ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第22話:櫛田桔梗は、見下す相手にこそ世話を焼く気質である。

 放課後。

 須藤と外村の勧誘と案内を神崎に丸投げした私は、独りケヤキモールへと訪れていた。両名の勉強を面倒見ると決めたはいいが、そのために必要な物がアレコレと不足しているため、それを仕入れに来たのである。

 まずは何よりも自転車である。この一ヶ月を生活してみて、自転車のありがたみがよく分かった。ないならないでも構わないが、あった方が格段に便利なのは間違いない。

 何せ現在地は閉ざされた()()()()である。バスに電車、自動車が走っていることはなく、それだけに交通事故とは縁がない。――正確に言うと走っていないわけではないのだが、時間帯やらルートやらが、極力生徒とかち合わないように設計されている。

 その点は魅力と言えるだろう。

 だがその一方で、否応なく独り暮らしを強いられているため、それぞれのスタンスにもよるだろうが日々の買い物が欠かせない。実家で生活していた頃とは全く別なのだ。親が済ませていた買い物まで、自分でやらなければならないのだから。

 同時、寮室は生活する上での不満はないが、そこに()()()()()()を求めると、途端に不満が続出する。娯楽品や趣味嗜好品が不足しているのだから仕方がない。

 ポイントがあろうがなかろうが、日々買い物に出かけるのは避けられないのだ。物によっては近場のコンビニでも十分だろうが、物によっては到底足りない。ケヤキモールにまで足を延ばすことになる。

 そして、二十四時間営業のコンビニと違い、モールには営業時間という時間制限がある。それでいて、寮からはそこそこの距離がある。買い忘れがあった際には、この距離がネックとなるだろうことは否めない。自転車ならば間に合うが、徒歩では間に合わない……などという事例がないとは言えない。

 更には、自転車ならば荷物をカゴに載せられる分、徒歩よりも運搬可能量が増す。

 そんなわけで、新しい月を迎え、学校からポイントが支給されて懐が温まった私は、必要最低限には諸々の問題を解決するべく、モールへとお買い物にやって来たのである。

 この機に色々と買い込むつもりであるため、それだけ出費が激しくなるのは避けられないが、コレも必要経費だ。そして、それを支払えるだけの余裕もある。

 何せ、クラス評価の九万七千五百ポイントの他に、それとは別口で三百六十万ポイントも振り込まれていたのだ。おそらく、トイレに設置されていた監視カメラの件に対するポイントだろう。

 単純に考えると、初期評価の十万を三年間分の金額設定。コレを少ないと感じるか多いと感じるかは人それぞれだろうが、私は概ね満足している。病院だって、場合によってはトイレの回数を聞いてきたりするのだから、それと同じと思えばいいだけだ。

 これだけのポイントがあれば、大半は買えるだろう。

 真っ先にやってきたサイクルショップで、私は自転車を吟味する。荷物の運搬が主目的なため、選択肢はママチャリ一択だ。とはいえ、最低ラインのママチャリは二、三万円ほどで済むが、機能や性能・オプションで値段は乱高下する。予算に余裕があるのは確かだが、だからこそ吟味しなければならない。

 悩みに悩んだ末、私はオプション込みで六~七万ほどの物を購入した。十分に満足のいく性能ではないが、三年間の利用()()を前提に考えたら十分でもある。帰りに乗っていくことを伝え、諸々の書類を受け取る。

 学校への自転車通学も可能だが、まず今回もらった書類の一部を学校に提出し、自転車通学の許可をもらわなければならないとのこと。これに違反すると、自転車通学の禁止や、停学などもあり得るらしい。忠告をありがたく受け取った私は、礼を言ってサイクルショップを後にした。

 次に向かったのは家電ショップである。より正確に言えば調理家電。

 自室には最初からある程度の備品や設備が用意されている。ベッド、テレビ、エアコン、バスルーム、台所にはコンロに小型冷蔵庫に炊飯器、鍋にフライパンに包丁を始めとした調理道具もあったし、テーブルはないがちゃぶ台はあった。

 ああ、勉強机は普通にある。学生寮なのに勉強机がない、なんてのは普通に問題だろう。名門校や進学校であれば尚更だ。

 とかく、一人暮らしを送る上で遜色のない機能は準備されているのだ。

 だがそれらは、あくまでも()()()()()を念頭に置いたもの。二人程度ならともかく、三人や四人で生活するには色々と物足りないスペックなのだ。

 多人数用に食材やら料理やらを大量に買い込んだところで、冷蔵庫が小型なので保存するにも限度がある。必然、大半は使い切ることを前提にして買わなければならない。

 今回、私は須藤と外村の勉強を見ることに決めたわけだが、小テストの成績を鑑みるに、一日当たりに付き合う時間は自ずと増えるだろう。須藤が度を越して低いだけで、外村も褒められた成績ではない。

 そうなると、自然、部屋を提供してくれる神崎とも付き合うことになるし、彼にかかる負担も増す。である以上、せめて可能な範囲でフォローすべきだろう。

 そう考えた場合、真っ先に思い浮かぶのが食事の用意である。神崎が自炊しているのかは定かじゃないが、今回は私の我儘に巻き込んでいるのだ。その分の礼を返すのは、人として最低限の道義である。

 また、今後も男子に勉強を教える場合には神崎を頼ることとなるだろうから、それを踏まえてもいる。私は誰彼構わず男子の部屋を訪れるような尻軽ではない。必要とあれば訪れるが、最低限の安全管理は心掛けている。人選もまた然り。少なくとも、須藤と外村に関しては、部屋を訪れてもいいと思えるほどには信頼していない。ならば、場所を提供してくれる神崎に対し、大型の調理道具を賄う程度は必要経費だ。

 同時、今後自分の部屋に用意する場合の参考資料を兼ねていると考えれば、尚更に不満は小さくなる。使い勝手だの何だのは重要なのだ。

 更には、手料理一つで須藤と外村の勉強に向かう気を向上させることができるのであれば、私としても苦労が減る。

 総合的に考えた場合、手料理を用意するのには十分なメリットがある。必要経費と考えるのは十分に可能だ。

 だが現実としては、部屋に用意されている調理器具は、あくまでも()()()を目安にしたサイズなのである。である以上、大きなサイズの調理道具を購入するのは必須である。炊飯器もまた然り。何せ相手は食べ盛りの男子高校生だ。人数が増えれば、現状の物では物足りないのは目に見えている。

 タッパーやラップなどを含め調理道具一式を買い込んだ私は、一年学生寮の神崎隆二宛てに数時間以内の配送を頼んだ。女子である私が男子の部屋を指定するのだから怪しまれたが、理由を告げれば納得してくれた。

 中間テストが近付いてきたため、今後は頻繁に複数人で集まって勉強会を行うつもりだが、初期から用意されている調理道具は専ら一人用サイズであること。

 寮則により、男子が女子部屋のある階層に滞在していられるのには時間制限があること。その一方で、女子が男子の階層に滞在するのには制限がないこと。

 この二つが重なれば、たとえ料理をするのが女子であるにせよ、元から男子の部屋に道具を持ち込むのは理に適っている。

 まあ、内心では私と神崎の関係を勘繰っているのかもしれないが、そこまでは知ったことじゃない。勘繰るなら好きにしろ。

 本音を言えば大型の冷蔵庫も欲しかったのだが、如何せん買ったところで置き場がない。棚なんかにしまえる調理道具とは根本的に違うのだ。

 そうなると、結局買い切りスタイルには変わりがないため、()()()()()()()()()()()()という結論になる。

 調理道具の次は書店だ。復習用に用意されている『中学総まとめ』などと謳われている物を片っ端から買い込む。客層が限られているためか、細かく学年指定した物がなかったのだ。まあ、普通に考えて高校生が小学生や中学生の内容を真面目に勉強し直すことなどそうはあるまい。それを考慮すれば仕方ない。

 一つ一つだとそうではないが、量が嵩めばズッシリと重くなる。

 

「重っ……!?」

 

 不満を零しつつもモール入り口近くのコインロッカーにそれを預けた私は、今度は食料を買い漁るべくモール内のスーパーに向かった。

 生鮮食品はダメになるのが早い。そのため、肉・魚・野菜を問わず、ほぼ毎日何かしらの商品が無料になる。元々のランクやブランドによっては無料にならない商品もあるが、それでも値下げはされる。

 そして、人間は飲み食いしなきゃ生きていけない生き物なのだから、日用雑貨などと違って月毎の制限はない。精々が『一日、お一人様何点まで』といった具合だ。

 野菜は野菜、魚は魚、肉は肉でコーナーが別だが、それでも無料品は一纏めにされている。取り敢えず、ザッと回って無料品を片っ端からカゴに叩き込む。メニューを決めるのはその後だ。メニューを決めたところで、肝心の食材が入手できなければ意味などないのだから。

 私の女子力を舐めてもらっては困る。

 女子が男子に手料理を用意した場合、大半の男子は喜ぶだろう。だがその実、それが冷凍食品だったり、出来合いの総菜食品の詰め合わせに過ぎないと知った場合、男子はどう思うだろうか? それでも喜ぶ男子もいるかもしれない。

 だが大抵は、期待と現実の落差によって()()()()()と感じるだろう。実際に食事を用意する女子の苦労も知らずに身勝手なものだが、それが人間というものだ。そして分野が違うだけで、同じことは女子にも言える。

 それを防ぐにはどうするか? 答えは簡単。その落差を小さなものにすればいい。たとえ凝った料理でなくとも、文字通りに手料理であれば、自然と落差は小さくなるものだ。徐々にそのランクを上げていけば言うことはない。『言うは易く行うは難し』の典型だが、中学時代、私はそれをやり遂げたのだ。――それも多方面で。

 冷静に考えれば、そりゃあストレスもバカ溜まろうというものである。こっちがそれだけの苦労をしている割に、それで得られる称賛が見返りに見合っていないのだから。

 そして、それをアズに指摘されるまで気付けなかった辺りに、私の視野狭窄ぶりが見事に表れている。

 私が方針転換するきっかけになった成績に関しても同様。

 99点と100点では、確かに100点の方が優秀だ。それに関しては否定する余地がない。――だがその一方で、揃って『優秀』の一言で片付けられるのも事実である。

 たかが一点。――されど一点。

 その一点の()()をどれだけ重く見積もるかは人それぞれで、幼い頃から多方面で活躍できていた私は、だからこそ余計に重く見積もってしまっただけのこと。 

 全科目で90点以上を普通に取れる人物と、特定科目だけは100点を取れるが50点前後しか取れない科目もある人物。普通に考えて、どちらが()()()()と捉えられるか? まず間違いなく前者の方だろう。それだけ欠点が少ないのだから。

 だが、視野狭窄に囚われてしまった私は、自分がその前者であったにも拘らず、その一科目だけを必要以上に重く捉えてしまい、結果として迷走してしまったわけである。

 まあ、それがコミュ力を始め種々とした技能の向上に繋がったのも事実であるため、一概に悪いとは言えないのも事実であるが……。実際、料理技能もその一環である。

 ともあれ。

 基本的に私はハイスペックなのである。私自身がそれを自負する程度には――他人を内心でナチュラルに見下す程度には認めている。

 しかしその一方で、信じきれてはいない。だから、往々にして視野が狭窄してしまうわけだ。

 端的に言うと、自分に自信がない。だから、余計に他者からの称賛を欲するわけである。某アニメ風に言うならば、『(桔梗)の信じる(桔梗)ではなく、(桔梗)の信じるお前(アズ)を信じろ!』と言ったところか。

 アズとの交流をきっかけに、私は自分のそんな精神性を自覚した。自覚したが故に随分と気持ちは楽になったし、問題なく他人に優先順位を付けられるようになった。徐々に自分を信じられるようにもなった。おかげで、中学時代に比べると、精神的には格段に過ごしやすい。

 中学時代に迷走したのは事実だが、それはそれで私の確かな血肉となっているのだ。料理に関してもまた然り。メニューに合わせて食材を用意するのではなく、食材からメニューを考えることも普通にできるようにはなっている。

 

「ま、カレーでいっか」

 

 とはいえ、比較的楽な部類に転がってしまうのはやむを得ないところ。相手は食べ盛りの男子高校生であり、うちの一人は日頃バスケに精を出すスポーツマンだ。生姜焼きなんかは手軽に作れる部類だが、それで相手が満足できるかとなると話は別。そもそも、何枚焼けばいいのかも分からない。

 そうなると、それ単体で量を見込める料理に転がってしまうのはやむを得ないところだ。鍋物なんかも候補に挙がるが、アレは手元の鍋からよそって食べるのが醍醐味である。必然、それなりの大きさのテーブルと携帯コンロが求められる。度々台所にお代わりに向かうのはなんか違う。だが、カレーであればその限りではない。台所にお代わりに立っても違和感はない。

 次回以降は鍋も考慮に入れるとして、今日神崎の部屋に行った際にはそこら辺の確認もするとしよう。柴田や綾小路など、神崎の部屋に訪れる友人にも心当たりがあるため、もしかしたら鍋を置ける程度のテーブルはあるかもしれない。

 

「――あ、お米……」

 

 夕飯のメニューをカレーに決めた私は、そこで主役となる米の存在に思い至った。いや、決して忘れていたわけではない。でなければ、炊飯器など買ってないわけだし。

 とはいえ、家にはいくらかの余裕があるし、もしかしたら神崎の部屋にもあるかもしれないが、それで足りるかは分からないのも事実。そうなると買うしかないわけだが、問題集を買って、食材も買ってとなると、物理的に持ち帰れない。如何にママチャリに載せて帰ると言っても限度がある。私は華奢な女子生徒なのだ。

 迷った私の目に入ったのは饂飩だった。饂飩であれば茹でるだけだ。あとはそれにカレーをかければ、お手軽カレーうどんの完成である。少なくとも、キロ単位のお米を買って帰るよりは遥かに現実味のある選択肢だ。

 当然の如く、私はセールで安くなっている饂飩をどかどかとカゴに入れるのであった。




原作ではサラッと流されてますが、須藤レベルの学力保持者に勉強を教えるには、普通に考えて圧倒的に教材と時間が足りません。原作の方法は無理筋です。

「心配ないわ。私がその授業中、全ての問題に対して分かりやすく解答をまとめておくから」

と、原作で鈴音は豪語してますが、その『分かりやすさ』は鈴音基準の筈なんですよね。
理屈として鈴音の言う方法に筋が通っているのは認めますが、肝心の鈴音にそれを行うだけの能力があるようには思えません。
スペックはあっても配慮が足りない、という意味で。
である以上、どんだけ鈴音が分かりやすくまとめたところで、それでも須藤たちにとっては『難しい』筈なんですよね。
オマケに、取り掛かりがゴールデンウィーク後のため、尚更時間が足りません。
実際、須藤は過去問を使っても赤点を取ってますし。

結論として、須藤の退学を防ぐには『原作と同じ方法』は使えません。取り掛かりから何から、タイミングを早める必要があります。
まあ、そこは『コミュ力の鬼』である桔梗と『苦労性』の神崎ですからね。クラスが違えど、『勉強会を開催して、それに須藤を参加させる』こと自体は可能な筈ですし、主催者の行動が早ければ、それだけ早く勉強会も開催されます。

ただ、それで時間は確保できても、他の要素が不足していることに変わりはありません。モチベーションを維持向上させるにも、言葉だけでは限度があります。
どれだけ節約を心掛けても、ある程度のポイント支出は避けられないわけです。そして、一般的なその時点での手持ちだと、『ある程度』には到底足りません。
そのためには根本的にポイントを増やす必要があり、それは学校側も認める合法的なものでなければなりません。
極論、本作オリジナル要素である『トイレの監視カメラ』のくだりは、今回のためにあったと言っても過言ではありません。

独自要素だけあって配布ポイントには悩みましたが、各種試験の報酬を鑑みると、360万も十分に許容範囲な気がします。実力評価・設置場所がトイレという明らかなアウトゾーン・口止め料という複数の要素が絡んでますので。
また、コレってBクラスだから、『クラスメイト全員で情報共有しての学校への確認が可能』という土壌があり、結果として『その際の全員が大量のポイントをゲット』という流れになりましたが、他クラスだと大分限定的になったでしょうし……。

結果として、本作の星之宮クラスは、この時点では多大とも言えるポイントを入手しました。
だからこそ選択肢は増えますし、今後は『だからこそ』の戦術も取っていきます。
自然と原作との差異も増えるため、その分だけ描写も細かくなりますし、進みは非常にゆっくりとしたものになりますが……。
現時点で33話を執筆中ですが、まだ五月四日ですし……。原作ではサラッと飛ばされたゴールデンウィーク中です。

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