ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第32話

 五月四日。

 今日は他クラスから移籍を果たした人たちへの歓迎会である。

 それはいい。――それはいいのだが、どういうわけか『午前七時半に寮のロビーに集合』である。アズとしても首を傾げざるを得なかった。

 いやまあ、()()()使()()()()と考えれば頷けなくもないのだが、現在時刻だとほとんどの施設が開いてない。精々がコンビニや病院くらいなもので、時間を潰すには向いていない。

 当然、それを知らぬ桔梗と帆波ではないだろうから、そこには何かしらの理由が存在するのだろうが、いくら考えてもアズには分からなかった。

 だがまあ、流石は()()()()()()()星之宮クラスである。移籍してきた人物も含め、全員が所定の時間には集合を果たしていた。

 

「う~、眠い……」

 

 それは教師の知恵も同様で、しかしある意味では一番だらしなかった。服装はシッカリと整えているのだが、言葉通りに眠いのだろう。身体がフラフラと揺れている。

 

「先生……。気持ちは分からなくもないですが、シャンと立ってください」

 

 見兼ねた神崎が、苦言を呈しながらも知恵を支える始末だ。

 

「はい、皆さん。おはようございます!」

『おはようございます!』

 

 帆波が前に出て口を開くと、全員が唱和して返した。こういう辺りはノリがいい。声量は高くないものの、綾小路に愛里、ユキに美紀なんかも声は出していた。

 

「今日はいよいよ、綾小路清隆くん、佐倉愛里さん、椎名ひよりさん、山村美紀さん、以上の四名に対する歓迎会です! 休日の朝から済みませんが、コレにもきちんと理由があります! ただ、口頭で説明するのは難しいので、今は黙ってついてきてください! 最初の目的地はケヤキモールです!」

 

 言って、帆波が踵を返した。

 クラスメイト達は、疑問に思いながらもそれを追った。そうするだけの信用と信頼はあった。

 そして、周りがそうするから、主賓たる四名もそれに合わせた。

 案内されるがままケヤキモールに着くと、やはり店舗は開いていなかった。しかし、自動ドアの向こうにいくつかの人影が見える。

 ドア向こうの人影も一行に気付いたのだろう。ドアを開けて外に出てきた。スーツを着ている人もいれば、モール内のテナントショップの制服を着ている人もいる。

 

「おはようございます! 今日は無理を言って申し訳ありません」

 

 前に進み出た桔梗と帆波が、挨拶をして頭を下げた。

 

「いやいや。話を持ち掛けられたときは驚きましたが、それは長らく()()()()()()をしてくる人たちがいなかったからでもありましてね。

 逆に言えば、私たちはそういうのも織り込み済みで、この『高度育成高等学校』の敷地内に店を構えているんです。店を構えることを許可されているんです。

 然るに、こちらとしてはむしろ()()()()()でしたよ」

「そう言っていただけると助かります。……ああ、後ろにいるのが私たちの担任とクラスメイトです」

 

 桔梗と帆波が後ろにいる面々を紹介した。理由は分からぬまま、流れで全員が頭を下げる。

 

「はじめまして、と言っておきましょうか。私たちは当店舗と各テナントショップの責任者を務めている者です。まあ、全員ではありませんがね。

 この度、皆さんのご友人である櫛田桔梗さんと一之瀬帆波さんから面白い提案を受け、それを承諾した者たちが今この場に集まっております。

 前提として、肝心要たる高度育成高等学校も、当店舗を始め敷地内に存在する各種施設も、『日本の次代を牽引する人物を育成する』ことを目的に存在します。

 である以上、そうなることを期待されている皆さんが実力をアピールする場は、何も高度育成高等学校だけに留まらないのです。当店舗を始め、敷地内に存在する各種施設もまた、須らく実力アピールの場になるのです」

 

 そこで言葉を切ったケヤキモールの責任者は、後ろを振り向いた。

 それに従うかのように、新たに四人が前に進み出る。二人一組で、丸めたポスターと思しき物を持っていた。無言のまま、彼らはそれを広げた。

 それは文字通りのポスターで、しかしそこに描かれていたのは、片や着飾った桔梗であり、片や着飾った帆波である。それぞれにポーズを付けた二人が描かれていた。まず間違いなく、写真を印刷した物だろう。ポスターの片隅には所属クラスと名前も載っている。

 

「ポスター内の二人が身に着けているのは、服からアクセサリーから、どれもがどれもモール内の各店で取り扱っている商品であり、同時に売れ行きに困っている商品でもあります。

 皆さんに訊きますが、()()()()()()()という、皆さんにとって()()()()()が着飾っているこちらのような絵を目にした場合、購入意欲が刺激されませんか? 全部ではなくとも一部であれば、『自分も買ってみようかな……?』という気持ちにはなりませんか?」

 

 ニンマリとした笑みを浮かべて、モールの責任者は一同に問いかけた。

 否定はできない。そもそも、モデルだのはそういうのを刺激するために存在する面があるのだから。『読者モデル』などはその最たるものであると言えるだろう。

 そしてここの敷地内においては、実力次第で収入が大きく変動する。()()()()()()()()よりも少ない金額で一ヶ月を過ごさなければならない者がいる一方で、優に高校生アルバイト以上の収入を得る者もいる。

 ポイントを持っている者は持っているし、使える土壌はあるのだ。

 だが実際には、節約を心掛ける者の方が多いという。理解はするが、そうも出し渋りをされると店舗としては堪ったものではない、というのが本音らしい。

 しかし、店舗には店舗で、必要以上には能動的に動けない制約がある。

 

「そしてお二人が身に着けたこちらの商品、報酬として揃ってそのまま提供しております。特にファッションというものは、『流行』という()に乗っかった部分が少なくはありませんので、それを過ぎれば売れたところでどの道赤字です。それを思えば、一式を提供しても痛手ではありません。

 そして当店を含む高度育成高等学校の敷地内に存在する店舗は、敷地外の流行とはある意味で無縁なのです。言うまでもなく、独自の通貨制度と独自の収入システム、そして客層が限定化されているが故ですね。――逆に言えば、敷地内に限定して自分たちで流行を作ることも不可能ではないのです。

 櫛田さんと一之瀬さんは、それを私たちに提案してきたわけですね。実に面白い試みであり、私共としてはその実力を評価せざるを得ません。お二人に提供した商品は、その評価の表れでもあります。

 ここまで言えば、もうお分かりですね? これから店舗が開店するまでの時間を以て、皆さんにもそれに挑戦してもらいます! どのようなアピールをするか、どの購買層にアピールするか、はたまたやるもやらないも、そこは皆さんの自由です! 私たちが強制することはありません!

 しかし、挑戦して私たちの琴線に引っ掛かった場合には、報酬として使用した商品を提供いたしますし、在学中はこれから先もモデルをお願いするかもしれません! 皆さんにも十分に旨味は存在するものと認識しております!」  

 

 店舗責任者の言葉に、生徒たちは盛り上がった。上手く運べば衣服や嗜好品が無料で手に入るのだから、自信がなくとも挑戦するだけの価値はある。

 生徒たちに、賛同店舗の載ったリストが配られる。リストに載った店舗の指定した商品であれば、壊さない限り自由に使って構わない。そういうルールだ。

 まさしく、多方面にアピールするも、特定方向にアピールするも自由である。

 そして、見事責任者の琴線にヒットすれば、写真に撮られ、それが販促用のポスターとして刷られ、クラスと実名付きで店内に飾られる。その報酬として、使用した物品を頂戴できる。

 外とは隔絶した陸の孤島ならではであり、陸の孤島でなければできない手法だ。

 

「はぁ……。これまた、私らには縁遠い内容の企画だな……」

「やろう! 姫野ちゃん!」

 

 溜息を吐く生徒もいれば、その横で気炎を上げる生徒もいたりした。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 元より見学で済ませた者もいれば、記念に挑戦した者もいたが、相手は()()()()内において管理責任者を任せられるほどの人物たちだ。その眼は厳しく、大半の生徒はお眼鏡に適わなかった。――それでも、『大半』という言葉が示す通り、お眼鏡に適った人物もいた。

 男性陣だと綾小路清隆、神崎隆二、柴田颯。彼らは単独でも存在感を示していたが、三人一塊になると、タイプの違いでより際立った存在感を発した。……なお、神崎以外のセンスは()()()()であり、どちらかと言えば店員のセンスが光った形になる。

 女性陣だと佐倉愛里と姫野ユキ。ここは終始愛里が主導し、基本的にユキは愛里に為されるがままだったが、普段とは異なる陰と陽のコントラストが魅せる輝きは、確かに審査員を唸らせるに値するものだった。――むしろ、審査員以上にクラスメイトを驚かせていたが。

 そして実際に着飾れば、佐倉愛里とグラビアアイドルの『雫』を結び付ける者は少なくなかった。それは審査員も同様で、愛里は定期的なモデルを頼まれていた。

 雫は活動休止中であり、彼女を使うとなれば面倒な手続きが多く必要になるが、あくまでも敷地内での限定利用であり、一生徒の佐倉愛里が相手であれば、その限りではない。そういう、()()()()()が働いた結果でもあるだろう。

 アズが欲しいのはお金――この敷地内ではポイントであり、そもそもにして物欲自体はそこまででもない。だから見学で済ませようとしたのだが、結果的には桔梗に引っ張られた。

 単独起用とグループ起用の両条件を満たした者もいれば、片方だけの条件を満たした者もいた。元がサッカー少年の柴田はスポーツショップでも起用され、むしろそちらの方でもらえた報酬に涙を流して喜んだ。

 一種のイベントとして見れば、成功裏に終わったと言えるだろう。

 

「さて。今後、皆さんがモデルを務める場合には、基本的に教師引率の下で行ってもらいます。ポイントでないとはいえ報酬が渡されるわけですので、内容に相違ないかを教師が確認することになります。だからこそ許される面があることを忘れないようにお願いします。

 また、学生である皆さんの本分はあくまでも勉強です。学校は皆さんの自主性を尊重するスタイルを取ってはいますが、仮にも教師が絡む以上、そこは節度を持ってもらいます。今回は()()()()()()ということで許容しますが、以降は一定学力の保持が条件になりますので、その点もご了承をお願いします」

 

 担任教師としての面を強く出した知恵が、ニッコリ笑顔で生徒たちに釘を刺した。実に御尤もな内容ではあったが、それによって報酬でホクホク顔だった表情を、一転して青褪めさせる者たちもいた。誰であるかは敢えて伏す。

 

「はい。取り敢えずはこれにて櫛田桔梗主催、佐倉愛里歓迎会イベント『佐倉をプロデュース』は終了になります。

 まあ、佐倉に関しては本人の気性もありますが、歓迎会が延び延びになってましたからね。このくらいの()()はあってもいいでしょう。

 ぶっちゃけて言うと、グラドルの『雫』である佐倉がいたから開催できたイベントです。ハッキリ言って、長期的に見ればともかく、短期的に見れば店舗側には損しかない投資ですからね。そんくらいの旨味がなければ店舗側も中々首を縦には振りません。青田買いするにも限度があります。

 ともあれ、モチベーションの維持向上に繋がる『新しい可能性』は示せたかと思います。今回のイベントのように、私たちが実力を披露する場と相手は、何も学校に限りません。話の持っていき方次第では、各施設も対象になります。

 まあ、ダメで元々だったんですけどね! 試しに提案してみたところ、思いの外にスンナリと話が進んで私の方が驚きました!」

 

 桔梗がネタ晴らしをした瞬間、生徒たちは一斉に肩を落とした。自信満々に語っておいての締めがコレなのだから無理もない。

 だが、桔梗が言わんとすることは誰しもが分かった。佐倉愛里=雫という、『ある意味での社会的成功者がクラスにいたからこそ店舗側も首を縦に振った』と言われれば、納得以外にはあり得ない。

 他の面々は、あくまでも愛里のお零れに与ったに過ぎず、だからこそのイベントなのだ。

 

「というわけで、佐倉は今後、そのビジュアルを活かすように! せっかくの長所を埋もれさせるなんて、私の方が我慢ならんわ!

 地味子の佐倉愛里相手には強気になれても、グラドルの雫相手に強気になれる奴なんてそうはいないんだから!

 むしろ、ヘタに隠してる方が問題になるっての! オーケー?」

 

 ビシィ! と愛里に指を突き付けて桔梗が言った。

 

「お、オーケーです。……あの、バレてしまった以上は物のついでの相談なんですが、敷地内に私のストーカーがいるみたいなんですがどうしましょう?」

 

 おずおずと頷きながら愛里が語った内容に、その場の全員がスンッとなったのだった。




高度育成高等学校の役割と、そのための教育システムを考えた場合、周辺施設の重要性は決して無視しきれないと思います。
原作だと『生徒たちに敷地内での生活を義務付けるため、そのストレスを緩和する目的』とされていますが、施設側の目的がそれだけの筈がありません。
施設を出すにも維持するにもコストがかかります。場所を鑑みれば、信用だって必要でしょう。
ある程度政府の方からも補填されるでしょうが、それにだって限度がある筈です。
そういった諸々を踏まえた上で施設側が門を構える理由を考えた場合、大きなものが二つ思い浮かびます。
一つは、当然ながら政府とのコネクションですね。政府が直々に設立した、陸の孤島内にある学校。その敷地内に門を構えることが出来れば、一種のステータスになることは間違いありません。
もう一つは、高度育成高等学校から輩出される人材の青田買いですね。
実際に入学して、『実力』と連呼する学校の実態を知ってしまえば、周辺施設に目を向ける人材が現れたっておかしくはありません。敷地内は専用の通貨ポイントで成り立っているんだから尚更です。
そこを重視すれば、『周辺施設も高度育成高等学校の根底に深く関わっている』と考えるのは決して不可能ではありませんから。
その上で、『店と客』の関係だけで終わらせるか、そこから踏み込んだ関係になるかは生徒次第。……門を構える上でそういった条文が交わされている可能性は捨てきれません。

学校の謳い文句を考えると、『学校から提示される課題をこなしているだけで、真に実力者と言えるのか?』という疑問も思い浮かびます。

ので、本作ではそこら辺の疑問を追究して、『一つの回答』を用意してみました。
こういうことが可能なら、愛里にとっても『明確な強み』になったのは否めませんから。
ポイントそのものは手に入らなくても、使い道である『衣服』やらが手に入るのであれば、生徒としても十分に助かるでしょう。
和服着た茶道部の美少女が本に目を落としているシーンとかは絵になると思いますし、それが身近な生徒であれば、『同じ本を自分も買ってみようかな?』という気持ちにもなると思います。

ぶっちゃけた話、原作での『ポイントの使い道』を見ていると、『学校のオリジナル要素』に対するものが大半で、しかも高額な感じなんですよね。
テストの点数とか体育祭での選手交代とかで数万~数十万も使っていれば、周辺施設に回すポイントは減って然りでしょう。
ただでさえ、表向きの収入は学校から支給されるポイントだけなんです。生徒には必然的に節約精神が根付く筈ですので、尚更財布の紐は固くなるでしょう。
カフェのシーンとかはありますけど、その程度と言えばその程度なんですよね。

それを各施設側に置き換えた場合、余りにも得がないと思うわけです。
毎月無料商品が用意されているのは原作で明言されてます。いくら『薄利多売』つっても限度がありますし、全部の施設がそれで成り立つ筈もありません。
そうも『利益が見込めないことが予め分かってる』のに、それでも施設側が敷地内に門を構える理由を考えた場合、自分には『尤もな理由』として思いつくのが先の二つしかありませんでした。

で、どうにかこうにか展開を捏ね繰り回して、それを表に出してみました。
そのためには『原作髄一のコミュ強』である桔梗が必須で、しかも『視野狭窄に陥ってない』必要があり、『愛里が一緒にいる必要』もあり、実現のためには『星之宮クラスが都合が良い』となりました。

本作にプロットなんてものはなく、部分部分の思い付きが先行しています。『疑問』やら『解決法』がありきで、そこに肉付けしている形です。
アズを主人公に据えたのも、『アズと清隆って境遇が似てるよな?』という思い付きから来てます。
フォルテを加えたのは『山村美紀の評価と活躍に齟齬がありすぎるんだけど……。よし、美紀を天然のN.I.N.J.Aにすれば体力不足は補えるし、影の薄さから正しい評価を受けられていないことにすれば解決だ!』という思い付きから来ています。
設定上、両者であれば『よう実』舞台でもやっているだけの能力があると思ったからですし、『よう実』側に設定を落とし込むのも割と容易な気がしたからでもあります。
結果、変化が変化を呼ぶ一種の悪循環となり、中々物語が進展しない状態に陥っています。

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