ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第16話

 訴えた結果どうなったのか。それが分からないままに一週間余りの時間が過ぎた。

 まあ、普通に考えれば停学かそこらだろう。流石にこれで退学にするのは度が過ぎている。

 或いはポイントでの解決を図るのかもしれないが、少しばかりポイントを没収したところでダメージは少なく、反省を促すには至らないだろう。

 元より対象には名門校にして進学校の生徒たる自覚と常識が不足しているのだ。反省を促すのであれば、初期に支給されたのが十万なので、その半分である五万ポイント、そこまではいかなくても1/4である二万五千ポイントを没収するのが妥当なライン。

 この学校では、ポイントなくしては生活のランクがガクンと下がるので、そこまですれば確実にダメージは入るだろうし、翻って反省もすることだろう。

 しかし、現実には難しい。偏見かもしれないが、授業中にあれだけ騒がしくしているような生徒の手持ちなど高が知れている筈だ。これではポイントを没収しようにも出来ない。

 連帯責任を兼ねて、手持ちに余裕のあるクラスメイトに貸し出させた上で没収する手法もあるが、人数比で容易く崩れ落ちる。これも上手くはいかないだろう。

 こうなると、現実的に考えても停学一択。その上で多少のポイントを没収するのが妥当なラインだろう。

 そんなアズの予想があまりに甘かったと分かるのは、教室に着いた直後だった。

 

「……え?」

 

 その()()は一目で分かった。机が一つ増えている。四十だった机が唐突に一つ増えれば、元が等間隔に配置されていることもあって、何を言われずとも流石に分かる。

 そしてコレについて、私たちは何も聞いていない。聞かされていない。少なくとも私はそうだ。――そんなアズの心情は、他のクラスメイトと合致するものであった。

 クラスの様子を見ればそれが分かる。既に登校済みのクラスメイトは、誰もが誰も、どこか浮ついた空気を発している。

 

「アズはコレについて何か聞いてる?」

「いや、私も聞いてないよ」

 

 帆波の質問に、アズは顔を横に振って答えた。事実だ。

 

「でも、ある程度の推測をすることは出来る。そしてコレだけは確信を持って言える。まず間違いなく、先日の訴えの結果でしょ」

「やっぱり、アズもそう思う?」

「タイミング的にもそうとしか思えないよ。

 私としては、罰則として適用されるのは停学が精々だと思ってた。停学だけでは終わらないにしても、それにプラスしてのある程度のポイント没収。現実的に考えても、それが妥当なところだって……」

「うん。そこについては私も同じ。それでどこまで反省を促せるかは分からないけど、いくら度が過ぎていたとしても授業中に騒いだだけで退学にするのは流石に行き過ぎ。そうなると、現実的に考えてもそこら辺が落としどころになる。せざるを得ない」

 

 顔を見合わせて、アズと帆波は頷く。

 

「だが、違った。……少なくとも、学校側はそのような判断をしなかった」

 

 そこに、神崎が口を挿んできた。

 

「その上で考えられるとすれば、表現としてはともかく、『クラスの煽りを受け、借金のかたに売られてきた』……と、そう考えるのが妥当なところか?」

「私もそう思う。他にも『この席の生徒に対する救済措置』という見方もできるし、『道義的に見て問題のある事柄に対し真っ先に訴えを起こすようなクラスであれば、一人増やしたところで面倒を見られるだろう?』という、()()()()()()()()と受け取ることも出来る。

 予測として、私たちは()()()()()()()()()()()()が可能だと判断している。でも、その事実は私たち新入生に対しては未だに公表されていない。必然、どれだけのポイントがかかるかも分からない。結論として、現段階ではあくまでも仮説にすぎない。

 この机は、()()()()()()()()()という事実を裏付ける要素にはなれ、()()()()()()()()()()()()()()()であることを保証する要素にはならない。

 強引ではあるけど、上手い手ではあると思う。私たちには余りに情報が不足していて、基準となるべき部分が余りに脆い。特に、この学校特有のシステム周りに関しては……」

「裏を返せば、『面倒な訴えを起こしやがって!』という、学校側からの抗議の可能性もあるわけか……」

「私たちの推測が正しい場合、来月になれば、システム周りの敢えて伏せられていた部分についてはネタ晴らしが入る筈だもんね。必然、黙っていても、不真面目な生徒を真面目に授業に向かわせることは出来るようになる。少なくとも、そういう要素があるのは確か。――開き直られる可能性がなくはないけどね。

 黙っていても解決するだろう事柄に対してわざわざ口を突っ込んだんだから、そりゃあ学校側としても思うところが出てきておかしくないか……。道義的に見た場合、私たちの訴えは決して間違っているわけじゃない。そうなると、学校側も黙殺は出来ず、尚更対応するしかない。

 ホント、おかしな学校だよね。道義的に見て、明らかに間違っているだろう事柄を強制する部分があるくせに、その一方ではこうして律義に対応するんだから……」

 

 三人は顔を見合わせて深々と溜息を吐いた。

 三人の脳裏に浮かんだのは、各トイレに仕掛けられた監視カメラだ。道義的に見た場合、あのカメラこそが明らかに間違っている。

 しかしその一方で、トイレとイジメが高確率で結び付けられるのも事実である。その点で考えると、道義的には間違っていても、理屈の上で筋は通るのだ。

 此度のアズたちの訴えは、道義的にも正しく、理屈の上でも筋が通っている。だからこそ、学校側も対処に動いたのだろう。

 そうこうしている内に予鈴が鳴った。朝のホームルームが始まる。星之宮先生が来る前に、生徒たちは各々の席に戻っていった。

 程なくして星之宮先生が教室に入ってきた。隣には一人の女生徒を連れている。

 

「はい皆、おはよう! それじゃあ、朝のホームルームを始めるね! まずは新しいクラスメイトの紹介からね! 彼女は元1-Dの生徒で、佐倉愛里さん! 本日より私たちのクラスの一員になりました! はい拍手~っ!」

 

 笑顔を浮かべたまま、星之宮先生が言う。

 こういうことに関してはノリがいいクラスでもあるので、全員が愛里を歓迎した。

 

「あ、あの、佐倉愛里です。元1-Dです。よろしくお願いします」

 

 愛里は緊張したように、それだけを言った。

 

「佐倉さんはあそこの席になるけど、取り敢えず座ってもらっていい?」

「は、はい。分かりました」

 

 愛里はおずおずと自席に向かい着席した。それを確認した星之宮先生が口を開く。

 

「大丈夫、佐倉さん? ちゃんと黒板は見える?」

 

 流石にアズほどではないが、愛里もまた十分に小柄であり、オマケに眼鏡もかけている。男女が入り乱れた席順になっているため、黒板が見えるか気にかけるのは道理と言えるだろう。

 

「あ、はい。大丈夫です」

「ならいいけど、もし問題があるようならキチンと言ってね?」

「わ、分かりました」

 

 先ほどから見ていると、愛里はとにかく()()()()()()印象だ。人付き合い自体が苦手なのだろうか?

 

「改めて説明すると、彼女がうちのクラスに来たのは、先日の訴えの結果でもあります!

 該当生徒は1-Cに少数が、1-Dに大多数がいました。当初、学校側は該当生徒の停学を提示したんですが、1-Cの代表生徒がこれを拒否しました。理由としては、『元から真面目に授業を受けてない生徒を停学させたところで、反省なんかする筈がない』というものでした。

 道義的にはともかく、理屈としてはこれ以上なく正論でもあります。結果、学校側もその意見を受け入れました。

 代わりに件の代表生徒から提示されたのが、『該当者は1-Bに対して、一人当たり五万ポイントを支払う』というものでした。『初期支給されたポイントの半分も支払うことになれば、流石にダメージが大きく、該当者も反省するしかない。停学よりは再発を防げる可能性が上がるだろう』……と、理由も尤もなものだったため、学校側はこの言を受け入れました。

 Cクラスに関してはこれで解決ですが、Dクラスに関してはそういうわけにもいきませんでした。人数の違いも大きければ、保有ポイントに余裕のない生徒が大半だったため、Cクラスと同じ方法が取れなかったんです。

 その一方で、Cクラスの罰則が罰則だったため、公平性を考えればDクラスにも同等の罰則を適用しないわけにはいきません。それで紛糾しましてね。教師陣の間で連日会議が行われ、どうにかこうにか結論が出た次第です。

 そして、佐倉さんがうちのクラスに来ることになったわけですね。彼女の個人情報を暴露することになってしまいますが、Dクラスで真面目に授業を受けていた生徒のうち、入学時の試験成績で最も点数が低かったのが彼女だからです。

 こういう言い方はアレですが、今年の1-Dの生徒は、学校側の想像以上に()()()()()生徒が多かったんです。放任主義を敷いているとはいえ、これでも教育機関ですからね。機会さえあるならば生徒に手を差し伸べますとも。

 本来であれば、クラスの移籍には莫大なポイントがかかります。該当生徒からポイントを没収し、それを彼女の移籍費用に充てた感じですね。到底足りるものではありませんが、学校側の授業体制に起因する訴えであったのも一因です。不足分は学校側が出した。こう思ってもらって構いません。

 該当者はポイントの没収でダメージを食らい、クラス移籍には実際にいくらかかるかを知った際に更にダメージを食らう。こういう算段です。

 そして、クラス内でも下位の成績の人物がクラス移籍を果たしたとなれば倍ドンです。理由がどうあれ、不真面目な生徒を止められなかった生徒もダメージを食らいます。

 否が応でも、己が行動を悔い、反省することでしょう。そうなることを、学校側は期待しているわけですね」

 

 星之宮先生による説明は、決して頷けないものではなかった。

 理想として生徒一人一人の公平性を掲げても、実態としては個人の出来不出来を蔑ろにして同列には語れないのだろう。

 そして、今回の愛里の移籍は、1-Bが訴えを起こしたことを受けての、学校側による該当生徒への罰則によるものだ。率直に言えば、落としどころを探す上で都合が良かった。それだけの話なのだろう。時として、組織の中では個人の意思など蔑ろにされるものだ。それを思えば不思議でもない。

 愛里はその煽りを受けただけであり、本人が望んだものではない。である以上、彼女からポイントを回収する理由もない。ある意味で彼女の救済に繋がっているのも確かだ。少なくとも、授業中はDクラスほどには騒がしくないため、その分だけ勉強に集中することが出来るだろう。

 見方によっては、1-Bは足手纏いを掴まされたことになるが、罰則にこれといった希望を出さなかったのも確かだ。その結果がコレであるのなら、1-Bとしては甘んじて受けるしかない。結果が気に入らないからと、後からどうこう言ったのでは筋が通らない。

 見方次第ではあるが、今回の一件で、関係各所のいずれにもメリットとデメリットが生じている。

 BクラスはCクラスからポイントを得ることが出来たが、Dクラスからは足手纏いが回ってきた。また、両クラスの罰則適用者からは恨みも買っていることだろう。

 Cクラスは該当者がBクラスへとポイントを支払うことになったが、その一方で代表者の指揮統制に一役買うことになった。明確なリーダーがいるといないのとでは、やはり大きく違ってくるものだ。そういう意味では、Cクラス全体としてはメリットの方が大きいだろう。

 Dクラスは、一足早く自分たちの甘さ――認識不足を知ることが出来た。メリットと言えるほどのメリットではないが、それでも、今の時点から更生に向けて動き出せるようになったのは事実だ。人数が一人減りはしたものの、他のクラスに足手纏いを押し付けることが出来たと、そのように考えることが出来るのも事実である。

 学校側は、問題対処に動くことになったこと自体がメリットでありデメリットだ。新たな事例に直面することになったのは、手間であると同時に先例の増加に繋がる。

 今回、一年生で完全に蚊帳の外だったのはAクラスくらいなものだろう。訴えの該当者がいなかったことからして、Aクラスの授業態度も()()()()()()()だと判断せざるを得ない。逆に言えば、Aクラスが訴えを起こしていてもおかしくはなかったのだ。

 Bクラスが学校特有のシステムについてある程度の予想を立てているように、他クラスもまたある程度は考えているだろう。少なくとも、AクラスとCクラスに予想を立てている生徒がいることはほぼ確実だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実そのものが、その推測を裏付ける要素となる。現実的に危機感を抱いているから、方法の是非はともあれ是正に動いた。そう考えることは決して不可能ではない。

 だからこそ、Aクラスが先に動いてもおかしくはなかった。動かなかったのは、Bクラスが先に動いたからか。或いは、動かないことの方にメリットを見出したからか。

 どちらの可能性もあり得るし、普通に的外れな可能性もある。Aクラスは素で全員が真面目。そういう可能性だってなくはないのだ。

 いずれにせよ、今回の一件でBクラスが各クラスの均衡を崩す引き金を引いてしまったのは事実だ。これをきっかけに、様子見を止めて動き出す生徒がいるかもしれない。

 

「……と、チャイムが鳴っちゃった。じゃあ皆、佐倉さんとも仲良くね! 佐倉さんも、出来るだけ早くクラスの皆と打ち解けるように努力してね!」

 

 そう言って、星之宮先生は教室を後にするのだった。




学校側の判断によるクラス移籍も十分にあり得ると考えています。非常に条件は厳しいでしょうが。

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