ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第40話

 どうやら、中間テストの結果発表は一つの契機になったらしい。今朝は今朝で騒がしかったが、もう一悶着ありそうである。

 放課後のホームルーム。疲れ切った様子で担任の知恵が溜息を吐きつつ語れば、そうとしか思えない。

 

「佐倉さん。今日、これから時間をもらってもいいかしら? 例のストーカー問題のことで、被害者である佐倉さんの意見を聞きたいところがあって……。

 と言うのも、このままだと上手い落としどころが見当たらないのよ。いえ、犯人については確定したし、処分も確定しているのだけどね。問題なのはそれ以外。

 何せストーカー問題が発覚したのも当校の歴史上初めてのことだし、思いもよらぬところで色々と関わっていて、それもあって私たちの判断だけじゃ如何ともしがたいのよね……」

 

 そう前置きした知恵は、今時点で判明している部分を説明する。

 犯人は愛里の推測通り、モール内にある家電量販店のスタッフだった。元々雫のファンだった犯人は、一目で愛里=雫と分かったらしい。デジカメを購入したことから近日中にオフィシャルサイトが更新されると踏んだ犯人は、サイトに粘着。予想通りに写真が投稿された事実を以て確信を抱いた。

 高度育成高等学校の敷地内では、現金ではなく独自のポイント決済システムを用いていることもあり、決済した時点である程度の情報が店側にも筒抜けになる。それを利用して、犯人は『サクラアイリ』というカタカナ振り仮名での本名を入手。

 同時、ここの敷地内で生活している以上は、高度育成高等学校の関係者か、各種施設の従業員しか選択肢があり得ない。そして、生徒は『許可なき外部連絡』が禁止されている。

 である以上、手紙を出すにも細かい住所などは必要ない。施設名と相手の名前さえ書いてしまえば、あとは郵便局の方で仕分けて届けてくれる。そう、『高度育成高等学校生 サクラアイリ様』だけで、十分に手紙は届くのだ。

 舞い上がった犯人は、そのファン心理を拗らせてストーカーへと変貌。毎日の如くサイトを確認し、毎日の如く愛里へと手紙を出した。

 当然、愛里にしてみれば堪ったものではなく、余計に周囲へと壁を作ることになった。

 とはいえ、連日のように同一人物へ手紙が届けば、寮に届いた手紙類を仕分けして各自へ届ける管理人だって疑問に思う。そして、管理人は学校へと一報を入れて対応について確認した。

 結果から言えば、そのタイミングが悪かったとしか言いようがない。当時のBクラスが授業中に騒いでいた生徒を訴え、その罰則について教師たちが連日会議を開いている最中だったのだ。それもあり、教師には対応する余裕がなかった。

 そしてどうなったかと言えば、生徒会が対応した。生徒会は学校の生徒によって結成されてこそいるが、対象が『生徒の問題』であれば対応可能な権限を持つ。学生寮から持ち上がった問題ならば、内容次第では十分に生徒会で対応可能な案件だ。

 対応した生徒会副会長南雲雅は、もう暫く様子を見ることを、現状維持を指示した。無難と言えば無難な一手である。そしてその旨を、当時の愛里の担任である茶柱教師へと報告した。

 本来なら、そこから学年主任である真嶋へと報告がいく筈だったのだが、連日の会議で後回しにした結果、茶柱は真嶋への報告を忘れてしまったのだ。

 その後、Bクラスからの訴えに対する罰則の目途が付き、その煽りを受けて愛里はDクラスからBクラスへと移籍になった。当然、新たに愛里の担任となる知恵には、手紙の件が伝えられて然るべきだ。

 しかし、南雲が対応したことで、件の管理人からの報告は処理済みのファイルに移されており、唯一口頭で報告を受けた茶柱は忙しさから真嶋への報告を忘れてしまった。当人にも何かを忘れている感覚はあったそうだが、元が忙しい中で口頭報告を受けただけの内容だ。強く印象に残ることもなかった。

 そうなると、知恵に伝わる筈もない。そうして日々が過ぎていき、Aクラスへと昇格した面々が催した移籍組の歓迎会で、初めて事態が発覚した。

 大まかにはこういう流れであるらしい。

 

「本当にもうね。『誰が悪いか?』ってなったら、『関わった全員が悪い』としか言いようがないのよ。

 郵便局だって、んな怪しい手紙を毎日届けるな。むしろ、こっちにも一報入れろって話だし。

 管理人も、対応したのが権限を持つとはいえ生徒な時点で、再度確認を入れろって話だし。

 南雲くんも、代わりに対応してくれたのは嬉しいけど、こっちが忙しいのは分かってるんだから、もうちょっとアフタフォローを利かせろって話だし。

 佐枝ちゃんも、ちゃんとメモ取っておいて、忘れずに報告しろって話だし。

 まあ、すぐに報告してくれなかった佐倉さんにも思うところがないわけじゃないけど、状況を鑑みると難しいのも分かるしね……。入学早々にストーカーからの手紙が届いちゃえば、そりゃあそう簡単に周りを信じられるわけもないし……」

 

 そう言って再度溜息を吐いた知恵は、教卓にグッタリと項垂れた。

 

「これってさ、うちのクラスが訴えを起こしたことで発覚と対応が遅れたって見方も出来るけど、佐倉さんがうちのクラスに移ったことで、その分だけ発覚が早まったって見方も出来るのよね……。

 歴史上、個人的なクラス移籍をした生徒はいないわけじゃないけど、歓迎会が開かれたなんて話は聞かないしね。移籍を果たした生徒に歓迎会を開いたクラスなんて、うちくらいなものなのよ。で、実際に、佐倉さんはその歓迎会を機としてストーカー問題に悩まされていることを公表した。

 それもあって、判断がまた難しくなっててね……。こうなったら、佐倉さんの意見を確認して、それも判断材料に加えようってなったわけ」

 

 クラス一同は揃って頷いた。話を聞く分には筋が通っているように感じる。

 周辺施設を含め、根幹に特殊なシステムが関わっているからこそ、事態を面倒で厄介にしているのだろう。

 

「お話は分かりましたけど、私だけ、ですか? 正直、ある程度慣れたクラスの皆にならともかく、そうでない人相手だと上手く話せる自信がないんですけど……」

「やっぱそうなっちゃう? でも、その点は心配しないで。流石にクラス全員は無理だけど、二人までなら同行者が許可されるから。

 で、当然だけど佐倉さんに選んでもらう形になるわ。ただ、相手の都合もあるから、望み通りに行くとは限らないけどね」

 

 ニッコリ笑顔で知恵は言うが、それは同時に愛里に同行者の選択を迫ることでもあった。やはり、事ある毎にこの学校は何らかの選択を迫ってくる。

 

「じゃあ、綾小路くんと櫛田さんでお願いします」

 

 愛里は悩むことなく、その二名を挙げた。

 

「だそうだけど、二人は構わないかな?」

「大丈夫です」

「構いません」

 

 知恵の問いに、綾小路と桔梗は肯定で答えた。

 

「ゴメンね、ユキちゃん。一緒にいて一番頷けるのはユキちゃんなんだけど、交渉事に強そうなのはこの二人かなって……」

「いちいち謝んなくていいって。私を選ばれてたら逆に困ってたところだ」

 

 申し訳なさそうに理由を語る愛里に、ユキは片手を振りながら答えた。この程度で友情に罅は入らないらしい。

 そうして、知恵に率いられて三人は教室を出ていった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 翌日。

 全校生徒に向けて、急遽体育館にて臨時集会が開かれた。

 そこで語られたのは、敷地内でストーカー犯罪が発生した事実であった。

 誰が対象かまでは語られなかったが、一年生に被害者がいることまでは語られたし、発覚までの流れから発覚後の対処まで、可能な限り具に語られた。

 愛里の許可を得た上で、実際にストーカーから送られた手紙の幾つかも公開された。

 それは再発を防ぐためであり、そのためには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()との理由だった。

 

「我々は諸君ら生徒にある種の理不尽を強いていますが、それはあくまでも当校の管理下に置かれた理不尽です。当校が求める人材の将来を見据えた上での必要経費。言い換えるなら『必要悪』と言っても過言ではないでしょう。

 残念なことに世の中は綺麗事だけでは回りません。だからこそ、当校は敢えて『グレースタイル』を許容していますし、起こりやすい土壌も用意しています。その一方で、それが発覚した場合には断固たる態度を取っています」

 

 壇上に立った坂柳理事長はそこで一旦言葉を切り、体育館に集まった生徒と教師陣を見渡した。

 そして、続ける。

 

「ですが、今回のストーカー犯罪は当校の管理下に置かれたものではありません。然るに、我々は被害を受けた生徒に対し、慰謝料として幾ばくかのポイントを渡し、プロテクトポイントを付与することを決定いたしました。

 一年生の方々には聞き覚えがないでしょうから説明いたしますと、プロテクトポイントとは『一度だけ退学を無効に出来る権利』のことです。ただし、この権利は所持者本人にしか使うことは出来ず、譲渡も出来ません。

 既にお伝えした通り、発覚から対処までは様々な人員が関わっていますが、彼らに対して一切のお咎めなしというわけには参りません。その一方で、情状酌量の余地があるのも事実です。

 そのため、被害に遭った生徒の意見も参考にした上で、特に問題の大きかったと思われる行動を取った人物二名に対し、罰則を設けることにいたしました。

 一人目は、被害者の担任であった茶柱先生です。該当生徒は現時点で所属クラスを移籍しており、それもあって判断に悩みましたが、移籍後の担任よりは移籍前の担任の方が責任が重いだろうと判断いたしました。

 当校はその方針故に、生徒への接し方はそれぞれの担任にお任せしています。ですので、本来なら茶柱先生を責める謂れはないのですが、流石に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのは問題視せざるを得ません。

 そのため、茶柱先生については保有ポイントの一部を没収して被害者に譲渡すると同時、二週間の謹慎処分とし、その間に生徒への接し方について改めて考えてもらい、謹慎後はもう少し生徒に対して親身に接することを以て罰則にさせていただきます。

 二人目は、生徒会役員である南雲雅副会長です。

 当時対応すべきだった教師陣の手が塞がっており、それを見かねて代わりに対応しただろうことは分かっています。ですが、如何に善意からの行動とはいえ、それが自発的な行動であり、そこに不手際があった以上は、こちらとしても問題視せざるを得ません。

 確かに、生徒会役員は生徒の問題に対して対応可能な権限を持っています。そして南雲くんの行動は、一見すれば何の問題もないように思えます。寮の管理人からの確認に対し『現状維持』という極めて無難な対応をし、用紙の方もキチンと記入し、担任である茶柱先生への口頭報告も済ませています。あとは報告を受けた教師が対応すればいい流れです。

 ですが、肝心要の被害者に確認を取っていない以上、そこに真摯さを見出すことは出来ません。出来ないのです。

 被害者に確認を取り、被害者が『問題なし』と返答した上での行動であれば、南雲くんに問題はありませんでした。しかし、一番重要な過程を省いている以上、南雲くんの行いは『問題あり』と判断せざるを得ないのです。

 罰則として、南雲くん本人は二週間の停学とした上で、保有ポイントの一部を没収して被害者へと移譲します。同時、南雲くんの所属クラスは100CPのマイナスとします。

 また、生徒会長である堀北くんには、同副会長である南雲くんの教育不足を理由とし、所属クラスのCPを50マイナスいたします。

 堀北くん及び彼の所属クラスの生徒には申し訳なく思いますが、生徒会長は生徒の総代表であり、生徒会は代表グループなのです。その一員が問題を起こした以上、そして当校が『連帯責任制度』を取っている以上、南雲くん個人の問題は個人の問題では済まされません。可能な限り被害の拡大を防いだ結果としてご了承をお願いします。

 最後に、茶柱先生が謹慎中の一年Dクラスの担任についてですが、私が務めさせていただきます。また、それを以て当校の理事長たる私への罰則と致します」

 

 長々と語った理事長は、そこで言葉を終えて頭を下げた。

 全員が納得できるわけではないだろうが、処罰としては妥当なところだろう。『トップである理事長の罰則が軽い』という見方もあるが、発覚時点で当の理事長にまで報告が届いていなかったのだ。これで『トップだから』という理由で理事長への罰則を一番重くしてしまえば、逆に下が育たないし反省しない。流石にそれは上手くない。

 会場内の一同も、応える形で頭を下げた。

 これにて臨時の全校集会は幕を閉じ、一クラスずつ順番に体育館を後にする。

 

「桔梗、昨日、佐倉についていったよね。もしかして狙った?」

 

 自分たちの順番が訪れるまでの時間を利用し、アズは気になったことを桔梗に訊ねた。

 

「モチ。いやぁ~、南雲を叩きやすい理由があって助かったわ。ぶっちゃけた話、本来なら生徒より教師の方が責任を取るべきだからね」

「でも、何だってあんな分かりやすい隙を作ったんだろうね? 他の部分のそつのなさを思えば、不思議でならないんだけど……」

「私が調べた限り、南雲先輩って能力は確かだけど、同時に自信家なの。人気者ではあるけど、同時に嫌われ者でもある。高い能力とカリスマ性による崇拝は得ているけど、人間性に対する信望はないに等しい。彼に反抗的な生徒の大半が退学になっていることからもそれは明らか。

 自信家にありがちではあるけど、周りの人間を道具と見ている面があり、欲しいと思ったモノはマッチポンプに等しい方法を取ってでも手に入れようとするみたいだからね。佐倉もその食指に引っ掛かったんじゃないの? 何せグラドルの雫だからおかしくないわ。

 南雲の能力からして、あの時点で南雲が佐倉に接触すると、事態が解決しない方がおかしいのよ。けど、佐倉をグラドルの雫と知り、その上で欲しいと思った南雲にすれば、それは望む事態じゃない。だから、敢えて佐倉に接触することは避けた。時間を置き、今以上に佐倉を追い詰め、そうして佐倉が弱った頃合いを以て接触し、事態を解決し、自分に依存させることを目論んだ。……推測に過ぎないけど、そう考えれば辻褄は合うわ」

「当時の先生方は忙しかったみたいだし、途中で報告がストップするか、碌な対応が取られないと踏んだ可能性は大きいってわけだ」

 

 アズと桔梗は、体育館を後にする人並みの群れから器用に南雲の姿を見つけ、揃って嫌悪の視線を向けた。

 

「たかが二週間。――されど二週間。

 南雲が不在のこの期間を使って、可能な限り二年生を掌握する。……アズも手伝ってよね?」

「ハイハイ。仰せのままに」

 

 気炎を吐く桔梗に対し、アズは肩をすくめて答えるのであった。




ストーカー問題の解決はこんな感じになりました。
大抵の二次だと口止めを図る作品が多いんですが、だからこそ本作では敢えて公表する流れにしてみました。

賛否両論あるでしょうが、ペナと慰謝料は作中で語った通りです。
公表に踏み込んだ以上、誰かしらが非難の矢面に立たされることになりますし、高度育成高等学校が連帯責任制を敷いている以上、ある程度の拡大は已むを得ません。

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