ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「チッ、ツイてねえな……」
電光掲示板を見つめ、龍園は舌打ちした。
「確かにそうね。木下も矢島も陸上部の所属で、うちのクラスの女子の中ではダントツに足が速い。それこそ、俊足だけで言えば伊吹以上なのは間違いないでしょ」
「男子の方はエンターテインメント性を優先し、敢えて『実力者同士の潰し合い』を容認しました。まあ、乗らないなら乗らないで、白組で一~四位を独占できる目論見があったのも否定はしませんが、得点比率で言えばばらけさせるよりも悪くなるのは事実です」
「ああ、そうだ。だからこそ、確実な勝利を得るべく、俺たちは木下と矢島を別のレースに出した。アイツ等であれば一位を取れると思ったからだ」
「だけど、蓋を開けてみれば番狂わせが起こった。どちらも一位を取れなかった。『百メートル走』も『ハードル競争』も、星之宮クラスの櫛田、セインクラウス、姫野、そして茶柱クラスの園田のいずれかと当たった結果、敗北してしまった」
「アズは『部活荒らし』やら『南雲係』で名が通ってるし、実力に関しても裏付けは取れている。茶柱クラスの園田も、うちのクラスの園田の実力を思えば不思議はねえ。櫛田も、一年ながらに生徒会副会長をやっていることやアズの親友であることを踏まえれば、まあ納得はできる。――だが、姫野。ありゃあ何だ?」
龍園らにしてみれば、虎の子として放った人材が勝利を手に出来なかったのだ。
組み合わせの不運を呪うしかないが、それはそれとして敗因を考えるのも重要だ。そして敗因を考えた場合、大半は『相手が悪かった』で納得が出来る。
如何に陸上部員で足が速いとはいえ、必勝が約束されているわけではない。あくまでも勝率が高いだけだ。負ける時は負けるし、勝てない相手には勝てない。
だから、一位を取れなかったことを怒るつもりはない。本人が不甲斐なさを感じて努力をするのならそれで十分だ。シッカリと各競技で二位は取っているわけだし。
だがそれはそれとして、解せないものは解せないのだ。ただの運や偶然で、俊足を誇る陸上部員に勝てる道理などありはしない。相応のバックグラウンドが必要になる。
龍園らにしてみれば、桔梗、アズ、千代にはそれが窺えるわけだが、雪にはそれが窺えない。そのことが、余計に雪の不可解さを表していた。
「夏休みの終わりにプールで会ったけど、坂柳との会話中、急に絶叫して意識不明になって病院に担ぎ込まれた。私が知ってる、『直近のおかしなこと』って言えばこのくらい」
「……ああ。そう言えば、そんな話もあったな。坂上の奴が言ってたのは姫野のことか」
「なるほどな、合点がいった」
澪が零せば龍園が応じ、正志が頷いた。
「あん? なんか心当たりでもあるのか?」
「ああ。元々、俺と千代、清隆と雪は同じ施設で育ったんだ。こことはまた別の、日本政府主導で建てられた施設。掲げるは『天才の量産』。ここ以上にイカレてて、狂ってて、表沙汰になれば叩かれること間違いなしの施設だ。
被験者として選ばれたのは、運営者や支援者の子息令嬢か、或いは身寄りのない孤児たち。被験者の子供たちは何期かに分けられて、俺たちはその『第四期』に当たる。
通称『魔の四期』。運営者が直々にカリキュラムの指揮を執り、施設史上で一番難しいとされるカリキュラムが施された期であり、一番多く子供たちが配属され、にも拘らず清隆以外の全員が脱落した期。――故にアイツは『最高傑作』との呼び声が高い。
雪はカリキュラムをクリアできずに最後から四番目に脱落していった。千代は三番目に、俺は二番目に。――とは言っても、俺と千代は施設にいる意味を見出せなくなって自発的に脱落したわけだが……。
脱落後、俺と千代は今の家に引き取られた。その後は清隆と雪に会うことはなかったわけだが、『清隆と再会したのをきっかけに雪が記憶を失った』とは聞いていた。時期的には中学二年の終わり頃だったかな……?
坂柳有栖との会話中に絶叫して気を失ったってことは、たぶん彼女に『現在の人格』を解体されたんだろう。天才と名高き坂柳であれば不自然さに気付いてもおかしくはないし、所詮は一年ちょっとのハリボテだからな。耐えられなくても不思議はない。
その結果、以前の記憶を思い出すなりしたんじゃないかな。全てを思い出したのか、部分的に思い出したのかまでは分からないが、そう考えれば辻褄は合う。途中で脱落したのは事実だが、それでも本来の雪であれば、そのくらいのスペックは持っていたからな」
電光掲示板に目を向けながら、正志は淡々と語った。その声には、あって然るべき
普通、そんな理不尽な環境に置かれれば、理不尽を嘆いたり憎悪したりして然るべきだ。――しかし、それがない。
その事実が、『そんな感情を抱けないほどに正志が摩耗した』ことを一同に窺がわせるには十分だった。
その言葉を信じるなら、最後から二番目に脱落した正志でコレだ。最後まで残った清隆は勿論、正志の一つ二つ手前で脱落した千代と雪の異常性を窺わせるにも十分だった。
「姫野の場合、記憶喪失になったことが、擬態として十分過ぎるほどに機能していたってことか……」
「アイツが作ったっていうグループ、『陰キャの集い』とか言ってたっけ……。そういう過去があったなら人付き合いを好まなくても不思議はないし、たとえ記憶を失ってても、どこかしらに影響が出てもおかしくはない……か」
龍園が呟けば、澪もまた苦い表情で頷いた。
「それはともかく、今までの組み合わせから見えてくるものはあるな」
「口では『ランダム』って言っても、その実ある程度は教員の意向が働いているってことだろ?」
「ああ。『エンターテインメント性』の一言で片付けるのは可能だが、その一方で『確実な勝利』よりは『生徒の実力を測る』ことに重きを置いているのが見えてくる」
担任であればこそ、他クラスの教師よりは受け持ちクラスの生徒の実力を知っていて道理だ。しかしながら、その
その状況で
その『篩』が、『強者にぶつけること』に他ならない。
実力を隠していた生徒がいた。では、その実力は如何ほどか?
普段から高い実力を評価されている生徒だが、その高みは果たして如何ほどか?
自クラス他クラス問わず、教員がそう考えるのは自然なことだ。
「俺たちが勝ちを期して用意した木下と矢島は、『俊足の陸上部』という確かな根拠があるからこそ、学校側に『篩』として利用された。
知名度はあるが、実力の
流石に、組み合わせ的に全部が全部『落札された』って考えるのは無理があるからな。
早い話、学校側は隙さえあればその実力を白日の下に晒し、『正しい評価』を下そうとしてくる。それが『ランダム』という言葉の裏に隠された、学校側のスタンスだろう」
そうでないと、組み合わせ的におかしな部分が多過ぎる。
「夏休みの終わり間際から、『二年の鬼龍院先輩が池氏に目を掛けている』という噂があったのは事実です。普通に考えたら、池氏の悪評も鑑みて大半の一年生は『あり得ない』と判断を下すでしょう。僕たちは鬼龍院先輩のことを良く知らないのだから、尚更に『普段の池氏』を基準に判断します。
ですが、真嶋先生は教師故に僕たち以上に鬼龍院先輩のことを知っていた。その噂を『馬鹿に出来ない』と考えられるだけの要素を持ち合わせていた。その結果、試金石として橋本氏を池氏に宛がい――橋本氏は負けた。
その可能性は否定できず、同じ白組として橋本氏の身体能力を知るが故に、『橋本氏が池氏に敗北した』という事実は僕たちのクラスにも波紋を齎しています」
金田の言う通りだった。『百メートル走』と『ハードル競争』。その双方で橋本は池と同じレースに配属され、その双方で敗北を喫している。
クラス単位で見れば『自クラスの勝利』に繋がる可能性が高まる分、喜ばしい部分が無くはない。――反面、チームとして見れば『思わぬ強敵』の出現であり、そこまで喜ばしくはない。
だがそれ以前に、『橋本対池』なんて展開が二連続で続いていること自体がおかしい。普通に考えて、わざわざ落札してまで池を橋本にぶつける理由がないのだ。前評判と合わせ楓花であればやりかねないが、今度は『楓花が橋本の実力を知っていたのか?』という疑問に行き当たる。
だからこそ、『教師の意向が組み合わせに介入した』と考える方が妥当だった。
前評判と合わせ、橋本の、引いては真嶋クラスのダメージは大きい。――その一方で、池に、引いては彼の所属する茶柱クラスに対する油断や侮りを低下させることが出来る。
「教師が積極的に『クラス対抗』に関わるのは禁止されている。――が、チャンスがあればその限りじゃねえってことだな」
「一方で、俺たちの『言葉にせぬ意見』を拾い上げているからこそ、こちらも声高に疑問を投げかけるのが憚られる。……上手い手だ」
早い話、帆波の意向に乗っかっただけなのだが、それを学校側もある程度は拾い上げているようだ。
おかげで、勉強が苦手な生徒が『学内で一番』と言えるほどに揃っている坂上クラスは、最下位を免れている展開が多い。
単純問題、学力だけを比較するなら、坂上クラスは茶柱クラスにも劣るだろう。平均的な学力しか持ち合わせていない澪が、クラスの中では上位に位置する事実がその推測を裏付ける。ひよりが星之宮クラスに持っていかれたこともあって尚更だ。
金田のような例外もいるし、だからこそ彼には『敢えて最下位』を狙わせたが、そういうところでは他のクラスとぶつかり合いになってはいない。最下位を取らせるべき相手には、スムーズに最下位が取れるような調整が施されている。
やはり、必要以上に退学者を出すのは学校側も望んでのことではないのだろう。
むしろ、生徒の方が『自クラスから退学者が出る』ことに、それによって齎されるペナルティに怯え、そうなる前に『相手を蹴落とすことで優位な状態を作る』ことに腐心し、潰し合いが激化、結果として退学者が増える……というのが、これまでの流れのようだ。
「ま、特殊なルールを敷いているとはいえ、高育だって曲がりなりにも教育機関だ。御大層な謳い文句があったところで、そのために『退学者が増える』なんて事態を歓迎する筈がねえ。
早い話、上級生の退学者の数は、生徒の側が『ルールを利用して退学者を増やした』と捉えるべきだ。
一人一人の『自由』を保証するが余り、確たる証拠がなきゃあ『疑わしき犯罪者』すら罰せず、結果として『秘匿犯罪』の温床となっている現代社会の弊害そのものだな。
国が犯罪者に舐められている。抑止としての機能が働いていない。――にも拘らず、面子だの人気だのを気にして断固とした態度を取れない。
流石は日本政府の直轄校。お国とよく似てやがる」
そう言って、龍園はクツクツと嗤った。それを悪用している身だからこそ、嗤わざるを得なかった。学校側が『教育機関』としての部分を最優先にしていれば、ともすればあの時点での戸塚の退学はなかったのかもしれないのだから。
「とはいえ、一之瀬の奴が大観衆の前で啖呵を切ったからな。たかだか『一生徒の意向』ではあるが、啖呵を切った状況が状況だ。現状の在り様を快く思っていない教師も多いだろうから、これ幸いとその意を汲もうとする教師も多いだろう。
表面上、あれは上級生への弾劾だったが、その実は現状を容認している学校そのものへの弾劾でもあった。『生徒の自主性に任せるだけが正解ではない』と、『秩序を維持するには、成果を出すためには、時として学校側が積極的に動く必要もある』と、堂々と訴えたわけだ。
そして、担任でもある星之宮がその意を汲んで真っ先に動いた。担任だろうと何だろうと、『教師側の先導者がいる』という事実は大きい。現状を不満に思っていればこそ、後に続こうとする教師も多いだろう」
だからこそ、グレースタイルを行うにも、今までより慎重に動くことが求められる。
傍から見て、『戸塚への挑発行為』は問題行動に他ならない。それがギリギリまで問題にならなかったのは、絡まれている当事者である戸塚が訴えなかったからだ。
まあ、絡ませていた奴らには、あくまでも事実しか指摘させなかった。結果、戸塚は自身のプライドを優先して訴えず、しかし不満を溜め込み、それによって自身が『決定的な過ち』を起こすに至った。
しかし、帆波の訴えを受けた教師たちが自主的に動くようになれば、次に同じようなことをした場合、当事者がどう言おうと『絡んでいること自体』を咎めてくるようになるだろう。学校基準で『秩序を乱している』と言われれば、教師が介入するには十分だし、生徒としては撥ね退けることが出来ない。
「こっから先、『搦手』や『盤外戦術』の類は使いにくくなる。余りにも分かりやすいと、学校側も見逃してはくれなくなる」
「学校側にとってもジレンマだろうがな。分かりやすいが故に事態の把握は容易で、だから見逃せば高を括って『安易な手段』に走る奴が増加した。それは学校の思惑を超えるほどに……。
端的に言えば、学校の想像以上に生徒の側が幼稚だったってことなんだろう。学校側は行為を敢えて見逃したことで、暗に『お話にならん』と示したつもりだった。やるなら、『実力者に相応しく、より狡猾な手段を取れ』と言ったつもりだった。しかし、生徒の側がその真意に気付くことはなかった。気付いた奴もいたかもしれないが、その数は圧倒的に少なかった。
それが、現状の『退学合戦』を齎している面が無くはないだろう。利己的で幼稚な生徒が、『自己の成長』よりも『相手の蹴落とし』に舵を切る生徒が余りにも多過ぎたんだ。『楽』に流れる人間のサガがよく表れているな。真に学校のことを慮れば、容易に『相手を退学にしよう』なんて思えるわけがないし、実行する筈がない。『生徒の自主性』を尊重し過ぎた弊害と言えるだろう」
だが、その状況にも一石が投じられた。
「暫くは正攻法が物を言う。『勝つため』と理由を付けて安易な手段に逃れるようじゃあ、そんな奴は真の実力者じゃねえ。一定の評価は得られるかもしれねえが、『高み』に至れることはねえ。――もっとも、俺は『高みに至る』人間だ。
いいだろう。今暫くは
口の端を曲げて、龍園は言った。
「世の中、大半の奴は『歩』だ。自発的に考えて行動することなんか出来ねえ。行動自体は出来るが、それが結果に結びつかねえ。言われたことをこなして、初めて結果を出せる奴の方が多い。そうして経験を積むことで、やがては『と金』に成れる奴が現れる。
園田、これからはお前にも協力してもらうぞ。何せお前は、そんな連中が大半を占める中にあって、今時点で『自発的に動いて結果を出せる奴』だからな。そういう奴が協力してくれるなら、俺としても助かる。
お前に石崎、アルベルトに金田、伊吹に真鍋。『王』は俺として、『金将』、『銀将』、『桂馬』、『香車』、『飛車』、『角行』のどれに誰を当て嵌めるかはまだ未確定だが、園田を当て嵌めるなら『飛車』か『角行』か?」
「でしょうね。正直、うちのクラスで園田氏の替えは利きません。それを言えば龍園氏も同じですが……。お二人はそれほどに貴重です。
望めるのであれば、僕は『金将』を希望させていただきます。正直、身体能力に関しては捨てているので、そういう意味では
龍園が口を開けば、それに金田が続いた。
「『飛車』でも『角行』でもどちらでもいいが、こんな俺にも期待を懸けてくれるというのなら、それに応えられるように努力はしよう。
だが、忘れるな龍園。『王』たるお前の立場を鑑みれば、クラスメイトを『駒』として見、『駒』として動かすことは仕方のない部分があるだろう。『暴君』としてのスタンスも否定はしない。しかし、『暗君』と化したならば、俺は容赦なくお前の首を狩るぞ」
それを受け、正志は仄かに口の端を曲げた。
かつての施設を自分から脱落したとはいえ、その時点で既に結果を出せなくなっていたこともあり、自分で自分に見切りを付けていたことも事実。
そんな正志にしてみれば、自分に期待を懸けてくれ、そのことを堂々と言ってくれる二人はありがたい存在だった。今一度、自分で自分に期待と希望が持てるのだから。
とはいえ、龍園のスタンスは『ホワイトルーム』の教導官たちを彷彿させてならない。だからこそ、正志としては釘を刺さずにはいられない」
「ああ、それでいい。『王』の命令を聞かねえ奴がいるのは問題だが、だからといって阿諛追従の佞臣ばかりになっちまったら意味がないからな。
だからこそ、園田、俺はお前に曹操であることを望む。そして俺は、お前に見限られないように気を付けるとしよう。もっとも、それは園田だけに言えたことじゃないが……。
お前たちは俺の側近として動き、その一方で俺が馬鹿をやらかさねえように見張り、時として諫言しろ。自浄作用の働かねえ組織なんざ、『組織』として終わりだからな」
「いや、何でそこで『三国志』なのよ……。信長と光秀でいいじゃない」
「アホか。信長に背いたのは明智光秀で、光秀は『三日天下』と言われるくらいには短い期間しか権力を握れなかったんだぜ。俺たちを信長と光秀に例えちまったら、後を託すには不安しかねえじゃねえか。『ゲン担ぎ』ってのは大事なんだよ」
龍園の言葉に澪が呆れた口調でツッコミを入れれば、それに対して自身もまた呆れた口調で龍園が返した。
それに、信長と光秀を例に出すのは分かりやすいが、信長はあくまでも『織田家の当主』であって『王』ではない。そういう意味でも、龍園としては献帝:劉協と曹操に例えるのが妥当だった。
「あ~、はいはい、そうですね。考えの浅い私が悪うございましたよ」
その言い分は全くの正論なため、澪としても認めざるを得なかった。不貞腐れた口調で謝罪する。
「ま、そういうことなら、俺は『香車』を希望させてもらうぜ! 『香車』ってのは『槍』にも例えられるんだろ? 先槍として、俺が龍園さんの道行きを払ってやるよ!」
空気を換えるためだろう。石崎が大声で宣言した。
「なら、私は『銀将』を望ませてもらうかしら」
「
「んじゃ、消去法で私は『飛車』ね。……個人的には『角行』よりも『飛車』の方が響きが好きなんだけど、園田はそれで構わないかしら?」
「ああ。――だが、そうだな。『飛車』を賜るには、今の伊吹だと学力に不安があるのは否めないな。『王』たる龍園共々、俺が勉強を見てやろう」
「チッ、タイミング的に断れねえじゃねえか……」
「まあ、しゃあないか……」
龍園と澪が溜め息を吐けば、周辺で笑い声が上がった。
「では、石崎氏とアルベルト氏の勉強は僕が面倒を見るとしましょう」
「んげ、マジかよ!?」
「お願いする」
機を逃さずに金田が言えば、石崎はガックリと肩を落とし、アルベルトは素直に頭を下げた。
「基本、私は自分のグループメンバーと一緒に勉強するつもりだけど、余裕があるなら金田と園田のどっちかに私も教えてもらいたいわね」
「なら、真鍋の面倒も俺の方で見よう。正味、男三人の中に女子が一人というのもキツイだろうしな。俺の方なら二対二だ。
まあ、伊吹との関係性が不安ではあるが、いい機会だと思って互いに折り合いを付けてくれ」
正志の言葉に顔を顰めた澪と志保だったが、それでも不満を言うことはなかった。学力に自信がないのは確かだし、正志の言うことも道理だからだ。馬が合わないのはともかく、共に龍園の側近として動く以上、折り合いを付けるのは必須である。
こうして、龍園翔という『王』は、その統制を一歩進めたのだった。
今回は龍園側からの視点です。
何度も言いますが、本作の龍園は原作に比べて丸いです。
汚い手も普通に使いますが、その一方で人材の重要性と有効性も知っています。
少なくとも、陸上部員の木下に対して原作のような使い方をすることはありません。
本人が『高み』を目指していることもあり、嫌いなのは『向上心の無い奴』と『反骨心の無い奴』です。
どちらか片方だけでも持ち合わせていれば、比較的寛容になります。
最低限、将棋の駒に合わせた人数の側近を集めるのが目下の目的です。
約四十人近いクラスですからね。そのくらいの側近がいないと統制が利きません。
チェスじゃなくて将棋なのは、『裏切り』も認めて視野に入れているからですね。
根底は『独裁政権』ですが、完全に『独りよがり』だと反感を食らって革命されるのは歴史が証明していますからね。
だからこそ、そうなるのを防ぐべく、自分に危機感を持たせる意味で将棋の駒に当て嵌めています。
本作では、知ってる連中はたびたび『ホワイトルーム』を話題に挙げますが、これは別に『口外禁止』を契約しているわけではないからですね。
清隆にしろ有栖にしろ、知ってる連中はあくまでも『口外しないように』と言い含められているだけです。
で、ぶっちゃけた話、『ホワイトルーム』って間違いなく『日本政府の負の産物』でしょう。
多大な金と人材を費やして、育成方法も然りですが、出来上がるのが『高い能力は持っているけど社会不適合者』なんですから。
高育を卒業して『日本の次代を牽引していく人材』としては、知ってて放置するのなんかあり得ないわけです。
すぐにどうこうは出来なくとも、取り敢えず『いざどうにかする時のため』に情報共有だけはしておいて損はありません。
誰彼構わず口外するのなら問題あるでしょうが、高育の生徒は前述の通り『日本の次代を牽引していく人材』として期待されているわけですから。
しかも、本人らにしてみれば、卒業以降は最も頼り頼られる間柄になるだろう同期です。
また、高育の生徒には『汚さ』に対する『理解』と『実行・対処能力』が求められている面があるのも事実です。
にも拘らず『最低限の根回し』すら禁止されたら、『謳い文句に偽りあり』になってしまいます。
そういう理屈もあって、尚更強気に情報共有しています。
あくまでも理屈だけです。本当にどうこうするかどうかなんて分かりません。
ただ、理屈のあるなしっていうのも、やっぱり重要な要素ですので。