ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第3話

「はい注目! ちょっと衝撃過ぎる展開が繰り広げられちゃったけど、取り敢えずは気を取り直して自己紹介を行いましょう!」

 

 教室内が沈黙に包まれる中、一人の少女が教卓の前に進み出て手を打ち鳴らした。そうして自身へと注目を集めた上で自己紹介を提案した。

 

「そうだね! 私も賛成! 詳しい部分は入学式後に改めてアズに確認するとして、今は入学式前に自己紹介を済ませちゃおう!」

 

 真っ先に賛同を示したのは桔梗だった。猫かぶりは継続しているが、その一方でアズのことは呼び捨てにしている。一緒に教室にやって来た場面を見ている者もいるだろうし、それとなく親密性をアピールしていた。

 その一方で、暗にアズに対して『逃げるなよ?』と告げている。

 まあ、元よりアズには逃げる気などないが。そも、これから三年間を一緒に過ごすのだから、一時的にならともかく延々と逃げ続けられるわけがない。

 ともあれ。

 二人の少女の献身によって、お通夜の如き雰囲気だった教室内は見る間に活気を取り戻した。

 それを見てアズは感心する。真っ先に行動した少女も、すかさず追随した桔梗も凄い。

 少女――一之瀬帆波を筆頭に、一人一人自己紹介がされていく。全員が協力的であり、拒む者は一人としていなかった。アズもまた拒まなかった。

 

「アズ・セインクラウスです。アズと呼んでくれて構いません。積極性こそありませんが、一定のコミュニケーション能力はあるつもりです。話しかけられる分には拒むつもりはありません」

 

 まあ、その内容は最低限にも程があったが……。

 ある種クールな雰囲気を漂わせているアズだが、その身長は140台。女子の中でも殊更に小柄である。先の雄叫び――お金へのがめつさも合わせて、むしろ微笑ましさの方が勝っていた。

 

「補足すると、アズは孤児なの。同じ孤児院出身のお兄さんはいるけど、孤児院を出てからは苦労したそうよ。少なくとも、私たち以上に苦労しているのは間違いない。さっきの雄叫びは、その経験から来るものね。

 かく言う私自身、アズの過去はほとんど知らないんだけどね。アズも語りたがらないし。ここら辺は件のお兄さんに教えてもらったことね。

 敢えてこの場で説明したのは、孤児であることで気を遣われるのをアズ自身が好まないため。それでいて、アズ自身からは説明するとも思えないため。『特別』であることではなく、『普通』であることをアズは望んでいる。クラスメイトである以上、皆にはそれを理解しておいてほしかったの。……以上、アズの親友である私、櫛田桔梗からの補足でした!」

 

 そう言って、桔梗はペコリと頭を下げた。

 気を遣わせちゃったな。――アズは申し訳なく思いつつ、同時に嬉しく思う。

 思えば、周りにフォローしてもらってばかりだ。最初はお兄ちゃん(エッジ)、次にお姉ちゃん(ミツバ)、そして親友(桔梗)

 自分は自立を目指してこの学校に来たはずなのだ。である以上、少しは変わる努力をするべきなのだろう。改めてアズは思った。

 

「月ノ輪フォルテです! 未だ見習いですがN.I.N.J.Aやってるので、身体能力には自信ありです! 名字だと呼びにくいと思うんで、気軽に名前で呼んでください! 訓練漬けの日々で友達出来たこともありませんが、仲良くしてください!」

「ええっ!? 私、フォルテちゃんの友達じゃなかったの!?」

 

 フォルテの言を受けて殊更に驚いてみせたのは帆波だった。

 

「知り合いなの?」

「うん、私の恩人。……我ながら恥ずかしいんだけど、私、中学の時に万引きを図ったことがあって。それを止めてくれたのが、偶々その場にいたフォルテちゃんなの。そればかりか、解決策も提示してくれて、おまけに協力もしてくれてさ。それっきりではあったけど、私は一度も忘れたことがなかったよ」

 

 最初は恥ずかしそうに顔を俯けて。次いで、キラキラと輝かせた瞳をフォルテに向けて帆波は言った。

 

「あ~。あったね~、そんなこと。――え!? 友達ってあの程度の時間でもなれるものなの!?」

 

 最初は何の気なしに。次いで、心底驚いたようにフォルテは言った。

 その反応を見て、周りはフォルテの言に納得をした。少なくとも、友達が出来たことがないというのは本当なのだろう……と。

 実際、友達には明確な定義などない。

 時間を重視する者もいれば、経験を重視する者もいる。然るに、AはBを友人と思っているがBはその限りではない、などという状況は普通に起こり得る。

 友達になろう。うん、いいよ。そんなやり取りで互いに友だち認定する者もいる。

 互いに確認をしないが故にやきもきし続ける場合もある。

 斯様に、友人関係というものは普遍的でありながら難儀なものなのだ。

 それを思えば、フォルテの反応もおかしなものではない。

 

「少なくとも、私は時間じゃないと思ってるよ。――まあフォルテちゃんには悪いけど、結局は自責の念から学校を長期欠席しちゃったんだけどね」

 

 テヘリと恥ずかしそうに舌を出して帆波は笑った。少なくとも、帆波の中で何らかの決着はついたのだろう。だから、こうして笑って語ることが出来るのだ。

 

「へ~、帆波ってば真面目だね。――でも、そっか。私って友達がいたんだ……。帆波と友達だったんだ……!」

 

 フォルテもフォルテで、両手を組んで感動的に天を見上げた。もっとも、視界に入るのは教室の天井であり、無粋な監視カメラだったが。

 そんな一幕がありつつも、無事入学式前に自己紹介は終わった。時間の都合上、最低限の紹介しか出来ていないが、これ以上はそれこそ時間をかけて紡げばいい。

 そして予鈴が鳴り、Bクラスの生徒たちは入学式へと向かったのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 入学式自体は可もなく不可もなくといった様相であった。特殊な学校ではあるが、一般的な学校のそれと大差ない。少なくとも、それが大多数の新入生が抱いた感想であることに間違いはないだろう。まあ、アズ自身は入学式自体初参加なわけだが。

 入学式後は一通り敷地内の説明を受けて、お昼前に解散となった。

 他のクラスの生徒たちは三々五々に散っていったが、Bクラスの生徒だけは例外的に全員が再度教室へと戻ってきていた。

 

「さて! 改めてアズちゃんから説明してもらいたいと思います!」

 

 自己紹介の一件を契機にクラスの代表者的な立場に立つこととなった帆波が、教壇の前に立って宣言した。

 

「それは構いませんけど、確認がてら試したいことがあるので、先にそっちをやってもいいですか?」

「私は構わないと思うけど……」

 

 そこまで言って、帆波は教室内を見回した。

 皆はどう? 暗にそう訊ねている。

 

「俺は構わない。星之宮先生じゃないが、俺もアズの意見は興味深く思っている。説明前に試したいというのであれば、そこには相応の理由があると考えるべきだろう」

 

 真っ先に賛同を示したのは神崎隆二という男子だった。クールな雰囲気を漂わせる、紛うことなき『イケメン』である。

 神崎が賛同を示したことをきっかけに、他の面々も次々と賛同を示す。

 

「私は反対。いや、事情説明自体は賛成だけどね。時間が時間だし、まずは先にお昼の確保をするべきだと思うな?」

 

 そんな中、反対意見を示したのは桔梗だった。

 この状況に、本能的に危機感を抱いたからこその行動だった。

 しかし、桔梗の言い分にも筋は通っている。事情説明がどこまで続くかも分からないのだ。話を聞いて、新たな疑問が湧き起こる可能性だってある。

 お昼営業している飲食店は数多かれど、大抵は二時や三時で一時的に閉店するし、何ならその前にラストオーダーがある。

 買い食いで済ませようにも、既に他のクラスの生徒たちは散っているのだ。カップ麺などは残っていても、パンやおにぎりといった、準備もいらず手軽に済ませられる食事が売り切れる可能性は否定できない。教師やお店の従業員を始め、敷地内で暮らす住人は生徒だけではないのだから尚更だ。

 

「なるほど、櫛田の意見も尤もだな。説明の終わる時間によっては、確かに昼食を食いっぱぐれる可能性もある。前言を撤回するようだが、俺は櫛田の意見に賛成する」

 

 そして、先程の焼き直しの如き光景が繰り広げられた。

 

「ちょい待った。言うことは尤もだけど、実際そこまで時間がかかりそうなの? それ次第では、お昼は後でもいいと思う」

 

 そこに、今度はフォルテからそのような意見が飛んだ。

 この瞬間、帆波と神崎は言い知れぬ疑念を抱いていた。それを確かめるべく、敢えて意見は発さないことを選択する。無論、先に危機感を抱いた桔梗も同様。

 するとどうだろうか。教室内を沈黙が支配した。

 

(誰も声を上げない――)

(誰も意見を出さない――)

(――疑念の正体はこれか!)

 

 それを見て、帆波と神崎は同時に疑念の正体に思い至った。

 

「アズの確認したいことと同じかは分からないが、今の流れで分かったことがある」

 

 ポツリ。

 神妙な表情を浮かべて神崎が口を開いた。

 

「うん、私も。正直、今の今までは仲のいいクラスだと、協調性のあるクラスだと思ってた。――でも、今は……」

 

 同じく。神妙な表情を浮かべて帆波も口を開いた。

 両者の表情と語り口を見て、クラス内には困惑が広がっていく。

 

「協調性がある。そう言えば聞こえはいい」

「だけど裏を返せば、主体性がないとも言える」

「今しがたの流れを見れば――」

「――このクラスはそうだと判断せざるを得ない」

 

 帆波と神崎、両者による断定。

 それは、アズが星之宮先生に吠えた時と負けず劣らずの困惑を教室内に齎した。

 

「……それ、分かるかも。櫛田さんが最初に反対意見を挙げた際、その理由に納得しつつも疑問に思った。どうして、わざわざ水を注すような真似をするんだろうって。フォルテさんの時もそう」

 

 口を開いたのは、網倉麻子という女生徒。

 

「確かにな。この流れで邪魔しなくていいじゃんって、俺もそう思った。――でも、だからなんだな。

 主体性がない……か。改めて言われるとキツイけど、振り返れば確かにその通り過ぎて否定も出来ねえや」

 

 次に口を開いたのは、柴田颯という男子生徒。

 その二人だけではない。誰も彼も大なり小なり思い当たる部分があるようで、揃って神妙な表情を浮かべている。

 

「これだけの人数が、偶然で一纏めにされるわけがない。おそらく、意図的に固められているな」

「そうだね。たぶん、クラス毎になんらかの特色があるんだと思う」

「その一方で、抑制剤やアンチテーゼとなり得る生徒も少数ながら配置されている。そう考えるのが妥当だろうね」

「それも、特色を壊さない範囲でね」

 

 そんな中、神崎、帆波、桔梗、フォルテが意見を出し合う。一度気付いてしまえば、ある意味では当然の帰結。

 

「意見を出し合うのはいいですけど、結局どうするんです? お昼、先に済ませるんですか?」

 

 そこにアズが口を挿んだ。ある意味では空気を読まない行動だが、無視して勝手に行動しない分、協調性があると言えなくもない。

 

「そうだね。新たな発見があったばかりだし、やっぱり一度話し始めちゃえばどれだけ時間が掛かるか分からないから、ここは先にお昼を済ませちゃおうか。……皆はどう?」

 

 帆波が問うが、答えはない。無理もないことだが、先に見出した結論が尾を引いているのだろう。

 ここで安易に賛同してしまえば、主体性の無さの証明に他ならないのではないか? おそらく、そんな考えが渦を巻いているのだと思われた。

 

「別に、主体性がないことが悪いわけじゃない。社会に出れば、組織と無縁ではいられないからな。所属組織の方針に従うという点で見れば、確かに正しいんだ。――だがその一方で、盲目的に従うだけでは致命的な失敗を齎す場合があるのも確かだ。

 それを踏まえた上で、大事なのは自分の意見を持ち、それを表に出していくことだと思う。反対されるかもしれない。水を注す行為かもしれない。でも、それによって失敗を防げる可能性が生まれるかもしれない。

 私事ではあるが、俺の父親は大手企業の代表を務めている。将来的には、俺がその後を継ぐことになるんだろうと思っている。そしてそんな俺にしてみれば、そういう、()()()()()()()()人物こそが役職持ちの部下には欲しい。――無論、全員が全員そういう考えでもないだろうけどな。少なくともワンマンタイプの人間であれば、自分に従わない奴は不要だろう。

 今回で言えば、敢えて反対意見を言わずともそこまで致命的な失敗に繋がるわけじゃない。散々と脅すような結果になってしまったのは事実だが、単純なイエス・ノーで十分だ。そしてすまないが、どちらの結果になろうと今回は多数派に従ってもらう」

 

 説得するように、慰めるように神崎は口を開いた。

 予定外にプライベートも語ることになってしまったが、或いはそれが功を奏したのかもしれない。『この学校が求める人材』と『大企業の――将来的な――代表が求める人材』がニアイコールで結ばれたのだろう。

 もしくは、理由を問わず、多数派に従ってもらうことを断言したのが良かったのか。

 いずれにせよ、クラスメイトはポツポツとイエス・ノーを答えていった。

 

「結果は出たね。賛成多数で、まずはお昼を済ませよう! 集合は14時を目安に、再び教室で! それじゃ、一時解散!」

 

 現在時刻は既に十二時半は回っていた。それを踏まえての指定時間である。余裕がありすぎず、なさすぎず。帆波としてはそこを狙ったつもりだった。

 言うだけ言って、帆波は真っ先に教室を後にする。

 傾向からして、誰かが率先して動かないと中々後には続かない生徒が揃っている。そう判断しての行動だった。

 

「はぁ……。お昼、誰かと一緒に食べたかったな……」

 

 ポツリ。弱音が零れる。

 だが仕方ない。そもそも、何も機会は今日に限ったことじゃないのだから。

 気を取り直し、帆波は足を進めるのだった。 




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