ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第36話

 五月五日。

 今日も今日とて勉強会が開催されている神崎の部屋のチャイムが鳴った。

 瞬間、その場にいる全員の心情が一致した。――誰だ?

 家主である神崎はいる。教師役の桔梗とアズもいる。生徒である須藤と外村もいる。――なお、本来あった桔梗の用件は、『ストーカー問題』の発覚と共に立ち消えとなった。そのため、普通に勉強会を開催していた。

 クラスメイトには須藤と外村を相手に勉強会をやっていることを周知しているが、だからこそ、この状況で神崎の部屋を訪れる相手に心当たりはなかった。

 何せ、同時に須藤と外村の小テストの点数も周知されているのだから、気遣い屋のクラスメイト達が邪魔しに来る道理などない。

 

「ひょっとして、誰か差し入れでも持ってきてくれたかな……?」

 

 顎に人差し指を当て、ポツリと呟いたのは桔梗だった。

 なるほど、と全員が頷く。気遣い屋だからこそ、邪魔はしなくてもその程度の応援はするかもしれない。

 仮定に過ぎないが、それでも納得のいく結論を見出した神崎は、立ち上がって玄関へと向かった。映像を確認すると、そこにいたのは確かにクラスメイトだった。――しかし、些か想定外の相手でもあった。

 

「綾小路? どうしたんだ?」

 

 ガチャリとドアを開けた神崎は、来客――綾小路へと訊ねた。

 

「昨日、()()()()()()()()()()()()()()ことが話題に上がっただろう? 

 昨日の歓迎会を通し、オレもまた星之宮クラスの一員となった。そして星之宮クラスのモットーは助け合いだろう? 須藤と外村は元クラスメイトでもある。なら、オレも何か協力すべきかと思ってな……。

 本来なら、むさい男相手よりも佐倉の方に行きたかったが――タイミングがタイミングだろう? この状況で佐倉の部屋に突撃をかけるほど、オレも常識知らずではないつもりだ」

 

 答える綾小路の言葉は筋が通っていた。後半部分が()()()を醸し出していたが、男としては普通の感性だろう。――それが本音なのか、ポーズなのかまでは、神崎には判断が付かなかったが。

 

「お前の学力は知っているつもりだし、そんなお前が協力してくれるならありがたい限りだが、先輩方の方はいいのか?」

「完全に予定が入っていないわけではないが、精々がプリントを用意する程度だ。休日は遊びを優先したい人の方が多いらしい。せめてもの息抜きってやつだろうな」

「それは尤もだな」

 

 そんな会話をしながら、他の面子の元へと戻る。

 

「綾小路!?」

「綾小路殿!?」

「よお。久しぶり――と言うほどの時間も経っていないが、オレにも何か手伝えることはないかと思ってな。お邪魔させてもらった」

 

 驚きを露わにする須藤と外村に、綾小路は軽く片手を挙げて答えた。

 

「って言うが、お前に出来ることなんかあんのか? 小テストだって、そりゃあ俺らよりは上だったけど、それでも85点だったじゃねえか」

「そりゃあ、あの小テストでは一般的な学力に合わせて手を抜いたからな。――現実には、それでもクラスでは上澄みの方だったから、逆に驚いたくらいだ」

 

 言いながら、綾小路は端末を操作。直後に、須藤の端末が軽快な音を立てた。

 

「今、須藤にオレの持っているポイントの一部を譲渡した。本来はクラス替えをするべく貯めていたポイントだが、スカウトされたことで必要がなくなったからな。独占するも、クラスのために使うも好きにしろ」

「あん? ……おいコレ!? 何だよコレ!? ありえねーだろ! 何だって二十万ポイントも送ってよこせるんだよ!?」

「俺は先月の途中から、学校の先輩方を相手に勉強を教えていたんだ。一教科につき一ヶ月で一万だから、一人に五教科を教えるだけで五万の稼ぎだ。休日には別料金で、より個人向けにカスタマイズしたプリントを作ってやったりもしたからな。

 最初の一週間は試用期間ということで無料にしたが、流石は先輩。危機感は新入生の比じゃない。瞬く間に口コミで広まっていったよ。

 まあ、手を付け始めたタイミングがタイミングだったから、先月に限っては実質一日~一週間程度の教えにポイントを払った人も少なくはないわけだが、今のところ不満は上がっていないな」

「綾小路は三年生の間で有名だよ~。その名も『後輩先生』ってね。変に偉ぶったところがないのも高評価らしいよ? あくまでもビジネス上の付き合いだから、先輩方としても気楽らしいしね。

 ついでに言うと、綾小路の目的が目的だから、どれだけ早く教えを受けることが出来るか、どれだけ親睦を深めることが出来るかで熾烈な争いが発生しているみたいだよ」

 

 須藤に答えた綾小路の説明を、更に桔梗が補足した。

 そもそも、綾小路は『クラス移籍のためにポイントを貯める』ことを最初から周知している。である以上、目標金額が貯まった時点で、『綾小路塾』が終わりを迎えると考えるのは道理だ。

 その上で尚も勉強を教えてもらおうと考えるなら、個人的な親睦を深めるのが一番と考えるのも、また道理だ。

 そして、それだけ分かりやすいなら、少しでも早く、多く、教えを受けようと考えるのも、また道理だ。

 

「あ~、そう言えば、先輩がそんなことを言っていたような……」

「……で、ござったな」

 

 ここにきて、須藤と外村も先日の一幕を思い出していた。

 

「けど、流石に戦力過多じゃないかな? そりゃあ、須藤と外村の学力は低いし、私と桔梗も毎日面倒を見れるわけじゃないのも確かだけどさ。だとしても、清隆が本当に隆二が言うほどの学力を持ってるんだとしたら、ここに清隆を組み込むのは戦力の無駄遣いだよ」

 

 そんな中、アズがポツリと疑問を洩らした。

 確かに、それは尤もな言い分だった。ここに清隆を組み込むくらいなら、他のDクラスの生徒に勉強を教えた方がよっぽど効率的で建設的だ。

 

「アズが言わんとするのも分かるが、相手側に真面目に教わる気がなければ意味がないのも事実だ。そして、つい先日までその一員だったオレが言うのも何だが、相手はDクラスだぞ? 学力が十分な奴は普段の授業も比較的真面目に受けているし、学力が低い奴ほど普段から不真面目だ。

 授業態度は真面目なのに学力が低い佐倉は稀有な例だろう。それも、佐倉の過去を知った今では納得ではあるが……。

 付け加えると、オレは移籍を果たした裏切り者だ。この状況下で、オレから勉強を教わることを是とする学力不振な奴がDクラスにいるか?」

 

 対する、綾小路の言い分も尤もなものだった。

 危機感を持っている人物はいるだろうが、教師役が綾小路という時点で二の足を踏む人物も少なくはないだろう。

 そして、そのことは他ならぬDクラスの二人が理解していた。須藤と外村は頭を悩ませる。

 

「いない、とは言い切れねえが……」

「極端に少ないでござろうな。拙者、女子の佐藤殿ぐらいしか思いつかないでござるよ。彼女はイケメン好きみたいでござるから、綾小路殿であればワンチャンあるかもしれないでござる」

 

 辛うじて、外村の口から佐藤の名前が捻り出たくらいだった。佐藤麻耶というギャル系の女生徒だ。

 

「佐藤か……。確かに、佐藤の点数も低かったな。オレとしては吝かじゃないが、生憎と佐藤の連絡先は知らないな」

 

 麻耶の小テストの点数を思い出しながら、綾小路は呟く。

 

「佐藤の連絡先なら私が知ってるし、何なら提案してあげよっか?」

「頼めるか? 櫛田」

「なあ? もしよかったら、そこに寛治と春樹の奴も加えてやってくれねえか? もちろん、無理強いはしねえし、出来ねえ。誘いをかけるだけで十分だからよ。あんな馬鹿どもでも、俺にとっちゃダチなんだ」

 

 そこに、須藤が口を挿んだ。その声には、確かに切実な響きが込められていた。

 

「アイツ等の連絡先は知っているからな。誘うだけは誘ってやるさ。だが、そこから先はアイツ等次第だ」

「ああ! それで構わねえ! 恩に着るぜ、綾小路!」

 

 瞬間、須藤は破顔した。池と山内にチャンスが与えられたことが、それだけ嬉しいのだろう。

 

「ああ、佐藤さん? 私、櫛田桔梗。つい先日までそっちのクラスだった綾小路くんいるでしょ? 昨日はクラス総出で歓迎会を開いたわけなんだけど、そのせいか、今日になってDクラスの希望者の勉強の面倒を見ることを提案してきたの。

 とはいえ、綾小路くんの立場が立場でしょ? 言ってみれば、そっちのクラスにとって裏切り者なわけじゃない? その状況で希望者がいるかも分からないから、思い切って須藤くんと外村くんにも訊いてみたのよ。

 そしたら、須藤くんからは池くんと山内くんの名前が、外村くんからは佐藤さんの名前が挙がってね。『佐藤さんはイケメン好きみたいだから、綾小路くんが教えるんだったらワンチャンあるんじゃないか?』ってさ。だけど、綾小路くんも須藤くんも外村くんも佐藤さんの連絡先を知らなくてさ。私にお鉢が回ってきたの。

 で、どう? 綾小路くんから勉強を教わる気はある? 個人的にはお勧めだよ。彼から無料で教われるって時点で、三年の先輩から喧嘩を売られてもおかしくないくらいには。

 ん? だって彼、先月の途中から三年の先輩相手にポイントをもらう代わりに勉強を教えてたのよ。それで付いたあだ名が『後輩先生』。私たちはそれを知ってたから、彼をスカウトしたってわけ。

 いや、そこで私にキレられても困るってば。同じクラスだったにも拘わらず気付けなかったそっちの落ち度。注意不足。

 ついでに言うと、彼、最初はそっちのクラスで頑張っていこうとしてたみたいよ? だけど、平田くんを介して注意喚起を促しても改善が見られなかったし、実際にうちのクラスから訴えられても変わらなかったんでしょ? それで完全に見切りを付けたみたい。同じクラスでやっていくのは無理だってね。

 ただ、同じクラスでやっていくのは無理だとしても、まったく情がないわけでなし。違うクラスになっちゃえば話は別ってことでしょ。

 で、どう? ……うん、分かった。んじゃ、彼には伝えるから。それと、彼にもそっちの連絡先を伝えるからね? 毎回私が仲介できるわけでもないからさ。……ん。じゃ~ね」

 

 ピッと音を立てて通話を切った桔梗は、綾小路へと向き直った。

 

「教わるってさ。付け加えると、来るかどうか分かんないけど、軽井沢とか松下とかの友人にも声をかけるってさ。……で、これが佐藤の連絡先」

「そうか、分かった。……となれば、どこか外の施設を使った方が良さそうだな」

 

 言って、綾小路は端末を操作。教わったばかりの佐藤へと電話をかける。

 

「佐藤か? ああ、綾小路だ。話は櫛田から聞いているな?

 一応、須藤からの頼みで池と山内にも誘いをかけることになったからな。参加するかどうかもまだ分からないが、流石に全員が参加するようだとオレの部屋で教えるにも無理があるし、お前の方も嫌だろう?

 それで、どこか外の施設を使おうかと思うんだが、心当たりはあるか? ああ、使用するに当たっての必要経費くらいならオレの方で持ってやる。

 で、オレは今寮にいるわけなんだが、そっちは? ……そうか。なら、寮のロビーで待ち合わせといこう。……ああ。それでは」

 

 通話を切った綾小路は、再度端末を操作。

 

「ああ、池か。オレだ。綾小路だ。……酷い言い草だな。まあ本題だが、須藤からお前と山内に勉強を教えるように頼まれてな。こうして誘いをかけているわけだ。

 いや、須藤は別の奴に教わっているからな。協力を申し出たが、オレはお呼びじゃないようだ。それで、須藤からお前と山内を頼まれた次第だな。

 一応、佐藤も参加する。場合によっては、軽井沢や松下を始めとした佐藤の友人たちも。まあ、本当に来るかは分からんが……。

 で、佐藤もオレも今は寮にいるから、ロビーで待ち合わせて出発する予定だが、お前はどうする? ……分かった。参加するなら勉強道具を持ってロビーに来い」

 

 そこで通話を切って、再び操作。

 

「ああ、山内か。オレだ。綾小路だ。須藤からお前と池の勉強を見るように頼まれてな。……そうか、分かった。こちらとしても無理強いはしない。ああ。じゃあな」

 

 今度は思いの外早くに通話を終えた。須藤を嫌な予感が襲う。

 

「池は参加するようだが、山内は不参加だそうだ。『俺は勉強する必要なんかねーんだよ!』とのことだ。ほら吹きもあそこまで行けば立派だな」

「……そうか。それが本人の選択なら、山内はしょうがねえ。せめて池のことはよろしく頼む」

 

 そう言って、須藤が綾小路に頭を下げた。

 

「お前に頭を下げられてもな。池は参加を選んだが、まだ参加を選んだだけだ。重要なのはこれからで、オレは池を特別視するつもりもない。参加して、向こうが()()()()()()と言うのであればそれまでだ」

「ああ、そいつは分かってる。ダチとしての、せめてもの気持ちだよ」

「そうか。……邪魔をしたな」

 

 軽く頭を下げ、綾小路は去っていった。言葉を信じるなら、寮のロビーに向かうのだろう。

 

「さ! 向こうは向こう、こっちはこっち! アンタたちは自分の勉強に集中!」

「お、おう!」

「はいでござる!」

 

 手を打って桔梗が促すと、須藤と外村は問題集へと向き直った。

 ただの条件反射に過ぎないが、条件反射でその行動を取る辺り、イイ感じに調教されている二人だった。




『歓迎会』という儀式を経て、名実ともに星之宮クラスの一員になった綾小路ならこう動くかな……と。
元Dクラスの綾小路にしてみれば、この状況でクラス方針に合わせて手を差し伸べる先はDクラスしかあり得ないでしょう。
で、本作の綾小路は原作ほどDクラス内の交流が進んでいませんので、連絡先を知る相手も少ないです。グイグイときた池を介し、須藤と山内は登録されてます。
また、あくまでも『クラス方針』に合わせた結果なので、本人としては『どうでもいい』のが本音ではあります。ただ、『クラスの一員』として動いているだけです。
必然、白羽の矢が立つのは、『元Dクラス』の愛里、桔梗とアズから勉強を教わっている『Dクラス』の須藤と外村になります。
ただ、愛里に関しては『ストーカー問題』が発覚したばかりなので、精神安定を考慮して除外。須藤たちの方を訪れた次第です。

そこから先は本話で描写した通りですが、さりげに桔梗からのフォローが入ってます。
麻耶に対し、電話で『後輩先生』の下りを教えたことですね。説得する上で無理のない流れではありますが、本来ならそこまでする必要がないのも事実です。
ただ、それを敢えてしたことで、麻耶たちからの綾小路に対する心証も変化します。それを言っているのが桔梗ということもあり、信憑性も高いです。

同時、その流れで『同じクラスなのに気付けなかった』という点を指摘することで、麻耶――Dクラスへと注意喚起を促し、危機感を高めています。
星之宮クラスが綾小路をスカウトするに値する理由、綾小路がスカウトを受けて星之宮クラスに移籍した理由、その両方を、無理なく、聞いた側が納得しやすい形で伝えたわけです。

本作では、『移籍による人数減少』という点で原作以上にダメージを食らっている一方で、神崎による過去問の示唆などで原作以上には空気がマシになっているのがDクラスの現状です。
それもあって成立した流れでもありますね。

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