ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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本作では、基本的に三人称のアズ視点で物語を進めます。その際は話数表示だけでサブタイトルはありません。
ただ、他のキャラの一人称視点の話もあり、その際はサブタイトルを付けてます。今話に関しては、よう実の原作主人公でもある綾小路の視点ですね。
なお、誰の視点か分かりやすいことを第一にしているため、サブタイトルと話の内容が合致するとは限りません。



第12話:綾小路清隆は、『普通』の学生生活を模索する。

 オレがこの学校――高度育成高等学校に入学して、はや一週間が経った。

 そして今現在、オレは悩みに悩みまくっていた。これが()()の学生生活なのだろうか……と。

 いやまあ、育った環境柄、如何に一般的な常識やそこらが不足しているとはいえ、決して欠落しているわけじゃない。実感が足りていないのは確かだが、事前に調べられるだけは調べているのだ。

 そんな、数少ないリソースの上で判断させてもらうと、『普通ではない』と判断せざるを得ないのだ。

 そりゃまあ、こんなオレの入学が認められるのだから、その時点でこの学校が()()()()()()()()()()。だから、そこに関しては不満も文句もない。学校に通えるだけで十分と言えば十分だ。

 しかし、人間とは欲を持つ生き物だ。欲が出てくる生き物だ。そしてそこに関しては、どうやらこのオレも例外ではなかったらしい。

 それは、早期に他クラスの生徒と関わり合いを持つことになったのが一因であり、更に言えばクラスメイトよりもそちらの方が付き合いやすいからでもあるだろう。

 経験上、コミュ障気味なのがオレであり、必然としてクラス内でも交流を持つ生徒は限られている。隣席の堀北鈴音、クラスの顔役である平田洋介、既に『三バカ』の名を恣にしている須藤健、池寛治、山内春樹の三名……これくらいだろうか。

 これを少ないと見るか十分と見るかは人それぞれだろうが、オレは後者の立ち位置だ。一人も交流のある生徒が持てないよりは余程いい。

 だが! だがだ! 人数に関しては満足していても、それぞれの人柄に関しては思うところがあるのは否めない。

 まず堀北。黒の長髪を靡かせる美少女であり、入学早々にそんな人物と()()()()になれたのは十分に幸運だろう。しかし、その実態はオレ以上のコミュ障! 過度の自信家にして毒舌家! 人間関係を自分から絶っているフシがあり、その点では『社会不適合者』と言わざるを得ないだろう。或いは、優良種社会の信奉者か。

 いずれにせよ、人が感情を持つ生き物である以上、能力だけで黙らせられることなどほとんどない。それを踏まえると、ビジネスパートナーとして付き合うのが精々だろう。それとて、極端に狭い人間関係になるだろうが……。

 実際、堀北の方からクラスメイトを避けているのは事実だが、その一方でクラスメイトからも排斥されている。未だ大々的に能力を示す機会がない以上、これは堀北の人間性に起因するものだ。オレ以上に避けられている時点でそれは間違いない。

 次に平田。人間性に関しては言うまでもなく善人だ。この短い間でもそれがよく分かる。だがその一方で、それぞれの自主性を()()()()()()()()ようにも見受けられる。それが悪いとは言わないが、顔役がそのスタンスなのは如何なものかと思わざるを得ない部分があるのは確かだ。最低限の秩序がなければ、集団として、組織として成り立たないだろう。

 一応、それとなくBクラスの面々から聞いた情報を伝えてはみた。そして、実際に平田はそのことをクラス全体に伝えてくれた。――だが、それだけだ。そこには、情報に対する熱意も危惧も感じられなかった。

 そう、平田は『将来の自由のための不自由』よりも、『刹那的な自由』に重きを置いたのだ。真に平田を顔役とするならば、これは不味い。

 そして三バカに関しては言葉もない。

 須藤はバスケバカで、池と山内はお調子者。端的に言えばこれだけなのだが、細かく言うと余りにも欠点が多い。

 須藤はバスケへの天秤が傾き過ぎている。それも、()()()()()()()()()のみを重視しているタイプだ。

 将来的にバスケ選手として大成したいのであれば、それではいけない。そりゃあ能力と技術があるに越したことはないだろうが、それでも『バスケ選手』とは職業なのだ。そして、バスケ自体は仕事の一側面でしかない。他の仕事――例えばインタビューをこなすためには、一定の社交性は必須である。海外に渡ることを考えているのなら、英語だって必要だろう。

 そういう、常識の足りないオレですら簡単に思いつくことが、須藤は思い描けていない。

 池と山内は常日頃から『彼女がほしい』とわめいているくせに、そのための努力をしている様子がない。デリカシーもない。なんだ、『女子の巨乳ランキング』って……。胸の大きさで賭けるって……。そんなことをクラスの中で堂々と行って、それで彼女が出来ると本当に思っているのか……?

 オマケに山内、いくらクラスでも地味で、堀北同様に交流を絶っていると思わしき人物が相手であれ、『女子から告白された』と嘘を吐くのは如何なものか。いや、百歩譲ってその可能性が皆無とは言わないが、一般的に考えると山内には告白される要素がない。よほどのダメンズ好きであればその限りではないだろうが、そうであるならば、普段の交流自体がもっと増えている筈だ。つまり、『佐倉から告白された』という山内の発言は嘘でファイナルアンサーだ。

 ぶっちゃけた話、山内が告白されるならオレが告白されたっていいだろう。コミュ障なのを否定はしないが、顔立ちだけならオレの方が間違いなく山内よりもイケメンだぞ!

 そんなことを、オレはつらつらと思っている。――あくまでも思っているだけだ。決して口には出していない。出した時が恐ろしいからな。堀北辺りは間違いなくコンパスをぶっ刺してくるだろう。

 ともあれ。

 クラス内における、オレの主要な人間関係はこんな感じだ。オレが学生生活に対して疑問を持つのもおかしくはないと言えるだろう。

 

「綾小路、いるか?」

 

 不意に、教室の入り口近くからオレを呼ぶ声がかけられた。すでに何度となく聞いた声。1-Bの神崎だ。

 入学二日目に神崎ら1-Bの生徒と交流を持ってからというもの、オレは専ら彼らと放課後を過ごすようになっている。オレの常識の不足ぶりを思いの外危惧してくれたようで、何かと誘ってくれるのだ。

 相手は同性ということもあって神崎であることが多いが、そこに一之瀬や櫛田、網倉や白波、月ノ輪といった面々が加わることもある。……改めて思い返してみれば女子の比率が高いな。

 残念ながら、同性の友人その一である柴田は不参加な割合が多い。放課後はサッカー部で汗を流す青少年であるからして仕方のないことだろう。

 アズも不在なことが多い。部活少女ではないが、部活荒らしをしていると聞くし、早くも学校のネット掲示板では彼女のことが話題になっている。

 柴田にしろアズにしろ、そんな日々を過ごしているのであれば、放課後にオレを誘う余裕などあるわけがない。

 ただ、休日に関しては話が別で、いつもの如くBクラスの面々に誘われたオレは、そこに柴田とアズを加えた時間を過ごすことになった。

 カラオケ、ボウリング、ゲームセンターに映画館……オレ独りでは縁のない施設で過ごした時間は、散財以上の価値があったと言えるだろう。なお、ファッションセンスのなさを容赦なく指摘されて、その点でも出費が嵩んだのは言うまでもない。

 付け加えると、女子の手料理を初めて御馳走になった日でもある。()()()()()()ということもあるのだろうが、非常に美味かった。その点においては、オレは間違いなく勝ち組といえるだろう。

 

「神崎か、どうした?」

「いや。これから図書館に向かうつもりなんだが、よかったらお前もどうかと思ってな」

「ありがたく御一緒させてもらおう」

 

 友人が欲しい。友人と一緒の時間を過ごしたい。そう思いつつ、積極的に声をかけることも出来ないコミュ障男子が誘われて、これ以外の返答があるだろうか? ――いや、ない!

 オレは即断即決で同行を了承した。

 

「そうか。こう言っては気分を悪くするかもしれないが、お前は積極性がないからな。その点で気楽なんだ。落ち着いた時間を過ごせる」

 

 ふっと息を吐いて神崎はそう言った。

 気持ちは分からないでもないが神崎よ、それはオレが毒にも薬にもならない存在だと言外に言ってないか? ――いや、よそう。友人を悪く思うのはよくない。確かにそういう一面があるのかもしれないが、敢えて悪く受け取る必要もないだろう。

 

「わざわざ口に出してそう言うということは、クラスでは過ごしにくいのか?」

 

 図書館に向かって歩を進めつつ、オレは問いかける。

 

「どうなんだろうな……? 決してクラスメイト自身は嫌いではないし、今の雰囲気自体は好きなんだ。――だが、どうにも騒がしいのが苦手なタチでな……」

 

 神崎は静かに呟きながら、足を止めることはない。

 

「……そう。過度に感情的な人物が苦手なんだろう。冷静に考えるとそう思う。社交性の優れる人物自体は嫌いではないしな」

 

 暫しの沈黙の後に、神崎はそう結論付けていた。

 なるほど、と頷く。積極的な人物=社交的な人物というわけではない。積極的、かつ相手に対する一定の配慮があって、初めて()()()と言えるだろう。

 池なんかは分かりやすい例だ。ズカズカと距離を狭め、その点で言えば一定のコミュニケーション能力を持っていると評価せざるを得ないだろうが、その一方でデリカシーに欠ける言動が多い。果たして、これで社交的な人物と言えるだろうか? ――言えないだろう。

 つまり、神崎は池みたいなタイプが苦手なのだ。

 

「そういう点では、うちのクラスは過ごしやすい空気を持っている人物が多いと個人的には思っている。良くも悪くも、積極的に()を出す人物が少ないからな。決して出さないわけではないが、その範囲は極めて限定的だ」

 

 そこまで言って、神崎は再び息を吐く。

 

「だが、いくら個人としては落ち着ける人物が揃っていても、それが一塊になれば必然として騒がしさも増す。結果、贅沢な話ではあるが、その()()によっては煩わしさを持ってしまうんだろうな……」

 

 これまた頷ける話だ。要は一種のジレンマである。特段珍しいことでもない。

 

「そして、改めて個々人の程度を探って、落ち着ける人物を探していくほど、俺は積極的な人間じゃない。だから、既に持っている手牌の中から安牌を探す。結果、お前に白羽の矢が立っている。……言葉にすればそういうことなんだろう。放課後となれば柴田は部活だしな。他に交流を持っているのは軒並み女子だから、必然的に過ごしにくい」

 

 神崎の場合、女子と過ごすのを拒否はしないが、メリットよりもデメリットを感じてしまうということか。単純に、嬉しさよりも恥ずかしさが勝っているだけかもしれないが……。

 まあ、そういうことであれば度々オレに声をかけることにも納得だ。

 

「……と、着いたな。――すまないな、綾小路。結局、俺の愚痴に付き合わせるような形になってしまった」

「気にするな。そういった話を聞くのも、それはそれでオレにもメリットはある。率直に言えば『教材』としての意味を持つ」

「……ああ。そう言えば、お前はこれまで学校に通ったことがないんだったか……。つい忘れがちになってしまうが、その老成ぶりを見れば納得もいくな」

「……オレはそんなに老成しているか?」

「まあ、老成という表現は厳密には違うのかもしれないが、その落ち着きぶりというか動じなさは遜色がないと思う」

 

 実感が湧くかはさて置き、頷ける話ではあると思う。

 オレが育った施設――『ホワイトルーム』は、世間一般の常識が不足しているオレから見ても、殊更特殊な施設だと言わざるを得ない。

 生まれた瞬間から外の世界とは隔離されており、娯楽も一切存在しない。全面が真っ白の小さな世界――文字通りの『ホワイトルーム』――で、毎日のように厳しい訓練や試験を耐えなければならないのだ。その時点で完全に人権を無視している。

 そこに訓練を受けさせられることになる当人の意思が絡んでいるのならまだしも、そんなことはあり得ない。何せ生まれた瞬間から隔離されているのだ。選択肢などある筈がない。そこにあるのは強制だけだ。

 バレなければ問題にはならないとは言うが、いくらなんでも限度があるだろうと思わずにはいられない。

 そして、オレはその施設で生き残った。世代ごとで子供を教育・競争させているホワイトルームだが、同期生は全員がカリキュラムをクリアできずに脱落した。特に、オレの期は血縁上の父親である綾小路篤臣が直接指導しており、『ホワイトルーム史上、最高難易度のカリキュラムが課された』と言われている。

 それをクリアしたこともあり、オレは『ホワイトルームの最高傑作』などと謳われているわけだが、必然として犠牲にしたものも多いだろう。情緒面の発達など最たるものだ。

 友人関係への憧れですら、本心からのものではない。単に、調べた限りの『普通』を照らし合わせた上で、『そうだろう』と思われるものをトレースしているだけに過ぎないのだ。人間関係など、未だ本心では()()()()()()とすら思っている。

 その無関心ぶりを老成と評するなら、あながち間違ってはいないだろう。

 オレ自身、この無関心ぶりをどうにかしたいと思って足掻いている真っ最中である。

 そんな風に他人に無関心なままでは、他人への配慮を示さないようでは、オレが嫌悪するホワイトルームと――その象徴たる血縁上の父親、綾小路篤臣と同じではないのか……と、ホワイトルームで培われた、培わざるを得なかった合理的思考が、そのように囁くのだ。

 だから、オレはオレなりに学んでいる真っ最中なのである。

 そしてオレの少ない交流関係――DクラスとBクラスを比較した場合、教材として打ってつけなのはBクラスと判断せざるを得ない。

 Dクラスは自由を学ぶ上ではいいのかもしれないが、秩序を学ぶ上では不適格だ。自由に偏り切ってしまえば、それは混沌と言わざるを得ないだろう。

 かといって、秩序に偏り切ったクラスも御免被る。そんなのはホワイトルームだけで十分だ。オレは自由を求めてホワイトルームを脱走したのだから。それが、たとえ束の間のものだとしても。

 そして一般的に、自由とは秩序と釣り合いが取れてこそ、その重みを感じるものらしい。

 だから、自由だけが目立っていてはダメなのだ。そんなのは、オレが求める環境足り得ない。

 入学してから僅かに一週間しか経っていない。一週間しか経っていないのだが、オレが自身の所属するクラスに見切りを付けるには十分過ぎる条件が揃ってしまっているのだ。

 教師が放任主義なのをいいことに、遅刻・居眠り・無断欠席をする生徒は後を絶たず。授業中の私語や携帯操作もまた然り。そして、それを注意する生徒もいない。

 アクセル踏みっぱなしで法定速度を勢いよくぶっちぎっていながら、ブレーキは壊れている。そうと分かって、そんな事故車にすき好んで乗り続ける者などいないだろう。

 

「質問だが、オレがBクラスへの移籍を希望すれば、神崎は歓迎してくれるか?」

 

 本を選びながら、オレは神崎へと問いかけた。

 

「クラスの移籍……? 確かに考えないではなかったが、そんなことが出来るものなのか?」

 

 神崎もまた本を選びながら、しかし返答を寄越すのではなく訊き返してきた。まあ、無理もないだろう。クラス移籍なんて早々思い付くものではない。いや、思い付きはするかもしれないが、おそらくはこれまでに培った常識が自己の中にボーダーを設け、それ次第では自己判断でブレーキをかけて否定してしまうのだ。言葉を聞く限り、神崎もこの口だと思われた。

 一方のオレには、そんな常識など存在しない。決して存在しないわけではないが、付け焼刃であるが故にボーダーを設けられるほどではないのだ。

 

「この学校では()()()()()()()()()()()()()()んだろう? なら、理屈上は出来ない方がおかしいだろう。費用面で無理、ということはあるかもしれないが……」

「……なるほど。言われてみれば尤もだな。――おっと。先の質問に関してだが、まあ綾小路のことは嫌いではないし、クラスのルールを守れるのであれば、俺個人としては歓迎するが」

「そうか。その言葉がもらえただけで十分だ。ここは一つ、それを目標に頑張ってみるとしよう。

 環境に不満を持っているなら、大別して選択肢は三つだ。一つは諦める。二つ目は環境の是正を試みる。三つ目はより良い環境に移る。……そして、オレは三つ目を選択することにした。言葉にするならそれだけのことだな」

「まあ、言うだけなら簡単だろうが、まず間違いなく移籍費用は高いだろう。何かしらのプランでもあるのか?」

 

 神崎への返答を先延ばしにし、オレは図書室内を見回した。

 割と多くの生徒が席に着いている。この中には同級生もいれば先輩もいることだろう。――だが、オレが注視するのはそこではない。

 見付けた。言葉には出さず、オレは心中で呟くのだった。




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