ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第17話:姫野ユキは、奇貨とするべく行動する。

「よお、お疲れ」

 

 昼休み。

 私はそう言って、今日になっていきなりDクラスから移籍させられてきた女生徒の前にドッカリと腰掛けた。無論、私が座った席の人物にも目の前の女子にも許可なんか取っちゃいないが、別に構わないだろう。

 前者に関しては、()()()()人物揃いのこのクラスのことだ。軽く笑って許してくれるという目論見がある。当人が席を外しているので尚更だ。

 一方の後者――目の前の女子に関しては、律義に許可なんか取っていられない。朝からそれとなく様子を見ていたから分かる。コイツは重度のコミュ障だ。素直に許可を求めたところで、許可なんかくれやしない。相手がドアを開けてくれるのを待つのではなく、こちらからドアを開けて不法侵入をかますような、そんなある種の図々しさが必要になる。

 だから良い。……そんな本心を隠して、私は話しかけた。

 

「アンタ……佐倉、つったっけ? 昼はどうすんの? 学食? それともパンとか弁当?」

 

 言葉だけなら居丈高にも感じるだろうが、私自身にそんなつもりはない。単に、私自身も佐倉ほどじゃないがコミュ障なだけだ。基本的に受け身な奴が能動的に動いたところで、どこかしらに問題が出て然りである。

 

「あ、はい。佐倉であってます。え、と、お昼は学食に行くつもり、です。ポイント、余裕がないので……」

 

 内心で自己弁護する私に対して、佐倉はどもりながらもキチンと返事をしてくれた。この時点で、心の底から人付き合いを避けているわけではないことが分かる。

 それでも避けているのは、俯きがちな姿勢からも察せられる()()()()()からくるものか。或いは、背丈の割には豊か過ぎる胸部装甲で嫌なことでもあったか。それとも、全く別の事柄に由来するのか。

 まあ、考えたところで分かるわけがない。未だ私が佐倉について知っていることなど限られているので尚更だ。

 この短時間で何にそれだけポイントを使ったのかも興味がないわけじゃないが、それを訊くのは時期尚早に過ぎるだろう。

 

「そ。んじゃ、行こっか」

「え? あの、私は一人で……」

 

 立って促す私に対して、佐倉は断りの返事を発しようとする。それを遮るように私は言葉を続けた。

 

「あ~、本心からの忠告だけど、ハッキリ言ってそいつは悪手だ。このクラスでは尚更にな」

 

 私の言葉に意表を突かれたのか。或いは興味を惹かれたのか。いずれにせよ、佐倉は言葉を中断して傍聴態勢に入った。

 

「うちのクラスの首脳陣の推測によると、それぞれのクラスは何らかの特色に基づいた上で生徒が振り分けられている。そしてうちのクラスの場合は、『協調性』とか『団結力』とか呼ばれるものに適した人物が集められている。

 とはいえ、長所と短所は表裏だ。完全に一元化してしまうとそれはそれで問題があるため、僅かながらにマイノリティーも組み込まれている。それが私だ。

 集団形成の必要性を認めてはいるし協力するのも吝かじゃないが、一定ラインを超えると途端に鬱陶しく感じてしまうタイプなんだよ、私は。

 クラスの奴らは協調性があるから、そんな私のスタイルにも理解を示してはくれるが、それは私のスタイルを知ったからこそでもある。

 そして、基本的に道徳心の強い善人集団なのがこのクラスであるからして、独りでいる生徒を放っておけないのさ。だってそうだろう? 現代社会で生きるってことは、何らかの組織と関わり合わずにはいられないんだから。

 実社会に出る前に少しでも他人と触れ合うことが出来るように。……そんな、完全無欠の善意によって、放ってはくれないのさ。

 だがそれは、僅かなりと明確な繋がりを持つ相手がいると分かれば、途端に鳴りを潜める程度のものでもある。

 だからこそ、私とアンタが結び付くことにメリットが生じるのさ。私とアンタは接触する相手を必要最低限に抑えられる。お優しいクラスメイトは、そんな私たちを見て安心できる。

 これは利己的であると同時に、善意からの提案でもある。だって、既に私にはアンタ以外にも繋がりを持つ相手がいるんだから。

 その上での質問だ。アンタは私の誘いを受けるか? それとも拒否るか? 私としてはどっちでもいいよ。決めるのはアンタだ」

 

 語ったことはほぼ本音だ。手を取ってくれれば嬉しいが、取らないならそれでもいい。まあ、取ってくれた方が嬉しいのも事実だが……。

 ぶっちゃけた話、クラス内で私が気楽に接することが可能な人物は極端に少ないのだ。アズと神崎くらいなものである。

 自然、その周りの人物と御一緒することがないではないが、どいつもこいつも単独では付き合いにくい。一之瀬は輪が広すぎるし、櫛田と月ノ輪は上辺に騙されがちだが極端に輪が狭い。網倉と白波は一之瀬に惹かれている面が強いため、やはり気を遣わざるを得ない部分がある。柴田は比較的付き合いやすい部類だが、根っこがスポーツ少年であるため、どちらかと言えば文官肌の私とは共通の話題が少ない。

 貴重な同性で付き合いやすいアズは、放課後となれば部活荒らしに精を出している。必然的に一緒の時間を過ごしにくい。

 神崎はそういうこともないが、そもそもにして異性であるため、囃し立てられることがなくもない。

 だからこそ、偶には落ち着いて放課後を一緒に過ごせる同性を、私は心の底から求めている。でなきゃ、能動的に動くなんて慣れない真似をしちゃいない。

 だが、一方的では意味がないのだ。相手もメリットを感じることが最低条件にして絶対条件である。だからこそ、無理に手を取ることはしない。

 私がするのは、強引にドアを押し開けて踏み込むところまでだ。その後は相手次第。その上でこちらを受け入れるならそれで良し。断るならば縁がなかったまでのこと。

 

「私は……」

 

 呟き、佐倉はその手をウロウロとさせる。迷っているのだろう。悩んでいるのだろう。それならそれでいい。その果ての選択だからこそ価値がある。だからこそ、急かすような真似もしない。

 佐倉が学食に行くというので同意はしたが、実際のところ昼食は持ってきている。無料パンと無料食材を使ったお手軽サンドイッチだ。量は減ることになるが、最悪は二人でそれを分ければいい。

 そんな打算があるから、私が焦ることもない。

 やがて、佐倉は私の手を取った。

 

「交渉成立」

 

 私は口元に弧を描いてそう言った。

 時間にはまだ余裕があったので、二人連れだって食堂に行く。

 偶然か、必然か。二人して注文したのは山菜定食だった。無料は正義。そういうことなのだろう。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

  

 そして迎えた放課後。

 私は教室で佐倉と一緒に勉強をしていた。周りの目が気にならないと言えば嘘になるが、私としても《佐倉と一緒に行動している》》場面を見せてクラスメイトを納得させる必要があるし、そうすることでクラスメイトも二重の意味で安心できる。

 であるからして、僅かな不快感は必要経費で切り捨てられる程度のものだし、私自身もそれに納得している。

 このクラスの特色として、危機感は常に共有されている。厳密に言うと、受け取り手がどう受け取るかは文字通りに受け取り手の自由であるわけだが、首脳陣が重要だと判断した事柄ほど、時に口頭で、時にクラス全体のグループチャットで発信されるのである。

 そのため、実のところクラス全体のグループチャットは二つ用意されている。最初のうちは一つだけだったのだが、首脳陣が定まった段階でもう一つ用意されたのだ。片方は玉石混交に入り混じり、もう片方は本当に重要な情報だけが列挙されている。おかげで後からの確認もしやすい。

 そんな首脳陣の判断によると、中学時までは無縁だった退学を()()()なものとして危惧しなければならないらしい。あくまでも推測段階ではあるが根拠も挙げられ、そこに関してもキチンと筋が通っている。先輩の教室を撮った動画が挙げられ、()()()()()()()()()()()()()()()となれば、殊更に否定する要素もない。

 その推測の中には、『試験成績による退学の可能性』も示唆されていた。『学生の本分は勉強』と言われる部分があることを鑑みれば、十分に頷ける。

 私は行かなかったが、部活動説明会ではパンフレットが配られたそうだ。実際に見せてもらったが、その内容もまた裏付ける要素となる。

 設備は上々、全国区の部活や選手も多い。だが、優勝経験はない。部活だけに注視できない事情があるなら納得だ。()()()()()()()()()()でも筋は通るが、()()()()()()()()退()()があるのなら、尚更部活だけに精を出してはいられないだろう。

 だからこそ、佐倉もまた机に向かうことを否定はしなかった。むしろ、この情報を伝えた際の顔色は真っ青となっていた。1-Dでは、こういった危機感は共有されなかったらしい。

 正確に言うと、一度だけ平田という人物が注意喚起を行ったようだが、それだけだったらしい。これでは真面目に受け取る筈もない。真に共有するには、相応の根拠と回数が必要だ。根拠の信憑性が高ければ高いほど、試行回数は少なくて済む。

 

「先生の口振りから不安ではあったけど、許容範囲とは言えるかな……?」

 

 試しに佐倉に解いてもらった問題を見た私は、そんな感想を零した。

 群れることを好まないということは、その一方で効率的な勉強を模索する必要があるのだ。いやまあ、確かに何時間も机に齧りつくのも一つの手ではあろうが、効率としては下の下だ。人間には体力的な限界もあれば精神的な限界もある。落ち着ける時間、気を抜ける時間を確保するのは重要だ。それを蔑ろにしてしまえば、費やす時間の割に成果が低いのは道理である。

 そんな私であるからして、あくまでも個人的にではあるが効率のいい勉強法を取得している。でなければ独力で平均以上の成績をキープすることは出来ない。

 まかり間違っても最効率ではないし、優秀とも言えないのは事実だが、基本的にはどの教科も六十五点~八十点の間をウロウロしている。……得意教科がないことを嘆けばいいのか、不得意教科がないことを喜べばいいのか、何とも判断の難しいところだ。

 そんな私から見て、佐倉の学力は『可もなく不可もなく』だった。平凡も平凡。程々に分かっていて、程々に分かっていない。

 初日のわずか数時間からの判断でしかないので断言できないのは事実だが、それでも、その範囲内で判断を下すならそうなる。

 

「暫くの間、放課後はこうして勉強に費やしてもらうぞ? まだデータが少ないから断言は出来ないが、佐倉がかなりヤバめなのは間違いないだろうしな」

「私、そんなにヤバい?」

「断言は出来ないが、可能性は高いだろうな。……先輩のクラスの机の数をカウントする限り、各クラスでばらつきが出ているのは事実だ。普通に考えれば、退学者が出た証左だろう」

 

 私は端末を操作し、チャットに挙げられた写真を開く。それを佐倉に見せながら告げた。

 

「ここで気になるのは、ばらつきにも方向性があるってことだ。Dクラスほど、机が少ない」

「これって……」

「各クラス、学校が定めた基準の下で人員が振り分けられている。この推測は説明したと思うが、その上で、()()()()()()()()()()()()生徒ほどAクラスに配置されているんだと考えるのが妥当だ。学力、運動能力、社交性、エゴ、生活態度……これらを総合的に勘案した上でな。

 その観点で考えると、『見るべき部分はあれ、それ以上に欠点が多い。或いは大きい』生徒ほど、Dクラスに配置されているってことになる。

 そこに退学という要素が加わり、更にこの学校が『国内有数の名門校にして進学校』という要素が加われば、どうなると思う?

 試験において一定回数以上の赤点を取る。或いは、試験において学校側の定めたボーダーを下回る。それが退学の基準であったとしても、私は驚かないね。だとするなら、Dクラスほど退学者が多いのにも納得だ。

 そもそも、この学校を目指した時点で、ある程度の厳しさは覚悟の上だ。『綺麗な薔薇には棘がある』ってのは、よく言われたことだろう? 見た目に騙された奴ほど苦労する法則だ」

 

 私自身、この推測は然程的外れではないと思う。繰り返すが、ほぼ独力で一定以上の学力はキープできているのだ。必然として、ある程度の思考力は養われている。単に表立って口に出すのが面倒なだけである。

 それは今も変わっていないわけだが、それで佐倉が退学になり、連帯責任でダメージを食らってしまえば目も当てられない。

 そして佐倉のスタンス的に、距離を詰められる奴自体が非常に限られる。まず間違いなく、積極的なコミュ強には無理な所業だ。()()()()という共通項を持つのが最低条件にして第一条件。その上で、積極的に話しかけなければいけないのだから、何という難題か。

 だからこそ、クラス内では可能な奴自体が限られる。そしてそいつが無理にでもやらなければ、佐倉が真に危機感を覚えることはない。覚えた時には既に手遅れ、ということだってあり得る。

 そんな合理的判断と個人的都合が重なった結果、私がその役目を買って出たわけである。

 目論見通り、佐倉の危機感は更に増したようだ。顔色が更に悪くなっている。

 

「単純な善意って訳じゃないが、それを防ぐためにこうして私が勉強を見てんだ。危機感を覚えたんなら、そんだけ真面目に勉強に向き合え。

 心配すんな。最初のうちは土曜日も付き合ってもらうが、日曜日は関与しないからさ。ちゃんとプライベートな時間は確保させるよ」

 

 私の言葉を聞いた佐倉は、パチクリと目を瞬かせた。

 

「なんだよ?」

「いえ、土曜日も付き合ってくれるんですか?」

「不服か? だが、お前の学力を把握しようと思えばそんくらいは……」

「だから、そうじゃなく。土曜日も私に付き合うのって、姫野さんの方が苦痛じゃないんですか?」

 

 ああ、そういうことか。佐倉のその言葉を聞いて、私は初めて佐倉の言いたいことに気付いた。

 

「特には。私、根っこの方はかなりドライな自覚があるから。そりゃあ、個人的な興味関心や嫌悪を抱く相手がいないわけじゃないけど、それ以外が相手であれば、私の許容範囲を超えなければどうとも。ある意味、時間を潰せてラッキー的な部分がないでもない」

 

 事実である。だからこそ、うちのクラスの生徒はある意味で付き合いやすく、ある意味で付き合いにくいのだ。

 世の中、礼儀ってやつは重要で、だからこそ人は本音と建て前を使い分ける。そして社会的な排斥を恐れる私は、どうしたって建前で付き合う場合が多くなる。正直言って、紛れもなく苦痛である。――まあ、このクラスに関しては、アズがそこら辺を代弁してくれたことで私は救われたわけだが……。

 翻って佐倉はどうか? 余所のクラスから移ってきた佐倉は、このクラスにおいては私以上の少数派なのだ。

 逆説、多少なりと佐倉を雑に扱ったところで、それを佐倉が許容するのであれば、クラスメイトもまた許容する。私が排斥されることはない。

 である以上、殊更建前を用いても疲れるし面倒なだけだ。ある意味で因果の逆転現象が起こっているが、私が佐倉に構うのはそのためだ。

 気楽に接せる相手を探すのが面倒ならば、気楽に接せる相手を用意してしまえばいい。本来なら実行の難しい事柄だが、幸いにして佐倉という《打ってつけの駒》が転がり込んできたのだ。これを有効活用しないのは嘘だろう。

 

「姫野さんがいいんだったら……。その、お手数をかけますが、よろしくお願いします」

「はいよ、任された」

 

 こうして、コミュ障同士の奇妙な付き合いが始まったのだった。




愛里との距離を詰めるのは、ハッキリ言ってかなりの難題だと思います。
愛里自身が『自分の価値』を殊更に低く見積もっています。その上で、グラドルの『雫』は自分であると認識しつつ、仮面に過ぎないとも認識しています。
そんななので、積極的に近付いてくる相手は『雫』目当てであると仮定せざるを得ず、警戒対象待ったなしです。
その一方、愛里自身、根底では他人との交流を求めているので、愛里自身が納得できる理由を提示されれば、たどたどしくはあってもコミュニケーションは取る。
良くも悪くもファーストコンタクトで全てが決まる、そんなキャラだと思います。

原作の綾小路は、根本で他の人物に対して何の興味も持っていなかったためにその条件をクリアしました。
愛里にしてみれば、『クラスメイトの一人』としか見られていないことに安心感を抱いたわけですね。

本作では、ユキが理詰めで論破しました。
良くも悪くもDクラスとは所属生徒の傾向が違うため、ユキの手を払えば他の誰かが引っ切り無しにやってくることになります。
ユキの手を取れば、少なくとも他のクラスメイトは必要以上に近寄らなくなる。直接的にそれを説明されてしまったら、愛里としてはユキの手を取るより他にありません。

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