ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
期末テスト。
夏休み直前にそびえる壁。
「以上だ。山内春樹は赤点。退学となる」
それを、春樹の奴は乗り越えられなかった。
「嘘、だろ……。俺が、赤点……? 退学……?」
現実を認識しきれていねえんだろう。春樹は力なく呟くだけだ。
直前まで、成績優秀者に対して担任からボーナスポイントが配られていただけに、尚更哀愁を誘う。
ちなみに言うと、松下の奴が担任に対して提案することでボーナスポイントが配られる運びとなった。たぶん、松下はいつぞやの水泳を思い出したんだろう。あんときは体育教師の方から言ってきたが、前例があるんだ。なら、生徒の方から提案したっておかしくはねえ。
実際、茶柱の奴はアッサリと提案に乗った。今はストーカーの一件で手持ちが減ってるらしく、配られるポイントはそこまででもなかったが、それでも俺たちにとってはありがてえ限りだ。
それもあって、今回は余計に勉強に気を入れていた奴が多かった。何せ、俺たちのクラスはCPが微々たるもんだからな。貴重な収入の機会を、みすみす逃す道理もねえだろう。
そんな中で、春樹の奴は変に余裕ぶって勉強してなかったからな。それを踏まえれば、当然と言えば当然の結果なんだろう。
練習に身を入れたからって出場選手に選ばれるとは限らねえが、練習してアピールしないことには選手に選ばれることもねえんだ。言ってみりゃあ、勉強だってそれと同じだ。
「まだだ!」
瞬間、教室内に響き渡らん限りの声で叫んだのは平田の奴だった。
「Aクラスに行こう! そしてポイントの融資をお願いするんだ! 彼らには、以前に同様のことをして戸塚くんを救った実績がある! なら今回も! 山内くんに適用されない道理はない!」
平田の奴は立ち上がり、山内に手を差し伸べながら、クラス内に――特に俺と寛治に向けてそんなことを言い放つ。
クラスメイトなら、友人なら、救うために足掻け。おそらくはそう言いたいんだろう。――だが。
「悪い。俺は行けねえ。俺が中間の時にアイツ等に勉強を見てもらったのは知ってんだろ?
そん時に釘刺されてんだよ。俺と外村が選ばれたのは
欠点の方がデカくて、長所に目が行きにくい。だから見捨てられる可能性が高い。けれど、それは勿体ない。だから、手を差し伸べることにした。しかし、それは状況が味方すればこそであり、毎回できるわけじゃない。なにより、本人の意思が伴わなければ意味はない……ってな。
自分の面倒も見切れねえのに、他人の面倒を見ようなんざ思い上がりも甚だしい。だから、『ダチの退学が嫌ならば、日頃の注意喚起が必要だ』……ってな。
俺はその言葉に従って、寛治と春樹の奴には普段から勉強するように言ったつもりだ。んで、寛治の奴は勉強するようにもなったけど、春樹の奴にはそんな様子は見られなかった。
言いたかねえし認めたくもねえけど、この結果は春樹の自業自得だ。この状況で俺が『春樹への救済』を星之宮クラスの奴に頼んじまえば、それはアイツ等に対して『恩を仇で返す』ことになっちまう。だから、悪いけど俺は行けねえ」
俺は平田の言葉にそっぽを向いた。行きたくないわけじゃねえが、恩を仇で返し、それを常態化しちまうような奴にはなりたくねえ。
まあ、春樹の奴が真剣に勉強に取り組み、その上での結果であれば懇願しに行ったかもしれねえが、そうじゃねえのはハッキリしている。だったら、流石に行けねえよ。
「拙者も須藤殿と同じでござる。
それに、おそらくは行ったところで無駄でござろう。星之宮クラスは、単に優しいばかりではないのでござるよ。その優しさの裏には、常に
外村のその言葉に、クラスの奴らは――高円寺の奴を除き――揃って苦い顔をした。
十万という大金を与えられて舞い上がっていたこともあるんだろうが、教師が注意しないのをいいことに、俺たちのクラスは大半が真面目に授業を受けなかった。居眠り、遅刻、無断欠席、私語に携帯操作の常習犯揃いで、数少ない真面目に授業を受けている奴も、そんな俺たちを注意することはなかった。
それを見かねて注意したのは、別クラスのアイツ等だった。
それをきっかけに佐倉はクラスを移籍することになり、大半の奴はポイントを没収された。
それでも俺たちが反省することはなく、騒がしくしないだけで授業態度は不真面目なまま。真面目な奴らも、やはり注意することはなかった。注意されて罰を受けて、なお態度を改めなかったことで見切りを付けたんだろう。
そして五月を迎え、俺たちは『支給ポイント:ゼロ』という現実を叩き込まれた。
良くも悪くも、それが俺たちを
俺だってバスケを念頭に置きつつも、読書は続けている。周りから見れば変化とも言えない変化だろうが、今までの俺にしてみれば大した変化だ。外村と一緒に堀北から勉強を教わってもいる。
堀北の奴は言葉こそ厳しいが、行動そのものは実直だ。以前、櫛田とアズから教わってた際には向こうが飯も用意してくれたことを伝えれば――まあ、堀北には具体的に誰から教わってたかはぼかして伝えているが――、ぶつくさ言いながらも結局は飯を作ってくれた。
寛治の奴も、変わらず俺や春樹と一緒にいることは多いが、その一方で松下たち――特に松下、佐藤、軽井沢と一緒にいることも増えた。どうも、松下の奴から勉強を教わっているらしい。
俺、寛治、春樹の三人は『三バカ』で一括りにされる傾向があり、平たく言えば『クラス内の嫌われ者』だ。それを思えば不思議なことではあるが、CPのことを思えば納得もいく。
本心では俺たちのことを嫌っていようと、それで何の対処もせずに俺たちが足を引っ張り続けるままだと、巡り巡って松下たちにもダメージが行くからな。である以上、松下たちが『三人一纏めは無理でも、誰か一人くらいなら……』という風に考えたとしても不思議はねえ。
五月時点で、俺は櫛田たちから勉強を見てもらっていた。今だって、その時の流れで外村と一緒に勉強することも多い。
なら、松下たちが候補から俺を外すのはおかしなことじゃあねえし、そもそも池と松下たちにはゴールデンウィークの時に『綾小路から勉強を教えてもらった』っていう共通点がある。その流れのまま一緒に行動することが増えたとしても、それはそれでおかしなことじゃねえだろう。
「普通に考えて、その状況で過去問のことを教えたり、拙者と須藤殿、果ては佐藤殿たちまでの勉強の面倒を見ることがおかしいのでござる。
それぞれの自覚の有無は置いておいて、拙者たちは、既に星之宮クラスから多大な恩を受けているのでござるよ。
昔から言うでござろう? 『仏の顔も三度まで』……と。四月の注意、勉強の面倒、過去問の示唆。既に三度の慈悲は受けているのござる。これ以上、ただ恩を甘受しようとするのであれば、逆鱗に触れる可能性の方が大きいのでござるよ」
「さっき、平田の奴は戸塚の時のことを例に挙げたが、状況は似てても条件は同じじゃねえんだ。外村のセリフと合わせて、頼るだけ無駄だろう」
外村と俺の言葉を受け、平田は怒りの表情を浮かべ、春樹は絶望の表情を浮かべる。
もっとも、口では否定的なことを言っているが、俺自身、春樹の退学を嬉々として受け入れてるわけじゃねえ。これでもダチなわけだしな。
だから、星之宮クラスに頼らなくても、まだ希望があることは示す。
「一応、星之宮クラスに頼らなくても、春樹を救う手がねえわけじゃねえ」
しかし、ここで春樹の退学を阻止することが、クラスにとっていいことなのか断言できねえのも事実だ。俺個人の感情はともかくとして、ここで春樹を見捨てた方がクラスにとっては喜ばしいかもしれねえのも事実なんだ。
何せ、赤点取っての退学ってことは、『基礎学力が足りてない』ってことを意味している。そして、それを補填するのは生半なことじゃねえ。俺自身が足りてなかったから、実感としてよく分かってるんだ。
ここで春樹の退学を阻止しても、『次の中間までに学力を補填できるか?』って問題が付き纏う。何せ、春樹の奴は、中間の時から過去問任せで勉強してなかったんだ。小テストの点数こそ確かに俺以上ではあったが、問題内容からすると『底辺』なのは否定できねえ事実だ。
特に、夏休み中は『無人島でのバカンス』があるみてえだからな。今までの騙し討ちじみたこの学校のやり方からするとどこまで信じられるか怪しいのも事実だが、その期間は勉強が出来ねえだろう確率が高い。そう考えると、尚更厳しいだろう。
「白状すると、俺は中間の勉強を教わっている時、移籍していった綾小路の奴から二十万ポイントを受け取っているんだ。『好きに使え』……ってな。
四月の時点でクラスに見切りを付けたアイツは、移籍を目指してせっせとポイントを貯めてたらしい。だが、実際には星之宮クラスからスカウトされる形で移籍していったからな。
結果、星之宮クラスの一員となったアイツは、そのクラス方針に則って、『ポイント譲渡』って形で手を差し伸べてくれたってわけだ。俺はポイントを受け取った後、外村と半分ずつ分けた。少しは使っちまったが、大部分は残ってる」
「拙者も同じでござる。……まあ、五月と六月は支給ポイント自体がゼロでござったからな。完全に手付かずで過ごすのはどうやっても無理でござるよ」
俺が綾小路からポイントを受け取ってたことを告白すると、外村もそれに続いた。
「春樹の奴は二点のマイナスだ。戸塚の時を例にすれば、一点購入すんのに十万ポイント。二十万ポイントがあれば、春樹の退学は阻止できる。
綾小路の奴にポイントをもらってから時間が経ってることもあり、俺と外村の分だけじゃあ足りねえ。だが、クラスの奴らの手持ちを合わせたら、もしかすれば……」
「阻止できるよ。私も綾小路くんから二十万ポイントを受け取ってるからね。まあ、こっちも少しは使っちゃってるけど、大部分は残ってる」
俺の言葉に続いたのは、松下の奴だった。
「松下さん、それは本当かい?」
「ええ、本当。……聞いたところだと、星之宮クラスの一員となった綾小路くんは、そのクラス方針に則り、まずは須藤くんと外村くんの勉強を見るのを手伝おうとした。けれど、当時の教師役によって『戦力の無駄遣い』と素気無く拒否された。
それで、当時の綾小路くんの状況も踏まえた上で、須藤くんと外村くんに意見を訊いた。――そうよね? 須藤くん、外村くん」
「ああ」
「その通りでござる」
松下からの問いかけに、俺と外村は簡単に返した。
「結果、須藤くんはダメ元で池くんと山内くんを候補に挙げ、外村くんは佐藤さんを候補に挙げた。――だったわよね? 佐藤さん」
「ああ、うん。櫛田さんからはそう聞いてる。私が候補に挙がったけど、揃いも揃って私の連絡先を知らなかったから、櫛田さんに仲介を頼んだって。……まあ、外村くんが私を候補に挙げた理由が、『私がイケメン好きだからワンチャンあるんじゃない?』ってのはどうかと思わなくもないけどね。
んで、その際に櫛田さんから綾小路くんをスカウトした理由も聞かされた。『ポイントを貰う代わりに、三年の先輩に勉強を教えてたから』って話だった。
正直、俄かには信じられなかったけど、それが事実ならスカウトするのも納得がいくし、そんな相手に勉強を教えてもらえるならこっちとしても助かる。
結局、私はその申し出を受け入れた。櫛田さんから綾小路くんに私の連絡先を伝えてもらい、当人とやり取りをして、友達を誘うことの了承を取り付けた。
その後は軽井沢さん、篠原さん、松下さんを誘って、その時に松下さんと一緒にいた前園さんと王さんも参加して、そこに須藤くんの頼みを受けた綾小路くんから誘われて池くんもやってきた。
ああ、山内くんは不参加だったよ。綾小路くんは山内くんも誘ったみたいだけど、『俺は勉強する必要なんかねーんだよ! って断られた』って言ってた」
瞬間、クラスの奴らの春樹に向ける視線が冷たさを増した。
春樹の奴がお調子者なのは事実だし、いかにも言いそうなセリフだ。ってか、確かにそんなことがあったような気がする。
だが、たとえ中間の時だろうとそんなことを言っておいて、現実にはこれだ。中間と期末の違いはあるが、『過去問』という抜け道がない以上、素の学力が試されるのは間違いなく期末だ。そこで赤点を取っちまった以上、クラスメイトの視線が冷たさを増すのは当然っちゃ当然だ。
「元々、諸経費は綾小路くんが持ってくれるとは聞いてたんだけどね。……ほら、五月の私たちって支給額と手持ちがアレじゃん? それもあってどうしても低く見積もっちゃってね。候補として挙がるのはカフェが精々だった。
ただ、それを聞いた綾小路くんが難色を示したのよ。『ドリンク一杯で長時間粘るのは店にも悪いだろう』ってさ。んで、代わりに提案してきたのがカラオケ。『騒がしさを許容できるのなら、長時間利用出来て、ドリンク飲み放題で、歌って気晴らしも出来る』って理由だった。
言うことは御尤もだけど、当時の私たちには縁遠い内容でもあった。それで思わず食って掛かっちゃったんだけど、綾小路くんは『「論より証拠」としてポイントを譲渡するから、松下さんの連絡先を教えろ』って言ってきたわけ。
怪しく思って理由を訊けば、参加者の中で『ポイント管理を任せられる』という点で綾小路くんのお目にかかったのが、松下さんと王さんしかいないってことだった。ただ、王さんは『押しに弱そう』ってことで除外されて、松下さんに白羽の矢が立った。
理由もシッカリあって、綾小路くんは松下さんが
その後は、綾小路くんを余所に、それぞれが謝ったり不満を言ったりの言いたい放題。ただ、それをきっかけにして、私たちの輪は縮まった気がする」
些か脱線気味だったが、松下にポイントが渡った経緯は十分に分かった。
「脱線に脱線を重ねるようですまないが、よければ綾小路が語ったという理由を教えてもらっても構わないか? 何を根拠に、『松下が手を抜いている』と判断したのかを」
そう言ったのは、ひょろメガネ――幸村の奴だった。
「ああ、うん。理由を答える前に、前提として知ってもらいたいんだけど。松下さんってさ、将来のビジョンを決めて、そのための自主努力は欠かさないタイプみたいなんだけど、その一方で『安定志向』でもあるのよ。
不用意に実力を出し過ぎれば、寄りかかられるし、不満を持たれる。だから、程々に力を抜いて過ごしてたらしいわ。
ただ、松下さんのそんなスタンスは、致命的なまでにこの学校と相性が悪かった。特に、うちのクラスとは尚更に。
学校の実態を知った松下さんは力を出そうとも考えたみたいなんだけど、そこでどうしても一人の存在を思い浮かべないわけにはいかなかった。こう言ったら本人には悪いけど、高円寺くんの存在を」
佐藤が高円寺の名前を挙げた瞬間、全員が『あ~……』とばかりに納得の表情を浮かべた。高円寺の奴に実力があるのは間違いないが、その一方でアイツは唯我独尊だ。最優先すべきはあくまでも自分なんだ。
そんな奴が身近にいれば、そりゃあ手を抜いていたことがバレた瞬間、高円寺と同一視されてもおかしくはない。松下が安定志向ってんなら、それを恐れるのも無理はない。
「松下さんは可能な限り私たちに合わせてたみたいだけど……ほら、私たちのグループって大半が不真面目じゃん? 授業も真面目に受けてなかった。必然、松下さんは私たちの学力を測ることが出来なかったのよ。
そんな中で小テストが行われて、その内容は大半が入試問題よりも簡単で、ラストの三問だけは例外的に高校二年以降に習う範囲。
だからこそ、そこで松下さんは擬態に失敗した。ラスト三問に関しては解けなかったのか解かなかったのか分からないけど、他の問題については完答した。完答してしまった。
一方の私たちは、流石に須藤くんたちほどじゃないけど、揃いも揃って低得点。
その、余りに予想外な事態に、松下さんは驚愕を露わにしてしまったらしいのよ。そして、その瞬間を綾小路くんは見逃さなかった。彼自身が実力を隠して擬態をしていたからこそ、松下さんの表情の理由もすぐに察しが付いたらしいわ」
「なるほどな。参考になった。俺自身、これまで勉強一筋で生きてきたから、『敢えて手を抜く』という発想がなかった。……教えてくれて感謝する」
そう言って、幸村の奴は軽く頭を下げた。正直、これまでのアイツからは信じられねえ態度だ。
いや、そういう考え方自体が偏見なのか。俺とは重視する部分が違うだけで、筋は通す奴なんだろう。
「で、話を戻させてもらうと、テストの点数を買うことで山内くんの退学を阻止することは出来る。――だけど、正直に言わせてもらえば、二十万ものポイントを払ってまで山内くんを救う必要があるとは、その価値が彼にあるとは私には思えない。
私と須藤くんたちのポイントは『棚から牡丹餅』に等しいけど、だからこそ、その使い道には慎重になる必要がある。慎重を期す必要がある。
皆に訊くけど、正直、これだけのポイントを私たちが手に入れる機会はどれだけあると思う?」
クラスを見回しながらの松下の問いに、答える声はない。答えられないからだ。思い当たる方法はあっても、実現可能とは思えない。そういう部分もあるだろう。
「そんな状況で、今回山内くんの退学を阻止して、次の中間なり期末なりで再度彼が赤点を取る可能性は?
せっかく手を差し伸べてくれた綾小路くんへの返答や、普段の態度を見る限り、私としては『高確率で起こる』と断言するしかない。
現時点で私たちのCPは少ない。なら、たとえ退学のペナルティでCPのマイナスを食らう可能性があっても、ここは彼の退学を許容すべきだと思う。そうすれば、ダメージを最小限に抑えられる。
私たちは『次世代の日本を牽引する』ことを求められているのだから、『リストラされる立場』ではなく、『リストラする立場』でものを考える必要もあるのよ」
「松下さんのその言葉を否定することは出来ない。――だけど! 切り捨てないための努力も必要な筈だ! 現状では可能性が高いだけで、山内くんが次のテストでも赤点を取ると決まったわけじゃない!」
松下の意見を否定することはせず、しかし、それをかき消すように平田が吠えた。……正直、平田のその態度が嬉しい。
「そうね。その点に関しては平田くんの言う通り。
だから、クラス全員で決めましょう? 山内くんを救うべきか、救わぬべきか。
星之宮クラスの真似になってしまうけれど、これからそれぞれが茶柱先生にメールで意見を送ってもらう。挙手性だと、周りに流されちゃう生徒も多そうだからね。
それと、『どちらでもいい』は認められない。答える以上はイエスかノーで答えてもらう。本当にどちらでもいいのであれば、或いは意見を決めきれないのであれば、最初から不参加を宣言してちょうだい」
「ならば、私は不参加とさせてもらおう。正直、彼が退学になろうがなるまいが私としてはどちらでもいいのでね!」
案の定、真っ先に不参加を宣言したのは高円寺の奴だった。
「他に不参加者は?」
「春樹には悪いが、俺も不参加だ。個人的感情では救いてえが、クラスを考えると見捨てるべきだとも思う。意見が定まらねえんだ」
「悪いけど、俺もパスだ。ダチとしちゃあ、これからもバカをやっていきてえと思ってる。だけどその一方で、あんだけ健や俺に言われても勉強しなかった春樹の自業自得だとも思ってる。そんなわけで、健と同じく自分の意見を決められねえんだ」
悩んだ末、俺も不参加を宣言した。
俺に続いて、寛治の奴も。
「じゃあ、高円寺くん、須藤くん、池くんの三人を除いたクラスメイトの意見を募りましょうか。
山内くん、それと平田くんも。これから出る結果は、これまでの山内くんの行動に対する、『クラスメイトからの評価』に他ならない。入学してから今までの経緯で、山内くんの
どんな結果になろうとも、全ての責任は山内くん本人に帰結する。救済を望む生徒が多ければ、それだけ山内くんが自分の実力をクラスメイトに上手くアピール出来てたってこと。その反対ならば、アピールに失敗してたってこと。……オーケー?」
春樹と平田は、松下のその言葉に、ただ黙って頷いた。
春樹の奴は僅かながらに表情を持ち直しちゃいるが、正直に言えば望み薄だろう。
チームの雰囲気を保つ上で『お調子者』ポジ――『ムードメーカー』は必要不可欠だが、バスケのチームとは根底的に異なるんだ。試合に参加しなくても構わない、ただ『いるだけ』を許容される二軍や三軍ポジは、教室では許容されない。許容されるには、『多方面において最低限の実力を持つこと』が必須だ。
そして残念ながら、春樹の奴にそれだけの実力はない。アイツがアピールに成功してるのは、お調子者としてだけだ。
それが分かっていて、分かっていながら、理由を付けて俺は逃げた。ただ、『自分の手でダチを退学に突き落としたくない』という理由で……。
我ながら最悪だ。反吐が出る。おそらくは寛治の奴も同じような気分だろう。
だが、そんな俺たちの心情を余所に、遠からず結果は出る。
そして、出た。
反対票多数。
無情か。
それとも必然か。
夏休みを目前にして、春樹の退学が決まった瞬間だった。
タイトルでネタバレ感がありますが、本作ではこのような流れになりました。
と言うより、原作の一学期期末テストでDクラスから一人も退学者が出ていないのがおかしいと思います。
ただでさえDクラスは学力底辺スタートの連中が多いのに、原作だと七月は期末の直前まで『暴力事件』でドタバタしてたんですよ。
いや、その状況でも勉強の方に力を入れていた連中はいるでしょうけど、平田、桔梗、鈴音と、『教師として機能し得る人員』の大半が、暴力事件の方に重きを置いてましたからね。
この状況では、自習しても然程効果は出ないと思います。幸村と王がカバーするにも限度があります。と言うより、この時点の原作幸村がカバーする光景が想像できません。
オマケに、原作の方では愛里の『ストーカー問題』も同時進行ですからね。尚更余裕なんかないでしょう。
にも拘らず、次の三巻になったら、冒頭でサラッと『退学者なしでの期末突破』が語られているという……。
いや、それが可能なら中間はもっと楽勝だった筈でしょうよ! ……と。
『過去問という解答ありきの中間』と、『解答がない上に、中間以上に出題範囲が広い=一学期で学んだ範囲が対象』では、どちらの方が難易度が高いかなど考えるまでもありません。
そこら辺がモヤモヤしたため、本作では順当に退学者が出る流れにしました。正確には、執筆時点で退学者を出すことは決めてました。
まあ、Dクラスで最優先退学候補に挙がるのは当然の如く山内以外にあり得ないわけですが、他の面子――須藤、池、外村、恵、麻耶、さつき等諸々が候補に挙がるのも事実ですからね。
結果、そんな前提がある中で、『一学期の期末で、Dクラスからは山内だけが退学になる展開』への説得力を高める必要に迫られました。
正直、凄く厳しかったです。おかげで話数が無駄に嵩みました。
むしろ、これでも説得力が足りているかは分かりません。本堂とか、意図的に描写を省いたキャラもいますので。
キャラ愛を抜きにすれば、恵やら須藤やらも含めてバッサリと退学させる方がある意味では簡単でしょう。実際、それぞれの学力を鑑みればその方が筋も通ります。
もっとも、その場合は必然的にその後の展開を書くのが至難になりますが……。
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