ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「隆二、どうかした?」
アズに声をかけられ、神崎隆二は己を取り戻した。
「いや、どうもここ最近物思いに耽ることが多くてな……」
「物思い?」
「ああ。今まで自覚はなかったんだが、俺は相当な負けず嫌いだったらしい。お前や綾小路のように優れた能力を持つ人物も多く、最近は他のクラスも頭角や『秘めた実力』を表に出す人物が増えてきた。
良く言えば、それによって刺激を受けていることになるんだろう。頭ではそう理解している。出来ているんだ。
だがその一方で、心の奥底から声が聞こえるんだ。『勝て』、『負けるな』……と。
そして気付けば、
「それって……」
神崎の言葉を聞いたアズは言葉を失った。
内容なだけなら、特段おかしなことではない。クラスの雰囲気はともかく、学校のシステム上、とにかくこの環境は闘争心を刺激される。
『国内有数の名門校にして進学校』の肩書に恥じず、優れた実力を持った生徒も多く通っている。
だからこそ、神崎がその様に判断してしまうのも分からないではない。
だがアズにとっては、神崎の状態はそんな簡単に済ませられるものではなかった。何せ、話を聞く限りでは自分や兄と同じ状況なのだから。
「隆二、その衝動に決して吞まれないで。心を強く持って」
「アズ……?」
「隆二の状態は、もしかしたら私と同じかもしれない。一度衝動に吞まれると、その間は自分で自分を制御しきれなくなる。かつての私もそうだった。施設が与えるカリキュラムをこなしている最中に衝動に呑まれた私は、気付いたら対戦相手を壊していた」
その凄惨な光景は、今でもアズの脳内にこびりついている。
「っ……!? ……そうなのか?」
俄かには信じ難い内容に神崎は息を呑み、それでも頭からは否定せずに確認を取った。
「うん。もちろん、隆二の状態が完全に私と同じとは限らない。本当に、ただ
私や兄がいた施設は、『そういう素質』を持った子供たちが集められていた。それを開花させるために過酷なカリキュラムを施されていた側面もあった。相手をそんな目に遭わせて、怒られるでもなく褒められれば、そうとしか思えない。
そういう事実があったから、私と兄は施設を脱走することにしたの。
闘争から離れれば、衝動が襲いかかることはない。心を強く持てば、ある程度までは制御することも出来る。それは実体験で分かる。
だけど、完全に制御しようと思えば、何か『譲れないモノ』が必要で、当時の私はそれを持ち合わせてはいなかった。正直、今も持ち合わせているかは分からない。もしかしたら持っているのかもしれないけど、その自覚がない。
それでも、幸か不幸か、施設で半強制的に高められたスペックがあるから、今の私はこの環境でも然程闘争心を刺激されずに済んでいる。傲岸ではあるけど、『どうとでも出来る』っていう自信が根底にあるから」
アズとしても、清隆や南雲など、決して闘争心を刺激されない相手がいないわけではない。しかし、清隆は同じクラスなので『本格的な勝負』をすることはなく、南雲との勝負も所詮は
「だが、俺はそういうわけにはいかない。言ってしまえば、今までの俺は『井の中の蛙』で、この学校という『大海』に来たことで、初めて強烈に闘争心を刺激されることになったわけだ。
俺は自分の実力に自信を持ってはいるが、それでも綾小路やお前たちほどではない。高円寺のように唯我独尊にはなれるほどではない。――どうしても、周囲からの刺激を受けないわけにはいかない」
苦い顔で神崎は言った。
アズの言葉を素直に全て信じられるわけではない。アズを信じないわけではないが、何せ証言だけで『客観的な証拠』というものが不足しているからだ。――それでも、この短くも濃密な期間で紡いだ絆は、神崎にアズを信じさせるには十分だった。
「そもそも、アズのそれが『才能や素質の一種』だというのなら、国の垣根を超えて保持する者がいたとしてもおかしくはないからな。である以上、俺が『同種の才能や素質』を持ち合わせていたとしてもおかしくはない。
何とも難しい話だ……。衝動に呑まれまいとすればこの環境から離れるのが最善だが、俺としても退学する気は毛頭ない。である以上はどうにか衝動を抑え込むしかないのだが、今の俺にはそのための縁となるべきものがない。もしかしたら持ち合わせているのかもしれないが、アズと同様に自覚がない」
何とも頭の痛くなる話だった。確証や確信はないくせに、状況証拠ばかりが積み重なっていく。
「今回はルールの存在する勝負で、かつ直接対決じゃないから、たとえ衝動に呑まれてもまだマシだとは思うけど……。
ただ、格闘とか、直接戦闘が絡んだ場合には怪しくなる。『勝利』を突き詰めると、それは相手の『存在否定』に繋がるから。
その衝動にとっては、人の定めたルールとかは関係ないんだ。原初のルールである『生きるか死ぬか』、『殺るか殺られるか』を基準にしているから。文明人になるに薄れていった、人が本来持っていた『野性的な本能』の発露なのかもしれない。
勝つために、生き残るために、相手の存在を否定するために、自身の成長を促し、潜在能力を引き出し、思考を巡らせる。
考え方によっては、決して悪い能力じゃない。制御できない場合が、致命的なまでに現代社会と相性が悪いだけで……」
神崎を慰めるために何とか口を開いたアズだったが、口を開いてから大して慰めにならないことに気付いた。
「その現代社会との相性の悪さが、何よりも致命的だと思うんだがな……」
「そうだね」
「はぁ……。まあ、そういうことであれば一人で悩んでいても仕方がない。――アズ。万が一の際、俺の抑止はお前に任せる」
「まあ、そうなるよね……。うん、分かったよ。万が一の場合には私が隆二を止める」
「助かる。安全弁があると分かっていれば、心持ち精神にも余裕が出来るというものだ」
アズの返事を受け、神崎は苦笑した。男としては情けない気もするが、見栄を張っても仕方がない。それにそもそも、実際の能力を前にして男がどうだの女がどうだの言うのは前時代的だ。
「でも、そうだね。どうせ抑止力をやらざるを得ないんなら、ちょっと積極的にやっていこうか」
「……アズ?」
「これから体育祭まで、スパルタで鍛えていくよ。その衝動をフルに活かして私を超えて見せて。……大丈夫だよ。私は負ける気がないし、感覚に慣れれば隆二も制御しやすくなる筈だから」
「言わんとすることは分かるし、お前が上だと認めていることも事実だ。だから抑止を頼んだわけだしな。――だがそれはそれとして、舐められて怒りを覚えないわけではないぞ」
「なら、有言実行してごらんよ」
言うなり、アズはその場を駆け出した。瞬く間に神崎との距離が開いていく。
「上等だ!」
直後に神崎も後を追って駆け出した。いちいち七面倒臭いことは考えない。今は追いつくことに専心する。
傍から見れば『少女を追うイケメンの図』であるが、幸か不幸か、アズにも神崎にもそんなことを意識する余裕はなかった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
そうして、各クラスが各々の思惑を抱えながら体育祭に向けての練習を行い、瞬く間に日は流れていった。
「いよいよだね……!」
緊張と興奮を混在した帆波が言った。
「さあ、みんな! いよいよ本番がやって来たよ! 私から言うことはただ一つ! 楽しんでこう!」
『おおーーーっ!』
帆波の激に、クラスメイト達は手を挙げて答える。今日も星之宮クラスの団結力はバッチリだ。
ほどなくして、ジャージを纏った全校生徒が行進してグラウンドに入場、整列する。
なお、紅組と白組はトラックを挟んで反対側に位置しているため、競技中以外は基本的に接触できない作りになっていた。無用なトラブルを防ぐためだろう。
「カメラ、あるじゃんね」
最初の百メートル走のコースに目をやった生徒がポツリと呟いた。
誤審や曖昧な結論は絶対に避ける。そんな学校側の意気込みが透けて見える。
逆に言えば、だからこそ、応援合戦のような『人の感性に訴える』部分が大きい競技が含まれていないのだろう。それは理解できる。
「それが、墓穴を掘ることにならなきゃいいけどね……」
チラリと美紀に目をやって桔梗が呟いた。
意気込みは立派だ。評価する。しかし、その何でもかんでも『白黒ハッキリつける』というスタンスは、『極端に影の薄い生徒』のことまでシッカリと考慮されているのだろうか? なまじクラスメイトにその実例がいるからこそ、星之宮クラスの生徒たちは疑問に思わざるを得なかった。
「これはまた、早速だな……」
自分たちで参加表を組んだクラスには競技の順番と時間が書かれた簡易的なプログラム表が用意されているが、ランダムに任せたクラスにはそれがない。『当日のお楽しみ』というやつで、電光掲示板で判断するしかないのだ。
他クラスの選出者もそれは同様である。
そして、電光掲示板に表示された、男子百メートル走の第一走目。――それは、一年各クラスの運動自慢が軒並み名を連ねていた。
星之宮クラス:綾小路清隆、柴田颯。
真嶋クラス:鬼頭隼、司城大河。
坂上クラス:園田正志、龍園翔。
茶柱クラス:高円寺六助、須藤健。
「流石にこれを『偶然』で片付けるのは無理があんだろ……」
コースに並んだ柴田が呆れ顔で呟いた。
真嶋クラスと坂上クラスは自分たちで参加表を組んだ。だからまあ、この顔触れも分かる。
ただ『勝利』を目指す分には『実力者同士の潰し合い』など歓迎できるものではないが、『実力者同士のぶつかり合い』だからこそ抜群のエンターテインメント性を誇るのも事実だ。
しかし、自分たちで参加表を組んだ真嶋・坂上両クラスと異なり、星之宮クラスと茶柱クラスは参加表をオークションに掛け、落札されなかった部分はランダムになる仕様だ。
その上でのこの組み合わせは、いくら何でも『偶然』で片付けるには無理がありすぎた。
「どうやら、エンターテインメントを理解する奴がいたらしいな。それとなく噂を流した甲斐があったってもんだ」
柴田の言葉に答えたのは龍園だった。
「どうやらそのようで……」
柴田としては肩をすくめるしかない。
落札されたかどうかが事前に判明しては面白くないという理由もあり、たとえ落札されていたとしても生徒にポイントが渡されるのは体育祭が終了した後になっている。そのため、自分たちが落札されたかどうかも今時点では分からない。本当に偶然の可能性だってあるのだ。
しかしながら、『誰かが落札した結果』と考えた方が気が楽だった。
「ちっくしょう! 高円寺の野郎、フケやがった!」
須藤の叫び声が響く。
「直接高円寺を図れないのは残念だが、クラスを思えば助かるな。極論、俺たち全員が奴の眼中にないということではあるが……」
「まあ、仕方ないさ。これまで、大々的に身体能力を示し、その上で評価される場面などなかったからな。――逆に言えば、この一戦で実力を示し、奴のお眼鏡に適えばいいだけのことだ」
清隆が零せば、それに正志が続いた。
「やれやれ……。流石にこの面子に勝つ自信はないんだけどねえ……」
「やるだけやるしかない」
司城が肩をすくめれば、鬼頭がそれに答えた。
出走者たちがそんなやり取りをしている間にも、学校側は姿の見えない高円寺を欠席扱いにしてしまった。
程なくして合図が鳴り、高円寺を除く七名が一斉に走り出す。――いや、須藤が僅かに出遅れた。おそらく、高円寺の不参加に腹を立てて血を昇らせてしまったのが原因だろう。
清隆と正志がデッドヒートを繰り広げ、次点は柴田と鬼頭、更に司城と龍園が競い合い、出遅れた須藤が最下位だ。
そして、そのまま第一レースは終了した。須藤の身体能力なら龍園らを追い越せる可能性もなくはなかったが、流石に百メートルだと距離が足りなかったようだ。
「クソッ!」
最下位という結果が分かりきっている須藤が、一人悪態を吐いた。
他の面々はカメラ判定だ。
しかしながら、結果が言い渡される前に走り終えた面々はコースから出てテントに戻らなければならない。時間の都合上、後に続く組が次々とスタートするからだ。このままコースに突っ立っていては邪魔になるし、場合によってはペナルティを受けることになる。
なので、カメラ判定になった場合、電光掲示板に表示される結果で判断するしかない。
「出ないな、結果……」
「ああ。よほど接戦だったらしい」
しかし、二組目が終わり、五組目が終わっても、なお一組目の結果は表示されなかった。
柴田が電光掲示板を見ながら呟くと、清隆がそれに続いた。
「お前、他人事のように言うなよな。――しかし、まさか志朗の奴までこの学校にいるとは思わなかった」
「志朗が? いたのか? ここに?」
呆れたように声をかけてきたのは雪だった。
その雪の言葉に、清隆は驚きの表情を浮かべる。
「いたのかも何も、お前とデッドヒートを繰り広げた坂上クラスの園田正志って奴、どう見たって志朗じゃないか。何で実際にバトったお前が気付かないんだよ」
「いや、そこに関しては申し訳ない」
雪がジト目を清隆に向ける。
気付かなかったのは事実なので、清隆は甘んじてその視線を受け止めるしかなかった。
「しかし、『園田』か……。茶柱クラスに同じく園田という名字の女生徒がいた気がするが……」
「いや、もはやツッコミ入れるのも無粋だけど、何で元クラスメイトのことも把握してないんだよ。他人に興味がないにも程があんだろ……」
「重ね重ね申し訳ない」
雪の視線に耐えきれず、伏し目がちに呟く清隆の姿がそこにはあった。
率直に言って、『ホワイトルーム』にいた頃とは力関係が逆転していた。――それも仕方ない。こと『人間』として両者を見た場合、間違いなく雪の方が人間らしいのだから。
ここは確かに特殊な環境だが、ホワイトルームと違って能力だけが尊ばれるわけではない。『人間らしさ』もまた、十分に尊ばれるのだ。
「ま、志朗もいると分かった以上、私も気合を入れて臨むしかないな。久しぶりに会う同胞に情けない姿は見せられないし、その程度のプライドはある」
言って、雪はコースへと向かって行った。
競技は基本的に一年男子→一年女子→二年男子→二年女子→三年男子→三年女子の順番で行われる。そして、休憩を挿んだ後は一年女子→一年男子→二年女子→二年男子→三年女子→三年男子の逆パターンに切り替わる。
つまり、一年男子の半ばまで競技が終わっている以上、本来なら悠長に話している余裕など雪にはないのだ。
しかし、それを可能としたのがカメラ判定である。一年女子がスタートしてしまえば、電光掲示板も女子の表示へと切り替わることになる。結果を周知せずしてそんなことが出来るわけがないのだ。
早い話、第一レースの混戦振りが、雪に清隆たちと会話する余裕を与えていた。
とはいえ、流石にそれにも限度がある。いつまでも駄弁ってはいられない。
「応援しろよー」
「ああ。お前の姿をオレに魅せてくれ、雪」
片手を振りながらユキが言えば、清隆はその背に声を投げるのだった。
アズが保有する特殊スキルである『ギフト』ですが、本作では文字通り『神の祝福』に他なりません。
とはいえ、神視点では『祝福』でも、人間視点で見ればどうかって話でもあります。
人間の中にも確かにそれを『祝福』と捉える人はいますが、それは『自身が保有していないから、そう捉えることが出来る』って部分もあります。
早い話、『祝福』と言ってもメリットだけではなくデメリットがあり、人にしてみれば『呪縛』や『試練』に早変わりする側面も併せ持ちます。
その昔、眷属を欲した神様が、自身に与えられた権能が許す範囲で人の世界に『チカラの種』を振りまき、隔世遺伝して発露させたのがアズやエッジ、神崎になります。
はい、本文中ではぼかしてますが、神崎も『ギフト』の保有者です。
『高度育成高等学校』という環境と『周辺人物の影響』の二点が揃った結果、スキルが芽生えました。
ただ、現状では使いこなせているわけではないので『???』表記です。
これの保有者は、本作では割と多い設定です。その一方で、大半が使いこなせてはいません。本人も自覚がないままに振り回されています。ぶっちゃけると、篤臣さんもその一人です。
民度とか世界観とかを鑑みたら、そうせざるを得なかったです。
本作における『天才』とか『極』とかは、これが『部分的に開花した』設定です。
である以上、それらの保持者も後天的に『ギフト』に芽生える可能性があり、その果てに神への階を昇って『神の眷属』=『超人類』に至る可能性があります。
歴史上の偉人の中にはその実例がいくらか存在します。
まあ、あくまでも設定上の話です。
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