ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第38話

 時間が経つのは早いものだ。アズ・セインクラウスは素直にそう思った。

 五月も既に半ばを過ぎており、中間テストは刻一刻と迫っている。

 同時、移籍してきた生徒たちも、それぞれにクラスメイトとの交流を深めている。

 愛里は基本的にユキと行動する機会が多いが、桔梗や綾小路と行動することも多い。もっとも、綾小路には()()()()として、桔梗には()としてという違いはあるが。歓迎会を機に、愛里はある程度吹っ切れたらしい。

 美紀は基本的にフォルテとべったりだ。フォルテ曰く、『美紀は天然自然のN.I.N.J.A』らしい。もっとも、それ故に本人が力の使い方を把握しておらず、彼女の影の薄さもそれに起因するとのこと。

 周辺環境を俯瞰視点で捉えられる者であれば、その空白から彼女を把握できる者もいるだろうが、そういった能力を持っている者は存外少ない。基本的には必要がない能力だからだ。それこそ、()()()()()()()()()ことでもなければ開花しない能力でもある。その都合上、チームスポーツの選手とか、単独では行動すらままならない重度の身体障害者が開花しやすい傾向にあるそうだ。

 今のままでは、美紀が他者と交流を図ろうとするなら、そういう()()に期待するしかない。――だが、そこに新たな選択肢が提示されたのだ。

 美紀にとって眉唾物の話であることに違いはない。それでも、フォルテが美紀を把握できているのは事実である。その理由が『自分の同類であり、力の使い方を熟知しているから』と言われたなら、美紀がフォルテに縋るのも無理からぬ話だろう。

 ひよりはこれといって交流を深めている生徒はいない。かといって、進んでクラスの和を乱すこともない。『本に貴賤はなく、読書を嗜む者こそ友人』というスタンス。

 お勧めの本を訊けば、ある程度その人のスタンスに合わせた本を紹介したりするし、その中にさりげなく自分の好きな本を混ぜるお茶目なところもある。

 学力は優秀らしく、クラスメイトとして勉強の面倒を見ることもするし、普段の勉強に読書を勧めもする。

 そして、基本的には社交性の高い生徒が揃っている星之宮クラスであるため、読書を勧められたらそれを無下にすることもない。暇潰しにはもってこいだし、図書館を利用すればポイントの節約にもなる。それが学力の向上に繋がるなら却下する必要がない。

 綾小路はアズに似たスタンスだ。積極性はないが、受け入れ幅は広い。とはいえ、神崎や柴田、元クラスメイトの愛里には若干の積極性を見せる。また、何やかんやとDクラスの面々との付き合いも維持している。

 

「綾小路、何なのアイツ? 私の今までの苦労が塵と化すくらい、勉強が分かりやすいんだけど……」

 

 とは、流れで愛里と一緒に勉強を見てもらったユキの言だ。

 アズもまた、最近は()()()()()を自粛中だ。正確にはしたくても出来ないのである。テストが近付くにつれ、活動を休止する部活が増えているからだ。生徒の自主練を止めることはないが、部として活動することもない。テストで赤点を取ってしまえば退学なのだから、当然と言えば当然の判断ではあるのだろう。

 結果、アズの放課後はクラスメイトの勉強を見ることに終始している。何せ、アズは先の小テストにおいてクラスでただ一人満点を取っているのだから、学力においてはこれ以上ない実績を示しているのだ。引っ張りだこになるのも已むを得ない話だった。

 まあ、こんな感じで、星之宮クラスは割と平和な日々を過ごしていた。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「……で、修行の成果はどんな感じなの?」

 

 ある日の夜。

 自室でアズは客人に訊ねた。

 

「どうなんでしょう? 専ら体力づくりばかりで、自分ではよく分かりません」

「や~、出てないわけじゃないけど、微々たるもんだしねぇ~。てか、そんな一朝一夕で劇的に改善されるようなら苦労もないし」

 

 客人――山村美紀と月ノ輪フォルテはそれぞれに答えた。

 二人の学力はそれほど悪いわけではない。どちらも平均以上はキープしている。それ故に放課後を美紀のN.I.N.J.A修行に費やすことが出来ているわけだが、まるで勉強しないのもそれはそれで不安がある。そのため、夜を利用してアズから勉強を教わる機会が増えていた。……なお、単純な学力を比較すると、アズ>美紀>フォルテとなる。

 アズとしても特段断る理由がないので、その申し出を受け入れていた。

 

「正直言うとシンドイですけどね。『論より証拠』とばかりに、目の前にいるのに気付けなくなるのを繰り返されれば、少なくともフォルテさんが自分の『気配』とでも言うべきものをコントロール出来ているのは明らかです。

 それがN.I.N.J.Aに特有の神経を特殊な鍛錬によって覚醒、人間の持つ潜在能力を引き出している結果で、私もまた同様の神経を持っており、鍛錬を経ずして覚醒させた結果が影の薄さだと言われたら、私としては信じるより他にないですし……」

 

 パクパクとアズの作ったご飯を食べながら、美紀が口を開く。美紀によると、鍛錬を始めてからは自分自身でも信じられない程度には健啖家になったらしい。

 

「で、私の覚醒は先天的なものであるが故に、ある意味で自然で、ある意味で歪だと言われたら、否定する言葉もありません。まあ、N.I.N.J.Aの源流が戦国時代の忍びだと言われたら、影の薄さには納得がいきますし。

 そして、とかく諜報活動が取り立てられがちな忍びですが、薬学知識に通じていたり、破壊活動や暗殺行為も伝わっています。である以上、引き出し方次第で、頭脳や身体能力を活性化させることが出来ても不思議はありません。

 私自身、これまで勉強を努力して来なかったわけではないですが、影の薄さ以外にそちらの方でも力を発揮している可能性があるのも事実です」

「実際、N.I.N.J.Aにもそれぞれ向き不向きがあるからね。どの方面も最低限には熟せる程度に鍛えるのが前提だけど、その上で適性に合った特戦隠密に振り分けられるわけ。私の所属する特戦隠密・朧は、どちらかと言えば戦闘型かな。でないと『最強の特戦隠密』とは認識されないし。

 正直、天然の覚醒者だけあってか、気殺能力だけなら既に美紀は一線級なんだけどね。逆に言うとそれ以外がお粗末で。一般人相手ならともかく、ある程度鍛えたN.I.N.J.Aであれば気付けるレベル。容易に、とは言えないけどね」

 

 フォルテもまたパクパクと食べながら補足を入れる。

 

「で、だからこそ、N.I.N.J.Aとしては美紀を放っておけないわけだ。気付いた以上は放置できない。個人的な善意があるのは事実だけど、善意だけでもない。だって、美紀を調べられたらN.I.N.J.Aの秘密に至る可能性は捨てきれないんだから。

 ある程度は周知しているけど、やっぱり『ある程度』だからね。自分たちの強みを完全に公表するほど馬鹿じゃないし無能でもない。いや、完全に公表して、その上で手と手を取り合えたらそれが一番なのは認めるけど、人間ってそれが出来るほど一枚岩じゃないでしょ? である以上、どうしてもどっかで壁を作る必要がある」

「そんなわけで、フォルテさんに気付かれた時点で、私の将来はN.I.N.J.A一択みたいです。まあ、これといって将来の夢とかがあるわけでなし、人並みに友達作って、人並みに生活できたら私としては言うこともありません。正直、ブラックは御免ですけどね……」

「そこに関しては何とも言えない。ブラックと言えばブラックなのかもしれないけど、そもそもにしてN.I.N.J.Aの数自体が少ないからね。人が少ない以上、一人当たりの負担が大きくなるのは道理だし……。

 付け加えると、美紀の例で分かる通り、天然のN.I.N.J.Aはどっかが歪なのよ。昔ならいざ知らず、大概においては現行の社会と釣り合わないのよね。そうと気付いて放置するのも、それはそれでやっぱり違うでしょ?

 美紀の場合は影が薄いだけだから、美紀本人としてはともかく、社会的にはまだマシなのよ。実際、暗殺衝動に振り回されて辻斬り繰り返すよりはよっぽどマシでしょ?」

「そんな質問をされたら、『はい』としか答えられませんよ。……実際にいたんですか?」

「いたと言うよりは、可能性が高いって感じだけどね。『切り裂きジャック』、名前だけなら知ってるでしょ? 私たちの間では『アレもN.I.N.J.Aだったんじゃないか?』って考えられてるのよ。

 N.I.N.J.Aは『ジャパニーズ・アサシン』を謳っているとはいえ、源流が忍者だからそう名乗っているだけで、件の神経を持ってる奴が外人にいないとは言い切れない。である以上、可能性だけなら捨てきれないってわけ」

 

 肩をすくめてフォルテが言った。

 引き合いの対象が些かおかしい気もするが、そう言われると否定はできない。一抹の筋は通るのだ。

 

「……私は影が薄いだけで済んで良かったと思うことにします」

 

 それを受け、遠い目をしながら美紀が言った。

 実際、N.I.N.J.Aであれ忍者であれ、その実像はあやふやだ。どこからどこまで出来るのかなど分かったものではない。

 そして、N.I.N.J.Aの能力の源泉が、特殊な神経細胞を覚醒させることで齎されていることは、他ならぬN.I.N.J.Aであるフォルテが証言している。

 その上で、古今東西特殊な力というものは、暴走と無縁ではいられない。

 これは主にフィクションの設定だが、あながち『作り物』とバカに出来たものではない。

 料理の際、包丁で指を切る、火加減を間違える、コンロの火を着けっぱなしにして忘れてしまい、火事一歩手前になる。などといった具合に、慣れぬ事柄には失敗が付き物だ。

 その()()の差。周りにかける迷惑の度合いが大きいものを指して『暴走』と評するのは、そこまで不思議なことではない。

 切り裂きジャック=N.I.N.J.A説を採用するのであれば、この現代社会において、美紀が同様の真似をしていた可能性だってあるのだ。そりゃあ遠い目にだってなるだろう。

 

「あはは……。――ところでさ!」

 

 空笑いをしたフォルテは、話題を変えるかのように大声を出した。

 

「突然のテスト範囲の変更、二人はどう思う?」

 

 そして提示されたのは、テスト範囲の変更についてだった。

 

「確かにおかしな話ですよね。いえ、これが『範囲の増加』や、逆に『範囲の減少』であれば、まだ理解も納得もできるんですよ。それであれば、これまでに自主学習してきた分も無駄にはならないわけですから。

 ですけど、実際には完全な()()()()()です。これも、発表直後の変更であれば、まだ理解も納得もできますが、現実には中間テストまであと一週間ほどです。これでは、中間テストを周知されてから自主学習してきた分が全くの無駄です。――いえ、長い目で見れば無駄ではないのでしょうが……」

 

 首を傾げながら美紀が言う。増加も減少も、変更であることに違いはない。

 

「まあ、短期的に見れば無駄骨だよね。うちのクラスはともかく、小テストで信じられないほどの低得点を乱立させたDクラスには悪夢だ。

 ただ、この変更が予定通りであれば別の見方も出来る。既に隆二の方からDクラスには伝えてあるみたいだからアレだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()という目的があるのなら筋は通る。

 おそらく、学校側にとっては()()()()使()()()()()()()()のが、最初の中間テストの既定路線なんだと思うよ?」

 

 たとえ国内有数の名門校にして進学校だろうと、赤点と退学が結び付いている以上、今回の範囲変更は度を越している。――しかし、そこに明確な目的があり、それに気付くことを既定路線としているのなら、話はまた変わる。

 

「ああ、なるほど。中にはお店や自販機なんかの、()()()()()()買い物でしかポイントを使っていない人もいるでしょうしね。そういう人に、()()()()()()()()()使()()()と気付かせ、()()()()()()()を織り込んでいるわけですか……。

 確かに、そう言われれば理解も納得もできました」

 

 アズの意見を聞いた美紀は頷いた。

 ポイントと学校生活は切っても切り離せない。であるなら、ポイントの使い道の多様性を早期に知らしめることも、学校側としては譲れぬ事柄の筈だ。

 同時、それは重大事項であるが故に、学校側から起こすアクションとしては生徒に差を作るわけにはいかない。だからこその、このタイミング。……そう考えれば、筋は通るのだ。

 大々的に周知したわけではないが、気付く要素は満載。これで気付けないなら実力者ではなく、気付いても対応できないのであればまた然り。とはいえ、気付いた上で対応しないのであれば、それもまた生徒の自由。……そういうスタンスなのだろう。 

 

「何事も、捉え方次第、考え方次第、そういうことなんですね……。正直、私には荷が重いです」

 

 美紀が溜息を吐く。

 

「ねーっ! もうちょっと単純明快にしてほしいよね! 『それだと社会が回らない』って言われたらそれまでだけど、何でもかんでも複雑にして息苦しくなってるのも現代社会の特徴でしょうに……」

 

 フォルテの言にも、一定の理はあった。自由を守るためにルールを増やし、それで息苦しくなっているのも現代社会の特徴だ。

 利己の目的のために抜け道を探すのが人間でもある。それに制限をかけることで脱落者は確かに出たが、その分だけ抜け道が複雑化し、それを潜り抜けた者が生き残っているのも事実だ。新たに適応する者が現れているのも。

 正直、『本末転倒』とまでは言いきれないが、()()()()()()になっているのは否めない。

 

「それだけ、高レベルのゼネラリストとスペシャリストが必要って考え方なんでしょ。そして、そんな人材を育成するためには、生半可な教育では不可能。そのための『高度育成高等学校』。……筋は通ってるよ」

 

 言ってるアズ自身、そこまで強く思っているわけではない。愛国心が高いわけでもないからだ。

 美味い餌で生徒を広く誘い込むくらいであれば、最初から上流階級の子息を対象にして幼い頃から洗脳教育でもやってほしい。

 その憂き目に遭ったのが綾小路なのだろうと思いつつ、アズはそう思ってしまう。半ば八つ当たりだ。アズ自身が孤児を理由に同様の目に遭ったから、そう思わずにはいられないのだ。

 

「そうだよ。上流階級の子を使えばよかったじゃないか。どうして孤児を……? 実験材料……? 転覆させられるかもしれないのに……?」

 

 瞬間、アズは新たな疑問に行き着いた。行き着いてしまった。雲泥の差ではあるが、この学校のやり口が、どこか孤児院を思い起こさせるからだろう。

 

「けど、そもそもの人選に理由があったとするなら……?」

 

 実際、自分も兄も御大層なコードネームを与えられている。それを与えるに足る人材のみが、あの孤児院に集められていたとするならどうだろうか? ――一度思い浮かんでしまえば、アズは中々嫌な考えを振り払えなかった。  




アズの出典元である『スパロボ30』同様、現在のアズは自分が育てられた孤児院=『A機関』について知っていることは少ないです。
まあ、『A機関』も『よう実』に合わせて変化させているため、原作まんまの設定ではありませんが……。

本作における美紀のN.I.N.J.Aスキル設定(仮)です。
N.I.N.J.A(歪):命中率と回避率とクリティカル率にプラス補正。気力の上昇に伴い、本人の命中と回避の能力値にプラス補正がかかる。また、毎ターン『隠れ身』がかかる。ただし、一部のスキル所持者に対しては『隠れ身』は無効となる。
エースボーナス:『N.I.N.J.A(歪)』が、『真・N.I.N.J.A(歪)』になり、各種補正効果が上昇し、クリティカルで与えるダメージが1.5倍となる。更に、毎ターン『閃き』と『集中』がかかり、自分から一定範囲内の敵に『分析』がかかるようになる。

より『忍者』らしさを強めた効果ですね。盛りすぎかもしれませんが、日本が誇る『忍者』ならこのくらい有りでしょう。
反撃は一切期待できませんが、自ターンで連続行動すれば鬼のような効果を発揮します。
何せ、『隠れ身』によって大抵の相手の行動は常に『反撃不能』になりますから。

目下の悩みは八神拓也をどうするかですね。
そもそもがノープロットであるため実際にそこまで続くかは分かりませんが、スパロボプレイヤーなら承知の通り、フォルテの本名が八神ヤチヨなんですよ。まあ、フォルテ自身は八神家の養子ですが。
そこら辺で絡みを持たせるのも面白そうかなと思っていたりいなかったり……。
関係性次第では、それとなくフォルテから拓也の存在を匂わせる描写がある方が自然ですし。
『関係性はあるものの、フォルテ自身は拓也のことを全く知らなかった』という展開は、フォルテがN.I.N.J.Aである時点で難しいんですよね。
そのため、拓也自身は本編には全く登場していないにも拘らず、頭を悩ませることになっています。

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