ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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六月
第39話


 一体私たちは何を見せられているのか? ――アズ・セインクラウスはそう思ったし、星之宮クラスの生徒の大半もそれは同じだった。

 中間テストが終わり、結果が発表され、それぞれの成績は良かれ悪しかれだが、結果としてクラス内に赤点を取った者はおらず、ホッと一息。

 そんな朝のホームルームの最中、教室の扉が開かれ、禿頭の人物――真嶋クラスの葛城康平と名乗った――が姿を見せたと思ったら、頭を下げて『ポイントを貸してほしい』と頼み込む。

 理由を聞けば頷ける話で、どうも赤点を取ったクラスメイトが現れたらしい。そしてその当人――戸塚弥彦という人物は、葛城の派閥で副官的ポジションでもあるそうだ。

 まあそういうことであれば、派閥の長としてどうにかしようと動くのは理解できるし、好感も抱ける。

 曰く、『戸塚は若干選民思想の気が強いのが玉に瑕』とのことだが、それはそれだ。赤点を取った当人に対する好悪と、葛城に対する好悪は別である。

 まあ、戸塚という生徒は、選民思想の気が強いからこそ初回評価で覆されたことに強いショックを受け、だからこそ再び覆すために勉強に励んでいたらしい。それはそれで結構なことだ。

 だが、結果としてそれが尾を引いてしまったらしい。焦燥が足を引っ張って習熟が遅れ、それを取り戻そうとして無理を重ねる悪循環。

 何度か葛城が諫めたらしいが――

 

「大丈夫です葛城さん! 次回の評価では、再度Aクラスに返り咲いてみせますよ!」

 

 と言って、聞く耳を持たない。

 結局、肝心の本番で力を発揮できずに赤点を取ってしまった。……とまあ、そういうことらしい。

 どうにかしたくとも、退学の阻止にはクラス移籍と同様に二千万ポイントが必要で、オマケにCPも300のマイナスを受けるとのこと。

 それを聞いて他の面々は戸塚を切り捨てる方向に舵を取ったらしいが、葛城としてはそう簡単に諦められない。最悪、戸塚を諦めざるを得ないことは覚悟しているが、それは足掻くだけ足掻いたあとで十分だと。

 そのために、取り敢えずはポイントの融資を取り付けるだけでも、と星之宮クラスにやって来たらしい。

 元より道義心の強い生徒が揃っている星之宮クラスである。そう聞いたなら、協力方針を示す生徒の方が多かった。幸いと言うべきか、それぞれの手持ちにはまだ余裕があったのも一因だろう。

 合理的な生徒も、貸し出すことには乗り気だった。何せ、葛城といえば真嶋クラスで派閥争いを繰り広げている片翼のトップだ。そんな人物に貸しを作れるとあれば、クラスとしても益はある。

 そうして、半ば融資が確定したところに新たに現れたのが、もう片翼のトップである坂柳有栖という女生徒であり、担任の真嶋だった。

 そこからは、葛城と有栖の間で喧喧囂囂のやり取りが繰り広げられているというわけだ。

 

「いや、すまんな。星之宮。迷惑を掛ける」

「別にいいけどね~。言っちゃあなんだけど、初の退学者が出た時の風物詩でもあるし」

 

 謝罪する真嶋に、知恵は肩をすくめて答えた。

 嫌な風物詩もあったものである。

 ともあれ。

 そんなわけで、仮にもクラスを纏める代表者たちが、余所のクラスで言い争いをしているのである。会場となった星之宮クラスの生徒たちが呆気に取られるのも無理はないと言えるだろう。

 議論を重ねる様は見所があるし、その内容が有意義であることは否定しないが、それはそれ。延々と続けば、『関係ないことに私たちを巻き込むな!』という思いだって湧いてくる。

 

「ああもう、うっせえええぇぇっ!」

 

 そして、真っ先に我慢の限界を迎えたのはユキだった。力の限りに叫び出す。

 

「いいか! 私たちは葛城にポイントを貸しだすことで方針が纏まってたんだよ! だってのに、後からやってきた奴が口を挿んでピーチクパーチクと! 喧しいわ!」

 

 ビシィ! と有栖を指差してユキが吠えた。

 

「退学取り消しによるCPのマイナスなんて、こっちには関係がないことなんだよ! 焦点が違う話し合いをしたいなら、自分たちのクラスでやれや! 私たちを巻き込むな!」

 

 そのまま続けた。

 パチパチパチパチ……。クラス内から小さな拍手が上がる。同じことを思っていた生徒が、それだけいたということなのだろう。

 

「まあ、ユキの言うことも尤もですが、これで話し合いに決着が付かず、葛城くんに貸しを作れないとなれば私たちにとっては損しかありません」

 

 その瞬間を見計らい、アズは口を挿んだ。

 それもまた事実である。

 

「ですので、落としどころを探しましょう。ポイントで片が付き、CPには影響を与えない。そんな落としどころをね」

 

 そして、アズがそう続けた瞬間、僅かに有栖の表情が歪んだ。それを、一部の生徒は見逃さなかった。

 

「セインクラウスだったか? そんな方法があるのか?」

「理論上はありますよ。だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですから。

 ですので、単刀直入に真嶋先生に訊きますが、テストの点数、一点当たりをいくらで売りますか? そして戸塚くんとやらの赤点阻止にはいくらポイントが必要ですか? ついでに、ポイントによる点数購入での平均点の変動はありますか?」

 

 質問を投げかける葛城に答えたアズは、彼らの担任である真嶋に質問を投げた。

 

「ほう? よもや、テストの点数を買うときたか……。

 いやはや、やはり今回のお前の生徒は優秀だな、星之宮。正直に言えば羨ましいよ。『逃がした魚は大きい』と言うが、まさしくそんな心情だ。

 神崎隆二、一之瀬帆波、櫛田桔梗、アズ・セインクラウス。以上の四名は、初期Aクラスの候補に挙がっていたと聞く。だが、最終的にはBクラスへの配置となった。それを知るからこそ尚更に惜しいと思ってしまう。――愚痴だな。

 質問に答えよう。まず、ポイントで点数を購入することによる平均点の変動はない。正直、それをやったら()()()()()()になりかねない可能性があるのでな。

 次に、一点当たりの販売価格は十万ポイントだ。合計額だが……3、3、4、2、1で百三十万だな」

 

 おそらくは戸塚の答案用紙だろう。それを確認した真嶋が合計額を告げた。

 

「……だ、そうですよ。二千万よりは遥かに軽く、この方法ならCPの変動もない。落としどころとしては十分だと思いますが?」

 

 葛城と有栖を見ながら、アズは言った。

 

「それと、坂柳さんでしたか? たぶん、あなたもこの方法には気付いていましたよね? にも拘らず、クラスの仲間にそれを伝えることもせず、敢えて切り捨てようとした。

 個人的にそのスタンスは嫌いです。他人を『駒』や『道具』として見なきゃいけないことがあるのは事実ですが、それはあくまでも状況的なものです。リストラだってまた然りです。

 そんな方針では、遅かれ早かれ周囲からの信望を失いますよ。そして、信望を失ったトップにトップたる資格はありません。

 ですので、改善をお勧めします。コンプレックスの裏返しにしては、些か以上に度が過ぎるというものです」

 

 それは、アズなりの真摯な忠告だった。

 有栖は歩行の際に杖を突いている。つまりは学校側から正式に許可を得ているということであり、そんな特例処置が下される以上、身体のどこかに異常があるのだろう。

 同時、元は有栖と同じクラスである美紀の言によると、有栖もまた小テストで満点を取るほどに学力が優れているらしい。

 人間、自分に自信を持てば持つほどに、心のどこかで他人を見下してしまうものだ。分かりやすい形を取っているかいないか、見下している自覚があるかないか、違いがあるとすればその程度のもの。

 明晰な頭脳を持ち、それは正しく高い評価を受けているのに、その一方で身体は儘ならない。果たして、それはどれほどの屈辱だろうか。

 普通に考えて、コンプレックスの一つも生まれるだろう。

 同時、自分が他人を見下しているから、他人の優しさや善意も歪曲して受け取ってしまう。()()()()()()()と感じてしまう。――そのように捉えられる面があるのは事実だが、敢えてそのように捉える必要もないのだ。

 有栖自身に余裕があるなら、敢えて戸塚を切り捨てる必要などないのだ。戸塚も言っていたように、敗北を勝利で覆してしまえばいいのだから。

 だが、現実にはそうしなかった。しようともしなかった。

 逆説、その行動自体が、有栖に余裕がない証拠であり、根強いコンプレックスを抱えている証左と言えた。

 有栖は自分の頭脳に自信を持つ一方で、自分の身体能力に自信がない。だから、偏重的なまでに自分の周囲を『敵』と『味方』に分けようとするのだ。

 少なくとも、そう考えれば有栖の行動にも筋は通る。

 

「余計なお世話ですよ。――まあ、葛城くんが個人的に借りを作るだけなら、私としては何の文句もありません。

 お騒がせしました。私はこれにて失礼させていただきます」

 

 ペコリと一礼して、有栖は教室を出ていった。カツン、カツン……。床に杖を突く音が遠ざかっていく。

 

「え~と、誰か葛城くんの連絡先を知ってる人はいる?」

「は~い! 私が知ってるよ~」

 

 帆波の質問に、桔梗が手を挙げて答えた。葛城と真嶋がいるからだろう。見事に猫をかぶっている。

 

「じゃ、ポイントを送るね! 百三十万でしたっけ?」

「ああ、それで間違いない」

 

 桔梗の質問に、真嶋は頷いて答えた。

 

「待て。シッカリと契約を結び、書面に残すべきだと思うが?」

「う~ん。葛城くんの言うことは尤もだと思うし、『貸しを作る』っていう目的があるのも否定はしないけど、それでも、根底にあるのは善意だと私は思いたいんだ。そして、私は善意にカタチを作りたくはない」

「だが、それは個人的な意見だろう? クラスの総意としてはどうなのだ?」

「こちらは一之瀬の言う通りで構わん。時には契約で縛るのも大事だし必要だ。――だが、時には書面で残さない方が効果的な場合もある。

 ただの『口約束』と思うな、葛城。俺たちは書面に残さずしてお前にポイントを譲歩することで、常にお前の『良心』に訴えかけることになる。

 だからこそ、お前が借りを蔑ろにするようであれば信を置くには値しないし、容易に見限ることもできる。

 逆に言えば、だからこそお前が借りを重く捉えるようであれば、信を置く相手として十分な根拠となる。

 提案した一之瀬自身は、()()()()()()()()()()と気付いていなかったみたいだからな。俺の方で代弁させてもらった」

 

 神崎の言葉が、重く葛城に圧し掛かる。

 

「厳しいな。単純なポイント同士のやり取りでは済まさないということか……。

 しかし、尤もではある。世の中、ビジネスライクな付き合いだけではどうにもならないことだってあるだろう。――いや、逆か。ビジネスライクな付き合いが横行しているからこそ、敢えて()()()()()()をお前たちは重視するということか。

 この貸しを利用してお前たちが無理難題を言うようであれば、俺はそれを以て返済に充てることも出来るということなのだから……。

 分かった。その条件でポイントを借り受けたい」

 

 それでも、葛城はその提案を受け入れた。

 

「交渉成立だね。――皆は一人当たり二万九千ポイントを桔梗ちゃんに送って。それで百二十七万六千ポイントになる。で、ゴメンだけど不足分は首脳陣が負担するってことでお願い」

 

 最初は葛城へ、次にクラスメイトに向けて帆波が言った。

 その言葉に、誰もが反発することなく従った。思うところがある生徒も、ここで反発したところで意味はないと理解している。むしろ、そんな真似をしてしまえば、逆に弱みを晒すだけだからだ。一致団結こそが星之宮クラスの強みなのだから。

 そうして桔梗に集められたポイントは、そこから葛城へと渡った。

 

「感謝する。……俺はこの場で誓おう。学校側が定めた正式な闘争の場はさて置き、それ以外の場面では可能な限りお前たちの力になると」

 

 そう言って、葛城は星之宮クラスの面々へと丁寧に頭を下げた。

 

「忘れるな、葛城。俺たちはクラスという垣根こそあるかもしれないが、それ以前に同じ学校の学友なんだ。切磋琢磨するべき部分と、助け合うべき部分を見失ってはならない。

 学校側が月一でクラス評価を定め、俺たち生徒に『クラス闘争』を強いてくるからこそ、尚更にそれを大切にするべきだと思う」

「その言葉、肝に銘じよう。――では、先生」

 

 神崎に答えた葛城は真嶋へと向き直り、端末を操作する。

 

「うむ。確かにポイントを受け取った。これにて戸塚の点数は上乗せされ、退学は取り消しとなる。――葛城。この学校の教師である俺が言うべきことではないかもしれないが、今のやり取りを忘れるな」

「はい」

「うむ。――星之宮、そしてクラスの諸君、騒がせてしまいすまなかったな。俺と葛城はこれで失礼させてもらう」

 

 真嶋は軽く頭を下げ、葛城は深く頭を下げ、自分たちの教室へと戻っていく。

 星之宮クラスの一同は、それを静かに見送ったのだった。




中間の具体的な結果発表がいつなのかは原作でも明確にはされていませんが、本作では『六月になってから』と設定しています。
原作だと五月一日時点で茶柱が『中間テストまであと三週間』と言ってますので、それを思えば結果発表まで時間がかかりすぎな気もしますが、でないと中間突破のボーナスが七月に反映される意味が分かりませんので。

まあ原作からして、四時間目の数学テストが終わり、五時間目の英語テストまで『休み時間の10分弱のみ』と書かれている辺り、ところどころ妙な部分があるのも事実なんですが。
普通に『昼休みはどこにいった?』という疑問が浮かびます。
須藤の赤点→退学→綾小路による救済部分の描写に力を入れたための見逃しなんでしょうけど、致命的と言えば致命的なミスです。中間テストだからって昼休みがなくなる道理はないでしょう。
別の場面――具体的には『再集結・赤点組』の1――で『昼休みは45分あること』がシッカリと描写されているわけですから、考えようによっては原作展開はこの時点で破綻しています。
何せ、極端に休み時間を削減された状況で須藤は赤点まで一点差なわけですから、本来の45分があれば回避は可能でしょう。
自分はkindleでも購入しているわけですが、未だにこの部分が修正されないんですよね。

そんなこともあり、本作では中間で赤点を取ったのは真嶋クラスの戸塚にしました。
これも原作と変化した展開を迎えたが故ですね。
作中でも描写した通り、星之宮クラスにクラス逆転をされたことにより、戸塚の余裕が原作以上に失われていてもおかしくはありません。である以上、赤点を取る余地は十分にあります。
戸塚自身が自力で過去問に気付くとは思えませんし、自分に自信のある葛城が、敢えて過去問を利用するとも思えませんので。……原作の描写だと葛城が過去問に気付くかも怪しいのは事実なんですが、『最近まで受験生だった』という点を考慮すると、気付く土壌はあります。
結果、作中で描写した流れになりました。

なお山内ですが、早期に神崎による示唆を受けた平田が、これまた早期に過去問を手に入れてクラス内に配ったため、原作以上に過去問の記憶に力を入れる運びとなりました。
また、テスト範囲の違いには気付いてもいません。過去問を受け取った他のクラスメイトが首を傾げる中でも、ひたすらに『過去問の記憶』に注力しました。
結果、中間での赤点は回避しております。
須藤は桔梗やアズに(本編)、池は綾小路に勉強を見てもらっているため(R-18板参照)、素の学力が原作以上に向上しており、やはり赤点を回避しております。
池同様、R-18板の流れで恵、麻耶、千秋の実力も向上しています。元々のスペックもあり、千秋の向上は他三人に比べ微々たる程度ですが。

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