ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第29話

 五月四日――『みどりの日』。

 クラス移籍を果たした四名に対する歓迎会は、この日に開催される運びとなった。

 食事店、カラオケ、ボーリング……実際に各所の予約を取り付けてきたのだから、桔梗の手腕は見事と言えた。――その代償と言うべきか。結局、二日の勉強会に桔梗が姿を見せることはなかったが。

 クラスのグループチャットで日時と行動予定を知らせる傍ら、アズたちにも詫びの連絡を寄越すのだから中々に律義である。

 そして、こういう細かな行動が、桔梗に対する不満を緩和しているのは否めない。神崎、須藤、外村が、姿を見せなかった桔梗に不満を洩らすこともなかった。

 

「まあそういうわけですので、四日の勉強会はありません。その点はご了承をお願いします」

「四日は――って言うけどよ、それ以外の連休はどうなんだ? そこについては何も聞いてねえんだが?」

「それと、勉強を見てもらえるのはありがたい限りでござるが、それと同じくらい、休みの日にまで付き合わせるのは申し訳なさがあるのでござるが……」

 

 アズが四日の勉強会はないことを伝えた際の、須藤と外村の反応がコレだった。

 首を傾げたのはアズである。所詮、アズは桔梗の代理でしかない。そこら辺については知る由もなかった。

 

「何か聞いてる?」

「いや、何も」

 

 神崎に訊ねるも、彼もまた知らなかった。

 そこで、再度端末が音を鳴らした。『〇時~○時、場所は都度変更』。日によって時間は違うが、いずれも四日以外の連休日を指していた。

 再びピロン。『追伸。強制はしない』。

 

「……だって。まあ、桔梗も忙しいからね。休日はそれだけしか時間が取れないんでしょ」

「悪い。その内容、こっちにも送ってもらえねえか? 今見ただけじゃ忘れそうだ」

 

 その言い分は尤もだったので、連絡先を交換したアズは、須藤と外村に転送した。

 

「それ以外の時間も勉強したいなら、私が面倒見てもいいよ。どうせ予定もないし」

「いいのでござるか?」

「いいよ。手の届かない場所をカバーするのも、親友の務めでしょ」

 

 むしろ、アズがこう言うのを見越して、アズに連絡してきたフシがある。

 見下している相手には殊更親切に接する面がある桔梗だが、だからこそ認めた相手には雑になる側面がある。ランクが高くなればなるほどに雑さも上がる。言い換えれば、我儘を言ってくるのだ。

 その逆に我儘も聞いてくれるので、アズとしても不満はない。

 

「んじゃま、そういうことで。どうせなら勉強以外で呼んでくれてもいいよ。ずっとバスケから離れるのって、それはそれで苦痛でしょ? 言っても、私は体育の授業くらいでしか経験はないけどね。

 外村の方もそれは同じ。最初から寮にあるのは処理速度が遅いし、私自身、PCとプリンターは持ってて損はないから選ぶのを手伝ってほしいかな」

「なら、明日はこの四人で行動するか。PCとプリンターが欲しいのは俺も同じだしな。

 バスケの2on2をやって、PCとプリンターを買ってセッティングを済ませ、その上で勉強も行えば、一日が潰れるのも早いだろう。正直、俺は時間の潰し方が下手だからな。予定のない休日は苦痛ですらある。

 ああ、心配せずとも食事の方は奢ってやる。こっちに付き合わせる側面があるというのに、手持ちのない奴に『自腹で食え』とは言わんよ」

「そういうことなら乗らせてもらうぜ! 正直、学食がやってっか分かんねえから、飯をどうしようかと思ってたところだ」

「拙者もオーケーでござる。正直、女子とのお出かけなんて今まで縁がなかったでござるからな。それが叶うだけでテンションフォルテッシモでござるよ!」

「いや、それは大げさすぎ……」

 

 アズがドン引きした表情で外村にツッコミを入れつつ、そんな感じでこの日は解散と相成った。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「桔梗……」

 

 自室に戻ったアズは、呆れの溜息を隠せなかった。何故ならば、自分のベッドを我が物顔で桔梗が独占していたからだ。

 まあ、正直に言うとそこを責める気はない。問題なのは、桔梗が制服のまま、着替えもせずに横になっていることだ。いくら連休に入るといっても、制服は学生の正装だ。扱いはキチンとしておくに越したことはない。

 アズ相手とはいえこんな無様を晒している辺り、余程に疲れたのだとは思うが、それはそれである。

 

「ほら桔梗。起きる。着替える」

 

 一抹の理解を示しつつ、アズは桔梗を引っ張り起こす。そして、言葉をかけながらブレザーのボタンを外してやり、そのまま腕を通して脱がせてやる。

 

「む~、む~」

 

 桔梗はぐずりながらも、おとなしくそれに従った。

 承認欲求の高さは、甘えん坊の裏返しだ。幼い頃は親から潤沢に与えられていた愛情は、子供が成長するにつれて与えられなくなる。それを()()()()()()()()と理解を示しつつ、心の底では納得しきれない。だから、親から与えられなくなった分を補填するかのように、周りから与えられることを求めるのだ。

 普段、桔梗がそれを表に出すことはないが、相手とタイミング次第では出すことを厭わない。アズはその一人である。だからこそ、よっぽど疲れた時には非常に甘えてくる。我儘になる。

 アズはそれを知るからこそ、呆れはしても怒ることはない。普段の努力も知っているから尚更だ。

 その調子で制服とワイシャツを脱がすと、一旦離れて桔梗の私服を取ってくる。桔梗がアズの部屋に泊まることは珍しくはないので、私服を始め、ある程度の私物は置いてある。その逆もまた然り。

 

「はい腕上げて~」

 

 寝ぼけ眼のまま、桔梗はアズの言葉に従って腕を上げる。袖を通してやってボタンを留める。

 

「はい、今度は足上げて~」

 

 そして、今度はズボンを通してやった。

 そうこうしている内に、桔梗も覚醒してきたらしい。

 

「あ゛~、私、寝てた?」

「うん。制服のまま盛大にね」

 

 目をシパシパとさせながら桔梗が質問してきたので、アズは正直に答えてやった。その間に制服をハンガーにかける。ワイシャツは洗濯機行きだ。

 

「あ゛~、何となく思い出してきた……。限界迎えた感があったから、自室じゃなくてこっちに来たんだったわ……」

「交渉、それだけ疲れたんだ」

「まあ、それもあるんだけどね。流石に時間的余裕が少ないからそれだけ難航したし……。

 ただ、そこで止めとけばいいものを、ついでとばかりちょっと欲を出しちゃって。こうなった一番の原因はそれかな……?」

 

 身体を伸ばしたり解したりしながら桔梗が答える。

 

「ご飯は食べた?」

「まだ。そんな気力も残ってなかった。帆波も付き合わせちゃって悪いことしたわ……。っと、私がこうなってんだから帆波も怪しいか……? 一応確認しとこ……」

 

 端末を取り出して操作する桔梗に、アズは声をかける。

 

「じゃあ、簡単にご飯作るから。もしアレだったら帆波も誘っていいよ」

「分かった~。ありがと~。――あ、帆波~。大丈夫~? ……だいじょばない? 寝てた? うん、私も同じ。アズに起こされるまで制服のままで寝てた。……いやいや、アズの部屋。合鍵もらってるから、それで入って我が物顔でベッドを占領してた。アズには悪いけど、最低限の危機管理意識が働いた結果だろうね。自室だとヤバいって判断したんだと思う。……で、本題。アズがご飯作ってくれるって言うんだけど、帆波もどう? ……い~よい~よ、当のアズがいいって言ってんだからさ。……分かった。アズの部屋は〇〇号室だから。んじゃ、そういうことで」

 

 ピッと通話を切った桔梗は、そのままアズの方を向いて一言。

 

「帆波もくるって~」

「うん。桔梗の言葉から判断できた」

 

 桔梗に答えながら、アズは卵を溶いていた。卵焼きを作ろうとしているのだ。なお、アズの作る卵焼きは甘い。

 コンロの片方にはフライパンが置かれ、もう片方には鍋がかけられ現在進行形で温められている。味噌汁だ。

 

「お風呂洗ってくるね~」

「よろしく~」

 

 泊まる気が満々なのだろう。風呂掃除に向かう桔梗に、アズは素直にお願いした。この程度、別段珍しいことではない。

 溶いた卵を熱したフライパンに投入し、焼き上がるのを待つ。

 その間にメニューを再確認した。ご飯に味噌汁、卵焼きに無料野菜のサラダ。十分と言えば十分な気もするが、何かもう一品欲しい気もする。

 卵の状況を確認しつつ、アズはサッと冷蔵庫内に視線を走らせた。徳用ウインナーがあったので、それを追加することにする。

 メニューが決まったところで、器用にフライパンと箸を動かして卵の形を整える。初めのうちはよく失敗したこの工程も、今となっては手慣れたものだ。

 まな板の上に形を整えた卵を下ろしたら、そちらは一旦放置してサラダの用意に移る。といっても、葉野菜は袋に一纏めにしているのでそれほど手間でもない。むんずと掴んで皿に盛ったら、アクセントにトマトをセットするだけだ。普通サイズのトマトになるかミニトマトになるかは、冷蔵庫次第でありスーパー次第だ。今回は普通サイズのトマトだったので、食べやすいように包丁でカットしていく。

 サッと包丁を洗ったら、今度は卵焼きを等間隔にカットしていく。カットし終えたらサラダとは別の皿に乗せてラップをかけ、今度はフライパンを洗う。

 洗い終えたフライパンに油を敷き、再度火にかける。フライパンが温まるまでの間に、ウインナーを取り出して軽く切り込みを入れていく。切り込みを入れ終えた頃合いにはフライパンが温まっていたので、ウインナーを投入する。

 ピンポーン! 来客を告げるチャイムが鳴ったのはその時だった。帆波が来たのだろう。アズは火力を下げて玄関に向かう。

 確認するとやはり帆波だったので、鍵を開けて招き入れる。

 

「いらっしゃい」

「お邪魔します」

 

 やり取りは端的に済ませる。火を放置しているので、長時間離れてはいられない。

 帆波もまた疲れているのが一目で分かった。表情もそうだが、声にも元気がない。

 

「ご飯はもうすぐ出来るから座って待ってて」

「あ、うん」

 

 アズは一方的に言い捨ててフライパンの元へと向かった。

 ウインナーの無事を確認した後、改めて帆波に視線を向けると、所在なさげに座っていた。それを見てアズは思う。――そう言えば、帆波を招くのは初めてだったか……。

 学校では割と話すし、休日に遊ぶこともある。だが、家に招いたのは今日が初めてだった。ここにもまた、アズの積極性のなさが表れている。

 自嘲を振り払い、アズはウインナーに向き直る。少し考えてトマトケチャップを投下した。フライパンの中で絡ませ合う。

 頃合いを見計らって火を切り、余熱で温めている間に卵焼きの皿にかけてたラップを外す。そして、卵焼きとウインナーを並ばせた。

 ご飯はラップに包んで冷凍保存しておいた物をレンジでチンだ。

 

「お待たせ。簡単な物で悪いけど……」

 

 言いながら、アズは更をテーブルに運んだ。

 

「にしても、桔梗、遅いな……。お風呂掃除にいつまで時間かけてるんだろ……? ちょっと見てくるね」

 

 帆波に一言断ってアズがバスルームに向かうと、脱衣所に入ったところですりガラスの向こうから桔梗の鼻歌が聞こえてきた。大方、我慢できず風呂掃除のついでにシャワーを浴びることにしたのだろう。

 

「桔梗、ご飯できたからねー!」

「分かったー!」

 

 浴室内に一声かけて、返答を確認したところでアズは踵を返した。

 

「桔梗、お風呂掃除のついでにシャワー浴びてた。待ってて冷めてもアレだから先に食べちゃって」

「……そういうことなら」

 

 帆波は暫し悩んだ末、おとなしくアズの勧めに従った。

 

「桔梗は泊まってくらしいけど、どうする? 帆波も泊まってく?」

「ゴホ!? ゲホッ!? ……」 

 

 黙って帆波の食事タイムを眺めているのもアレなのでアズが何の気なしに訊ねると、帆波は咽た。それはもう盛大に咽た。

 何とも新鮮な反応に驚きながらも、ティッシュを用意しつつ、帆波の後ろに回って背中を撫でる。

 

「ありがと……。もう大丈夫……」

「ならいいけど……。私、そんなにおかしなこと言ったかな?」

「ううん、おかしくない。友だち同士ならちっともおかしくない。――ただ、私には縁遠い話だったからさ。それで驚いちゃったの」

 

 その言葉で、帆波が母子家庭だったことをアズは思い出す。

 孤児のアズが言えたことではないだろうが、母子家庭ともなると一般家庭に比べてハンデは大きい筈だ。中学生の頃合いには済ませていてもおかしくない()()()()()()()()()を、帆波は経験することなくここまで来たのだろう。

 そりゃまあ、修学旅行なんかでは経験しただろうが、()()()()()()とではやはり違うものだ。そして私事なればこそ、()()()()()()()()()()と無縁ではいられない。帆波は母子家庭だからこそ、そこら辺に関しては余計に敏感だったとしてもおかしくはないだろう。

 

「でも、意外だね。こっちに来てからはお泊りくらいやってると思ってた。家族に迷惑かけるわけでもないんだしさ」

「そりゃ、家族には迷惑かけないけどね。その分を相手にダイレクトにかけることになるし……」

「変なの。それを許容しあえるからこその()()でしょ?」

 

 アズの範疇ではそうなる。そうなってしまう。だから、友だち認定している相手からお泊りを提案されたなら、予定が入っていない限り、アズは一も二もなく頷くだろう。そしてそれは、相手が異性でも同性でも変わらない。まあ、そこに関しては孤児院育ちという境遇も大きいのだろうが……。

 

「じゃあ、あの、お言葉に甘える形になっちゃうんだけど、私も泊まっていっていい?」

「いいよ。下着やアメニティもゲスト用にいくらか確保してるし、着替えは桔梗のを借りればいいでしょ。流石に私のは入らないからね……」

 

 アズは遠い目をして言った。身長もそうだが、何よりも胸部装甲が違う。

 

「ホント、同い年だというのに、この違いはどこから来るのか……」

 

 恨みの余り、アズは帆波の胸部装甲をわし掴んだ。

 

「ええい! この一部でいいから私に寄越せ!」

 

 そのまま遠慮なく揉みしだく。

 

「きゃ!? ちょ!? アズ、止め――!?」

「止めんか、このバカちんが!」

 

 帆波の嬌声が響く中、アズの凶行を止めたのは桔梗だった。スパン! いい音を立ててタオルがアズの頭部を打ち据えたのだ。

 

「まったく、この子は……。悪かったわね、帆波。この子、自分の低身長と体型にコンプレックスを持ってるから。偶にこうして暴走しちゃうのよね……」

 

 頭を押さえ、呆れと溜息を隠すことなく、桔梗はアズの代わりに謝罪と弁明をした。

 

「うん、まあ、突然で驚いちゃったけど、女の子同士だしね。そこまで気にしてはないよ。むしろ、妹に甘えられてるみたいで嬉しかったかも」

「そっちが良いんならいいけどね。――さて、私もご飯を食べますか。ほら、そこの暴走娘。さっさと私の分も出しなさい」

 

 その言葉を受け、何とも身軽な様子を見せながらアズは起き上がった。

 

「まったく、桔梗は横暴だよ」

 

 そして、愚痴りながらも台所へと向かう。ぶつくさ言いながらも用意する辺り、本心では怒っていないことは明らかだった。

 

「はい、どうぞ。――あ、帆波も泊まってくそうだから、桔梗の着替えを貸したげてよ」

「あ、そうなん? あ~、それでさっきのに繋がったってわけね……。納得」

「と言うと?」

「この子も根っこの方では甘えたがりだからね。一緒に寝る相手に抱き着く癖があるのよ」

 

 アズの頭をポンポンと叩きながら桔梗。

 

「桔梗だって人のことを言えないくせに……」

 

 それを受け、アズもむくれた表情で言い返した。根底が甘えん坊なのは桔梗も同じであり、抱き着き癖があるのは桔梗も同じなのだ。

 その点では、アズも桔梗も『同じ穴の狢』なのである。

 その後は何やかやと時間を潰して、三人は一緒のベッドに横になった。桔梗と帆波でアズを挟み込む形だ。狭いは狭いが、アズが小柄な分、ベッドはどうにか三人を受け入れていた。

 

「それじゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ~」

「おやすみ」

 

 三者三様の言葉を発し、それを合図に証明が落とされたのだった。  




忘れた頃合いに百合百合させてみました。
原作であるスパロボ30に比べるとアズがキャラ崩壊している感がありますが、基本的な社会背景がスパロボよりは格段に平和ですからね。このくらいは許容範囲だと思います。

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