ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第41話

「ひえっ!?」

 

 教室内に響き渡るかのような大声を上げて驚いたのは愛里だった。自然、周囲からの注目を浴びた。だが、愛里の目は端末から離れない。周囲を気にする余裕が一切ないのは明らかだった。

 

「どうした?」

 

 流石に訝しく思ったユキが回り込んで愛里の端末を覗き込む。

 直後――

 

「うおっ!?」

 

 ユキもまた驚愕の声を上げた。

 

「愛里に膨大なポイントが振り込まれてる。いや、茶柱先生からの没収分はそれほどでもないんだが、南雲先輩からの没収分が凄まじい。一千万を突破してやがる」

 

 声を震わせながら呟かれたユキの言葉は、クラス全体で即座に重く捉えられた。

 

「今日の放課後、緊急クラス会議を行います! これは流石に無視できません!

 額を鑑みるに、おそらくは私たちが星之宮先生にお願いしている『集金係』と同等の役割を南雲先輩が担っていたんだろうとは思いますが、だからこそヤバいです! ヘタすれば南雲先輩の所属クラスだけでなく、二年生全体から睨まれます! 対応を話し合わなければなりません!」

 

 直後、帆波がクラス内に向けて宣言した。

 実に妥当な推測であり判断だと言えるだろう。

 その後、帆波や桔梗を始めとした面子も愛里の端末を――正確には、直近の()()()()()()()()を確認した。確かに、『慰謝料:茶柱佐枝没収分』、『慰謝料:南雲雅没収分』としてポイントが振り込まれている。

 ユキは茶柱教師から移譲された分を『それほどでもない』と評したが、実際には大したものだった。単に、南雲からの移譲分が巨大に過ぎて、相対的に『それほどでもない』と思わされてしまったのだろう。

 

「理事長は『ポイントの一部を没収し、慰謝料として譲渡する』と言っていたな。こうなると、曖昧なのが逆に痛いな……」

「……だね。少なくとも、1/4は没収しないとダメージにもならないと思うけど、だからこそ、半分の可能性もあれば、3/4の可能性もあり得る。原因が『ストーカー被害』っていう、学校側の管理下にない問題だからね。どれだけ重く捉えてもおかしくはない。実際、プロテクトポイントとかいうのも付与されたみたいだし……」

「実際にいくらが没収されたのかは分からないけど、茶柱先生の方はまだ分かるんだよね。御大層なお題目のために政府が直々に創設した学校の教師だし、数年は務めているんだし。その点を考慮すれば、十分に理解も納得もできる範囲」

「でも、南雲先輩は生徒会役員とはいえ一生徒だ。いやまあ、実力次第では個人でこれだけ稼ぐことも可能なのかもしれないけどね。実際、私たちだって早々に三百六十万ってポイントを稼いだわけだし、可能性はないとは言えない。私たちはまだこの学校について知らないことの方が多いから尚更だ」

「理事長も言っていたが、生徒会役員は『生徒の代表』だ。ならば、役員になった時点でCPにプラス補正が付いていたとしても不思議はないだろうな。オレたちには詳しい査定なんか一切知らされないんだから、その可能性だって捨てきれない」

 

 あーだこーだ、それぞれの口から意見が出る。だが、所詮はどれも可能性止まりだった。確証なんかありはしないし、確信を持つにも至らない。

 そうこうしている内にチャイムが鳴り、各自はモヤモヤとした気分のままで席へと戻った。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 そして放課後。

 

「正味な話、取れる手段なんてそう多くはないと思うのよね」

 

 会議の出だしは、桔梗のそんな一言から始まった。

 

「確かに『個人で稼いだ』って可能性も捨てきれないけどね。現実的には()()()()()()()だと思うわけよ。それよりは、『他の生徒から毎月一定のポイントを回収していた』と考えた方がよっぽど現実味があるわ」

「確かにな。個人で稼ぐのは……可能性がないとは言わないが、実現するには時間の方が足りないだろう。曲がりなりにも数年間を教師として務めてきた茶柱先生以上に個人で稼ぐのは、どう考えても無理筋だ。株や何かで稼ぐのは無理だと明言されているしな」

 

 現実的に考えるなら、桔梗と神崎の言う通りだった。株などで稼げるのであればワンチャン可能性はあったが、それが不可能なことは知っている。

 

「愛里に配られたのは、あくまでも南雲先輩が持ってたポイントの一部に過ぎないわけだからな。それが一千万を突破しているわけだから、半分だとすれば二千万、1/4だとすれば四千万を元々南雲先輩は持ってたことになる。……流石に一年ちょっとの間に個人で稼ぐのはあり得ねえだろ」

 

 ユキの言葉に全員が同意した。

 

「つまり、南雲先輩は『集金係』を務めていたから膨大な手持ちがあったってことになるわけだけど、それはそれで問題が出てくるんだよね。

 例えば、毎月二万を回収していたとして、かける四十の十二ヶ月でも九百六十万にしかならない。毎月四万二千ほど集めれば二千万は突破するけど、これも現実的には難しい。それを実現するにはよっぽど良好なスタートを切らなきゃならないし、よっぽど良好な過程を通らなきゃならないからね」

 

 現在の一年生の中でも、特に協調性の強い生徒が集まっている星之宮クラスだって、月々の回収額は一人当たり二万ポイントだ。協調性が強いからこそ何やかやと付き合いはあるし、個人的な趣味嗜好品にだってポイントを使う。月の支給額が今以上にドカンと増えたならともかく、今の支給額では二万が限度だ。

 なお臨時収入は計算に入れない。対象は、あくまでもクラスの全員が均等に入手できるCPのみで考えるべきだ。

 

「だけど、南雲先輩は二年生の中でも並外れた実力者のようだし、オマケに生徒会役員だ。なら、影響力を強める意味でも、支配力を強める意味でも、回収対象をクラスではなく学年にまで広げていたとしてもおかしくはないし、それが実現できても不思議はない。

 もっとも、理由は様々だろうけどね。或いはその実力を崇拝して嬉々として納めるだろうし、或いは恐怖から納めるだろうし。

 まあ、理由なんて些末事だ。一度流れが出来てしまえば、それを変えるのは容易いことじゃない。結果、時間が経てば経つほどに、自然とその統制力は強まっていく。

 あとから南雲先輩に対して思うところが出てきたところで、その時にはどうしようもない。手の打ちようのない状況が完成している」

「それが、今までだった。つまり、今現在の状況は、私たちにとってピンチであると同時に最大級のチャンスでもある。

 目論見を崩された二年生の恨みが私たちに――正確には慰謝料を受け取ることになった佐倉に向かうのは否めない。

 だけどその一方で、失態を犯した南雲にだって怒りの矛先は向かうのが道理。単に、南雲の実力をよく知るからこそ、二年生は日和って矛先を南雲から逸らす。

 なら、私たちがすべきことは簡単。その上で、二年生の怒りの矛先が南雲に向かうように仕向ければいい」

 

 ニヤリと、勝ち気な笑みを浮かべて桔梗が言った。

 

「って、言うけどよ。実際に出来んのか?」

「姫野、私のコミュ力を舐めないでよね?

 まあ、私だけじゃあ難しいけど、手はある。そのためには、最低限アズと佐倉と綾小路と神崎の協力は必要ね。

 あと、私もとっとと生徒会に入らないといけない。てか、生徒会に入れないと詰む。根本的な説得力が足りなくなる。――いやまあ、最悪、生徒会に入るのは私以外でも構わないんだけど、それはそれで先々の舵取りが難しくなるだろうし……」

 

 ユキの問いに、やはり桔梗は自信ありげに答え、直後にその表情を歪めた。

 その理由は言葉を聞けば一目瞭然で、運に左右される部分もだいぶ大きいからだ。

 

「生徒会への入会が必要で、オレに神崎に佐倉にアズの協力が必要ということは……挨拶巡回でも行うつもりか?」

「ご明察。……そんなに分かりやすかった?」

「だいぶな。そもそも、条件が限られているんだから分からない方がおかしい。

 まず、理事長の発表により、一年生の中にストーカー被害者がいるのは全学年の知るところとなっている。歓迎会でのイベントも踏まえて考えれば、それと佐倉を結び付ける人物が現れるのもそう遅いことではないだろう」

 

 何せ、店内ポスターとして飾られるのだ。その中に、名前は違えどグラビアアイドルの雫の姿があったなら、大半の生徒はストーカー被害者=雫=佐倉愛理と考えるだろう。

 桔梗や帆波、綾小路に神崎といった面々のポスターが飾られても、やはり元々の知名度が違う。学校内に限っては『部活荒らし』アズや『後輩先生』綾小路の知名度も高くなっているが、それはあくまで学校内だ。

 モール内の家電量販店のスタッフが犯人だった点、そこに一年生が入学してからの期間を考慮すれば、無理を埋めて余りあるだけの理由が必要となるのは否めない。それが『グラビアアイドルの雫』であれば、十分過ぎる理由になる。

 

「新たに生徒会に入会し、その上でグラドル雫=佐倉、父親が大手企業の代表を務めている神崎、三年の間では『後輩先生』と呼ばれているらしいオレ、『部活荒らし』として暴れているアズを引き連れて各教室へ挨拶へ回る。

 構図上、オレ、神崎、佐倉、アズが櫛田を支援しているように他の人物の目には映るだろう。そこに『雫であればストーカーが付いても仕方ない』という納得感が生まれれば、むしろ佐倉に対しては怒りよりも憐憫の方が生まれるだろう。

 南雲先輩とやらがどれだけの能力を持ち、二年生に対してどれだけ統制を利かせているかは分からないが、所詮はこの狭い『陸の孤島』内の、これまた狭い範囲内に限った話。

 条件だけで言えばオレとアズも負けたものではないし、人気だけで言えば佐倉には大きく劣る。何せ、佐倉には既に各地を合計すれば五千人を超えるファンが生まれているのは事実なのだから。

 今でこそ佐倉の強みは極端に制限されているが、卒業後を見据えて考えれば、むしろ佐倉に付いた方がお得だろう。佐倉からの覚えが良ければ芸能界方面とお近付きになれる選択肢だって生まれるんだからな。

 そもそも、長く在籍すれば在籍するほど『Aクラスの卒業』に拘る生徒の方が少なくなっていると考えるべきだしな。そういう生徒にとっては、将来の働き口に繋がる選択――つまりは神崎の方を重視するだろう」

「悪い、綾小路。Aクラスの卒業に拘る生徒の方が少なくなるってのはどうしてだ?」

 

 柴田が挙手をして質問した。他にも頷いている面々がいる。

 

「簡単な話だ。どれだけ良い学校に進学し、どれだけ良い職場に就職したところで、根本問題、そこでやっていけるだけの能力と精神性がなければお話にならないからだ。

 オレが元々在籍していたDクラスを見れば分かるだろう? 『日本有数の名門校にして進学校』であるこの学校に入学したというのに、その自覚のない生徒、程度の低い生徒が余りに多かった。結果、このクラスから訴えられることにもなったし、クラス評価が一気にゼロにまで落ち込みもした。

 能力に見合わぬクラスに配置されて腐る生徒がいるのは分からなくないが、言い換えれば本人の精神が惰弱な証明だ。就職したら、場合によっては他部署や他部門、別会社とも協力しなければならないことだってあるだろうに、『水が合わない』という理由で腐る人物を会社側が重用すると思うか? する筈がない。

 よく『学校は社会の縮図』と言われるらしいが、この学校はそのものズバリだ。むしろ、他の学校では教えることのないグレー部分すら含んで教えている。

 だからこそ、三年間在籍して現実を思い知った人物ほど、現実的な判断を下す。卒業直前になってなお『Aクラスでの卒業』に拘る奴は、現実が見えていない証拠だ。そもそも、本当に行きたい進学先・就職先であるならば、わざわざ推薦に頼らずとも自力で受験すればいいだけなんだからな。

 まあ、金銭的な理由などでそれが難しい生徒もいるだろうが、この学校が真に実力を評価するならば、真面目で能力のある生徒を救済しない道理はない。

 極論、『クラス』としてではなく、『個人』として推薦するぐらいは行うだろう。それをしないと、この学校の『設立理由』に反してしまうことになるからな。

 ついでに言うと、『推薦がどこまで機能するか?』という問題もある。海外にまで通じると思うか? 同盟国に対してはワンチャンあるだろうが、送り込んだ生徒がミスをしでかす可能性を考慮すれば、二の足を踏むのは否めない。

 その点を考慮すると、『自分たちの力で揉み消すことが可能な範囲』に絞られている可能性が高いだろう」

 

 Dクラスという分かりやすい例があったからだろう。なるほどな~、と柴田らが頷いている横で、知恵は胸を抑えて蹲っていた。綾小路の率直な言葉が、鋭い刃となって知恵を斬り付けたのである。

 

「現実が見えてないかぁ~。そっかぁ、私たち、現実が見えてなかったんだぁ~。フ、フフ……、否定できないのが悲しいなぁ~」

「ま、被弾して蹲ってる星之宮先生は置いておいて、そういうこと。

 どれだけ高い能力を持っていたところで、その実、南雲先輩の影響力は極々狭い範囲にしか機能しない。『生徒会役員』という立ち位置は、同じ立ち位置に就くことで相殺できる。そうなれば、彼の残る強みは『時期生徒会長最有力候補』しかない。

 歴史上、その傲慢さによって身を滅ぼした人物は枚挙に暇がない。そして、自身の『身の程』を知る私は、周りの助けがなければやっていけないことを熟知している。

 だからこそ、『人気取り』の勝負となれば、私は負ける気がしない。それだけの経験と実績を私は積んでいる。

 故に、重要なのはどれだけ早く土台を整えることが出来るか。そのためにも、南雲先輩の停学期間中が勝負となる!」

 

 こぶしを握り、桔梗は気炎を上げた。

 

「ま、いいだろう。何なら、オレも生徒会に入ってお前に協力するか?」

「あらま、意外な申し出」

「卒業後を踏まえれば、オレも多方面にコネを持っておいて損はないんだよ。今のままだと、十中八九親の元に連れ戻されるからな。正直、そんなのは御免だ。そして、だからこそ三年に勉強を教えることにした部分がないではない。

 取り敢えず『特戦隠密』――N.I.N.J.Aとのコネは出来たわけだが、それだけだと弱いのも事実だからな。そして多方面に顔を売る=コネを作る上で、櫛田の協力は欠かせない。なら、代価としてオレもまたお前に協力するのが筋だろう。

 また、今現在オレは一部のDクラスの奴らの面倒を見ているわけだが、場所の確保とか色々と苦労する部分も多くてな。『ペナルティありきの課題』を出して取り組ませているわけだが、『生徒会役員』という看板の下に正当性を持たせたい面もある」

「そういうことならありがたく。ところで、綾小路って頭脳面以外の自信は?」

「戦闘のプロを一方的に制圧できる程度には。『人工的に天才を育てる』をお題目にして散々とやらされたからな」

「聞けば聞くほど、アズとかエッジさんみたいな境遇ね。似たようなことを考えて実行する輩はどこにでもいるってことかしらね」

 

 綾小路は過去の一部を晒し、それに対し桔梗は肩をすくめて言った。気にはなるが、必要以上に食いつくのは悪手である。

 

「世界は広いようで狭いってことでしょ」

 

 アズもまた、そう言うに留めた。

 

「なし崩し的に俺の協力が前提になっているわけだが……ま、仕方ないか」

「ポイントを貰ったのは私なわけだし、逃げるわけにはいかないよね……」

 

 顔を見合わせた神崎と愛里は、揃って溜息を吐くのだった。 




システム上、ポイントが無くても出来ることはあるわけですが、ポイントが無いと出来ることが極端に減るのも事実です。
ならば、統制を強める上でポイント回収はやっておくべきですし、暴君気質ならその輪を広げてもおかしくはありません。
結果、愛里には南雲から千万を超えるポイントが、茶柱からも数百万ポイントが回ってくることになりました。
これで驚きも恐怖もしない方が、逆におかしいでしょう。

南雲が各クラスからポイントを回収してるらしき情報は桔梗も掴んではいましたが、その具体額までは分かっておらず、想定を超える結果を引き出してしまいました。
桔梗の行為は、南雲にダメージを与えると同時、自分たちが爆弾を背負い込むことにも繋がってしまったわけです。
そしてそうなった以上、星之宮クラスならば緊急対策会議を開くのは当然のことです。
まあ、桔梗としては額こそ想定外ですが、流れとしては想定内なため、まだ冷静さと余裕を保っています。
そもそも、『南雲の停学中が勝負の分かれ目』という点では変わっていないわけですし。

ホワイトルーム出身の綾小路ならば、一般的には知られていない『特戦隠密』について知っていてもおかしくはないため、サラリと名前を出しています。
フォルテは常日頃から『N.I.N.J.A』を連呼しているため、事前情報を持っているなら結び付けるのは非常に容易です。

フォルテとしては周囲から『忍者かぶれ』と思われるのは承知の上です。たとえ変人と思われても、自身の異常な身体能力を発揮してもおかしく思われないための土壌を作り上げることを優先しました。
一般人はN.I.N.J.Aも特戦隠密も知る由が無いため、『N.I.N.J.A』を『忍者』として認識しています。
そのため、神崎ら事情を知らない面子がN.I.N.J.Aとしてのフォルテを呼ぶ際は、会話文の中では『忍者』表記にしています。
事情を知る者の場合は『N.I.N.J.A』表記です。

また本作の綾小路は、『たびたび全力を出すのも面倒だが、常に必要以上に手を抜いて生活するのもそれはそれで面倒』という結論に達しているため、自身の異常な過去を必要以上に隠すつもりはなくなっています。
学生生活を通じ、普通に考えると『信憑性が低い』と捉えられることを肌で理解したからです。
その一方で、自身の異常ぶりに納得のいく理由がいるのも事実です。
結果、『変に誤魔化すよりは、事実を伝えた上で、信じるも信じないもそちら次第というスタンスの方が楽』という考えに至りました。
『星之宮クラスならば必要以上に寄りかかられることもないだろう』という結論に至っているからでもあります。
自身の同類らしき過去を持つアズや、N.I.N.J.Aのフォルテがいることも大きいです。

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