ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
アズたちが寮へと手紙を取りに行き、知恵がモールの責任者とやり取りをしている間、桔梗たちは桔梗たちで歓迎会を継続していたとのこと。
気分的に盛り上がらないのは事実だが、その一方で屯しているだけでは建設的ではない。
そういう言い分で以て桔梗はクラスメイト達を扇動し、ショッピングに勤しんでいたそうだ。
その甲斐あって気分を持ち直した生徒は多いし、ひよりなどは何人かから本を奢ってもらってホクホク顔だ。
そんなこんなで、多少の変動があったのは事実だが、予定は継続と相成った。
モールを出た一行は、桔梗と帆波の先導に従って、とある飲食店へと向かう。蕎麦と饂飩を売りにした店で、ザルもあれば天麩羅や月見なんかも普通にある。鍋焼きうどんも可能。
店側も、よっぽどの変わり種でなければ対応できる自信があるらしい。
その謳い文句に偽りはなく、銘々が好き勝手に頼んだ品々は、誰もが称賛する美味しさだった。
食事を楽しんだ後はボーリングである。店舗側には事前に予約を取り付けていたため、レーンは確保されていた。
元が四十人に、綾小路、愛里、ひより、美紀が移籍で加わり、そこに教師である知恵を加えて計四十五人である。一レーン当たりの最大人数は六人とされているため、星之宮クラスだけで八レーンを独占していることになる。
もっとも、現実には九レーンだったが。人数的に、五人で分けた方が楽なのは否めない。
その事実に心苦しさを覚えた者もいたが、店舗にとっては
一人で一レーンを使われた場合など、同一レーンで他に受け入れられる筈の五人分、売上機会を逃すことになるのは事実だ。
「決してお客さんがいないわけじゃないんだけどね。それでも、率直に言えば『赤字経営』かな。実際になっていないのは、場所の影響が大きいね。『高度育成高等学校』を構成する一部だからこそ、大部分を政府の方で補填してくれてるわけ。基本、敷地内の施設は全部そう。
逆に言えば、敷地内に存在する施設や店舗は、それだけの信用を政府から得ているってことでもある。
ただね? 大人の事情として、日々の売り上げってのはどうしても評価に絡んでくるものだからね。利用人数が少ないなら、売り上げが少ないなら、『施設を出しておく必要があるのか?』って話になるのは避けられないから……」
だからこれからも利用してほしい、とは受付さんの言葉である。彼もまた、高度育成高等学校のOBであるらしい。なお、Aクラスでの卒業ではない。
「つーか、星之宮。お前もそうだけど、真嶋に茶柱も、級友の誼でもっと金を落としに来いよ」
そんな一言も繰り出された。
「今日来てるじゃない」
「前に来たのはいつだって話だよ。――ところで、お前、まだ茶柱のこと恨んでんの? だったら止めとけって。もっと建設的なことに意識を割けよ。……アイツと茶柱が最大級の戦犯であることを否定する気はないが、
実際、Aクラスでの卒業こそ叶わなかったが、こうしてお互い手に職を持つことが出来ている。それで良いじゃねえか。これ以上、何の不満があるんだよ?」
「理解はできるんだけどね。人間、そう簡単に割り切れたら苦労はないよ。……それと、あんまり他言はしないでよね?」
「わーってるよ。だから、最大限にボカしてんじゃねーか。――と、身内話で盛り上がってすまなかったな、後輩諸君。今日は楽しんでいってくれ」
よく『人に歴史あり』と言われるが、それは知恵も同様であるらしい。
グループ分けは主賓の意向を優先しつつ、それ以外はクジで決めた。男女混合である。
それぞれの意向により、綾小路は神崎と、愛里はユキと、美紀はフォルテと同一グループである。ひよりには特に希望がなかったので、そのままクジを引いた。
アズは綾小路、神崎、千尋、知恵と同一グループになった。アズ的には、割と
「まあ、あのアホにOGなことをバラされちゃったからちょっとばかりネタ晴らしするけど、私が通ってた頃の寮は個室じゃなかったんだよね~。Dクラスの担任である佐枝ちゃんとはルームメイトでライバルだったのだ~!」
こんな感じで、知恵からは当時との違いが語られたりもした。
アズと綾小路の間で熾烈なストライク合戦が繰り広げられたりもした。
神崎は無難に好成績を叩き出し、千尋はそこまででもなかったが、それぞれがそれぞれなりに楽しんだと言えるだろう。
それは他のグループも同じだったようで、終わった時には誰もが笑顔を浮かべていた。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
ボーリングが終わった後はカラオケだ。大人数用のパーティールームを複数貸切るという暴挙である。普通に考えて、入学して一ヶ月ちょっとの新入生に出来ることではない。
だが現実には出来ており、それは同時、学校外の施設に星之宮クラスの実力が知れ渡ることを意味していた。
とはいえ、そこまで考えている人物など極少数だが。大半の生徒は、ただ純粋にカラオケを楽しんでいる。
最近流行りの曲から、一昔前のアイドルソングにアニメソングと、見境なく選曲される。
自分で曲を選ぶのではなく、誰が歌って誰が選曲するかをジャンケンで決めたりもした。
メドレーを歌ったりもしたし、それぞれが互いの部屋を行き来したりもした。逆に、一つの部屋に留まり続ける者もいた。
それぞれが順に歌声を響かせる中、一風変わっていたのが綾小路だった。要所要所で加点を叩き出し、技術的には文句の付け所がない。だが、歌っている当人は終始真顔なのだ。然程情感も感じられない。それで点数は高いのだから、賛否両論の嵐である。
まあ、採点マシーンは、あくまでも技術を評価するものだ。そこに歌い手の情感は考慮されない。
「カラオケに来ると毎回思うんだが、理不尽じゃないか?」
「気持ちは分からんではないけど、お前、全くと言っていいほど表情筋が仕事をしていないからなぁ~。周りにしてみれば、淡々と歌っているようにしか見えないんだよ」
「カラオケに何を求めるかは人それぞれだろうが、基本的には多人数でワイワイ楽しむ奴らが多いだろうからな。そういう奴にしてみれば、素直に称賛しがたいんだろう」
綾小路が不満を洩らせば、柴田と神崎が両サイドから肩を組んで慰めた。
「何とも難しいな……」
言いながら、綾小路は自分の頬に指先を当ててグリグリした。多少なりと表情筋を働かせようとしているのだろう。涙ぐましい努力である。
ドリンクを飲み、ポテトを摘まみ、銘々が盛り上がる中、別の一室では知恵がポツリと呟いた。
「お酒飲みたい……」
この中で唯一の大人である知恵にしてみれば、カラオケに来てお酒を飲めないというのは苦痛以外の何でもなかった。それでも、自分は教師だと、担任だと、必死に自分に言い聞かせていた。
しかし、それもとうとう限界を迎えてしまった。確かに、今のままでも楽しい。だけど、お酒を飲めばもっと楽しいのだ。
「ねえ、一之瀬さん? 先生、お酒飲みたいなぁ~って。頼んでもい~い?」
限界を迎えた知恵は攻勢に打って出た。ターゲットは帆波一択である。同じく今回の主催者である桔梗に頼んでも、素気無く却下されるのは目に見えていたからだ。
「え!? お酒ですか!?」
おねだりされた帆波はビックリしつつも、素の優しさもあって明確に拒否できずにいた。
未成年が揃っている中でお酒を飲むのは褒められた行いではないが、知恵が参加者の中で唯一の大人なのは否定できない事実なのだ。そして知恵は、二日酔いのままで学校に来て、二日酔いのままで朝礼を行うこともあるほどの酒好きでもある。
そんな彼女に禁酒を強いるのは、それはそれで違うのではないか? そういう思いが帆波に湧き起こったのも事実である。
道理と心情の板挟みで困った帆波は、それとなく周りを見渡した。誰か自分を助けてくれる人はいないだろうか、と。
しかし、帆波の願いは叶わない。桔梗も神崎も、現在は別の部屋だったからだ。他の生徒たちも、おしゃべりなり選曲なりに夢中になっていて、帆波たちの状況には気付いていない。
どうする? どうする? グルグルと頭を悩ませた末、帆波は結論を出した。
「分かりました。許可します」
「ホント!?」
「はい。――ただし、先に条件を決めておきましょう。今日の本題はあくまでも歓迎会ですので、我を忘れるほどに呑まれても困ります。正直、普段の先生の様子を見ていると、お酒を飲ませることに不安しかありません」
「あ~、まあ、私って二日酔いで出勤して朝礼やったりしてるもんね……」
キッパリとした帆波の言葉を、しかし知恵は否定できなかった。
「はい。ですので、飲むにしても
「むぅ……。落としどころとしては無難なところだけど……」
知恵は悩んだ。酒好きの知恵にとって、ほんのちょっと飲む程度は飲んだうちに入らない。少しでも酒が飲めるという点では嬉しいしありがたいのだが、逆に、少しでも摂取した時点で
それを前以て危惧できる程度には、知恵は自分の酒好きの度合いを自覚している。
だから――
「やっぱり、今回は我慢しておくわ」
だから、知恵は今回の飲酒を諦めた。
危惧は危惧。可能性に過ぎない。そのように自分を誤魔化すことも可能だが、今回は現実に起こり得ることへの危機感の方が勝った。『教師失格』を自認する一方で、担任としての誇りはあるのだ。
普段の二日酔いは、『この子たちなら受け入れてくれる』という確信があってのこと。一種の甘えである。
しかし、生徒に甘えるにも、生徒が許容するにも、限度というものはあるのだ。
特に、今回は新たにクラスメイトとなった生徒たちへの歓迎会である。それが、自分の飲酒が原因で台無しになった日には、流石のこの子たちとて受け入れはしないだろう。そう考えられる理性と、そのために飲酒を諦める自制能力はまだ残っていた。
「……ですか」
「うん。――よーっし! お酒を諦めた以上は別のことで楽しむわよ! ということで、星之宮知恵、歌います!」
飲酒を諦めた知恵は、マイクを手に取って立ち上がり、誰が入れたかも分からない曲を歌い始めた。……まあ、カラオケで盛り上がれば稀にあることだ。
最初は呆気に取られていたが、途中から本来歌うべく入れた生徒も参戦し、予期せぬデュエットを振る舞う。
やんややんやと盛り上がり、そこに教師と生徒の垣根は存在しなかった。今この時だけは、同じ空間を楽しむ仲間だった。
或いは女生徒と頬をくっ付けて一つのマイクを二人で使い、或いは男子生徒と肩を組んでデュエットする。それによってドギマギする生徒がいたりもしたが、それはそれだ。
普段は教師として、緩やかながらも一線を保っている知恵だったが、今この時だけは明確に境界が近付いていた。
「ほらほら、佐倉さんも姫野さんも一緒に歌いましょ! 歌って嫌な気持ちを吹き飛ばすのよ!」
「はぁ……」
「……分かりました!」
教師の立場を使って、
「はい! 山村さんもフォルテちゃんも!」
「あ、あわ……」
「イェーイ! 歌っちゃおーっ!」
二人のみならず、美紀とフォルテも引っ張り上げた。
「もちろん、椎名さんもね!」
「困りましたね。歌の方はそれほど嗜んでいないのですが……」
などと言いつつも、高得点を叩き出すひよりだった。
「綾小路くんは私とデュエットよ!」
「いいですけど、オレ、そんなに知ってる曲ってないっすよ? 基本的には、自分で歌う前に他の人に視聴させてもらって、それを歌ってる感じっすから……。
歌に興味がないわけじゃないんすけど、自分ではどのジャンルが好きなのかも分かってないんすよね。そんなだから、自分から手を付ける気にもならなくて……」
「ありゃ、そうなの? 勿体ないなぁ~。ま、徐々に分かっていけばいいわよ。……こんなのはどう?」
知恵がイヤホンをセットして自分の端末から流したのは、日曜朝の特撮ヒーロー番組の主題歌だった。
「こういうの、『ラップ』って言うんでしたっけ? 今までに歌った曲にはないんで興味あります」
「よし、決まり!」
そんな感じで、綾小路と知恵によるデュエットが行われたりもした。
なお、他の曲では高得点を叩き出した綾小路だったが、ラップは初めてということもあってか、今までの技術点が見る影もなかった。ラップに集中すれば技術点は加点されず、加点を意識すればラップが疎かになる。そんな感じだ。
『綾小路は初挑戦に弱い!』が、合言葉として星之宮クラスに刻まれた瞬間だった。
真嶋、星之宮、茶柱同様に、普通に敷地内に就職してるOBやOGは多そうだと考えました。
そもそもが特殊な環境ですし、運営者にしてみれば少しでも慣れている人物を宛がうだろうな……と。
Dクラスでの卒業を余儀なくされた上記三名が教職に就けている以上、結局は『本人の能力次第』な点があるのは否めません。……『同期生』ではなく『同級生』として扱われていることから、当時は真嶋も同じクラスと判断しました。
卒業して時間が経過したことにより、『Aクラスでの卒業に夢見過ぎ』という結論に落ち着く人物がいても不思議はないと思います。
その結論に理解と納得を抱けているのが今回登場させたモブOBで、理解はできても納得できずにいるのが星之宮、理解したくないと思っているのが茶柱ですね。
カラオケに行ったからには、お酒を欲しがるのが知恵だろうなと……。
その一方で、何だかんだと自制を働かせそうでもあります。
知恵と綾小路がデュエットしたのは『二人で一人の仮面ライダー』の曲ですね。『スパロボY』繋がりです。
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