ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第123話:園田正志と園田千代。

「よお、坂柳。突然呼び出してすまなかったな」

 

 カラオケの一室。

 待ち人が現れたことを確認した龍園翔は、ソファにふんぞり返ったまま、片手を挙げて歓迎した。

 

「いえ、構いませんよ。用件は『体育祭に関して』ということで相違ありませんね?」

 

 杖を突きながら部屋の中に進み入った有栖は、自身も対面のソファに腰掛けたところで口を開いた。

 室内にいるのは、龍園側が龍園翔、石崎大地、金田悟、山田アルベルト、伊吹澪、真鍋志保の六名。

 有栖側が、坂柳有栖、神室真澄、鬼頭隼、橋本正義、葛城康平、森下藍のやはり六名である。

 代表同士が笑みをぶつけあっている中で、室内に軽快な音が鳴り響いた。モニターに曲名が浮かび、映像が流れ始める。

 

「……おい」

「ちょっと、森下さん」

「私のことはお気になさらず」

 

 二人の視線と言葉を意に介すこともないまま、藍はそのまま歌い始めた。

 

「引っこ抜かれて、あなただけについて行く」

 

 歌声は素晴らしいが、何とも気が抜ける。『ストロベリー・フラワー』の『愛のうた』だ。

 これで緊迫した空気を維持できる筈もなく、かといってこの状況で藍を止めるのも面倒だ。アイコンタクトで意見を一致させた代表二人は、取り敢えず藍が歌い終えるのを待つのだった。

 もちろん、藍が歌っている間にデンモクは手元に寄せている。繰り返されたら堪ったものではない。

 

「ふぅ……。スッキリです。――おや? 話し合いはよろしいのですか?」

 

 歌い終えてマイクをテーブルに置いた藍は、不思議そうに有栖と龍園を見やった。

 

「あの状況で話し合いなんぞやれるわけがねえだろうが……」

 

 ソファに背を預けた龍園は、如何にも怠そうに片手を振りながら口を開いた。

 

「まったくです」

 

 龍園ほどではないにしても、有栖もまた疲れているのが眼に見えた。

 

「体調管理はシッカリしないといけませんよ?」

「誰のせいだと思ってやがる!」

「誰のせいだと思っているのですか!」

 

 ドラゴンボーイとリトルガールは思わず叫んだ。

 

「これは失敬。――ですが、緊張も程よく解れたのではないですか? バチバチしたままだと見つかるものも見つからず、着地出来る箇所も着地出来なくなりますよ?」

 

 やはり二人の態度を意に介することもなく、藍は言葉を続けた。

 その言葉を聞けば、今のが意図した行為なのは明らかだった。そして、龍園も有栖もその言い分を否定はできなかった。

 物事に程よい緊張感はあった方がいい。だが、それも行き過ぎてしまえば足を引っ張るだけになりかねない。

 そして、両者は『クラス闘争』が敷かれた学校における『異なるクラス』だ。学校に踊らされるつもりはないとはいえ、それでも評価基準を気にしないわけにはいかない。全く気にしなければ毎月のポイントさえ得られなくなってしまうし、ポイントが得られなければ取れる手段も格段に減ってしまう。

 そういった実情が、両名の緊張感を()()()()()()()()()()可能性は否定できない。

 藍の言葉でそこら辺を思い知らされた二人は、深呼吸を行った。

 

「今回の体育祭、極論を言えば『真っ向勝負』が物を言う。搦手が使えなくはねえが、その効果は微々たるもんだろう」

「ええ。そして、紅組に所属する両クラスが『参加表をオークションに掛ける』ことを公表した時点で、更に限定的になります。ある意味では『無駄が省かれた』ことになりますが……」

「両クラスの参加表情報を調べる必要性が無くなっちまったからな。――そして、こうなると俺達の取れる手も二つしかねえ」

 

 龍園が口火を開けば、すかさずに有栖が続いた。前提のすり合わせ段階だが、まずは上手くいっている。

 それを確認した龍園は指を二本立てた。

 

「わたしたちもまた『参加表をオークションに掛ける』か、『チームとして一致団結するか』ですね。

 ですが、前者は意味が薄いでしょう。クラス単位として見れば利はあるかもしれませんが、チームとして見れば利は薄い。紅組に先手を取られたとあっては尚更です。利己を追究するが余りにチームを蔑ろにしたとあっては、間違いなく評価は下がるでしょう」

 

 有栖もまた、指を一本ずつ立ててそれに続いた。

 

「そこだな。『相手を振り回す』という効果があるからこそ、先手を取った星之宮クラスはむしろ評価される」

「また、今回の体育祭がチーム戦、おまけに組み合わせがAとD、BとCで固定だからこそ、猿真似をした茶柱クラスもマイナス評価に繋がることはないでしょう。『勇気』と『蛮勇』は異なります。クラス分けが『実力評価順』という根底があるからこそ、むしろ『身の程を弁えた選択』――言い換えれば『理性的な選択』と受け取られるでしょう」

「だが、敵対チーム、かつ後出しとなる俺達には、同じ方法を取ったところでプラス評価に繋がる余地がねえ。それこそ『猿真似』としか受け取られず、むしろマイナス評価を食らう可能性もある」

 

 補足に関しても相違なし。

 基本、この学校では当たり前のことを当たり前にやっていればマイナス評価を食らうことは無い。しかし、『参加表のオークション』はルール違反に当たらないだけで『当たり前の行動』ではない。むしろ『搦手』の部類だ。だからこそ、単なる猿真似はマイナス評価を食らう可能性が否めない。

 

「そこまで思考が回れば、私たちがするべきは『説明されたルールに則り、真っ当に参加表を作成すること』に帰結します」

「だが、直接的な報酬を得られるのが一クラスな時点で、チーム戦が名ばかりであるのは自明の理だ。

 その上で、チームの利のためにクラスの利を捨てられるか。今回限りの味方を信じられるか。……俺達はそこを測られることになる」

 

 チームの潰し合いを避けようと思えば、双方の参加表を共有しあうのが一番だ。そこに否はない。

 しかし、直接的な報酬であるCPを得られるのは、四クラス中一クラスだけなのだ。その事実が、本格的な協力に対して及び腰にさせるのも否めない。だからこそ、本当の意味で異なるクラスが手を結ぶのは難しい。

 それはどう足掻いても否定できない事実であり――

 

「組むぞ、坂柳」

「組みましょう、龍園くん」

 

 それでも手を結べるだけの度量が二人にはあった。同時に放たれた言葉がその証明だ。

 

「確かにCPは欲しいし惜しい。得られるもんなら得てえさ。それは事実だし否定する気はねえ。――だが」

「それ以上にポイントで飼い馴らせると思われる方が不快。……違いますか?」

 

 龍園のセリフを奪うように有栖が言葉を紡いだ。

 

「違わねえ。同時、先日は一之瀬の奴が体育館でさんざっぱらと御託を叩いてくれやがったからなあ。ここで『最低限の協力』すら無視して『自分たちの利』だけを求めるようだと、自分たちの『人間の小ささ』を表明するようなもんだ。

 必要とあればそうした判断を下すのも辞さねえつもりだが、生憎と今はその時じゃねえ」

「先はまだ長く、私たちのクラスもそちらのクラスも、まだ余裕はありますからね」

 

 どちらのクラスも、200ポイントのCPマイナスを食らったところでDクラスに転落するわけではない。その上で、まだ二学期を迎えたばかりなのだ。ここで遮二無二CPを獲得しに行くのは、逆に余裕のなさを示す行為に他ならない。

 

「ですが、此度の体育祭は『チーム対抗戦』であると同時に『クラス対抗戦』でもあります。そこでどうでしょう、私たちの方でも一つ試してみませんか?」

「あん?」

「敢えて互いのクラスのエース同士をぶつけるのです。そして、その事実をそれとなく流す。……どうなりますかね?」

「ヘッ、面白え。一種のエンターテインメントを行おうってわけだ。勝敗の分かりきった勝負なんざつまらねえ。観衆が求めるのは、いつだって結果の分からねえ血沸き肉躍る戦いだ。

 或いは、そういうエンターテインメントに理解を示す気の利いた先輩が、紅組の参加表に干渉してくれる可能性もある」

「或いは、学校側もですね。『ランダム』とは言ってますが、『実際の決め方』は生徒には周知されませんからね。教師による『人為的な干渉』があったところで不思議はありません」

「雑魚同士の戦いでも、実力が拮抗してるなら見所があるかもしれねえのも事実だ」

「フフフ……」

「ククク……」

 

 互いの顔を見合い、龍園と有栖は笑いあった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「どうする?」

「どうしよっか?」

 

 町中のカフェで相席し、顔を見合わせている二人がいた。

 一人は坂上クラスの男子、園田正志。

 一人は茶柱クラスの女子、園田千代。

 同じ苗字から分かる通り、この二人は家族であった。――しかし、実のところ両者の間に血の繋がりはない。共に養子である。

 

「将来の助けになればと思ってこの学校に来たわけだが、まさか清隆がいるとは思わなかったしなぁ~」

「それで言うなら雪もね。まあ、雪については覚悟してたし、前情報通りに記憶喪失ではあったみたいだけど……」

 

 この二人、『ホワイトルーム』における『魔の四期』の脱落者であり、精神崩壊しきらなかった希少例でもある。

 そして、『最後の四人』の二番目と三番目でもある。カリキュラムを最後までクリアできたのは清隆ただ独りだけであるわけだが、『ベスト〇』に入っているだけで出資者やらの外部からの個人評価は高くなる。

 まあ、だからこそ孤児院に入れられる筈だった二人を囲い込む家があってもおかしくはなく、こうして『束の間の自由』を満喫できているわけだが……。

 そして、その立場が故に、家にいた頃は同期の情報を可能な限り家から与えられていた。それとて多分に限定的ではあったが、同じく希少例である雪の情報は優先的に与えられていた。だから、『清隆と再会したのを機に雪が記憶喪失になったらしい』という話も聞いてはいた。

 また一人同期が壊れたことに悲しみを覚え、けれど、その後は人間らしい生活を送れているとも聞いていたので安堵した。同期から『共通の過去』が消えたのは悲しいが、それでも『ホワイトルームの呪縛』から解き放たれたのも事実なのだから。

 

「『園田』の家も、ただの善意で俺たちを拾い上げたわけじゃない。あそこを脱落したのは事実だが、それが『実力がない』ことにはならないからな。つまりは家の役に立つことを求められている」

「でも、あそこに比べれば十分にマシ。確かに無償の愛じゃないけど、それでも愛情は与えられた。『人並みの生活』を送ることが出来た。だから家の役に立つことを求められても否は無い。むしろ、進んで役に立ちたいとも思う」

「それは俺も同感だ。そして、選択肢を広げる上で『ブランド価値』ってのはバカに出来ない。だから、大層なお題目を掲げるこの学校にやってきた。――わけだが、まさかそこで一種の『同窓会』じみた状況に置かれるとは思わなかった」

 

 記憶喪失になった人間が、それまで通りの生活を送れるわけがない。そういう意味では、『家族との距離を置く』意味で雪が訪れるのも覚悟はしていた。『三年間の許可なき外部連絡の禁止』は極端と言えば極端だが、だからこそ『強制的な鎮静化』を図るにはもってこいでもある。

 だから、雪がいたのは問題ないのだ。――問題なのは清隆である。

 園田の家も清隆の情報までは掴めなかった。『ホワイトルームが稼働停止したらしい』という情報は掴めたが、精々がそれくらい。

 そして、そんな薄っぺらい情報しか持ってないわけだから、清隆がここにいる理由が分からない。自分たちのように施設を抜けてここに来たのか、はたまたホワイトルームの意向でやって来たのか。どちらの可能性も十分にあり得る。

 分からないから様子見をしていたわけだが、やはり分からない。

 

「いや、あそこにいた頃の清隆ならハーレムなんて考えられない話でもあるからな。そういう意味ではあそこの意向じゃなさそうではあるが、人を『駒』として使うための、より実践的なカリキュラムである可能性も否定はできない」

「反面、本当に抜け出してきた可能性も否定はできない。そして本当にそうであったなら、私たちの存在を気付かれた場合、刺客と勘違いして潰されそうだしねえ~」

「まあ、現時点じゃ眼中に入ってなさそうではあるがな。だが俺たちの目的を考えれば、いつまでも力を隠してはいられない。遅かれ早かれ気付かれるだろう」

 

 様子見をした結果、二人の知る清隆らしからぬ行動を取っていることは分かる。分かるが、だからこそ二人は困惑せざるを得なかった。

 同時、自分たちの安全性を考慮すれば、様子見をするにしても遠巻きにせざるを得ず、必然的に入ってくる情報は少なくなる。

 

「力を出すんなら、今がギリギリではあるだろう。これ以上力を隠し過ぎれば、いざ出した際に周りからのヘイトが高まりすぎる。それは旨くない」

「それは同感。うちのクラスなんか特にね。平田くんが統制し始めたとはいえ、程度の低い人間が多過ぎる。そして、そういう奴に限って無駄に声がデカい」

「うちのクラスも然程変わらないけどな。内心、龍園の統制に不満を覚えている奴は多い。そんだけ短絡的ってことだが……」

 

 元より三年という期間があり、重要なのは最後にAクラスであること。――だというのに、CPが生活費と直結していることもあって、『目先の利』を重視してしまう生徒が余りにも多過ぎるのだ。

 

「はぁ……。やりますか」

「ふぅ……。やらざるを得ないだろうな」

 

 賭けになる部分は大きい。清隆が敵対してくる可能性は捨てきれない。――それでも、これ以上の様子見は二人の目的を果たす上で悪手でしかない。クラスへの影響力という点でも、学校へのアピールという点でも。

 

「まあ、たぶん大丈夫だろう。根底はそう変わらないかもしれないが、表に出す部分があの頃とは明確に違っている。それだけでも十分に目はある。要は『本格的な敵対』が避けられればいいんだからな」

「そう願うよ。そっちはともかく、私は間違いなく敵わないからね」

「俺だってそうさ。勝てたのは最初だけ。後はずっと負けっぱなしだった」

 

 答え、正志は暫く瞑目した。思い出すのは、いつぞやの柔道勝負。こちらの差し出した手を、ついぞ清隆が掴むことはなかった。

 

「清隆、お前は変わったのか? 外の世界に興味を抱いたのか?」

 

 正志の問いに答える声はない。当然だ。答えられる相手はこの場にはいないのだから。問いかけは空しく風に流されていく。

 

「そうであることを俺は望むが……」

 

 やはり答えは分からない。

 分からないなら、本当に答えを知りたいなら、リスクを承知の上で踏み込み、調べるしかない。

 決意した正志は瞳を開く。

 

「行こうか」

「うん」

 

 そうして、義兄妹はその場を後にするのだった。




カラオケでの会合となれば、森下藍なら緊迫した場面でも気にせず歌ってくれると思います。
皆さんなら何をチョイスしますか?

で、坂上クラスの園田正志くんと茶柱クラスの園田千代さんを『魔の四期生』の脱落者、その中でもベスト2と3に仕立て上げました。
結果、高育の一年生組はベスト1~4が揃った一種の同窓会じみた場になりました。
一人も所属していない真嶋クラスの明日はどっちだ!?

この二人ってクラス違いで同じ苗字なのに、時任組と違って原作で特に言及もされてないんですよね。たぶんその筈です。調べ洩れならすみません。
逆に言えば、だからこそ関係性を捏造するのに都合が良かったです。

雪はトラウマ抱えて日常生活も難儀してる描写がされてましたけど、敢えて脱落したならその限りではないと考えました。
少なくとも、常識の不足から日常生活に難儀はしても、トラウマを抱えることはないかな……と。抱えたとしても、比較的軽度で済むんじゃないかな……と。

正志くんは原作でもサッカー部に所属していることが明らかになってます。
それが志朗を正志くんに宛がった一因でもあります。『志』の文字が共通してるのも一因です。
ホワイトルームでの経験から尋常な人付き合いが難しく、それでもなお人付き合いを求めた結果、『チームスポーツ』であるサッカーに行き着いた設定です。
サッカーなのは、中高にもありがちな一般的な球技であり、バスケ以上に一チーム当たりの人数が多いから。
野球じゃないのは、『結局はピッチャーとバッターの一騎打ち』と正志くんが考えたから。

で、志朗を正志くんに宛がった結果、0巻では情報が明かされていない『雪の後、志朗の前の脱落者』を千代さんに宛がった次第です。
雪も志朗も、孤児なのかそうでないのかが明らかになってませんので、本作では孤児扱いで、園田家に引き取られた設定です。その際に名前も変わりました。

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