ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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今話は特に賛否両論あると思います。


第125話:司城大河←→蒼炎のカイト。

「おいおい、マジかよ……」

 

 息を切らせながらそう零したのは、真嶋クラスの橋本正義だった。

 今度の体育祭、組み分けられたチームに従い本格的な協力体制を取ることにした真嶋クラスと坂上クラスだったが、出走順やらを自分たちで決められるルール上、『有力者同士の潰し合い』を防ごうと思えば合同練習は欠かせない。

 言っても、入学してから一学期を終えて二学期を迎えているのだ。各クラス大体の実力者は既に判明している。――つもりだった。

 それが『つもり』でしかなかったことが、眼の前で明らかになっていた。

 こと身体能力を例に挙げた場合、真嶋クラスのトップは鬼頭隼で、坂上クラスのトップは山田アルベルト。特性に違いはあるものの、それが両クラスの共通見解だった。――しかし、眼の前の光景を見れば、その見解が誤りであったことを認めざるを得ない。

 園田正志。坂上クラスに所属する男子であり、サッカー部に所属している。『運動が得意で足が速い』という前情報はあった。そして、それを否定する要素はない。実際に足は速いのだから。――だが、過小評価にも程があったという話。

 

「龍園、俺は様子見を止める。Dクラスの千代共々、今度の体育祭から本気を出していく」

 

 合同練習の前に両クラスの真ん前で堂々と宣言した正志は、それが()()の類でないことを現在進行形で証明している。

 体力でアルベルトを凌駕し、速さで鬼頭を凌駕している。サッカーをしていることもあってか、ただ足が速いだけでなく身のこなしも上々。障害物を物ともしない()()()()()を有している。

 その上で、尚も余裕を見せている。余力を残しているのがあからさまに分かる。

 

「驚きましたね。よもや、これほどの隠し玉を用意していたとは……」

「チッ。そうじゃねえのはお前だって分かってるんだろうが、坂柳。園田は隠し玉でも何でもねえよ。何せ、俺だって気付いてなかったんだからな」

 

 有栖が感心したように呟いて横目で龍園を見れば、龍園は不機嫌そうに舌打ちして零した。

 トップの把握していない特記戦力を『隠し玉』とは言わない。『隠し玉』とは、あくまでもトップが把握していてこそだ。

 

(嘘ではなさそうですね……)

 

 その様子を見て、有栖はそう判断する。

 それすなわち、龍園の統制も完全ではない証明であった。――だがその一方で、こうして『隠していた実力』を自ら披露する辺り、正志が龍園を悪く思っていないのも明らかだった。

 

「しかし、参りましたね。園田くんが本気を出してくれるようになったのはありがたいですが、それが事実である以上、Dクラスの戦力も底上げされたことを意味します。

 付け加えると、うちのクラスには直接的な得がありません」

 

 今回の体育祭は『チーム対抗戦』だが、同時に『クラス闘争』も含まれているのだ。その点で見れば、有栖の言い分は尤もだった。

 

「うちのクラスの場合、『隠れた実力者』がいる可能性は低いからなぁ……」

 

 有栖の言葉を聞いた葛城が唸る。

 今でこそクラス逆転をされて落ち込んでしまったが、元々真嶋クラスはAクラスだったのだ。つまり、基本的に高評価を受けていた生徒が集まっているのである。その実情を鑑みれば、『隠れた実力者』が所属している可能性は低かった。

 しかも、優秀な人材が集まっているからと言って、優秀なクラスとは限らない。現在の実情が、その事実を如実に表していた。

 有栖も葛城も『総合力』という部分においては他のクラスに劣っているとは思わない。むしろ一番だという自負がある。個人当たりの実力を比較すれば各クラスでも一番だろう。

 だが、自身の優秀さを自負すればこそ連携部分は拙く派閥争いが起こり、結果、一致団結した星之宮クラスに最優秀評価を取って代わられた過去がある。

 そこで一致団結できればよかったのだろうが、些細な差だったこともあってダメージを過小評価し、それが後の大ダメージへと繋がった部分がなくもない。

 

「正味な話、一対一の総当たり戦ならば内容次第で十分に勝ち目はありますが、そこに『勝ち抜き戦』が絡んだ途端に勝率はガクンと下がります。そこが我がクラスの欠点ですね」

「この光景を見れば否定も出来んな。例えばの話、五対五の勝負があったとして、先鋒に五人抜きされてしまえばそこまでだ。それを為し得る人材の数を比較すれば、我がクラスは他のクラスに明らかに劣る」

「コンスタントに優秀な人材が揃った弊害ですね。70~90点を取れる人材は豊富ですが、90点以上を取れる人材は少ない。そして高レベルになればなるほど、1点の壁は大きくなるのが道理です」

「そして、個人の質が優秀なればこそ、勝ち抜き戦の場合、負けると分かっている勝負に出さざるを得ない四人が戦力として無駄になる」

 

 どうしようもない現実だった。そして特別試験は頭に『特別』を冠する辺り、そういう試験があってもおかしくはない。

 

「おいおい、どうしたお二人さん。顔役が時化た顔を晒してるのは良くないぜ?」

 

 そんな二人に声をかけてくる男子がいた。クラスメイトの司城大河である。

 柔らかな顔立ちをしており、それに相応しく人当たりも良好。茶柱クラスの平田に並ぶほどの女子人気を誇る。

 

「おや、司城くん」

「司城か……」

 

 司城自身はどちらかの派閥に属しているわけではないが、これといって距離を取っているわけでもない。当初は物腰穏やかだったが、今ではクラスメイトとして砕けた口調を取っているのが証明だった。

 

「悩むことも大切だが、それで足が止まっちゃ意味がない。良いと思える事をやっていくしかないんだ。そうする事でしか、前に進めないからな。

 その姿勢が、いつしか人を集め、やがては仲間となる。そして仲間さえいれば、迷い、悩み、挫折することがあっても、どこまでだって進んでいける。それが人ってもんだ。……ちなみにこれ、実体験な」

 

 カラッとした人好きのする笑みを浮かべて司城は言った。

 その表情を見れば、有栖も葛城も悩んでいるのが馬鹿らしくなった。悩んだところで、一朝一夕でどうなるものでもないとなれば尚更だ。

 

「そんなわけで、俺も一つ仲間のために頑張りますかね。一朝一夕で効果は出なくても、堅実な努力が糧になるのは間違いないからな」

「それも経験談か?」

「そういうこと」

 

 片手を振りながら二人の元を後にした司城は、そのままグラウンドを走り始めた。

 

「俺も行ってくる。司城の言う通り、すぐに効果は出なくても努力をするに越したことはないからな」

 

 有栖にそう言い置いて、葛城もまた走りに向かった。

 

「ふぅ……。これが『疎外感』というものなのですかね……? 今までは然程感じたこともなかったのですが……」

 

 確かに回復に向かってはいるが、それでも体育祭では役に立てぬ自分に、有栖は『苛立ち』と『やるせなさ』を覚えるのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 周りからはそうと思われていないが、これで司城大河という人物は重度のゲーマーであった。本人は『重度のゲーマー』であるなどとはこれっぽっちも思っていないが、端から見れば大差ない。

 また、司城自身はそう言われたら否定できない部分があるのも認めてはいる。

 中学二年の頃、転校先で出来た友人であるヤスヒコに誘われて始めた、世界的ネットゲームである『The World』。その初ログイン、初冒険の際に特大のイレギュラーに巻き込まれたのが、司城が『The World』にのめり込むことになった原因と言える。

 正体不明の仕様外モンスター『スケィス』に襲われ、そこでヤスヒコのPCである『オルカ』は司城のPCである『カイト』を庇い、結果として『未帰還者』となってしまった。

 未帰還者とは、『The World』をプレイ中に意識不明に陥ったプレイヤーの総称であり、原因が『The world』に存在し、現代医学では治療が不可能である点が共通項として挙げられている。

 しかしながら、プレイヤー数に対して未帰還者の割合は少なく、一般的なプレイヤーの間では然程深刻に囚われることもなく、精々が噂レベルだった。

 司城は初プレイでガッツリとそれに関わることになってしまったのである。

 その後は、何やかやとありながらも『The World』での冒険を続け、仲間を増やし、ついには事態を解決に導くに至った。

 その過程で、小賢しいだけの子供だった自分が成長できた自負が司城にはある。

 約半年という期間でヤスヒコを意識回復させ、それ以後も後始末に精を出していた。――と言うより、出さざるを得なかった。

 元凶を退治しても、末端のバグを放置したままでは、いつまた未帰還者が現れるか分かったものではない。そして、相手がバグであるからこそ、根本的な対処を可能なのが、イリーガル仕様となったカイトくらいしかいなかったのだから。

 そうこうしている内に、復活したオルカから仲間共々『.hackers』の称号を授けられ、自身は『蒼炎のカイト』の異名で呼ばれるようになっていた。

 だがまあ、司城的に仕方ないと言えば仕方ないことではあるが、オルカが未帰還者になってからは生活のほとんどを『The World』に費やすことになってしまったのも事実である。

 その後も、二回ほど現実味のない冒険に繰り出すことになってしまい、今度は自分たちが未帰還者になってしまったりもした。

 それによって得られたモノがあるのも事実だが、詳しい事情を知らぬ者にしてみれば、『重度のゲーマー』以外に表現のしようがないのも事実である。それは認めざるを得なかった。

 また、家族にも心配や負担をかけてしまった。

 司城自身はそもそもが堅実志向なタチだ。サッカーに模型作りと、アウトドアとインドアな趣味を持ち、ハンバーグ、カレー、肉じゃがなどの定番チックな料理を好み、自身でも作ったりする。貯蓄したお年玉で自転車を買ったりなどといった面に、それが表れている。

 である以上、ヤスヒコや他の未帰還者たちが復活し、『The World』も安定したのなら、『The World』と距離を置くには丁度いいタイミングでもあった。

 そんなわけで、今度は日常の方に重きを置くことに決め、それもあって『国内有数の進学校にして名門校』の看板を誇る『高度育成高等学校』にやって来たのである。

 まあ、その実態は想像以上に厳しかったわけだが、それでもかつての冒険に比べれば大したプレッシャーではない。

 また、勝ち負けの重要性は分かるが、過度に拘るつもりもないのが司城のスタンスである。

 それぞれに『理由』があり、『誰とでも分かり合える』などと綺麗事を言うつもりはないが、『落としどころを見定める』ことが出来るのは実体験で知っているのだから、クラス内の派閥争いも、クラス間の闘争も、司城としては知ったことではなかった。

 司城にとって重要なのは、この学校生活を自らの糧とすることだ。学校生活そのものを心身ともに充実させて過ごすことだ。たとえAクラスで卒業できたところで、自身が成長できていなかったり、過程を楽しめないようでは意味がない。

 だから、派閥関係なく、クラス関係なく、司城は生徒と交流を育んでいった。どれだけ能力が高くても、どれだけチートを誇っていても、個人で出来ることには限度があるのだ。最後にモノを言うのは『人同士の繋がり』=『人脈』であることを実体験で知っているのだから尚更だ。

 まあ、クラスメイトから戸塚という退学者が出てしまったのは残念ではあるが、それも戸塚の行動の結果である。

 そりゃあ中には割り切れないことだってあるけれど、割り切るのが必要なことだってあるのだ。むしろ、それが出来なきゃ『落としどころ』なんて見付けられる筈がない。

 そんなこんなで一学期を過ごし、特別試験を乗り越え、夏休みも過半を過ぎたある日、司城はかつての仲間と()()()()()()()を果たしたのだ。

 

「やあ、司城大河くん。この場合の挨拶は『はじめまして』と『久しぶり』、どちらの方が正しいかな?」

 

 そう気さくに話しかけてきた男を司城は知っていた。正確には『The World』のPCであるカイトとして面識を持っていた。

 天斎小吾郎。『現実味のない冒険』――PCボディで現実世界に飛び出してしまったのだ――の際に出会った男性であり、その時の仲間。当時は探偵事務所を営んでいたが、その後は政府の特務機関である『森羅』に身を寄せたと聞いている。

 普通ならリアルの身バレをしていることを危惧するべきだろうが、状況が状況だったし、相手は忍者であり、今では政府機関の一員だ。それを思えば、リアルが知られていたとしても不思議はない。

 

「どちらでも構いませんが、ここは『はじめまして』にしておきましょうか。……はじめまして、天斎小吾郎さん」

「うん、はじめまして。……実は、君に協力をお願いしたいことがあってね。こうして声をかけさせてもらったんだ」

「協力……ですか?」

「そう、協力」

 

 そうして小吾郎が語ったことは俄かには信じ難い内容ではあったが、かつての冒険を思えば十分に信じられる内容でもあった。

 何せ、一般に『オカルト』や『ファンタジー』に分類されているものが、割と溢れているのが世の中というものだ。

 ヤクザや悪の秘密結社は言うまでもなく、吸血鬼もいれば夢魔もいるし、ゾンビもいれば霊媒師も存在する。何なら女神だっている。

 そういう異種族は普段は住んでいる世界こそ違うものの、言わば『国の違い』みたいなものであり、方法さえ知っていれば互いの世界の行き来も可能である。

 世界という『枠』の捉え方次第では、十分に『同じ世界』と言えるだろう。

 そんな実情を知っている身にとっては、同期生に『現人神』がいたり、その影響で『超常の力』に目覚めた存在がいたり、魔法使いがいたりなどは、然して驚くべきことではない。

 

「……お話は分かりました。そういうことなら協力させてもらいます。――と言っても、『カイト』でない以上は情報提供ぐらいしか出来ないでしょけど……」

「それでも十分に助かるよ。正味な話、()()()()の実情を知ってて、その上で理解を示してくれる存在なんてのは貴重でね。

 それに、以前と違って今の君は生身だからね。こっちだって無理が言えないのは分かってるよ。――それでも、協力を頼まざるを得ないのが実情なわけなんだが……」

「ははは……。まあ、武器さえあればもう少しお役に立てるかもしれませんが、素手ではどうにも……」

 

 苦笑した司城は、自分の事情を語った。

 小吾郎と出会った一件。リアルでは『未帰還者』となって眠りに就いていながら、その精神はPCボディで活動し続けていた特異な過去。

 その事実は、プレイヤーである司城にも()()()()()を齎していたのだ。

 何せ、『未帰還者』とは意識不明の寝たきり状態だ。その状態でコントローラーなど動かせるわけがない。――にも拘らずPCボディを動かせていたという事実は、司城の精神そのものがPCボディの中に入り込んでいたことの証左となる。

 つまり、PCであるカイトとの同調が強まった状態、いわゆる『一体化』状態にあったのだ。

 そんな状態で濃密な戦闘経験を積んだことにより、それがある程度生身へとフィードバックされたのである。

 生身の身体能力そのものが劇的に向上したわけではないが、『理想的な身体の動かし方』が感覚的に分かると言うか、戦闘勘は上がっているし、限定的ながらPCボディでの双剣技も繰り出せるようにもなっている。木の枝を手に試したことで発覚した。

 逆に言うと、カイトはあくまでも『双剣士』に過ぎないため、格闘能力が上がったわけではない。

 

「それはまた、何とも数奇なことで……」

 

 事情を聞いた小吾郎は、取り敢えずそう言って肩をすくめた。

 

「まあ、事情は分かったよ。協力を持ち掛けたのもこちらであるし、うちの開発部の方に『君用の双剣』を用意してくれるように頼むとしよう。

 必然、カイトのリアルである君がここにおり、協力を持ちかけたことも伝えることになるが、構わないかな?」

 

 ここは確かに『陸の孤島』ではあるが、裏社会を知っていればこそ、どこがどう関わってくるか分かったものではない。龍園に有栖を始め、『爆弾になりかねない生徒』が多数所属していることもあり、備えは必要である。

 それは司城も重々分かっている。

 加え、幸か不幸か、この学校は謳い文句が謳い文句であり、オマケに容姿の優れた女子が揃っているため、シャドルー総帥に狙われないとも限らないのだ。『親衛隊は構成員全てが10代の少女』という事実が、その危惧を増させてしまう。

 である以上、武器を用意してくれるというのなら、それに甘えない理由はない。

 

「裏嶋さんですよね? 構いませんよ」

 

 まあ、そんな一件があり、以降、司城はそれとなく有栖や龍園に注意を払うことが多くなったのだった。 




というわけで、世界観をナムカプシリーズとクロスしたこともあって、少なくとも二年生編の終了まではモブであることが確定している司城大河くんを『.hack』の主人公である『カイト』のリアルに宛がいました。
彼が原作の三年生編でどうなるのかは分かりません。

どうも、『.hack』と『PXZ』は『本編からの地続き』であることが、『.hack』シリーズの開発元である『サイバーコネクトツー』の社長の口から語られているみたいなんですよね。
ソースは『アニヲタWiki(仮)』の『カイト(.hack)』の項目です。

なので、そこを活用してみました。
基本的にはゲーム準拠で、そこに『新約』の設定もある程度取り入れています。
『新約』はリアルが多く描かれたことによりカイトの『等身大の少年らしさ』も新たにされ、そこは素直に嬉しいんですが、パーティメンバー大半の活躍が省かれてる上に、カイトとの乖離が多い部分もあってモニョる部分も多々あります。
リアルとPCの違いって言ってしまえばそれまでなんですけどね。

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