ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第20話:櫛田桔梗は手を差し伸べる。

 五月一日、朝のホームルームが終わった後。

 私はこれからどう動くかについて頭を働かせた。

 ()()()()()()()()。以前、私は私をそう定義したし、今以てその認識が変わることはない。私は常に、他者からの称賛を求めている。

 だがその一方で、変わった部分もある。具体的に言うと、称賛に質を求めるようになった。有象無象からの称賛と、一定の社会的評価を受けている人物からの称賛、どちらの方が社会的評価が高いかなど、わざわざ考えるまでもないだろう。自然、満足感もまた変わる。

 とはいえ、私も人間だ。そして、称賛を発する相手もまた人間だ。である以上、個人的感情や生理的嫌悪感が絡むことはあるし、それによって価値が変動することもある。

 人間、余裕があれば視野や思考が広がるもので、今の私はそれを実感している。――それでもなお視野狭窄に陥りやすいのが、私が自覚する、これ以上ないほどの欠点だ。これに関しては、もはや独力でどうにかなるものではないだろう。私にとっては呪いに等しく、何度アズのフォローを受けたかは分からない。

 それはさておき、私は優秀な人間からの称賛を欲しているのだ。まあ、一言に()()と言ったところで表しきれるものではない。それは認める。理論上、欠点のない人間なんていないのだから、その点で以て()()()()()()と評価される人物だっているだろう。

 だからこそ、重要なのは私の認識だ。()()()()()()()()()()()、もしくは()()()()()()()ことを第一に、()()()()()()()()()()()()()()、或いは()()()()()()()、実際に矯正するのは私でなくても構わないわけだが、そこら辺が重要になってくる。

 そして今の時点でも、探せば私の認める優秀な人物――正確には、その素養を持つ人物はいるものだ。言っても、この学校に入学して一ヶ月が過ぎたばかりだし、発見できた候補者は少ないし、該当者にしても欠点があるわけだが。

 更には、ここで第一の関門――中間テストが聳え立つ。

 この学校のルールとして、中間テストや期末テストで一科目でも赤点を取ってしまえば退学らしい。ちなみに、赤点の基準はクラス平均の半分とのこと。つまり、各クラスで赤点の実数値が異なるのだ。

 退学の可能性は想起していたが、私たちの想像以上に厳しいと言わざるを得ないだろう。51点を取れば大丈夫という見方も出来るが、生徒によっては『そもそも51点が取れるか?』という不安だってある。

 私自身は問題ない。自分で言うのもなんだが、アズとの出会いをきっかけにして私の能力は爆上がりした。

 この学校に来る前は――()()()()()()で、ここ重要――エッジさんから護身術だって習っていた。エッジさんとアズが孤児院時代に学ばされた技術らしく、『システマ』と呼ばれる軍隊格闘術がベースらしい。()()()と言うのは、当のエッジさんもそのように説明されただけなためだとか。

 プロから見ればまだまだだろうが、『()()()()()()()()()としては無問題(モーマンタイ)』との評価も頂いている。

 私自身に関してはともかく、問題なのは私が目を付けた該当者たちだ。

 一人目、佐倉愛里。過日の一件の煽りを受けて、学校側による判断の下、DクラスからBクラス――ああ、今はもうAクラスか。クラスそのものの呼び方が変わるなんて慣れないので、暫くはBクラスと呼びそうだ。――に移籍させられた女生徒である。小テストの点数を見る限り、学力はそこまででもない。

 普段は俯きがちな姿勢で『地味な女子』を演出しているが、私には分かる。ことビジュアル面においてアレは逸材だ。と言うのも、彼女はグラビアアイドルの『雫』なのである。グラビアアイドルとして発展途上であるのは事実だが、その一方で既に一定の社会的成功を修めている人物なのだ。……なお、情報の裏付けはフォルテに頼んだ。

 同じ女子としては私を凌駕し得るそのビジュアルに思うところがないではないが、それはそれ。だからこそ、彼女の今の態度が許容できないのだ。明確な強みがビジュアルしかないのであれば、もっとそれを曝け出せ! そして周りからの関心を集めろ! その上で私を称賛しろ!

 そんな思いもあり、同じクラスになったということもあって、私が彼女にテコ入れするのは確定事項だ。だって、私自身が接点を増やさないことには、彼女から称賛を得られるわけがないんだし。

 二人目、須藤健。1-Dの生徒にして素行不良の問題児! ――の一言で片付けられたら良かったのだが、バスケに関してはピカ一の部分を持っている。あくまでも一年生の中では、という注釈が付くが、現時点から明確な強みを見せている人物自体が少ないのが現状である。それを踏まえると、アッサリと見放すのはどうかという思いもある。

 三人目、同じく1-Dの外村秀雄。私自身が直接そのスキルを目にしたわけではないが、入ってくる情報によるとコンピュータ関連に強いらしい。昨今が情報化社会であることを鑑みると、明確な強みだと言えるだろう。

 この中で優先順位を付けるとしたら、同じクラスということもあり、佐倉の一択なわけだが……。

 そんなことを考えつつ、私はチラリと佐倉に視線を移す。

 その経歴とは裏腹に、彼女は重度のコミュ障なのである。コミュ障が何でグラドルなんかやってんだ!? という思いがあるのは事実だが、それが現実なのだから仕方ない。

 そしてそんな彼女は、同じくクラスの中ではコミュ障の気が強い姫野ユキとの接点を深めている。

 姫野は人付き合いに抵抗はないが、一定ラインを超える馴れ合いを好まないタイプだ。それとて対象との関係性に左右されるだろうが、そういう点では佐倉とマッチしていると言えるだろう。

 アズによると姫野は平均以上の学力を持っているらしいし、そんな彼女が勉強含めて佐倉の面倒を見るというなら、佐倉の退学の可能性は少ないと判断できる。

 である以上、退学の危機で優先順位を付けるなら、Dクラスの二名を優先するのが筋だろう。

 取り敢えず、暫定的に行動方針を定めた私は、綾小路に連絡を取ることにした。二人の小テストの点数だけでも知らないことには、どれだけ労力を費やせばいいのかの見当も付けられない。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「――マジで……?」

 

 休み時間。

 綾小路から送られてきた質問の返答――小テストの点数を動画撮影した物を目にした私は、思わず頭を抱えそうになった。

 90点を取っている生徒が複数いる辺り、決してDクラスは学力不振な生徒ばかりではない。――だがその一方で、学力不振な生徒が多いのも事実だった。

 

「14点……? あの入試よりも簡単な問題構成ばかりで14点……?」

 

 それは信じられない内容だった。信じたくない、と言った方が正しいかもしれない。それが須藤の点数だったのだ。当然ながら、Dクラスでもぶっちぎりの最下位だった。

 外村はまだマシだが、あくまでも『須藤に比べればマシ』というだけで、程度が低いことに違いはない。

 

「――いやいや。まだ、まだ可能性はある……!」

 

 私は頭を横に振り、震える指で小テストの問題を送るように綾小路に頼んだ。僅かながら、クラスで小テストの問題構成が違う可能性もあったからだ。現在の情報はあくまでも点数でしかない。問題構成次第では、まだ救いがある。

 

「――グハッ……!」

 

 結果は見事に惨敗だった。少なくとも、1-Bと1-Dの小テストは全く同じ問題構成だった。

 衝撃の余り、私は机に項垂れる。

 

「――須藤、普通にクラスメイトから見捨てられるんじゃね……?」

 

 何せ、この小テストは入試以上に簡単な問題構成なのだ。ラストの三問を除いて普通に解ける程度の学力がなければ、中間に通用する道理はない。そして、ラストの三問以外を完答できたところで、中間に通用する保証もない。どう贔屓目に考えても、それが現実なのだ。

 Dクラスは、既にクラス成績がゼロにまで落ち込んでいる。その状況で、どうして他人の面倒を見ることができようか。基本的に人とは利己的な生き物であり、労力に能うメリットがあるから、働くことを厭わないのだ。

 須藤の身体能力は確かに捨てがたいだろうが、Dクラスの状況を鑑みた場合、その一点だけだとデメリットの方が大きい。当の須藤が素行不良で学力最底辺では否定する余地がない。

 現実的に考えて、Dクラスには須藤の面倒を見る余裕などないだろう。綾小路が本当に神崎が言うほどの能力を持っているなら可能だろうが、可能だからと言って実行するとは限らない。それを咎める理由もない。

 むしろ、綾小路が本当にBクラスへの移籍を目指しており、実現可能なだけの能力を有しているのなら、咎める方が悪手となる。精々が、多少の協力を求める程度だろう。

 

「仕方ない……か」

 

 私は脳内の天秤を揺らし、私が面倒を見る方へ舵を切った。非常に手間で面倒であることは事実だが、私の承認欲求はそれを許容してしまえるほどには高いのだ。――あくまでも相手次第ではあるが。

 

「神崎ー、ちょっと協力してー」

 

 結論を出した私は、神崎へと協力を呼びかける。机に項垂れたまま、片手をブンブンと振る。なお、この仕草から分かるように、クラス内において私は多少の雑さを表している。

 品行方正で親しみやすい。そんなのは第一印象を得るまでで十分だ。実際に接点を持ててしまえば、あとは無用の長物でしかない。

 人間、誰しも外面を取り繕って生きているのだ。取り繕う必要がなくなってしまえば、脱ぎ捨てるのが道理である。

 まあ、この道理が通じる相手ばかりでないのも事実だが、幸いにしてBクラスの生徒には通用する。協調性や団結力が高いというのは、こういう点で便利ではある。

 

「櫛田か、どうした?」

「私、ちょっとばかりDクラスの生徒二名ほどの勉強を見ようと思ってるんだけど、それが男子なのよね。だから、勉強場所にアンタの部屋貸して?」

「……待て待て。もう少し詳しい経緯を説明しろ」

 

 大部分を省いた私の要求に、当然の如く神崎は反論した。

 それが道理ではあるが、説明するのが面倒な私は綾小路から送ってもらった撮影画像を見せる。

 

「コレは……酷いな」

 

 動画を確認した神崎は、眉間を押さえてそれだけを呟いた。分かる。私も同意見である。

 

「理由は大方察しが付いたが、誰と誰だ?」

「須藤と外村」

「須藤に関しては分からなくもないが、それにしても割に合わないとは思うが、外村……?」

 

 アズを介し、私ともそこそこ以上には交流のある神崎は、私の承認欲求に対しても――高さの上限は見誤ってるだろうが――ある程度は認知している。

 そして合理的判断に重きを置き、それでいて感情の必要性も認めている人物であるが故に、余計なツッコミを入れてくることもない。私としても非常に付き合いやすい相手だ。

 

「私の仕入れた情報だと~、コンピュータ関連に強いんだって~」

「コンピュータ関連に……。昨今が情報化社会であることを考慮すれば、恩を売っておいて損はない……か」

「そういうこと~。ついでに言えば、Dクラスの生徒には互いの面倒を見る余裕なんかないと思うのよね~。である以上、須藤は見放される可能性が高い。須藤ほどではないにしても、外村も同様。そんだけの要素がこの二人にはある」

 

 言って、私は端末を操作して掲示板にアクセス。該当の部分を表示した。

 

「確かにな……。須藤の身体能力の高さについては俺にも聞こえてくるが、それ以上に素行不良な面の方が聞こえてくる。挙句の果てに、あの程度の小テストでこの点数ではな……。普通に考えて、メリットよりもデメリットの方が大きいだろう。それでも、身体能力というメリットがある分、目をかける生徒もいるだろうが……。

 そして外村は――何だコレは……? 些か理解しがたくはあるが、見放される要素としては十分だろう」

 

 須藤に対する所感を述べつつ、私から端末を受け取った神崎は、該当部分を確認して再度眉間を押さえた。

 

「仮に救済に動く生徒がいたとして、これまで動いてなかったことは事実。今まで目を向けてもいなかったのに、言い換えればこの状況になるまで放置していたのに、実情を知った途端に手を差し伸べたからって上手くいくと思う?」 

「普通に考えるといかないだろうな……。そもそも、実行段階にまで持っていけるかも怪しい」

「そういうこと~。――その点、私たちは違う。確かに結果としてDクラスを攻撃することにはなったけど、それは同時に手を差し伸べる行為でもあった。その時点で心情が違う。

 同じクラスなのに今まで自分を放置していた相手と、違うクラスなのに叱ってくれた相手。さて、どちらの方が手を取りやすい相手かな?」

 

 言って、私はクスクスと笑った。

 同時に、思う。やはり、神崎相手は楽でいい。必要最小限の情報を伝えるだけで、大抵は勝手に理解してくれる。

 人を誘うというのは、言うほど簡単ではないのだ。()()()()()()()()()というメリットを提示することが、最低条件にして前提条件。その上で、向こうに対する配慮――()()()()()()()()()()()が問われることになる。その相手が須藤となれば、実現させるのは至難の業だ。

 まあそれでも、誘いに乗せるだけなら割かし容易な方だろう。重要なのは、誘いに乗ったのを後悔させないことなのだから。

 

「で、どう? 部屋貸してくれる?」

「構わんが、家主として俺も同席させてもらうぞ」

「ま、当然よね。ってか、それを織り込んでるからアンタに声かけたんだっての」

「それなら構わん。……で、いつからだ?」

「まだ誘ってもいないけど、今日から早速ってのが本音ではあるかな」

「この点数だしな……。それだけ基礎が覚束ない証拠だろう。あと三週間でコレを及第点まで持っていくとなれば、確かにゆっくりとしている余裕はないか……」

「そういうこと~。……で、私がDクラスに顔を出すと余分なお邪魔虫まで付いてきかねないから、実際に赴いて誘い出すのはアンタにお願いしていい?」

「やれやれ、便利使いしてくれるな……。まあ、俺は須藤と外村に碌な接点はないが、綾小路に協力を頼めば連れ出すことは叶うだろう。言うまでもないだろうが、その後はお前の仕事だぞ?」

「分かってる、分かってる。実際に面を向かい合わせたなら、上手く運ぶ自信はあるわよ」

 

 その点に関してだけは、確固たる自信がある。アズによるフォローがあったとはいえ、中学の三年間、教師・生徒を問わず良好なコミュニケーションを維持し続けたのは伊達ではないのだ。

 そして今の私は、その際の経験を教訓にパワーアップしている自負がある。

 グッと仰け反った私は、神崎に対して勝ち気な笑みを見せるのであった。 




入学して一ヶ月経った今現在、本作の桔梗はクラス内だと割と雑です。
ただ、その『雑さ』は『親しくなった表れ』と捉えることも出来るので、クラス内での人気に翳りはありません。
アズという、『最上級の雑さ』で接せられている相手を目の当たりにしているので尚更です。
普通に考えれば反感を買って然りではあるんですが、アズが軽々と熟すこともあって、『それだけ頼られている証拠』と捉えている生徒の方が多いのです。
それがクラスの奮起材料になっている一面があるのは事実で、『自分もアズほどじゃなくても桔梗に頼られたい!』、『もっと桔梗と仲良くなりたい!』……と、頑張っているクラスメイトも多いです。

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