ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第15話:綾小路清隆は、『厳しさ』と『優しさ』と『甘さ』の関係について思考する。

 入学してから半月余りが経った。

 そんなある日の朝、ホームルームを行う我らが担任、茶柱の表情はいつも以上に厳しい。

 

「さて、これから朝のホームルームを行うわけだが……」

 

 そこまで言って、茶柱は教室内をグルリと見回した。

 

「率直に言うと、1-Bの生徒一同からお前たちは訴えられた」

「はあっ!? それどういうことっすか!? 佐枝ちゃん!」

 

 憤慨する、池を始めとした生徒たち。何なら、隣席の堀北だって不快気な表情を浮かべている。

 

「憤りは分かるが、落ち着け、池。順に説明する」

 

 そう前置きして茶柱から語られた内容は、至極尤もなものだった。

 前提として、この学校は授業体制に極度の放任主義を敷いている。そこに関しては否定する要素がない。何せ、生徒がどれだけ騒いでいても注意一つしないんだからな。

 それをいいことに、我がクラスでは授業中の私語や携帯操作は当然として、遅刻・居眠り・無断欠席までもが横行している。

 次に、この学校は日本でも有数の名門校にして進学校である。事実、その名に恥じない程度には上々の施設や設備を有している。

 更に、この学校の設立目的は、『将来の日本を背負って立つ優秀な人材の育成』である。

 一つ一つだけならともかく、これらの要素が重なると、途端に見え方・感じ取り方が変わってきてもおかしくはないのも事実。

 教師が生徒を放置しているのは、ただ甘いだけじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、厳しさの表れだ。

 生徒の態度に問題があると認識していて、だけど教師がそれを咎め立てないからと言って、それを指摘もせず矯正も働きかけないのは、『優秀な人材とは言えない』という判断だろう。自主的に動けない、或いは動かないようでは、将来の日本を背負って立つなど到底不可能。つまりはそういうことだ。

 そもそもにして、真面目に授業を受ける筈の時間に騒ぎ立てる時点で問題外。クラス内で完結しているならまだしも、その騒がしさが他のクラスにまで届いているなら尚更だ。

 ある種の喧騒と無縁ではいられない体育などはともかく、授業とは基本的に騒ぎ立てる必要がない。

 そして、既に入学してから半月が経っているのだ。名門校にして進学校の生徒という自覚があるのなら、浮ついた気分は払拭していて然り。少なくとも、授業とそれ以外でのメリハリは付けるべき。

 

「とまあ、これらがBクラスの生徒がお前たちを訴えた理由だな。こちらとしては『至極御尤も』と頷くしかない。実際、Bクラスの生徒は初回から一貫して真面目に授業を受けている。そんな真面目なクラスからの訴えともなれば、学校側としては棄却する理由もないわけだ。

 ああ、この件でBクラスの生徒を恨むのはお門違いだぞ? 彼ら彼女らは至極当然のことをしているだけだ。社会生活を送る上では、()()()()()()()というものが存在している。そして、Bクラスはそれを遵守しており、お前たちは堂々と違反した。

 同時に、だからこそBクラスの生徒にはその点を指摘する資格があるわけだ。普段から騒がしくしているお前たちが同様の理由で他クラスを訴えたとしても、学校側はまず受け入れない。『人のことをとやかく言う前に、まずは自分の行動を見直せ』……と、こう返すだろうな。

 その上で、Bクラスは実際に指摘するまでに半月という猶予も与えてくれている。裏を返せば、自浄作用に期待していたということだ。『この学校に入学した生徒だ。騒がしいのは一時のことだろう』……とな。まあ、これは私の想像だが、然程外れてはいないだろう。

 だが、お前たちは変わらなかった。結果、Bクラスは我がクラスの自浄作用には期待ができないと判断した。普通に考えて、自浄作用に期待できないのであれば余所が手を入れるしかあるまい? Bクラスの行動は至極道理であり、わざわざ指摘してくれている分、むしろ優しいとさえ言えるだろう。

 自浄作用が正常に機能していれば、そもそもにしてお前たちが授業時間に度を越して騒いでいなければ、こうして訴えられることもなかったんだよ」

「クッ……!」

 

 隣席の堀北が、その端麗な顔を歪める。否定したくても否定できない。そんなところか。

 実際、茶柱による代弁ではあるが、その理屈は紛うことなき正論だ。

 

「そして、Bクラスはあくまでも道義を重視しての問題提起であるために、キチンと救済部分も用意してくれている。――まあ、考え方次第ではこれ以上なく残酷ではあるがな」

 

 そう言って、茶柱はクツクツと嗤った。偽悪的なことこの上ない。

 

「Bクラスの生徒は、あくまでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っている。しかも、その時間帯も限定している。

 各教室に監視カメラが配置されていることにより、対象の絞り込みが比較的容易であると判断したが故の内容でもあるだろうな。そうでなければ、クラス内全体に被害が及んでいたところだ。

 つまり、該当時間、不真面目な生徒を止めこそしなかったものの、真面目に授業を受けていた生徒には被害が及ばないということだ。普段は騒いでいるものの、該当時間に限定して真面目に授業を受けていた生徒も被害を受けることはない。……そら、真面目な生徒が救われる反面、考え方次第では非常に残酷だろう?

 まあBクラスとしては、これを機に自浄作用が機能するようになってほしい。その期待の表れでもあるんだろうな」

 

 茶柱のその言葉により、クラス内の反応は二分された。基本的に真面目に授業を受けている生徒は安堵し、普段から騒ぎ立てている生徒は絶望の表情を浮かべた。

 該当時間が分からないため被害を被る生徒もまた不明だが、いずれにせよ自業自得というしかない。

 ちなみにオレは問題ない。真面目と言えるかは分からないが、引っ掛かるような行動は取っていないからな。そもそも、授業内容自体が既に分かり切っている事柄なのだから、真面目に受ける気にならなくても仕方がないだろう。引っ掛かるとすれば、精々が授業に集中せず窓から外を眺めていたことくらいだが、流石にそれで引っ掛かるとも思えない。

 

「先生、質問をいいでしょうか?」

「平田か。何だ? 普段から真面目に授業を受けているお前に害が及ぶことはないと思うが?」

「いえ、そこではなく。訴えられたということは、対象の生徒には何らかの罰則が下るものと考えますが、それはどういうものになるでしょう?」

 

 平田が茶柱に訊いたのは、対象生徒に下るだろう罰則の内容だった。この状況から覆すのは不可能と判断したか。まあ、当然だな。

 

「そこが難しいところでな。Bクラスの生徒は対象生徒を訴えこそしたものの、罰則については完全に学校側に一任するとのことだ。表立っては何一つ希望を述べることはなかった」

 

 わざわざ()()()()()と付けたのは、先の推測があるからだろうな。一度問題化してしまえば、以降は自浄作用が働くと期待するのは何もおかしなことではない。そして、それこそがBクラスの希望であるとするならば、わざわざ口に出すこともないだろう。高確率で、黙っていてもそうなるのだから。

 その一方、茶柱のその言葉に、期待の表情を浮かべる対象生徒たち。

 

「だがな? 以前から言っている通り、我が校は生徒の実力を評価する。そして、守るべきルールを守らず、結果として()()()()()()()()問題を起こした生徒の担任としては、向こうの言い分に甘えるわけにもいかない。本来是正に動くべきだったクラスメイトが動かなかった分も含めて、再発を防ぐべく厳しい判断を下さざるを得ないと考えている」

 

 だが、そんな生徒たちの期待を踏み躙るかのように茶柱は言葉を紡ぐ。意味ありげにクラス内を見回した上でだ。

 それは紛うことなき正論であり、そう言われたなら否定する要素はない。理由がどうあれ、問題があると認識しながら、是正のために動かなかった生徒がいるのは間違いないのだから。

 

「クッ……!」

 

 その自覚があるのだろう。動かなかった該当者である堀北は、再び表情を歪めさせた。

 最初から周りを切り捨てているから、周りからどう思われるかを、周りがどう思うかを注視しない。ヘタに能力が高い分、自分を絶対視しているが故の弊害だ。

 

「先生、私からも質問をよろしいですか?」

 

 それでも、どうにか打開点を見付けたのだろう。手を挙げた。

 

「今度は堀北か。何だ?」

「先ほど先生が口にした訴え方だと、うちのクラス以外にも該当者がいると思われるのですが、そちらはどのような対応を?」

 

 それもまた事実。殊更うちのクラスに該当者が多いのは事実だろうが、あの言い方ではうち以外のクラスにも該当者がいる可能性はある。

 そして担任として茶柱がどう思っていようと、ある意味でそれが個人的な考えに過ぎないのも事実。対象者に罰則が適用されるのは否めないだろうが、場合によっては他クラスのそれに合わせることも不可能ではない。

 

「いい質問だな。うちのクラス以外だと、Cクラスにも僅かながら該当者がいた。Aクラスには該当者なしだ」

 

 そこで、教室のドアがノックされた。

 

「どうぞ」

 

 入ってきたのは、一人の男性教師だった。

 

「どうも、茶柱先生。Bクラスから訴えがあった件ですが、私のクラスでは結論が出ましたので、参考までに……と」

「そうですか。生憎と、うちのクラスではまだ結論が出ていないものでして……。

 お前たちにも紹介しておこう。1-Cの担任である坂上数馬先生だ」

 

 入ってきた男性と茶柱の間で挨拶が交わされた後、茶柱によってうちのクラスに紹介された。

 

「まあ、無理もないでしょうね。該当生徒を抱えている時点で、私自身偉そうに言えたものではないですが、それでも、私のクラスと貴方のクラスとでは該当者の人数が違いすぎる。その点を考慮しても、決めるのには時間がかかるでしょう」

「いやはや、耳に痛い。Aクラスの担任である真嶋先生とBクラスの担任である星之宮先生が羨ましくてなりませんよ。

 ちなみにですが、Cクラスではどのような結論に? いえ、丁度うちのクラスの生徒からその件で質問を受けたばかりでしてね」

「尤もな質問ですね。うちの場合、クラスの代表ともいえる生徒から提案がありましてね。該当者は一人当たりBクラスへと五万ポイントを支払うことで決着がつきました」

「ほう? 対象生徒に限定されるとはいえ、一人当たり五万ポイントも……! それは何とも豪気ですね」

「私としては無難に停学を提案したんですがね。代表者に却下されたものでして。()()()()()()()()()()()()()()()……と。

 元から真面目に授業を受けていない奴を停学させたところで無駄だ。反省なんかしやしない。それよりは確実にダメージを与える方法を選ぶべきだ。その方が本人もバカな真似を控える。……生徒の方からそう言われてしまえば、決してその言い分が間違っているわけではありませんし、私としても受け入れざるを得ませんでした」

 

 なるほど。Cクラスの代表とやらは存外侮れないらしい。足を引っ張った生徒には確実にダメージを与えつつ、自身の統制を強めるのに利用している。

 

「なるほど。ですがこの時期です。既に手持ちのポイントが足りなくなっている生徒もいるのでは?」

「はい。ですので、不足分は少額ずつ他の生徒が貸し出す形で対応することにいたしました」

「……ま、来月になれば学校からポイントが支給されますしね。該当生徒の人数が少ないのであれば、どうにか返済も可能でしょう。――生憎と、うちのクラスでは人数が多過ぎて同じ方法は取れそうにありませんが……」

 

 それも然り。実際にCクラスの該当者が何人かは分からないが、それでもうちのクラスとは比較にならないほどに少ないだろうことが窺える。だからこそ、可能な手法でもあった。

 だがうちのクラスは、ただでさえ該当生徒が多く、それに加えて散財した生徒も多い。節約している生徒もいないわけではないが、散財した生徒より圧倒的に少ない。Cクラスと同じ手法を取ろうにも、根本的に不足分を補うことが出来ないのだ。

 

「クッ……!」

 

 それが分かったのだろう。三度堀北は表情を歪めた。

 同時に、Cクラスの罰則を知ったことが、逆にうちのクラスを追い詰める。

 該当人数が少ないからでもあるだろうが、Cクラスは一人当たりが訴えたBクラスに対して五万ポイントを支払うのだ。である以上、公平を期すのなら、うちのクラスも同等の負担を負わなければならない。

 支払いを待ってもらえるのなら、Cクラスと同じ方法を取れなくはない。――だがそれも、来月それだけのポイントが支給されるならの話だ。

 こんな問題児揃いのクラスに、それだけの価値を付けるか? 常識の不足しているオレでも分かる。有り得ない。それこそ、支給ポイントがゼロでもおかしくはない。

 ポイント支給がクラス評価ではなく個人評価だとしても同じこと。現状において、公に実力を披露する機会など巡ってきていないのだ。精々が水泳の授業でやった競争くらいなものだろう。

 これでは支給ポイントが増える理由などない。最高でも十万ポイントそのままだ。しかも、それとてクラスの中でも極少数である。

 最大限自分たちに都合よく考えたところで、それが現実だ。

 Cクラスに適用された罰則を知らなければ、まだマシな結果になった可能性もある。だが知ってしまったからこそ、その事実を蔑ろには出来ない。

 再度、教室のドアがノックされたのはその時だった。

 

「今度は誰だ……? どうぞ」

 

 茶柱は首を傾げつつも入室を促した。

 

「失礼しまーす」

「失礼する」

 

 入ってきたのは男性と女性が一人ずつ。男の方は見覚えがある。英語の担当教師にして1-Aの担任でもある真嶋だ。女の方は分からないが、状況からして1-Bの担任だろうか?

 

「真嶋先生に星之宮先生……? 一体どうしたんです?」

「いやなに、1-Bの訴えを受けた身としては状況が気になってな」

「同じく、1-Bの担任として状況が気になってね。……あ、Dクラスの皆! 私は1-Bの担任を務めている星之宮知恵っていいます! 養護教諭も務めてるからよろしくね!」

 

 そのやり取りで、女性の方も誰か分かった。

 不思議なことに、Bクラスの訴えを受けたのは担任である星之宮ではなく真嶋であるらしい。……いや、授業中の質疑応答時間を利用して確認を取り、そのまま訴える流れになったのなら不思議でもないのか。

 

「Cクラスは該当生徒が一人当たりBクラスに対して五万ポイントを支払うことで決着としたようだが、生憎とうちのクラスはまだ決まっていない。ただでさえ散財者が多く、該当生徒も多いうちのクラスでは、Cクラスと同じ手法は取れないのでな。

 しかしながら、罰則が軽くては意味がない。少なくとも、該当者に反省を促す内容でなくてはならない」

「停学は?」

「うちのクラスでも私が提案したんですがね。生徒の方から却下してきました。ただでさえ不真面目な生徒が停学したところで、反省なんぞするわけがない……と」

「アッハハ……! 辛辣! でも、決して間違ってるわけじゃないよね。まあ、それを聞いてしまえば、Dクラスとしても停学でお茶を濁すことは出来ないか……」

「……そういうことだ」

 

 一年の教師陣は、揃って唸った。落としどころが見当たらないのだろう。

 喫煙とか暴力とかではなく、授業中に度を越して騒いだだけだ。本来なら、軽く注意すればそれで済む程度の話ではある。

 だが、この学校の立場がそれを難しくしている。『日本でも有数の名門校にして進学校』。この学校がその看板を背負っているのは事実であり、必然として生徒にはそれに相応しい態度が求められる。そしてそれは、言われて直す時点で『問題外』と捉えられてもおかしくはない。

 更には、学校側の体制も絡んでいることが問題を厄介にしている。いやまあ、該当生徒の振る舞いが一番の問題であることは否定しないのだが、学校が放任主義を取っていなければここまで大事化しなかった可能性があるのも事実である。

 

「理由としては尤もであるが故に俺も訴えを受け入れざるを得なかったが、改めて考えると落としどころが難しいな……。今まで、この時期にこういった問題で訴えられたことがなかったからでもあるわけだが……。まあ、学校側の怠慢と言ってしまえばそれまででもあるわけだが……」

 

 結局、ホームルームで解決することはなかった。改めて、学校の教師陣で会議にかけるらしい。

 果たして、落としどころはどうなることか……。

 オレの疑問に答えが出たのは、それから更に一週間後のことだった。




入学して半月が経ってるので、龍園の統制もある程度利いてくる頃合いと判断しました。
原作でCクラスの五月の支給ポイントが490だったのを参考にしています。
『取り敢えず、授業は真面目に受けろ』的な感じで、言ってることはまともなのにやってることがおかしい――例:裏で暴力――龍園に反発していた一部が引っ掛かった感じです。
これ幸いと、龍園は自身の統制強化に利用しました。

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