ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「……どうだろうか?」
そう、綾小路清隆は問いかけた。
「……お前、スゲえな」
「ああ。何度もそう思わされてきたのは本当だが、今回も同様だ」
「んで、これを俺たちにもやれって?」
「ですが、楽しそうではありますよ。それに、女子だけにやらせるのも、それはそれで不誠実というものでしょう」
ある日、星之宮クラス男子生徒の間でそんな会話が行われていた。
そして彼らは、とある決断をした。
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ジャンジャカと音楽が鳴る中で、リズムに合わせて踊っている生徒がいた。
鳴っているのは、とある人気男性アイドルグループの曲であり、踊っているのは男子だった。綾小路清隆である。
その振り付けはオリジナルと遜色なく、完璧と言えるほどに模倣していた。……そう、ダンスだけは完璧である。文句の付けようもない。――しかし、重要視されて然るべき表情は、相変わらず『無』を刻んでいた。
音楽の終了に合わせてダンスも終わり、グラウンドには拍手喝采が響き渡った。
「カッコよかったよ、清隆くん!」
中でも盛り上がっているのは帆波だった。ダンスを終えたばかりの清隆に笑顔で駆け寄ってタオルとドリンクを差し出す。
九月を迎えたとはいえ、まだまだ暑い日々が続いている。そんな中でダンスを行ったのだからさしもの清隆も汗を掻いて然りだし、水分補給の必要性は否めなかった。
「好評なようで何よりだ。女子にばかり踊らせるのもどうかと思ったんでな、男子の方でも踊ることにしたわけだ」
「まあ、どこまで出来るようになるかは分からないのが正直なところだけどな……」
「けどまあ、それはそれで楽しそうだしな!」
清隆の言葉に神崎と柴田が続いた。そのことから、男子の方ではすでに意思統一が為されていることが分かる。
そして今までとは違い、その日は男子が踊ることになった。女子はそれを横目に体育祭の練習を図る。最初のうちは身が入らない生徒が多かったが、繰り返し見ていれば物珍しさも薄れるのが道理。自然、その後は練習に支障が出ることはなかった。
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「クラス逆転を狙いたいのは本当だけど、僕たちの場合、それを実現するには地力が足りなすぎるんだ。そんな状況で無理に成り上がりを目指したところで、そして仮に逆転が叶ったところで、僕らの負担が増すだけだ。
結局は『クラス評価』が物を言うわけだからね。どれだけ優れた『個』がいたところで、それが『クラス』という『組織』として機能しなければ勝ち目なんかありはしないんだ。
どれだけ『王』や『将』が優れていても、『騎士』や『兵士』がその命令を遂行できなければ意味はない。だから『個人の能力』は必要不可欠だ。
その一方で、どれだけ命令が理に適っていても、それが『騎士』や『兵士』を蔑ろにするものであれば、『組織』として上手く機能する筈がない。だから、『団結』も必要不可欠だ。
早い話、落としどころの模索は欠かせない。だから、今は闇雲にCPを目指して奮闘するよりも、クラスメイト一人一人が地力を上げ、その一方で連帯感の向上を図るのが先決だと判断した。
幸い、という言い方は変だけど、僕たちは入学早々にCPがゼロになったこともあり、最底辺の生活に慣れているんだ。だからこそ、それを最大限に活用するべきだと思う。敢えて最下位に身を置き続け、虎視眈々と爪を研ぎ、ハングリー精神を養い続ける。
その上で、ここぞというタイミングで牙を剝く。僕たちにとっては、それが最適な戦術であり、僕たちが真に『Aクラスでの卒業』を叶えようとするならそれ以外に手はない。
ヘタに『勝って負けて』を繰り返すと、他クラスの警戒心だって維持され続ける。けれど、常に最下位を維持し続ければ相手はどうする? 警戒心だって長続きするもんじゃない。自然と僕らから目は外れるだろう。
それは油断や慢心を招く。その分だけ僕たちの勝算は高くなる。眼中に入れていなかった相手に負けたら相手はどう思う? どうなると思う? ――まず間違いなくショックを受けるだろうし、それによって過剰に調子を落としたとしても不思議はない」
そう言われたら否定はできなかった。
「仮に、今回の体育祭で50CPを得るために最大限努力し、それが叶ったとしよう。短期的には喜べると思う。――けれどその場合、まず間違いなく次の筆記試験で退学者が現れると思うよ」
「何でだよ? 個人成績で上位を取れば、次のテストの点数にプラスされるんだぜ」
「人間っていう生き物は、そこまで
今は体育祭に向けて体育の授業が増えている。だけど、体育祭が終わったら元の時間割に戻るか、或いは体育の授業が減らされて他の授業が増えると思う。いずれにせよ、座学の密度が上がるのは間違いない。
身体がクタクタになるまで頑張った直後、今度は頭を酷使させられるわけだ。
率直に訊くけど、須藤くんはその状況に堪えられるかい? 万全とは言わずとも、順調なコンディションで筆記試験に臨めると思うかい? テストの点数が上乗せされれば乗り越えられると断言できるかい?」
「そう言われりゃあ、自信はねえな……」
相次ぐ平田の言葉に気圧されながら、それでも須藤は口を開いた。
そしてそれは、須藤だけではなく大半の生徒に共通することだろう。
「目先の利益に釣られた結果、退学者を出すことになっては意味がないからね。今回の体育祭、『CPへのダメージ』は必要経費として織り込むしかないんだ。そうせざるを得ないのが僕たちの実情であり、僕たちのクラスはそれだけ弱い。
まずは、そのことをクラスの全員が認める必要があるんだ。そこを疎かにしたまま『上』を目指したって上手くいく筈はない。
その上で、
それはどうしようもないほどに冷たい意見であり、どうしようもないほどに現実的な意見でもあった。
「だからまあ、二番煎じではあるけど、僕たちも星之宮クラスと同じ方法を取る。最低限に決めるところだけを決めたら、あとはオークションに掛ける」
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などというやり取りが茶柱クラスではあり、『程々に頑張る』が今回の方針だ。しかし、それはあくまでも方針にしてスローガン。
個々人の地力が低いからこそ、練習自体は真面目に臨まなければならない。とはいえ、そのことに理解は示せても、納得できる者たちばかりではない。そもそもにして体育が好きではない生徒なら尚更だ。
だからこそ、そんな彼ら彼女らが星之宮クラスの練習風景に羨望を抱くのは無理からぬことでもあった。
「すっごい楽しそうなんだけど!」
「それな」
「それね」
一人が羨望を口にすれば、相次いで追随の言葉が放たれる。
「何だって走らなきゃならないんだよ?」
「体力や運動神経を測るだけなら、ダンスだっていいじゃん」
「確かに個人の実力を測るのは大切だと思うけど、集団ダンスなら連帯感とか協調性だって測れるんだよ?」
そんな不満が次々と放たれる。
そして、平田はその声を蔑ろに出来ない。
「じゃあ、僕たちもみんなで踊ろうか?」
「はあっ!?」
「本気かよ!?」
「いいの!?」
平田の言葉に、良くも悪くも驚愕の声が上がる。
「もちろん本気だよ。きちんと理由もある」
それらの声を前にして、しかし平田は冷静さを保ったままだ。
そうなると、周りも『まずは理由を聞いてみよう』という気にもなる。一種の慣れだった。今までも、平田の言い分に『明確な間違いがない』のも大きい。
「まず、前提として僕たちは全体的な連帯感に欠ける。クラスとしてのチームワークに欠けているんだ。もちろん、ある程度以上親しい間柄であれば話は別かもしれない。だけど、そうでなければ趣味や好物、嫌いな物なんかを知らない相手の方が多いだろう?
まあ、そこら辺については、よりプライベートなことだから知らなくても問題はない。だけど、本当にAクラスを目指すつもりなら、『誰が何を得意で、何が苦手か』を全員が知っておくのが必須条件だ。
何せ、僕たちのクラスは
平田のその意見を、誰も否定はできなかった。
事実、初期A~Cクラスにはクラス毎に分かりやすい『方向性』――言い換えれば『強み』が存在する。
一方、確かにDクラスにも分かりやすい方向性は存在するが、それは『劣等生集団』だの『不良品』だの『個性の闇鍋』だのといったものであり、強みには直結しない。
「でも、将来、実社会に出た時の想定としては妥当なものだとも思うんだ。世の中、『その会社、その仕事を目的に入社する人物』ばかりじゃないからね。『ただの勤め先・収入源という意識で入社する人物』だって多いだろう。当然、仕事に対する意識だって違ってくる。
会社であれば、会社の方針に従わない人物をクビにすればいいだけだろう。事実、この学校だって赤点で退学させたりしている。そういう点では大差ない。
でもそこで、『入社したばかりで慣れていないだろう? 諸君ら新入社員同士でグループを作ったから、まずは我が社に慣れることを優先してくれ。教育期間というやつだ。その間は必要最低限の実績だけを示してくれればいい。我が社はホワイト企業を謳っているからね』……と、こう言われたらどうなる?」
平田の言及したシチュエーションを聞き、生徒たちは唸った。
会社の作った新入社員同士のグループ=初期配置クラス。必要最低限の実績=赤点防止。……そういう風に考えれば、まんま自分たちの状況である。
実際、自分たちはこの学校の全貌を知ってもいない。慣れるための過程にあり、そういう意味ではまんま教育期間だ。
「グループ=クラスとしての連帯責任こそ科せられるものの、環境に適応してしまえば決して過ごしにくくはない。個人の実力と努力次第では個人ボーナス=PPを稼ぐことも出来たりと、割と自由性も高い。
これは僕の想像でしかないけど、上場企業の従業員というのは、須らくこういうものなんじゃないかな?
個人にかかる責任は大きいけど、成果を出す限りにおいては自由度も高い。必要以上の責任を背負いたくないのであれば、その分だけ自由度は低くなるけど、『グループの一員』としての立場に終始すればいい。そこは個人の自由で、会社も必要以上に口は挿まない。
その上で、成果を出せば出すほどに他の目に留まる。個人としても、グループとしても。それによって待遇が良くなることもあるだろうし、場合によっては他グループへの移籍もあり得るだろう。
言ってしまえば、この学校自体が『上場企業の疑似体験場』なんだと思う。そう考えれば、莫大なポイントが支給されることにも筋は通る。きっと『大金を使う感覚に慣れさせる』目的があるんだよ。
その証明は高円寺くんがしてくれる。僕たちの大半にとって、夏休みに乗った船はまさしく『豪華客船』に他ならなかった。だけど、『高円寺コンツェルン』の御曹司である高円寺くんにとっては、『民間船』と大差なかったんだろう?」
「おやおや、そこで私に訊くかい? まあ、平田ボーイの言う通りだねえ。まさしく、私にとっては『民間船』と大差なかったよ」
平田の説明を聞いた上で言われると、これまでは『嫌味』にしか感じられなかった、その言葉の印象が変わってくる。
「高円寺くんは格別だとしても、常日頃から大金を扱う立場になれば、彼に準じた価値観にならざるを得ない部分は出てくると思う。
庶民が時給千いくらでバイトをしたり働いたりする中、上場企業の職員は軽く桁が違う額を仕事でも扱い、給料でも受け取っているんだ。庶民がスーパーの特売に目を凝らしてその成果に一喜一憂している中、彼らは一食に桁違いのお金を使うことが出来る。何せ、それだけの余裕があるからね。
正直、これで庶民と価値観が同じ方がおかしい。そして、そんな彼らにお金を使うのを渋られると、世の中には余計お金が回らなくなる。だから、彼らの価値観はそれでいいんだ。
そして、僕たちもまた『そういう感覚を身に着ける立場』になることを、この学校は求めている。
逆に言えば、だからこそ『大金を得る機会』は相応に用意されていると思うよ。大金を得られなかったら、それを扱う感覚なんて身に着く筈がないんだからさ。つまり、焦る必要はない」
平田の理知的な説明は、だからこそ相応の説得力を持つ。語る平田自身が焦っていないのだから、それも他者には『余裕』として映る。
「その一方、大金を扱う立場になる以上、『お金の価値』や『お金のありがたみ』を知っておかなければならない。重要なのは『必要と判断した事柄に使うのを厭わない』ことであって、お金があるからとホイホイ使うのを求められてはいないんだ。
そして残念なことに、僕たちのクラスには圧倒的に後者が多い。入学して一ヶ月で、一般的な高校生にとっては大金である筈の10万ポイントを使い切ってしまった生徒の数が、それを如実に物語っている」
平田のその言葉に、男女問わず何人かの生徒が唸った。その数は優に十人を超える。つまり、それだけその自覚がある生徒がいる証左だった。
「欲望は大切だけど、その欲望は真に『それだけのお金を使う価値』があるのかを、僕たちは常に自分に問いかけなければならない。
そう考えると、現在の状況は僕たちにとって最適だ。何せ、支給額は『大金とは言い切れない』額だからね。手持ちがゼロだと選択肢の生まれようもないけど、ゼロじゃないなら選択肢が生まれる。そこら辺の感覚を磨くには打ってつけだよ」
欲望は限りない。だから要不要の選択を迫られる。お金があるからと、選択もせずに全てを求めるのは愚者の振る舞いに他ならない。
「ちょっと話がズレちゃったけど、僕たちのクラスは元より『速成』を求められてはいないんだ。学校側に期待されているのはそこじゃない。
むしろ『大器晩成』だ。時間をかけてでもいいからゆっくりと成長していき、その末に他クラスと真っ向から渡り合えるようになることさ。たとえ一、二年の期間を捨てたとしても、三年の期間を勝ち続ければ十分に『Aクラス卒業』の目はある。きっと、そういう風にバランスが取られている。
方向性がバラバラってことは、言い換えれば『あらゆる方向に満遍なく対応できる』ってことでもあるんだからね。少なくとも、その可能性があることに他ならない。
そこを理解しないまま、ただCPを目指したところで大成なんかする筈がない。Aクラスに至ったところでその立場を維持できる筈がない。
自分たちの弱さを知り、自分たちの強さを知り、それを全員で共有し、協力し、局面ごとにエースやジョーカーを変更する。それが僕たちの取るべき正攻法であり、必勝法だ。――逆に言うと、それが出来ない内は『実力不足』ってことだね。
つまり、ダンスだって『やって損はない』ってことさ。確かに、体育祭に直接的に役立つことはないだろうけど、間接的には十分に役立つと思うんだ。チームワークや連帯感、協調性を育めるのはもちろん、リズム感覚を養えば二人三脚に活かせる可能性だってある。
何なら、ダンス特有のステップを学ぶことで、バスケやサッカーといった他スポーツに活かせる可能性だってあるだろう。
短絡的な見方で結論を出さず、思考を広げ、可能性を見出すのが重要だよ」
発言者が平田ということもあるのだろうが、その説得力は大きかった。
クラスメイト達も、そう言われればそんな気になってくる。
結果、茶柱クラスもまた、クラス一丸となってダンス練習に取り組むのだった。
星之宮クラスの場合、女子が踊るなら男子も踊るだろうと思いました。
ぶっちゃけ、『各クラスへの生徒の配置傾向』を鑑みると、Dクラスって『高度育成高等学校』が求めているだろう生徒の縮図なんですよね。
学力特化、体力特化、知名度特化、エゴ特化、コミュ力特化……あらゆる人材が寄せ集められているため、そんなのが一朝一夕で団結出来て『明確な強み』がある他クラスと渡り合える筈がないんです。
早期育成よりも大器晩成を狙うのが常道で、それが人事部の狙いであるような気もします。
何せ、期間は三年もあるんですからね。長い目で見れば可能性は十分にあるでしょう。
今までのDクラスは、担任含めてそのことに気付いてなかった可能性が高いです。結果、途中で諦観に支配されるのがパターンだと思われます。
そこに新風を入れるのが本作の平田です。
特別試験で大量のポイントを得た直後、『それを学校側に還元せよ』と言わんばかりの体育祭の仕組みを鑑みれば、平田であれば『ポイントその物』について深掘りして考えてもおかしくはありません。
そこから『学校の思惑』について思考を巡らせる余地は十分にあります。実際、それだけのスペックは原作時点で持ち合わせていると思います。
原作の平田が作中での高評価と裏腹に読者目線でパッとしない部分が目立つのって、結局のところ清隆と相反するスタンスだからだと思うんですよね。
本作の平田は『評価に見合うだけの能力を持った実力者』としての面を強調していきます。
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