、星之宮クラスにはそれを為し得る存在が複数存在する。
今回の体育祭はAクラスとDクラス、BクラスとCクラスの組み合わせである。そして他学年に目を向ければ、3-Aには堀北学、2-Aには南雲雅という名高き実力者がいる。……そう、二、三年の紅組にも全競技で一位を独占し得る存在がいるのだ。
無論、2-Bの鬼龍院楓花のように対抗馬がいないわけではない。しかし、彼女の評判を鑑みると、実力はともかく『対抗馬』として機能するかは怪しい。
まあ、『だからDクラスが足を引っ張るんだろ』という意見があるのは否定しないが、Dクラスにだって運動能力の高い生徒はいて然り。
である以上、最悪は200CPのマイナスを食らい、その上で筆記試験にも悪影響が出るかもしれないとなったら、そんな『強力な駒』を潰すために極端な手に出てくる可能性は否めないだろう。
特に白組に振り分けられたBクラスとCクラスは。
「極論、今回の体育祭は『出来レース』に等しいんですよ。Aクラスが一塊になっている時点で『紅チーム』の勝ちは揺るぎないと思います。そう考える生徒は僕以外にもいると思います。
この学校のシステム上、本来Aクラスというのはそれだけの実力を――言い換えれば『ブランド価値』を持ってるんですよ。他のクラスが、戦う前から勝利を諦めるくらいにはね。
特に二年や三年のCクラスやDクラスとなれば、『諦め癖』や『負け癖』が付いていてもおかしくはありません。
付いてないのは、この学校に所属して日の浅い一年生だけじゃないですかね? そして、だからこそ必要以上に熱意を上げてもおかしくはなく、体育祭に熱意を上げ過ぎたが故に次の筆記試験で地獄を見る……などということもあるかもしれません」
柴田の意見にクラスが同調意識を持ったところで、浜口がトドメとなり得る意見を放った。
「そしてそこまで危惧すれば……。だからこそチームでの勝利は諦め、その上でダメージを最小限に抑えようと思ったら、どんな手を使ってきてもおかしくはないか……」
神崎が唸る。
浜口の危惧が、単なる危惧では済まない可能性が生まれてしまった。筋が通ってしまった。
要は体育祭の本番で実力者が機能しなければいいのだ。実力を発揮しきれなければいいのだ。それだけで、
だって、ここは『高度育成高等学校』だ。バレない限りは、怪しまれても確たる証拠が出ない限りは、グレースタイルだって合法だ。
「『次代の日本を牽引する者、常日頃から警戒心は必要である』。……言葉にすればこんな感じでしょうか?
だからこそ、その警戒をすり抜けられたなら素直に称賛するしかありませんけどね。
まあ、余りに度を越した行いであれば、『グレー』ではなく『ブラック』と判断されるかもしれませんが……」
肩をすくめて浜口が言う。
「可能性は低くとも、体育祭前にクラスメイトが襲われる可能性が生まれた。その可能性を『考え過ぎ』と甘く捉えてしまうような人物は、実力者たり得ない。……そう言われてしまったら、こちらには返す言葉がない。
ならば、対策を取っておいて然るべき。それが『推薦競技出場者の周知』と言うわけか……。確定している推薦競技出場者にトラブルが起きれば、学校側だって人為的なものを疑わざるを得ないだろうからな。
少なくとも、そういう空気を作っておくだけである程度の抑止力にはなるだろう。何の手も打たないよりは余程にマシだ」
「はい。チーム戦である以上、おそらくは茶柱クラスのみならず、他学年のチームメイトとも顔を会わせる機会がある筈です。その際に、最低限の礼儀としてこちらの危惧と、それ故の方針を伝えておくのがいいと思います。
とまあ、まるで確定事項のように話してしまいましたが、皆さんはそれで構わないでしょうか?」
浜口の質問に、すぐに意見は出てこない。危惧は分かるが、だからといってそう簡単に頷けるものではなかった。
しかしながら、そう簡単に代替意見が出てこないのも事実であった。
「ちなみに、六時間目のホームルームは第一体育館に移動して、他学年を含めた各クラスとの顔合わせになってるからね!」
悩む生徒を焦らせるかのように、知恵は新たな事実を伝えた。
「ちょ!? 先生、そういうのはもっと早くに言ってくださいよ!」
「ゴメンゴメン。でもほら、六時間目まではまだ時間があるから。焦りが生まれる中、それでも冷静さを保つのだって実力者の振る舞いだよ」
クラスリーダーである帆波が文句を言えば、知恵は悪びれもせずにウインクをかましてそう言った。
実際、間違いではないからタチが悪い。
「緊急首脳会議! 浜口くんの案に賛成か否か!」
帆波の宣言に伴い、首脳陣から意見が飛ぶ。結果、浜口の案が通ることになった。
これはクラスメイトのユキが意識不明のまま入院していることも大きい。現状では、体育祭までに彼女が復帰できるかどうかも分からないのだ。だからこそ、全部不戦敗で計算するとしても、彼女をどこに入れるかが問題となる。
なら、推薦競技には出さないことだけを決めて、他はランダムに任せた方がよほど気楽だ。幸いと言うべきか、優に平均を超えるほどの学力をユキは持っている。-10点のペナルティが付いたところで、筆記試験で赤点を取る可能性は低い。
そんなわけで、体育祭における星之宮クラスの基本路線は決まった。あとは『誰がどの競技に出るか』を決めていくだけである。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
緊急首脳会議が開かれている傍ら、桔梗はアズを伴って愛里の元へと訪れていた。
「浜口の言い分は至極尤も。である以上、クラスメイトとしては協力するべきだと愛里も思わない?」
肩から手を回し、顔を横並びにした上で、そんなことを言う桔梗。愛里としては普通に怖い。
「それは、思うけど……」
そんなものだから、どうにかそう返すので精一杯だった。
「でしょ! じゃあ、愛里も協力してくれるよね!」
桔梗が浮かべるのは満面の笑み。しかし愛里にしてみれば、拒否を許さぬ捕食者と大差なかった。
「う、うん……」
「よっし、言質は取った! んじゃ、今から特急で雫モードを仕上げるよ! はい、そんな野暮ったいメガネは外す!」
ヒョイと顔からメガネが取り外され、その傍らではアズが机に化粧道具を並べている。
女子として、最低限のメイク道具は携帯せずにいられない。それは普段『地味子』を演出している愛里も例外ではなかった。
「時間がないのがアレだけど、それでも打てる手は打たないとね!」
そんなことを言っている間にも、桔梗とアズの手は淀みなく動き、愛里にナチュラルメイクを施していく。
化粧自体は愛里も慣れているし、二人の手腕を疑う必要はない。目的もハッキリと断言されたので、愛里は抵抗する理由を見出せなかった。されるがままにメイクを受け入れていく。
「この状況で愛里に化粧を施す理由があるのか?」
克己が問いかけた。これで愛里は克己の友人だ。理由なく友人が理不尽な目に遭っているのであれば、克己としては止めるのも吝かではなかった。
「あるよ~。小さくとも大きな意味がね」
克己に答えながら、桔梗の手は動きを止めない。
「いくら運動の出来る生徒を全部の推薦競技に投入して『勝利を捨ててるわけではない!』とアピールするにしても、実態が『出来レース』に近いものだとしても、
その点で言えば、浜口の意見は
だから私たちは、その悪印象を払拭する必要性を求められる。チームメイトに理解してもらう必要がある」
どれだけ言葉を尽くしたところで、納得しない者は納得しない。それが人間という生き物だ。
ならばどうするか? そのための努力をするしかない。
その『努力』が、多種多様な方法である。
方法がどうあれ、過程がどうあれ、相手が納得しさえすればそれでいいのだ。
「私たちの方針を、他学年、他クラスに伝える。その上で、『運動能力が低い』という共通項こそあるものの、
この際、愛里が『ペナルティを受けた結果、赤点を取って退学した』と仮定して、それを『本人の自業自得』と割り切って冷静に考えられる生徒がどれだけいると思う?
いやまあ、愛里にはストーカーの一件で『プロテクトポイント』とやらが付与されているらしいから実際に退学になることはないけど、大半の生徒は『身近にいるグラビアアイドル』の退学を惜しむんじゃないかな? 特に男子は」
克己に対する返答だが、桔梗の声は他の生徒にも聞こえていた。そして、その言葉を否定できる生徒の方が少なかった。
如何にこの学校が『実力者の輩出』に重きを置いており、そのための『特殊なカリキュラム』を組んでいるのだとしても、それを受けるのは思春期真っ盛りの学生なのだ。一己の人間である。
女子だって、その多くは内心で『イケメン彼氏』を求めているのだ。なら、男子の多くが『可愛い彼女』を求めるのもおかしなことではない。
普通に考えて、そんな当然の欲求を抑え込める人物の方が少ないだろう。
「私たちが優先するのは、何よりも『退学者を出さないこと』。それを声高に叫んで周りに理解を求める。個人成績の低い者は次回の筆記試験で点数がマイナスされるペナルティを受けるんだもの。その点で言えば、私たちの目的と方針は決して間違っているわけじゃない。
世の中、確かに勝負は大切よ。けれど、それに『付随する事項』の方に価値を見出す人間も多い。大会とかのスポンサーなんて最たるものでしょ?
この学校の生徒なればこそ、そういったことに理解を示す必要を求められる。だから、『筋の通った理由』さえ用意して声高に告げることが出来れば、表立って非難を浴びることはない。浴びるにしても、その量は極々少量となるのが道理。
だけど、『不満をぶつけないこと』と『不満を覚えないこと』は別だから、感情面でも『不満をぶつけないこと』に納得してもらう必要があるのよ。
だから、『退学候補者』の中に『雫』がいると示すことで、『雫を退学させないため』と勝手に納得してもらうのが目的ね。
別に、全員に納得してもらう必要はないわ。そもそも、そんなのは不可能だしね。だけど、一部だけでも納得してくれたのなら、十分な価値がある」
説明が終わると同時、愛里に対する化粧も終わった。
そこにいるのは、服装こそこの学校の制服なものの、確かに一時期雑誌を騒がせていたグラビアアイドルだった。
自分もある程度の『よう実』二次には目を通しているつもりですが、体育祭編になると、『真面目に参加表に向き合う作品』が大概なんですよね。
そこが個人的に疑問と言いますか……。むしろ、作品ごとの『オリジナル色』を見たいです。
そうすることが『絶対』であるならまだしも、学校は最初から『ランダム』を許可しています。
なら、『部分的なランダム』を学校側に求めるのも普通にありだと思ってしまうわけですね。
なので、本作の星之宮クラスはその方針を打ち出し、他学年・他クラスにも積極的に周知していくことにしました。
原作然り、どれだけ入念な手を打ったって、『参加表のデータが洩れ出る可能性』自体は否めないんですから。
『クラスメイトを買収する』、『教師からポイントで提出された情報を買い取る』などが分かりやすいところですね。
そこを利用して罠を張るのも一つの手ではあるでしょうけど、当然ながら他の手だってある筈です。
本作の星之宮クラスは、基本的には『スパロボ自軍』のように、『相手の打つ手に振り回されることもあるが、正攻法で相手を振り回す』スタイルです。
ついでに言うと、『高度育成高等学校』は『犯罪者予備軍育成校』ではなく、『次代を牽引する実力者の輩出』を謳うに相応しいだけの『柔軟さ』を持つ学校です。
なので、次話ではそこら辺を描写します。
また、『体育館での顔合わせ』シーンになるわけですが、そこで『他の手』――今回の描写からもう少し突き詰めた部分を出します。
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