ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第44話

 一年Bクラス:戸塚弥彦。

 6/30付けで一年Dクラスの生徒何人かの連名から彼の人物へ訴えがあり、生徒会にて精査した結果、その訴えを妥当と判断。

 発端は些細な諍いであり、その点においてはDクラスの生徒へも改善を求めるところであるが、結果として戸塚は暴力的行為に及んでしまい、Dクラスの生徒一名に対して怪我を負わせる事態に発展。

 同時、戸塚は謝罪することもなくその場を後にしている。

 該当の場面は監視カメラにシッカリと映っており、事実であることは確認済みである。

 生徒会としては、その事実を重く捉えざるを得ない。

 罰則として、戸塚には夏休みまでの停学を言い渡し、本人からはPPの75%を没収、その分を慰謝料として被害者へと譲渡する。また、所属クラスからは30CPをマイナスし、その分をDクラスへと譲渡するものとする。

 ただし、今月には期末テストがあるため、該当日は例外的に登校を認めるものとする。

 

 7/2:生徒会

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 七月二日には、廊下の掲示板にそう書かれた用紙が貼り出されていた。

 余りにも早いスピード解決だが、だからこそ新入生たちは揃って監視カメラの重要性を認めることとなった。

 そして、その日の放課後。

 

「で、どう? 今回の結果はそっちのお気に召した?」

 

 カラオケの一室にて、そのように問いかけたのは1-Dの松下千秋。今回の訴えを起こした女生徒だった。

 

「概ねな。完全に満ち足りたわけじゃねえが、こればっかりは仕方ねえさ」

 

 答えたのは、ソファにドッカリと腰を下ろした男。1-Cの龍園翔だった。『王』を称する男子である。

 

「まあ、細々とした部分で付け入る隙があるのは分かったからな。その点では収穫だ」

 

 二人は示し合わせてカラオケに来たわけだが、その一方で一緒に来たわけではなかった。それぞれがグループで訪れ、別に部屋を借りている。その上で、片方が『ヒトカラしたくなった』ことを理由に掲げ、更に別の部屋を最小時間借り受けたのである。

 あくまでも『カラオケに来た結果の遭遇』。対外的にはそう映るように仕向けていた。

 

「そうだけどね。甘く見過ぎるのも問題でしょ。仮にそっちのクラスが訴えていたなら、こうも早いスピード解決にはならなかったと思うわよ?」

「まあな。だからこそ、わざわざそっちの持ってきた提案に乗ったんだろうが? 旨味がなきゃ、そもそも提案に乗ってなんかねえよ」

 

 顔を見合わせ、どちらともなく二人は嗤いあった。

 

「軽井沢……つったか。大したアマだよ。骨をズラすか訊いたら、『遠慮なくどうぞ』ときたもんだ。試しに訊いた俺の方が驚いたぜ」

「それを言ったら、そっちにも驚きなんだけど? そんな技術、どこで身に着けたわけ? お医者さんが驚きながら言ってたよ。『ズレ方が非常に綺麗で、それだけが不幸中の幸いだった。これなら、然程時間を置くことなく元通りに動かすことが出来るようになるだろう』……ってさ」

「中学時代の喧嘩だよ。幸い、練習台には事欠かなかったもんでな。喧嘩にも、それはそれで得るもんがあるってことさ。

 そして、そのおかげでお前たちが得た旨味も強まった。実行役がうちのクラスの奴らだったら、流石にここまでの効果はなかったろうさ」

 

 肩をすくめながら龍園が言う。

 そう、恵の怪我は千秋たちと龍園たちの自作自演だった。そもそもを言えば、戸塚が停学となった今回の一件そのものが『必然の産物』だった。

 まあ、予想はしていても誰が突き飛ばされるかまでは想定外で、それによって恵が受け身を取れなかったのも事実だし、必然であると同時に『偶然の産物』であったのも事実だ。

 だって、千秋たちに出来たのは、戸塚に対して罠を仕掛けるところまでだ。たとえ廊下の真ん中でおしゃべりに興じていたとしても、戸塚が突っかかってくる確証はないのだから。

 つまり、罠にかけるタイミングを見計らったのは事実だが、その引き金を引いたのは戸塚に他ならないのだ。そして、戸塚が引き金を引かなければ機能しないタイプの罠でもあった。

 そして、監視カメラには突き飛ばされた瞬間は映っていても、その先までは映っていなかった。龍園によって助け起こされたのも、その最中に骨をズラされたのも、監視カメラに映ることはなかった。そういう位置を狙っておしゃべりに興じていたのだから当然ではあるのだが……。

 事は堂々と廊下の真ん中で行われていたのだ。である以上、藪をつついて蛇を出さぬよう早々に立ち去る生徒もいただろうが、中には見学に回る生徒がいてもおかしくはない。その見物客の中に龍園がいたとしても、不思議ではないのだ。

 また、普通に考えて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは考えにくい。可能性としてはあり得ても、前提条件を満たすのが至難に過ぎる。一高校生がそんな技術を持っているとは思えないのが当然だ。

 である以上、カメラに映った光景から、『突き飛ばされた結果、当たり所が悪く、それによって骨がズレた』と判断するのは自明の理だ。

 調査の結果、見物客に龍園がいたのが分かっても、龍園が恵を助け起こしたのが分かっても、確証がない以上は疑念止まりだ。

 執拗に調査を重ねれば、中学時代の龍園の喧嘩相手となった被害者に骨折者やらが比較的多いことが分かるかもしれないが、何せ原因が喧嘩である。その時点で、骨折などの被害が出てもおかしくはないのだ。

 

「私は喧嘩とは無縁だったけど、それで身に着くようなら苦労なんてないと思うんだけどね」

「知るかよ。それだけの才能が俺にはあった。そんだけの話だろ?」

「そう言われたら返す言葉はないけどね」

 

 此度はシステムを探るために協力し合ったが、根本的には敵同士。互いが互いに探りを入れる。

 表に出しても構わない部分は表に出し、相手への牽制とする。

 

「正味な話、現状で1-Aには手が出せねえ。個々では付け入る隙のある奴も多いが、その後の報復が怖え。俺自身に恐怖はねえが、クラスとなるとまた別だ」

「確かにね。入学して僅か一ヶ月で他の三クラスから一人ずつスカウト出来るポイントを稼いだこと。モールの販促ポスターに自クラスの生徒を起用させたこと。間違いなく佐倉さんに対するストーカー問題の解決にも絡んでいるだろうし、ハッキリ言って底が見えない」

「付け加えれば、お人好しな奴らが揃っているのも特徴だな。世の中、恩を仇で返す奴も多いが、その一方で義には義で返す奴もまた多い。だからこそ、そんな相手には正攻法こそが最大の対抗手段となる。搦手を使えば勝つこと自体は容易だろうが……」

「代償に、自分たちへの信頼が減る。どれだけ能力があったところで、周りから信じてもらえなければ孤立する。せざるを得ない」

「クックックッ……。何ともまあ、厄介な話だ。それでも、ただの甘ちゃん揃いならまだやりようはあったんだろうが……」

「そういうわけでもないからね。能力があることは既に示されている。

 さっきのもそうだけど、既にクラス内から三人も生徒会に所属させている事実も大きい。

 Bクラスの葛城くんは、生徒会への入会を認められなかった。生徒会長が却下した。葛城くんは保守的な傾向が強いけど、それでも一年生の中では優秀な人材だと思う。

 だけど入会を認められず、綾小路くん、櫛田さん、セインクラウスさんは入会を認められた。噂だと、セインクラウスさんに至っては会長直々にスカウトしたらしいしね。

 単純に考えれば、その三人が1-Aの『三強』ってことになるんだろうけど……」

「そう単純な話でもねえだろうさ。おそらく、総合力ではその三人がそうなのは間違いねえだろうが、部分部分で見れば他にも侮れねえ奴はいるだろう。実際、うちのクラスから持ってかれた椎名だって学力は大したものだ。必然、Bクラスからスカウトされた奴だって、どこかしら侮れねえ部分は持ってるだろう」

「確かに。佐倉さんなんてグラドルの雫だったわけだしね……。まあ、佐倉さんは罰則による移籍で、スカウトされたわけじゃあないんだけど……」

「結果として、その正体に気付き、それを上手く利用したことは事実だ」

 

 端的に言えば『それぞれの長所を上手く活用している』ということになるのだが、その大半は四月に顔を会わせたばかりだ。既に三か月という短くない時間が経過しているのは事実であり、応じて分かったことも増えてはいるが、だからこそ実行の至難さも分かる。

 

「ホント。今だから言えることだけど、綾小路くんといい佐倉さんといい、逃がした魚は大きいわ……。

 まあ、綾小路くんの方とは繋がりが持ててはいるし、色々と協力してもらってもいるけど、やっぱりクラスが違う以上はね……」

 

 千秋は深々と溜息を吐いた。

 

「ああ……。綾小路の奴は、元々そっちの所属だったな。ご愁傷さんだ。

 櫛田のコミュ力の高さは、既に学校内に轟いている。タダの甘ちゃんじゃねえなら、コミュ力の高さは『人を見る目の強さ』に繋がる。『八方美人』は聞こえこそ悪いが、如才のなさは秀逸だ」

「他方、櫛田さんにこそ劣るものの、クラスのリーダーを務める一之瀬さんもコミュ力が高い。『屈指の善人』と言われているほどだし、必然的に人気が高い」

「タイプの異なるコミュ強が、揃ってクラスの顔役になっているわけだ。しかも、片や『クラスのリーダー』、片や『生徒会役員』と上手いこと共存を果たしている」

「脇を固める人材も強力よ。綾小路くんは三年生に勉強を教えられるほど学力が高いし、実際に『後輩先生』と呼ばれている。セインクラウスさんは『部活荒らし』や『南雲係』としての知名度が高いけど、小テストで満点を取れるほどには学力も高い」

「やれやれ。ますます現状では打つ手がねえな……。

 だがまあ、今回の一件で間違いなく葛城は失脚するだろう。それはBクラス内の派閥争いの沈静化に繋がり、坂柳派の一強状態への移行を意味する」

「普通に考えれば面倒だけど、だからこそチャンスでもある。『天才』を自称するほどに傲慢で攻撃的な坂柳さんが、星之宮クラスの台頭をそのままにしておけるわけがない。それを許容できるなら、何かにつけて天才を自称する筈がない。必然、Bクラスの標的はAクラスとなる」

「その間、俺たちは高みの見物を決めつつ、虎視眈々と牙を研いでいればいい。……必ずしもそうなるとは限らねえのが難点ではあるが、わざわざ御膳立てをしてやったんだからな。是非とも上手いこと転がってほしいもんだ」

「それは同感。……それじゃあこれで」

「ああ。またな、千秋」

 

 名前呼びに反応を示すことなく、千秋は部屋を出ていった。

 それを見送り、龍園は笑みを浮かべた。

 

「さて、面白くなってきたな……。俺を俺のまま、更なる高みへと導け。『高度育成高等学校』よ……。クックックッ、アーハッハッハッハッハッ……!」

 

 アズ・セインクラウス、櫛田桔梗、一之瀬帆波、神崎隆二、綾小路清隆、椎名ひより、松下千秋、葛城康平、坂柳有栖……誰も彼もが、自身を更なる高みへと誘うための糧なのだ。

 髪をかき上げながら天を向いた龍園は、来る瞬間を思い浮かべて高らかに笑うのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 戸塚が停学になったり、CPの支給が遅れこそしたものの、星之宮クラスには大した影響などない。むしろ、期末テストにこそ注意を払う必要があった。

 

「はい、皆さん! 今月には期末テストがあります! 赤点取って退学なんてことにならないよう、日々を頑張っていきましょう! 今回も有志による勉強会を開催しますが、参加するもしないも皆さんの自主性に任せます! 強制はしません!」

「私とアズ、綾小路は生徒会の方を優先しなくちゃならないから、その点は悪しからず」

 

 放課後のホームルーム。クラス代表たる帆波が音頭を取り、そこに桔梗が補足を入れた。

 最悪、ポイントで退学を阻止することも出来るが、それにも限度がある。必然、気を抜けるわけがない。

 

「椎名。悪いが私たちの教師役を頼む」

 

 そんな中、真っ先に動いたのは『コミュ障グループ』のユキだった。なお、所属メンバーは、ユキ、愛里、綾小路である。――ただし、綾小路は『名前貸し』の側面が強い。

 平均以上の学力は自負するユキだが、それでも期末テストとなれば不安が増す。所属メンバーの綾小路も、どこまで教師として機能するか分からない。

 そんな状況では、『新たな教師役の確保』に尽力するのはある意味で道理であり、これといってクラス内に親しい相手がいないひよりが選別されるのも、また道理であった。

 

「私ですか? ええ、構いませんよ。一緒にお勉強をしましょう」

 

 目論見は功を奏し、ひよりは快く教師役を受け入れた。ユキと愛里は揃って安堵の息を吐く。

 今回、桔梗は須藤たちの面倒を見ない。元より『過去問』という抜け道が示唆されていた中間とは違うのだ。中間で須藤たちの面倒を見たのは、抜け道が示唆されていた分、基礎固めに費やすことが可能だったからでもある。

 最優先するのは自クラス。それがクラスの基本方針である以上、これといった抜け道のない期末で他のクラスを優先するのは()()、というのが桔梗の判断だった。

 必然、中間時とは勉強会のメンバー構成も異なる部分が出てくる。具体的なところで、神崎は柴田と一緒だ。

 一方で代わり映えのないグループもある。

 

「お世話になります」

「フフ、普段とは反対ですね」

 

 フォルテと美紀のN.I.N.J.A組が代表格だろうか。

 フォルテ自身、平均以上の学力は有しているが、それでも平均を僅かに上回る程度であるのも事実。分野によっては非常に聡明だが、分野にとっては足を引っ張る部分も少なくはない。

 N.I.N.J.A修行は身体能力面に重きを置かれている部分があるし、それを義務教育と並行してやらなければならなかったのだ。どこかしら足を引っ張る部分が出るのは已むを得ないことと言えるだろう。

 一方の美紀は、自力では影の薄さをどうにも出来なかったからこそ、その分を勉学に費やした。

 どれだけ着飾っても、どれだけ運動能力を鍛えても、本人の影の薄さがそれを覆い隠してしまう。そのことを早々に自覚してしまえば、残る選択肢など多くない。まともな選択肢の中で、僅かなりと自分をアピール可能なものは勉強ぐらいしかなかったのだ。

 美紀と美紀の身に着けている物に対する注目度は低くても、そうでないなら話は別だ。提出したノートやテストであれば、自分の影の薄さとは関係なくシッカリと評価される。だからこそ、勉学に費やすことは美紀にとって()()に他ならなかったのだ。

 もっとも、その影の薄さ故にどうしても自習がメインとなってしまうのは否めない。必然、効率の面でも効果の面でも限度があった。

 その一方、影の薄さ故に基本的にボッチなので、読書をしようと勉強をしようと、『話しかけられる』などといった邪魔が入ることもない。そういう点では、効率的であり効果的であった。

 図書館通いの日々が続き、勉強と読書で時間を潰す。それが中学までの美紀の日課であり、優秀な学力を修めるに至った要因だ。

 クラス移籍を果たすまでも同じような日々を過ごし、移籍後はフォルテと行動を共にすることが多い。

 美紀にとってこれまでの行動は、『自力では影の薄さをどうにも出来ない』という前提からくる、諦観ありきの行動だったのだ。その前提を崩せるのなら、自身に変革を促すのも望むところである。

 そしてそれは、現状においては『フォルテありき』となってしまう。美紀の知るN.I.N.J.Aがフォルテしかいないのだから仕方がない。

 だからこそ、『フォルテの退学』など美紀としては受け入れられる筈もなく、防ごうとするのは当然だった。自身が勉強を教えることでその一助となるのなら、美紀にとっても否はない。

 そんなこんなで、星之宮クラスはそれぞれが期末テストに向けて勉強に励むのであった。




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