ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第127話:波乱。

 体育祭は、一年の部において度々進行がもたついた。

 第一に、個人競技での有力者同士での潰し合いが理由だ。エンターテインメント性は抜群だが、だからこそ毎回のようにカメラ判定に回さざるを得ず、二種目目である『ハードル競争』からは高円寺が本格参戦したこともあり、尚更判定が難しくなっていた。

 第二に、やはり星之宮クラスにおける事前予想の通り、女子の方では美紀の着順判定に時間が取られたことが一因だ。――正直、要因としてはこちらの方が大きい。

 その『影の薄さ』故に、美紀はたびたび最下位判定を食らったのだ。それがキチンと調べた結果ならまだしも、他の出走者に気を取られるが余りの『消去法判定』となれば、星之宮クラスとしては容易に受け入れられる筈がない。そも、星之宮クラスにはキチンと美紀を認識できる者がいるのだから尚更だ。

 結果として、星之宮クラスは結果が出る度に運営へと文句を言いに行く破目になり、訴えられた以上は運営も調べないわけにはいかず、面倒臭そうに調べるとカメラからは姿を発見できない。『どの道不参加で最下位じゃないか』と運営が思えば、そこに様子を見に来た他学年の生徒――生徒会会長である堀北学と生徒会副会長である南雲雅、果ては自由人と名高い鬼龍院楓花まで口を出してくる始末。

 そのいずれも、学校においては『確たる実力者』の地位を維持している。学と南雲だけならば『同じチームであるが故』と取れなくもないが、そこに敵チームである鬼龍院までもが口出ししてくるとあっては話が別になる。

 結果として、運営――教師陣は自分たちの実力不足をとみに露出させることとなった。対象の生徒が『極端に影が薄い』という特性を持っているとはいえ、その着順を毎回の如く間違えて発表し、生徒に訴えられては時間をかけて調べ直し、漸く改正される事態が続けば無理もない。

 たかが二回。『百メートル走』と『ハードル競争』のわずか二回である。しかし、『実力至上主義』を掲げる学校だからこそ、生徒からの心証を下げるには二回で十分だった。

 要は『間違い探し』や『探し絵』のようなものである。カメラはシッカリと美紀の姿を映しているのだ。しかし、その映像を見る()()()が肝心の美紀を探し出せない。

 教師と生徒を問わず大多数はそうなのだが、一部はそれでも探し出せるのだから、なおのこと評価に直結する。

 美紀はカメラを用いてなお大多数に認識されない、その『影の薄さ』=『隠密能力』の高さを。

 そして、そんな美紀を発見できる面々は、眼力の高さを。

 

「――で、俺達に話が回って来たと……。俺、ここでは用務員に過ぎないんだけどねえ~」

「それを言ったら俺も同じなんだけど……」

 

 そうして、話は回り回って教職員の間を飛び交い、やがては用務員にまで波及し、天斎小吾郎とトウマ・カノウへと白羽の矢が立ったのだった。

 しかし、それは確かに英断だったのだろう。二人はシッカリと美紀を視界に収めることが可能だったのだから。

 その恩恵は男子陣にも及び、二人を起用したことで進行のもたつきは解消されることになったのである。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「だ~~~~っ! 分かっていたことではあるけど、悔しいなあ、おい!」

 

 紅組のテントでは雪が荒れていた。

 雪と千代は、前評判において大したことはなかった。そんな両者がオークションに掛けられたところで、敢えて干渉しようとする者がいる筈もない。順当にランダムに配置された結果、雪と千代の直接対決となることはなかった。

 もっとも、前評判がどうあれ二人が確かな実力を持っていることに違いはないので、双方が一位を獲得するのは妥当な結果だった。

 それだけなら雪が荒れる理由は薄い。彼女が荒れているのは、双方のタイムが原因だった。

 公平性の表明として、学校側はそれぞれの着順だけではなくタイムも電光掲示板で発表する。

 着順では一位だが、タイムでは異なるレースで走った千代に負けている。その事実が、雪を荒れさせていたのだ。

 ブランクもあれば、ホワイトルームを脱落した順番もある。それを思えばそう簡単に雪が千代に勝てる筈はない。そんなことは分かっている。――が、頭で分かっているからといって、感情は別なのだ。

 

「若干紅チームが有利だが、点差はそれほど開いていないな……」

 

 荒れる雪を放置して、電光掲示板を見ながら神崎が口を開いた。

 

「おそらく、先輩方の退学者の数の差が響いているんでしょうね」

 

 顎に手をやりながら浜口が答えた。

 順当に考えて、下位のクラスほど退学者が多いのが道理だ。

 その一方、Aクラスに実力者が多いのも道理。

 Aクラスがコンスタントに高得点を取れたところで、根本的な生徒数の少なさによって、Dクラスが得点を得る機会そのものが減っているのだ。そして、AクラスはDクラスとチームを組んでいるため、結果的に紅と白に大差がつかない状況が出来上がっているのだろう。

 

「……なるほど。クラスの勝利は望めなくとも、チームの勝利は望める。そして、チームの勝利であろうとAクラスに土を付けることが出来れば、BやCは弾みを付けることが出来る。そうなれば逆転の目も出てくるか……」

「そういうことでしょう。先輩方が予想以上に気合を入れているのも頷けるというものです」

 

 学年が進むほど、下位のクラスは負け癖が付いている。その上で高CPが得られるわけでもない。だから、そこまで気合を入れて臨むことはないだろう。……それが星之宮クラスの事前予想だったわけだが、見事に予想を外してしまった。

 チームとして勝利することが出来れば、たとえAクラスが学年一位になったとてCPにダメージを与えることが出来るのだ。直接的な利益はないし、CP差が縮まるわけではないが、『AクラスのCPにダメージを与えられる』という事実だけで、下位クラスにとっては大きな意味を持つのだろう。

 何せまだ二学期が始まったばかりだ。この体育祭でのCPダメージを機にAクラスが調子を落とすようであれば、十分に逆転の余地はある。

 上級生の諦観は見えていたが、同じくらいに重要な要素となる焦燥や希望が見えていなかったことを実感する。

 

「一年の方で『番狂わせ』が起こってるのも大きいと思うぜ。そりゃあ無人島での試験なんかもあったりしたけど、一年が本格的な身体能力を問われるのは今回の体育祭が初めてだ。その分だけ情報が不足してることになるからな」

 

 悩まし気な表情で電光掲示板を眺める二人に、声をかける男子の姿があった。柴田颯である。

 

「柴田」

「柴田くん」

「うっす。同じサッカー部だし、正志の奴の足が速えのは分かってたつもりだったんだけどな。あそこまでとは想定外だったわ……」

 

 柴田は頭をガリガリと掻きながら。

 

「正直、複雑な心境だわ。部活メイトとして、あんだけ凄え能力を持ってるのを嬉しく思うけど、言い換えれば『今まで力を抜いていた』ってことになるからな……。

 いやまあ、この学校の場合、根底に『クラス闘争』があるから、頭では理解できているんだよ。

 それに、部活でも極端に力を抜いていたわけじゃねえ。『高一男子』としては十分なレベルに力を出していたと思う。裏を返せば、部活メイトである俺たちが不甲斐なかっただけだ。アイツはただ、『俺たちに合わせたレベル』でプレーしていただけなんだよ。

 ホント、複雑だわ。『手を抜いていたこと』に対する怒りもあれば、『アイツにそうさせざるを得なかった自分たちの未熟さ』に対する怒りもある」

 

 言って、柴田は深々と溜息を吐いた。

 

「人間、誰もが誰も異質や異端を容易く受け入れられるわけではありませんからね。

 あれだけの身体能力です。素直に表に出していたら、持て囃される反面、どうしても孤高にならざるを得なかったでしょう。

 そう考えれば、『敢えて力をセーブしていた』ことにも理解はできます」

「そうなんだよ。だから素直に怒れねえんだよな……」

 

 再び、柴田は溜息を吐いた。

 

「なら、素直に喜べばいい。今までのスタンスがどうあれ、アイツはこの機に隠していた力を放出した。裏を返せば、『所属クラスを認めた』からであり、『部活メイトを認めた』からだろう? 『実力を出しても、自分を排斥することはない』……と。――違うか?」

 

 その神崎の問いかけに、柴田は呆気に取られたように目を開いた。

 

「へ、違わねえな。……サンキュ、神崎。スッキリしたぜ」

 

 暫し後、鼻の下を指で擦った柴田は、言葉通りスッキリとした表情を浮かべるのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「喜ぶべきか、それとも悲しむべきか、何とも複雑なところね……」

 

 同じ頃、茶柱クラスの方でも電光掲示板を眺めながら呟く存在がいた。鈴音である。

 

「オークションの結果か、それともランダムの結果か、一部で『実力者同士の正面対決』が起こっている一方で、それ以外は比較的安定している。それによって、今までは陽の当たっていなかった生徒も目立っている」

「山村さんなんか『まさに』だよね。少なくとも平均以上の身体能力は持ってるよ。それが『影の薄さ』で最下位判定食らうとか、普通に考えてあり得ないでしょ」

「ええ、そうね。星之宮クラスがその度に抗議するのも無理はないわ。『何のためのカメラか』って話だものね」

 

 それによって競技の進行に遅れが出ているのは問題だが、それがなければ平田たちも美紀の実力には気付けなかっただろう。

 そういう点では、確かに利が出ているのだ。――しかし、クラスの直接的な利益には直結していない。

 

「それはそれとして。正味な話、高円寺と須藤が同じレースに出場するという点だけでも利点は少ないのに、『あの二人ですら一位を確実視できない状況』の方が異常だと思うが?」

 

 メガネのブリッジを指で押し上げながら、幸村が口を挿んだ。

 

「それだよね。――でも、それってうちのクラスだけに言えることじゃないけどね。

 例えば、真嶋クラスの橋本くん。彼はテニス部に所属してるし、それもあって彼の身体能力が優れているのは知れ渡っていた。――だけど、彼は第一レースに選出されてない。真嶋クラスは彼を差し置いて鬼頭くんと司城くんを選出した。

 その鬼頭くん。坂柳さんの『護衛役』ってのは知れ渡っていたけど、あの強面もあってあくまでも『戦闘力』的な見方が強かった。だけど蓋を開けてみれば、普通に足も速かった。

 司城くんなんてもっとダークホースでしょ。平田くんと並ぶ勢いで女子人気が高いのは知れ渡ってたけど、精々がそれだけ。人気の理由として『人柄の良さ』は挙げられていたけど、あそこまで高い能力を持ってることは広まってなかった」

 

 幸村の言葉に、肩をすくめて寧々が答えた。

 彼女は『ギャル』であることを自負している。それが故に、そちら方面の情報収集は怠っていない。

 ギャルは話題に敏感だ。むしろ、敏感でなければギャルではない。飲食物、ファッション、そして人物……話題の対象は枚挙に暇がない。

 寧々にしてみれば、単に話題に乗っかるギャルなど二流三流だ。一流や超一流のギャルは、煩雑としている情報の中から『必要な情報』を拾い集めていくことが出来て然りである。

 すなわち、『情報の収集能力と精査能力』。これらを兼ね備えてこそ『ギャル』であると寧々は考える。

 しかし、そんな寧々をして今回の体育祭には意表を突かれる展開が多い。それだけ、情報が拡散していないことの証明だった。

 

「やっぱり、今回は最初から『クラスの勝利』は諦めて正解だったね。もしこれで『クラスの勝利』を目指していたら、きっと今以上に振り回されていたよ。うちも含めて、各クラスともポコジャカと『隠し玉』が現れ過ぎでしょ」

 

 肩をすくめて恵が言った。

 

「正味な話、池くんに対する注目が上がった際には困惑したものだけどね……」

 

 池と須藤。『二バカ』として悪名高い二人だが、片翼である須藤はバスケには真摯なこともあって、その身体能力の高さは知れ渡っている。

 一方で、部活にも所属していない池の方はそれほどでもない。また、元が『三バカ』であり、うちの一人が『既に退学している』事実も大きい。自然、池に対する期待は低くなる。過小評価される。

 だからこそ、茶柱クラスの首脳陣には池を『隠し玉』と機能させることを狙っていた面がなくはない。――しかしそんな思惑は、意図せぬところでオジャンとなった。

 夏休みのプールがきっかけである。『自由人』と名高い二年の鬼龍院楓花が池に目を止めた。その事実だけで池に対する注目が上がるには十分で、その状態で池を『隠し玉』として使うことなど出来るわけがない。

 

「そこは私が穴埋めしてあげてるでしょう?」

 

 肩をすくめる鈴音に、千代が声をかけた。

 

「ええ、そうね。園田さんが実力を出してくれたおかげで、本来池くんに期待していた部分を代わりに担ってくれた。

 いくら『伏して牙を研ぐ』って言っても、その言葉に信憑性が持てなければ意味がない。少なくとも、『頼りになる人物がいる』ということをクラスメイトに示す必要があった。そしてそれは、元々の評価が低かった人物ほど好ましく望ましい。――でないと、牙を研いでいる間に潰れてしまうもの」

 

 千代がこの機に実力を表明し始めたのは、それを読んだからでもある。

 

「今回の体育祭は、搦手が機能する部分が少ない。一之瀬さんが体育館で吠えた段階で、それはより顕著になった。あそこまで言及されて、なお搦手に拘るのはリスクの方が大きい。

 だからこそ、『真っ向勝負』の機運が高まり、各々の身体能力が浮き彫りになる。今回は『偵察』と割り切った方がいいでしょうね」

 

 千代の言葉に、誰も異見を唱えることは出来なかった。

 他クラスのことだからこそ、見えなかった部分、知らなかった部分があるのは確かだ。それが白日に晒される貴重な機会なのだから、逃さず掴むのは道理と言えた。

 

「それでも、こうして波乱になった以上は勝ちを目指してみたくもなるよね」

 

 微笑を浮かべてリーダーが言えば、誰もがそれに頷くのだった。




美紀の影の薄さを鑑みると、普通に考えてこうなるかな……と。
同時、組み合わせ次第では割と『カメラ判定』になる可能性は高そうです。
結果、カツカツな進行が更にカツカツになる事態に陥ってます。
こういう展開、普通に原作でもありそうなんですよね。何せ、一着二着を決めればいいってものでもないわけですから。
シッカリと一着~八着を決めなければならない以上、『底辺同士のぶつかり合い』でも普通に『カメラ判定』は起こり得ると思います。

本作では、それにより『美紀の影の薄さと実力』に対する、他クラスからの注目度も跳ね上がりました。
また、当然ながら各クラス共に事前予想との差異も生まれています。
ぶっちゃけた話、鬼頭の身体能力の高さとかって、この時点では他のクラスはそこまで認知していないと思います。
あくまでも、体格とか部活とかの断片情報からの予測・予想でしかないわけです。
そういう点では、真嶋クラスだとテニス部の橋本の方が、むしろ危険視されていて然るべきだと思いました。部活って分かりやすいステータスですからね。

あとは、『先輩方の士気や戦意に対する見誤り』も描写してみました。
本作の星之宮クラスは優秀ではありますが、決して最強でも無敵でもありません。間違える部分は普通に間違えます。
単に、優先順位やらの関係もあって、そもそも問題にならなかったり、リカバリーが利く部分が大きいだけです。
基本、退学者数の多さはD>C>B>Aの筈ですので、『ADチーム対BCチーム』の構図を取る以上、チーム戦としてはある程度接戦になるのは否めないのかな……と。
Aクラスはコンスタントに高得点を取れるでしょうが、退学者の多いDクラスは『得点を得る機会』そのものが減っている筈ですので。少なくとも『全員参加種目』はその筈です。
やっぱり一年生なわけで、どうしてもそこら辺の認識は薄くなってしまうと思います。
自クラスからは退学者が出ていない上に、他クラスからスカウトした生徒もいるとあっては尚更でしょう。

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