ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
先制点の奪取にこそ成功した後輩チームだったが、その後は一進一退の攻防が続き、結局は先輩チームの勝利で幕を閉じた。
結果だけを見れば、実に
同じバスケ部同士とはいえ、現状の真壁と須藤では、年季の差もあって真壁の方が上なのは否めない事実だ。
総合的に見れば、アズと堀北、神崎と青島に大した差はない。誰もが誰も、バスケに関しては素人同然なのだから。単に身体能力で応用を利かせているだけだ。
アズにしても、動画で見た動きを限定的に再現できる分だけ堀北に勝るのは否定できないが、所詮は付け焼刃に過ぎない。意表を突いて警戒を促すことは出来るが、そこ止まりでもある。元より確認した動画が少ないので、再現するにも手札自体が少ないのだ。
である以上、必然として勝負を決めたのは最後の一人、茜と外村の差だった。初手こそミスを犯してしまった茜だったが、だからこそ、それ以降に油断はなかった。そして、性差の差はあれ、体力と身体能力が外村以上に優れていたのが決定打となったのだ。
一人が機能しなくなってしまえば、必然として他のメンバーの負担が増す。相手が相手故にカバーするのも容易ではない。このメンバーの中では茜自身も然程に身体能力が優れているわけではないが、フリーで動ける時間が増えたのは事実であり、それによって齎された点数が、最終的には勝負を決めたと言える。
更に詳細を語るなら、外村が機能しなくなり、茜によって得点を決められたことで須藤が冷静さを失ったのが最大の要因と言えるだろう。その分だけ、真壁にとっては
決着後は順番待ちの生徒と交代がてら休憩に入り、休憩後はメンバーを入れ替えてのゲームを行ったりもした。
そして、その都度外野によって掲示板に動画が上げられていたのは、アズたちの知るところではなかった。
「セインクラウス、生徒会に入るつもりはないか?」
「遠慮します。私の親友が入る気なので、そっちに目を向けてください。――まあ、入会希望を出すにしても中間テスト後になるとは思いますが……」
「ほう? お前が
中にはこんな一幕があったりもしたが、それはそれ。
午前中に目一杯汗を流したアズたちは、
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
先輩方と別れた後は、モールでPCとプリンターの購入だ。
それでも、主な使用目的を聞いた上で、手頃な物を選んだくれたことにはアズも神崎も感謝した。高ければ性能が良いというのは一面の真実ではあるが、使用目的次第では性能を持て余すのも事実なのだ。
オプション品や持ち運び用のバッグなんかも合わせて一通り購入したら、持ち帰らずに寮の自室まで配送を依頼した。
「さて、どうする?」
買い物が済んだところで、神崎が口を開いた。
バスケにPCグッズの購入と、当初の予定はあらかた達成されてしまった。あとは勉強ぐらいしかないわけだが、余りに長すぎると須藤と外村が耐えられるか分からない。まあ、基礎が疎かになっているので、学び直すためにも勉強時間を長く取る必要があるのは確かなのだが……。
「図書館ってやってるっけ?」
「どうだろうな……? 悪いがそこまでは覚えていない。やっている可能性もあるが、その一方で学校の施設の一部であるのも事実だからな……」
神崎は首を傾げた。図書館を利用していないわけではないが、そこまで気にかけていないのも事実だった。気を向けているのは、精々が借りた本の返却日くらいである。
「そう……。じゃあ、本屋に行こう。……二人は、普段本を読んだりする?」
「ライトノベルなら読んでいたでござるが、ここに入学してからはとんとオアズケでござるな。まあ、初月にPCを買うのにポイントの大半を注ぎ込んでしまったからでござるが……」
「俺はサッパリだ。本を読んでると眠くなるんだよな」
アズの質問に対する外村と須藤の返事は、予想通りと言えば予想通りだった。
「二人に文庫本か何かを買ってあげるよ。外村は下地があるみたいだから問題ないけど、須藤はそれを読むことで活字に慣れて。
読書が習慣づけば、それだけで漢字を覚えやすくなるし、本の内容によっては歴史や雑学なんかも身に着く。テスト問題の読み込みも早まる。気晴らしと勉強の一挙両得が出来ると思えば損はないよ」
外村は嬉しそうに頷き、須藤は対照的に渋面を浮かべた。しかし異論はないようで、四人はモール内の本屋へと向かう。
「予算として、二人に一万ポイントずつあげるよ。ただし、ポイントを渡すのは買う直前。商品を選んだら、レジに持っていく前に私のところに持ってきて。目的に見合った内容の物であればポイントを渡すから。でないと、須藤なんかはバスケ雑誌とか買いそうだし……。アレにも活字は載ってるけど、メインじゃないから対象外ね。
予算内で複数冊の本を買うも、買うのは一冊だけで残りは手持ちにするも二人の自由。そこに対して私たちは関与しないし、二人の自由意思に任せる。……さあ、この機に
アズの言葉を聞き、神崎は納得したように頷いた。
ポイントが潤沢に配布された二人にとってはともかく、Dクラスの二人にとって一万ポイントは大金だ。だからこそ刺さる。少なくとも、ここでの学校生活を送る上で効果的な勉強であることは間違いなかった。
元から読書に興味のない須藤にしてみれば、一冊の購入だけで済ませるかもしれない。だがその一方で、自分の基礎が疎かになっていることも流石に自覚している。故に、複数冊を選ぶ可能性も捨てきれない。
外村は元々ライトノベルに触れていた様だったので、だからこそ複数冊を購入する可能性が高い。しかし、追いかける作者やシリーズが多ければ多いほど、元手として心許ないのも事実。故に、単発系の一作品だけで留める可能性も十分にある。
ついでに言えば、計算能力を鍛える一助にもなる。
「流石だな。まさかこんな方法で勉強をさせるとは……」
「紙に向かって用意された問題を解くだけが勉強じゃないよ。極論すれば、人生の何事もが
休憩スペースの椅子に腰掛け、アズと神崎は言葉を交わしていた。
「しかし驚いたよ。金にがめついお前がポイントをくれてやるなんて」
「手持ちに余裕はあるし、何より桔梗が見込んでいる二人だからね。帆波の真似じゃないけど、私事ならともかく、友人関係でお金をケチる気はないよ」
アズの顔に憂いが浮かんだのを見逃さなかった神崎は、茶化すかの如く話題を変えた。アズが金にがめついのは周知の事実である。
それに対し、アズは不貞腐れた表情で言葉を紡ぐ。
とはいえ、神崎の言葉が尤もであることはアズも認めていた。アズ自身、ポイント稼ぎに熱を上げているくせに、これといった使い道があるわけではないのだ。お金で苦労した経験があるから、お金を持っていないと不安なのである。
だからお昼だって専ら無料の山菜定食だし、そういうシーンばかりを目にしていれば、神崎の反応も妥当である。
「そういう隆二の方こそどうなのさ? 昨日は隆二の部屋にお邪魔させてもらったわけだけど、『私生活の色』って言うのかな……? そういうのが見えてこなかったんだけど……」
一方的に攻められるのは癪なので、アズは反撃を試みた。
言っても、まだ一ヶ月が経ったばかりなので、それほど
だがその一方で、既に一ヶ月が経ったのも事実なのだから、多少なりと見えていてもおかしくはない。確かにテーブルなんかが新たに買われていたのは事実だが……。
「そう言われると参ったな……。『欲は見せびらかすものではなく、限られた相手にのみ示すもの』……と、そう教わってきたからな。おそらく、俺から私生活の色が見えないんだとしたらそのためだろう」
「ああ……。そう言えば、隆二って大手企業の代表子息なんだっけ? だとすれば、そういうスタンスにも頷けるか」
特にビジネス界隈では殊更に顕著だろう。時には私生活すら手札として用いられる。……あくまでもドラマやらからの知識だが。
「だからこそ、かな。俺は一之瀬や櫛田のことを尊敬せずにはいられない。そりゃあ呆れることがあるのも事実だが、あそこまで自分を曝け出せるのは
そう言って、神崎は溜息を吐いた。
「まあ、それで言えばDクラスの高円寺にも同じことが言えるわけだが、流石にアイツを一之瀬や櫛田と同列には置きたくないな……」
再度溜め息。
それにはアズも同意だった。高円寺が強いのは認めざるを得ないが、あそこまで突き抜けすぎるのは如何なものかと思わずにはいられない。自らを社会よりも上に置き、そのことを隠しもしない。どれだけ優れた能力を持っていようと、アレでは社会の異物である。
だがその一方で、社会を発展させるにはそういう存在が必要なのも事実なのだ。言ってみれば
「おう、待たせた。……コイツはどうだ?」
そうこうしている内に須藤がやってきた。そう言って差し出してきたのは、案の定と言うべきかバスケを題材にした小説だった。それもコミックをノベライズしたものであり、アニメ化もされた名作だ。読みやすいかはさて置き、取っ付きやすいのは事実だろう。
「うん、良いんじゃないかな。じゃあ、ポイントを送るから買ってきなよ」
アズの示したお題に沿っているのは間違いなかった。素直に認めて須藤へと一万ポイントを送る。
「へへ、サンキュー」
照れくさそうに鼻を擦った須藤は、品物を持ってレジへと向かった。
「さて、あとは外村か。果たしてアイツは何を持ってくるのか……」
それを見送った神崎が、些か不安そうに口を開いた。
コンピュータに詳しい『ござる』口調のオタク。それが二人の知る外村だが、問題なのは『オタク』の範囲がコンピュータに留まらないことであった。本人が重度の『アニメオタク』であることを認めており、そこから転じてゲーム、コミック、ライトノベルにも及んでいるらしい。勉強中、世間話の一環として語られて知ったことだ。
アズも神崎もコンピュータと口調に共通性を見出せずにいたが、それを聞いて納得した次第である。
ござる口調は、某明治剣客浪漫譚の主人公から。外村にもヒーローに憧れる精神性があったことを示しており、不思議と安堵してしまった。
コンピュータに関しては、とある作品の好きなキャラクターに『コンピュータに詳しい』という設定があったため。好きなキャラクターの詳しいことなら自分も! と手を出した結果、思いの外にハマってしまったとのことだった。
そういう一面を新たに知ってしまったが故に、不安が尽きないのも事実であった。
特に、昨今のライトノベルは描写的に際どい内容の物も横行していると聞く。そして、ライトノベルには挿絵が付き物であり、表紙はともかく、中には
女子のアズに見せるのだからそういう作品を選ぶことはないとは思うのだが、外村がDクラスの一員であることを忘れてはならない。正味な話、神崎のDクラスに対する信用と信頼は低いのだ。実際、それだけの実績をDクラスは示している。
神崎としてはそれで個人の人間性を攻撃するつもりはないが、それは非を『非』として認めないことにはならないのである。
「お待たせしたでござる。いや~、吟味するのに苦労したでござるよ」
外村が持ってきたのは複数のライトノベルだった。文庫もあれば文芸書サイズもあるし、ジャンルも様々だ。表紙のイラストを見るだけでそれが分かる。異世界ファンタジーと思しき物もあれば、軍人が描かれた物もあり、侍が書かれた物もある。実に雑多なラインナップだったが、少なくとも、表紙を見た限りでは
「待て、アズ。俺が確認する」
アズが確認のために手を伸ばしたのを遮って、神崎は宣言した。
「大丈夫とは思うが、一応……な」
「……ああ、そっか。うん、分かった。お願い」
言葉を濁して神崎が言えば、アズはすぐに察したようで、中身の確認役を神崎に譲った。
神崎は表紙をめくり、カラーイラストを確認した。取り敢えずカラーイラストから
カラーイラストを確認した限り、問題はなさそうだった。
一つ安堵した神崎は、次いで裏表紙の確認に移る。正確には金額の確認だ。内容がセーフでも、金額が予算をオーバーしていればアウトである。
「……うん?」
一つ一つの値段を確認していった神崎は、思わず疑問の声を洩らした。
「ど、どうかしたでござるか?」
どもりながら訊いてくる外村に、神崎は冷静に返した。
「いや……コレ、金額をオーバーしていないか?」
「え!? そんな筈は……」
驚きを露わに、外村は商品を確認する。
「本の発行タイミングによるものかもしれんが、税込み表示の物と税別表示の物が混在しているんだ。全てが税込み表示なら確かに予算内ではあるんだが……」
言って、神崎は一つ一つ商品を指差していく。すると、確かに税込み表示の商品と税別表示の商品が混在していた。
「あ、ホントだね。コレだと予算オーバーだ」
横から覗き込んだアズも同意した。
「おおう……」
外村は見るからに項垂れた。彼にとっては思いがけないトラップだっただろう。
外村の場合、文芸書サイズの物も混じっているため、文庫に比べて単価が高い。その分だけ消費税も高く付く。
「……戻してくるでござる」
外村は気落ちしながらも再度商品を吟味し、諦めた代物を売り場に戻しに行ったのだった。
その後は会計を済ませてスーパーで夕食の食材を購入――とはいえ、ほとんどが無料食材だが――し、寮に戻って神崎の部屋で勉強と休憩を適度に繰り返すのであった。
果たして、外村の『コンピュータに詳しい』がどこまでを指しているのか……?
それ次第ではだいぶ学力にも応用が利きそうなんですよね。
原作の外村がラノベにまで手を伸ばしているかは分かりませんが、『オタク』に対するイメージから本作では伸ばしていることにしました。
というか、『コンピュータに詳しくてアニメオタクでもある』という点から整合性を取ろうとすると、作中で描写したような流れになるかな……と。
『よう実』という作品の発行開始当初から比べると、現実的には結構な時間が経ってます。その上で、高度育成高等学校には十年以上の歴史があります。
ついでに言うと、環境的にモール内の客は限定化されがちです。そういう点で、販売商品のラインナップは一般的な商店とは一線を隔すと思います。
『税込み』商品と『税抜き』商品の混在は、そこら辺から考えたネタですね。
須藤って単純な分、自分が納得した事柄には全力投球なイメージがあります。たとえそれが自分の苦手な事柄であっても。
付け加えると、結構義理堅い気質。可能かどうかはともかく、恩には恩で返そうとするタチだと思います。
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